LANDCORAL5-ChantalParts- (Pixiv Fanbox)
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マジャリの首都ムラドハナで代々鍛冶工房を営んでいるアルドリッジの元に王室からの使いが依頼を持って訪れた。
断る理由はなかったが、形状や大きさ、細工に至るまで厳密に指示されており、鍛冶工房と言っても実際は武具類よりも緻密な装飾品の作成技術で一流の技巧士として名声を得ているアルドリッジは、その点だけやや不満だった。
その不満を見透かしたかのように使いの男は従者達に声を掛ける。
大の男3人によって運ばれてきた鉱石を見てアルドリッジは目を見開いた。
「こ、これで作れと?」
「はい、マクルラードの加工技術を持つ中であなたが最も腕がいいと評判ですから」
アルドリッジは無意識にマクルラード鉱石に手を置き、喜びに震えた。腕がいいと誉められたためではない。
この鉱石を扱えること自体が喜びだった。
「・・・お引き受け頂けますね?」
「も、勿論、承らせて頂きますとも」
超稀少鉱石マクルラード、別名抵抗石は完全にマジャリ王室が管理していた。稀少すぎるためこの鉱石のための鉱山は存在しない。何らかの地下資源を採掘中に極まれに僅かに見つかるのみで、それらは宝石同様献上品として国王に送られていた。
そのためその全てが国事にまつわる神具にのみ使用されていた。
使いが工房を後にした後もアルドリッジは台車の上に置かれた鉱石に見とれていた。丸まって寝ているネコほどの大きさだが、金よりも遙かに比重が大きいため、1人で持ち上げることは出来ない。そもそもこれほどの大きさの塊が保管されていたこと自体信じられなかった。
加工した抵抗石には傷一つすら付かない。しかし神事の際、一連の儀式の中で抵抗石製の神具同士がぶつかることがあり、その時に付いた小さな傷を直す依頼を過去2度、アルドリッジは受けたことがあり、抵抗石を扱ったのはその2回が全てだった。
鉱石を加工し、一から抵抗石製の何かを作るのはこれが初めてだった。技巧士にとっては最高の名誉と言える。
1点、不満があるとすれば1年でなく2年、猶予が欲しかった。
マクルラード、古い言葉で”熱くならない”という意味の名を持つこの金属は、融点に達するまでに少なくとも半年は熱し続けなければならない。
半年経ち、漸く抵抗石は加工が可能になるまでの熱量を蓄え、赤く発光し始めた。
抵抗石は他の金属と違い、炉から出して打ち、また熱すると言うことが出来ない。炉から出せば瞬く間に冷えてしまい、もし冷えたなら熱するのにまた半年かかる。抵抗石は炉の中で熱したまま加工する必要がある。
抵抗石の由来は完全な魔力抵抗にある。一切の魔法を受け付けず、錬金術も例に漏れない。そのため全ての行程を昔ながらの手作業で行う必要がある。炎すら魔力の一形態だと判断するため時間を掛けなければ熱することが出来ない。
ごく僅かに混ざる不純物が触媒となっているため時間を掛けれさえすれば熱を帯びるとされており、未だ発見も作り出されてもいないが、完全に純粋なマクルラードはどれほど時間を掛けても熱を帯びず、加工も不可能な完全物質だろうと予測されている。
聖女を奉るマジャリはこの性質を以て抵抗石を国石としている。神聖力こそ人間が使うべき力であり、現在ほど普及してしまうと規制は不可能だが、出自不明な魔の力をよく思っていない。
そのため魔力を受け付けない抵抗石を稀少という理由以外でも神聖視していた。
「もう加工できそう?」
「・・・驚くじゃないか、急に。危ないからそんな格好で入って来てはいかん」
工房内の炉はマクルラードを熱し始めてから常時2000千度を維持しており、当然その熱は工房内の温度にも影響を及ぼしている。
「だって見たいんだよ。そんな珍しいの見る機会ないし」
「・・・ならちゃんと着替えてきなさい」
息子、アレクシス・アルドリッジ.jrが将来技巧士を継ぐなら確かに今回のような機会は見学どころか手伝わせてもいいほど貴重だった。ただし、きちんと事故防止の重厚な作業着を着てきた場合なら。いくら工房内が熱くとも普段着のまま入れるわけにはいかない。
期限は1年。
依頼された五つの器が次期聖女シャンタルの聖別式に使われるのなら、決して納期は延期できない。
14の時に聖女候補として見いだされて以来王室預かりとなり、数年前第一王子と婚約したことによりしばらく現れていなかった聖女の位に就くことをマジャリ国民の誰もが待ち望んでいた。
抵抗石の加工準備が整って2ヶ月半。アルドリッジは漸く一つ目の器を完成させた。出来は素晴らしいが、思った以上に日数を使ってしまった。
依頼された五つの器の大きさはまちまちで、大きい物が一つ、それよりやや小さい物が二つ。更に小さい物が二つ。
最も大きい物から取りかかったため時間がかかり、残り4つを三月半で完成させなければならなくなった。細工や装飾を考えると小さいからといって早くできるわけではない。
「凄いなぁこれ。片手で掴めるのにめちゃくちゃ重い」
「おいおい、おと…いや、落としても問題無いか。でもシャンタル様の式に使う物だから大事に扱いなさい」
「分かってるよ・・・それにしても熱いなぁ。少しぐらい外に出して加工できないの?」
「出来ないんだよ。冷えてしまったら半年前からやり直しだ。知ってるだろう?」
「知ってるけど・・・何とかなりそうなんだけどぁ…」
数日後、アルドリッジは炉の前で立ち尽くしていた。
先日の地震で代々使っている炉に亀裂が入り、そこから少しずつ熱が逃げ出していた。
工房内はまだ十分に熱かったが、炉内の温度は2000度から1000度にまで下がっていた。
「・・・なんてことだ…」
単純計算でも1000度上げるのに3ヶ月掛かる。
まだ4つめの器に取りかかったばかりで、今から炉を修理し改めて減少分の熱を蓄積させ始めたところで、数日納期が送れる程度では済まない。
アルドリッジは炉の中から抵抗石を取り出す。中で既に赤みを失っていた鉱石は瞬く間に蓄えた熱を放出し、室内の温度を上げる。
「だ…何も出さなくても…」
呆然と立ちすくむ父親の背中を黙ってみていたアレクシスが漸く声を発する。
「・・・納期に間に合わないなら余計なことをせずに返却しなければ…」
「納期って、シャンタル様の聖別式でしょ?まだかなりあるのに」
「・・・」
息子はまだ子供だが、既に器用さは父親に匹敵し、アルドリッジは将来を楽しみにしていた。抵抗石の性質もある程度知っているかと思っていたが、無知による励ましが落胆に拍車を掛ける。
「…この石はな…お、おいおい!まだ熱いかも知れないぞ」
アレクシスは炉から出された抵抗石に手を乗せている。最早暖かさ程度の熱しか残っていない。
「これを加工出来ればいいんでしょ?」
一瞬、アルドリッジシニアは目の錯覚かと思った。鉱石の上に乗せていた手を息子が握っていくと、その指が石の中に沈んで行くように見える。
更にその握り拳を石から離す際、抵抗石が僅かに粘度のように伸びて千切れたかのようにも見えた。
「ほら、別に熱さなくても加工出来るよ」
拳を父親の前に差し出し、開く。そこには鉱石本体からちぎり取られた手の平大の抵抗石が握られていた。
「・・・じゃあ、今まで作って見せてくれた工作品も、今みたいな力を使って作ってたのか?」
「まぁ…時々は。全部じゃないけど。」
アレクシスは数年前から謎の力を使えるようになっていたが、熱い工房で汗をかきながら金属を溶かし、打ち、かと思えば目をこらしながら細部に仕掛けや装飾を施していく父親の仕事ぶりを見るに、その力を技巧に使うのは言わば反則だと感じ、先日まで隠していた。
硬い金属から欲しい時、欲しいだけ簡単に指で取り出せ、何の器具を使わずとも望む形に形成できる。
最も父親が困っているのに耐えかねて金属をつかみ取れる力を見せはしたが、それ以外は隠したままにしている。
本人に取っても謎だが、目の当たりにした父親にとっても息子が何の力を使っているのか分からなかった。
これがマクルラードでなく、ただの金属だったら天才的ではあったとしても息子に錬金術の才能があったのだと思うだけで済んだが、錬金術を含む全ての魔力を受け付けない抵抗石を手で掴み出す力をアルドリッジシニアは聞いたことがなかった。
ともかく今は息子の力を頼るしかなく、見学でも手伝いでもなく相棒となった。
つい先日までは納期に間に合わないと絶望していたが、今や一転し、納期の遙か前に残り4つが完成しそうだった。
設計図を見ながら指示すると必要な分だけを息子が鉱石から取り出し、形を整えていくため、アルドリッジシニアはそれを組み立てていくだけで良かった。
「それにしても、抵抗石にでも使えるのが分かってたのか?その…錬金術のような力が」
「まさか、見るのも初めてだったのに。…でもだいたい同じだよ、金属なら」
「・・・その辺の鉄も抵抗石も同じか・・・居間の三つ叉の金の燭台がいつの間にか二叉になってたのは、お前の仕業か?」
「う…工作に金が必要だったんだよ」
「う~む・・・とりあえず、お前のこの力は正体が分かるまで誰にも言うんじゃないぞ、いいな?」
魔力とも思えなかったが何なのかも分からないため、神聖力を信奉するマジャリに於いてはたとえどんなに便利な力でも下手に吹聴しない方がいいと父は考えた。ましてや聖女の聖別式に使用される道具を、訳の分からない力を使って作成したなど、決して外に漏らせない。
■
空腹にふらつきながらアルドリッジジュニアは山道を歩いていた。
分かれ道にさしかかりと、坂の上に一軒の家が見えた。恥を忍んで食べ物を恵んで貰おうかとも考えたが、既に辺りが薄暗くなりつつあるにも関わらず灯りはともっておらず、よく見ると蔦にまかれ玄関のドアの片方も外れて無くなっているため、棄てられた空き家だと分かった。
日が暮れかかっているのでもう少しこぢんまりとした小屋なら多少朽ちていても一晩泊まるという選択肢もあったが、廃れた大きな屋敷は気味が悪い。
アルドリッジはそのまま次の村か町まで歩くことにした。
足を踏み外した。
地面かと思った箇所は雨で作られた窪みに枯葉が溜まった自然の浅い落とし穴で、足首を捻り倒れてしまった。
手を突こうとした先には本当に地面がなく、そのまま斜面を転がり落ちていった。
あくまでただの斜面で、明るい場所で確認すれば擦り傷くらいは出来ているかも知れないが、数メートル滑り落ちてもアルドリッジにたいした怪我はなかった。落ちるきっかけとなったひねった足も大して痛まない。
ここに至るまでにいくつもの不運不幸を経験したうえで、未だにこんな細かい不運もつきまとうのかと、大きなため息をつきながら服を払う。
ベルトに何かが引っかかっていた。
山道もかなり暗くなりつつあったが、滑り落ちた先は木々のまっただ中で、何が引っかかっているのか殆ど見えない。
箱と球体が鎖と繋がっているらしく、ベルトのツク棒にその鎖の一つに刺さって引っかかっている。
何故か引っ張っても取れないためアルドリッジは一旦それを無視し、斜面を登っていった。
元の山道に戻ったものの、すっかり歩き続ける気力が萎えてしまい、アルドリッジは考えを撤回し分かれ道の先に見える空き家で夜を過ごすことにした。
「なんだこれ?」
錆のせいできっちりとツク棒を銜え込んでいた鎖を外し、自分に付いてきた物体を観察する。
中に入ると屋敷は外観以上に荒れており、放棄されて数年程度では済まなさそうだ。そのため短い蝋燭すら残っておらず、アルドリッジはやむなく自分の荷物からランプを取り出し灯りを付ける。
錆びているのは鎖だけで、その両端にある物は古びてはいるものの形状を残していた。
一方の箱は陶器で出来ているらしく劣化を免れていたが、蝶番部分の金属はやはり錆ており開くことが出来ない。
もう一方は三連の金属の輪だったが、それらはガラスの球体に守られていたため風雨をしのいでいた。
アルドリッジはそれがなんなのか見当も付かなかったが、常に懐が寂しく、何か少しでも金に換えられるものが入っていればと蝶番の錆を直し、箱の蓋を開けた。
「なんだこれ?」
鎖、そしてその先の球体が繋がっていたのは、箱の中の珊瑚だった。
