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「---来月の清太郎の誕生日、どうする?」

夫の貞夫が笑いながら言う。


来月は、長男・清太郎の誕生日ー。


母親である優姫は、

「そっか…もうそんな時期だったね」と

悲しそうにほほ笑むー


とても綺麗な20代中盤女性の優姫は、

ーー”女体化した男性”だったー

純粋な女性ではないー。


優姫はー

”黒金 由貴哉”という名前の男だ。

7年前、とある研究所の研究開発の協力者を

募集しているのをネットで見つけた由貴哉は

そこで”女体化薬”を投与しー

女になったー。


不良時代の自分を助けてくれた貞夫のことが

好きになってしまった由貴哉は

女体化した自分=優姫として、

貞夫と付き合い始めて、貞夫と結婚したのだー


自分が女体化した男であること

自分が、かつて貞夫に助けられた不良、由貴哉であること


それら、全てを隠したままー


「---申し訳ありませんが

 女体化薬の投与は、もうできません」


研究所の中久保の言葉を思い出すー


担当だった花崎が突然死したことで、

女体化薬の生成が出来なくなってしまったのだと言う。


継続投与しなければ、男に戻ってしまうー


優姫はーー

もう、優姫としていられないー


「---…大丈夫か?」

貞夫が心配そうに呟く。


「え!?あ、うん…だ、大丈夫だよ!」

優姫は、慌てて元気を振りまいて答えたー。


カレンダーを見つめる優姫ー

薬の効果が切れて、自分が男だったなんて知られたら

貞夫は怒るだろうー。

貞夫は悲しむだろうー


それだけじゃない。

息子の清太郎だって、悲しむだろう。


まだ、幼い清太郎は、ママがパパだった、なんて

理解できないだろうー

パパが二人いるなんてーーー


「---…ねぇ、貞夫」

優姫が呟く。


「ん?」

貞夫は、お茶の入ったコップを口に運びながら

優姫の方を見る。


「もしも…

 もしも、わたしに何かあったらーー…

 そのときはー」

優姫が呟くー


清太郎のことー

貞夫に託すしかないー


「--…」

貞夫は、無言で優姫を抱きしめた


「え…?」


「---そんなこと言うなよ」

貞夫が優姫の顔を優しく見つめる。


「--最近、何かに悩んでるみたいだけど、

 悩みがあるなら、俺が聞いてあげるから。


 俺にできる範囲で、優姫の悩み、

 解決できるように頑張るから。


 だから、そんなこと言うなよ」


貞夫の言葉に、優姫は「うん…」と悲しそうに呟くー


でも、相談できないー


だってー

これは、きっとー

”あなたが想像している以上に、遥かに驚く出来事だからー”


5年前に結婚した妻が

”女体化した男だった”なんて、絶対にー

絶対に、許してもらえるはずがないー。


「---…話したくなったらでいいんだ

 俺、いつでも聞くから」

貞夫の言葉に、優姫は頷くー


「さて…!清太郎の誕生日プレゼント、

 なにがいいかなぁ~」

いつもの調子を取り戻した貞夫は、

暗い話題を切り替えようとしてそう呟いたー


・・・・・・・・


部屋に戻った優姫ー。


カレンダーを見つめる。


今日は、月曜日。

女体化薬の効果が切れる日を余裕をもって

考えて、”日曜日の朝”には、この家を

出ようと思うー


行方をくらまして

そして、男に戻って

黒金由貴哉として、生きていくー


「--なんだか…」

優姫は悲しそうに呟くー


「なんだか、余命宣告されたみたいな気分…」


小さいころから、親から悲惨な扱いを受けて

愛情も知らずに、悪さを繰り返していた自分が

今は、妻としてー

こうして幸せな家庭を気付いているー


”こんな幸せがずっと続けばいいのにー”


そう、何度、何度、願っても

その夢が叶うことはないー


女体化薬は、もう手に入らないのだからー。


「---あ~あ…」

優姫は自分の胸を触るー。


この感覚も、

もうーすっかり慣れた。


最初はエッチな気持ちになって

胸を揉みまくったり、

エッチな服を着てみたり

色々なことをしたこともあるー


でも、7年も女をやってれば

そんな感覚は消える。


女体化したばかりの頃のように

胸を必要以上に触ったりすることは

無くなったし、

最初の頃のように、自分の身体を見て

興奮するようなこともなくなったー。


”男だけど、女として生きている”

