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予定より少し早く仕事から帰宅した修一は、

”ありえない光景”を目にしてー

身体を震わせていたー。


室内の物干しざおに吊り下げられるようにして

干されていたのはーーー


妻である”麗菜”の皮ー。


「れ…れ…れ…れ…え……え???」

修一は、この世の終わりを目にしたかのような表情で、

身体をぶるぶると震わせたー。


ありえないー

信じられないー。


”この光景”を見るのは2回目ー


高校時代ー

友達もいないような自分に突然告白してきた麗菜ー。


”罰ゲームなのではないか?”と疑い、

麗菜の行動をチェックしていたところー

麗菜が、着ぐるみのようにぱっくりと割れてー

中から知らない男が出てきた光景を

”1度だけ”見ているー。

しかも、麗菜の中から出てきた男は、

当時、修一をいじめていた男子たちのリーダー格

望月 健太郎と、その場で会話をしていたー


だがー

当時、修一はその場に乱入することもできず、

麗菜に問いただすこともできなかったー。


そのまま高校生活を終えてー

大学生になり、

ついには結婚までー

してしまったー


麗菜のことは大好きだー

そして”あの時”以降、一度もそういう光景を

見なかったことからー

修一は”現実逃避”をしていたー


あれは、何かの見間違いであると。

あれは、何かの勘違いであると。

あれはーーー夢だったのだと。


現に、あの高校時代に見た”悪夢の光景”から

10年以上が経過しているー


だがーー


やはりー


あれはー


夢などではなかった。


「あ…あああああ…」

”麗菜の皮”に近寄る修一。

麗菜は、虚ろな目のまま、ぽっかりと口を開きー

そして、まるで着ぐるみショーで使われる

着ぐるみかのように、感情を感じさせない

状況になっているー。

”生きていない”

そう、感じさせる状況ー。


「---!」

修一は、音が聞こえてくるのを感じて、

咄嗟にその方向を振り返ったー。


浴室ー

シャワーの音がするー。


「----…」

修一は足を震わせながら、浴室の方に向かうー


やっぱりー

”麗菜じゃない誰かがいる”

そう思わずにはいられないー。


麗菜のおかげでー

修一は変わることができた。

高校時代まで、友達0のいじめられっコだった自分がー

麗菜のおかげで、数は少ないけれど友達を作れるぐらいになりー

自分に自信も持てるようになって、

今、ごく普通のサラリーマンとして、

生活することが出来ているー。


でもーー


浴室の扉を見つめるー


そこにはー

”男”のシルエットがあったー


「---!!」

修一は、無我夢中で、その場から離れたー

家を飛び出しー

走ったー


どこを目指しているわけでもないが、

とにかく走ったー

冷や汗が止まらないー

呼吸が乱れるー

動悸が止まらないー


とにかくー

何もかもが乱れー

何もかもがーー

耐えられないー。


そんな、状況だったー。


「はぁ…はぁ…はぁ…」

気づいたときには、夜になっていたー

夜の公園のベンチで、汗と涙を吹き出しながらー

修一は、ひたすらに戸惑っていたー


「-----なんだ、あれは…」

修一は呟くー


妻である麗菜が、まるで洗濯物のように

干されている光景を思い出すー。

そして、見知らぬ男がシャワーに入っていた光景をー。


浴室の扉は、中の人影しか見えないから、

どんな男が入っていたのかは確認できていないー


だがー


いやーーー

「--見間違え…だよな?」

修一は自虐的に微笑んだー。


そう、思いこむことでしか、

自分の精神を保つことができないー

そんな状況に追い込まれてしまっていたー


麗菜そっくりの着ぐるみがあってー

シャワーを浴びていたのは麗菜ー。


そう考えるのが、一番現実的じゃないか、と

修一はひとり笑う。


そうだー

麗菜が何者かに皮にされて乗っ取られてー

麗菜を乗っ取った男が、10年以上も麗菜として

自分と付き合っているなんてあり得ないー


修一は、笑みを浮かべたー


そうだー

非現実的すぎるー


大体、麗菜が誰かに乗っ取られて、

まるで着ぐるみのように着られているのだとすれば

自分なんかとこんなに長く付き合い、結婚するなんて

ありえないー


自分が”逆”の立場だったらどうだー?


