【SS】交易都市の貧民窟と創世の神々の眷属【Short Story】Trading city slums and Descendants of the gods of creation (Pixiv Fanbox)
Content
※このイラストはこれで完成になります。
貧民窟を歩く際の注意点
1すれ違う相手はスリか強盗だと思え。
2足元に気を付けろ。糞や吐瀉物や死体を踏みたくなかったら。
3そもそも行くな!
STORY
交易都市グリドリアの外れの街区にある貧民窟。ここは交易都市に住む貧民やならず者達の根城である。
そんな治安の悪い街の表通り。大柄で筋肉質な三人の女が、ボロボロの財布を握りしめたやつれた少女を、威圧するように取り囲んでいた。
この粗野な女達は、とある奴隷商人に仕える奴隷達である。
この奴隷商人は、副業として、盗賊や盗掘者から買い取った盗品を、貧民窟の故買屋に流すブローカー業を営んでいた。それらの荷物を運ぶのが、この奴隷女達の仕事だ。
奴隷女達は、故買屋と商談中の主人を表通りで待っていたところ、憂さ晴らしの標的となる少女を見かけたのだ。
本来、奴隷が自由民に手を上げるのは許されない。しかし、悪知恵が働く彼女達は、かよわい少女の容姿から、加害の標的にしても問題無いことを見抜いていた。
少女は透き通るような金髪に、綺麗に焼けた小麦色の肌、サファイア色の瞳を持っていた。
これらの外見的特徴から、少女の出自は、2年前に原因不明の怪現象で、大陸ごと海に沈んだ六大国の一角であったアンノーティカ(Unknowtica)の生き残りであることが伺えた。
祖国を失った民の末路は悲惨だった。アンノーティカ人(Unknowtican)のほとんどは、国土と一緒に海の藻屑と成り果てた。 運良く、国外にいて生き残った者は、各々の伝手を辿って他国に庇護を求めていたが、その大半は難民となって悲惨な末路を辿っていた。
自由民とはいえ、国を失った難民に、法律を履行させるだけの社会的権力は無い。となれば腕力という最も野蛮で原始的なルールが適用される。
当然、非力な少女が、荷物運びの筋肉女達に腕力で敵うわけがない。奴隷達は嗜虐的な笑みを浮かべながら、少女から力ずくで財布を奪い取った。
「〇〇!!」
表通りに並ぶ薄汚い家屋と家屋の間から、少女の名前を呼ぶ声が響いた。粗暴な奴隷女達が訝し気に声の方に目をやると、少女の兄とおぼしき少年が、彼女達を睨みつけていた。
奴隷達に対峙した少年は、その精悍な顔立ちに強い怒りをにじませていた。そして、その手には、子供が使うには大きすぎる大剣が握られていた。しかもその剣は、見世物の剣闘士が使うような錆びの浮いた粗悪品ではなく、かなりの業物であることが、物を知らぬ奴隷達にも理解できた。
事実、この大剣はヘファイス鋼と呼ばれる伝説の鋼で作られていた。青銅はもちろん、鉄をも斬り裂くと言われるこの金属は、現在では新たに採掘できず、また鍛える事ができる鍛冶職人もいない。そのため、六大国の王家に代々受け継がれているものしか現存しないはずの大剣である。
奴隷女達は少年から鋼の刃を向けられてたじろいだ。当然、奴隷に武器の携行は許されていない。流石に素手で剣を相手にするのは分が悪いと感じ取ったのだろう。
しかし、彼女達はすぐに余裕を取り戻した。剣を持つ少年の細腕は、その重さに耐えきれずに震えていた。さらに少年は、恐れで腰が引けていた。その様子から、彼に実戦経験が無いことは明白だった。
実戦的な暴力となれば、乱暴な筋肉女達に分がある。三人の中で最も粗暴で力自慢の女が、少年の隙を突いて傍らの木箱を拾い上げ、それを掲げるようにして彼に向かって突進した。
