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今月更新おっっっっっそくなってしまってごめんなさいッ!

細かいあれこれは後ほど別記事に纏めますのでそちらを参照ください!


こちらは2年くらい前に書いたものの、落とし所なく進めてしまって公開前に頓挫したシリーズものの一部です(この話の中では簡潔していますが‥‥‥)。

今月はキノシリーズもクリーナ・ガールシリーズも更新できなさそうでしたので、お試しとしてこちらを公開します。


以下、本編です。


◆◇◆◇◆


 ディニッジ・シティの夜はいつも通りスモッグナイトだ。

 世代遅れの工場から吐き出された煙が暗雲を形成し、町中に降りてくる。

 街灯こそぽつぽつと立っているものの、濃い霧が発する光のほとんどを飲み込んでしまっていた。

 この時間にもなると、町の人々はドアに鍵をかけ、窓にカーテンを引き、完全に家の中へと閉じこもる。

 治安の悪いこの地域での自衛の意味もあったが、もう一つ「噂」が街の芯まで浸透していたことが原因だった。


「淫魔が出る」


 根も葉もないその噂は、カラカラに干からびたミイラのような男性の死体が発見されたことで一気に現実味を帯び始めた。

 二人、三人と被害者は増え、五人に達した時点で人々は夜の外出を諦めた。

 被害者は全員、夜道を歩いていた所を襲われている。

 家にさえ閉じ篭っていれば安全なのだ。

 それもまた、「まだ屋内で被害者が出ていないだけ」なのかもしれなかった。

 しかし街の人々が安寧を感じるためには、そんな風に想像するしかなかったのだ。


 そんな訳で、ディニッジ・シティは毎晩変わらず、灰色の霧が横行するゴーストタウンも同然だった。


ガラン


 そんなディニッジのメインストリートに、空き缶を蹴飛ばす音が響いた。

 偶然風がゴミを吹き上げたのだろうか。

 いや。

 蹴り飛ばされた空き缶が転がる音は繰り返し繰り返し、一定のリズムでストリートに反響した。


「やー、昼間はあれだけごった返していたのに、静かになるものなのねー」


 缶の音に合わせ、陽気な女性の声も聞こえてきた。

 目を凝らすと、霧の中を歩く人影がぼんやりと浮かび上がってくる。

 誰もいないのをいいことに、ストリートのど真ん中を歩く女性がはっきりと形を成して見えた。


 汚れたスニーカーで缶を蹴飛ばし、粗雑な音を響かせながら一人で歩いている。

 女性が近付くにつれ、その全貌が霧の中からはっきりと視認できるようになってくる。

 アメコミヒーローが背中に印刷されたスカジャンとダメージがゆき届き過ぎたジーパンという姿はまるでストリートパフォーマー。

 しかし、胸と尻に目が吸い込まれる肉々しい身体、10人中10人が振り返るであろう白い美貌。

 それらが彼女が只のパフォーマーであるはずがないと物語る。

 雑にゴムで纏められた金髪も、ワイルドな女性の印象を象徴するようでいて非常に様になっていた。

 缶を蹴飛ばすと、ジーンズに押し込められたヒップが荒々しく揺れ、スカジャンを突き破らんばかりにバストが弾んだ。


 女性を目にして真っ先に目に止まるのは、そんなビッグ・バンを思い出させる外見だ。

 そして多くの人は、彼女が手にした巨悪なモノに腰を抜かすことだろう。


「あぁ〜っ! 今日のブルジーンズの試合っ! やっぱ9回ウラが本番よね〜っ」


 唐突にプロ球団の一つであるブルジーンズの名を叫び、女性は手に持った『釘バット』を振り回した。

 灰色のボディにびっしりと、太い釘が打ち付けられている釘バット。

 それだけでも相当な重量のはずなのに、女性の細腕は軽々と凶器を操っていた。

 雑なバッターフォームで振り切ると、風を砕く音が周囲に響いた。

 荒々しいシルエットのそれで何度もスイングを繰り返し、その度に「ヒュぅ♪」と口笛を吹く。


「うぅん、今日はブルジーンズも勝ったわけだし! 仕事もチャチャっと終わらせられそうねっ」


 そう言うと、女性はバットを担ぎなおして再びストリートを歩き出した。


 因みにブルジーンズは年間得点数最下位・リーグ最下位・年間選手退場人数第1位・年間乱闘回数第1位を11年連続で勝ち取った由緒あるラフチームである。

 負ければファンが乱闘、勝てば祝い酒で酔ったファンが乱闘と、毎日のように誰かが暴れることでも有名だ。

 この日、8連敗(及び8日連続の乱闘)を経てブルジーンズは勝利を飾った。

 ファンであるらしい女性は、その記念すべき日に舞い上がっているようだった。

 バットを振っただけでは収まらないのか、チーム応援歌を口ずさみながら歩いてくる。


 向かっているのはストリートを進んだ先、街から出るための巨大な門だった。

 足元に転がる様々なゴミを陽気に蹴り飛ばし、女性は門の先へと向かっているようだった。


「ぶっとばーせー♪ カッとばーせー♪ バットでカチ割れあのどタマ‥‥‥っ?」


 霧の中に浮かんだ門が、はっきりと根元まで見えるようになった時だった。

 女性は応援歌を歌うのを止め、ストリートの脇に目を向けた。

 道路にまで溢れる黒い袋で出来た山、ゴミ捨て場だ。

 3週間も前から回収された様子のないゴミ山が、街のシンボル面をして門の脇に佇んでいた。

 女性はゴミ山へと歩み寄ると、容赦無くその隙間へと腕をねじ込んだ。


「ほらッ! そこに隠れているんでしょっ」


 そう言って腕を引き抜くと、手にはゴミまみれの少年を掴んでいた。

 そのまま雑に地面に放り投げる。

 年にして10代前半ほどの少年は、地面にゴロンと背を向けて観念したかのように両手を挙げた。

 目深に被ったニット帽をずらし、煤けた顔でニタリと笑う。


「うひぃ、流石サキュバスハンター。オレの潜伏に気付くなんてなあ」

「簡単よ。君、わたしを見つけた時に身動ぎしたでしょう? お友達の目は誤魔化せても、このリーナお姉さんの目は誤魔化せないよ〜」


 チッチッと指を振って女性、いやリーナは少年に手を差し伸べた。

 少年はその手を取り、よろよろと立ち上がる。


 蛮族野球チームのファンにして、荒いファッションに身を包んだこの釘バット美女、名をリーナ・トモエと言った。

 職業はハンター、それも淫魔(サキュバス)を専門とするサキュバスハンターだ。

 ミイラ死体事件にサキュバスの気配を感じ取り、遥々ディニッジ・シティに降りたった人間の味方だ。


 今夜は決着の日。

 数週間に渡る調査の末に本拠地を割り当てたリーナは、これから突入をすべく出発した途中だったのだ。


「アドルくんって言ったよね。わたしが見つけていなきゃ、このまま付いてくる気だったでしょ?」

「いや、へへ。何か手伝えるかなってさ‥‥‥」


 立ち上がったアドル少年は、頬をかいてリーナの笑顔から目を逸らした。