どういう目的でそんなことをしているのかは分からなかったが、アルドリッジは単純に喜んだ。珊瑚、しかも宝石として磨かれた珊瑚は十分路銀の足しになる。
現時点では空腹に悩まされているが、夜が明け町に着いて換金すれば久々にまともなものを食べられる。
取りつけられている鎖を外すため珊瑚に触れる。
「うへっ!?」
思い浮かべていた珊瑚の硬度とは全く違う感触が指に伝わり、アルドリッジは思わず声を上げた。
「なんだこれ?」
躊躇したが、念のためもう一度触れてみる。つまんでみるとくにゅくにゅと柔らかく、一瞬珊瑚が劣化するとこんな風になるのかとも考える。
つまみ上げようとして、漸くそれが珊瑚ではないことに気がついた。
箱の窪みに収められているのではなく、箱から生えている。
しかもつまむと偽珊瑚がブルブルと蠢く。
興味をそそられ、アルドリッジは漸く箱そのものを解析し始める。
「・・・ん?・・・ん?・・・え?あれ?…これ、なんか…」
箱に何らかの術が施されていることに気付く。アルドリッジは魔法使いでもなければ魔法に詳しくもないが、箱の大部分を構成している陶器が正常な状態で無いことは分かる。
更に解析を進めると、それ以上分からない部分に突き当たった。アルドリッジにとっては初めてのことだった。
かつて抵抗石を加工した時でもその構造を苦も無く解析できたが、ただの陶器の箱を解析しきることが出来ない。
ただし、箱を正常な状態に戻す方法は見つけた。
「・・・」
偽珊瑚をつまみながら考える。魔術に詳しくなくともこの場合箱を正常な状態に戻すと言うことが、掛けられている術を解くと言うことと同じであることは分かる。
ただし術がどういう効果を箱に与えているのか分からないので、解くとどうなるのかも予想がつかない。
しかも偽珊瑚が、自分の独り言に反応するように時折激しく動く。
しばらく悩んだ結果、アルドリッジは術を解いてみることにした。
魔法が使え無いどころか魔力が沸くこともない極普通の人間であるアルドリッジは解呪の呪文を唱えても意味が無く、そもそも見つけたのは解呪法ではなく箱を正常に戻す方法だった。
意識を集中すると目の前、或いは目の中に見えて来る対象の組成と構造の中にある異物を特定し取り除く。蝶番から錆を取り除くのと同じ方法だった。
アルドリッジは箱の構造の中に3つの異分子を見つけ、その全てを取り払った。
「うわぁぁぁぁぁっい!」
汚れた床にあぐらを搔いていたアルドリッジは尻を付けたまま大きく後ずさった。
異物は取り除いた瞬間いくつかの四角形で作られていた箱はバラバラと床に飛び散り、そこから裸の女が現れた。
現れた女もアルドリッジ同様に床に尻を付け、一点を見つめている。
「あ、あ、あ・・・」
2人が同時に同じような声を上げた。
アルドリッジにしてみれば現れた者が女の形状をしていることは分かるが、人間なのかどうかも分からない。
「あ、あの…」
女の方が床を見ていた視線を上げ、アルドリッジの目を覗き込んだ。
「あの・・・ちょ、ちょっとすいませんけど・・・失礼します」
アルドリッジがその意味を考えている最中に、女はその場で足を拡げ、その付け根を弄り始めた。
その時になって始めてアルドリッジは、球体と鎖が女の股間に繋がっていることに気づいた。
女は自ら股間の何処かに繋がっていた鎖を外した。一瞬、錆びた鎖を見つめ戸惑ったような表情を浮かべる。
「あの…ホントに…ちょっと待っててください」
女は股間から鎖を取り外した後もそのままそこを弄り続けている。
「うぅ~ん、はっはっはっ…」
弄り始めた直後はアルドリッジとと同じようにあぐらをかいていた女は、すぐにその場に仰向けになり、悩ましげな声を発し始めた。
アルドリッジが気づいた時点では既に濡れていた膣から指で液体をすくい取り、それをすぐ上の突起に塗り込むように指を動かし続ける。まさかとは思いつつも、アルドリッジにはその突起がさっきまで箱から生えていた偽珊瑚に見えてしょうが無い。
「はぁぁぁ~、んん~~~っ、あっ、あっ、イクぅぅぅ~~~っ・・・」
女が急に自慰を始めたことは漸くアルドリッジにも分かった。その喘ぎ声は何故か極寒の雪山を長時間彷徨ったあげく、適温の湯に身体を沈めたかのように指から得られる快感をじっくり噛みしめているように聞こえる。
「あっ、んっ!はっ、あひっ!んっ、イクっ、イクイクイクぅぅぅぅ~~~っ!!」
噛みしめていたのは開始僅かな時間だけだった。本人が口頭で発しているように何度か立て続けに絶頂に達すると、 後はがむしゃらに指を動かし、がむしゃらに快楽を求め始めた。
一時間経ち、アルドリッジは体勢を変えた女の肛門を眺めながら待っていた。その下ではまだ動き続ける指が白く蕩けた割れ目を往復している。
ここまで来るとアルドリッジとしてはどういうことなのか説明して貰わなければ立ち去ることも出来ない。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・あ、あの・・・」
女は指を動かし尻をアルドリッジに向けたまま振り向いた。
「あの、ちょっと…してくれませんか?」
「・・・え?」
「あの、ちょっと…指だけでは物足りなくて…入れてくれませんか?」
「・・・」
いや、そんなはずはないだろうと考えていると、女が指で自身の性器を拡げ、物欲しげに蠢く膣の入り口を見せつけてくる。
「・・・いや、その前に色々聞きたいんだけど…」
「わ、わかります、初対面でおかしいとは思いますけど、後で説明しますから。説明したら分かってくれるはずです」
思考操作生物が人を化かすおとぎ話の様だとアルドリッジは思う。かといって股間が反応していないわけではない。
女は見せつけるように尻をくねらせ、挿入をねだっている。
夜を過ごすために偶然訪れた廃屋敷に元々いた浮浪者の女に誘われたのならそれほど悩まなかったはずだが、箱から現れたことが躊躇わせる。
アルドリッジは恐る恐る手を伸ばし、女の尻を掴んでみた。
「あぁん♫」
尻を掴まれた女は嬉しそうに更に腰を反らせてアルドリッジに突き刺す。
尻にはしっかり体温があった。
とうとうアルドリッジはベルトを外し、取り出したペニスを女の中に突き入れた。
■
結局アルドリッジは果てなかった。
女の方は喜び、突いて貰いながらもまだ指で突起を弄り続けていたが、しばらく腰を動かしているとアルドリッジの腹が鳴り、空腹を思い出すと途端にやる気とペニスが萎えていった。
ペニスを抜くと女が悲しそうな目を向けるので、アルドリッジは仕方なく指を2本、さっきまでペニスが収まっていたいた穴に入れ、女が満足するまで自慰を手伝ってやった。
「あはっ!はあぁぁんっ、あ、ありがとうございますぅぅぅ~っ!!」
更に1時間、2時間経ち、付き合うのが馬鹿らしくなったアルドリッジは膣から指を抜き、鞄を枕に寝転がった。
女は後で状況を説明するといったそぶりを見せていたが、延々自慰を続けるのみ。ただし一点、廃屋で夜を過ごすのが怖くなくなったことだけはありがたかった。
「封印?」
「はい、あの箱の・・・あれ?無い?」
女は何故か首元を触りながら箱を探す。アルドリッジは箱がバラバラになったことを教えてやる。
一旦眠りについたアルドリッジは、漸く満足したらしい女に起こされた。まだ外は暗い。
「そうなんですか…。ということはやっぱりあなたが出してくれたんですよね」
「うん、でも人が出てくるとは思ってなかったけど。じゃあキ…あなたはあれに閉じ込められてたってこと?」
改めてよく見るとランプに照らされた女はアルドリッジよりもかなり年上らしかった。
「閉じ込められてたことに違いはないんですけど、たぶん事故か何かで…あの、今何年ですか?」
「何年…マジャリの歴でなら360年だけど」
「・・・・・・・え?・・・・・・ろ、60年?・・・360?」
女は座ったままよろめいた。廃屋の床でのたくっていたため裸のままの身体は酷く汚れている。
「・・・もしかしたら10年くらいは…と思ってましたけど・・・」
「え?10年?まさか・・・」
「もっとです。・・・20年以上いたみたいです。箱の中に」
アルドリッジは言葉を失った。自分が生まれる前から箱の中に封印されていたなどと言うことは俄には信じられなかった。
「…で、いったい誰に?」
女は自分を封印した青年についての、誤解したままの情報を伝えた。かなり優秀な魔法使いで、自分が当初弟子入りしようとした魔法使いをその青年が封印したため代わりに弟子入りしたこと。
当初は封印術を教えて貰っていたが、いつの間にか封印されたまま占術器として扱われるようになった事。
その青年が引っ越しの日以来消えてしまい、そのまま長い間箱の中に居たこと。
「そういえば…ここはどこでしょうか?私はどこにいました?」
大都市を避けて移動中だっただけのアルドリッジはこの辺りの地理に疎く、バーマ西部山中の分かれ道沿いの森の中に落ちていたことを伝える。
「バーマの西の山道ですか?・・・・・あっ!?あぁぁっ!?」
女は不意にヒザ立ちになり、廃屋の中を見回す。かなり大きな胸が目の前で揺れている。
「こ、こここ、ここヘザー様の屋敷じゃ?この近くで見つけたんですか?分かれ道で?じゃあすぐそこの…あんな所に落ちてたんですか?私」
女は急に黙りこくりなにやら考え事を始めた。アルドリッジには要領を得なかったが、この廃屋のことを知っているらしい。
自分を封印した青年に弟子入りしてからしばらくの間、女はこの廃屋で暮らしていたことをアルドリッジに伝えた。
そしてこの屋敷の近くの分かれ道に自分が落ちていたと言うことは、青年が引っ越しのために屋敷を出てすぐに自分を見失ったということになる。
「知らないですかねぇ?凄い魔法使いなんですけど…」
女は青年の名を伝えたが、アルドリッジは聞いたこともなかった。更にミルドレッドと言うもう1人の名も聞いたが、同様に知らなかった。
「で、今までの話も興味深いんだけど、何で…その、箱からでてすぐ自分でし始めたの?」
「あ・・・そ、それはですね…」
女は箱に封印されていただけでなく同時に鎖の留め金に施された術で絶頂も封印されていたことを伝える。絶頂を封じられているだけなので放置されてしばらくは何ともなかったが、時が経つにつれ時折箱の外に出ている球体を小動物らしきものに引かれたり、突風や地震らしき力で動かされたりしている内にごく僅かな刺激が少しずつ溜まっていき、そして時間を掛けて快感が蓄積されていっても決してイくことは出来ず、自身の感覚で数年経過した頃からはもし箱からでることが出来たらどこをどんな風に弄ってイこうかと言うことばかり考えるようになっていた。
「…そうしたら本当に出してもらえたので・・・恥ずかしい、でもありがとうございました」
アルドリッジには想像も出来なかったが、もし本当に20年以上封印されたまま少しずつ偽珊瑚、クリトリスを刺激され続けたのなら先ほどまでの痴態を演じても無理はないのかも知れないと理解を示す。
翌朝、目を覚ますと女はアルドリッジに抱きついて眠っていた。偶然寒くない季節だったので問題なかったが、昨夜は女が裸であることを気遣う余裕はなかった。
「ちょっと、君…あなた…おねえさん、起きて」
「・・・う・・・なんか久々に寝た気がします…」
「あの、名前はなんなの?」
「あ、すいません、リンジーです」
「俺はもう…お腹もすいてるし、すぐにここを出て町を目指すけど、リンジーはどうする?」
「ああ…どうしよう。・・・知り合いもいなさそうなんで、とりあえず君に付いていきます」
「・・・付いてって…おれ着替え持ってないけど」
「え?あ…そうか…ちょっと、何か残ってないか見て来ます」
リンジーは何か身にまとえるものがないか元ヘザー邸の中を探しに行った。
「これじゃあ…ダメですよね?」
元々何に浸かられていたのかも判別できないようなぼろ布を腰に巻いて戻って来た。胸は出したままになっている。
「・・・いいよ、置いておくわけにも行かないし、服手に入れられそうな所まで運んでくよ」
「運んで…ですか?」