という感覚から、

女体化して何年も生きているうちに

”身体だけではなく、心も女体化した”

そんな気分だったー


身体が女体化したことで、

長い年月をかけて

心も女性になったのかもしれないー


でも、それが、終わるー


「---……」

自分の手を見つめる優姫。


この綺麗な手ともお別れ。


胸を見る優姫。


この膨らみともお別れー


髪もー

声もー

顔もー


何もかも、お別れー


「---わたし…優姫でいたいのに…」

優姫は、鏡を見つめながら、一人、涙をこぼしたー


・・・・・・・・・・・・・


「----お前…」


部屋に貞夫が入ってきた。


「え!?」

優姫が驚いていると、貞夫は優姫の方を見て

怒りの形相で呟く


「お前…まさか…ずっと、ずっと、俺をだましてたのか!」

貞夫が叫ぶ。


貞夫の横には、息子の清太郎もいる。


「---え…な、、なんの…こと?」

優姫は戸惑いながら呟くー


「--信じてたのに…!

 俺を騙してたのかっ!」

叫ぶ貞夫。


清太郎が「お母さん…」と泣きながら呟いているー


「--……優姫…いや、、、黒金 由貴哉!」

貞夫が怒りの形相で叫ぶー


「--え……ち、、ちがう…わたしは、、わたしは優姫…!」

優姫は必死に言い訳をしようとするー


だがー

口から出たのは”男”の声ー


ハッとして、優姫は鏡の方を見るー


そこにはー

女としての姿”優姫”ではなくー

元の自分の姿”由貴哉”の姿があったー


いつの間にかー

男に戻ってー


女の服装をした由貴哉が鏡に映っているー


「いやああああああああああ!」

思わず男の声のまま叫ぶ由貴哉ー


「許せない…絶対に許せない!」

貞夫が怒鳴り声をあげるー


「お母さんのばか!」

清太郎が叫ぶー


「違う…違うの…わたしは、、、おれは…!」



「うわああああああああああああ!!!」


悲鳴を上げる優姫ー


「はぁ…はぁ…」

周囲を見渡すー


自分の部屋ー


朝日が差し込むー


「--夢…」

優姫は、頭を抱えたー


長い黒髪に

膨らんだ胸ー


「夢でよかった…」

優姫は鏡を見つめるー


まだー

まだ”男”には戻っていないー


でもー

でも、もうじき、自分は男に戻ることになる。


それはー

逃れられない運命(さだめー)


