<入れ替わり>あの世とこの世②~恐怖~(完) (Pixiv Fanbox)
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”死後の世界”はあるのだろうかー。
そんなことに興味を持っていた外科医・藤本 佳也は、
増森副院長からの誘いで
”死後の世界”を体験することになった。
不治の病で、先日命を落としたばかりの女性・里穂の
遺体と中身を入れ替えることで、
死後の世界を経験できるのだと言うー。
増森副院長の用意した装置で、
里穂と身体を入れ替えた佳也はー
”死後の世界”を体験していたー。
「--」
里穂の姿になった佳也は
”里穂が生前暮らしていたであろう場所”を
歩いていたー。
死んで、身体機能も、脳も停止しているはずなのにー
”生前の記憶”を元に創り出された精神世界のような場所が
そこには広がっているー
「----…やっぱ不気味だな」
里穂(佳也)はため息をついたー
里穂の遺体と入れ替わった佳也が、
今、こういう光景を見ているということは、
恐らく、死んだ里穂は、同じ光景を見ていたのだろう。
自分が暮らしていた部屋
暮らしていた街並みが再現されている、この精神世界で、
あてもなくさまよっていたのだろう。
暑さも寒さも、何も感じないこの世界でーー。
通行人たちも全く反応しないー
生前の里穂が”背景”として見ていた
知らない人たちが、そのまま再現されているのだろう。
「--死んだら、ずっと、精神世界で過ごすのか…?」
里穂(佳也)は不安になるー。
何もかも感じないこの世界で
ずっと暮らすことになるのだとしたらー
気がくるってしまうかもしれないー
自分の生前の記憶を元に作られたこの世界ー
だがー
既に死んでいる自分自身の記憶が
それ以上、広がることはないー
”新しい発見”が何もない、
この精神世界で、死んだら
永遠に暮らすことになるのだろうかー。
「-----…」
時計を見るー
時計は、数日前で止まっているー
一切、動く気配がない。
「なるほど…」
里穂(佳也)は可愛い声を出しながら呟くー
”時計の止まっている時刻と日付ー”
これは、この里穂という女性が
死んだ時刻だった気がするー。
死者の時間は、それ以上は進まないということかー。
「--このあと、どうなるんだろうな…?」
里穂(佳也)は、街中のベンチに座る。
座って、スカートから覗く足がベンチに触れても
何の感触もないー。
ぼーっと、空を見つめる里穂(佳也)-
「----……」
何も起こらないー
何も、感じないー
ここが、”天国”なのだろうかー。
死んだ人間の知識は、それ以上広がらない。
生きていた間の記憶を元に創り出された世界で
永遠に過ごすー
そういうことなのだろうかー。
いいや、”地獄”なのかもしれない。
何の変化もない空間で、永遠に過ごし続けるということは、
想像を絶する苦しみと言えるだろう。
「---」
里穂(佳也)は真剣に考え込むー
”死後の世界”を経験できるチャンスなんて
2度とないかもしれない。
次に経験するときは、本当に自分が
死んだときかもしれないー。
だから、今のうちに試せることはなんでもしておきたい。
もちろん、女体になれるのも今だけかもしれないが、
佳也は、医療に携わるものとして、
性欲よりも、死後の世界に対する好奇心が勝っていたー。
里穂の脳も、身体機能も、既に停止しているー
なのに、里穂の遺体と入れ替わったら
この世界にやってきたということは、
”脳も身体も停止した人間”も、こういう光景を
見ていることになるー
”身体のどこかに…
生きていた間の記憶がまだ残っているということか…?”
里穂(佳也)は真剣な表情で考え込むー。
脳は停止しているー
では、どこで、死後の人間は思考しているー?
この精神世界は、人体のどこで、作られているー?