 彼はリーナがこの街に来た時からしつこく同行をせがんできた少年だ。


「オレ、ハンターになりたいんだ!」

「将来の為に、ハンターの仕事を見てみたいからさ」

「街の子供たちの中じゃ、オレが一番足が速いんだぜ!」


 そんな売り文句でアドルは繰り返しリーナに自分を売り込んだ。

 確かに、同年代の少年達と比べるとアドルの肉体はかなり成熟している。

 このまま成長すれば、恵まれた肉体が完成することは容易に想像できた。

 しかし、ラインセンスなどはなくともリーナもプロの意識があるハンターだ。

 素質はあれど素人を、それも少年を危険な仕事に付いて行かせることなどできなかった。

 アドルの熱烈なアピールを、リーナは全て笑顔でいなしていた。


「って言うか、なんで今夜が仕事の日ってわかったの? 絶対にその辺は漏らさないようにしていたんだけど?」


 リーナの質問に、アドルは胸を張って答えた。


「そりゃ知らないよ!でもリーナ姉ちゃんが来てから毎晩張っていたからね!」

「‥‥‥なるほど、その我慢強さはあるのかー」


 「あちゃー」とリーナは髪をかき上げた。

 それだけの忍耐力があれば、自分自身の成長も待てるはずなのに。


「折角待ってもらったトコ悪いんだけど、君を連れて行くことは出来ないからね〜」

「そう言わずにさァ、こんなゴミ臭い所で何時間待ったと思ってんだよ。オレの努力に免じて‥‥‥」


 食い下がるアドルに、リーナは「しっし」と手を振った。

 だが、ここで諦めたら末代の恥とばかりにアドルはリーナにつきまとう。

 ちょこまかとリーナの進む先に立ちはだかり、街の門を潜らせない。

 野球の外野手さながらに腰を落としてリーナの進行を阻害する。


「ちょっと、ここはそこらの裏道じゃないんだから。はしゃぐのもそこら辺にしとかないと」

「ヘッヘッヘ、本当にはしゃいでいるかどうかは、オレを連れて行ってから考えてくれよな! 連れてってくれるまではこっから先に通さないけどなあ」


 リーナは担いでいたバットを下ろし、「まいったなあ」と困り顔を浮かべた。

 その表情に手応えを感じたアドル。

 あともうひと押しでリーナは折れるはず、そんな都合の良い想像が脳を過ぎる。

 更に強く訴えかけるべく、アドルはリーナへと一歩を踏み出した。


 だが、リーナが発した一言は、アドルが描いた想像の斜め上にカッ飛んで行った。


「あーダメダメ、そんな近寄らないで」


 言わば言葉の圧力というものなのだろう。

 アドルは「なんで」も「どうして」もなく、その場で硬直した。

 目の前のバットガールの呟き一つに、全身の筋肉が強張った。

 足が地面に縫い付けられる、などという問題ではない。

 全身を針金で雁字搦めにされたようだった。

 肺が締め付けられ、情けなく半開きになった口が掠れた音を立てる。


 アドルの鼻先すれすれを灰色の軌跡が下から上へ、轟音を纏って立ち上る。

 突風に巻かれ、ニット帽が吹き飛んだ。

 続いてアドルの身体も。

 石畳にしこたま尻をぶつけたアドルは、慌ててリーナの姿を探す。


 リーナは変わらず、アドルの目の前に立っていた。

 下を向いていたはずの釘バットを天高くに持ち上げて、困り顔でアドルを見下ろす。

 元よりアドルより大きな女性であったが、見上げるアドルにはまた一段、大きく見えていた。


 リーナのポーズを見て、アドルはようやく思い至る。

 今の上に捲き上る突風は、リーナがバットを振り上げたことで生じたものだということに。

 リーナがアドルを止めたのは、その軌道上にアドルを巻き込まないようにするためだということに。

 そして、サキュバスハンターであるリーナが、バットを振るわねばいけない状態になっているということに。

 アドルは恐る恐る、リーナが掲げたバットの先を見上げた。


「うぎゃあぁああぁッ!? ば、バケモンッ!」

「奴ら(サキュバス)の使い魔よ〜。生き物っぽいけど、言ったことを実行するだけの機械みたいなモンよ」


 青紫の肌を持つ小人。

 コウモリのような翼や猫よりも鋭い爪などは、想像できる悪魔そのものだ。

 ぱっくりと開けた口から、黒い血と真っ赤な舌をだらりと垂らし、ざらついた声音で断末魔をあげている。

 どうやら上空から飛来したらしき使い魔だったが、アドルが気付いた時にはもう、リーナの手で消滅しかかっていた。


「そこでちょっと待っててね。とりあえず全部片してくるから」

「全部、ぜんぶって、何を‥‥‥ッ!?」


 リーナの言葉を皮切りに、街の外が騒がしくなる。

 スモックに移った樹木のシルエットが大きく歪んだかと思うと、バラバラと小さな塊に分解し、宙へ舞い上がる。

 舞い上がった塊を見上げ、アドルは息を飲んだ。

 空を覆ったいくつもの塊は、シルエットを歪め、先に倒された使い魔と同じ形を形成する。

 羽ばたき音が重なって、アドルとリーナを包み込む。


「ちょ、ねえッ! リーナねえちゃん! 全部ってまさか、コイツら全部倒すってこと!?」

「ひゃっほぉうッ!」


 アドルの言葉を遮って、リーナは青紫の空へと跳躍した。

 スカジャンに押し込められた乳房が大きくたゆみ、ジーンズを押し上げるヒップが引き締まる。

 ひとっ飛びで街灯の上に着地した金髪バットガール目掛け、大量の使い魔が飛びかかった。


「アドルくんじゃなくってわたし狙い、ね。この時点でハンターに気付くとか、結構強いサキュバスかもねぇっ!」


 リーナはバットを振りおろす。

 正面から飛びかかる1匹の脳天を打ち抜き、そのまま地面に叩き落とした。

 しゃがみこんだ勢いはそのまま、後方に向けて足を突き出す。

 ジーンズに押し込まれた健脚は、目前に迫った使い魔の顎を蹴り上げ、一撃で昏倒させた。


「ッらあ! もう一丁!」


 バットを持ち直し、リーナは水平に振り切った。

 横並びになった使い魔が、左から順に頭を砕かれ、消えていく。

 一瞬で消えた6体もの仲間たち。

 使い魔は慄き、怒りか悲しみか、奇怪な咆哮を響かせた。


「ふっふーん! ぶっとばーせー♪ カッとばーせー♪ バットでカチ割れそのどッタマぁ!」


 一方のリーナは余裕しゃくしゃく。

 ご機嫌にもブルジーンズのテーマを歌いつつ、順番に頭を打ち砕く。

 狭い足場で器用にバランスを取りながら、バットを縦に横に、禍々しい弧を描いて唸らせた。

 百発百中のスイングで、使い魔たちはみるみるリーナの足元へと落下していく。


 街灯に飛びかかる使い魔が減ってくると、今度はビル壁に飛びつき、リーナ自ら攻勢に出る。

 慌てた使い魔たちは空へと逃げるが、もう遅い。


「そらァっ! 星になれェ!」


 横一閃。

 鈍い音で使い魔が真っ二つに砕ける。

 近くを飛んでいた1匹も、悲鳴をあげる間も無く頭が消し飛んだ。