少年は木箱が邪魔で相手との間合いを図れなくなってたじろいだ。
奴隷女は、突進の勢いをつけた木箱の角で、少年を思い切り殴り飛ばした。その一撃で少年は地面に倒れ込んだ。さらに奴隷女は、倒れた少年に馬乗りになり、その幼さが残る顔面に、容赦無く拳の雨を降らした。精悍な少年の顔が強く殴打される音が通りに響くたびに、奴隷達と野次馬達は歓声を上げた。
いつの間にか、この喧嘩の様子を、多数の野次馬達が囲むようにして見物していた。しかし、一方的に殴打される少年をかばう者はいなかった。むしろ、もっと強く殴れと奴隷達を囃し立てる者ばかりだ。
唯一、捕らわれの身となった少年の妹だけが、兄を助けるよう泣きながら、奴隷達に許しを乞うた。しかし、残忍な彼女達はその必死の懇願すらも愉快そうに笑い飛ばした。
しばらくして、商談を終えた奴隷商人と、その従者の大男が戻って来た。彼は、自分の奴隷達が無意味な乱痴気騒ぎを起こしている事に不快感を露わにした。
商人の意向を察した大男は、手にしていた丈夫な革製の太い鞭を鳴らしながら、大声で奴隷達を怒鳴りつけて騒ぎを止めさせた。それで喧騒に包まれていた表通りは、一旦は静けさを取り戻した。
奴隷商人は、従者の大男に、愚かな奴隷達への折檻を命じようとし、よくしなる太い鞭に恐れおののく彼女達を強く睨みつけた。
しかしその時、通りの端に転がる大剣が彼の視界に入り驚愕した。
彼が所属する奴隷商人ギルドは、表向きは奴隷交易を行う商人組合だが、陰ながらに世界を混沌と破滅に導く古の邪神を信仰している。そして、その強大な古の邪神の力を討ち祓う唯一の存在が、この世界を創ったとされる創世の神々だ。
その大剣は、創世の神々の血を引く眷属に代々受け継がれてる、伝説の退魔の剣そのものであった。
驚いた奴隷商人は、すぐにその剣を拾って持ってくるように奴隷達に命じた。
そこでやっと、少年の上に跨っていた奴隷女は、戦利品を主人に献上する栄誉を得るべく、彼から降りて大剣に手を伸ばした。 しかし、彼女の目的は叶わなかった。奴隷女が退魔の剣を握った瞬間、うめき声を上げてそれを再び地に落としたのだ。
奴隷女の手は、焼けた釜に触れてしまったかのような火傷を負っていた。その様子を見て奴隷商人は確信した。邪な心を持つ者には触れることすらできない伝説の剣と、創世の神々の眷属が今、目の前にいると。これをギルドに献上すれば大手柄だ。
狡猾で奸智に長けた奴隷商人は、すぐさま状況を察知し、瀕死の少年に無実の罪を着せて、賄賂と一緒に衛兵に引き渡した。祖国を失った難民の証言に耳を貸す役人はおらず、奴隷商人の言い分通りの刑が確定し、少年は労役場に収監された。
妹の方は、大剣を奴隷商人ギルドまで無理矢理運ばされて彼らに献上させられた。その後、役目を失った少女は、奴隷商人の本業の商品として、遠い異国に地に売られていった。
こうして創世の神々の系譜に連なる英雄の芽が一つ潰され、また少し、古の邪神による浸食が古代世界を蝕んでいった。
しかし、奴隷商人ギルドは、少年と少女が抱いている大切な人を想う愛の力を軽視していた。
これから兄妹を待ち受ける苦難の旅路が、二人をより英雄に相応しいよう成長させるだろう。そんな二人が再会すれば、呪われた古代世界を救う新たな伝説が産み出されるに違いない。
引き裂かれた兄妹の物語はまだ終わっていないのだ。
DIARY
真ん中の子の広背筋が上手く描けたと思っています。やっぱり筋肉娘とふんどしの相性は最高!!
あと、勘が鋭い皆様はもう察しているかもしれませんが、私は悪い子が好きです。