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無力ー。

自分は、無力だー。


治夫は、そう痛感せざるを得なかったー。


騒然とする交番の周囲ー。

治夫は一人、愕然としたまま、涙を流すことしかできなかったー。


他に何も考えることが出来ないー

騒がしい周囲の声も、彼の耳には響かないー。


運び出される”2人”の遺体ー


頼れる先輩だった塚田総司と、

いつも無表情な女性刑事、宮辺奈々子の遺体だー。


二人は、あっという間に殺されてしまったー。


ごく普通の女子高生だった、片桐 由愛にー。


いいやー

その由愛の中に潜み、由愛を支配している

凶悪犯罪者・黒崎陣矢にー。


・・・・・・・・・・・・・・


登場人物


長瀬 治夫(ながせ はるお)

若き警察官。”皮”にまつわる事件に巻き込まれていく


松永 亜香里(まつなが あかり)

治夫の彼女。現在同居中。


片桐 由愛(かたぎり ゆめ)

かつて治夫に助けられた女子高生。


目黒 圭吾(めぐろ けいご)

警視正。計算高い性格の持ち主で、出世欲も強い。


黒崎 陣矢(くろさき じんや)

指名手配中の凶悪犯罪者


・・・・・・・・・・・・・・


治夫は、気づいたときには、走り出していたー。


総司と奈々子を殺した黒崎陣矢は、まだ近くにいるー。

そう思ったからだー。


”許せない”

”許せない”

”俺はお前を許さない”


治夫は、薄暗くなった路地を走るー。


「----!」

怪しげな女が、治夫の方を見て、笑ったー


「待て!」

治夫は怒りの形相で走るー。


黒崎陣矢ー

お前を許さないー。


建設中の工事現場にやって来るとー

女は立ち止まって振り返ったー。


辺りは暗くなりー

既に夜になっているー。


「---くくくくく…」

女は、数日前から行方不明になっている由愛の同級生・舞子だったー。


由愛の身体で、皮にした同級生の一人ー。


「---動くな!!塚田さんを…!宮辺さんをよくも!」

治夫が叫ぶと、舞子はニヤッと笑みを浮かべたー


そしてー

ぱっくりと後頭部が割れるー


舞子が笑ったままーー

その場に、着ぐるみのようになって、崩れ落ちるー


中から出て来たのは、由愛ー。


黒崎陣矢は”複数の皮”を重ね着することも出来るー。


「---くくくく…お前の推理は大正解~」

由愛が本性を隠そうともせず、狂気的な笑みを浮かべるー


治夫は銃を構えたままー。

実際に銃なんて撃ったことはないー。


でもーー


「--俺はさぁ…人間を”皮”にすることが出来るんだ」

由愛は笑いながら、注射器を手に持ってクルリと回すー。


「--動くな。それを床に置け!」

治夫が足元をガクガクさせながら叫ぶー。


それなりの事件現場は見て来たー

だがー

目の前にいるのは凶悪犯罪者ー。

しかも、他人を皮にして着込む、悪魔の力を持った、

凶悪犯罪者なのだー。


「ーーー動くな? くく 撃てよ」

由愛が可愛い声で挑発的な言葉を口にするー


「-撃てば~~わたし、死んじゃうよ~~??

 それでも、撃てるのかなぁ~~~~?」

由愛の邪悪な笑みー。


治夫は銃を握る手を震わせるー


「--この女の母親が俺に皮にされる場面、お前、見ただろ?」

由愛の声で、黒崎陣矢がそう言い放つー。


由愛は笑いながら、馬鹿にするように、

治夫の周りを歩くー。


建設現場の、高い部分にいるからかー

由愛のスカートはふわふわと風で揺れるー。


「--でも、この女の母親は今は、元に戻って

 警察署の中だ。

 この意味がわかるか?」


由愛は、自分の胸をつんつんとつつきながら笑ったー。


「”皮”にされた人間も、生きているー。

 ”皮”にされた人間を元に戻すことも出来るんだよ」


由愛が、もう1本の注射器を手に、ペロリと舌を出して、

挑発的に笑うー。


「----う・て・る・の・かぁ~~~~~????

 お前が俺を撃てば!

 お前は人殺しだ!


 この女子高生を、お前は殺すことになるんだ!」


由愛の叫び声に、治夫は震えるー。


「くそっ…くそっ…くっそぉぉぉぉぉ」

治夫が怒りの形相で叫ぶー。


「-ーほらぁ、わたしを撃ちたいなら撃てば~~?

