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”空回り”


二人が、もがけばもがくほどー

二人が、相手のことを想えば想うほど、

その想いは、すれ違いー、

”亀裂”を深めていくー


真司も、愛梨も相手のことを想っているのにー

それが、うまく伝わらないー


愛梨のためにー

真司のためにー


そう思っているはずなのに、

事態は、悪い方向へと向かって行く-


”入れ替わり”

漫画やアニメのように、うまくは行かないー。


現実の入れ替わりは、

冷たく、そしてー残酷だ。


・・・・・・・・・


★主な登場人物★


橋口 真司

大学生。彼女と入れ替わってしまう。


川上 愛梨

真司の彼女。真司と入れ替わってしまう。


馬淵 香澄

同級生。愛梨の幼馴染で親友。


中条 東吾

同級生。真司・愛梨の共通の友人。


天童 麗

同級生。頼りになるお姉さん風の女性。


風間 龍平

同級生。嫌味なインテリ学生で、裏で悪さをしている


※登場人物詳細

(↓に、¥300と出ていますが、このお話を読めている皆様は、既に

 プランご加入(ありがとうございます!)頂いているので

 お金がかかったりすることはありません!ご安心ください)

fanbox post: creator/29593080/post/1060230

・・・・・・・・・・・・


「どうして…」

真司(愛梨)は暗い表情で大学内を歩いていたー


メイドカフェのことを打ち明けた真司(愛梨)-

愛梨(真司)は怒ることなく、優しくその事実を受け入れて、

しかも、愛梨の代わりに、愛梨の身体になった真司が、

メイドカフェの店長にしっかりと話してくれると

約束してくれたー


そしてー

「大丈夫。ちゃんと退職したよ

 もう、心配ないから」

と、確かに言っていたー


それなのにー


「--お前の彼女、メイドカフェで働いてるぜ?」


インテリ男子の龍平が、”愛梨がメイドカフェで働いている”と

言ってきたー。


”退職した”

そう言ってたのに、

真司は、愛梨の身体で、メイドカフェで働き続けているー。


「--どうして…」


なんで、真司はそのことを隠しているんだろうー。

真司(愛梨)は、そう考えると

胸が苦しい気持ちになった-


「--愛梨と、喧嘩?」


背後から声がしたー。


愛梨の親友・香澄が近寄って来るー。


「かす、、、じゃない、、馬淵さん」

今は真司の身体ー。

だから、香澄、ではなく馬淵さんと呼ばないと

怪しまれるー。


「--ーー愛梨なんかやめて、わたしと付き合おうよ」

香澄が、この前と同じこと口にする。


「--な、、な、、何度言われても、

 お、、俺は愛梨が好きだから」


真司の身体で勝手にそう呟く愛梨ー


いやー

勝手に、ではないー

愛梨は、真司のことを信じているからー


「--ふぅん」

香澄が笑う。


「--でも、橋口くん”困る”って言ってたじゃん。

 愛梨のことで、もう我慢しなくたっていいんだよ?」

香澄が笑うー。


香澄は、真司と愛梨が入れ替わっていることを知らないー


入れ替わる前から、香澄は愛梨の悪口を真司に言っていたのだろうー。

でも、真司は、そのことを教えてくれなかったー

それだけじゃない、香澄に対して「困る」と言っていたーー。


「---…」

暗い表情を浮かべる真司(愛梨)-


”好き”と思っていたのはーー

”わたしだけ”--?


そんな気持ちが、愛梨の中に浮かび上がってくるー。


真司を信じたいのにー。

それなのにー


「--何かあったの?」

香澄が心配そうに言う。


「--え…?

 じ、、、実はちょっと、真…、、愛梨が、

 俺に何か隠し事してるっぽくて」

真司(愛梨)はそう言ったー


”メイドカフェでまだ働いているー”


なんで、そのことを隠すのー?


「--ふぅん…」

香澄はそう言うと、立ち上がって

真司(愛梨)を見たー


「-よくわかんないけど、それなら

 早めに愛梨に確認したほうがいいんじゃない?」

香澄の言葉に

真司(愛梨)は戸惑いながら言う。


「で、、でも…愛梨にも…理由があるかもしれないし」

真司(愛梨)は信じていたー


真司が”メイドカフェでまだ働いていること”を隠すということは、

何か”それなりの理由”があるはずだとー。


「--ーーねぇ」

香澄が真司(愛梨)の手を握るー


ドキッー


「--え」

真司(愛梨)が戸惑う。


香澄に手を握られたとたんー

真司の身体がドキドキしているー


”なに…これ…?”