 足場を無くしたリーナは、そのまま地面に着地する。

 再び空を見上げると、翼の生えたシルエットが一目散に逃げていくのが見えた。

 既にその数は当初の半分も残ってはいなかった。


「あちゃ、結構残しちゃった。1匹くらい残しとこうとは思ったけどな〜」


 舌を出し、リーナは自分の頭をコツンと小突く。

 悲鳴を上げて逃亡する使い魔と、「遊びすぎたなー」と頭をかくリーナ。


「す、すげえ、これがサキュバスハンターの実力!」


 アドルは一人、呟いた。

 使い魔を目の前にしたあの恐怖は既に何処かへ吹き飛んだ。

 今はただ、ダンスでも踊るかのようにバットを振るった、リーナの姿だけが目の裏に残っていた。


 リーナは使い魔の飛び行く方角を確認し、改めて獲物を肩に担ぐ。

 使い魔が向かった先とは、即ち主人であるサキュバスが根城にしている場所。

 イコール、リーナの目的地だ。


「さ、今のは頑張ったアドルへのサービスよん。帰ってきたらまた相手してあげるから、今日はもうおやすみ」

「えッ! た、頼むよぉ! オレも連れてってくれよォ!」


 リーナはアドルに背を向けて、さっさと街の外へと歩き出した。

 今度はもう、アドルが何を叫ぼうとも振り返らない。

 リーナの言う通り、戦闘を見学させて貰うだけでも十分すぎるサービスだ。

 使い魔との戦闘すら、本来一般人を近くに置いてすべきものではない。

 人質に取られようものなら一大事なのだから。

 リーナはアドルの素質に期待し、ただの少年としては十分すぎるほどの経験を与えたのだ。


 だが悲しいかな。

 得られれば得られるほど、その先を欲しがるのが人間だ。

 アドル少年もまた例外ではない。


「姉ちゃあん! 隠れてるからさあ、絶対見つからないようにするって約束するから‥‥‥お願いだよォ!」


 アドルはなおも、リーナの背中を追いかけた。

 少年の手がリーナのアメコミスカジャンを掴む。

 二度と離すもんか、と意志を固めたその瞬間だった。


「うわおッ!?」


 スカジャンが手のひらから消えたと思うと、アドルの体が180度回転した。

 空に灰色の地面が浮かび、そのまま頭をたたき割らんばかりに迫ってくる。

 アドルの髪先が冷えた地面に触れる直前、ひっくり返った胴体に重い衝撃が走った。

 垂直に落ちていた少年の体は、今度は水平に飛んだ。

 アドルはほんの一時だけ風を全身で受け止めると、そのまま最初に隠れていたゴミ山に頭から突っ込んだ。


「な‥‥‥ッ! ゲッホ! ゴッホ!」

「我慢するのもハンターの素質よ〜。あんまりしつこいと、今度はゴミ山じゃ済まさないぞ〜」


 随分遠くから、リーナの声が聞こえてくる。


「もっと我慢強くなるまでは連れていけないかなー。とりあえず今日の所ははやく帰んなさい」


 袋の山から顔を出したアドルに、リーナは振り返らずに手を振った。

 どうやらリーナに足を払われ、腹に掌底を叩き込まれたのだとそこでアドルは理解した。


「ひ、ヒトってあんな簡単に飛べんのかよ‥‥‥」


 小さくなって行くリーナの背中を見送って、アドルはぽつりと呟いた。

 ゴミ山に背中から倒れ、スモッグだらけの空を見上げる。

 星も見えない汚染された空は、地面と同じ色をした雲で満ち満ちていた。


「あーあ、仕方ない。正攻法はやっぱ諦めるか」


 そう言ってポケットから小さい端末を取り出した。

 それは小型のGPS受信機。

 画面には街の地図が表示され、赤い点がゆっくりと街の外へと動いている。

 今しがた、リーナのスカジャンに取り付けた発信機だ。


「へへ、小細工だって得意だぜ‥‥‥」


 リーナの姿が完全に見えなくなるのを待ち、アドルはゴミ山から飛び降りた。

 見えなくなったリーナを追って、門の外へと駆け出した。


◆◆◆


 濃霧が立ち込める古城の中を、リーナはバットを手に走っていた。

 ディニッジ・シティ近郊の森に突如として現れていた中世風の城。

 所有者不明のこの建造物こそがサキュバスの根城だった。


 淫魔たちは人間界に現れる時には大抵自身の本拠地を人間界に繋げて現れる。

 ハンターとしての経験からそれを知っていたリーナは、街に来た時にまず「誰も存在を知らなかった建造物」について調査した。

 それが即ち、時空を歪めて淫魔界から現れたサキュバスの根城に他ならないのだから。


「さ、てとっ! どこに隠れてんのかなっ」


 リーナは廊下を駆け回り、目に付く扉を片っ端から破壊していく。

 中を確認することはない。

 どれもこれも埃と蜘蛛の巣で覆われた文字通りの廃屋だった。

 だが、この広大な城の中に淫魔界と繋がる場所、即ちサキュバスの「本当の」根城が潜んでいるのだ。


 また一つ、轟音を乗せたスイングが腐った扉を打ち砕く。

 そして次の扉に向かって駆け出すのだ。

 物々しいバットを持っていてもなお、軽やかな足運びはバレエダンサーのように重力を忘れさせる。


「ふムゥ、ったく息苦しいんだよな〜」


 そう言って、リーナはマスクの位置を調節した。

 髑髏の口元がデザインされたマスクを付けたリーナは、より一層怪人感が増していた。

 このマスクは決してファッションでつけている訳ではない(柄はリーナの趣味だが)。

 廊下に充満する紫がかった霧を除去する特殊フィルター使用マスクなのだ。

 古城の中に立ち込めているのは、サキュバスが生み出す高濃度媚薬混じりの霧。

 一息であらゆる生命を色情魔に変貌させる危険極まりない代物だ。

 サキュバスと戦う上では発情状態などはリスクにしかならない。

 それを少しでも防ぐための措置である。


「んッ! みっけたぁっ!」


 リーナはくぐもった声で叫び、足を止めた。

 そこは扉と扉の間、古ぼけた黒い石壁がリーナの視界に広がった。

 しかしリーナは釘バットをバッターのように振りかぶる。

 あてずっぽうのデタラメではない。

 確信を持った力強いフォームだった。


「さあッ! ブルジーンズの勝利パワー、わたしに力を、貸してェっ!」


 腰の回転力を乗せ、リーナはバットを壁に叩きつけた。

 ばごむ!と壁は発泡スチロールのように砕け散った。

 撒き散らされた破片から、魔術の片鱗が霧散していく。

 崩壊した壁の奥からは、隠蔽魔術で隠された隠し通路が現れた。


「へへん、随分お粗末な隠し通路じゃん」


 バットを肩に乗せ、リーナは通路の中へと踏み込んだ。

 何を隠そう、釘が蔓延るこの無骨な武器も洗礼を受けた正当な対淫魔武器なのだ。

 このバットで殴れば、魔術障壁は破壊され、悪しき力を持つ生命体は多大なダメージを受ける。

 今しがた瓦礫となった壁も、魔術が染み込んでいたからこそ突破されたのだ。


「お、これはアタリっぽいかな〜」