もしも仮に自分が”他人を皮にする力”を手に入れて、

その力を使えるとしたらー?


こんな、自分みたいな男と付き合うか?

結婚するかー?


いいや、しない。しないねー。


修一は、深呼吸しながら、だんだんと心を落ち着かせていくー


自分のように、特にイケメンでもなくー

お金持ちでもなくー

親戚に有名人や権力者がいるわけでもないー


そんな人間に近づいて10年も一緒にいる

”メリット”が何も見当たらないー。


「--俺を殺そうとしてるなら、俺はとっくに殺されてるはずだしな…」

修一は呟くー


彼女の麗菜が誰かに乗っ取られているとしてもー

”修一と10年以上も一緒にいる”理由がどんなに考えても、見当たらないー


命を奪おうとしてるならー

修一はもう死んでいるだろうー


金目当てならー

修一には近づかないだろうー。


修一を揶揄う目的ならー

10年以上も一緒にいることはしないだろう。


中にいる男が、女を乗っ取る目的なだけならー

修一と一緒にいる必要はないー


「そうだ…そうだ、俺の勘違いだ」

修一は自虐的な笑みを浮かべながらそう呟いたー。


麗菜を乗っ取る理由はあるかもしれないー。

麗菜に対する復讐だったりー

麗菜は可愛いから、単純に性欲的な目的で乗っ取った可能性もあるー。


でも、修一と一緒にいる必要がない。

イケメンでもないし

年収が高いわけでもないー


”利用しやすいのか?”と

修一は考えるー

だが、それもない。

可愛い女を乗っ取って、男に寄生して

楽して人生を生きるー…

そんな選択肢も確かにあるかもしれない。

修一のような友達も少なく

女性慣れしておらず、恋愛経験もないような人間は

確かに「操りやすい」のかもしれないー。


でもーーー

そうとも思えないー

何故なら、麗菜は家事もしっかりこなして

パートもしていて、

とても”楽している”と言える状況ではないからだー。


むしろー

修一以上に毎日頑張っているし、大変そうにも見えるー。


「---わけがわからない…」

修一は頭を抱えたー


と、なればー

答えはひとつー。


”麗菜を乗っ取った男”の立場に立って

色々なことを、頭をフル回転させて考えてみても

”麗菜を乗っ取った男”にメリットなど、

何、ひとつ、存在しないのだー。


メリットはないー。


答えはー

「俺の見間違いだな」

修一は笑みを浮かべたー


”いやいや、見間違いじゃねぇだろ”と

心の中で叫ぶ、自分の気持ちを押し殺して、

物干しざおに干されていた麗菜の皮は作り物でー

シャワーを浴びていたのは男ではなく、麗菜だと

自分に言い聞かせるー。


どう見ても男のシルエットだった気がするがー

髪や胸は見えなかっただけかもしれないし、

自宅の浴室は、外からではシルエットしか

見えないから、気が動転していて、

慌てていたのだろう。


「はははっ!俺ってば昔っから、そそっかしいよなぁ~」

そう笑いながら、修一は深呼吸すると、

そのまま自宅に帰宅したー


「お帰りなさいー」

麗菜がいつものように修一を出迎える。


「ただいま」

修一が微笑むー。


大好きな麗菜が、傍にいてくれるー。

それだけでいいじゃないかー。

麗菜は麗菜だー

中に男なんていない。

俺は馬鹿だ。

2回も変な妄想を見るなんてー


「--今日は、遅かったね?」

麗菜が不思議そうに首を傾げるー


「ん?あ、あぁ、ちょっと残業を頼まれちゃってさ」

苦笑いする修一。


「--いつもお疲れ様!」

麗菜が微笑みながら、雑談を始めるー。

今日の出来事や

他愛のない会話ー。


いつもと何も変わらない麗菜ー。