「--愛梨、浮気してるのかもよ?」

香澄はそう言いながらほほ笑んだー。


浮気ーーー?

今の愛梨の中身は、真司だー

それはないと信じたいー


でもー

”隠してメイドカフェで働き続けている”

ということは、やはり、何かー


「--ま、いいや。

 橋口くん!わたしと付き合う気になったら

 いつでも言ってね!」


それだけ言うと、香澄は可愛らしくウインクして

そのまま立ち去ってしまったー。


”やっぱり、聞かなくちゃ…”

真司(愛梨)は、愛梨(真司)に

”なんでまだメイドカフェで働いているのか”を

聞くことを決意するー。


・・・・・・・・・・


お昼の時間に、

真司(愛梨)は、愛梨(真司)を呼び出したー。


「---どうした?愛梨?」

愛梨(真司)は周囲を気にしながらやってくるー。


自分の身体を愛梨と呼んでいるのを周囲に

見られたら、変な風に思われてしまうー。


そう思っているからだー。


「---ねぇ…あの…あのね」

真司(愛梨)は戸惑いながらも口を開く。


愛梨(真司)は不思議そうな顔をしているー

今日も、おしゃれな格好をしている愛梨(真司)-

最近は、おしゃれな格好をしていることも多いー


”真司…もしかして、わたしの身体を…”

愛梨はそんな風にも思ったー


メイドカフェで働き続けているのもー

最近妙におしゃれになったのもー


”身体”目当てー?


そんな風に一瞬思ってしまうー。


「どうして…メイドカフェでまだ働いてるのに、

 嘘、ついたの…?」

真司(愛梨)は、言いにくそうに、そう口にしたー。


「----!?」

愛梨(真司)は表情を歪めたー。


「--風間くんから聞いたの。

 メイドカフェに愛梨がいる、って。


 この前、退職してくれたって言ってたよね…?

 ど、どうして嘘なんてついたの…?


 真司のことだから、何か事情があるとは思うんだけど…」


真司(愛梨)は不安な気持ちを吐き出したー

つい、責めるような口調になってしまうー


「--そ、それは…」

愛梨(真司)は

”くそっ!風間のやつ”と思いながらも、

目を泳がせたー


メイドカフェには、音信不通になっていた

姉の詩織がいたー。詩織のことが気になって

真司は退職できず、愛梨の身体でしばらく

メイドカフェで働き続けることにしていたー


それを、

黙っていたのは、”愛梨を不安にしないためー”


これは、”姉弟の問題”


それに、愛梨を巻き込みたくはなかったし、

愛梨を安心させてあげたかったー。

最終的に、メイドカフェはちゃんと退職する。

変なことをするつもりはないー


姉のことを説明して、愛梨を心配させるよりも、

姉のことも、メイドカフェのことも黙っていようー、と、

真司なりの、姉のことが気になる自分の目的、

そして愛梨の気持ちにも配慮した対応だったー。


しかしー

真司(愛梨)はそうは思わなかったー


「--わたしの身体で……何かしてるの?」

不安になった真司(愛梨)は口にするー


「--は??」

愛梨(真司)は思わず声を上げた。


「--な、なんでそんなこと?」

愛梨(真司)がそう言い返すと、

真司(愛梨)は、「だって、なんだか最近、真司、

わたしの身体でおしゃれしてるし、

メイドカフェで働き続けてるっていうし…

なんか…なんかおかしいよ…」


真司(愛梨)は、そう叫ぶー。


「--…お、落ち着けよ愛梨。

 俺は愛梨の身体でエッチなことなんてしない。」


愛梨(真司)は言うー


姉が、父親に性的暴行を受けているのを

小さいころから見ていたー

だから、愛梨の身体でエッチなことは

絶対に、しないー


そう誓っていたー。


”真司は、なんでみんなに隠そうとするんだろう…”