 わたし、身体から血を流して死んじゃうけどねぇえええ~~~?」


由愛の挑発的な口調に、治夫は震えながら

由愛の方を見つめたー


先輩二人を殺された怒りと悔しさー

あらゆる感情が噴き出てー

爆発しそうになるー。


「----そうだ」

由愛は、さっき脱いだ”舞子”の皮を手にするー。


由愛に皮にされてしまった同級生だー。


「---な、、なにを…!」

治夫が叫ぶと、由愛は突然煙草を取り出したー。


由愛の皮を着たまま、煙草を吸う黒崎陣矢ー。


由愛が煙草を吸っているー

怒りに震える治夫ー


そしてーー


「---!!????」

治夫は、目を見開いたー


由愛が煙草の火を、舞子の皮に押し付けたのだー。


燃え上がる舞子の皮ー。


「--お、、おい!お前…や、、やめろ!おい!」

治夫が叫ぶー


由愛が、同級生・舞子の皮に火をつけたー。


皮になったままの舞子は、何もしゃべらないままー

燃えていくー


「--へへっ、見てろよ 刑事さんよぉ」

由愛がそう言うと、注射器を手にーー

それを舞子に押し付けたーーー。


”元に戻す”

その力がある注射器の方を注入された舞子はー

みるみる人間の身体に戻るー


しかしーー


「--えっ…ひ、、あ、、、きゃあああああああっ!」

炎に包まれている舞子の身体ー。


「--あっははははははははは!

 使い終わった皮を燃やすの、超たのしい!!」

由愛が興奮した様子で叫ぶー


”サイコ”な殺人鬼ー

それが黒崎陣矢ー。


陣矢は、命を奪うことを楽しんでいるー


由愛の可愛らしい顔を極限まで歪めて、狂ったように笑うー。


何も分からない舞子が、由愛を見て「由愛ちゃん!たすけて!」と

悲鳴を上げるー。


由愛は笑いながら舞子に近づいていくと、

「燃えてる舞子ちゃん、さいっこうにゾクゾクする♡」と、

歪んだ言葉を口にしたーーー


治夫が舞子の方に向かって走り出すー

舞子を助けるためにー


由愛は笑いながら舞子から離れるとー

笑いながら、夜空を背に、笑みを浮かべたー。


治夫が舞子の炎を消そうとするー。

だがーー

”皮”にされていた状況から火をつけられたからか、

舞子は、内部から炎を上げていてーー

どうすることもできなかったー


泣きじゃくる舞子を助けることもできずー

舞子は動かなくなってしまうー。


無言で膝を折る治夫ー


「--あっはははははははは♡!!!

 人が死ぬって、ゾクゾクするよなぁ!」

由愛が大笑いで叫ぶー。


塚田先輩をー

宮辺さんをー

そして、この女子高生をーー


「--うあああああああああああああっ!」

治夫が怒りの形相で、銃を由愛に向けてー

それを発砲したー。


「---!」

由愛の肩に銃弾が直撃しーー

端に立っていた由愛の身体が建設現場から転落するー


「--!!」

まさか転落してしまうとは思っていなかった治夫が慌てて

「由愛ちゃん!」と叫びながら、由愛が落下したほうに向かって走るー


だがーーー


「----!!!」

由愛が落下した地点に、トラックが既に待ち構えていてーー

由愛はその荷台に落下ー

落下した先にはクッションが用意されていて、由愛は無事だったー。


トラックがすぐに走り出しー

建設現場の敷地内から飛び出していくー


由愛は中指を突き立てながら、治夫を馬鹿にした表情で、

そのままトラックと共に走り去っていったー。


「くそっ…くそっ…」

治夫は歯ぎしりをしながら、夜になった空を見つめるー。


「くっそおおおおおおおおおおおおお!!」

あまりの怒りに、叫ばずにはいられなかったー。


コツー


コツー


革靴の音がして、治夫がハッとして振り返るとー

そこにはー

目黒警視正がいたー。


「--め、、目黒…警視正」

治夫が驚いて、その名前を呟くと、

目黒警視正は穏やかな笑みを浮かべたー。


「--あなたに忠告したはずですー。

 深淵を覗き込んではならない、と。」


淡々と言う目黒警視正ー。


「---……塚田さんと、、宮辺さんが…」

治夫が悔しそうに言うと、目黒警視正は、膝を折った治夫を

見下すようにして見つめたー。


「--”力”のない、あなたのような”若造”がー、

 黒崎陣矢を一人で追い詰めようとした結果が、これです」


遥か上の階級であるはずなのに、相変わらずの敬語ー。

だが、その言葉は厳しいー。


「--…で、、ですが…黒崎陣矢が、由愛ちゃんをーー

 片桐由愛ちゃんを皮にしていたことに気づいていたのは

 私だけでした…!


