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「や、やめてくださいぃ~っ!!ちがっいまっっすぅぅぅ~!!敵じゃありませ~~~~ん!!」

 周囲の土や木々が吹き飛んでいく中をセドリックは駆け抜けていく。

 遠くから打ち込まれている破裂魔法に当たれば、セドリック自身が土や木同様爆ぜてしまう。

 セドリックが敵でないのは事実で、正しい道を辿ってくればしっかりと無断侵入禁止の立て札を目にしていたはずだった。

 尤も、屋敷の屋根の上から侵入者に向けて魔法を打ち込んでいるミルドレッドに用があるわけではない。純粋に道に迷って侵入してしまっただけだ。

「・・・なにしてんのあれ?どういう侵入者?わざと外さないとすぐ当たっちゃうけど」

 侵入警報を聞いた瞬間に、ミルドレッドはヘザーがやってきたものと考え、すぐに臨戦態勢を整えた。

 しかし蓋を開けてみれば敷地の境界線辺りを逃げ惑うさえない男だった。

 ミルドレッドはふわりと屋敷の屋根を離れ、男に近づく。

「ち、ちがうんです!道に迷ってここに入ってきてしまっただけで、何の悪意もないんです!!」

 近づいたミルドレッドにセドリックは土下座しながら許しを請う。ミルドレッドに用はなくとも、この地方で5本の指に入る魔法使いの容姿を知らない同業者はいない。

「ほんとうにすいませんっ!すぐに立ち去りますから、見逃してくださいっ!!」

 頭あげてミルドレッドを一別することもなく、セドリックは命乞いをする。

一方ミルドレッドは早々に目の前の男を消してしまうことに決めていた。自宅で寛ぐためのゆったりとしたローブから、強敵である女戦士を迎え撃つために窮屈な戦闘装束に着替え、呪符を纏い、物理攻撃を自動で受け流す魔法を何重にも自身に掛けたあげく、現れたのはただの何の変哲もない男。

 許して見逃してやる理由が一つもない。

 ミルドレッドは指先でくいくいと中空に陣をなぞり、目の前の男を破裂させるための力を放り投げた。

 破裂は起こらない。

 代わりに男に向けて伸ばしていたミルドレッドの右腕が宙を舞っている。

 呆然と自分の腕を目で追うミルドレッドの視界の隅で何かが動き、反射的かつ瞬間的ににその場から移動する。

「魔法使いにしては反応が良いな。えぇ?ミルドレッド」

「・・・仲間だったのか、女戦士の割には頭を使ったな」

 ミルドレッドは左手で陣を描き、ヘザーに対して力を放った。

 セドリックはヘザーの仲間ではない。

 ミルドレッドが予め入手していた、賞金稼ぎの女戦士ヘザーが次に高額の賞金首ミルドレッドに狙いを定めたという情報は正しく、ヘザーは敷地外で数日間じっと機を伺っていた。

 そしてつい先ほど哀れな名もなき男がフラフラと敷地内に侵入し、格好の囮になってくれた。

 ミルドレッドが対物理攻撃用魔法を纏ったのと同様に、対魔法攻撃用防具を身につけたヘザーが放たれた力をはじき飛ばし、そのまま一気に距離を詰める。

 賞金首は大抵生死を問わないが、ミルドレッドの場合生け捕りの方が死体の提出よりも3倍以上の報償が得られる。

 殺す気ならば腕を切り落とした際に文字通り返す刀で首を撥ねることも出来たが、ヘザーは金額を優先した。

 恐る恐る顔を上げたセドリックの眼前で、有名な魔法使いと有名な賞金稼ぎの戦闘が繰り広げられる。

 何も考えず、セドリックはこの場から逃げることにした。

 四つん這いのセドリックが10メートル進む間に勝敗は決した。

 ミルドレッドにしてみれば接近に気付かずに腕を切り落とされた時点で勝敗は決していた。

 血が出るほど唇をかみしめながら、腕を放置して逃走した。

 賞金を目的とするヘザーにとっても、逃げられた時点で負けに等しかった。いくら優勢とは言え、逃走を選択した魔法使いを追う術を戦士は有していない。

 少しは金に換えられるかもしれないと残されたミルドレッドの腕を拾い上げると、少し先を這いつくばりながら進む芋虫が目に入った。

「で、結局お前は何なんだ?」

 芋虫の進行方向に立ちはだかり、見下ろす。

「はっ!?・・・ぼくは、本当にどっちの敵でもありません~~~!」

「そんなことは分かってる。なんでこんな辺鄙なところを彷徨いてたんだ?」

 芋虫ことセドリックはここが辺鄙なところであることすら把握していなかった。

 小さな村で村長から回復魔法を学んでいたが、村長が死に、農村に初心者の回復魔法使いがいても意味がないと考え、都市に出て働き口を探す途中だったと言うことを、歯を鳴らしながら説明する。

