Home Artists Posts Import Register

Content

ジョーは高級なバーで

ワインーーー

いや、ぶどうジュースをグラスについで飲んでいた。


隣にいる久方ぶりに飲みに来た親友が言う。

「---ジョー、あんたまだ”アレ”やってるのか?」

”アレ”とは”悪の魂”の事だ。


彼、ジョーには死体から人間の悪の部分だけを引き抜くことができる。

抜いたその物体を彼は”悪の魂”と呼んでいる。


そして、ある時、生きている人間に、その悪の魂を吹き込むことができることを

知ったジョーは、

無関係の人間に死体から抜き出した悪の魂を投げ入れて観察するようになった。


その数、今までに99人。

悪の魂を入れられた人々は、みな悪の道へと堕ちた。


もちろん、死者の魂だから、そこに意識はない。

だが、悪の要素が次第に宿主を浸食していき、

”自分の意思”で悪の道へと堕ちてしまう。


最初は、誰でも良かったーーー

単に、人間が悪の誘惑に勝てるのかどうか

試したかったー。

そして、悪を克服できる人を見てみたかったー。


だが次第に、女性に限定して悪の魂を放り込むようになった。

優しくー清らかなー。

そんな女性が悪の道に堕ちていくのが彼には楽しくなってしまっていた。


それこそが、至上の快楽ー。

ジョーは”壊れていた”


検死官として、様々な遺体を見てきた。

検死官として、様々な”地獄”を見てきたー。

その結果、ジョーの精神は、いつの間にか蝕まれ、

今では”壊れて”しまっていたー。


一見すると、ごく普通の冷静な男に見えるー

だが、本人も無自覚のうちに、

検死官ジョーの精神は壊れていたのだ。


壊れた精神をギリギリのところでつなぎとめるのがー

”悪の魂を他人に憑依させて、悦に浸るー”


そういう、異常な行動に彼を走らせていた。


そして、ついにーー


「なぁーー

 アンタは”天使”は”悪魔”になると思うかいー?」


ジョーはグラスを口に運びながら言った。


となりに座る親友の男は、

”ジョーの力を知り、よく理解している人物”だったー。


職業は同じ検死官。

何故なのだろう。

ジョーは、親友でもある彼に自分の能力のことを

聞いてほしかったー。


だから、ある日、

彼に、この力のことを話したのだ。


「--……あぁ……

 どんなに清らかな人間でも道を踏み外すことはある」


高級ワインを口に運びながら親友は言った。


すると、ジョーは笑みを浮かべた。


「--イヤ、、例外もあるー。」


ジョーがマスターに水を頼み、

それを手に持って言う


「---透き通るぐらいまでの綺麗な水」


「この世にいるんだよーー

 一人だけなーー。

 まるで天使のようでーー

 水のようでーー。


 彼女の心は透き通っているーー。

 どこまでも美しくーー」


親友はゴクリとつばを飲み込んだ。


目の前にいるジョーの目つきが

正気とは思えなかったからだ。


「お前…」

親友は、瞳を震わせながらジョーを見つめる。

ジョーが、何を言い出すのかー

親友である彼でさえも、

最近のジョーには

”底知れぬ何か”があるように感じていたー。


常人でははかり知ることのできない、

何かが、だー。


「私の妹ー奥本麻理。


 彼女は私にとって、天使でありー

 この水のような透き通った存在だったー。


 だが、見てみたくはないか?

 このピュアな水に…”悪の魂”が混ざったらどうなるかー?」


ジョーはそう言うと、邪悪な笑みを浮かべた。


数々の人間に悪の魂を放り込むうち、

彼自身もまた”悪”に浸食されているのかもしれない


「まさかジョー、妹さんに!」

親友が動揺して立ち上がるとジョーは言った。


「妹はーー麻理は悪の魂なんかに負けないよ。

 ”純白”は”漆黒”には染まらない」


ジョーは、そう呟いた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


麻理はどんな時でも優しかった。


優しい笑みを浮かべ、

弱きものを助け、動物にも慈悲の笑みを浮かべる。


両親が居なく、おらず、荒んでいた兄・ジョーのことも、

見捨てることなく、優しさと愛を持って接してくれた。


そんな麻理は、ジョーにとっての宝だった。


5歳年下の麻里は今、大学生で、

将来は介護関係の仕事に就こうと、一生懸命勉強をしているー


”介護の道は、お前が思っているほど甘くはないぞ”

ジョーは、そう伝えたことがあるー


検死官として働くジョーは

”介護の末に、無理心中した男の遺体”や

”介護士に暴行を受けて命を落とした人間の遺体”

”苦しい介護に疲れ果てて自殺した人の遺体”

あらゆる、地獄を見てきたからだ。


だが、それでも、麻里は言ったー


”それでも、わたしはその道に進みたい”