アルドリッジは手頃な金属を探す。壊れた家具や床や壁など木材は多いが、金属なると以外と少ない。壁に備え付けられている燭台に手を伸ばし、必要な分をちぎり取る。
「…ん?」
リンジーはアルドリッジが何をしたのか理解出来なかった。燭台の一部がなくなりアルドリッジの手の中に移ったので、自分よりかなり年下に見えるが、凄い怪力の持ち主なのだろうかと思う。
アルドリッジは元々リンジーが閉じ込められていた箱の大きさを思い出しながら手の中の金属を変形させていく。
「・・・え?錬金術…ですか?」
「いや、良く分からないんだよ、これ」
燭台だった金属はアルドリッジの手の中で小さな箱に形を変えた。
「・・・運ぶって…もしかして?」
「悪いけど、付いてくるならここに入って貰わないと。裸の女の人連れて歩いてたら折角町についても誰も相手にしてくれないから」
「でも・・・」
折角20数年ぶりに外に出られたのに、またすぐ封印されるのはかなりの恐怖だった。
「そもそも…封印出来るんですか?」
「封印というか、この箱にどういう要素を加えれば昨日の箱と同じ状態になるかは覚えてるから」
アルドリッジはリンジーが封印されていた箱から3つの異物、封印術、四角い破片を首飾り状から箱に戻す術、取りつけたものを外せなくする術を取り去っていた。
ただし取り去った3つがどういう効果を発揮しているのかまでは分からなかったため、記憶したそれらを同時に新しい箱に戻す。
「あっ!?」
アルドリッジが何気なく箱に異分子を追加した瞬間、リンジーはまたも封印されてしまった。
箱の表面にはしっかりとクリトリスが生えている。
アルドリッジは今度はそれが何なのかわかった上でつまむ。
「昨日はこれがまさかクリトリスだとは思わなかったよ。・・・というかなんでここだけ外に出てるのか分からないけど」
つままれたクリトリスはピクピクと動く。アルドリッジは今度は1つずつ箱から異分子を取り除いていき、どれがどの効果を与えているか確認する。
「あ…だ、出してくれたんですね」
「そっか、これか。後の2つは別にいらなそうだな。…今みたい箱に仕舞ってでいいなら町まで連れて行くけど、どうする?」
「・・・分かりました、お願いします。でも、町…服屋さんに付いたら絶対出してくださいね?」
リンジーは改めてクリトリス以外を封印される。
アルドリッジは床に転がっている球体に気づいた。
「ああ、これ。これも大事なもの?というか外の音聞こえてるの?…まあいいか、一応…」
アルドリッジは球体、占術器を手に取る。昨夜は箱の方に気を取られたが、鎖の方も解析してみる。
「・・・ん、これかな?イクのを封じるのって」
鎖の先のネジバネ、更にそれを補強するリングに異分子が組み込まれていることに気づいた。気づくと同時に記憶したが、箱が壊れた今20数年一緒にいた物唯一のものなので、一緒に持って行ってやることにした。
一晩休んだものの色々あったせいであまり疲れが取れた実感もなく、アルドリッジは鞄にリンジーを仕舞い廃屋を後にした。
■
父と共同で作成した5つの器は納期の2ヶ月前に完成し、使いの男に引き渡された。
アルドリッジが生まれてから現在までマジャリの象徴たる聖女の位は空いたままで、聖別式を見たことは無い。そのため依頼された物がどう使われるのかは分からなかったが、それは父も同じらしかった。
聖別式の中止が発表されたのは、告示されていた式典の日の3日前だった。
既に首都ムラドハナには式を見ようと内外から多くの見物人が集まっており、賑わっていた。
聖別式は神聖な儀式ではあるが、一般の民衆にとっては巨大な、しかも十数年ぶりの祭でもある。それが中止になると発表され、一部では暴動が起き衛兵と衝突する場面もあった。
本来式が行われるはずだった日が過ぎ、各地から集まっていた見物人達が肩を落としながら故郷へ帰り始め、一時的に急増していた首都の人口が元に戻り始めると、今度は突然聖別式が中止になった理由が噂され始めた。
「王子との婚約が破棄されたらしいぞ」
「いや、シャンタル様が誘拐されたらしい」
「違うな、俺の妹は王宮で働いてるが、シャンタル様はご病気らしい」
聖女戴冠の儀式が中止になった以上、その候補者であるシャンタルに何かがあったと考えられた。
しかしいずれ王室から正式に中止の理由が発表されるだろうと待ち構えていた民衆に、いつまで経っても噂の解答は与えられなかった。
「・・・分かりました、納得は出来ませんが、動向はしましょう」
アルドリッジシニアの工房を数名の官憲が訪れ、王宮への同行を要請したのは中止になった式の日から一月ほど経った頃だった。
「と、父さん?」
「すまんが少し家を空ける、母さんを頼むぞ」
官憲は高圧的ではなく、むしろ速やかにことを進めたがっているように見えた。明らかに連行だが、その理由を言わない、或いは言えないため同行という形式にこだわり、本来有している強制力を行使しようとはしなかった。
以来、父が工房に戻ってくることはなかった。
時期がが時期だけに、且つシャンタルの聖別式に全くの無関係ではないため中止になった原因に関連する何らかの理由で父が連れて行かれたのではと想像は出来たが、作成した5つの器にどんな関係があるのかは全く分からなかった。
母親は何とかつてを頼りに父親への面会を要望したが、しばらくしてアレクシスと共にムラドハナを離れるようにという伝言だけが届けられた。
突然いなくなったのはアルドリッジの父だけではない。当のシャンタル自身、式の中止が宣言される数日前から王宮内でその姿を目にする者が殆どいなくなっていた。
側女の1人サビーナはその夜、いつものように掛け布団を直すためにシャンタルの寝室に向かった。季節にも因るが、特に式典を数日後に控えたここ数日は万が一にも次期聖女が体調を崩さないよう必ず見回りに行くようメイド長からきつく言い含められていた。
階を上がり、廊下を曲がるとサビーナはすぐに異変に気づいた。シャンタルの部屋の扉の隙間から光が漏れている。
数時間前就寝の挨拶をし、灯りを消したのもサビーナ自身だった。普段は眠りを妨げないようにこっそり様子を確認するが、夜中に目が覚めたのならとノックをする。
部屋の中から慌てたような足音が聞こえた。しかし返事はない。
僅かに怖さを感じたが、確認しないわけにも行かず、サビーナは声を掛けてドアを開いた。
「シャンタル様?サビーナです、入りますよ?」
入ってすぐ室内を見回したが、ありがたいことにシャンタルがベッドの上にいるだけだった。
「どうかなさいました?」
シャンタルは口元まで引き上げたシーツに潜って首を振っている。
「・・・シャンタル様?」
サビーナもこれまで見たことの無いシャンタルの様子に戸惑うが、シャンタルもまだ自分に起きた異変に気づいたばかりでどうすればいいか分からずにいた。
「え~と、あの、シャンタル様、お布団を直しに来たんですけど…何かありました?」
王宮に来たばかりの14歳の時ならいざ知らず、今ではサビーナより1つ年上のシャンタルが怖い夢を見て怯えているとも思えない。サビーナは背中にぞくぞくとした者を感じ、もう一度室内を見渡した。窓も開いておらず、やはりおかしな所はない。
「あの、どうしましょう…誰か呼びましょうか?」
シャンタルは首を振る。首を振られたところでサビーナはどうすることも出来なかった。何故シャンタルが怯えているのか分からないが、そのままにして出て行くことも出来ない。
「あの…何があったか教えて頂けませんか?」
「・・・」
かなり長い沈黙の後、シャンタルはゆっくりと顔に掛かっていたシーツを下ろした。
「・・・ぎゃぁぁぁぁ~~~~~~~~っ!!!」
つい先ほどまで放っておけないと思っていたサビーナは、悲鳴を上げながらシャンタルの部屋から逃げ出していった。
シャンタルはサビーナを呼び止めることも出来ない。シーツの下には口がなかった。
その夜の内に、王宮には普段深夜呼び出されることなど決して無い高位の官吏が集められた。サビーナからメイド長、メイド長から典医と、自分の手には負えないと判断されるごとに立場が上の者が呼び出され、とうとう宰相ヨドークス、果ては大家令ヴィレメインまでが呼び出された。尤もヴィレメインは高齢のため、その夜の内に王宮に到着することはなかった。
この夜に限らず、元々宰相であるヨドークスが最高責任者には間違いなく、王子、或いは国王にまで至急連絡するべきかを迫られる。
「ま、まて。王にお伝えする云々の前に、私にしっかり説明してくれ。…シャンタル様の…口が消えた?」
尋ねられているのはメイド長だった。サビーナはやや落ち着きを取り戻し、シャンタルに付いている。他の交換も聖女の一大事という連絡を受けて集められたままで、詳しいことは分かっていない。
「・・・はい、あの…」
メイド長は言いにくそうに口ごもる。1つは普段接することのない錚錚たる面々に囲まれて緊張している。もう一つは純粋に内容を口にしにくい。最後に聖女とは言え同じ恩亜である以上、多くの男に秘密を知られたくないのではという配慮。
メイド長は恐れ多いと思いつつも、ヨドークスの袖を引き、物陰に連れて行った。
「・・・口だけじゃないんです。」
「ん?」
「口と…その・・・・・女の部分というか…足の間というか…その辺りが全部無くなってるんです?」
「?・・・いったい何を…これだけの面々を集めておきながらそんな説明では済まされんよ」
「あの…宰相様だけシャンタル様のお部屋に…というわけには行きませんでしょうか?」
「何故だね?次期聖女の大事というならここに居る全員が知った方がいい。対処のしようがないじゃないか」
「そうなんですけど・・・」
メイド長は意を決し、顔を真っ赤に染めながら典医と共に自身が確認したシャンタルの状況をヨドークスに伝えた。
「・・・・・確かなのか?」
「は、はい…ですからあまり大勢ではシャンタル様が…」
「む、むう・・・」
ヨドークスはいらだちを見せ始めている高官達を宥め、メイド長と2人でシャンタルの寝室に向かった。
部屋にはサビーナと典医がいた。しかし何をするわけでもなくただベッドの脇に立ちすくんでいる。
ヨドークスが入って来たのを見てシャンタルは怯む。サビーナとメイド長はともかく、典医に見せるのも躊躇われた。
「メイド長から話は聞きましたが、シャンタル様…その、本当なのですか?」
シャンタルは頷き、口元を隠していたシーツを引き下ろす。ヨドークスは目を見開いた。
シャンタルの口は消えていた。肌で本来口があるべき部分が埋まっているのではなく、消えている部分が白い何かと置き換わっている。
「いったい…その…下も同じ状態というのは?」
シャンタルは躊躇った後頷く。
「・・・手は使えるのでしょう?何があったかのか書いて頂けませんか?」
室内にいるヨドークス以外の4人はおのおの顔を見合わせた。狼狽しすぎてたった今指摘されるまでその方法を思いつかなかった。
シャンタルの説明は単純だった。
夜息苦しくて目が覚め、口を触ってみると触れるはずの唇がない。慌てて部屋の灯りを付け鏡を見てみると口がなかった。その後下半身にも違和感があり、確認してみるとそこも口と同じように白い何かと置き換わっていた。
シャンタルはわざわざ伝えなかったが、口がないことに気づいた瞬間驚きと恐怖で失禁した感覚があったにも関わらず、腿に何の感覚も伝わらなかったため下半身の異変に気づいた。
「・・・そちらも確認させて頂いてよろしいでしょうか?恐縮なのですが…」
シャンタルはまごついたが、事態を解決するために宰相たるヨドークスの力を借りないわけにはいかず、おずおずとベッドの上で足を拡げ、就寝用ローブの裾を開いた。
「これは、いったい何故…」
シャンタルのクリトリス、尿道、膣口、肛門は、口同様何かに置き換わり、そこに存在していなかった。
下着のような形でまとめて消失していたのならシャンタルの恥ずかしさも多少軽減されたかも知れないが、それぞれの部位が独立して消失している。特に性器に関しては大陰唇はしっかりと残ったまま、その割れ目の中にある3カ所が消えてしまっている。
口も含め本来の形状のまま白い物質に置き換わっているのではなく、穴の場合は穴が埋まる形で、突起の場合は突起が無くなる形で平になってしまっている。