 だから、、だから!」


治夫が叫ぶと、目黒警視正は首を振ったー


「思いあがるのもいい加減になさい。


 黒崎陣矢が”他人を皮にする力”を持っていることは

 ”我々”はとうに知っていましたー。

 片桐由愛の母親を皮にして、彼が今、

 片桐由愛の中に潜んでいるであろうことも、です」


目黒警視正の言葉に、治夫は、警視正を見つめるー


「--け、警視正もご存じだったと…?

 じゃ、、じゃあどうして、由愛ちゃんを野放しにしていたのですか!」

治夫が正義感から叫ぶー。


「--”深淵のさらにその先に潜むもの”」

目黒警視正は、そう呟いたー。


「-我々は”それ”を探していますー


 他人を服のように着て、”脱皮”するかのように脱ぎ捨てる

 凶悪犯、黒崎陣矢ー


 我々はそれを、”モルティング”と呼んでいますー。

 単純に、脱皮を意味する言葉です。


 ですが、モルティングを捕まえるだけでは、解決には至りません。


 彼のバックには”本当の深淵”が潜んでいるー。

 我々は、片桐由愛を泳がせて、その”黒幕”を探るつもりでした。

 黒崎陣矢に”他人を皮にする力を与えた”黒幕をー。


 ですが、あなたが青臭い正義感で、邪魔をしたー。

  

 そういうことです」


目黒警視正の言葉に、治夫は納得いかない、という表情で叫ぶー


「じ、、じゃあ、警視正は、

 黒崎陣矢の背後にいるであろう”黒幕”をあぶりだすために、

 由愛ちゃんを助けようともせず、野放しにしていたっていうんですか !?

 

 由愛ちゃんは今も、黒崎陣矢に乗っ取られて

 好き放題されているのに!!」


治夫が叫ぶと、

目黒警視正は「そうなります」と、即答したー。


「-ーー追い詰められれば、黒崎陣矢は躊躇なく、

 片桐由愛を殺すー。

 そこの、女子高生のように、です」

目黒警視正は、燃え尽きた舞子を指さすー。


「”助けられる可能性の低い女子高生”を助けようとするよりも、

 片桐由愛を乗っ取った黒崎陣矢を放置して泳がせ、

 黒幕と接触するのを待つほうが”上策”と、

 考えたー、

 それだけのことです」


あくまでも効率主義の目黒警視正の言葉に

治夫は不満を抱きながら、目黒警視正の方を見つめたー。


「---あなたの先輩だった女性刑事ー

 宮辺奈々子も、”我々”に協力する一人でしたー。


 私と、彼女は、電話で度々、情報交換をしていました」


目黒警視正の言葉に、治夫は、奈々子が交番で目黒警視正と

電話していた光景を思い出すー。


「--ーーですが、あなたが青臭い正義感のせいで、

 宮辺巡査は、殺されてしまった」

目黒警視正が、女性の先輩刑事・宮辺奈々子が死んだのは

治夫のせいだと言わんばかりの言葉を投げかけるー。


「--……私の…俺のせいだって言うんですか!」

治夫が悔しそうな表情で、遥か上の階級である目黒警視正に

向かって、感情的になって叫ぶー。


「---違いますか?

 あなたが深淵に踏み込もうとしなければ、宮辺巡査も、

 あなたの先輩刑事も死なずに済んだー」


目黒警視正は、それだけ言うと、治夫の方を見て続けたー。


「--あなたの青臭い正義感は、我々にとって”邪魔”ですー。

 大した力もないのに、余計なことに首を突っ込むのは

 やめていただきたい


 黒崎陣矢のことは、忘れなさい。」


そう言い放つと、そのまま立ち去って行こうとする

目黒警視正ー。


「--待ってください」

治夫が叫んだー。


治夫に背を向けていた目黒警視正は、

治夫に見えないように、少しだけ微笑んだー


”狙い通り”で、あるとー。


「--ー俺にも…俺にも、黒崎陣矢を追うのを手伝わせてください!


 さっき”我々”と言いましたよね?