とー。


優しい彼女らしい道だー。


今日の彼女はセーターにロングスカートという

おしとやかな雰囲気だった。

髪は少し前にあった時よりも長くなったようだ。


「--久しぶりに会って安心した」


麻理が言う。

麻理の笑顔はいつみても眩しいーー。


ジョーにとっては

まさに”天使”だ。


「…俺もだよ。元気そうで良かった」

・・・。


ジョーは少年のような表情でそう麻理に言った。


孤高に生きる彼も妹の前では一人の少年のような

表情で楽しそうに話す


「わたしね、介護施設で働こうと思ってて、

 そのために今も色々勉強してるの」


麻理が言うと、

ジョーはうれしそうにうなずいた。


「麻理らしいな。。

 俺も応援するよ」


そう兄から言われた麻理はうれしそうに

微笑むー


今は別々に暮らしているため、

ジョーと麻里が直接会うことは少ないー


久しぶりの兄と妹の時間を堪能するジョー。

ジョーは麻里との雑談に華を咲かせたー。


そしてー。

楽しい時間はあっという間に過ぎー、

麻里が立ち上がったー。


「じゃ、そろそろ行くね。

 またね、お兄ちゃん」


そう言う麻理に「じゃ」と手を振りながら、

ジョーはポケットから取り出した。


”悪の魂”をーーー

これは確かーーー

極悪非道の凶悪犯罪者から取り出した悪の魂ー。


ジョーの手が震えている

額に汗をかくーー


”もし、今までの99人のように麻理が壊れてしまったらー?”


…いや、それはない。

麻理は純白だ…。


純白は闇に染まらない。


「---何より俺は、、、

 どうなるのかーーー見たい!」


ジョーは邪悪な笑みを浮かべて妹の麻理に

悪の魂を投げ込んだ


「ひっ…?」

麻理が声をあげて振り返る。


「ん?」

ジョーはとぼけた表情で答えた


「いま、何か 居なかった?」

麻理が不思議そうに聞くー


「---いや、何も居ないと思うが」

ジョーが言うと、麻理が

なんだぁ、勘違いか!と笑う。


「--お兄ちゃんがわたしに熱い視線

 送り過ぎなんじゃないの?

 …なんてね!」


意地悪そうな笑みを浮かべて麻理は笑う。

ジョーは「はは」と少年のように笑ったー。


そしてー


「じゃあねお兄ちゃん」


「ああーーー

 また。」


ジョーは手を振り

去っていく、妹の姿を見つめたーー。


”悪の魂”を妹の麻里に憑依させてしまったー。

ここまで来てしまったらー、

もう、”引き返すことはできない”


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日。


「う~ん 変だなぁ…」

一人暮らしの家で麻理がつぶやく。


「なんだろう…?」

自分の中で何か違和感を感じる


常に興奮状態にあるかのようなーー

気が立っているかのようなーー


生理前に体調を崩すことは、よくあることだったが

”それ”とも違うような、何か

得体のしれない違和感を感じる麻里ー。


「……はぁ…がんばろ!」


それでもー

麻理は一人笑い、大学へと向かった。


その日は”いつも通り”だった。


色々な講義を受けたり、

友人と学食を食べたり、

サークル活動に参加したり、

大学内で介護の勉強をしたり。


麻理は”いつもの1日”を終えて帰宅した


「ふぅ~疲れた」

麻理は1日の疲れからか、自宅のソファーに座った。


ーーその時だった。

壁にクモが居るのが見えた。


「---あ、」

麻理がクモを見て、見つけたよ~ と悪戯っぽくつぶやきながら言う。


そして、近くのティッシュを手に取り、

クモを”潰した”


「---あっ… あれ?」

麻理が違和感を覚える


彼女はいつも、クモを室内で見つけると

外へと”逃がして”いた。


麻理は虫もできる限り殺したくないー

そう考える、とても心優しい性格の持ち主だった。


だが、今はーーー?

当たり前のように、蜘蛛を潰した。


それも、壁にしみが残るぐらい力強く。


無意識のうちに、壁に蜘蛛をぐりぐりと押し付けて

蜘蛛を潰したのだー。


しかもー

麻里本人は気づいていなかったものの、

蜘蛛を潰している時の麻里は、

とても楽しそうにー

邪悪な笑みを浮かべていたー。


麻理は、その壁を見ながら首をかしげる。


「いつも逃がすのに、わたし、今なんで…?」


そう呟くと、首を振り、手を顔の前に合わせて

友達に謝るかのような口調で言った


「クモさんーーごめんなさいっ!

 許して!」


そう言うと、壁を綺麗に拭き取り、

彼女は”いつもの生活”へと戻っていった。


その様子を姿を消して、見つめていたジョーは

無言でその様子を見守っていた。



ーーー妹は、必ず悪の魂の影響を受けず、

それを”克服”する-。


何故なら彼女は

天使であり、水のような透き通った存在なのだからーーー。



だがーーー

ジョーの想いとは裏腹に麻理は少しずつ

”浸食”されていた…。



⑩へ続く


・・・・・・・・・・・・


コメント


ついに妹にまで悪の魂を憑依させてしまった

検死官のジョー。

果たして、その運命は…?


今日もお読み下さりありがとうございました!


※毎週火曜日は私の初期作品のリメイク作品を

 載せています!

 初期の頃は今より1話あたりが短かったので

 リメイク版も最近の1話分より短くなっています。

 そのため、「悪の魂X」は100円プランでも

 読めるようしてあります!

Files

Comments

No comments found for this post.