里穂の身体のどこかが、
まだ”機能”していて、
死後、この精神世界に里穂の意識が来ているということだろうか。
「-ー死んだら、土に還るだけ…じゃ、ないのかもな」
里穂(佳也)が呟くー。
”この先の段階”もあるのかもしれないー
ずっとこのままなのか。
それとも”お迎え”が来るのかー
死後、時間が経過すれば、この精神世界のようなものや
自分の意識も消えてしまうのか。
「--人間には、まだまだ分からないことだらけだな」
里穂(佳也)が苦笑いする。
死後の世界を経験できたのはいいが、
これはちょっと人智を超えた出来事な気がするー
元の身体に戻ったら、増森副院長と
色々話をして、研究をしていこうー。
そんな風に里穂(佳也)は思ったー
「---!」
街中を歩いていると、
黒い渦のようになっている場所を見つけたー
「--なんだ、これは…?」
先に進もうとしても
”見えない壁”があるかのように、
その先に進むことができない。
「---」
周囲を見渡す里穂(佳也)-
”一部の風景”が
まるで抜け落ちているかのように、黒くなっている部分があるー
「そうか…」
この世界は、おそらく、生前の里穂の記憶が作り出した
精神世界ー
里穂の記憶から抜け落ちている部分はーー
”再現”されていないのだろうー。
「--生きている間に行ったことのない場所とか
覚えてない場所はいけないってことか」
”不気味だ”
佳也は純粋にそう思ったー
一見、普通の日常に見える世界だがー
閉じられた世界ー
死後の世界とは、こんなところなのか。
”怖い”
少しだけそう思ったー
もしも、自分が死んだ立場なら、もっと怖いだろう。
これから自分はどうなるのか。
それとも永遠にここにいることになるのか。
とー。
あの世はー
”生”の気配を感じない不気味な世界だったー。
里穂(佳也)は、里穂の家らしき場所に戻るー
試しに本を開いてみると、
一部ページや、一部絵柄が、黒くなっていたり
モザイクになっていたりするー
「-これも、この子の記憶にない部分ってことか」
漫画もそう。
生前の里穂の”印象”に残っていない部分は
上手く再現されていないー。
モザイクがかかっていたり、つぶれていたり、
恐ろしいごちゃまぜの状態になっていたりするー。
「はぁ…」
時計の針が進まないため、
今、どのぐらい時間が経過したのか分からない。
だが、時間が来れば増森副院長が
再び入れ替わり装置で元に戻してくれる。
里穂という子には悪いが、
佳也はまだ死ぬわけにはいかないし、
里穂に戻ってきてもらうしかないー。
「-ー死ぬって、寂しい世界だな」
そう呟くと里穂(佳也)は、
自分の胸を触りだしたー
「ま、せっかくだし…
女の身体も楽しませてもらいますか」
胸を触ってみる里穂(佳也)-
感覚はないー。
「--ざんねん」
苦笑いするー。
死後の世界で女体になっても
あんまり美味しさがないー
いや、増森副院長の入れ替わり装置なら
生きている人間とも入れ替われるのだろうか。
それなら、
一度ぐらいは、女として快感を
味わってみたいような気もするー。
服を脱いで、里穂(佳也)は
顔を赤らめるー
「あぁぁぁ…なんか、いけないことをしてる気がする…!」
里穂(佳也)は少しだけ考えたがー
”ま、、死んでる子だし…いいよな?部屋で遊ぶぐらい”と
エッチなことをし始めたー
”この不気味な世界”への
恐怖を、忘れるためにもー
・・・・・・・・・・・
増森副院長は焦っていたー
「どういうことだ…?」
佳也が消えたー。
つまり、入れ替わり装置で入れ替わって
中身が里穂の佳也が消えたのだー。
「---どうする!?!?」
増森副院長にとっての”誤算”
佳也の身体になった里穂は、
麻酔によって眠り続けるはずだったー。
その間に、再び入れ替わり装置を起動して、
里穂の遺体になって、死後の世界を体験しているであろう
佳也を呼び戻すー
だがー
これでは…
「--麻酔が効かなかったのかー?」
増森副院長は戸惑うー。
入れ替わったことで、
”何か”麻酔の効き目に影響が出たのかもしれないー
これではーーー
「---…増森君」
ー!
