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目の前で、突然、笑いだす彼女を見てー

治夫はより警戒心を強めるー


やはりー

彼女はー、

由愛は、”黒崎 陣矢”に皮にされて

乗っ取られているのではないかー?

とー。


”そんなことあるはずがない”

そうは思いながらも、笑い続ける由愛を見て、

治夫は、”最悪の予感”を考えてしまうー。


もしー

もしもー

黒崎陣矢がー

凶悪犯罪者が、”人を着ぐるみのようにして着ることが出来る”

のだとしたらー?


「---あはははっ… は~~~~~」

ようやく笑い終えた由愛が、

そんな治夫の方をにっこりと見つめたー。


・・・・・・・・・・・・・・


登場人物


長瀬 治夫(ながせ はるお)

若き警察官。”皮”にまつわる事件に巻き込まれていく


松永 亜香里(まつなが あかり)

治夫の彼女。現在同居中。


塚田 総司(つかだ そうじ)

先輩刑事。治夫の面倒を見ている兄貴分。


片桐 由愛(かたぎり ゆめ)

かつて治夫に助けられた女子高生。


宮辺 奈々子(みやべ ななこ)

交番勤務の女性刑事。近寄りがたいオーラを出している。


黒崎 陣矢(くろさき じんや)

指名手配中の凶悪犯罪者


・・・・・・・・・・・・・・


「--ーーーちょっと~~笑わせないで下さいよぉ~」

由愛が、クスクスと笑いながら呟くー。


「--わたしのお母さんが、凶悪犯罪者に”皮”にされて、

 今度は、わたしのお母さんを乗っ取っていたその悪い人が

 お母さんからわたしに乗り換えて、

 わたしは悪い人に乗っ取られているーーー


 そう、言いたいんですよね?」


由愛がクスクスと笑いながら言うー。


「--ーそうと決まったわけじゃないー

 でもーー

 ”一つの可能性”があれば、それを調べるのが

 警察の仕事だからー…」


治夫が言うと、

由愛はほほ笑んだー


「ーーーわたし、どこからどう見ても、

 片桐 由愛ですよねぇ~?


 かわいいかわいい、女子高生にしか

 み・え・ま・せ・ん よねぇ~~?」


由愛が棘のある口調で言うー。


毎朝、交番の前を通る由愛はー

こんな子ではないー。


母親と父親の件で気が立っているのだろうかー。

それともやはりーーー


「---由愛ちゃんを疑ってるわけじゃないんだー

 でも、由愛ちゃん、事件が起きる日の朝、言ってただろ?

 今日、お母さんの様子がおかしいーって」


「---言いましたっけ~?」

由愛が再びとぼけるー。


「---心配なんだー

 由愛ちゃんのことが」

治夫が真剣な表情で由愛を見つめると、

由愛は治夫を睨むようにして見つめてからー

ため息をついたー


「---お巡りさん、心配してくれてるのにー

 わたしってばーー

 ごめんなさい」

由愛がイスに座るー。


「---お母さんがお父さんを殺して逮捕されたー……

 ……冷静では、いられないんです」

由愛が自分の気持ちを吐き出すかのようにして呟くー


「---…俺のほうこそ、ごめんな。

 こんなつらい時に」

治夫が言うと、

由愛は「いいですよ」と、少しだけ微笑んだー。


「-ーー俺たちは困ってる人の味方だからー。

 由愛ちゃんも、何かあったら、すぐに知らせて」


治夫は、そう呟くと、

由愛の家から帰る準備をするー。


「---急に押しかけてごめんな」

治夫が言うと、

由愛は「いえ」と、頭を下げたー。


家の扉が閉まるー


治夫は、由愛の家の方を振り返って、

心配そうに呟いたー


”俺の考えすぎかー?”


あの日ー

由愛の母親・藤江が、黒崎 陣矢に”皮”のようにされてー

黒崎 陣矢らしき人物が藤江を”着た”ように見えたー


あの光景はいったいー?


