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”約束の12時”が

刻一刻と近づいているー。


2人が元に戻ることのできる”チャンス”は恐らく、それが最後ー


最初に入れ替わりが発生した神社でー

二人同時に階段から転落するー。


理由は分からないけれど、

あの神社でだけ、1945年と2021年の電話がつながるということは

あの神社で”何らかの時空のゆがみ”が起きているのだろうー。


勿論、元に戻れる保証はないー

けれどー、

最初に入れ替わった時も、2つの時代で、2人が同時に転落したことによって

入れ替わりは起こったのだー。


と、なればー

”同じ条件”で元に戻れる可能性はあるー。


しかしー

”時間”が、もう、ないー


1945年では、明日、北村栄五郎が、

特攻に参加するため、部隊に合流することになっておりー

そうなってしまえばー

聡美は北村栄五郎として”死ぬ”ことになるー。


彼氏の俊樹は”今の時代じゃ考えられないこと”と思いつつも、

戦争中ー

”逃げる”という選択肢はないことは、

歴史の授業でよく理解していたー


今日が、最後のタイムリミットー

ここで、戻ることが出来なければー

聡美は、栄五郎として1945年で散るー。


そして、栄五郎は、聡美として2021年で生きていくことになるー


神社に向かう俊樹と、聡美(栄五郎)-。


「-しかし、どうしても慣れないものだな…」

聡美(栄五郎)がスカートを触りながら呟くー


俊樹は「-そ、、そりゃ、そうかもしれないけど…」と

スカートをひらひらさせている聡美(栄五郎)から

目を逸らしたー


その時だったー。


「---あれぇ~?姉ちゃん、スカートなんかひらひらさせて

 俺たちを誘ってるの?」


明らかに柄の悪そうな三人組が、俊樹と

聡美(栄五郎)の前に姿を現すー


「--…え、、あ、、いえ、、あの…」

俊樹が戸惑っていると、聡美(栄五郎)が耳打ちをしたー。


「--なんだこの”化け物”みたいな姿をしたやつらは?」

聡美(栄五郎)からすればー

2021年のヤンキーは”化け物”のような風貌に見えるのかもしれないー


「え、、えっと…」

俊樹が戸惑っている間に、金髪の男がガムを噛みながら聡美(栄五郎)の

手を掴むー


「ちょ!やめろ!」

俊樹が叫ぶー


しかしー

三人組のひとり、茶髪の男に俊樹が殴られてしまうー


聡美(栄五郎)が「--何者だ!?貴様ら!?」と声を上げるー。


殴られた俊樹は咄嗟に、不良たちに”見逃してください”と

命乞いのような格好で嘆願したー。


”12時まであと少し”しかないー


こんなところで、時間をつぶすわけには、いかないんだー。


・・・・・・・・・・・・・


1945年ー


”そろそろかな…?”

神社の建物の下で必死に震えながら一晩を過ごした

栄五郎(聡美)はー

トイレも満足にすることが出来ず、

土にまみれた自分の身体を見つめるー。


スマホは石岡という男に奪われてしまったー


現在の時刻が分からないー。


だがーー

栄五郎(聡美)は、神社の古びた時計が、正しいことを信じてー

階段の方に向かうー


「----……お願い…」

栄五郎(聡美)は祈るようにして、12時を待つー。


ザッー


「---!?」

その願いはー届かなかったー


背後から、昨日会った兵士ー

石岡が現れたのだー。


「--これは、なんだ?」

石岡が昨日、栄五郎(聡美)から奪ったスマホを指さすー。


「--2021……?

 貴様はいったい何者だ!?」


石岡が叫ぶー。

スマホを中身を覗いたようだー


「--隠し立てすれば、容赦はせぬぞ!」

石岡はそう叫ぶと、銃を抜いたー


「ま、、ま、、待って…!待って!」

泣きそうになりながら栄五郎(聡美)が叫ぶー


石岡は、本気で”撃つ”気だーー


このままじゃ、12時を待たずー

聡美は、1945年で、北村栄五郎として死んでしまうー。


「欲しがりません勝つまではっ!!!!!!!!!!!」

石岡が大声で叫んだー


スマホの写真ーー

聡美は、スイーツが好きで、2021年では、

よくスイーツの写真を撮影していたー


スマホを奪い、その写真を見た石岡は

栄五郎(聡美)が隠れて”贅沢”をしていると、勘違いしていたー。


「-ち、、違うんです!あ、、あの!わたしの話を聞いてください!」

栄五郎(聡美)が叫ぶと、

石岡は「-非国民の言い訳など、聞くものか」と、栄五郎(聡美)を

睨みつけるー。


「---わ、、、わたし、、わたし、未来から!!