本人がこの事態に気づいたのが既に事が起きた後である以上、この時点で誰にも原因が分かるはずもなく、ヨドークスが聖別式の中止の手配を始めるのが精一杯だった。
王宮の外で式典中止による騒動が起こり理由が噂されるのと同じように、内部でも衝突や憶測が広がっていった。
王や王子にも自体が報告され、取り分け婚約者である王子は犯人を見つけるよう息巻く。
しかし犯人以前に、シャンタルに起こっていることがどういう現象で、どういった経緯で起こり、人為的な物なら目的は何なのかといったあらゆる事が分かっていなかった。
神官や、普段王宮内に呼ばれることのない魔術師なども呼び寄せられ意見を聞かれたが、推測は口にするが解決策を口にする者はいなかった。
国民に現状を伝え情報を求めるべきだというヨドークスと、希有な存在である聖女の名に泥を塗るような情報は公表すべきでなく、迅速且つ秘密裏に自体を解決し、日を改めて聖別式を執り行うべきだという大家令ヴィレメインのという、国王に次ぐ権力者2人の対立も起こった。
ヴィレメインはまず高官以外でシャンタルに起こったことを知るものを全て隔離するよう命じ、そこにはサビーナやメイド長、典医も含まれた。
更に事が起こった前後でシャンタルの周辺にごく些細でもおかしな事が起こらなかったか徹底的に調べさせた。
直近に不審な点がなければ少しずつ期間を拡げていき、その過程で1年前保管庫から一塊のマクルラードが盗み出され、現在も捜査中であることが衛兵から報告された。
これによりシャンタルの喪失事件に関連して秘密裏に逮捕された者の中にアルドリッジシニアも含まれることになった。
王子は当然ヴィレメインに同調し、シャンタルを実の娘同様可愛がっていた王も犯人がいるなら捕らえて元に戻した方がシャンタルの名に傷が付かないと、犯人捜しより広く解決策を募るべきと言うヨドークスをたしなめる立場に回った。
王、王子、大家令の連携には宰相といえど対抗できるはずもなく、ヨドークスは引き下がるしかなかった。
シャンタルの状況を隠すと決まった時点で国民への発表は病気とするしかなくなった。
ヨドークスは別宅の地下室で強めの酒を注いだクラスを手に持ったまま口を付けず、考え事をしていた。
ヨドークスとしてはさっさと次期聖女が聖女になれなくなったことを公表し、王子とシャンタルの婚約以降国民の中に沸き上がっていた期待感を消し去ってしまいたかった。
そのままグラスをテーブルに置く。そこには5つのマクルラード製の容器が置かれていた。
ヨドークスは蓋をされているそれらの容器の1つを開く。
容器には全て個別の強力な施錠術が施されており、魔法を使えないヨドークスは施術者から解錠のためを咒器を渡されていた。
開かれた箱には小さなピンク色の粒、聖女のクリトリスが収められていた。
ヨドークスにはこれら5つの容器に使い道があったためこれまで保管するのみで手は出さなかった。しかし、ヴィレメインを始め王達がシャンタルを病気として国民から隠し、時間稼ぎをしながら犯人捜し、或いは解決法探しをすると決めたため、ヨドークスは手中にあるシャンタルのパーツを使いその計画を破たんさせることにした。
シャンタルは王宮に新たに作られた専用の部屋に幽閉され、手足をベッドに縛り付けられたまま生活をするようになった。サビーナとメイド長はこの状態のシャンタルを専属に世話するために取り調べから解放された。
身体の部位を失った直後は戸惑い怯えていたが、事態がすぐに解決しないと悟った後は何とか気丈に振る舞っていたシャンタルだったが、ある時を境に突然発作的に苦しむようになった。
失った5つの部位の内4つが集中する局部を、人目がある中でも掻きむしりながら床に倒れ、のたうち回る。
局部の中でも更に局所的に各部位が消えており、大部分の皮膚は残ったままなので爪を立てて引っ掻くと傷が付いてしまうためシャンタルは縛られざるを得ず、本人も抵抗しなかった。
常時苦しみ続けているわけではなく、異変を感じたら自らベッドへ向かいサビーナ達に拘束してもらう。
これによりシャンタルの局部が白く封印されているわけではなく、奪い去られて何処か別の場所に存在していると言うことがはっきりした。
口がないため悲鳴は発せられないが、喉からくぐもった振動が漏れてくる。
苦痛による呻きが多いが、時には表情から険しさが消え、頬を赤らめながら喘ぐこともある。
世話をするサビーナ達はシャンタルの性器がどういう状態になっているか知っているため、喉から漏れる音声で何処かにあるシャンタルの性器に何が起こっているのか推測することが出来た。
突然腹が膨れ出したりする時には腰紐を緩めてやり、元の大きさに戻るまで沸き続ける脂汗を拭ってやったりもする。
ヨドークスは所有するシャンタルのパーツに様々な刺激を与え続け痴態を晒させることによって現在の状態をまず王宮に出入りする貴族や閣僚達に隠せなくしようと考えた。
事件当夜に呼び出された者達の中にもシャンタルに何かが起こったことは分かっていても、その詳細は知らされないままでいる者もいる。
閣僚にはあまり期待は持てないが、口が軽く日がな一日お喋りに興じている貴族の婦人達に話が伝われば、そこから民衆の間にもシャンタルの話が広まる可能性は高い。
後に使い道があるため傷を付けるようなことは出来ないが、クリトリスや膣に薬品を塗ったり、肛門に浣腸したりと言った責めをヨドークス自身が行う。事が事だけにどれだけ長く仕えているいる臣僕にもにも任せられず、アルドリッジシニアの元に使いに行かせた数名は既にこの世に存在しない。
全て娘を王子に嫁がせるためにヨドークスが計画したことだが、そのきっかけはたまたま入手するに至った1つの箱だった。
cpfull
■
山道を下りきり、町に着いたアルドリッジは小さな食堂で漸く腹を満たした。
マジャリに戻るまで可能な限り路銀を節約しようと宿に泊まることは殆ど無かったが、もう一度リンジーに話を聞きたかったためやむなく1日だけ部屋を借りることにした。
「ほ…」
封印から数時間で約束通り解放されたリンジーは安堵する。
ヘザー邸から最も近い町パダデシに付いたことを知ると白い尻をアルドリッジに向け窓から外を眺める。リンジーの故郷でも無ければ特に思い出があるわけでもないが、多くの人や建物が集まっている風景事態が懐かしい。
「服なんだけど、リンジーお金…持ってるわけないよね?」
「う…持ってませんけど、立て替えてもらえませんか?」
「立て替えるって、服買ったらそこでバイバイじゃないの?俺は行くところがあるから2度と会わないと思うんだけど」
「え?そ、そうなの?私は…私はどうしようかな?すっきりしたからここに運んでもらう間に考えてたんだけど、やっぱり故郷に帰ろうかな?」
「俺もここに着くまでの間に考えてたんだけど、昨日言ってたよね?リンジーを封印した人が魔法使いも封印してたって」
「ミルドレッド様のこと?うん、最初はその方に弟子入りしようと思ってたんだけど、結局お会いしたことはなくて…」
ミルドレッドの全体は見たことは無かったが、発見時にそのクリトリスだけは目にしていた。
「その箱を探したいんだけど、手伝ってくれない?」
「探す?・・・そう言われると、確かに…どこにあるんだろう?まだあの方が持ってるのかな?それとも私みたいに…」
リンジーは裸のまま考え込み始めた。
アルドリッジはマジャリに戻り亡き父の汚名を注ぎたかった。母が心労に因って無くなり2年は生活のため耐えたが、何の理由も分からないまま直接間接含め家族をマジャリに奪われ、復讐の手段が無いまま怒りだけで故郷に戻ろうとしていた。
ミルドレッドの性質を知らないアルドリッジは、その魔法使いを助け出せば力を貸してくれないだろうかと考えていた。
「占い師だって言ってたよね?…封印されてまで術器くっつけられてたし。占えない?」
「占い…そうか、占い師だった私。長いことやってないけど…ちょっとやってみようかな。言われて見ると私も気になるし」
アルドリッジは鞄から球体の占術器を取り出す。リンジーが正しく使い場合は鎖の先に指輪が繋がっているはずだが、今はクリトリスに取りつけるためのネジバネに置き換わっている。鎖は錆びたままだったのでそれを取り払い、更にくすんで透明度が下がっていた球体部分のガラスも新品同様にして返してやる。
「それ、錬金術だよね?あれ?違うんだったっけ?」
「違うよ。俺魔法使えないし」
アルドリッジの力の影響範囲は鉱物由来の物体に限らず、作ろうと思えばリンジーの服を作ることも出来る。しかし父親の技術を見て育った為技巧を用いる装飾品の類いならば並の職人以上の物を作り出せるが、仕立ての知識も技術もないアルドリッジではまともな衣装を作り出すことは出来ない。また、原料は必要なため借りた部屋のカーテンやシーツを無断で拝借することにもなる。
リンジーは鎖をつまみ、球を垂らす。揺れる占術器を感慨深げに並べる。かつては絶大な自信を持っていた占術だが、本来の方法はもとよりクリトリスを使っての占いすら久しい。
「地図ありますか?」
アルドリッジは自分がマジャリに戻るために使っている地図を渡す。リンジーは地図の上で手を動かしながら、振り子の揺れと三連の輪の動きに集中し始める。
「・・・久しぶりだけど出来るかも・・・。
…ふむふむ…あら?…う~ん?やっぱり…でも…」
リンジーはぶつぶつとつぶやきながら振り子を目で追う。振り子やリングはしっかりと反応を示しているが、その示す結果をいまいち信用出来ずにいる。
「・・・そんなとこに…う~ん…」
「ねえ、見つかったんじゃない?」
「見つかったことは見つかったんだけど…ちょっと自信が…」
リンジーは球が示した地点を指で差す。
「こんなに近く?」
リンジーが指さした地点は現在いるパダデシから西の山中、もし旧ヘザー邸で占っていたならそこからの方が誓い地点だった。行くとすれば途中まで来た道を引き返すことになる。
「あのぉ、占いにはもともと凄く自信があったんだけど…もしかしたらこれは外れてるかも…」
今度はアルドリッジがしばらく考え込む。リンジーの占いの的中率は分からないが、手ぶらでマジャリに戻ってもどうしようもないことは分かっている。
「いいよ、近いんだし行ってみる。…悪いんだけどもう少し付き合ってくれる?」
「行ってみる?いいよ、腕が本当に錆びちゃってるのか気になるし」
「ありがとう。もし外れててもお礼に服はプレゼントするから。
…それで、前に封印した人はリンジーを占術器として使ってたんだよね?俺もそうしていい?」
「…え?」
「どうせこの場所…」アルドリッジは地図に印を付ける「ここに行くまでは箱に入れて運ぶんだし、この辺りに付いたらもっと細かいところまで占って貰わないといけないし」
「は、はぁ・・・終わったらちゃんと出してね?」
リンジーを箱に封じたアルドリッジは今朝方通ってきた道を引き返す。リンジーはこの辺りの出身では無いため土地勘がなく、アルドリッジもリンジーを発見した分かれ道からパダデシに至るまで、占いで示された地点に向かいそうな分岐を見かけなかったため、一旦目的の場所に近い旧ヘザー邸に戻ることにした。
まだ日が明るい内に件の分かれ道にさしかかると、アルドリッジはふと思い立って斜面を下り、リンジーを拾った場所の周辺を探してみた。
伸び放題の草をかき分けていると、かつては恐らく布だったのだろうとかろうじて判別できる何かが張り付いた、まばらな白骨を見つけた。
リンジーの占いが示した場所とは違うものの、念のためその周囲を更に捜索してみたが箱らしきものは落ちていなかった。
「・・・そうなんだ、そんなに近くにあったならたぶん間違い無いのかも。・・・何かあったんだとは思ってたけど、まさかそんなことに…」
ヘザー邸に付いたアルドリッジはリンジーを箱から出し、ついさっき見つけた物について教えてやる。
リンジーにとっては20数年間自身を封印した相手だが、それでも死を知らされると気を落としている。
「もしかしたらリンジー以外の物もその辺に落ちてるんじゃないかと思ったんだけどね。落ち込んでるとこ悪いけど道があるのかどうかも分からないから明るい内に向かうよ?
