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「---え?何?駅のトイレに忘れ物をした?」

スマホを手に、バイト帰りの男子大学生・佐伯 修三(さえき しゅうぞう)が、

何やら話をしているー


電話の相手は、同居中の彼女・須加原 桃子(すがわら とうこ)ー

二人は大学生カップルで、お互いに将来結婚するつもりで

同居しているー

既に同居を始めてから1年が経過しており、

まだ結婚してはいないものの、すっかり夫婦のような状態に

なっていたー


互いの両親にも挨拶を済ませていて、

大学を卒業して、新社会人としての生活が安定したら

結婚することになっているー。


そんな桃子からの電話ー。


”修三、バイト帰りに、その駅、使うよね?”

桃子の言葉に、

修三は「あぁ、使うよ」と、穏やかに返事をするー


”ごめん!取ってきてくれないかな…!

 たぶん、駅員さんに聞けば届いていると思うから”

桃子が申し訳なさそうに言うー。


「あぁ、いいよ。わかった。

 ちなみにどんな荷物?」


修三は、桃子から荷物について確認すると

スマホを切って、駅員がいる場所へと向かったー。


だがーー


「届いてないですね」


駅員からそう聞かされると、修三は再び桃子に電話をしたー。


”う~ん…まだトイレに置き去りになってるのかも”


「--あ~…じゃあ、俺じゃ無理だな…

 女子トイレに入るわけにはいかないし…」

修三がそう言うと、

桃子は少し困った様子で、ある提案をしたー


”ねぇねぇ…”あの力”でどうにかならない?”

とー。


「--え?」

”あの力”

修三には、すぐにその意味が分かったー。


修三はー

”他人の姿に変身する力”を持つ人間だー

生まれつき、他人の姿に変身できるー。

勿論、そんなこと、誰も信じやしないだろうし、

もしも周囲にそんなことが知れたら大変なことになるー。


だから、修三はその力をほとんどの人間に隠して

生きて来たー。


修三が他人に変身できることを知っているのは、

修三の両親と妹、そして彼女の桃子と、親友一人だけだったー。


何故、そんな力を自分が身に着けているのかは分からない。

だが、生物の突然変異など、急に起こるものなのかもしれないー。


修三はこれまで、その力を悪用することなく、

時には生かしながら、うまく、自分の”変身”能力と付き合ってきた。


”--女の子に変身すれば、女子トイレに入れないかな…?”

桃子が言うー。


駅のにぎわいを目で追いながら、修三は、

小声で呟くー


「-お、、俺、そういう悪用はしないし…!」

修三の言葉に、桃子は

”わかってるよ~!わたしの忘れ物がトイレの個室にないかどうか

 確認してほしいだけ~!

 人助け人助け!”

と、申し訳なさそうに、少し笑いながら言ったー。


「--で、、でも、女子トイレに入るために

 女の子に変身するなんて…!」

修三は、これまでに、一度も変身能力を悪用したことはないー。


それはー

世の中にとって、ある意味では幸運だった、と言えるかもしれないー

もし、変身能力を身に着けて生まれたのが

悪人だったらー

今頃世の中は大変なことになってしまっていた可能性もあるー。


”修三は、エッチな目的で女子トイレに入ったりしないでしょ?

 わたし、修三の真面目な性格、よく知ってるもん!

 信じてるから、大丈夫!”


桃子の言葉にー


”いやぁ、俺も一応男だし、女子トイレに入るのはなぁ…

 なんか、背徳感が…”


と、思いつつも


”忘れ物を回収するだけだー”


そう思いー、

桃子に”わかったよ”と伝えたー。


電話で、何番目の個室の中に忘れたのかを確認すると、

修三は電話を切ったー。


”あの子で、いいか”