 リーナは足元を見下ろしてそう呟いた。

 ここまでは飾り気のない廃屋同然だったのに、隠し通路からはスニーカーが沈み込むほどに柔らかな絨毯が敷き詰められていた。

 一直線の通路の先には、蝋燭の光が充満する大部屋が見えていた。


 リーナは口笛を吹き、絨毯を蹴って駆け出す。

 罠を躊躇することもなく、真っ直ぐに大部屋へと突進した。


 天にも達する書棚で壁を埋め尽くした空間がリーナを出迎える。

 中央には書物を一望できるようにデスクが置かれ、セットのソファに女性が一人、リーナと向かい合うようにして座っていた。


 一見するとキャリアウーマンのような出で立ち。

 上品だが高級感を感じさせないスカートスーツからはタイツで覆われた足がまっすぐに伸び、自慢げに組まれていた。

 長い黒髪は一纏めに結ってあり、黒縁のメガネと合わせて静謐に収まっていた。

 サキュバスという種族にしてはあり得ないほどに露出の少ない外見。

 髪の先からヒールのピンまで、ビジネスデスクに座っていたっておかしくはなかった。


 しかし左右のこめかみで塒を巻く太いツノと背中から伸びたコウモリのような羽だけが、彼女がサキュバスであるという事実を臆すことなく晒していた。


 リーナは無言でバットを構えた。

 目の前の女性がターゲットであることは改めて確認するまでもない。


「ようこそリーナ・トモエさん。サキュバスハンターとお会いするのはこれが初めてです」


 外見通りの冷たい雪のような口調。

 リーナはその一言で女性の力量を理解する。


「私、名をハンドリィと申します」


 力を持つが故の余裕なのか見た目通りの正確なのか、ハンドリィと名乗ったサキュバスは軽く会釈した。


「名前知られてるとか‥‥‥な〜んか調子狂うなあ」


 リーナの呟きに、ハンドリィは「貴女は有名ですから」と短く返答する。


 そして、大きく背後へと飛び退いた。

 次の瞬間、ブラウンのソファは釘バットによって真っ二つに砕き割れた。


「ちッ、すばしっこいっ」

「噂通り、粗暴な割に、ッ!」


 ハンドリィの言葉を待つことなく、すかさず二撃目を放つリーナ。

 ハンドリィは身体をひねって既のところでそれを回避する。

 しかし有り余るパワーが衝撃波を生み出し、ハンドリィの身体を吹き飛ばした。


 部屋の奥まで吹き飛ばされたハンドリィ。

 砕けかけた本棚を足場にして、飛びかかってくるリーナに真正面から立ち向かった。


「どぉりやぁあぁあああああッ」

「‥‥‥ッ!」


 上から真っ直ぐに落ちてくる狂気の釘バット。

 ハンドリィの黒い影は凸凹の刀身を回避し、リーナへと手を伸ばした。


「ふんッ! やるぅ!」


 ハンドリィが伸ばした手は、スカジャンに触れることすらもなく空を切った。

 足場などなく、空中に取り残されたはずのリーナの身体には回避行動などできないはずなのに。

 しかし現実、その身体はハンドリィの頭上を越えて跳躍していた。

 翼も魔術もないリーナのあり得ない軌道に、ハンドリィは思わず動きを止めてしまう。


 生まれた隙には、容赦なくリーナの蹴りが差し込まれた。

 至近距離での攻防では、衝撃に耐える暇もない。

 ハンドリィは腹部に鉄球がぶつけられたような衝撃を感じた。

 衝撃波を伴って弾丸のように反対側の壁へと激突する。

 崩れ落ちる書物の雨を払うハンドリィは、宙に浮くリーナを見上げた。


 否。

 壁に突き刺さった釘バットの上に立つリーナを見上げた。


 先程の一撃で壁にバットを固定したリーナは、そこを支点にして空中回避を実現したのだ。


「ごぼッ、ほ、本当に人間ですか‥‥‥」

「お褒めに預かり〜! アンタもただのムッツリサキュバスじゃないね」


 短く言葉を交し、両者は再び突撃姿勢をとった。


「‥‥‥ぅっ」


 吐息よりもか細いその物音を聞き取ったのは、ハンドリィだった。

 リーナへと突撃していたところ、翼で強引に軌道を変える。

 リーナも一瞬遅れて音の正体に思い当たった。

 しかし翼を持たない彼女は、一旦どこかに着地しなければ方向転換はできない。


 ようやく壁に足をつけたのは、既にハンドリィは「彼」の身体を絡め取った後だった。


「ひ、り、リーナ、姉ちゃん‥‥‥」

「ゲホっ、ふぅ、これは上々。貴女のお知り合いのようですね」

「アドルっ! なんでここまで‥‥‥ッ!」


 リーナは置いてきたはずの少年の名を呼んだ。

 物陰から引きずり出したアドルを持ち上げて、ハンドリィは大きく息を吐く。

 スカートの下からハンドリィの尻尾が伸びると、アドルの首筋に添えられた。

 変幻自在の尻尾は、リーナの動向次第ではあっという間に刃へと姿を変えてアドルの動脈を撫でるだろう。


「‥‥‥わーかってる! こっちは降参よ!」


 バットを床に放り投げ、リーナはそう吐き捨てた。

 チンピラ然としたリーナだが、その行動理念はあくまで「人命救助」の延長線。

 サキュバスを倒すために人が傷付いていては元も子もない。

 ハンドリィは尻尾を刃に変え、バットを真っ二つに斬り裂いた。

 洗礼されていようと、リーナのようなハンターが手にしていなければそれはただの釘バットだ。


「ええ、ええ。そうでしょうね。私も同意見です。アドルと言いましたか、貴方もそうですよね?」

「ッ! うんっ、うんッ! オレもッ!」


 返答を迫られたアドルは、煙が出そうな勢いで首を縦に振りまくる。

 零度の視線で迫られて抵抗出来るほど、やはり少年は成熟していなかった。

 無意識下で自分を捉えた存在を理解したアドルの精神は、既にハンドリィへと屈服してしまっていた。


 ハンドリィは「よろしい」と言って、アドルに向けて口を開く。

 少年の視界は、赤い口腔と白い牙で覆い隠された。


「はァ❤︎」

「は‥‥‥おぎィっ!?」


 サキュバスの淫毒に満ちた呼気を掛けられて、アドルは跳ね上がった。

 ハンターであるリーナには僅かながらの媚薬耐性がある。

 加えて髑髏マスクのフィルターによってほぼ全ての媚薬は防ぐことができている。


「アド‥‥‥ッ!」

「‥‥‥ッ! ‥‥‥う゛ァ!」


 しかしアドル少年にはその両方が欠けていた。

 サキュバスが相手を無力化するために練り上げた特濃の一息を前に、少年の精神などはあまりにも無力だった。

 小さな身体はガクンガクンと痙攣を繰り返し、そして動かなくなった。


「ご安心を、『これ』は私の所有物となりましたので、殺すことだけはありません」


 木片の散らばる部屋の中から、絨毯の見えている場所にアドルを横たえると、ハンドリィはリーナに言った。


「リーナも、私のモノですから壊しませんよ。壊れさせませんよ」

「さわんなッ! ッくぅ」


(ヤバっ! どうする! アドルは、いや、まず先にわたしが‥‥‥ッ!)