「回復魔法?そんなもんが使えるようには見えないけどな・・・」

 ヘザーは身体を見回し、ミルドレッドの魔法で僅かに焦げた膝をセドリックに向ける。

「これを治してみろ」

「え?・・・あ、は、はい。これくらいなら…」

 セドリックが魔法を使うと、ヘザーの火傷はすぐに消え去った。幸いなことに、鎌や鍬で怪我をする老人達の怪我よりもヘザーの火傷は軽かった。

「おお、なんだ。一端に使えるじゃないか」

 ヘザーは治った膝を撫でながらしばし思案する。

「…よし、私が使ってやろう。仕事を探してるんだろ?」

「・・・え?…戦士様…が?」

「とりあえず荷物持ちに使ってやる。丘の向こうに荷物があるから取ってこい。」

 三流魔法使いセドリックが一級戦士ヘザーに命を救われ、そのまま従者となったのが今から3年前。

 その間にミルドレッドは自力で切り落とされた腕を再生させ、ヘザーに仮を返す準備を整え始めていた。

「おいセディ。やっぱり蜜付肉が食いたくなった買ってこい」

「え?・・・でも、着いたばかりで…」

「だからこそ今行ってこい。時間が経てばお前道順忘れるだろ」

「・・・はい」

「なんだ?文句ありそうだな」

「いえ!行ってきます」

 職探し中のセドリックが女戦士ヘザーに拾われて3年が経過していた。

 その3年間、実質セドリックは無職のままといって差し支えず、一度たりとも給金は支払われていない。

 ヘザーの共をしているため食事と寝床には困らないが、自分のために使える金は全く稼げていない。

 回復魔法使いとして雇われたのかと思いきや、都市部に滞在中は使用人の如く身の回りの雑用を全て任され、狩りの旅に出れば荷物持ちとして追従させられる。そもそも一級戦士のヘザーは並の賞金首と対峙してもかすり傷一つ負わない。

 今もまた、次の獲物を追って移動中麓で素通りしたこの辺りの名物蜜付肉の屋台を思い出し、山の道を上りきりよを越す準備を始めたところで、買ってくるように命じられた。

 最初の一ヶ月こそミルドレッドから命を救って貰ったことと仕事を与えてくれたことに感謝していたが、それ以降は不満を募らせるばかりだった。

 しかし報復が恐ろしいため、逃げ出すことも出来ずにずるずると鬱憤を溜めながら3年が経過していた。

「・・・なんだこれ、うまそうな気がしたのに甘いだけじゃないか」

 汗だくになって戻って来たセドリックから名物を受け取り、一口かじっただけで放り投げたヘザーはそのまま昼寝を始めた。

 セドリックは休む間もなく、ヘザーが目覚めたときのために荷物の整理を済ませておかねばならなかった。

「ヘザー様、あそこみたいです。」

 山を越えて反対側の斜面をセドリックが指さす。建物は木々に隠れて見えないが、煙突の先端が僅かに見える。依頼者が書いた手書きの地図とも位置的に符合する。

 ヘザーは今回行方不明の女達を探し出す仕事を引き受けていた。

 本来こういった仕事をヘザーが受けることはないが、この案件に関しては首謀者と思われている男が同一で、且つ救出できた女の人数に応じて報奨金が増える。女達は計12名行方不明になっているので、全員見つけることが出来れば12倍の報奨金を得ることが出来る。