修三は、ちょうど駅を歩いていた大人しそうな女子高生を見つめるとー

その姿に変身したー。


服も高校の制服に変わりー

髪や胸の感触ー

スカートの感触まで感じるー


「ふ~~~~~」

深呼吸をする修三ー。


修三が変身した女子高生は、

”まさか他人が自分の姿に変身した”などと夢にも思わず、

そのまま駅のホームの方に向って行くー。


「--ここか」

女子トイレの前に立つ修三ー。


女子高生の姿で、女子トイレの前に立っているー。


誰からも、変な目で見られる心配はないし、

トイレに入ることも問題はないだろうー。


だがー。


「ふーー、落ち着け、俺、

 落ち着け、俺」

修三は、可愛い声でそう呟いたー。


修三の変身には”欠点”があるー。

これは、修三の変身能力を知る人間たちも

ほとんどが知らないことだー。


知っているのは修三自身と、彼の妹のみー。


修三の変身能力は

”平常心”を失うと、解除されてしまうのだー。

他人の姿に変身した状態を維持するためには、

”心の乱れ”はダメ、そういうことなのだろうー


恐怖を感じたりー

怒りを感じたりー

興奮したりしてしまうとー

変身が解除されてしまうのだー


”桃子は、これを知らないからなぁ…”

そんな風に思いながら修三は深呼吸をして女子トイレに入るー


人生初の女子トイレー

かなり、落ち着かないー


「--(へぇ、男子トイレより広く見えるな)」

そんな風に思いながら、女子高生の姿をした修三は、

トイレの中を歩くー


そうー

興奮する様子など、何もないー

女子トイレには、男子トイレと違い

立ってするような場所はないから、

トイレの利用者は個室の中にそれぞれ入っているー。


だからー

他の人たちを見る数は、限られるー。


”忘れ物を回収するだけだー”

”忘れ物を回収するだけだー”


鏡の前で、美人のOLが化粧をしているー。


「---」

修三は、女性の化粧を見たぐらいで興奮するような

人間ではなかったー。


平常心を維持したまま、

桃子が利用したという左から三番目の個室の前に立つー。


だがー


「--う…」

修三は可愛い顔を歪めたー


”誰か使ってる”

そう思いながら、修三は、”さすがに個室の前に立ってるのはやばいよな”と、

鏡の前に戻るー


化粧をしていた美人OLが、自分の胸のあたりを触っているー。


「---」

修三は見ないようにしながら、手を洗ったり、

髪をいじったりしながら、桃子が忘れ物をしたという個室に

入っている女が出てくるのを待つー。


「---…遅いな」

扉はずっと閉まったままー。


誰かが利用しているのは間違いないのだが、

なかなかその利用者が出てこないー


”ここで変身が解除されちゃったら、俺、終わりだからな…”

修三は少しひやひやしていたー。


平常心を失って万が一この女子高生の姿から

自分の姿に戻ってしまったら

”女子トイレに忍び込んだ男子大学生”になってしまい

おわりだー。


変身するには、相手の姿を見ながら念じる必要があるが、

連続で使用できないことは確認済みで、

一度変身が解除されたら、30分程度間を開ける必要がある。


どういう仕組みか知らないが、

気力的な問題だろうか。


化粧をしていた美人OLが、外に出ていくー。


「--っていうか…この子、かわいいな…」

鏡に映る自分の姿を見て、修三はそんなことを

思ってしまうー


自分が変身対象に選んだ女子高生は

とても可愛かったー。

眼鏡をかけた大人しそうな子だが、

スタイルが良くー

髪も綺麗な黒髪だー。


「---…って、ダメだ」

修三は深呼吸するー。


だがー

少女の身体がどきどきしているのが分かるー


”あぁぁ…落ち着け俺…”


少し興奮してきてしまったー

早く、例の個室の利用者、出てきてくれないかなぁ…


修三はそんな風に思いながら

”この子は今頃、何も知らずに電車に乗ってるんだろうな…”と

苦笑いするー。


今、修三が変身しているこの子の本物は

今頃、普通に電車に乗っているはずだー。


ギャルふたりが入ってきて、トイレでげらげらと話すー。

おばさんが入ってきて、個室に入っていくー。

女子大生らしき子が入ってきて、鏡を見つめるー。


「---」


”さすがに遅くね?”

そう思った修三は、例の個室を見つめたー


誰かがいるのは確かだー。

中に誰もいない可能性は0ではないけれど、

人の気配は確かにするー。


”トイレの中で死んでるとか、そういうのじゃないだろうな?”