「ーーー」

優姫は着替えながら、夫の貞夫のことを思い出すー


貞夫はやっぱり怒るだろうー


怒り、

悲しむだろうー。


当たり前だ。

信じた相手が女ではなく、男だったなどと知れば

怒るのは、当たり前だー。


「---貞夫…清太郎…」

家族写真の前で泣き崩れる優姫ー


ずっと、このまま一緒にいたい。


でも、もう、時間がないー


・・・・・・・・・


「--清太郎」

家の中で遊ぶ3歳の息子・清太郎のことを見つめる優姫ー。


清太郎は、ちゃんと成長してくれるだろうかー

3歳で母親が姿を消すー


やっぱり、清太郎の心には、傷が残るのだろうかー。


「---ごめんね…」

優姫は無意識のうちに、清太郎に向かって

謝っていたー


「おか~さん…?」

清太郎が首をかしげる。


「--本当に…ごめんね…」

優姫はそう呟くと、清太郎を抱きしめて

涙をこぼしたー


”母”として、清太郎にしてあげられることはー

してあげられる時間はー

あと、ほんのわずかー。


「---」

帰宅した帰宅した貞夫が、元気のない優姫の方を

心配そうに見つめるー。


「---…」

優姫は貞夫の方を見ると、優しく微笑んだー。


こんなことになるなんてー

好きな人と別れなくてはいけない苦しみー

息子や夫、幸せな家族を捨てなくてはいけない苦しみー

騙し続けた罪悪感ー


それに、優姫は押しつぶされそうになるー。


でもー

どうすることもできないままー

時は流れていくー

火曜日ー

水曜日ー

木曜日ー。


時間だけが過ぎて

”女”でいられる時間は、

さらに残りあとわずかになっていくー


金曜日の夜ー

優姫は、貞夫と夜を楽しんだー


最近、夫婦でエッチなことは

あまりしていなかったが

優姫が、”最後に”と、貞夫を誘って

貞夫への愛を爆発させたー


大声で喘ぎ、気持ちよくなり、

そして満足した優姫は、幸せな

気持ちでいっぱいだったー


「----ありがとう…」

優姫は、涙をこぼしながらそう呟くー


「……なぁ…優姫…」

貞夫が心配そうに呟くー


優姫の態度を見ているとー

まるでーー

”これから死ぬ”ような

そんな雰囲気に感じてしまうー


貞夫は、小さいころに、母親が

自殺しているー。


その直前の母親と、優姫の姿が

重なって見えるー


「--………行かないでくれよ」

貞夫が呟くー。


「え」

優姫は貞夫の方を見つめるー


寝室の穏やかな明かりが、

貞夫を照らすー。


「---ずっと、俺と清太郎の側に

 いてくれるよな?」


貞夫が言うー


”うん”


そう言いたいー


でも、それは、嘘をつくことになってしまうー


「---……」

優姫が沈黙する。


貞夫は、そんな優姫の頭を優しく撫でると、

「今日はもう寝ようか」と呟いて

「おやすみ」とほほ笑んだー。


優姫は泣きながら布団の中に入るー


一緒にいたいのにー

この身体はもう、男に戻ってしまうからー。


土曜日ー

優姫は、”最後の休日”を楽しんだー


もう、深いことを考えるのはやめようー

泣いても、笑ってもー

これが最後の1日ー

明日の朝には、この家を出なくてはならないー


自分は優姫ではなく、由貴哉に戻るのだからー


楽しい時間は、あっという間に過ぎていくー

笑顔を振りまく優姫ー


家族でお出かけして

美味しくご飯を食べてー

清太郎の誕生日プレゼントのことを話し合ってー

そして、清太郎と一緒にお風呂に入ってー


本当にー


本当に最高の1日ー


一生忘れないー

最後の1日ー


”ありがとうー”


そしてーー

日曜日の早朝ー

優姫は、まだ寝ている貞夫に「さよなら」と呟いて、

清太郎の頭を優しく撫でると、

そのまま荷物を持って玄関の方に向かったー


「----」

玄関から振り返って、家の廊下の方を見ると

優姫は「ごめんなさい」と頭を下げたー


色々な感情の込められたごめんなさいー


頭を上げると、優姫は

玄関の扉に手をかけたー


「優姫ーーー」


「--!?!?」

優姫が驚いて振り返るー


そこには、夫の貞夫の姿があったー


「さ、、貞夫…」

優姫が戸惑っていると

貞夫は悲しそうに呟く


「--…行ってしまうのか…?」

とー。


「----」

優姫は泣きそうになりながら貞夫の方を見るー


「--なにか、、なにか、訳があるなら…

 俺に話してくれ…優姫…」

貞夫が悲しそうに言うー


「---どんな話でも、怒ったりしないからー

 どんな話でも、受け入れるからー」


貞夫の言葉に、優姫は涙をこぼしながら

迷った挙句に、

口を開いたー


「わたしは…

 わたしは……優姫じゃないの」


優姫というのは偽名ー

そんな人間、そもそも存在しないー


「--え」

貞夫が表情を歪めるー


「わたしは…女体化した黒金 由貴哉ー…

 7年前に、あなたに助けてもらった

 不良なの…」


優姫は、泣きながら

長年隠し続けてきた”ひみつ”を

夫の貞夫に告げたー


③へ続く


・・・・・・・・・・・・・


コメント


女体化した由貴哉(優姫)の運命は…!?

続きはまた近日中デス~!

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