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”死後の世界”はあるのだろうかー。

そんなことに興味を持っていた外科医・藤本 佳也は、

増森副院長からの誘いで

”死後の世界”を体験することになった。


不治の病で、先日命を落としたばかりの女性・里穂の

遺体と中身を入れ替えることで、

死後の世界を経験できるのだと言うー。


増森副院長の用意した装置で、

里穂と身体を入れ替えた佳也はー

”死後の世界”を体験していたー。


「--」

里穂の姿になった佳也は

”里穂が生前暮らしていたであろう場所”を

歩いていたー。


死んで、身体機能も、脳も停止しているはずなのにー

”生前の記憶”を元に創り出された精神世界のような場所が

そこには広がっているー


「----…やっぱ不気味だな」

里穂(佳也)はため息をついたー


里穂の遺体と入れ替わった佳也が、

今、こういう光景を見ているということは、

恐らく、死んだ里穂は、同じ光景を見ていたのだろう。


自分が暮らしていた部屋

暮らしていた街並みが再現されている、この精神世界で、

あてもなくさまよっていたのだろう。


暑さも寒さも、何も感じないこの世界でーー。


通行人たちも全く反応しないー

生前の里穂が”背景”として見ていた

知らない人たちが、そのまま再現されているのだろう。


「--死んだら、ずっと、精神世界で過ごすのか…?」

里穂(佳也)は不安になるー。


何もかも感じないこの世界で

ずっと暮らすことになるのだとしたらー

気がくるってしまうかもしれないー


自分の生前の記憶を元に作られたこの世界ー


だがー

既に死んでいる自分自身の記憶が

それ以上、広がることはないー


”新しい発見”が何もない、

この精神世界で、死んだら

永遠に暮らすことになるのだろうかー。


「-----…」

時計を見るー


時計は、数日前で止まっているー

一切、動く気配がない。


「なるほど…」

里穂(佳也)は可愛い声を出しながら呟くー


”時計の止まっている時刻と日付ー”


これは、この里穂という女性が

死んだ時刻だった気がするー。


死者の時間は、それ以上は進まないということかー。


「--このあと、どうなるんだろうな…?」

里穂(佳也)は、街中のベンチに座る。

座って、スカートから覗く足がベンチに触れても

何の感触もないー。


ぼーっと、空を見つめる里穂(佳也)-


「----……」

何も起こらないー

何も、感じないー


ここが、”天国”なのだろうかー。


死んだ人間の知識は、それ以上広がらない。

生きていた間の記憶を元に創り出された世界で

永遠に過ごすー

そういうことなのだろうかー。


いいや、”地獄”なのかもしれない。

何の変化もない空間で、永遠に過ごし続けるということは、

想像を絶する苦しみと言えるだろう。


「---」

里穂(佳也)は真剣に考え込むー


”死後の世界”を経験できるチャンスなんて

2度とないかもしれない。

次に経験するときは、本当に自分が

死んだときかもしれないー。

だから、今のうちに試せることはなんでもしておきたい。


もちろん、女体になれるのも今だけかもしれないが、

佳也は、医療に携わるものとして、

性欲よりも、死後の世界に対する好奇心が勝っていたー。


里穂の脳も、身体機能も、既に停止しているー

なのに、里穂の遺体と入れ替わったら

この世界にやってきたということは、

”脳も身体も停止した人間”も、こういう光景を

見ていることになるー


”身体のどこかに…

 生きていた間の記憶がまだ残っているということか…?”


里穂(佳也)は真剣な表情で考え込むー。

脳は停止しているー

では、どこで、死後の人間は思考しているー?

この精神世界は、人体のどこで、作られているー?