 目黒警視正は、黒崎陣矢を追っているー。

 なら、俺もその仲間に加えてください」


治夫がそう叫ぶー。

黒崎陣矢を許さないー

その一心でー。


「---ええ。私は今、極秘に結成されたチームを

 率いて”皮”の事件を追っていますー。

 ”皮”に関する事件は、世間には公表できないー。

 秘密裏に、闇に葬り去れー、と。上からの指示です」

目黒警視正の言葉に、治夫は、まっすぐと目黒警視正を見つめたー。


「----俺を、そのチームに加えてくださいー」

治夫が、頭を下げると目黒警視正は低い声で呟いたー


「一度”深淵”に踏み込めば、もう逃れることはできないー。

 その”覚悟”があなたにありますか?」

目黒警視正の言葉に、治夫は戸惑うー。


「------」

彼女の亜香里や、妹の聡美を危険にさらすことになってしまうー。


そう、考えたからだー。


「--ーーーー」

目黒警視正が、治夫の迷いを感じて、そのまま立ち去ろうとするー


「--待ってくれ!」

治夫は敬語も忘れて叫んだー。


「--俺、、俺、やりますー。

 亜香里も、妹も、みんな守ってーー

 そしてーーあいつを追い詰めて見せますー」


治夫の決意に、目黒警視正は、少しだけバカにするようにして笑ったー


「---青臭い正義感ー…」

とー。


だがー

その直後、今度は穏やかに笑ったー


「--ですが、あなたのような若き力が、我々にも必要なのかも

 しれませんね」

目黒警視正はそう呟くと、都内のとあるホテルの住所を

治夫に手渡したー


「-”我々”の対策本部ですー。

 もしも、あなたが我々と共に、黒崎陣矢を追いたいのであれば、

 明日の13時に、ここに来なさいー。


 あなたがそれまでに来なかった場合はー

 この話は、忘れなさいー」


目黒警視正は、それだけ言うと、建設現場の夜の闇に消えていくー。


「--”深淵”は、あなたを歓迎しますよー」


と、言葉を残してー


「----」

治夫は、ぎゅっと、受け取った紙を握りしめるー。


「--塚田さん、宮辺さんー」

殺された二人の先輩のことを思い出すー


「-由愛ちゃんー」

かつて自分が助けた女子高生・由愛が

皮にされてしまっている現実を思い出すー。


「-------」

治夫は、焼き尽くされた、由愛の同級生・舞子の残骸を

寂しそうに見つめながら、そのまま歩き出したー


・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


「--亜香里…俺…」

治夫が昼食を食べ終えると、亜香里の方を見つめたー


そしてー

”今日から、危険な捜査に参加する”ことを

亜香里に打ち明けたー。


亜香里の身にも危険が及ぶ可能性があることを

申し訳なさそうに告げるー。


「--いいよ」

亜香里はにっこりとほほ笑んだー。


「--え?」

治夫は、あっさりと亜香里が、前向きな返事をしたことに驚くー。


「--そういうこともあるって覚悟して、

 警察官を目指していた治夫を好きになったんだからー。

 

 だから、いいの。


 わたしだって、わたしの身を守ることぐらいはできるし-


 それにー

 何かあったら、治夫が助けてくれるって信じてるからー」


亜香里のその言葉に、治夫は「亜香里…」と呟きながら

手を握りしめたー。


「--絶対守るって約束するからー」

治夫の言葉に、亜香里は「うん!」と嬉しそうに微笑んだー。


”あーー来週遊びに来るって言ってる聡美にも来ないように

 言っておこうかな”

治夫はそんな風に思ったが、すぐに苦笑いしながら首を振ったー


聡美が、”危険だから来るな”と伝えて”うん”というような妹で

ないことを、治夫はよく知っているー。


”亜香里も聡美も守りつつー

 目黒警視正たちと共に、黒崎陣矢を、追うー”


治夫はそう決意して、亜香里の方を見て頷いたー


・・・・・・・・・・・・・・・・


「--あっ…う…」

由愛が”元”に戻されていたー。


黒崎陣矢は、由愛の皮を脱ぎー

元に戻す注射器で、由愛を人間の姿に戻して、

笑みを浮かべていたー。


「--同級生ふたり、警察官ふたりー

 痴漢ーー

 いっぱい殺しちゃった感想は?」


黒崎陣矢が笑いながら、正気を取り戻した由愛の方を見るー


由愛は混乱した様子で、泣きじゃくっているー。


「--お前は、俺の”お気に入り”の洋服だぁ

 もっともっと、お前の身体で、人殺ししてやるぜ ククク」

陣矢の言葉に、由愛はその場で泣き崩れることしかできないー。


「-あ、そうそう、お前の家にいたハムスター…

 お前のその綺麗な手で握りつぶしてやったぜ!

 ひはははははは!」


陣矢が笑うー


「うっ…う、、、いやああああああああ!」

由愛が泣き叫びながら陣矢に向かってくるー


陣矢は、由愛を掴むと、

「これからもよろしくな、俺の”洋服”」と、

笑みを浮かべながら、再び由愛の首筋に”皮にする注射器”を

打ち込んだー。


悲鳴をあげながら皮になっていく由愛ー。


「---相変わらず、悪趣味だな」

背後から声がかかるー。


由愛の皮を着て、再び由愛の姿になった陣矢は笑うー。


「--へへへ 最高の誉め言葉だぜ」

そう呟いた由愛はペロリと唇を舐めて、邪悪な笑みを浮かべたー。


⑥へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


容赦ない凶悪犯罪者・黒崎を捕まえることはできるのでしょうか~?

続きはまた次回デス!


今日もお読み下さりありがとうございました!!


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