増森副院長が目をやると、
朝田院長の姿がそこにはあった。
「例の死後の世界の体験…
もう終わったのかね?」
朝田院長が言う。
増森副院長の研究だが、
朝田院長にも一応、伝えてはあるー
増森副院長は戸惑いながら呟くー
「あ、、は、、はい。それはもう~!
実験は終わって、藤本くんは
もう帰りましたとも」
増森副院長は、”入れ替わり”がもう終わり、
佳也は帰ったと嘘をついたー
”保身”のためー
「そうか。では、今度、死後の世界が
どんなだったか、私も報告を聞くとしよう」
そう告げると、朝田院長はそのまま立ち去って行ったー
”どうにかしなければ”
そう思う増森副院長ー。
だがー
佳也の身体を見つけることができないまま、
時間だけが過ぎていきー
里穂の遺体を遺族に引き渡すことになってしまったー。
「----」
増森副院長は真っ青になりながらも、
黙り込んだー
自分の保身のためにー。
そしてー
ついに、佳也の身体がどこに行ったのか分からないまま
里穂の火葬の日がやってきてしまったー
「すまない…」
増森副院長は、そう呟きながらも
”藤本佳也医師は無断欠勤”ということで処理し、
自分の保身に走ったー
・・・・・・・・・・・・・
「----はぁ…♡ はぁ…♡」
生前のエッチの記憶だろうかー
不思議と、里穂の身体のゾクゾクを
佳也も体験することができたー
だがー
「--いつ戻れるんだろうな」
里穂(佳也)は不安を感じるー
「---半日で、私の方で君を元の身体に
戻すから安心したまえ」
まだ半日経過していないのだろうか。
そんな風に思いながら服を着る里穂(佳也)。
だんだん、怖くなってくるー
この死後の世界にいることがー。
何も感じない、無機質な世界ー
限られた範囲でしか、行動できない無機質な世界ー
テレビをつけると、
里穂が生前に見ていた番組が再生されるー
しかも、記憶の範囲内で、滅茶苦茶にー。
ネットは繋がらないー
当たり前だ。
「--出してくれ…」
里穂(佳也)が呟くー
「早くここから俺を出してくれ!」
感覚的にもう1週間以上経過した気がする。
なのになぜ、戻らないー?
何故”入れ替わり”が行われない?
何かトラブルだろうか。
焦り始めた里穂(佳也)はー
ふと、気付くー
「--!?」
突然、周囲の気温が上がり始めたー
「--あつっ!?!?」
今まで暑さも感じなかったのに、
突然ーーー
里穂(佳也)は家が燃えていることに気づいたー
「火事!?」
死後の世界にも、火事があるのか!?
そんな風に思いながら里穂(佳也)は外に飛び出して唖然としたー
家じゃないー
世界全部が、燃えているー
「--な、、なんだ、、なんなんだこれは…!?」
里穂(佳也)が慌てて街中を走るー
だが、どこに行っても
炎だらけー。
そして、さらに、熱くなっていくー
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
現実世界では、里穂の火葬が行われていたー
里穂の遺体は、燃えて
塵となるー
それと同時に、
死んだ里穂が、生前の記憶を元に、
自らの意識に見せていた”精神世界”も消滅したー
意識と共にー。
完全なる”死”を、里穂の遺体は迎えたのだったー
・・・・・
「-----……なんだかわからないけど」
佳也の身体になった里穂は、
自分が病室で謎の装置に繋がれているのに気づき、
とっさに脱走したー
訳も分からないままー。
「--生き返れたのかな…?わたし?」
佳也の身体と入れ替わった理由も何も知らないまま
”生き返れてラッキー!奇跡!?”などと
ポジティブに考えながら
佳也になった里穂は、自分の火葬を見届けて
姿を消したー
おわり
・・・・・・・・・・・・・
コメント
ちょっと変わったタイプの入れ替わりでした~!
もし入れ替わるとしても、こんな風に(外科医の先生の立場側)
入れ替わりはしたくないですネ!