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検死官ジョーは、自宅で

ワイングラスに、紫色の液体を注ぎながら笑うー。


彼は、酒を飲むことはできない。

苦手なのだー

紫色の液体…ぶどうジュースをワイングラスに入れて

一人、乾杯すると、

あるとき、親友に悪の魂について告げた時のことを思い出すー。


「--つまり、その人間の意識を乗っ取るということか」

親友はそう言った。


「違うな」

検死官ジョーは、うすら笑みを浮かべながら、そう修正した。


”悪の魂”に意思はない。

死した人間の魂はカラっぽだ。

死後の人間の身体に、

意識など残っていない。

人格など、残っていないー。

あるのは、器とー

意識なき意思ー。


だから、悪の魂を入れられた人間は他の人間の意思に

乗っ取られているわけではない。


あくまでも本人の意思のまま、

その人間は”悪”に染まっていくのだ。


「……そうだな 例えるならこんな感じだ」


検死官ジョーはグラスに注いだコーヒーの中に

カップミルクを入れてみせたー。


すると、コーヒーは、ミルクと混ざり合い、

ちょっとだけ白くなった。


「……そう。

 善の人間という存在に、”悪”が注がれることによって、

 その人間は悪に染まっていくんだよー」


コーヒーにミルクを入れると、甘い味に変わっていくようにーーー

人に”悪”と言う名のミルクを入れると、人はいとも簡単に悪に染まっていくのだー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ジョーは見つめていた。

西原愛華の様子を。


いじめられっ子の康介に罵声を上げて以来、

彼女は変わっていった。


1日、1日、日が経つごとに

少しずつ、けれども確実に変わっていった。


検死官ジョーは、その様子を退屈そうに見つめていたー

そろそろ”フィナーレ”が近づいている。


ジョーが”興味を持っている”のは、

人間が変わっていく過程だー。


”完全に変わってしまった人間”には

興味がない。


カメレオンのように、透明になっているジョーに

見つめられていることも知らずに、

愛華は自分の財布の中身を確認した。

お札がたっぷり入っている。


親友の紗枝が、

無防備に鞄に財布を入れたままにしていた。


誰も見ていないのを確認して、愛華は、財布の中身を

全て抜き取ったのだー。


当然、紗枝は騒ぎ出した。

自分の財布の中のお金が抜き取られて

のほほんとしているような人は、いないー。


”紗枝のお金が盗まれた”

その事実は、瞬く間に広がっていき、

当然、学校内でも問題になった。


”当たり前”のことだー。


ーーーでもーーー

誰も愛華を疑わなかった。


「なんだ、カンタンじゃん」


愛華はそう思った。


今までは罪悪感を感じてしまい、できなかった。

でも、今はできるー。


今までの愛華なら、

紗枝の財布からお金を抜き取ったー

なんてことをしてしまったら、

死ぬほど公開するだろう。


でも、今の愛華は、違うー。


愛華は、いつも学校行事から生徒会活動、

あの臆病者の康介のことまで、

何でもかんでも、面倒を見てきた。


なのに、みんなは愛「ありがとう」と言うだけ。


確かにうれしかった。

でも、今は違う。


”少しぐらい、わたしがご褒美をもらうのは当然のこと”


「--いつまでも、わたしが黙ってご奉仕してると

 思ったら大間違いー」


”見返り”が無いなんて、ありえないー

わたしは”あんたたちにこんなに尽くしてやった”のー。

数万円ぐらい、抜き取ったって、なんてこと、ないでしょ?


紗枝は悲しんでいた。

「誰が盗んだんだろう?」と、泣きながらー。


愛華は「気を落とさないで」と笑顔で励ました。


カンタンだー。

”わたしは優等生なのだから”


何をしても、何をしても、みんなにはばれない。

本当に馬鹿なヤツら!


愛華は一人、笑みを浮かべた。


そういえば、今日は昼休みに康介と会う約束があったー。

そのことを思い出し、

愛華は紗枝に”適当な慰めの言葉”をかけてやると、

そのまま空き教室へと向かったー


”わたしが慰めて”やったの”

 感謝しなさいー”


そう、思いながら。


ーーーー。


「また栗本さんたちに嫌がらせされちゃったよ…」

康介が言う。


「うん…大変だったね。。」

愛華はそう返事をした。


ちょっと前まで、愛華は親身に康介の話を

聞いていた。


でも、今は馬鹿らしくなってしまった。

それどころか、凄くイライラする。

”なよなよしやがって…。”

と、康介を見ているだけで、

壁を殴りつけたくなってしまうほどに

イライラが止まらない。


今日も泣き言を一人言い続ける康介。


その泣き言を聞いているうちに、

腹立たしさが溢れそうになった愛華は、

舌打ちをすると、

無理やり笑顔を作り出して、

康介のほうを見たー。


「黒滝君にもさ、

 何か問題があるんじゃない?」


ーと、口にしながら。


「えーーー。そ、それは…」


康介は黙り込んだ。


「---ねぇ、なんとか言ったら?」

愛華の表情から少しだけ笑みが消えるー。


「---僕は、ただ…

 皆と仲良くできたらいいな…って」


「ふぅん…そっか!