・・・・・・・・・・・・・


「--ーーうっぜぇな!」

治夫が立ち去ったあとー

一人、家に残された由愛は、怒りの形相で

机を蹴り飛ばしたー


「---ヒーロー気取りしやがって!」

由愛は唾を吐き捨てると、イライラした様子でー

たまたま壁を這っていた蜘蛛を見つけるー


由愛は怒り狂った表情で、

素手で蜘蛛を叩き潰すとー

何度も何度も何度も何度も、狂ったように

壁に叩きつけられて潰れた蜘蛛を、さらに手で押しつぶしていくー


やがて、汚れた手をペロリと舐めると、由愛はほほ笑んだー。


「--”見られた”のは厄介だなー…」

由愛がそう呟くと、由愛の後頭部に亀裂が入りー

由愛の中から

凶悪犯罪者・黒崎 陣矢が姿を現したー


「ーー誰も信じやしねぇとは思うがーーー

 早いうちにーー」


・・・・・・・・・・・・・・・


翌朝ー


元気のない様子の治夫を見て、

先輩刑事の総司が声をかけるー。


「あんま気負うなって。

 由愛ちゃんのこととか、

 凶悪犯の黒崎のこととか、色々気になるのは分かるぜ?


 でもさ、まずは少し落ち着け」


ペットボトルのお茶を差し出す総司ー。


「すみません」

治夫は、申し訳なさそうにしながら、お茶を一口飲むー。


”黒崎陣矢らしき男が、由愛の母親を”着た”ように見えた光景ー”

”自分が過去に助けた女子高生・由愛の母親が事件を起こした件”


色々なことが絡んで、治夫は疲れ切っていたー。


そんな治夫を見つめながら、総司は笑うー。


「俺もさ、新米の頃は、色々空回りしちゃってさ…


 ”悪い奴は全員逮捕してやる!”だとか

 ”困ってる人は全員助けてみせる”だとか

 思ってたけどさー。


 俺たちに出来るのは

 ”俺たちの手の届く範囲内の人を助ける”

 ことだけなんだー。


 警察官だって、神様じゃないー

 全員を救うことはできないー

 全員を捕まえることはできないー


 そうだろ?」


総司の言葉に、治夫は「ええ…」と頷くー


「--だから、あまり気負いすぎるな。

 俺たちは、神様でも、悪の組織と戦うヒーローでもないんだ。

 俺たちも、ちっぽけな人間のひとりー。


 だからー

 まずは、俺たちに出来ることをしよう。 な?」


総司は、そう言うと笑ったー。


総司は治夫のように、まだ新米刑事だったころに

”強すぎる正義感が原因”で、ある事件の”罠”にはまり、

結果的に先輩刑事を死なせてしまった過去を持つー。


その話は、治夫も聞いたことがあるー。

今でこそ、明るく、時折やる気無さそうな振る舞いも

見せる総司だがー、

彼は、彼なりに、自分の過去から学び、

”手の届く範囲”の人々を精一杯守ろうとしているー


「--ありがとうございます」

治夫は少しだけ落ち着いた気持ちになって、お礼を言うー。


「--はは、いっつもお前を揶揄ってばかりのダメな先輩だけどなー

 たまにはいいこと言うだろ?」

総司は、そう呟きながら笑ったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


夜ー

帰路を歩く治夫ー。


俺たちは、神様でも、悪の組織と戦うヒーローでもないんだ。

俺たちも、ちっぽけな人間のひとりー。


だからー

まずは、俺たちに出来ることをしよう。 な?


先輩刑事・総司の言葉を思い出すー。


”人を着ぐるみのように着て乗っ取る凶悪犯”

そんなもの、いるわけがないー


見間違いだー。


治夫は、深呼吸するー。


「--自分に出来ることー。」

交番勤務の治夫にとって、それは地域の安全を守ることだー。


凶悪犯の黒崎 陣矢を追うことじゃないしー

由愛の母親が起こした事件の件は、交番の刑事たちが

どうこうする問題じゃないー。


「--俺に出来ることは、由愛ちゃんから相談されたら、

 相談に乗ることぐらいー…だな」


治夫はそう呟くと、

”もしも相談された時は、精一杯力になってあげなくちゃな”とほほ笑むー。


その時だったー


「---!」


背後からバイクのエンジン音が響くー

ライトに照らされた治夫がとっさに、横に身体を動かすとー

バイクが走りっていくー


”今ー 俺をひき殺そうとー!?”