愛梨は、そんな不安も抱えていたー


共通の友人・東吾以外には

頑なに入れ替わりを隠そうとする真司ー。

愛梨は、そんな真司の態度にも

不信感を抱き始めているー


「--俺のこと疑ってるのか…?」

愛梨(真司)は不快そうに呟くー


愛梨のためにこんなに頑張っているのにー

確かにメイドカフェの件は、自分の勝手な

都合だけれどー

黙っていたのは、愛梨のーーー…


「--ねぇ、元に戻るつもり、あるの?」

真司(愛梨)は、不安から叫んだ。


「--あるよ!俺だって、今すぐ元に戻りたい!」

愛梨(真司)が叫び返すー


自分の身体に戻ってー

姉さんに会いに行きたいー

居場所が分かったのにー

他人の身体だなんて…


「---いいよな、愛梨みたいに

 幸せな家庭はさ」

愛梨(真司)は、姉と再会したことで

精神的に不安定になっていたー


つい、嫌味を口走ってしまうー


「--何その言い方…」

真司(愛梨)も不安から、攻撃的な言い方になってしまうー


「--俺は愛梨のために色々頑張ってるのに、

 何にもしねぇで、普通に生活してる愛梨は楽でいいよな!?」


愛梨(真司)が口調を荒げて言うー


”何にもしねぇで”-

真司(愛梨)の胸に言葉が突き刺さるー


何もしてないわけじゃないー

元に戻る方法を毎日探しているしー

”楽しそう”に毎日振舞っているのはー

”他人に迷惑をかけないためー”

”どんな時でも前向きに”という

死んだ父の言葉を守るためー


真司に心配をかけないためー


「--そんな言い方しなくたっていいじゃん…!

 それに、香澄から聞いたよ?

 私のこと”困る”って前から言ってたって!


 わたし、そんなに出来の悪い彼女かな?」


涙ぐみながら言う真司(愛梨)


「--そ、それは…

 ってか、俺の姿で泣くなよ!」

愛梨(真司)が叫ぶー


「俺は、愛梨のためにーーー」


「わたしの身体で、そんな乱暴な言い方しないで!」

真司(愛梨)が涙ぐみながらそう叫ぶー


「-ーーなんだよ、まったく」

愛梨(真司)はそう呟くと、そのまま立ち去ってしまうー


「--……」

真司(愛梨)はその場で”わたしだけでも元に戻る方法、探すから!”と

叫んだー


・・・・・・・・・・・・・


夕方ーーー


大学の敷地内のベンチで、

自販機で購入したペットボトルのお茶を飲みながら

愛梨(真司)はため息をついたー


愛梨の身体で、ずっと音信不通だった姉・詩織と

再会したことー

そして、入れ替わった状態で過ごすストレスー

それらが、真司を苛立たせていたー。

愛梨も、同じなのかもしれないー


「--どうしたの?」

その言葉に、愛梨(真司)が顔を上げると、

そこには、女子生徒の天童 麗がいた。


「--あ、天童さん…」


「---橋口くんと、喧嘩でもした?」

麗はそう言うと、静かにほほ笑んだー


愛梨(真司)の隣に座る麗ー


夕日を見つめながら

愛梨(真司)は入れ替わったことを悟られない範囲内で、

真司(愛梨)と口論してしまったことを告げるー


「--なんか…わたしの想い、

 うまく伝わってないのかなぁ…って」

愛梨(真司)は、愛梨のふりをしながら

麗に向かって言うー。


”最近、おしゃれをするようになったー”


それはー

愛梨の身体を遊んでいるわけじゃない。

周囲から入れ替わりを悟られず、

そのまま元に戻れるように、

今まで愛梨がしてたおしゃれを”我慢して”しているー。

最初はボーイッシュな格好で大学に来たりもしたけれど

周囲から”最近、愛梨変だよ~”と言われたため

真司は、”愛梨のために”違和感を我慢して

女の子らしい格好をするようにしたー。


”困る”