 ヘザーとセドリックは山を下り、依頼者である行方不明の女達の親族達が首謀者と見なす老魔法使いの小さな屋敷に向かって進んだ。

 三流回復魔法使いであるセドリックは言うまでもなく、戦士であるヘザーも魔法のトラップを発見することは出来ないが、活動した後で反射的に買わすことが出来る。

 そして何より、ヘザーを一級の戦士たらしめている要因として、生まれつき魔法を無効化する遺伝子を持ち合わせている。

 ミルドレッド様な一級の魔法使いの力ですら半減させ、並の魔力であれば皮膚表面でかき消える。

 そうなるとセドリックは足手まといでしかないため、毎回目的地が近くなると離れて荷物番をしながら待たされる。

 ヘザーは剣を抜いて1人悠々と屋敷に近づき、中に消えていった。

 セドリックは毎回この瞬間に一息つくことにしている。喉を鳴らして水を飲み、地べたに座り込む。眠り込むわけにはいかないが、可能な限り身体を休める。

 しかし今回はそれも許されなかった。

「ちくしょーーーっ!!セディ!!来いっ!!」

 10分も経たないうちに屋敷からヘザーの怒鳴り声が聞こえ、セドリックは慌てて荷物を持って屋敷内へ駆け込んだ。

 ヘザーは地下の一室で佇んでいた。屋敷内には争った形跡が全く無い。

「ヘザー様、何が…あっ!!」

 ヘザーの足下には俯せに倒れた人間がいた。

「あ、もう、倒したんですか。流石ヘザー様です」

「最初っからくたばってたんだよ、こいつ。」

 ヘザーに足蹴にされた遺体が裏返る。かなり高齢の老人なのか、それとも死んで日数が経ちミイラ化が進んでいるのか判別が難しかったが、生きていないことは明白だった。

「死んで…え?じゃあ女達は」

「ここに来るまでに1人でも見たか?」

 人の気配どころか、物音一つ聞こえなかった。1階に入った時点で怒りで荒くなったヘザーの鼻息が聞こえたほどだ。

「一応…探してきます」

 1円にもならない可能性に怒るヘザーのそばにいたくなかったため、セドリックは地下室を出て屋敷内をくまなく調べる。

 しかし女達はどこにも見つからなかった。

 手ぶらで1階に戻ると、ヘザーは既に1階に上がり屋敷を出ようとしていた。

「ヘザー様、あの死体はどうしますか?」

「知るか!あんなもんほっとけ!」

「でも、一応持って行けば首謀者としていくらかになるかもしれませんよ」

「お前は魔法だけじゃなくて目も節穴か?この屋敷のどこに女を12人も監禁したり生活させてた痕跡があるんだよ。

あそこで死んでるのはただの年寄りの魔法使いだ。依頼者達の見込み違いだよ。誘拐犯じゃない。」

 言われてみてセドリックも屋敷に老人以外の生活の痕跡がないことに気付いた。

「あ、そ、それならなおさら埋めるくらいはしてあげます」

「勝手にしろ!」

 ヘザーは屋敷を後にして1人で帰路につき始めた。

 セドリックは地下に下り、老人の死体を運ぼうとする。

 ゴトリと何かが床に落ち、続いてバサリと何かがそこに被さった。

「?」

 セドリックは老人の遺体を下ろし、落ちた物を落ちた。

 持ち上げた拍子に老人のローブから落ちた物は、一冊のノートと片手に収まるほどの小さな箱だった。

 急いで老人を埋葬しヘザーに追いつきたかったセドリックは確認することなくその二つを荷物の中に押し込み、老人の遺体と共に屋敷を後にした。  

 結局報酬を得られなかったヘザーの起源は長い間治らず、セドリックは八つ当たりまがいにこれまで以上にこき使われた。

 しかしこの日、この屋敷を訪れたことによりある考えに支えられ、セドリックは耐え抜くことにした。

 1年後。

 セドリックは箱の解錠に成功した。箱に掛かっていた鍵は物理的な物でなく魔術による物だったため、ノートを見ながら老魔法使いの書式の癖を見つけ出すしかなかった。

 老魔法使いのノートを忙しい合間に研究するにつれ、セドリックは自分が埋葬した老人がいわゆる性魔法使いであることが分かっていた。

 性魔法使いという正式な職はないが、性を売り物にする全ての業種の人間が蔑まれるのと同様に、本来畏敬の念を抱かれる魔術職にあって、魔法を性に使う者だけが侮蔑を込めて性魔法使いと呼ばれていた。