それで、ここから先は逐一道順を占い続けて貰いたいから、ちょっと箱を新しくするね。ここなら勝手に使える素材がいくらでもあるし」
アルドリッジは先に円形の文字盤だけを作り出しリンジーに手渡す。
「えっと…これは?」
「外からの声は聞こえてるんでしょ?だからリンジーは占いの要領でこの文字盤の文字を術器で差して受け答えして欲しいんだけど、出来そう?」
「・・・たぶん出来る…と思う」
「それから、あの球体じゃないと占いできない?大きいから文字を差すのに向かないんだけど」
「他のでも出来るはずだけど、あれを壊される…というか形を変えられちゃうのはちょっと…ウチに昔から伝わる物だから…」
アルドリッジは球体の占術器には手を加えず、新たな占術器をリンジーの目の前で確認しながら作り出した。
昨夜ここで作った箱だけでは素材が足りないため、室内のがらくたの中から必要な分を補充する。
「じゃあ出たばかりで悪いけどまたしばらく封印されて貰うよ」
アルドリッジは既に作っている占術器と文字盤を合わせ、リンジーを新たな器に封じ込める。
魔法使いでないアルドリッジの封印は主原料、この場合鉄に、既に最初の分解時の時点で記憶している、術を施された物質の構造変異部分を転写することで行われる。この操作は展延性や融点、熱伝導率と言った要素に封印という因子を加え、言わば”リンジーだけを封印する”という特性を持った新たな合金を作り出しているのに等しかった。
そのため前封印者が施した術による構造変異しか知らないアルドリッジはリンジー以外の人物を封印する事は出来ず、”リンジーを封印する為の合金”で何かを形作る場合、必ずリンジーを封印しなければならない。
リンジーはアルドリッジが新しい器を作り出している最中に既に手の中の合金に吸い込まれ、その上で完成品の一部として組み込まれた。
「・・・うん、この方が断然使いやすい」
どんな過程を経ても最終的に唯一顔を覗かせているクリトリスをつまむ。そのクリトリスにはもうネジバネは取りつけられておらず、代わりに極細い鉄線が表面で編み込まれ、よりしっかりと鎖と占術器を支えられる様になっていた。
アルドリッジはぐいと鎖を引っ張ってみる。
『ぴ!?ぴくぅぅぅ~~~~~っ・・・』
鉄線が食い込んだクリトリスからはかなり力を入れて鎖を引いても外れることはなく、クリトリスの方が一方的に引き延ばされた。
「リンジー、ちょっとびっくりすると思うけど我慢してね」
アルドリッジは器を親指と中指でつまみ、人差し指で本来蓋があるはずの位置にある物を押し下げていく。
新たな封印器には蓋がなく、代わりに回転する円形の刷毛に置き換えられていた。
器が新しくなっても相変わらずリンジーのクリトリスは裏筋を天井に向けて反り返りながら占術器を吊りしており、回転刷毛を下げていくとちょうどその部分に当たる。
『ぴく?ぴく?ぴっ…!?ぴっっっ!!ぴくぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~っっっ!!!』
高速で回転する刷毛が無防備な裏側に触れさすり上げ始めると、リンジーのクリトリスはビクビクと蠢き始める。前後、或いは上下はもとより、刷毛の幅が広いため左右にも逃げ場はなく、アルドリッジの力は金属や木、布や紙などの固形物に影響を与える事は出来ても液体や気体は扱えないため潤滑剤を生成する機構は作ることが出来ず、刷毛もクリトリスも乾いたままサラサラと、根元から先端方向へ延々くすぐられ続ける。
「せっかくだからこういうのを取りつけてみたんだけど、どんな感じ?このままでも占いできそう?」
アルドリッジは占術器の下、器と一体になっている文字盤を中止する。版には一文字ずつの他、予めハイとイイエの選択肢も書かれている。
クリトリスを磨き続けられながら一文字ずつ指し示すのは無理でも、二択なら出来るのではないかと期待しながら見守る。
cf03
占術器は震えるクリトリスに合わせてしばらくブルブルと小刻みに揺れるだけだったが、やがてゆっくりと”ハイ”の方向へ移動した。
「う~ん、一応出来る…のかな?イケなくする術も組み込んでるから、しばらくこのままにしておこうかな。頑張ってこのまま道案内してみてよ。ちゃんと箱が見つかったら刷毛をどけてあげる」
『ぴっ!ピクピクぴくぅぅ~~~っ!!!』
中のリンジーは思わぬ絶頂封印くすぐり責めを施され、腰を振りながらクフクフと楽しくないのに込み上げる笑いを堪えている。
回転によって与えられる刺激は止まるどころか途切れる瞬間がなく、全く休む間を与えない。
『くひゅっ、くひゅふふふっ、んやぁぁぁ~~~~っ!!こんなのしなくでいいのにぃぃぃっひひひっっ!!』
アルドリッジは占術を用いた道案内器となったリンジーを持ち、今度こそ旧ヘザー邸を後にした。
ヘザー邸、西のパダデシ方面、北方面と分かれている分岐を僅かに北に戻ってから、歩きやすそうな斜面を選んで森の中に入っていく。
「時々方向が間違ってないか聞くから、ハイかイイエで教えてねリンジー」
リンジーはこそばゆいクリトリスに意識を集中して文字盤のハイの上に振り子を向ける。刷毛を止めてくれればもっと簡単に答えられるのにと思いながらも案内器の役割をしっかりと果たす。既に30分は経過しているが、絶頂を封印されているため1度たりともイってはいない。刺激と言っても明らかな快感ではなく圧倒的にくすぐったさが勝っている。
アルドリッジは元々クリトリスに填められていた補助リングから絶頂阻害術を抜き取り、それを封印術や対象識別術とまとめて新たな箱に転写しているため、占術器やクリトリスに絡みついている鉄線を外されても箱の中に居る限り絶頂は出来ない。それが分かっているため正しく道案内が出来た場合も刷毛はどけてやるが、イかせてやるとは言っていない。
しばらく斜面を登っていく。
木が鬱蒼としているため道を外れるとすぐに薄暗くなるが、それを伝って上っていく為生えてなければないで困る。
地図は縮尺が大きいため目的地近くでは役に立たず、鞄にしまってままになっている。
更にしばらく登ると、獣すら放棄したと思しき細い道にたどり着き、一息つく。
「ふう、なんか一応道っぽいとこに出たけど、ここ進んでよさそう?」
ぴくぴくと震え続けているリンジーのクリトリスが文字盤のハイを指し示す。
くすぐったさから逃れようと中のリンジーはキュッキュと肛門を締めながら腰をかくつかせている。少しずつ快感が蓄積されイキたくなる瞬間があるが、術による阻害以前にこそばゆさそののもが絶頂に必要な快感を分散させているため、結果的に二重に阻害されている。
アルドリッジはリンジーのクリトリスを信じ獣道を進む。斜面を登る必要がなくなっただけで足下が良くなったわけではなく、何かに躓いて転んでしまわないよう慎重に歩く。
分岐などあるはずもないが、本当に合っているのか心配になる度にクリトリスに尋ね確認する。
尋ねられる度にハイを示していたクリトリスが、ある地点でイイエを差す。
「ん?通り過ぎた?・・・じゃあこの道沿いじゃないのか…どっち?」
二択では指示できず、リンジーのクリトリスは西を表す4文字を順に差していく。獣道が南北に走っているため道を外れるなら東西しかなく頭文字だけでどちらかは判断できるが、リンジーのクリトリスが刷毛の細い毛の中に埋もれビクンビクンと跳ね回りながらも律儀に全ての文字を示していくのが可愛らしいので全てを巡り終えるまで見守る。
獣道から外れ、今度は東へ斜面を下っていく。
すると大きな岩の影に、その岩自体を利用した建物が見えた。ただし木製のその建物はヘザー邸よりも更にぼろぼろに朽ちており、屋根は全て無く壁も殆ど剥がれていた。
「これかな?なんかあったよリンジー、ここであってる?」
リンジーのクリトリスはハイを示す。
アルドリッジはその建物に入ろうとしたが、かろうじて残っている床も腐っており最初の一歩を乗せることもままならなかった。
平行を保つため斜面から数段が階段になっており、一応形を残している手すりも信用出来ないため獣道を進む時よりも慎重に歩を進める。
入り口の扉も最早無く、階段を上りきるとほぼ中が見渡せた。
「・・・あぁ、ここ…盗族の隠れ家?」
外から見える中も朽ちてはいたが、ヘザー邸のように様々な物が盗み出されて荒らされているわけではなく、かつて人が利用していた状態のまま年月が経っていた。
錆びた武器類や檻なども見え、それらを目で追っていたアルドリッジは床の上にまたも白骨を見つけた。
ギシギシと鳴る床を慎重に歩きながら、アルドリッジは外同様の中へ入っていく。大きな建物ではなく、床に散乱している木片の量から考えても元々2階があったとは考えにくい。
「そうか…ここを使ってた奴らに襲われて?」
アルドリッジはリンジーの元封印者がヘザー邸のすぐ近くで骨になっていた原因を推測する。盗族に襲われ殺されたのだとしたら、荷物を奪われここにある可能性も高い。
「リンジー、ここのどこにあるかまで占えたりする?」
リンジーのクリトリスはぷるぷると蠢き、やがてイイエを示す。
「・・・それは…占えないって事?それともこの中にはないってこと?」
クリトリスは臨機応変に文字盤の”2”を示す。
「この中に保管されてるわけでもないのか…そりゃ盗族なら盗んだもの保管はしないか」
アルドリッジは一歩一歩が危険な建物内を探さなくて済み、ほっとしながら外に出る。
「でもこの近くにあることには間違い無いよね。リンジー、文字盤仕舞うから今度は直接振り子で道案内してくれる?」
中のリンジーは文字盤が仕舞われてしまう前に急いでクリトリスを動かし、どかして、と伝える。
時折尋ねられるだけならまだしも、クリトリスを磨き続けられながら常時方向を占い続ける事は無理だと訴える。
「やっぱりこのままだと無理?…しょうが無いなぁ、刷毛どけてあげるから占いよろしく」
アルドリッジも悶えるクリトリスの可愛らしさよりも実用性を優先せざるを得ず、道中数時間リンジーの裏筋で回り続けていた回転刷毛をどかしてやる。
『ぴ、ぴぅぅぅ~~~・・・』
ギュッと引き締まったまま震え続けていたクリトリスはくすぐりから解放され、だらりとだらしなく垂れ下がる。
アルドリッジはそこをつついて急かす。
「刷毛どけてあげたんだから休んでないで箱の場所探して。日が暮れるまでに見つからなかったら夜が明けるまで刷毛くっつけたままにするよ?」
『ぴくぅっ!』
リンジーのクリトリスは慌てて引き締まり占術器を揺らし始めた。
アルドリッジが回転し、進むべき方向に向くと前後に揺れる。それを頼りに少しずつ朽ちた盗族の隠れ家から離れていく。
「えぇ!?ここにも?」
導かれている最中、アルドリッジはまたも白骨死体を発見する。綺麗に骨が残っているわけではないが、微かに残っている衣服や体勢で人の物だと分かる。
「何なんだ、仲間割れでもしたのか他の盗族に襲われたのか…」
クリトリスは死体周辺に反応を示さなかったので、アルドリッジはそれを無視して探す。
アルドリッジの軽い予想はどちらも当たっていた。リンジーの前封印者を殺害した後、ヘザー邸からめぼしい貴金属類を盗み出した盗族はすぐにそれらを売り払い金に変えたが、直接封印者を殺害した方の盗族はその間に自分が奪った物だけを隠していた。
しばらくして殺した相手から奪った荷物もあった事を思い出した相棒と口論になり、相棒を殺してしまう。
その後ヘザー邸に目を付けていた他の野盗に隠れ家を襲われ、逃げ出している最中に矢で打たれ、封印者の荷物を隠した方の盗族も殺されて仕舞った。
隠していること自体を知らない野盗集団は得る物無く立ち去り、以来アルドリッジが掘り起こすまで封印者の鞄は土の中に埋められたままになっていた。
