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「ねぇ、ナナちゃんー

 あのね、

 わたし、人形のナナちゃんが好きなの!

 人形の姿のナナちゃんが!

 だから、わたしの大好きなナナちゃんに戻ってほしいなー

 あの人形の中に、戻ってほしいなー」


紗耶香は、人形・ナナちゃんに憑依されて乗っ取られている

親友の愛海に向かってそう言い放ったー


”愛海に憑依した状態のナナちゃん”よりも、

”本来の人形のナナちゃんのほうが好き”


そう、おだてることで、ナナちゃんに愛海の身体から

出て行ってもらい、

人形の身体に戻そうとしているのだー。


「--うふふふふふ~

 紗耶香ちゃんにそう言われると嬉しい!

 わたし、元の身体に戻るね!」

愛海が嬉しそうに言うー。


そして、棚の上に置かれた人形ー

”ナナちゃん”の方を向いて、紗耶香に背を向ける愛海ー。


「---」

紗耶香は、人形の方を見つめるー


”人形に意思がある”なんて信じられないー

確かに、人形には意識が宿るー

みたいなお話は聞いたことがあるし、

紗耶香も、そういうシチュエーションの

ホラー少女漫画を読んだことがあるー。


でもー

まさか、そんなことが現実に起こるなんて…。


人形・ナナちゃんには、意識が存在していて、

その意識が今、親友の愛海に憑依し、

愛海を完全に乗っ取っているー


さすがに日を跨いで、愛海が

”ドッキリ”を仕掛けるわけがないし、

自宅にも帰らず、大学にも来ないなんてことは、ありえないー


それにー


紗耶香は、昨日のことを思い出すー。

愛海の目が赤く光りー

愛海の髪が逆立っていた、悪夢のような光景ー。


人形の怨念に、憑りつかれたかのような、

愛海の異変ー。


紗耶香は、”現実で、人形に意識なんて宿っているはずがない”と

思いながらも、これまでに起きた数々の出来事から、

”人形・ナナちゃんには意識が元々宿っていて、

 その意識が、愛海を乗っ取っている”という今の状況を

信じざるを得なかったー。


「--ーー(でも…)」

紗耶香は笑みを浮かべるー


愛海に憑依しているナナちゃんは

”人形”に戻ろうとしているー。


紗耶香が煽てたことによって、

ご機嫌そうに、愛海は人形を手にしているー。


”ナナちゃんが人形に戻ったらー

 ナナちゃんの人形を燃やす”


「(小さいころ、遊んでいたとか、よく覚えてないけど…

  気持ち悪いし、不気味なのよ!)」


紗耶香は、相変わらず小さいころに自分が

”ナナちゃん”と遊んでいた時のことは

思い出せなかったし、

思い出どころか、怒りすら感じていたー。


今の紗耶香から見れば

ナナちゃんは不気味でしかないし、

親友の愛海の身体を乗っ取って好き放題しているなんて

許せないー


小さいころはどうだったか、知らないけれどー

今の紗耶香にとって

ナナちゃんは”親友”などではなく、

ただの、”敵”だー。


「--(早く、元の身体に戻りなさいー)」

紗耶香は、思うー


「-(”親友”のわたしに燃やされるんだから…ありがたく思うことね)」


愛海が、紗耶香に背を向けたまま口を開いたー


その手には人形が握られているー

”ナナちゃん”だー。


「--わたし、お人形さんに戻るね」

愛海が呟くー


だがー

紗耶香は、知らないー

紗耶香に背を向けている愛海の顔はー

笑ってなどいないことにー


「--うん!やっぱり、ナナちゃんはナナちゃんじゃなくっちゃ!」

紗耶香の言葉に、

愛海は「紗耶香ちゃんってば~!」と照れ臭そうに声を出すとー


「じゃあ、元の身体に戻るね」

と、呟いたー


愛海が「ぁ…」と、うめき声をあげて、その場に倒れるー。


”ナナちゃん”が愛海の身体から抜け出してー

人形の身体に戻ったー。

愛海は倒れたままー


愛海のことも心配だったがー

まずは”ナナちゃん”だー。


昨日のように、怨念みたいのを発されてしまうと困るしー

隙を与えれば何をされるか分からないー

ナナちゃんが油断しているうちに、

人形を破壊して、燃やすー。


「--やっぱりナナちゃん!人形の姿が似合う~~~!」

紗耶香は、そう言いながら人形を手にするとー

思いきり、ナナちゃんを壁に叩きつけたー


「--気持ち悪いのよ!!!!!!!!!!!!」

紗耶香はそう叫びながら、ナナちゃんの人形を何度も何度も

壁に叩きつけてから、思いきり床に放り投げたー。


”ナナちゃん”の人形を見ることもなく、

足で何度も何度も何度も何度も

踏みつぶすと、

紗耶香は、部屋の外にあるベランダに”ナナちゃん”の人形を

放り投げると、マッチで”ナナちゃん”に火をつけたー


「---はぁっ…はぁっ…はぁっ……」

ナナちゃんの人形に火がつくー。


「--迷惑なのよ…!