 今度はリーナがハンドリィの動きに硬直する番だった。

 高速で目の前に現れたハンドリィは、細く長い指でマスクを引きおろす。

 リーナは反射的に口を閉じるが遅かった。


「ふくッ❤︎ ふ、ふぅっ❤︎ ぅあ❤︎ はぅっ❤︎」


(なンこれッ❤︎ ふわッ❤︎ からだ❤︎ あつくて❤︎ ゆれてる‥‥‥❤︎ いうこときかなくなるッ❤︎)


 体内へと入った媚薬霧が、肉体を芯から燃え上がらせる。

 堪えきれず声が漏れ、再び新たな霧を吸い込んでしまう。

 手足は脱力し、ハンドリィに易々と組み伏せられた。

 背中に暖かい絨毯の感覚が広がり、目の前に能面のようなハンドリィの顔が覆いかぶさる。

 メガネのグラスを通して、冷えた視線が落ちてくる。

 間近で見据えられるだけでも、吹雪の中に放り出されたかのごとく身体が震えだす。


「はァ❤︎」

「あ゛ゥんッ❤︎ へ、あ゛ぅう゛ぅッ❤︎ や、めてよッ❤︎ ふひぅぅ゛❤︎」

「ふぅぅ❤︎」

「お゛ぁあッ❤︎❤︎❤︎ はヒュ❤︎ ふぎゅ❤︎ まっひろンなる゛ッ❤︎ ん゛うぅう゛ぅッ❤︎❤︎❤︎」

「はぁあぁあぁ‥‥‥❤︎」

「ほぉおおお゛お゛おぉお゛ッ❤︎❤︎❤︎」


(だめッ❤︎ だめダメだめッ❤︎ どんどんくルッ❤︎ からだぜんぶ、ゆれるッ❤︎❤︎❤︎ ゆれてもゆれても❤︎ おさまんないッ❤︎)


 多少の媚薬耐性はあると言っても所詮は「多少」。

 二度、三度と濃密な吐息を吸い込まされたリーナは、次第に言葉を失い、情けない悲鳴をあげるだけになっていく。


「ふむ、もう少し「直に」シておきましょうか」


 ハンドリィの呟きが、どこか遠くに聞こえる。

 はっきりと聞き取ろうにも、呼吸の度に発情が深まるこの状況ではまともに唇が動かない。

 半開きになった口を悔しそうに震わせ、熱の籠った喘ぎ声をこぼし続ける。


(ホント、ヤバ、い‥‥‥でも、アドルがッ❤︎ でも、これいじょうは‥‥‥コワれるッ❤︎❤︎❤︎ まちがいなく、おかシくされる‥‥‥ッ❤︎)


 火照って赤らんだ頬を、ハンドリィの手が優しく包み込んだ。

 その手は血が通っているのかと疑いたくなる程に冷たい。

 リーナの高速回転していた思考をも凍りつかせるような絶対零度だ。

 顎を持ち上げられ、氷柱のような指が唇に触れる。

 そして、


「ふっ‥‥‥❤︎ は、む‥‥‥❤︎」

「ッむ゛ゥっ❤︎ ふむォっ❤︎ おむ゛ぅうぅうう゛う゛ッ❤︎❤︎❤︎ ふぶッ❤︎ ふぇむ゛ぁおぉお゛お゛お゛ンッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」


(きたッ❤︎ きたきたきたッ❤︎❤︎❤︎ コワされたッ❤︎ 奥までトぶッ❤︎ くちンなかどける゛ッ❤︎ あっ❤︎ あっあ❤︎ あつ゛ぃッ❤︎ ドロドロにされ゛じゃう゛よぉッ❤︎❤︎❤︎)