「・・・ホントにあった。凄いんだね、リンジーの占い」
アルドリッジはクリトリスを撫でて誉めてやる。特に何の目印も無い、占術器が示した地面を数十㎝掘ると木箱が、そしてその中から肩掛け鞄が現れた。木箱に収められていたこともあり、布製ではある物の地表の白骨死体達が纏っていた服よりもかなり保存状態はいい。
その場で鞄を開ける。中は殆ど空だったため、すぐに目的の箱が目に入った。
2つ。
「あれ?・・・リンジー、箱が二つあるよ?」
『ピク?』
「一つは魔法使い…ミルドレッドだっけ?でしょ?もう一つは?」
『ぴくぅ…?』
かつてヘザー邸で暮らしている際も最初にミルドレッドのクリトリスを見つけただけで、引っ越しが近づくにつれ殆どの時間を封印された状態で過ごす様になっていたため、その間に前封印者が誰かを封印していたとしてもリンジーには分からない。しかし、普通に考えれば1人思い当たる人物がいる。
『ピクッ!ピクピクッ!』
リンジーはクリトリスを動かし、もう一度文字盤を出して欲しいと訴える。アルドリッジはリンジーが何を言いたがっているのか分からなかったが、何を言いたがっているのか確認するために結果的に文字盤を拡げてやる。
リンジーはまず二択で確認できる占いを始める。
『鞄の中に箱が二つあります。一つはミルドレッド様、もう一つは…ヘザー様ですか?』
刷毛にジャマされていないクリトリスの先の占術器は滑らかにハイを示す。文字盤は見えないが、クリトリスが引かれた方向で占いの答えが分かる。
予想通りミルドレッド以外の箱に封じられているのがヘザーだと分かると、リンジーは一つずつ文字盤の文字を差していき、アルドリッジに結果を教える。この場合リンジーは盤上の”H”の文字は何処か、”E”の文字は何処かと占っていき単語を作る。
「H、E、A…ヘザー?ヘザーって言うと…あの廃屋の持ち主?そっか、持ち主なら封印されてても不思議じゃないか…結構悪い奴に封印されちゃってたんだね、リンジー」
ミルドレッドの場合、リンジーも悪名を聞き及んでいたため封印されても仕方が無いと思っていたが、屋敷の持ち主まで封印していたとなると悪い人間じゃないという考えは間違っていたのかも知れないと思い直し始める。
出身国も世代も違うアルドリッジはヘザーの名を聞いても屋敷の持ち主としか理解出来ない。
片方がヘザーだと分かってもそれがどちらの箱なのかは分からないため、アルドリッジは両方の箱も開いてみようとする。
しかしどちらも開くことが出来なかった。
「あれ?鍵?…錆び?・・・違うな…もしかして魔法がかかってる?」
アルドリッジはリンジーの封印を解いた時の様に箱を探る。しかし蓋に鍵を掛けている不純物を見つけることは出来なかった。魔法に詳しくないアルドリッジは物体に施す術と物体の周囲に張る術の区別が付かず、残念ながら前封印者が箱に施した施錠術は物体そのものでは無くその周囲に張る魔法だったため、アルドリッジの力では解くことはおろか見つけることも出来なかった。
「・・・だから売らずに埋めてたのか?」
今度の推測は間違っていた。盗族の片割れは相棒に黙って鞄の中にあった三つの箱の内の一つを盗品商に持ち込んでいた。盗賊自身はアルドリッジ同様施錠されている蓋を開けられなかったが、盗品商には魔法で施錠されている品も数多く持ち込まれるため、それらを解呪するために専門の魔法使いがいる。
市販されている魔法に因る施錠は簡単に外され、中を見た商人は驚きヘザー邸から盗み出した他のどのお宝よりも高く買い取ってくれた。
そのため片割れは何かの時のために相棒の目から他の箱を隠し、地中に埋めていた。
「リンジーでも流石に魔法の解き方は分からないよね?まあいいか、本当に見つかったし、町に帰ろう」
リンジーのクリトリスが、分かる、と答える前にアルドリッジは文字盤を閉じてしまった。
「とりあえずホントに見つけてくれたから町までこのままにしておこうか。それとも着くまでの何時間かまた撫でられ続けたい?」
『ピクゥ!ピクゥ!』
リンジーはクリトリスで抗議するが、アルドリッジは結局回転刷毛を裏筋に当ててしまう。
『ピクゥ~っ!?ピクピクピクゥ~~~っ!!』
「言い忘れてたけど、覚えた特性を全部まとめで新しい箱に移しちゃってるから、封印されてると俺がイかせてあげようと思ってもイケなくなってるんだよ。宿に戻ったら出してあげるから、どうせならそれまで焦れてた方がいいでしょ?」
『ぴくぅぅぅ~~~っ!!!』
■
「・・・そんな状態を4年も隠していたんですか」
聖女騎士に任じられたパトリスは隊長からシャンタルについての事実を聞かされた。
「公表できる内容ではない。これからは君にも秘密を守って貰う事になる、いいな?」
「はい。・・・しかし…」
「言わなくていい、その続きは。まさにそれが君の仕事になる」
眉間に皺を寄せていたパトリスはハッと隊長の目を見る。
数ある騎士の役職の中でも聖女騎士は常設職ではなく、聖女がいる次期にしか置かれない。シャンタルの場合は王子と婚約した辺りから選りすぐりの数名が選び出される様になっていた。
元々少女時代から聖女にまつわるおとぎ話に憧れていたパトリスはシャンタルが次期聖女と取りだたされた頃から聖女騎士になるべく腕を磨いてきた。
しかし叶わぬままシャンタルが病に冒され、その時点では腕は立つものの一介の騎士に過ぎなかったパトリスは真実を知ることなく、聖女を心配しながら悶々と腕を磨いていた。
シャンタルが戴冠どころか公務すら行えない状態になったため聖女騎士の数は大幅に減らされたが、それでもパトリスは機会を狙っていた。
「では…私がシャンタル様のその…行方を捜していいんですね?」
「君1人ではなく3名ほどで行動して貰うが、そういうことになる。今の我々は聖女様を守るのではなくお助けするために集められていると思って貰いたい」
パトリスに取っては願ったり叶ったりだった。もとより苦しむ聖女に寄り添うよりもその根源を取り去ってあげたいと考えていた。
尤も任命され、この日事実を知らされるまでは何らかの重病だと考えており、まさか探すことになるのが治療法や薬ではなく口と性器と肛門だとは思ってもいなかった。
「5年間で我々が調べた資料がとなりの部屋にある。目を通しておいて貰いたい。残念ながらそう多くないので時間は掛からないだろう」
シャンタルの状態に関する調査は数年前、逆臣ヨドークスの死体が発見されてから漸く本格的に進み始めていた。
国民は今なおヨドークスが逆臣であることも真の死因が殺害によるものだった事を知らず、資料を読むまではパトリスも同様だった。
宰相暗殺の捜査は秘密裏に行われていた。シャンタル事件から3年近く経過していたためすぐには関連づけられなかったが、別邸の地下から盗み出され行方が分からないままになっていた抵抗石の塊が見つかった。
それによりシャンタル事件初期にヴィレメイン主導で行われた捜査で逮捕された者達の中にいた、王室からの依頼でマクルラード製の器を5つ作って献上したという鍛冶職人の供述が掘り起こされた。
男は既に獄中で死亡していたため再聴取することは叶わなかった。
男が逮捕された時点で抵抗石は重大な盗難事件として捜査されていたため、聴取時は盗難犯が王室の名を騙り男に依頼したものと考えられた。
シャンタル事件と抵抗石盗難事件に関連が見え始め、男は犯人とは思われなかったもののそこに繋がる重要な参考人として家に帰されることなく拘留され続けた。
しかし作成した容器の詳細な形状や依頼しに来た男達の人相など詳しい取り調べを始めようとした矢先、鍛冶職人の男は心臓発作を起こし死亡してしまう。
作成した容器の形状だけでも聴取が終わっていればそれらが奪われたシャンタルの口、陰核、尿道、膣、肛門にピタリと当てはまることが分かったはずだが、その機会を得られず男の供述書はその後数年埋もれたままになっていた。
死体が発見されたヨドークスの別邸の地下から盗まれた抵抗石が発見されたことにより鍛冶職人の供述が信憑性を帯び、その段になって漸く男が依頼された容器の数と奪われたシャンタルの部位の数が一致する点が注目され、シャンタル事件の首謀者がヨドークスであると結論づけられた。
更にマジャリでは毛嫌いされている何らかの魔術が使用され、ヨドークスが作らせた5つの器にシャンタルの各部位が収められているのではという所まで推測はされたが、肝心の器はどこからも見つからなかった。
これらは聖女に関する全てを統括する大家令ヴィレメイン並びにその側近数名と、実際に調査をしている聖女騎士達しか知らない。
王室関係者、貴族平民関係なく、大半の者達はヨドークスはシャンタル事件以降激務に追われた事による過労死だと信じており、国葬まで行われた。
シャンタルの婚約直後から事件直前までは十名以上いた聖女騎士も現在は6名にまで減らされており、二組に分かれて調査を続けていた。
「私たちはこの鍛冶職人の家族の行方を追ってるのよ」
「家族…妻と息子?」
「そう、もうこの男が営んでいた工房には住んでないのよ。近隣の住民によると父親の姿が見えなくなって比較的早い段階で出て行ってるみたい。逮捕は今も秘密にされてるから住民達が知らないのは無理ないけど、父親が獄中で死ぬ前に出て行ってるのが怪しいと思って」
「そう言われれば…でも犯人とは思えないけど」
「私たちも犯人とは思ってないわ。でも何か知ってる可能性はあると思うの。…大きい声じゃ言えないけど、オリアンヌ達は何人か魔術師を当たって使われた魔法の方からシャンタル様の欠片を探してるから、私たちはこっちを追うことにしてるの」
聖女騎士達はパトリス以外も皆子供の頃から聖女に憧れ崇めているため、自分達が探しているものをシャンタルの性器や局部とは言いがたく、いつの間にかシャンタルの破片、シャンタルパーツと呼ぶようになっていた。
鍛冶職人アルドリッジの家族を追うのは思った以上に骨が折れた。
アルドリッジ自身は首都ムラドハナで一二を争う鍛冶職人で、その工房も代々続いていため知るものは多かった。その妻や息子のこともまだ姿を見なくなって数年しか経っていないため覚えているものも多かったが、行き先となると心当たりがある者は一気に少なくなった。
ムラドハナ内に居ないことはパトリスの着任以前からの調査で分かっており、辛うじて妻の出身地方を聞いたことがある者がいたため、パトリス達アルドリッジ追跡班はその村から捜索を始めることになった。
それがおよそ1年前―。
■
封印を解いてやり、道案内器の役目から解放されたリンジーは宿のベッドにうずくまり、例によって自らクリトリスを慰め始めた。
アルドリッジは同じベッドに腰掛け、横でひくついている肛門や膣を気に留めることもなく新たに手に入れた2つの箱を何とか開けないかと格闘していた。
施錠術を無視して直接箱の封印を解けないかと試みても、箱を覆っている術が邪魔になり箱の解析を始めることすら出来ない。
同じ施術者、同じ封印術なので魔法使いならばリンジーの封印を解くことが出来た時点で他の2つも解くことが出来る。しかしアルドリッジは術そのものではなく術によって物質に与えられた特性を解析することによって封印を操っており、抽出し記憶した情報に”リンジー”という個別の識別情報が含まれてしまっているため、リンジーの箱から得た情報を使ってミルドレッド、ヘザーという別の特性が混ざっている他の封印を解くことが出来ない。
20数年と半日では天と地以上の差があり、リンジーは5,6回イっただけで満足したらしく、クリトリスを弄る手を止めている。
アルドリッジは自分の方に向けられている白い尻をぴしゃりと叩く。
「リンジー、満足したんなら手伝ってくれない?これ開けたいんだけど…」