 ヘザーは老魔法使いは誘拐犯ではないと結論づけていたが、セドリックは間違いなくあの老人が犯人であると確信していた。

 老人のノートは、人間を小箱に封印する魔法の研究書だった。

 セドリックは誘拐された女達があの日拾った小箱に封印されていると考え、ヘザーに内密で解錠に取り組んでいた。

 女達を箱から救い出せば1年前に失敗したと思われていた仕事の報奨金を回収でき、ヘザーに見直して貰えると考えたためだ。

 魔法の封印を解き、箱の蓋を開ける。

 しかし、そこから女達が飛び出してくることはない。12人全員が一つの箱に封印されているとは考えていなかったが、1人すら出てこない。

 箱の中には赤く小さな豆粒が一つ収められているだった。

 セドリックは一気に気力が萎えていくのを感じた。ヘザーに自分への待遇を改めて貰おうと考えて、1年がかりで苦労しながら研究を進めた結果、出てきたのは女達ではなく豆一粒。

 根を詰めていたセドリックは腰から力が抜け、その場に倒れ込んだ。そして茫然自失のまま眠り込んでしまった。

「おい!セディ!起きろ!!」

 ヘザーに足蹴にされながらセドリックは目を覚ました。

「・・・あ!す、すいません!!居眠りを…」

「とりあえずそれはいい。これは何だ?」

 目を擦りながら差し出されたヘザーの手を見ると、そこに解錠した小箱が握られていた。

「ああ…それは…」

 一気に無駄な1年間の徒労が思い出され、再び力が抜ける。本当なら今頃はヘザーに足蹴にされて起こされるどころか、見直され誉められていたはずだった。

「すいません、何でもないですそれ…」

「何でもないわけないだろう。どこで手に入れたんだお前はこれを!」

「どこでといわれましても…」

 寝ぼけた頭でどう説明するか考える。1年前に老魔法使いの屋敷で見つけた物を鏡まで隠していたと告白すると叱られるだろうか。そもそもヘザーがその小箱を気にしている理由が分からない。

 結局セドリックは老人の家で見つけた物であることを告白する。

「じゃあお前は1年もこれを隠してたのか?」

「隠してたというか、鍵が開かなかったので開けてからお渡ししようと・・・」

「じゃあこの蓋はお前が開けたのか?」

「そうです」

「中を見て何も思わなかったのか?」

「思う…特には」

 正確にはひどい落胆を覚えたが、わざわざそこまで素直に白状することはしない。

「…よく見てみろ」

 小箱を手渡され、中を確認する。居眠りする前と同様、中には赤い豆が一粒収められてるだけだ。

「…あの、すいません。これ、僕は分からないんですけど、もしかして貴重な物ですか?」

 セドリックは少し希望を感じた。自分が知らないだけで、何らかの貴重なアイテムだったのかもしれない。

「これはクリトリスだ」

「・・・・・え?なんて仰いました?」

「クリトリスだ。女のな」

 一瞬ヘザーが何を言っているのか分からなかった。セドリックが知っているクリトリスという言葉が示す物は一つしかない。

「どういうことかちょっと…クリトリス?」

「お前は女のクリトリスを見たことが無いのか?この中に女が閉じ込められてるんだよ!クリトリスだけ出して。あのくたばってた爺さんが女達の誘拐犯だったってことだ!!」

 ヘザーは箱の中身に気付いた時点でセドリックと同じ結論に達していた。

 漸くセドリックの頭が回り出す。女が小箱に閉じ込められているという予測は間違っていなかったのだ。ただし全身ではなく、ごく一部、つまりクリトリスだけを外に出した状態で封印されている。

 確かに改めてその赤い粒を観察すると時折ぴくぴくと動いているし、箱の中に収められているのではなく、生えている。ヘザーはセドリックに向けて箱を突きだしているが、豆は床に落ちてこない。

「分かったか?とりあえず1人は救出できてたって事だ。ただ働きではなくなる。まあまあお手柄だったな」

 思いがけずヘザーに誉められ、セドリックは一気に気分を良くする。

「で、この箱自体の魔法は解除できるのか?」

「それは…もう少し時間があれば」

「よし、それからあの爺さんの家に他に箱はなかったのか?」

「たぶん…でも隠し部屋があるかもしれません」

「よし、次の仕事の帰りにお前が探してこい」

 セドリックは研究ノートの存在は明かさなかった。

 小箱は封印を解くために預けられたが、セドリックにはとても解くことが出来るとは思えなかった。

 箱の蓋の封印は普及した封印魔法の一つだったためパスワードに当たる書式さえ判明すれば解くことが出来たが、箱に人を封印する魔法は老人のオリジナルか少なくとも未知の術であるため、根本から解析する必要がある。何の変哲もないただの田舎者の回復魔法使いにそんな芸当は出来ない。