 ルージュで飾られたハンドリィの唇が、潤んだリーナの唇と重なった。

 瞬間、脳髄で炭酸水が弾けるように、リーナの身体は絶頂に引きずり上げられる。

 ハンドリィの舌が、媚薬を含んだ涎を溜めてリーナの口腔を犯して回る。

 甘ったるいハチミツのように、ねっとりとした淫猥な熱が喉を通り、食道を焼いた。

 暴れるリーナの舌を、ハンドリィは強引にねじ伏せ、愛撫し、快楽で説き伏せる。


 リーナはハンドリィを押し返そうともがいた。

 しかし即座に、ハンドリィの尻尾が手足を絡め取り、余計な動作を阻害する。

 お仕置きとばかりに更に大量の媚薬が喉へと押し込まれていく。

 歯茎も永久歯も、全てに媚薬を塗りたくり、口でするあらゆる事象と絶頂をつなげていく。

 いつしかリーナの手足は脱力していた。

 情けなく白眼を向き、情熱的なキスで絶頂するだけの身体へと成っていた。


「ふぅ、こんな所でしょうか。やはり実績が長いだけあって耐性がありますね」

「ほッお゛❤︎ ‥‥‥へぁ❤︎ あふ❤︎ う゛ぁ❤︎ あ‥‥‥っ❤︎」


 リーナがびくん、ビクンと大振りな痙攣しかしなくなった頃、ハンドリィはようやく唇を離した。

 どちらのものかも分からない涎が、二人の唇を繋いでいた。

 リーナはハンドリィが離れたことも気付かず、ただ惚けた顔で喘ぎ鳴いている。

 艶々と濡れた唇が、名残惜しそうにはくはくと開閉を繰り返していた。

 耐性を持つハンターであっても、サキュバスが本気で魅了(チャーム)をかけに来ればこの様だった。

 口を蹂躙される快楽だけで、もはや手も持ち上げられない無様を晒す。

 打開策を求めていた脳髄にもピンクの快楽色が広がりきっていた。

 ナニをも思考できなくなった脳内に、ただひたすらに快楽物質が流れ込む。


 すっかり無力化されたハンターの上に、ハンドリィが再び覆いかぶさった。

 サキュバスとて魅了が本業、目の前のハンターを完膚無きまでに快楽に溶かし込むつもりのようだった。

 スカジャンのジッパーを下ろすと、そこからは豊満な果実が二つ、元気に弾みながら飛び出してくる。

 しかしそれは水々しい薄桃色ではない、光沢を持った漆黒だ。

 ジーンズを剥ぎ取っても、同じように黒く隠された太ももが、尻が、股間が現れる。

 リーナはパンキッシュな服装の内側にゴム質のスーツを着込んでいた。

 肌からの媚薬汚染を最小限に抑えるためのものだ。

 これがあるおかげで、皮膚からの発情を抑制することができていた。


「なるほど。小賢しいことです」


 ハンドリィはそう呟くと、尻尾を鋭く変化させた。

 首元から、股間のワレメまで、尻尾の刃を一直線にスライドさせる。

 表面の薄皮一枚だけを器用に切り裂くと、ハンドリィは漆黒の皮を左右に剥がした。

 スライムのように胸板に乗った乳房が、先端をアピールするようにぷるんと揺れる。

 いまだにひくひくと痙攣する腹筋が、小さなへそをハンドリィに見せつけた。

 手入れされた毛並の奥で、発情したワレメがとぷとぷとアクメ汁を零している。

 あっさりと、あまりにも容易く、リーナの裸体はハンドリィの手に落ちた。


「ふ、ふぅっ❤︎ な、はっ❤︎ う、そォっ❤︎」


 肌に感じる焼け付くような痺れが、リーナの意識を引き戻した。

 媚薬霧に曝された自らの肉体を見下ろして、リーナは驚愕の声をあげる。

 慌てて胸や股間に手を伸ばしたが、再び尻尾に防がれた。

 後はただ、悔しそうに唇を噛み、ハンドリィを見上げることしかできない。

 キャリアウーマン然とした見た目のハンドリィが視界に映る分、余計に乳房を揺らす自らの羞恥が際立つ。

 否応無しに乳首やワレメに意識が向き、じくじくと痺れるような快楽が血液に溶けて広がっていく。

 そんな蕩けた意識を振り払うようにして、耳まで真っ赤に染まった顔でハンドリィを威嚇した。


「流石。この程度では心を折ることは出来ませんね」


 ハンドリィは呟いた。

 指先に魔法陣を浮かべ、自らが纏うスーツの胸元に触れる。

 途端、漆黒の衣服のシルエットが歪んだ。

 ドロリと水に浮かべたオブラートよりも静かに、サキュバスの妖艶なる素肌が姿を現す。

 それは一目見ただけでオスもメスも虜にし、触れた手が二度と離れたくないとばかりに吸い付いてしまう、完成された魅惑の肉体。

 リーナすらも、ハンドリィの白い肌に、艶やかな乳房に、汗ばんだ腹に、目を止めてしまう。


「さあ、もっと私を味わって」

「は、うッ‥‥‥こないでッ‥‥‥ふくぅうぅあぁッ❤︎❤︎❤︎」


 体重を預けてくるサキュバスを、リーナは文字通り全身で受け止めた。

 柔らかな互いの双丘がぶつかり合い、汗をローション代わりにして擦れ合う。

 魔法陣を描いた指が、桃色の乳首を押し潰した。

 グミでも弄ぶようにして、捉えた快楽豆をコリコリと転がし刺激する。


「くふあッ❤︎ はう゛ッ❤︎ やみェっ❤︎ はなひぇえッ❤︎ へふぅ❤︎ ふくッ、くふぅいぃいいぃいいいィッ❤︎❤︎❤︎」

「良い感度です。このサイズにこの感度、サキュバスの血でも引いているのですか?」


 余裕ないリーナの言葉は、乳房の形が変わるほどに乳首を引っ張られてひっくり返った。

 淡々とコメントを返すハンドリィは、リーナが乳首で絶頂を迎えてもなお、肉豆を離そうとはしなかった。


 ハンドリィの肉体は、スーツ姿で戦闘をしたことで汗ばみ、しとどに濡れていた。

 全身に浮かんだ汗粒は、それ一つ一つが高濃度の媚薬ローションだ。

 裂けたスーツの中へと肌を沈み込ませたハンドリィは、自ら分泌したその媚薬を、満遍なくリーナの肌に刷り込ませる。

 口腔から内部は蹂躙した。

 次は、外部から快楽を刻むのだ。


「はむぅ❤︎ きっと、融けてしまいそうに熱いでしょうね」


 ハンドリィは指先にたっぷりと涎を落とした。

 指に絡まる媚薬液をリーナに見せつけると、それを彼女のワレメへと押し当てる。


チュプん


「は、やっ❤︎ まッ‥‥‥くへぉお゛おぉおお゛お゛ぉお゛ッ❤︎❤︎❤︎ ふぎゅゥ❤︎ ひぎゅぅッ❤︎ う゛ねェぉおぉお゛お゛お゛おぉおッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」


 気の抜けた水音が、リーナの限界を飛び越えた。

 昂りをこれでもかとくすぐられてきた彼女のヴァギナは、絨毯に宝石のような潮粒を吐き出して屈服した。

 ハンドリィはやはりそれだけでは止まらない。

 長い指をリーナの奥深くまで滑り込ませ、絶頂に震える膣内を媚薬ローションで掻き回す。


「へぉおお゛お゛ッ❤︎ や、め゛ッ❤︎ やめやぁぁあ゛あ゛ぁあ゛ンッ❤︎❤︎❤︎ お゛ふぇへぇえ゛ッ❤︎ まッ、おまン゛ことげりゅう゛ぅう゛ッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」