 今更小さいころのことを掘り返されても…!」

紗耶香は吐き捨てるようにして、そう呟くー。


母親も言っていたし、

確かに、紗耶香自身は、小さいころ、

この”ナナちゃん”という人形と遊んでいたのだろうー。


でもーーー

誰だってー

誰だって、少なからず

”小さいころに遊んだおもちゃ”のことなんて、

忘れるものー。


紗耶香は、燃える”ナナちゃん”を見つめながら

少しだけ、寂しそうな表情を浮かべるー。


確かにー

”ナナちゃん”の立場からすればー

”友達”という言葉は嬉しかったのかもしれないー


でもーーー


「---さよなら」

紗耶香は、そう呟いたー。

他に火が燃え移らないうちに、火を消して、後始末をしないと、

と、思いながら紗耶香が燃えているナナちゃんの人形の方に

近寄ろうとしたその時だったー。


「---ひどい…」


「--!?」

紗耶香はドキッとして振り返ったー。


紗耶香の背後にはー

倒れていた愛海が、立っていたー。


フリフリしたお姫様のような服装の愛海ー


「--あ、、愛海?」

紗耶香は、愛海が意識を取り戻したのだと思ったー


だがー


「--ひどい…!やっぱり、、やっぱり紗耶香ちゃんは…

 わたしを、、わたしを、、裏切るつもりだったんだ!」


愛海が叫ぶー


”紗耶香ちゃんー”

その呼び方に、紗耶香はゾッとしたー。


愛海は、紗耶香を”紗耶香ちゃん”とは呼ばないー

今、目の前に立っている愛海が”紗耶香ちゃん”と

口にしたということはーー


「-ーーわたしーー

 ”まだ”この人間の身体から、抜け出してないよ?」

愛海が、無表情で言うー。


「え…」

紗耶香は、震えながら、愛海の方を見るー。


愛海が”ナナちゃん”の人形の火を素手で消すと、

人形を見つめながら「ひどい…」と涙をこぼすー。


「--ど、、どういう…?」

紗耶香が恐怖しながら言うと、

愛海はにっこりとほほ笑んだー


「紗耶香ちゃん、”嘘”つくとき、人の顔のほう、見ないもんね」

愛海が微笑むー。


「--!!」

紗耶香は表情を歪めたー。


「ねぇ、ナナちゃんー

 あのね、

 わたし、人形のナナちゃんが好きなの!

 人形の姿のナナちゃんが!

 だから、わたしの大好きなナナちゃんに戻ってほしいなー

 あの人形の中に、戻ってほしいなー」


無意識のうちにー

紗耶香は、乗っ取られた愛海に、そう伝えたときー

愛海から目をそらしていたー


「--この人の頭の中に、

 ”紗耶香ちゃんが嘘をつくときは、人の目を見ない”って

 記憶されてたもん!」

愛海が、笑いながら自分の頭を指さすー。


「---っ…」

紗耶香は、慌てて言い訳を考えようとするー。


「だから、わたし、”この人の身体から抜け出したふり”をして、

 紗耶香ちゃんが何をするつもりなのか、確かめたの♡」

愛海が微笑みながら言うー。


「--ー」

さっきー、

愛海が倒れた時、紗耶香は、勝手に

”ナナちゃんが愛海から抜け出して人形の身体に戻った”と

思い込んでしまったー


だが、実際にはー

愛海から、ナナちゃんは抜け出しておらずー

”わざと”倒れたのだー


紗耶香が何をするか確かめためー


「---ひどいよ…紗耶香ちゃん…

 友達を燃やすなんて…!