それも、誤解だー。

確かに、入れ替わる前に香澄に”困る”と言ったことはあるー


しかしそれは、

愛梨のことを言ったのではないー

「愛梨なんてやめてわたしと付き合ってよ」と言ってきた

香澄のことを言ったのだー

真司の言い方が悪かったのかもしれないー

だが、香澄は”愛梨のこと困ると言った”と解釈したのだろうー


黙っていたのはー

愛梨に余計な心配をかけさせないためー


「--わたし…ね、恋人できるの初めてだし、

 とにかく大事にしてあげようって思ってるんだけど…

 なんかね…うまくいかないの。


 真司からも…色々疑われてるし」


愛梨(真司)が呟くー


”家族の愛情”を知らない真司は、

不器用だったー

愛梨のことが好きだし、

とっても大切にしたいけれどー

どうしても”変な方向に過保護”になったりしてしまって、

その結果、誤解を招いているー


「----…」

入れ替わりのことを周囲に広めないようにしてるのも

”元に戻った時に影響がないように”するためー。


でも、それが愛梨を不安にさせているのかもしれないー


「--…川上さんはさ…

 相手に気を遣いすぎなんだよ、きっと」

麗が優しく微笑む。


「橋口くんもそうだけど、”相手のことを考えすぎて”

 隠し事しちゃうから、かえって、相手を苦しめる

 ことになっちゃってるんじゃないかな?


 もちろん、隠し事も大事なこともあるけど…

 橋口くんと川上さんの場合は、もう少し、こう…

 オープンになればいいんじゃないかな?って

 そう思うの。


 ほら、橋口くんが色々聞いてくるのは、

 川上さんのこと、気にしてる証だよ!


 人間って、興味が無くなったら

 相手に色々問い詰めたりしなくなるでしょ?」


麗の言葉に

愛梨(真司)は静かに頷くー


”愛梨のために”

そう思って色々隠していることが

かえって、愛梨を不安にさせているのかもしれないー


「似てるー」

麗がふと、呟く。


「え?」

愛梨(真司)が言うと

麗はほほ笑んだー


「-川上さんも、橋口君も、相手のこと

 すっごく好きって気持ちが溢れ出ててー


 高校時代の後輩のカップルのこと、少し思い出しちゃった」


麗が笑うー


「あの子たちもーー

 お互いのこと、ホント好きそうだったなぁ」

麗が懐かしそうに言うー


その二人はー

とても、仲良しだったー。

とあるトラブルで、一度は引き裂かれたけれど

一生懸命本音をぶつけ合ってー

彼らは、無事に復縁したー


「--タイプは全然違うけど

 川上さんと橋口君もきっとうまくいくよ」

麗はそう言ってほほ笑んだー


「でも、

 そのためには、もうちょっと

 二人ともオープンにならないとね」

麗の言葉に、

愛梨(真司)は「ありがとう」と呟いたー


そうだー

今は”入れ替わり”の緊急事態ー


だからこそ、

愛梨に本当のことを話すべきだー


おしゃれしてる理由も、

周囲に隠そうとしてる理由も、

メイドカフェを続けている理由もー

”独りよがり”ではだめだー。


たとえ、愛梨のためでも

言わなきゃ愛梨は不安になってしまうー


「ーーお礼は、ジュース1本でいいよ」

麗は自販機を指さしながら笑ったー


「--はぁ~」

愛梨(真司)は苦笑いしながらため息をつく。


「天童さんって、そういう腹黒なところがなければ

 優しいんだけどなぁ~」

すぐに”見返り”を求めることから

麗は腹黒と呼ばれているー


「--わたしが優しくするのは

 見返りが欲しいからだもん」


麗の言葉に、

苦笑いしながら愛梨(真司)は麗に

ジュースを1本奢ったー


愛梨(真司)が立ち去っていくー

真司(愛梨)に、ちゃんと、全てを話そうと決意してー。


「----」

麗は、愛梨(真司)に買ってもらったジュースを飲みながら

夕日の方を見つめるー


”優しすぎて、辛くなっちゃったー”


屋上ー

麗の方を見つめながら、少女が悲しそうに涙を流すー


脳裏によぎる”過去”ー。

麗は、”過去”を頭から消し去るように、

首を振ると、ジュースの缶を握りしめるー


「----」

そして、深くため息をつきながら

ジュースを飲み終えると、麗は一人、その場から立ち去ったー



⑨へ続く


・・・・・・・・・・・・・


コメント


入れ替わり長編第8話でした~!


小説とは関係ないですが

暑いので熱中症に気を付けて下さいネ~!


今日もありがとうございました!

(Fanbox)


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