パダデシにも魔法店はあり、そういった店を営んでいる魔法使いであればミルドレッドやヘザーの箱に掛かっている市販術など簡単に解くことが出来るが、正規の魔法士は出所不明の品物に掛かっている、購入歴不明の術の解呪をしたがらない。無理を言ってお願いする場合、その無理分の料金が必要になるためアルドリッジには払うことが出来ない。
「はぁ…はぁ…あ、それなら解けるよ。さっき言おうとしたんだけど」
「え?解ける?リンジーが?」
市販されている魔法札による術は魔法使いよりも、魔法を使えない一般人が使用する場合が多く、発動に必要な魔力は術が施されている札に最初から込められているか、店主が魔法使いだった場合購入時にその場で込めてもらえる。
大抵は使い捨てで、施錠術に関しては解錠に魔力も魔法の才能も必要なく、札の裏に書かれている符牒を唱えるだけでいい。
しかし使用した札をなくすものも多く、魔法使いへの転職の為ミルドレッドを追ってヘザー邸にたどり着く以前、リンジーは占い師として札を探したり、符牒そのものを言い当てて欲しいという依頼を何度か受けたことがあった。
「凄い術だったら無理かも知れないけど、たぶん開けるための符牒は占えると思うよ」
リンジーの場合封印術の解呪法すら占いで導き出した実績があるため、一般化されていない高度な施錠術でも解ける可能性がある。
「すごい!じゃあ頼むね」
「え?いや、普通に…」
言い終える前にリンジーはまたも占術器に封印されてしまった。
『…くぅ…』
クリトリスでため息をつく。魔力が必要ない以上解錠の符牒は魔法言語ではなく現代語が当てられており、盤に書かれている文字だけで事足りる。
リンジーは振り子を動かし”まずは?”と尋ねる。
「勿論ミルドレッドの方からお願い」
『え~と、ミルドレッド様が封印されている箱に施されている術を解く符牒は?』
リンジーが占いを始めると、文字が1つずつ放射状に書かれている円形の盤の外周をグルグルと振り子が回り始め、特定の文字の上にさしかかると重力に逆らってピタリと止まる。
そしてまた回り始め、止まる。
アルドリッジは慌てて示された文字を記憶していく。23個の文字を選び終えると、振り子は静かに盤の中心を差して動きを止めた。
「これを読めばいいのかな?…じゃあ…」
アルドリッジはやや緊張しながらミルドレッドの箱に向かって解呪の符牒を読み上げていく」
「・・・・・”G”、”I”、”E”」
全て読み終えても箱に何の反応もない。アルドリッジは読み間違えたのかと思いながら試しに蓋を開けてみる。
あっけなく蓋は開いた。
「あ・・・・・あ?」
解呪が成功していたことよりも、中の様子に呆気にとられた。
てっきりリンジーのクリトリスのように大きく赤くなったクリトリスが生えているものとばかり思っていたが、中にあるのはビクビクと蠢く琥珀色の物体だった。
「これは・・・?ん?あ…そ、そういうことか…ほ…」
アルドリッジは中の物体が動いている以上生きたクリトリスだろうとは思ったものの、長い間放置されたことによって気味悪く変異してしまったのではと鳥肌を立てかけた。
しかしよく観察すると琥珀色の物質はクリトリスではなく、その周りを覆っているだけだと気がつき、胸をなで下ろした。
「全く、封印した人はクリトリスをただで閉じ込めておく気がない人だったんだなぁ。・・・ということは…」
ちらともう一つの箱に目をやる。アルドリッジはミルドレッドの封印を解く前にヘザーの蓋を開ける符牒もリンジーに占って貰う。
「・・・・・”O”、”O”、”X”」
符牒を唱えヘザーの蓋を開ける。だだで封印されては居ないだろうと予め高をくくっていたにも関わらず、アルドリッジはまたも呆気にとられる。
ヘザーのクリトリスにもミルドレッド同様何かが被されていたが、こちらはよりいっそう気味が悪く、物質と言うよりも見るからに生物で、しかもそれが激しく動き続けている。
「な、なんだこれ…」
アルドリッジは2つの箱を並べる。どちらも動いてはいるが、ミルドレッドの方はクリトリスの動きと共に琥珀色の物質も動いているのに対し、ヘザーの方は被さっている物の動きに因って中のクリトリスも動いている。
しばらく並べたクリトリスを眺めていたアルドリッジはどちらの封印もすぐに解くことを止めた。
絶頂を阻害されては居たがほぼ同じ期間ただ放置されていただけのリンジーですら封印を解かれた直後から長時間乱れに乱れたので、夜が更けてきた狭い宿屋の一室で得体の知れない責めを20年以上受け続けてきた2人の女を出してしまうと、どんなことになるか予想も出来ない。
「あのぉ、ミルドレッド様の封印を解くのはよく考えてからの方がいいかも…」
翌朝。アルドリッジは狭いベッドで裸のリンジーと一緒に寝るのが嫌だったので一晩封印したままにし、朝になって漸く出してやった。
服屋がまだ開いていないため宿の女将に古着を安く売って貰いリンジーに渡す。目的の物が手に入ったので、早々にマジャリに向けて出立するつもりだった。
「分かってるよ。リンジーみたいになられても困るし、野宿中かまた空き家でも見つけたらそこで…」
「いや、そうじゃなくて」
町を出る前に昨日利用した食堂で2人で朝食を摂る。リンジーは20数年ぶりの食事を黙って噛みしめていたが、アルドリッジが食べ終わったら旅を再開するので、ここでお別れだと切り出すとリンジーはミルドレッドとヘザーについて助言を始めた。
「・・・そっちの魔法使いなんだ、悪い…。でも弟子入りしようとしてたんじゃなかった?」
「女同士だから何とかなるかなと…とにかくいきなり封印解いたりしたら危ないかも知れないから、気をつけて。
ヘザー様の事は良く分からないけど、もしかしたらミルドレッド様はまだ手配されたままかも知れないよ。20年なら封印されて無くても十分生きてるし」
そういった情報は箱を探しに行く前に伝えて欲しかったとアルドリッジは思う。戦場に赴く際に手ぶらで向かうか、武器には違いないが振り回すことが出来ない巨大な剣を持って向かうかという選択と同じで、アルドリッジは後者を選ぶ。武器としては扱えなくても盾にはなるかも知れない。
ただしリンジーの助言は素直に受け入れ、無計画に封印を解いてしまうことは止めた。
「じゃ、ここで分かれようか。なんて言うか…頑張ってよ」
町の出口でアルドリッジは別れを切り出す。20年以上空白の期間があるので新しい生活を始めるのは大変だと思うもののリンジーの占いの力があればお金には困らないだろうし、何より人のことを気に掛ける余裕がない。
「…あのぉ、途中まで一緒に行っていい?」
「え?・・・途中って?」
リンジーはバーマとマジャリの国境の都市の名を挙げる。
「…シャンニって、確かに途中だけど・・・」
マジャリが目的地のアルドリッジは確かにシャンニに向かうが、国境の町である以上同行するとなるとバーマ国内に居る間は2人旅ということになる。
「そっちの方に故郷の村があるから、とりあえず帰ってみようかと。まだ生きてる知り合いもいると思うし」
「・・・」
パダデシから南下し、山沿いの道を進みながらひとまずビラティを目指す。
結局リンジーはアルドリッジに同行し、徒歩でシャンニへ向かう。
1人旅の時と同じ歩調で進むためにリンジーを封印して運ぶことも出来たが、景色を見ながら歩きたいという要望も理解出来たため、付いてこなければそもそも封印されることはないのだが、仕方なくリンジーの歩く速度に合わせる。
アルドリッジにはリンジー同様金を稼ぐことの出来る特殊能力があるが、その力の正体が分からない限り他人には知られないようにしろという父からの忠告を未だに守っており、出来るだけ大きな都市を避けて移動しながら食料が少なくなってくると小さな村に立ち寄り、作り出した手頃な装飾品と物々交換していた。
「はぁ~、久々に歩くの楽しいねぇ。ちょうどいい季節に見つけて貰ってよかったぁ。冬じゃこうはいかないもんねぇ」
アルドリッジは未だ手段を思いつかないものの、マジャリに対して何らかの報復をしようと故郷に戻ろうとしている。しかしのほほんとした旅のお供が居る事により決意が薄れてしまう事も、2人旅に気が進まない点だった。
リンジーの言うとおり、野宿が可能な季節になったため行動を始めたという側面もある。
明るい内は歩き、夜は休む。村を見つけると食料を手に入れ、運が良ければそのまま泊めてもらえることもある。
馬車で4,5日の行程を徒歩で進み、2人はビラティへ到着した。
定期的に町に立ち寄る最大の理由は携帯食に飽きるからで、次が湯屋を利用する為だった。体調を崩しでもしない限り宿を取ることはない。
「君、少しいいかな?・・・アレクシス・アルドリッジというのは君じゃないかな?」
1人で湯屋を出た所を背後から声を掛けられ、アルドリッジは振り返る。
大柄な銀髪の女が1人立っていた。
「・・・」
アルドリッジは風呂で緩んだ頭を高速で回転させる。リンジーを除きバーマに知り合いは1人もいない。旅の途中姓は名乗った事があっても、名を名乗ったことはないはず。ウポレに住んでいた頃の知り合いならば顔を見れば分かる。
結果アルドリッジは白を切ることにした。
「あれ?アル君、知り合い?」
今度は横から声を帰られたが、振り向く必要も無くリンジーだと分かる。
「やはりアレクシス君か。すまないが少し話を聞かせてもらえないかな?」
最初に声を掛けられた瞬間に嫌な予感はしていたが、二度目の声を聞き、そのイントネーションで相手がマジャリ出身であることがはっきりした。
「・・・何の用?」
女は一瞬考えた。
「…君のお父上の件だ」
■
パトリス達アルドリッジ捜索班は5つの器の手がかりを持つかも知れない鍛冶職人の妻子を追ってマジャリからウポレ、ウポレからバーマへと移動していた。
妻の出身地を突き止め、その周辺に身を寄せていないか探し回り、漸く探し当てるとその村で妻は身体を壊し、既に無くなっていた。
残された息子はしばらく気落ちしたままその村に残っていたが、やがて行き先を告げることなく1人で旅立ってしまっていた。
この時点で一旦妻子の追跡を中止するべきではと言う意見も出たが、他に手がかりがない以上残された息子を探してみるほか無く、継続された。
ただの犯罪者を追う場合は国内に触れを出し、国民から情報を募ることも各地の警備兵に捜索させることも出来るが、パトリス達が扱う事件に関しては公に出来ることが何もなく、全て自分達のみで処理しなければならない。
妻の出身地がマジャリ国内でなく隣国のウポレで、早々に国外に出ていたことも追跡をより困難にさせた。
ヴィレメインへの報告も伝令屋を使うことが出来ないため、3名で行動していてもそのうち1人は連絡のため定期的に調査地とムラドハナを往復しなければならない。
赤毛で赤い瞳という容姿と、アレクシスという名前だけを頼りに、ほぼ虱潰しに町や村を探して回り、パトリスが聖女騎士に任命されてからおよそ1年が経過していた。
国内では絶大な効力を発揮する聖女騎士を体現した白い鎧も他国では着ることが出来ず、極普通の衣装に身を包みながら各地を転々とする。
バーマに入ってからは時々、小さな村に限って赤毛の少年の情報が得られるようになってきた。しかも南、マジャリ方面に向かうほど情報が新しくなってくる。
少年がマジャリに戻ろうとしているのではと考えた一行は、この機会を逃さないよう念のため先にキトリーを国境の町シャンニで待機させ、パトリスとギャエリの2人で南下を続ける事にした。
町や村での聞き込みは少しでも時間を短縮するため単独で行う。
パトリスは特に路銀の少ない旅人が利用しそうな安宿や食堂を回っていく。そしてとうとう、偶然にも湯屋から出てくる赤毛赤眼の少年を見つけた。