 もし、わたしが、人形の身体に戻ってたら

 わたし、紗耶香ちゃんに燃やされちゃうところだった」


愛海が頬を膨らませながら言うー


「--ご、、ご、、ご、、ご、、ごめん、、ごめんね…」

紗耶香は怯えながら、やっとの思いで

言葉を振り絞ったー


愛海は、穏やかな口調で微笑んでいるー

けれどー

愛海の目は赤く光っているー


”ナナちゃん”が怒っているー


紗耶香は、怯えながらー

「ごめん…もうしないから…

 ナナちゃんは、、わたしの、、最高の親友…」と、

引きつった笑みで言うー。


「-うん!うれしい!♡

 じゃあ、紗耶香ちゃん、何して遊ぶ~?」


愛海の目は赤く光ったままー。

紗耶香は、”恐怖”を感じながら

乗っ取られた愛海に言われるがままに

”遊んだ”


翌日ー


「--大学なんて、いかなくていいじゃん」

愛海が無邪気に笑うー。


髪型をツインテールに変えて、

さらに子供っぽい雰囲気になった愛海ー


「だ、、大学は、大学は、、行かないと…!」

紗耶香が言うと、愛海は、頬を膨らませたあとに

「わかった~」とだけ、呟いたー


大学に到着してからもー

紗耶香は、震えが止まらなかったー


”怖いー”


もはや、愛海を助けるどころではなくなっていたー


心底、”ナナちゃん”が

怖いー。


「--わたし、、どうすればいいの…?」

震える紗耶香ー。


愛海ーー

ナナちゃんに乗っ取られたままの愛海は、

思ったよりも、怒らなかったー。


それが逆に不安だったー。

どうしよう、どうしよう、と不安だけが膨らんでいくー。


彼氏の孝義が、そんな紗耶香に気づいて

「だいじょうぶか?」と、心配そうに尋ねてきた。


「え…あ、、、う、、うん…」

紗耶香は青ざめた表情でそう答えたー


「--大丈夫なんかじゃないだろ?

 そんな顔色で… 一体何があったんだ?」


孝義の言葉に、紗耶香は首を振ったー


「ほ、ホントに、大丈夫だからー」

とー。


”孝義を巻き込むわけにはいかない”

そう思っての判断だったー


乗っ取られてしまった親友の愛海のように、

ナナちゃんに関わってしまったら

何をされるか、分かったものじゃないー。


♪~~~


「--」

紗耶香がスマホを手にすると、

友人の渋子からの電話だったー。


そういえば、今日は渋子を大学で見かけていないー。


「--もしもし?渋子?どうしt---


”--ナナちゃんだよ~♡”


「--!?」


電話の向こうから聞こえて来たのはーー

”愛海”の声ー


「え???」

もう一度スマホの画面を見つめるー


電話の相手は確かに”渋子”と表示されているー。


”昨日、わたしを燃やそうとしたお仕置き~!

 LINEで送るから、見て~”


「--!?」

愛海の声に驚きながらも、紗耶香は慌ててLINEの

画面を見つめるー


そこにはー

渋子からのLINE-


「--ひっ!!!!!!!!!!!!!??!?!?」


そこにはーーー

無残な姿になった渋子の写真が映し出されていたー。


「---きゃああああああああああ…」

紗耶香は思わず悲鳴を上げてスマホを落としてしまうー


ガクガクと震える紗耶香ー


バラバラになった渋子の写真がスマホに表示されているー。


周囲が、紗耶香の悲鳴を聞きつけて、

紗耶香の方を見るー


紗耶香は咄嗟に「見ないで!」と叫んで、スマホを手に

走り出したー


”紗耶香ちゃんー


 わたしたち、

 ずぅ~っと、ずっと、友達!だよ!


 でもね、紗耶香ちゃん、

 嘘ついたら、わたしも怒っちゃう!♡


 でも、紗耶香ちゃんはきっと悪くないんだよね!

 紗耶香ちゃんの周囲にいる悪い人たちが

 紗耶香ちゃんを嘘つきにしようとしてる!


 紗耶香ちゃんに悪い影響を与える人たちを

 わたし、みんなみんなやっつけることにしたの”


ナナちゃんの悪魔のような声が、

スマホから響くー


「---!!」

紗耶香はスマホの画面を見つめるー


”お母さん”

”お父さん”

”由愛菜”

”円佳”

”沙織さんー”


知り合いの名前や家族の名前が

次々と表示されるー


それぞれから電話ー

そして、LINE


”み~んな、やっつけたよ♡ほめてほめて”


愛海の笑い声ー


紗耶香はスマホを放り投げて、

泣き叫びながら悲鳴を上げたー


”--ぜんぶぜんぶ、紗耶香ちゃんのためなんだよ♡”



数日後ー

紗耶香は、虚ろな目で、

自分の部屋で、愛海に撫でられていたー


お姫様のような服装に

ツインテールの愛海が、

紗耶香を嬉しそうに撫でているー


紗耶香は口をぽかんと開いたままー


精神が崩壊しかけているー。


「--ずぅ~っと、ずーっと、友達、だよ♡」

愛海が笑うー


紗耶香はー

虚ろな目のまま「うん…」と答えたー



④へ続く


・・・・・・・・・・・・・・


コメント


次回が最終回デス~!

28日に執筆します!


今日もありがとうございました~!

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