 改めてクリトリスだと判明した赤い豆をつついてみると、クリトリスはぴくぴくと震える。どのくらいの期間封印されているのか定かではないが、中の女が生きていることは確かだった。

 一瞬ヘザーに見直されたセドリックの待遇は既に元に戻っていた。

 蓋の解錠から半年経っても本体の解呪に至らなかったためだ。

 セドリックは口には出さなかったが、この後更に半年経とうが一年経とうが、自分より優れた魔法使いが作り出したオリジナル魔法の解析が出来るだなどとは露ほども思っておらず、匙を投げていた。

 そのため特別に与えられた解呪の研究時間は、他のことに充てていた。

 ヘザーとセドリックは都市部を離れ、新たな仕事のためウタラ地方の山岳地帯に向かっていた。

 王国の対外治安は長らく安定し、少しずつ正騎士団の人員は減らされ、代わりに有事の際のみ不足分を傭兵で補うようになっていた。

 その傭兵団自体も人員削減が進み、解雇された一部が徒党を組み、野盗化していた。

 そういった野盗の鎮圧を依頼するのは被害に遭っている各地方の領主や住民であり、国政のツケであるにもかかわらず国庫は痛まない。

「ヘザー様、目で見て分かるほど結界を張ってますけど、大丈夫ですか?」

「そりゃ騎士崩れの集まりなんだから魔法使いは警戒するでしょうよ。でもあたしに関係ある?」

 戦士はやはり魔法使いと相性が悪いため、戦闘の際は魔法への対策は怠らない。

 今回の獲物である野盗集団も、むしろ襲撃される心当たりのある野盗集団であるからこそ目に見えるほど厳重な魔法対策の結界を張っていた。

 しかし戦士であるヘザーには関係ない。

 いつものようにへザーはある程度の距離まで近づくとセドリックを残し、単身素早く野盗の拠点に乗り込んでいった。

 しかし今回、セドリックはヘザーの姿が建物内に消えると荷物を置いてすぐに後を追った。

 一級戦士の突然の襲撃に不意を突かれた野盗達は対処することが出来ず、次々に斬り殺されていった。

 今回は壊滅自体が目的で生死を問わないため、一切遠慮することなく暴れられる。

「おらおらぁ!!そんな様だから騎士団も傭兵団も追い出されて落ちぶれるんだよぉ!雑魚どもぉ!!」

 せめて苦しませずにと言う考えは一切なく、ヘザーは犯罪者集団を容赦なくののしりながら斬り殺していく。

 22人全てを殺すのに30分もかからなかった。

「…ふう、これで六万か、ありがたいね、王室の方針のおかげでカモが増えて」

「ヘザー様!!◀♤⦿⏎〓♩☂☀▶■⁑‡©&†♩〽◉␣☎▼〠…⌘◇◁◐◎¶@ª※☆〠♨❖☗!!!!」

 いるはずのないセドリックの声に振り向き、詠唱が聞こえたかと思うと、次の瞬間ヘザーは真っ暗闇の中に居た。

『・・・これは…何が起きた?』

『セディ!おいセディ!近くにいただろ?何が起こった?』

「…ますか?…聞こえますか?ヘザー様」

『おお、セディ、聞こえるぞ。何が起こった?敵が残っていたのか?』

「すいませんヘザー様、ヘザー様の声は聞こえません。僕の声は聞こえてますか?今どういう状態ですか?」

『何?聞こえてないのか?お前の声は聞こえてるぞ!…これも聞こえてないのか?真っ暗で何も見えない!どうなってるのか全く分からないぞ!』

「ヘザー様の声が聞こえないのは残念ですけど、僕の声は聞こえてると思いますから、説明します。

 覚えてらっしゃいますよね?ヘザー様。僕が見つけてきて隠していた小さな箱。1年がかりで解錠したあの箱はどうなってましたか?」

『箱?…はこ!?はうっ!?』

 突然の暗転に混乱していたしていたヘザーは、身体の1カ所に刺激を感じ思わず声を上げた。

 それまで暗闇にのみ気を取られ気付かなかったが、今刺激を感じた箇所以外、全身の感覚がない。

「覚えてますよね?あの箱。クリトリスだけが外に出てそれ以外の身体が封じ込められたあの箱です。気付いて頂けましたよね?今ヘザー様はあの箱と同じ状態になっています」

『な…に?何が…セディ!どういうことだ!!』

「怒ってますかヘザー様?すいません。本当に聞こえないんです。でも研究書に中に封じられた人間にもしっかり意識があって、こちらからの声は聞こえると書いてありましたから、たぶん僕の声は聞こえてますよね?