「君のお父上の件だ」
少年の身体が一瞬ビクンと硬直したことにパトリスは気づいた。
「…父さんの…何?」
さらに泳いでいた眼に怒りがよぎるのも見逃さなかった。
アルドリッジは母のつてに因ってもたらされた通知だけで父の死を知らされており、正確な日付も場所も原因も知らなかった。
「…ここではちょっと。場所を移してもいいかな?」
「ダメだね。お姉さん、マジャリの役人か何かでしょ?父さんの事で話があるなら素直に役人についてった父さんがどうなったか知ってるんじゃない?」
父の件を持ち出されたアルドリッジから白を切るという選択肢は完全に消えていた。
パトリスは少年を追跡しながらその境遇を知るにつれ同情をしていたが、実際に会ってみると想像以上にマジェリに対して不審と敵意を持っていることを感じ驚く。
「…確かに、君のお父上はお気の毒だった。しかし埋葬はきちんと行われている。そういったことも含めて話がしたい」
「・・・ぐ」
気の毒で済まそうとしている銀髪の女に腹が立ったが、同時に墓の場所を知りたいとも思い、言葉を飲み込む。
「・・・断ったら?」
「私たちは1年君を追ってきた。君が断っても私はどうしても話を聞く必要がある。…言いたくはないが、私は騎士だ」
『私たち?1年追ってきた?騎士?…この人1人で今頃になって死んだ父さんに関する事務仕事をしに来たんじゃないのか?1年も?追ってきたって何だ?何で俺が追われなきゃいけない?まだ何もしてないのに。ただの役人じゃないのか?何で騎士なんかが父さんの話をするために俺を追ってる?』
女は帯剣こそしていなかったが、改めてその体つきを見ると騎士であってもおかしくない。
心当たりのないアルドリッジは混乱した。分かったのはあえて騎士であるとこと告げた以上、アルドリッジが無視することにしても目の前の銀髪の女はそれを許さないつもりでいると言うことだけだった。
「どこで話すの?いっとくけど人気の無いところには行かないよ」
「分かった、何処か店に入ろう。往来で話すよりはいい」
アルドリッジは銀髪の女に同行することにした。
「あのぉ、アル君?」
ばったり知り合いにでもあったのかと思っていたリンジーは徐々に険悪になっていく2人の様子におろおろしながら立ちすくんでいた。
「あぁ、リ…ビー、もしかしたら遅くなるかも知れないから、先にアンダに向かっててくれない?」
「???」
パトリスはアルドリッジを連れて行く手頃な店を探しながら、同時に町の何処かで聞き込みを続けているはずのギャエリも探していた。
2人とも一般市民より頭1つ分背が高いため容易に見つかり、パトリスは目配せする。
ギャエリもパトリスの横にいる赤毛の少年に気づき、通り過ぎるのを待ちその後を付いていく。
昨夜既にビラティに到着していたパトリス達は宿を取っていたが、先にアルドリッジから密室を拒否されていたため適当な料理屋に入る。酒場が開いていればその方が良かったが、まだ昼前で開いていない。
2人が席に着くと、ギャエリも離れた席に座る。
「それで、父さんの事を教えるためにわざわざ俺を探してくれてたんでしょ?早速教えてくれる?」
「…そうだな、君のお父上は無縁墓地に埋葬されている。遺品もまだ保管されているはずだがここに持ってきてはいない。マジャリに戻って受け取って貰うしかない。…それより…」
アルドリッジは座って数分の席から立って店を出たい衝動を必死に押さえた。理由も告げずに父親を連行し、その父が死亡したからといって無縁墓地に埋葬してしまうというのも信じがたかったが、それを事務的に淡々と伝えている女にも腹が立った。
パトリスは別段アルドリッジを挑発している訳ではなかった。境遇に同情はするものの、あくまでパトリス、聖女騎士達にとって大事なのはシャンタルのみで、パーツを集めるという目的のためなら目の前の少年の気持ちなどどうでも良かった。
「それよりも君に聞きたいことがある。君のお父上が王宮から依頼された5つの品について、何か覚えていないか?」
それよりもという物言いに更に腹が立ったが、女が思いも掛けないことを言いだしたため、すっと怒りが収まる。
「5つの?」
アルドリッジは当然覚えていた。覚えているどころが父と一緒に何かを作った最後の思い出で、忘れるはずもない。しかし何故そんなもののことを聞きたがっているのかは全く分からない。
アルドリッジはどう答えるか悩む。
「何となく覚えてる気もするけど…それが何?」
「その5つの品についてお父上や母君が誰かと話している所を見たり聞いたりしたことはないか?、或いは君自身が」
アルドリッジは5つの器の形状や細工に関してははっきりと覚えていたが、使用目的についてはそもそも詳細を聞いていなかった。シャンタルの聖別式に使う神具を入れておくための器だったような気もするが、はっきりしない。
「さあ、覚えてないよ。その器がなんなの?」
パトリスの眉がぴくりと上がる。
「私たちはその器の行方を捜している。何か少しでも覚えていることはないか?」
「行方?…行方って、なくなったってこと?そんなのシャンタル様の部屋か何処かに…」
喋っている最中に明らかに女の視線が険しくなったことにアルドリッジは気づいた。
「君はあの器がシャンタル様のために依頼されたことを知っていたのか?」
「それはまぁ、一緒に作ったし」
「一緒に?一緒にと言うとお父上とか?・・・5年前だと君はまだほんの子供だろう。じゃあ君は…器の素材も知ってるのか」
「・・・それは…」
「制作の場にいたなら知っているはずだ」
「…抵抗石でしょ?知ってるけどそれが何?何が聞きたいのかさっぱり分からない。完成して王宮に献上したんだからその後無くなっても俺や父さんが知ってるはずないでしょ。・・・え、まさか…父さんが連れて行かれたのはそんなことのため?」
この時点でパトリスはマジャリにアルドリッジを連行することを決め、入り口近くに座っているギャエリに目配せした。ギャエリは店を出、連行に必要な馬車の手配へ向かう。
少年にシャンタルパーツの行方を知っているような気配はないが、少なくとも現場に立ち会い、作成時に特殊な加工や術を施している所を見ている可能性がある。何よりマジャリに対して明らかな不審と敵意を持っている少年に、情報収集のためとはいえ、聖女と器の関連を示唆してしまった。長らくマジャリを離れていたため現在のシャンタルについての情報は持っていないようだが、放置し今後国内に戻った際に知り得た情報と合わせて良からぬ噂を流されかねない。
しかも器の素材が抵抗石であることまで知っている。聖女の秘密は自分達が守るが、ヨドークスの秘密が何処かから漏れてしまい国民に伝わった時、年の割に頭の回転が速いこの少年が聖女とヨドークスを結びつけてしまう事も考えられる。
聖女の心身のみならず名誉も守る立場にあるパトリスに取って少年は最早捨て置ける存在ではなかった。
そしてアルドリッジもパトリスと同時に決心した。
「ちょっと…トイレで顔洗ってくる」
アルドリッジは自分の顔が怒りで真っ赤になっている事を自覚し、それを利用する。
パトリスは頷く。自分達の馬では恐らく抵抗するであろう少年をマジャリまで連行することは出来ない。あくまで他国なので、国境を越えるのに少年を隠しておける馬車が必要になる。
準備が出来ればギャエリが店の入り口で合図するはずなので、それまで少年を引き留めておく必要がある。
連行すると決めた以上最早店内で聞かなければならないことは何もなく、後はギャエリを待つだけだった。
しかし、少年が中々戻ってこない。
パトリスは抜かりなく、昨夜食事に使い、店内の構造を把握している店にアルドリッジを案内しており、トイレ方向に出口がないことは分かっていた。
逃げられるはずはないのだが、念のため確認しに向かう。
洗面所は男女で分かれており、パトリスは男用の扉を叩く。
応答はなく、パトリスの背中に冷たいものが流れる。
女用の個室はの窓は人が通れる大きさではなかったが、男の方は確認していない。
まさか男女で窓の大きさが違うのかと思い、もう一度強く扉を叩く。
やはり応答はなく、慌ててドアノブを掴む。
次の瞬間、視界が大きく歪み、気がつくとパトリスは真っ暗な闇の中に居た。
■
何食わぬ顔でアルドリッジは席に戻り、自分の荷物を手にした。
パトリスが身長でギャエリを簡単に見つけたように、アルドリッジも店に入ったすぐ後にパトリスと似たような背丈の、何より立ち居振る舞いが明らかに一般人でない女が続けて入店し席に着いたことに気づいていた。パトリス自身がそもそも最初に1人ではないことを匂わせており、アルドリッジにはその女が仲間であることがすぐに分かった。
荷物を持ち、平静を装って店を出る。アルドリッジに気づいた店員も料金は少年ではなく連れの女が払うだろうと考え声を掛ける事もない。
アルドリッジは店の外に出た。
仲間が途中で出ていった理由までは分からなかったが、店内の監視がいなくなった今が行動する機会だと考えた。もし外で待ち構えていても自分1人が出て来た場合店内に残っている銀髪の女に事情を聞くはずだと予想する。
出た所を突然襲われたとしても少年と大女なら町の住民も自分に味方してくれるのではとも考え、意を決して外に出たが、幸い付近に仲間の姿はなく、アルドリッジの心配は杞憂に終わった。
それでも悠長にしているわけにはいかず、怪しまれないように少しずつ歩を早めながら店から遠ざかる。
2人の女騎士がマジャリの使者である以上予定通り南に進みシャンニに向かうわけにはいかず、アルドリッジは町の何処かにいるはずのもう1人の女騎士に出会ってしまわないように気を配りつつ、ビラティの西から町を脱出した。
騎士が徒歩で自分を追って来るとは考えられず、馬に追いつかれても隠れられ、且つひとまず落ち着ける場所を探して道から逸れて行く。
「・・・え?」
草原を進むアルドリッジの眼に、先を行く人影が見え始める。
近づくにつれ宿屋の女将のような服を着た女の後ろ姿が他人の空似でないことに気づく。
「…なにしてんの?あの人」
アルドリッジは走って追いつき、声を掛ける。
「ね、ねぇ、リンジー、何でこっち来てるの?」
「あぁ!アル君。追いついた?さっきの何だったの?ケンカでもしてた?」
「・・・」
マジャリの人間、特に公務に携わる人間を全く信用していないアルドリッジは、銀髪の女に同行すると決めた際、万が一にもリンジーに累が及ばないよう、予定とは別の行き先を告げておいた。女から逃走せざるを得ない事態に陥った場合、自分がアンダ方面に逃げれば知り合いであることを見られてしまっていてもリンジーが追われることはないだろうと。
意味が分からないはずのリンジーは予定通りシャンニに向かうだろうと考えていたが、何故か適当に伝えた方向で再会した。
「な、なんで?故郷はシャンニの近くって言ってなかった」
「だってアンダに先に行って言ってたでしょ?どういうことか分からなかったから占ってみたらこっちの方を示したから」
それ以上何も言う気が失せ、アルドリッジから一気に緊張感が抜けていく。
アンダに用は何もないが、すぐにシャンニに向かうことは出来なくなったため、そのまま西に向かいながら休める場所を探す。
しばらく歩くと運良く使われていない狩猟小屋を見つけた。
まだ明るいがアルドリッジに従いリンジーも小屋に入る。
「はぁぁぁ・・・疲れたぁ…」
「いったい何だったの?何でアンダに行くことにしたの?」
どこから説明すればいいかも、そもそも今すぐ説明する気力もなく、アルドリッジはポケットから箱を取り出す。
「え?これって…」
蓋を開く。
そこには美しい桃色をした聖女騎士のクリトリスが納まっていた。