「麗菜…あのさ」

修一は、ふと、昼間見た光景のことを聞きそうになってしまったー。


「--ん?なぁに?」

麗菜が振り返るー。

とても、優しい笑顔ー


この笑顔に、嘘、偽りなんて、ないー。


「--なんでもないー」

修一は、そう呟くと、静かに微笑んだー。


・・・・・・・・・・・


ずっと、ずっと、ずっとー。

こんな幸せな日々が続けばいいー。


そう、思っていたー


だが、”その幸せな日々”の終わりが

近づいていたー


ある日ー。

会社の仕事で、取引先との商談に赴いた際にー

偶然ー


出くわしてしまったのだー。

高校時代のいじめっ子・望月 健太郎とー。


健太郎は、最初、お互いの上司や部下、同僚が

いたからか、表情一つ変えることなく、

事務的に対応していたが、

話し合いが一時中断となって、昼休みに

入ったタイミングで、修一に近づいてきた。


「よ」

健太郎が言う。


「--あ、あぁ、、久しぶり」

表情を暗くする修一。


麗菜と付き合い始めて、修一は変わったー

昔のようないじめられていた頃のように、

弱くはないー


「--悪かったな。学生の時はー」

健太郎はそう呟く。


「--あ、、あぁ…」

修一の反応を見て、健太郎は

修一が怯えてること、そして、健太郎を今も嫌っていることを悟るー。


「--許してくれなんて言わないさ。

 俺がお前だったら、絶対、俺を許さないだろうからな」


そう呟くと、

休憩所の窓の外を見つめながら健太郎は少しだけ笑ったー


「もう、俺たち、来年30だろ?

 いじめなんかする歳じゃないさ」


”もう、いじめる気は毛頭ない”という態度を示す健太郎ー。


修一は警戒しながらも、健太郎と学生当時の話を少しだけしたー。


「----」

修一は、あの時のことを思い出すー


”皮”-

着ぐるみのように、麗菜を脱いだ男が、

健太郎と話していた場面をー


健太郎に聞けばー

”麗菜”の真実が分かるかもしれないー


でもー


”いや、俺の見間違いだしな”

修一は、自分にそう言い聞かせ、現実逃避をしようとしたー


しかしー


「--そういや、麗菜ちゃんとまだ付き合ってるのか?」

健太郎が、偶然、思い出したかのように、そう口にしたー


「え???あ、、、あぁ、、け、結婚したんだ」

修一が言うと、

健太郎は「え?????」と、尋常じゃない驚き方をしたー


「---は、、、そ、、、そうか。

 ま、、まぁ、幸せにな」

健太郎は、それだけ言うと、時計をわざとらしく見つめて

「そろそろ午後の話し合いが始まるな」と、足早に、

逃げるように立ち去って行ったー


「----な、、なんなんだよ」

一人残された修一は、困り果てた様子でそう呟いたー。


・・・・・・・・・・・・・・・


夜ー


帰宅すると

麗菜が「大事な話があるの」と、修一に言った。


「え…?」

修一が戸惑っていると、

麗菜は、衝撃的な言葉を口にしたー


「--わたしは、麗菜であって、麗菜じゃないの」


とー。


「え……」

凍り付く修一。


「--落ち着いて聞いてねー。

 確かに、この身体は、”麗菜”

 

 でもねーー

 わたしは、麗菜じゃないのー」


麗菜はそう呟くと、少しだけ笑みを浮かべたー


ーーーように見えた…。



③へ続く


・・・・・・・・・・・・・


コメント


妻の中に誰かがいる…!?

その真相は…!?


次回、真相が明かされます~!


今日もありがとうございました~!

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