 優しいんだね黒滝くんは」

愛華は心にもない言葉を口にした


ーーーいつからだっただろうか。

コイツがむかつくようになったのはーーー

先週からだっただろうか。


「うんーーーありがとう」

康介が満面の笑みで愛華を見た


その顔を見て、愛華の中の怒りが込み上げてきた。


理由は分からない


でもー

愛華の心は、今にも爆発しそうな

ダイナマイトにように、荒ぶっているー


”ウゼェ!ウゼェ!ウゼェ!”

愛華の心がそう叫んでいる。


ダメーーーー

”わたしは優等生なんだからーーー”

愛華は、残っていたわずかな善意で、

そのブチギレそうな感情を押し殺したー。


「………また何かあったら言って」

愛華は話を切り上げて、

立ち去ろうとした。


「西原さんーーー

 実は僕ね…」

康介が愛華を呼び止めた


とても緊張した様子で、

康介は深呼吸をすると、

信じられない言葉を口にした。


「ぼ、、、ボク、、、そ、、その…

 西原さんの事、

 ずっと…その、、、、、

 気になって」


あ??

あぁああ?


告白されてんの?わたし?

こんなゴミみたいなやつに?

ウッッッッゼェェェェ!


「調子こいてんじゃねーよ!」

愛華の怒りが爆発した。

鬼のような形相ー


「え、ごめ…」


目の前の”馬鹿がおびえている”-

愛華はそう思ったー


溢れ出る苛立ちを抑えることが出来ず、

愛華は、康介の顔をビンタして、

続けて顔をわしづかみにして壁に叩きつけた


「ヒッ…」

康介の顔がぐしゃっと歪むー。


愛華は、もう、自分で自分を

コントロールすることができなかったー。


「わたしがさ、大人しくしてりゃ、何なの?ねぇ…。

 いつもいつも お前もクラスの奴らも、

 わたしにばっか 面倒ごと押し付けてさぁ、

 何なの?


 わたしはあんたの召使い?しもべ?

 何?言ってみなさいよ!」


愛華が、怒り狂った声で叫ぶー

康介は、”愛華とは思えない行動”に

驚きのあまり、悲鳴を上げるー。


むかつく!

本当にむかつく!


「…や、やめてよ…西原さん!何かあったの?」

康介が必死に叫ぶー


「うっせぇんだよ!」

愛華は康介を床にたたきつけた


愛華は、そのまま狂ったように、髪をかきむしり、

吐き捨てるようにして、叫んだー。


「もういいわ、辞める。

 優等生やめる


 わたしばっか損して!

 ばかばかしい!


 ふざけんな!」


そう言って、愛華は廊下に飛び出した。

康介は、そんな愛華の様子を戸惑いながら

見つめることしかできなかったー。


どいつもこいつも、

ふざけんな!!


わたしはずっと、良い子だった。

皆が喜んでくれることがうれしかった。

でもーーー。


馬鹿じゃねーの!

やってられるかよ!


わたしは決めた。

もういい、一度きりの人生。

好きなだけ楽しんでやる。


愛華はその日ー

ついに、完全に”悪の魂”の悪意に支配されてしまったのだったー。


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ジョーはそんな様子を見つめ、失笑した。


「彼女も……壊れたか…」

ジョーは目の前にあるグラスに入ったサイダーを見つめた。


サイダーにメロンシロップを入れる。


「……純粋で無垢な色ほど、

 別の色に染まりやすい…。


 彼女のような、真面目で、純粋な子には、

 悪の魂は荷が重すぎた…か」


彼女は自らの意思で、悪の道に堕ちてしまったのだ。


翌日から、彼女は不良生徒に成り下がった。

授業をさぼり、いじめっ子らをこき使うようになり、

幼馴染の康介を徹底的にいじめた。


そのうち、髪を染めだして、地元のワルと付き合うようになった。


あまりの豹変ぶりに西原愛華の周囲では

”彼女は悪魔に憑かれたー”とまで噂された。


「----悪魔…か。」

あながち間違えではないな、とジョーは一人笑った。


さて…と次は…

ジョーは次のターゲットに悪の魂をねじ込むことにした。


もう、西原愛華はダメだろう。

悪の魂に勝てる人間は、やはり居ないのだろうか?


そんな風に思いながらー

別の女の写真を手にするー。


新婚の、藤森 彩乃(ふじもり あやの)

次のターゲットだ。


「---今度こそ、もっと、俺を楽しませてくれよー」

ジョーは次の”悪の魂”を手にそうささやいた。



④へ続く


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コメント


愛華編の最終回でした~!

次回からは”別のターゲット”に話が移ります~!

今日もお読み下さり、ありがとうございました!


※リメイク前の原作が短く、リメイク後も、

 いつもより話が短いので、

 「悪の魂X」は、100円プランでも読めるようにしてあります。

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