 未来から!来たんです!」


栄五郎(聡美)は、”撃たれないため”にー

必死に叫んだー


もう、これしかないーー、と。


・・・・・・・・・・・・・・・・


「----はっ!」


2021年ー


「えっ…」

俊樹は唖然としていたー。


「--はぁっ!」


不良三人組とーー

聡美(栄五郎)が戦っているー


華奢な聡美がー

聡美とは思えないような動きをしてー

髪を揺らしながらー

不良たちと戦い、圧倒しているー


「--貧弱な男子どもめ」

聡美(栄五郎)が、そう呟くと、スカートをふわっとさせながら

回し蹴りを不良に食らわせたー


金髪の不良が吹き飛ばされて、悲鳴を上げながら逃げていくー


「ふぅっ…」

聡美(栄五郎)が、髪を触りながら、俊樹の方に近づいてくるー


唖然としている俊樹に聡美(栄五郎)が手を差し伸べるー


「-----!」

顔を赤らめる俊樹に、聡美(栄五郎)が「おい、何をしてる?

もうすぐ時間だぞ?」と、声を掛けるー


「あ、、いや、、、戦う聡美、かっこいいなって…」

俊樹が言うと、

聡美(栄五郎)は「自分は、色々な訓練を受けたからな」と呟くー


「-まぁ、正直、この身体では、動きにくいけどーー

 なんとかなってよかったー」


聡美(栄五郎)と俊樹は神社に到着するー


時刻を正確に合わせた時計を見つめる俊樹ー。


「----……そういえばさ」

俊樹が呟くー。


「---怖くないの?

 君は、戻ればーーー

 その……

 その、、、死ぬんだよね?」


俊樹の言葉に、

聡美(栄五郎)はー

「御国のために死ぬのだからー怖くなんてないさ」

と、即答したー。


「---…でも」

と、俊樹が呟くと、聡美(栄五郎)は

「---この国の未来のためにー」と、

俊樹の言葉を遮ったー。


聡美(栄五郎)の決意は固そうだったー。

俊樹に、1945年の当時の人々の考えをはかり知ることは出来ないー


しかしー

俊樹はこれ以上、自分が口を挟むことではないー

そんな気がしたー


聡美(栄五郎)は少しだけ笑うと、

鞄から、俊樹の部屋から持ち出した中学時代の歴史の教科書を

取り出して、俊樹に手渡したー


「あれ!?これ、僕のー?」

俊樹が不思議そうな顔をしていると

聡美(栄五郎)はほほ笑んだー。


「--これを1945年に持ち帰ってー

 敗戦という未来を変えようーー


 最初はそう思ってたー


 でもーー

 やめたー」


聡美(栄五郎)の言葉に、

俊樹は戸惑うー


「--…どうして?」

とー。


「-ーー”勝ったら”どうなっていたのかー

 それは、自分には分からないー

 もしかしたら、その方がもっと幸せな世界になるのかもしれないし

 最悪の未来が待ってるかもしれないー


 けどー

 2021年でー

 短い間だけど、過ごしてみてわかったー。


 この世界には、少なくともー

 笑顔が溢れているー


 街行く、普通の人たちが、笑っているー

 周りを見渡せば、必ず、笑ってる人がいるー。


 ---そんな未来をー

 消しちゃいけないー


 そう、思ったんだー」


聡美(栄五郎)の言葉に、

俊樹は「--…そっか…」と少しだけ嬉しそうに微笑むー


「--でも、この時代にも色々、問題はあるんだけどね」

と、苦笑いすると、

聡美(栄五郎)は「ま、全員が満足する世界なんて作れるわけないさ」と

笑ったー。


「-でもーー

 この世界は、少なくとも、自分のいた時代よりー

 笑顔に満ち溢れているー

 空襲もないー

 

 勝つまで欲しがっちゃいけないなんてこともないー

 赤紙も届かないー

 

 うまい飯が食えるー


 それだけでもー

 とっても幸せなんだー


 だからー

 お前は、この今ー

 2021年を大事にしろー」


聡美(栄五郎)はそれだけ呟くと、

「-は~~最後まで、女子の身体は落ち着かんな」と、

落ち着かない様子で髪やスカートのあたりを触ったー。


そして、階段の前に立つ聡美(栄五郎)-


時計を見るー

11時59分ー


”聡美”

俊樹は、1945年で聡美が無事に”階段から転落”できることを祈るー


・・・・・・・・・・・・・・・・


1945年ー


「--わはははははははは!未来から来た!?