 …そうなんです、実はあの老人の屋敷から持ち帰ったのは小箱だけじゃないんです。ヘザー様の考え通り、あの老人が誘拐犯で間違いありません。だって箱と一緒に老人が記した研究書がありましたから。

 それで僕も研究したんです。ヘザー様は箱を解呪する方法を見つけろと命じられましたけど、すいません、こっそり真逆の事を研究してました。

 解放する方法じゃなくて、封印する方法です。

 …分かって頂けました?僕がヘザー様を封印したんです。

『な、なんだとっ!!おまえっ!セディ!!すぐにこれを解け!!切りころうあっっ!』

「ほら、つままれてるの分かりますか?ヘザー様のクリトリス。ぷるぷるしてますからしっかり感覚はありますよね?」

 感覚があるどころではなく、クリトリス以外の触覚が消失して仕舞っている今、つままれている部分の感覚だけが際立っている。

『やめっ!さわっ…るなぁっ!』

「どうですか?怒って暴れてますか?研究書には中の人間の状態まで詳しく書かれてなかったので。

 暴れられるんですかね?それとも動けないんですか?」

 ヘザーには自分がどうなっているのか分からなかった。意志ではつままれた指から逃れようと、また箱から逃れようと暴れているつもりなのだが、一切の感覚がないため暴れている自分の手足が自分自身の身体に触れている感覚もない。

 仮に動けないように何かに拘束されているにしても拘束されている感覚もないため、自身の状態を把握することが出来なかった。

『セディ!いい加減にしろ!手を放してここから出せ!出せば今回だけ許してやる!!』

「さて、とりあえず屋敷に戻りましょうか。こんな死体だらけの所に長居したくないですし気分も乗りませんし…。

 安心して下さい、この仕事は僕が処理してちゃんと報奨金を貰っておきますから。」

 セドリックは箱の蓋を閉めた。

 その瞬間からヘザーには外部の音は一切届かなくなった。

『こんなバカなことが…セディのやつ、私にこんな事をしてただで済むと思っているのか?これまでの恩を仇で返すとは。

…あの小箱と同じ状態だと言っていたな。あの箱…どんな箱だった?自力で脱出できるような構造だったか?

 …くそ、今アタシははどうなってるんだ?動いているのか?服は着てるのか?裸なのか?私の屋敷に向かってるのか?今どのくらい経った?中と外は時間の進み方は同じなのか?私は呼吸してるのか?…苦しくはないな。暑くも寒くもない。

 私の剣は一緒に封じられてないか?あの剣なら対魔法の処理がしてある。あれがあれば中から封印を破れるかもしれない。何処かにあるか?…くそ、動けないのか?拘束されているのか?それとも触れているのに気づけないのか?』

「…ザー様、着きましたよ。ヘザー様のお屋敷です。」 

 唐突にセドリックの声が響く。箱を通過しているせいか、隣の部屋から聞こえて来るような籠もった音となって届く。

「報奨金もしっかり貰って来ました。ちゃんと6万あります。これだけでもしばらく生活するのに十分ですけど、その上元々のヘザー様の蓄えもありますから」

『なに!?お前!アタシの金に手を付けたら生きていられないぞ!』

「…もしかして今お金の心配しました?ヘザー様お金大好きですもんね。でもお金よりご自身の心配された方がいいですよ?」

『何をはうっ!?』

「ヘザー様はもうご自身でご自身のクリトリスを守ることが出来ないんですよ?ほら、こんな風にくにくにこねこねされても」

『うぁっ、セディ!!放せこらぁ!触るなぁ!』

「ヘザー様は外の様子が分からないでしょうから、逐一説明して差し上げますね。

 ええと、これからヘザー様のクリトリスに刷毛で魔法薬を塗っていきます。」

『なにをっんひっ!?』

「すいません、人肌に温めておくのを忘れてたんで冷たいかもしれません。でも良いですよね?ヘザー様にはどうにもならないんで。

 これも研究書に書いてあった魔法薬です。あのおじいさんは性魔法使いだったみたいですよ。これは塗られたところの感覚を高める薬です。あ、心配しないで下さい、先にあの小箱のクリトリスに塗って試してみてますから」