「ん、ふぅっ。融かされそうなのはこちらです。なんて熱いのでしょうね。かいてもかいても愛液がとまりません」


 口調に一切の起伏はない。

 だが、ハンドリィの指先は的確にリーナのGスポットをノックし続け、絶え間なく肉体に絶頂を刻み込んだ。

 繰り返し潮吹きを続けるリーナの肉体だったが、ハンドリィの身体から出る媚薬液が、それを治めることを許さなかった。

 白い指が膣肉を擦り上げるほどに、リーナは腰を天井に持ち上げて絶叫した。


 ハンドリィは空いた手でリーナに残った洋服を剥ぎ取っていく。

 もはやそれらは用済みとばかりに破り刻まれ、原型を留めないまでの塵へと変えられた。


「これで貴女も私のモノ。壊れない丈夫なモノで嬉しいです」

「ふお゛ぅ❤︎❤︎❤︎ お゛、お゛へッ❤︎ へッ❤︎ へふぉお゛ッ❤︎ ほひィ❤︎ ひィ❤︎ ひぐッ‥‥‥ぷぁあ❤︎」


 ハンドリィはそう言って、愛液にまみれた指を引き抜いた。

 キスされた時とは比べ物にならないほど、リーナの顔は歪み崩れ、快楽と溶け合っていた。

 合間合間に弄られた乳首は乳輪まで真っ赤に膨れ上がり、ワレメは限界を超えた快楽を処理しきれずに今なおひゅくひゅくと痙攣していた。

 一度として触れられていないにも関わらず、愛液に濡れたアナルが寂しそうに口を窄めていた。


 勇敢なるサキュバスハンターだったその肉体は、サキュバスのスキンシップに飲み込まれていた。

 白目を向いた表情に、快感以外の色はない。

 無様に開いた口から出るのは、豚にも劣る媚びた悲鳴だけだった。


「ね、姉ちゃん‥‥‥ッ! ねェちゃんッ! 」


 ハンドリィが指に新たな媚薬を絡ませ、リーナの乳房に触れた時だった。

 枯れた喉を絞ったような、引き攣った声がリーナを呼ぶ。

 ハンドリィが振り返り、身を起こしたばかりのアドルを視界に入れる。


「随分と早いですね。媚薬が少なすぎましたか」


 起き上がる少年に特段の驚きもなく、サキュバスは呟いた。

 そしてそのまま、媚薬混じりの指でリーナの乳首を引っ張り上げた。


「ふぎァおッ❤︎❤︎❤︎ は、ひォっ❤︎ な、なに❤︎ なにぃ?」


 ゼンマイのように乳首を捻ると、リーナの精神が歯車を軋ませて覚醒した。

 気を持ち直したリーナの上半身だけを持ち上げて、ハンドリィはアドルの姿を見せつける。

 立ち上がりつつあったアドルに、リーナは僅かに頬を綻ばせた。


 安心すると同時に朦朧としていた思考に光が差し、再び逆転の為の作戦が回り出す。

 彼さえ安全圏に逃げてくれれば、まだ抗いようはあった。

 討伐までは行かないまでも、相打ち程度には持ち込む程度の体力は残っていた。

 自己犠牲が性に合わないことなどわかっているが、今はそれしか方法がなかった。


 「アドル、そのまま逃げて」、そう口を開くリーナ。

 しかし、その直前に異変は起きた。


 アドルは汚れた歯を剥き出しにし、鼻息荒く自らの洋服を握りしめた。

 ギリギリとリーナの耳にも届く程の歯軋りを響かせ、アドルはその手で洋服を千切り破った。

 がっしりと締まった上半身が現れ、湯気でも立ちそうなほどに躍動する。

 そして同時に、雄々しくそそり立つ男根が頭を擡げると、太い切っ先をリーナへと向けた。

 赤く蒸気した顔にはあの悪戯好きな笑顔はない。

 そこにはリーナを見据え、どす黒い欲望を瞳に輝かせた雄が立っていた。

 口をぱっくりと開き、雄は力の限り咆哮をあげる。


「ね、ねェちゃんッ! ねッ、ねッねッ! ねえぢゃあぁぁあンッ!」

「アドル? ちょっと、どうしたのアドルッ! アンタあの子に何を‥‥‥ッ」

「ほんの少し、心のリミッターを弄っただけです。アレはあの子の本来の性質です」


 ハンドリィは変わらぬトーンで淡々と告げた。

 しかし自分の作品を自慢したいのか、これまでよりも幾分か饒舌だ。

 怒張し、青い静脈を腫らしたペニスを(通常時よりは)うっとりとした表情で見つめている。


「あそこまで覚醒するには媚薬が少ないと思ったのですが、この部屋に来るまでにも十分吸い込んでくれていたようですね。おかげで十分すぎる変化が見られました」


 リーナはハンドリィとアドルを交互に見つめ、最後に雄叫びを上げる少年の男根に行き着いた。

 討伐したサキュバスの根城に時折いた人間のソレは、何度も見たことはあった。

 だが、彼らより遥かに幼いアドルの股間で揺れるモノは、リーナのこれまでの知識を覆すような驚愕のサイズだ。


 目にしてしまうともう視界から離れない。

 雄々しいそのシルエット。

 一度食らいついたら二度と離さん、とばかりの鋭いカリ首。

 鼻に漂ってくる、媚薬をも上回る雄の気配。

 獲物を見つけた猛獣の如く、涎を垂らすその先端。

 存在そのものがリーナの意識を吸い寄せる。


 サキュバスに屈服した肉体が、そこから得られる快楽を妄想し、勝手に盛りだす。

 ハンドリィが植え付けた絶頂の燻りが、今また燃え上がるべく火の粉を散らし始めていた。

 独りでに垂れた舌が駄犬のように揺れ、身体中が屈服するために火照りを広げるのだ。

 リーナの身体が、アドルのペニスを求めるのだ。


「あちらは既に準備万端のようですよ。リーナ、貴女もいい加減準備をなさい」

「ねぇ゛ぢゃッ! ね、ねッねえちゃん゛ッ! ねえちゃんッ! ねえちゃん姉ちゃんねェちゃあぁんッ!」


 ハンドリィの言葉に合わせ、アドルが再び吠え始める。

 爛々と光る目が、投げ出されたリーナのワレメを凝視していた。

 リーナ同様、彼もまた初めて直視した女性の入り口に興味が尽きないようだった。


「い、いやッ! いや、いやよッ! あんなの、絶対壊れちゃうじゃんッ! むりに決まってるッ!」


 リーナは足を引きずり、手を振り回し、迫りつつある少年から逃れようとした。

 だが、媚薬が回って完全に「出来上がってしまった」リーナの身体は、もはや本人の意思だけではどうしようもない程に発情を繰り返していた。

 リーナがいくらイヤイヤと首を振ろうとも、ワレメは熱い愛液を染み出させ、ヘソの下で子宮がばくばくと脈動した。


「ほら、何をぐずぐずしているのですか」

「はぎッ❤︎❤︎❤︎ やめ゛ッ❤︎ くひぅうッ❤︎」


 駄々をこねるリーナに痺れを切らし、ハンドリィはその真っ赤に熟れたクリトリスをつまみ上げた。

 強引に上へと引っ張ると、リーナが情けない悲鳴を乗せて腰を持ち上げる。

 クリトリスにかかる負荷を軽減しようと、下半身がハンドリィの手を追いかけるのだ。

 ハンドリィはクリトリスを引っ張り回してリーナの下半身を操った。

 リーナは喘ぎ、時に軽い絶頂を迎え、一生懸命にクリトリスの向く方向へと腰を振る。


「もっと嫌らしく、蠱惑的に鳴くことはできないのですか? アドルは貴女の蜜壺を探しているのです。無様に喚くだけではなく、彼へのリードを忘れてはいけません」

「ほお゛ぉう゛ぅッ❤︎ だ、だめェッ❤︎ へ、へッ❤︎ はひょッ❤︎ 」


 右に左に、ハンドリィの指はリーナのクリトリスを振り回す。

 下半身だけをブリッジの姿勢に強制されたリーナは、クリトリスを操られるがままに腰を降りしきる。


「もっと元気よく動きなさい。アレだけの蹴りが放てるのなら、この程度朝飯前でしょう?」

「ん゛ぇぉ❤︎ ひっは❤︎ ひっはンない゛れぇ❤︎ んぇん゛❤︎❤︎❤︎ とれひゃぅ❤︎ クリがとれじゃう゛のォ❤︎」


 それはアドル少年からすれば、トロトロに煮詰まったヴァギナが目の前で揺れているに過ぎなかった。

 自ら注視していたリーナの穴。

 それがふらりふらりと誘惑のダンスを踊り、受け入れようとしているようにしか見えなかった。

 陰唇がぱくぱくと、少年を手招きしている。

 とうに消えかけていたアドルの理性は、その一切がピンクの縦割れに塗りつぶされた。


「う、ぅぶぅうぅうあぁああ゛あ゛あ゛ッ!」


 絨毯を蹴り、遮るものを跳ね飛ばし、アドルはリーナの裸体へと飛びかかった。

 ハンドリィは素早くリーナの手足を押さえつけると、アドルの凶行をアシストする。

 アドルはリーナの細いくびれを鷲づかむと、いきり勃つペニスを振るえるヴァギナへと押し込んだ。


 たっぷりの愛液と少年のガマン汁が一息に混ざり合った。

 リーナの腹部が、ボコりと惨めに膨らんだ。


「お゛ッ❤︎❤︎❤︎ くォへぉおぉおぉお゛お゛お゛ッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎ ほぎょッ❤︎ ひへッ❤︎ へぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ❤︎❤︎❤︎」