少し心配になった修三は、隣の個室に入ったー。


正直、ちょっとトイレを済ませたい気持ちもあったが、

女子の姿でトイレを済ませたら、

興奮してしまいそうだし、

何よりうまくできる自信もないー


男に戻ってここでトイレを済ませるのもー

個室の中なら周囲にバレる心配はないが、

30分程度再変身が出来ないし、

誰かを見つめていないと変身できないから、

女子トイレの個室から出られなくなってしまうー。


「---…」

隣の壁を見つめる修三ー


髪が手に触れるー


ドキッとしてしまう修三ー


”あっ!やべ!”

一瞬そう思ったがー

なんとか平常心を保ったー。


ここで男に戻ってしまったらー

修三は、駅の女子トイレに侵入した変態に

なってしまうー。


「----」

”隣の子、大丈夫かなぁ”


隣の個室の心配をしていた修三ー


その時だったー。


「----…」

”何か”を感じたー


このトイレは比較的古い駅のトイレで、

個室同士の壁の下の方に、少し”隙間”が存在していたー


そこから、視線をーーー


「---!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

女子高生に変身している修三とー

隣の個室にから飛び出す”カメラ”のようなものの目が遭ったー


その直後、カメラが、ひゅんと、引っ込んでいくー


「---…!!おい!!!今何してた!?」

修三が反射的に可愛い声で叫ぶー


隣から返事はないー


「今、盗撮してただろ!?おい!?」

自分が女子高生の姿になっていることも忘れて

本来の口調で叫ぶー。


「--ひっ…」

隣の個室から声がしたー

”男”だったー


ずっと出てこなかったのはー

盗撮するターゲットを待っていたのだろうー。


”何て野郎だ”

正義感の強い修三はそんな風に思いながら

すぐに個室から出ると、

ちょうど鏡の前にいた女子大生に声をかけたー。


「--あの、ここに盗撮してる男がいるので、

 駅員さん呼んできてもらえますか!?」

修三が女子高生の姿のままそう言うと、


「え…?ほんとに?」

と、女子大生は戸惑いながらも、

「わ、わかりました!」と、駅員を呼んできてくれたー。


”桃子の荷物もこの中にあればいいけど”

と、思いながらー

修三が駅員に事情を説明するー。


駅員が個室を強引に開けるとー

中には、薄い頭のおじさんがいたー


「ひ、、許してくれ!許してくれ!」

おじさんが叫ぶー


連行されていく盗撮おじさんー


個室を確認するとー

端の台に、見覚えのある小さな鞄が置かれたままになっていたー


”あった!”

修三が喜ぶー


「ありがとうございました

 大丈夫でしたか?」

駅員が近づいてくるー。


女性駅員と、盗撮された件について会話を交わしながらー


修三はー

”俺のおかげで盗撮犯を捕まえることができた”


とー

一種の高揚感を覚えていたー


ドクンー

ドクンー

ドクンー


心臓が高鳴るー


喜びの感情が、溢れるー


「---いえいえ、わたしはーー」


ーー!?


修三は、言葉を止めたー

目の前にいる女性駅員の顔色が青ざめていくー


「---!!!」

自分の口から今ーー


男のーー

修三自身の声がーー


「きゃあああああああああああああ!」

女性駅員が悲鳴をあげて、女子トイレから逃げ出すー


「--えっ!?あ、、しまっ!」

女子トイレの中で、修三はー

高揚感から平常心を失いー

元の姿に戻ってしまっていたー


「--あ、待って!ちがっ!俺はただ、忘れ物を!

 や、、やべぇ!」

女子トイレから飛び出す修三ー


修三は、直後に駆け付けた男性駅員たちに

取り囲まれー

そのまま連行されてしまったー


・・・・・・・・・・・


「---修三、遅いなぁ…」


自宅では、彼女の桃子が心配そうに、そう呟きながら

修三の帰りを待ち続けていた。



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


1話完結の他者変身モノでした~!

色々制限がある変身は、使いにくいですネ~!


お読み下さりありがとうございました!!

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