治夫は咄嗟に身構えるー


バイクが再びUターンして、治夫に向かってくるー


フルフェイスヘルメットにラバースーツの人物が、

治夫をひき殺そうと襲い掛かって来るー


咄嗟に回避する治夫ー

バイクが近くの廃屋に突っ込むー。


バイクに乗っていた人物が、鉄パイプを手に、

治夫に襲い掛かって来るー


「--なんだお前は!とまれ!」

治夫が叫ぶー


治夫が「俺は警察だぞ!」と叫ぶー


しかし、それでもバイクを運転していた人物は

止まる気配がないー


治夫は慌てて、鉄パイプによる攻撃をかわすー。


鉄パイプを掴み、それを投げ飛ばすー。

その際に、相手の手に鉄パイプが擦れるようにして、当たりー

バイクを運転していた人物が左手を抑えるー。


ヘルメットにラバースーツ…

素顔も素肌も一切見えない状態のその人物と

つかみ合いになるー


その人物が、治夫を殴りつけようとするー。

治夫はその人物の手を掴むー

左手からは、軽く出血しているのが分かるー。


そしてー

治夫は、格闘技でその人物を投げ飛ばしたー


「--!?」


治夫が”何か”に気づくー。


投げ飛ばされたその人物は、慌てた様子で

そのまま走り去っていきー

”夜の闇”に消えたー。


「----…今のは…”女”…?」

突然襲われたため、気づくのが遅れたが

フルフェイスヘルメットにラバースーツの人物はー

女のようだったー。


投げ飛ばした時に、胸に手が触れたー。


「---…」

治夫は、すぐに警察に連絡して応援を呼んだー


・・・・・・・・・・・・・


「大丈夫だった?」

同居中の彼女・亜香里が心配そうに呟くー


「--まぁ…なんとか」

治夫は不安そうにしている亜香里を見つめると笑うー


「--大丈夫大丈夫。亜香里には絶対に迷惑を掛けないし

 俺なら絶対大丈夫」

亜香里に心配を掛けまいと、明るく振舞う治夫ー。


「----……わたしを置いて、死んだりしたら

 許さないから」

亜香里が、頬を膨らませながら言うー。


「--わ、、わかってるよ!絶対死なない!約束する!」

治夫が亜香里の手を握ると、亜香里はにっこりとほほ笑んだー。


治夫は、机の上の写真を見つめるー。


”なぜ”自分は襲われたのだろうかー。


バイクは盗難車だったー。

自分を襲った女はーー


「---」

”由愛”の顔が浮かぶー


いや、さすがにそんなはずはないー


たまたまだー。


治夫は、机に飾られている妹・聡美(さとみ)と一緒に写った

写真を見つめながらー

”あ~、そういえば聡美、そろそろ来る頃だなぁ…”と、

苦笑いしたー


妹の聡美は、お兄ちゃん大好き!な感じの妹で、

実家を出た後も、定期的に遊びに来るのだー。

治夫と同居している彼女・亜香里を

勝手に”ライバル”と決めつけていて、

亜香里もよく苦笑いしているー


また、家が騒がしくなるー。


治夫はー

”まぁ…最近、俺も暗いことが多いし、

 ちょうどいいかな?”と

心の中で妹のことを考えながら、微笑んだー。


・・・・・・・・・・・・・・


翌朝ー。


「---はい… はい…わかりました」

交番の裏で隠れるように電話していた同僚の奈々子が

戻って来るー


相変わらずの近寄りがたいオーラ。


奈々子は、幼少期に家族を目の前で全員殺された過去を持ちー、

それ以降、今のような感じになってしまったのだと、

噂で聞いているー。

警察官になったのも、”犯罪者への強い憎しみ”からであるー、と。


「---」

電話を終えた奈々子は、無表情で、パソコンに何かを打ち込むー。


先輩刑事の総司は、奥でお茶を飲みながら、

何か書類をまとめているー


それを横目に、治夫が交番の前で立っているとー

女子高生の由愛がいつものように登校するため、

交番の前を通るー


昨日の、総司との会話で、少し前向きになったー


”今、助けられる人を助けるー”