里穂の身体のどこかが、

まだ”機能”していて、

死後、この精神世界に里穂の意識が来ているということだろうか。


「-ー死んだら、土に還るだけ…じゃ、ないのかもな」

里穂(佳也)が呟くー。


”この先の段階”もあるのかもしれないー

ずっとこのままなのか。

それとも”お迎え”が来るのかー

死後、時間が経過すれば、この精神世界のようなものや

自分の意識も消えてしまうのか。


「--人間には、まだまだ分からないことだらけだな」

里穂(佳也)が苦笑いする。


死後の世界を経験できたのはいいが、

これはちょっと人智を超えた出来事な気がするー


元の身体に戻ったら、増森副院長と

色々話をして、研究をしていこうー。

そんな風に里穂(佳也)は思ったー


「---!」

街中を歩いていると、

黒い渦のようになっている場所を見つけたー


「--なんだ、これは…?」

先に進もうとしても

”見えない壁”があるかのように、

その先に進むことができない。


「---」

周囲を見渡す里穂(佳也)-


”一部の風景”が

まるで抜け落ちているかのように、黒くなっている部分があるー


「そうか…」

この世界は、おそらく、生前の里穂の記憶が作り出した

精神世界ー

里穂の記憶から抜け落ちている部分はーー

”再現”されていないのだろうー。


「--生きている間に行ったことのない場所とか

 覚えてない場所はいけないってことか」


”不気味だ”

佳也は純粋にそう思ったー


一見、普通の日常に見える世界だがー

閉じられた世界ー


死後の世界とは、こんなところなのか。


”怖い”

少しだけそう思ったー


もしも、自分が死んだ立場なら、もっと怖いだろう。

これから自分はどうなるのか。

それとも永遠にここにいることになるのか。


とー。


あの世はー

”生”の気配を感じない不気味な世界だったー。


里穂(佳也)は、里穂の家らしき場所に戻るー


試しに本を開いてみると、

一部ページや、一部絵柄が、黒くなっていたり

モザイクになっていたりするー


「-これも、この子の記憶にない部分ってことか」


漫画もそう。

生前の里穂の”印象”に残っていない部分は

上手く再現されていないー。

モザイクがかかっていたり、つぶれていたり、

恐ろしいごちゃまぜの状態になっていたりするー。


「はぁ…」

時計の針が進まないため、

今、どのぐらい時間が経過したのか分からない。


だが、時間が来れば増森副院長が

再び入れ替わり装置で元に戻してくれる。


里穂という子には悪いが、

佳也はまだ死ぬわけにはいかないし、

里穂に戻ってきてもらうしかないー。


「-ー死ぬって、寂しい世界だな」

そう呟くと里穂(佳也)は、

自分の胸を触りだしたー


「ま、せっかくだし…

 女の身体も楽しませてもらいますか」


胸を触ってみる里穂(佳也)-

感覚はないー。


「--ざんねん」

苦笑いするー。


死後の世界で女体になっても

あんまり美味しさがないー


いや、増森副院長の入れ替わり装置なら

生きている人間とも入れ替われるのだろうか。


それなら、

一度ぐらいは、女として快感を

味わってみたいような気もするー。


服を脱いで、里穂(佳也)は

顔を赤らめるー


「あぁぁぁ…なんか、いけないことをしてる気がする…!」

里穂(佳也)は少しだけ考えたがー


”ま、、死んでる子だし…いいよな?部屋で遊ぶぐらい”と

エッチなことをし始めたー


”この不気味な世界”への

恐怖を、忘れるためにもー


・・・・・・・・・・・


増森副院長は焦っていたー


「どういうことだ…?」


佳也が消えたー。

つまり、入れ替わり装置で入れ替わって

中身が里穂の佳也が消えたのだー。


「---どうする!?!?」

増森副院長にとっての”誤算”


佳也の身体になった里穂は、

麻酔によって眠り続けるはずだったー。

その間に、再び入れ替わり装置を起動して、

里穂の遺体になって、死後の世界を体験しているであろう

佳也を呼び戻すー


だがー

これでは…


「--麻酔が効かなかったのかー?」

増森副院長は戸惑うー。


入れ替わったことで、

”何か”麻酔の効き目に影響が出たのかもしれないー


これではーーー


「---…増森君」


ー!