『やめっ…変な物塗るなぁっ!!』

「効いてきたらすぐ分かりますよたぶん。僕の方でも中の様子が分からないのは凄く残念なんです。ヘザー様の様子が分かるのはクリトリスのフルフル加減だけですから」

『とめろぉ!ぬるなぁ!…くすっ、くすぐった…やめろっ!ほんとに止めろぉろぉ!!』

「くすぐったくなってきました?でもまだまだですよ、もっと敏感になってクリトリスがビキビキに硬くなってきますから」

『あっ…まて、まてまてまて!ちょっとまっ、いっ、イクっ!!』

「あっ!・・・ヘザー様、今イキましたね。わかりますよ、クリトリスぶるってしましたから。気持ちよかったですか?もうちょっと待って下さいね、もっと気持ちよくなりますから。

 …ところで、ヘザー様、怒ってますよね?僕が裏切ったとか恩を仇で返したとか思ってませんか?確かにヘザー様に恩を感じてました、命の恩人ですから。

 でもいくら何でも4年間のただ働きはひどいですよ。それでも人並みに扱って貰えれば僕もこんな事はしなかったかもしれません。でもあんなにこき使われたら、恩より恨みの方が勝っちゃいますよ。

 あ、またイキましたね?もっと敏感になりますよ、この薬は。

 塗り終わったら乾いた刷毛でずっとくすぐってあげますね。」

『やめろぉ!一回止めろぉっ!くすぐったいいぃ!!ムズムズムズムズ…あっ…くそおぉぉぉイクぅぅぅ!!』

 セドリックは30分ほど鋭敏化の効果がある魔法薬をヘザーのクリトリスに塗り続けた。その間もヘザーは何度となくむずがりながらも絶頂に達したが、1日で小さなクリトリスに浸透させられる量には限度があり、数日間続ける事で今よりも更にクリトリスの感覚を研ぎ澄まし、敏感にすることが出来る。

「それじゃあヘザー様、今からクリトリスをくすぐりますよ。イったらすぐ分かりますからね。珊瑚筺…あ、あの老人はこの魔法を珊瑚筺って名付けてたみたいですけど、ヘザー様ももし外の様子が分かれば納得しますよ。ヘザー様のクリトリス真っ赤に充血して珊瑚みたいですから。

 とにかくこれから僕は毎日徹底的にヘザー様のクリトリスを弄びます。ヘザー様が箱の中でどんな事になっても止めませんし、そもそも僕には分かりません。

 珊瑚筺に封じられると言うことがどういうことかしっかり教えてあげますからね」

 セドリックは両手に刷毛を持ち、真っ赤に充血したヘザーのクリトリスをくすぐり始めた。

『やめてくれぇぇ!セディぃ!!も、もうわかった!分かったからぁ!!』

『くすぐるのやめぇぇ!!むずっ、むずむずぅぅぅイクぅぅぅ!!』

『ほんとに止めろぉ!わかったぁからっ!こしょこしょとめろぉぉぉイクぅぅぅ!!』

『止めてくれぇ!!も、もうこき使わないからぁぁ!触らないでくれイクぅぅぅ!!』

『セディぃ!!わ、わるかったぁぁぁ!もうほんっとにっくぅぅぅぅ!!止めろぉぉぉぉぉっ!!』

 セドリックは疲れてくると珊瑚筺を置いてある研究机に上体を預け、片腕を休めながら交互にクリトリスをくすぐる。

 緩やかな動きでも1時間、2時間と続けていると筋肉が張ってくる。それでもセドリックは楽しくてしょうがなかった。

 自分をいじめていたヘザーが箱の中でどうすることも出来ずにイかされ、悶え続けているところを想像すると、全く手を止める気にならない。

 中の様子が分からないのが本当に惜しかった。ヘザーはもう許しを請い始めただろうか、それともプライドが高いのでまだ自分を罵っているだろうか。

 セドリックにとってはどちらでも良かった。箱の中でどれだけヘザーが藻掻こうとも、唯一飛び出した無防備で哀れなクリトリスは何ら抵抗出来ず、セドリックの為すがままにされるしかない。