凶悪犯・黒崎 陣矢が、由愛の母親を皮にして、

今は由愛を乗っ取っているー

なんて、非現実的すぎることを考えても仕方がないー


交番勤務の治夫に出来ることはー

地域の安全をーー


「---!」

治夫は、表情を歪めたー


由愛は、左手をポケットに突っ込んでいたー

”不自然”にー。


治夫はーーー

昨日”女”に襲われた際に、その女の左手に傷をつけたことを思い出すー。


「--……由愛ちゃん!」

治夫が声を掛けると、由愛が振り返るー


「あ、おはようございますー」

由愛の笑顔はぎこちないー。


「--ちょっと、ごめん」

治夫は、由愛の左手を掴んで、ポケットから手を引き出したー


「---!!!」


由愛の左手にはーー

包帯が巻かれていたー


昨日ー

治夫を襲った女に傷つけた箇所と同じ個所ーー


治夫は、咄嗟に由愛の手を引っ張って

警察に引きずり込んだー。


「--ーーー」

治夫は険しい表情で、交番の中に連れて来た由愛の後頭部のあたりを

確認するー


「ちょっと!何なんですか!?」

由愛が怒りの形相で叫ぶー


先輩の総司と、女性刑事の奈々子も戸惑った様子だー。


「--いい加減にしろ!お前、黒崎 陣矢だろ??

 俺は見たんだ!

 由愛ちゃんの母親を着ぐるみのように着たお前を!」


治夫が机を叩いて叫ぶー


由愛は治夫を睨んでいるー。


「--由愛ちゃんの中にいるんだろ!?

 おい、黒崎陣矢!!!!

 おい!!!!」


治夫が怒りの形相で叫ぶー。


”自分が助けた女子高生が乗っ取られているかもしれない”という焦りー

そして、治夫の強い正義感が、治夫をそうさせていたー。


「---おい!やめろ!」

先輩刑事の総司が止めに入るー


治夫が理由を説明するー

左手の”傷”-

由愛が、昨日、自分を襲った可能性が高いー、と。


そして、その上で「由愛ちゃんを良く調べるべきです!」と叫ぶー


「--ふざけないで」

由愛が机を叩いたー


「--わたしが黒崎 陣矢って人だっていう証拠はあるの?

 わたし、学校に遅れちゃうんですけど!」


手の傷は、昨日、料理をした際にできた傷だと説明する由愛ー。


攻撃的な口調の由愛ー。

由愛は、こんな子じゃないー


「--ーー俺は、、見たんだ!由愛ちゃんの母親をーーー

 お前がーーー!」


治夫が叫ぶー


由愛は笑ったー


「--証拠を出せ…」

怒りの形相の由愛ー

”今にも暴言”を吐きそうなのを、必死に押えたのかー


「--って、、言ってるんですよ わ・か・り・ま・す・か?」

と、怒り爆発寸前の敬語で由愛は続けたー


治夫と由愛がにらみ合うー。


「--ご、ごめんなぁ…由愛ちゃん!」

先輩刑事の総司が、由愛と治夫を離して、

由愛を交番の外に向かわせるー。


「---不愉快なんだけど…

 そいつ、ちゃんと、指導してください」

由愛は捨て台詞を残して、そのまま立ち去っていくー。


「--先輩!由愛ちゃんの中に!あいつが!

 お願いします!先輩!」

総司に向かって叫ぶ治夫ー


だがー

「いい加減にしろ!」

と、先輩刑事の総司に怒鳴られてー

治夫は、そのまま悔しそうな表情を浮かべたー。


・・・・・・・・・・・・


学校ーーーー


昼休みの時間帯ー


「あ~~~~うぜぇ」

由愛は隠し持っていた注射器で、呼び出した友達一人を”皮”にしていたー。


悲鳴を上げながら、皮になっていきー

ペラペラになる友達ー。


「---ま、いざとなったら”別の洋服”を着るまでの話さー」

由愛はそう呟いて、”皮”にした友達を無理やり鞄に押し込むと、

そのまま、教室に向かって歩き出したー。



④へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


衝撃的な展開がこのあとに…!?


続きはまた近日中に~☆


今日もありがとうございました!

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