増森副院長が目をやると、

朝田院長の姿がそこにはあった。


「例の死後の世界の体験…

 もう終わったのかね?」

朝田院長が言う。


増森副院長の研究だが、

朝田院長にも一応、伝えてはあるー


増森副院長は戸惑いながら呟くー


「あ、、は、、はい。それはもう~!

 実験は終わって、藤本くんは

 もう帰りましたとも」


増森副院長は、”入れ替わり”がもう終わり、

佳也は帰ったと嘘をついたー


”保身”のためー


「そうか。では、今度、死後の世界が

 どんなだったか、私も報告を聞くとしよう」

そう告げると、朝田院長はそのまま立ち去って行ったー


”どうにかしなければ”

そう思う増森副院長ー。


だがー

佳也の身体を見つけることができないまま、

時間だけが過ぎていきー

里穂の遺体を遺族に引き渡すことになってしまったー。


「----」

増森副院長は真っ青になりながらも、

黙り込んだー


自分の保身のためにー。


そしてー

ついに、佳也の身体がどこに行ったのか分からないまま

里穂の火葬の日がやってきてしまったー


「すまない…」

増森副院長は、そう呟きながらも

”藤本佳也医師は無断欠勤”ということで処理し、

自分の保身に走ったー


・・・・・・・・・・・・・


「----はぁ…♡ はぁ…♡」


生前のエッチの記憶だろうかー

不思議と、里穂の身体のゾクゾクを

佳也も体験することができたー


だがー


「--いつ戻れるんだろうな」

里穂(佳也)は不安を感じるー


「---半日で、私の方で君を元の身体に

 戻すから安心したまえ」


まだ半日経過していないのだろうか。


そんな風に思いながら服を着る里穂(佳也)。

だんだん、怖くなってくるー

この死後の世界にいることがー。


何も感じない、無機質な世界ー

限られた範囲でしか、行動できない無機質な世界ー


テレビをつけると、

里穂が生前に見ていた番組が再生されるー

しかも、記憶の範囲内で、滅茶苦茶にー。


ネットは繋がらないー

当たり前だ。


「--出してくれ…」

里穂(佳也)が呟くー


「早くここから俺を出してくれ!」


感覚的にもう1週間以上経過した気がする。

なのになぜ、戻らないー?

何故”入れ替わり”が行われない?


何かトラブルだろうか。


焦り始めた里穂(佳也)はー

ふと、気付くー


「--!?」

突然、周囲の気温が上がり始めたー


「--あつっ!?!?」

今まで暑さも感じなかったのに、

突然ーーー


里穂(佳也)は家が燃えていることに気づいたー


「火事!?」

死後の世界にも、火事があるのか!?

そんな風に思いながら里穂(佳也)は外に飛び出して唖然としたー


家じゃないー


世界全部が、燃えているー


「--な、、なんだ、、なんなんだこれは…!?」

里穂(佳也)が慌てて街中を走るー


だが、どこに行っても

炎だらけー。

そして、さらに、熱くなっていくー


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


現実世界では、里穂の火葬が行われていたー


里穂の遺体は、燃えて

塵となるー


それと同時に、

死んだ里穂が、生前の記憶を元に、

自らの意識に見せていた”精神世界”も消滅したー

意識と共にー。


完全なる”死”を、里穂の遺体は迎えたのだったー


・・・・・


「-----……なんだかわからないけど」

佳也の身体になった里穂は、

自分が病室で謎の装置に繋がれているのに気づき、

とっさに脱走したー


訳も分からないままー。


「--生き返れたのかな…?わたし?」

佳也の身体と入れ替わった理由も何も知らないまま

”生き返れてラッキー!奇跡!?”などと

ポジティブに考えながら

佳也になった里穂は、自分の火葬を見届けて

姿を消したー



おわり


・・・・・・・・・・・・・


コメント


ちょっと変わったタイプの入れ替わりでした~!

もし入れ替わるとしても、こんな風に(外科医の先生の立場側)

入れ替わりはしたくないですネ!

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