 北村よ、お前はいつから寝言を言うようになった!?」


銃を持った兵士・石岡が笑うー。


栄五郎(聡美)が助かるために、

石岡に”全て”を打ち明けたー


だがー

やはりと言うべきかー

石岡は信じてくれなかったー


「--非国民は、処刑だ!」

石岡が叫ぶー


「---!」

栄五郎(聡美)が上空を見つめるー


空襲の音ー


石岡がそれに気を取られて、空を見上げるー


「---!!!」

栄五郎(聡美)は階段の方に向かって走ったー


”お願いーーー”

栄五郎(聡美)は叫ぶ石岡を無視して、

そのまま階段から転落するー


「あっ!おい!」

石岡が叫ぶー。


1945年で栄五郎(聡美)がー

2021年で聡美(栄五郎)がほぼ同時期に階段から、転落するーーー


「-----貴様!何をしている!」

石岡が転落した栄五郎に向かって叫ぶー。


そして、銃を構えるー


空襲警報は警報だけだったのか、

実際には戦闘機は飛んでこなかったー


「----!」

栄五郎が目を開くー

咄嗟に栄五郎が、石岡に足を掛けて、

石岡を転倒させるー


栄五郎と石岡が格闘を繰り広げた末にー

石岡が殴り飛ばされるー


石岡は裏で小悪党のような行為を繰り返していたのを

栄五郎に見つかり、栄五郎を逆恨みしている兵士だったー


「---がっ」

石岡が聡美のスマホを落とすー。


聡美はスマホを持ち帰ることができなかったー。


栄五郎は銃を拾うとー

「-非国民はお前だ」と呟いて、石岡をそのまま射殺したー。


「----」

栄五郎が自分の身体を見つめるー


「やっぱり、これが、一番しっくりくるなー」


そしてーー

栄五郎は、聡美のスマホを見つめるとー

それを手にしたー


”まだ、通じるだろうかー”


・・・・・・・・・・・・・・


「--俊樹ーー」


2021年ー

聡美が目に涙を浮かべながら俊樹に抱き着いたー


俊樹が顔を赤らめながら「聡美ーおかえり」と呟くー。


「--ただいまー」

聡美が嬉しそうに呟くー


「--!」

俊樹が持っていたスマホに電話がかかって来るー


”同じ神社”にいるからだろうかー

まだ、電話は通じたー


”無事に戻れたようだな”

栄五郎の声ー


「--うん。本当に、ありがとう」

俊樹が言うと、

栄五郎は”礼を言うのはこちらだ”と呟いたー。


「---行くの…?」

俊樹が言うと、

栄五郎は、笑ったー


”あぁー。

 自分が、”作戦に参加しないと”どこで未来が

 変わるか、分からないしー

 自分は、行くよー。

 2021年を、作るためー。


 大切な、その世界を作るためー


 自分の行動がーー

 きっと、お前のいる2021年に繋がっているはずだからー”


栄五郎の言葉の直後、

急速に電波が悪くなるー


そして、最後にこう聞こえたー


”北村栄五郎ー

 行ってまいります”


とー。


その直後、スマホを壊すような音が聞こえたー。


「----」

俊樹は、寂しそうな表情を浮かべるとー

神社の階段に向かって静かに、敬礼しー

栄五郎の武運を祈ったー


・・・・・・・・・・・・・・


足で粉砕したスマホを川に流すー


”未来に影響”が出ないようにするためー


北村栄五郎は少しだけ笑うとー

拳を握りしめて、そのまま”作戦”に参加するための

部隊との合流地点に向かったー。


・・・・・・・・・・・・・・


「---あの時代があったからこそ、今のわたしたちがいる…

 ってことなんだねー」


2021年ー

聡美が寂しそうに呟くー


過酷な経験ー

助けることのできなかった命たちー


「--うん、そうだね」

俊樹はそう言うと、聡美の方を見つめながら

「--本当に無事でよかったー」と、安堵の表情で微笑んだー。


「-ーー俊樹のおかげー。

 本当にありがとうー


 ”スマホ”は、一緒に帰ってこれなかったケドー」


苦笑いする聡美ー。


俊樹も、少しだけ笑うとー

空を見上げたー


”現在”はー

”過去”のひとつひとつの積み重ねー

何かひとつでも違ったらー

”現在”は全く違う形になっていたのかもしれないー


だから、”今”、こうして、この世界があるのはー

ひとつひとつの奇跡の積み重ねー


たとえ、それがどのような時代であったとしてもー


「---僕も、未来に奇跡をつなぐためー

 一生懸命生きていくよー」


もう、この時代には存在しない北村 栄五郎に向かって

俊樹は静かに、決意を口にしたー



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


時空を超えた入れ替わりモノでした~!

初めて書くタイプ(?)のお話でしたが

無事に完結できて、一安心デス!


ここまでお読み下さり、ありがとうございました!!

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