 リーナの身体が弾けた。

 子宮を丸ごと蹂躙された絶頂が全身を駆け巡る。

 両手をアドルへと向け、曲がる限りまで状態を仰け反らせ、リーナは処女喪失にアクメした。

 痛みの一つも感じる暇はなかった。

 脳みそを掻き回されるようなペニスの感覚に、ただただ白旗を振り回すだけだ。


「おあああぁあ゛ッ! ねえぢゃんッ! すげ ェよねぇちゃんッ! これッ、これっ! すっげえあっついんだァ!」

「やめ゛でェっ❤︎ ふぎぁあッ❤︎ うッ❤︎ うごがら゛ィでェッ❤︎ イぐッ❤︎❤︎❤︎ イぐろォ❤︎ すっごィイぢゃう゛がらァっ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」


 アドルは恍惚の顔で天を仰いだ。

 そして惚けた顔で改めてリーナの身体にしがみつく。

 リーナは少年の身体を引き剥がそうと押し返した。

 だが、サキュバスの力をもろに受けた少年の身体は、岩を押しているかのようにビクともしなかった。


 少年は涎を零し、鼻水を拭うことも忘れ、リーナへと腰を打ち付けた。

 血走った瞳はリーナの汗で濡れる肢体を舐めるように見つめている。

 打ち付けるたびに暴れる乳房に手を置いて、真っ赤な乳首を押し潰した。

 仰け反り、白目を剥く惨めなアクメ顔を、食い入るように鑑賞した。

 ペニスを引きずり出す程に溢れる汁に、嬉しそうに口角を釣り上げた。


「いぎゥっ❤︎❤︎❤︎ もッ❤︎ やべへェッ❤︎❤︎❤︎ ま、マジッ❤︎ もどってこれ゛ない゛ろッ❤︎❤︎❤︎ イきっぱなんてッ❤︎ お、おッ❤︎ お゛っへッ❤︎ しンじゃうっでェええぇえぇえッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」


 リーナはがむしゃらに両手を振り回す。

 だがそれが少年の身体に触れることはなく、アドルの腰は止まることはない。

 そうやってリーナが無様に鳴きわめく程に、嗜虐的に目の色を変えてピストンを早めるのだ。


 肉付きの良い尻に、肉棒を添えた骨盤が打ち付けられる。

 するとバルん!と脂肪に振動波が広がった。


 子宮口をカリ首がこじ開ける。

 ポルチオのアクメでリーナが仰け反る。

 スライムのような乳房が、リーナの絶頂に合わせてリズミカルに上下ステップを決めた。


 粘つく水音はどんどん加速し、アドルの咆哮とリーナの絶頂も小刻みに変化する。

 二つの肉体は、まるで一つの生命のように動きを合わせ、共に最後のピークを越えようとしていた。


「ね゛ぇッ! ねえ゛ぢゃんッ! おれ、オレでちまう゛ッ! ばくはつしちまうよォっ! いいよなぁッ! ぜんぶぶっこわづぞお゛ッ!」

「や゛ッ❤︎❤︎❤︎ やだッ❤︎ やめ゛でアドりゅぅッ❤︎ いッいまはだめなの゛ォッ❤︎❤︎❤︎ たえらンないッ❤︎ おねがィっ❤︎ ガマンし‥‥‥ッ! や、やだッ、やだヤダヤダぁああッ❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎ まっでよぉおぉおお゛お゛ぉお゛ッ❤︎❤︎❤︎」


 リーナは膣内で膨張する熱棒の感触に悲鳴をあげた。

 ドクンドクンと脈打つペニスが、尿道を収縮させて最後の一撃を吐き出さんとしていた。

 リーナは更にがむしゃらに暴れ、アドルの肉棒に懇願する。

 だが、無情にもアドルの心は既に快楽の虜であった。


「お゛ッ‥‥‥グゥぅうウゥうッ!」


どぼっ、どぶ、どぶ、どぶぶぶぶ‥‥‥


 低く沈み込むような射出音。

 リーナの下腹部がまたボコりと膨れた。

 ペニスが限界まで詰め込まれた膣口から、泡を吹いて白濁液が溢れてくる。


「お゛ッーーーーーー❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎ こほッォーーー❤︎❤︎❤︎ ほ、へェ゛❤︎❤︎❤︎」


 海老も顔負けに反り返り、掠れた声でアクメするリーナ。

 子宮が破裂するほどのマグマのようなザーメンは、彼女の全てを濁った白で埋め尽くした。

 脳髄が精液に飲まれ、視界は白い火花で閉ざされた。

 あれだけ振り乱していた手足をピンと伸ばし、ペニスに屈服したことを全身で表していた。


「おッ、ゴォ、うぅう‥‥‥っ」


 アドルは小さく呻くと、ゆっくりと男根を引き抜いていく。

 自らの精液に濡れたそれは、今尚最初と何変わらぬ猛々しさを保っていた。

 だが、アドルはそれ以上リーナを陵辱することはしなかった。

 サキュバスによって強制的に発達させられたペニスに対し、本人の体力が追いついていないのだ。

 全身の筋肉がこの一時で完全に疲労しきり、これ以上の暴走は不可能だった。


「うッ、おぉ‥‥‥」

「お゛ほォンッ❤︎❤︎❤︎」


 アドルが両手を離すと、その場所には少年の指の形に真っ赤な痣が浮かんでいた。

 凶器的な反り返りをもつカリ首が抜けると、少年は呻き、リーナはまたアクメした。


 支えるもののいなくなったサキュバスハンターの身体。

 がに股びらきで股間を曝け出したまま、ぼとりと絨毯の上に落ちた。

 太もも、腹筋、そしてヴァギナが呼吸を合わせて痙攣し、泡立つ白濁液が止め処なく溢れ出る。

 白く広がる粘液溜まりに、金のコントラストが混じる。

 リーナの尿道がはくはくと開き、お漏らしのアーチを作り出していた。

 仰け反ったままの顔には、くっきりと絶頂によるアクメ顔が張り付いており、だらしなく伸びた舌からは汚い喘ぎ声が垂れてきていた。


 陽気に笑い、バットを振るっていた女性の姿はそこにはない。

 潰れたカエルのような醜態を曝し、淫売にも負けない嬌声を奏でる雌犬が一匹、服従の腹を見せて喘いでいた。


「上出来ですね。二重屈服の制約は強力ですので、最早逃げられませんよ、サキュバス‥‥‥いえ「元」サキュバスハンターさん。貴女たち二人なら、私の研究も進むでしょうか」


 アドルとリーナの身体を抱え上げ、ハンドリィは言った。

 自らの羽を広げ、3人の体を覆い隠した。

 転移の魔法陣が輝くと、羽に包まれた全てが光の中に消えて霧散した。


 リーナ・トモエ最初の敗北は、それに続く度重なる全ての敗北の引き金となる。

 これはその、ほんの一度目。

 ハンドリィとアドルを交えた度重なる屈服における第一歩に過ぎないのだった。


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