 しかもこれから先クリトリスの感度は更に上がり、そこに与えているのも刷毛でくすぐるという極弱い刺激だ。

 この先まだまだ、今よりも更に辛い責めを与え、ヘザーを悶え苦しませることが出来る。

 セドリックは恍惚の表情を浮かべながら、食事を摂るのも忘れ、睡魔に意識を奪われるまでひたすら震えるクリトリスをなで続けた。

 何の前触れもなくオイルと垂らすと、クリトリスはぴくんと反応する。

 既に魔法薬の効果の上限まで感覚を引き上げたクリトリスを指でつまみ、捏ねてやる。

 滑りの良くなったクリトリスはセドリックの中で何度も硬くなり、何度も柔らなくなる。

 その変化を指先で感じ、中のヘザーの様子を想像しながら無防備なクリトリスへの責めを楽しむ。

『出してくれぇぇ!もう触るの止めてくれぇぇいたいぃぃ!』

『くぅぅぅあぁぁぁいくぅ!うぅぅぅぁぁぁぁぁやすませてくれぇ!」

『ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・』

『ムリだぁぁぁぁ~~~っもぉぉぉぉおっ!!』

 身体を力ませて絶頂を堪えよう試みても、多少遅らせることは出来ても結局イかされてしまう。

 何時間も責め続けやがて中々勃起しなくなると、セドリックは頭を垂らしたクリトリスをを指先で強く弾く。

『!?いたぁぁっ!!やめっ、いたっ!やめっ痛っっやっ、止めろぉぉぉ!!』

 真っ暗な空間でヘザーは痛みから逃れようと身をよじるが、筺の外にあるクリトリスは全く位置を変えずセドリックの指で弾かれる。

 魔法薬は塗られた箇所の感覚を鋭敏化しており、それは何も快感だけとは限らない。

 筺に封じられてまだ4日目のヘザーは執拗な責めを受けつつもまだ脱出を諦めておらず、自力でどうにかなると考えている。

 当初実際は自分の声も外に聞こえておりセドリックがそれを無視しているのだと考えていたが、今では自分の声が本当に外に聞こえていないことを察していた。

 それはヘザーにとって良くもあり悪くもある。

 これまで完全に見下し、奴隷扱いしていたセドリックに自分が思わず上げてしまう苦痛の声や悩ましい喘ぎを聞かれなくて済むが、同時に一切の交渉の余地も無い。

 やがてヘザーのクリトリスは指で弾かれる痛みからは解放されたが、そのまま休み無く再びこね回され始める。

 ヘザーを封印している箱は老魔法使いの屋敷で見つけた名も無きクリトリスが封じられている物と似たような物をセドリックが用意し、そこにノートに記されていたとおりの術を施し、封印器に仕立てている。

 老魔法使いはそこに選んだ相手に術をぶつけるだけで封印出来たらしいが、しがない回復魔法士のセドリックは離れた相手に高速で素早く術を対象にぶつけることが出来ないため、ヘザーの下着に認識用の術を施して置いた。

 この点のみ普段から身の回りの世話を全て任されこき使われていたことが生きた。

 並の相手ならその時点でいつでも封印する事が出来たが、対魔法遺伝子を持つヘザーは自身の意志に関係なく常時その効果を発揮し続けているため、セドリックはチャンスを待つしかなかった。

 やがて魔法士対策が施されている野盗の根城を遅う機械が訪れた。

 魔法対策にしても複数種類があるため、セドリックにしても確実性があるわけではなかったが、チャンスには違いないので試してみるほかなかった。失敗してもセドリックが封印を研究していたことを知らないヘザーに勝手に後を追って妙な呪文を発したことを咎められこづかれるくらいで、普段と変わらない。

 セドリックがヘザーを封印出来たのは運が良かっただけだった。

 逆にヘザーの運がなかったのは魔法の効果を減少させる肉体的能力が皮肉にも自身から発せられる魔法力による対滅効果だったことと、施されていた結界が咒器には効力を発揮しなかった点だった。

 その結果小間使い扱いしていた男に最も敏感な箇所を更に敏感にされ、今この瞬間もいいように指で弄ばれている

 名も無きクリトリスの蓋を開いた際ヘザーに指摘されたように、セドリックは女の性器を見たことが無く、そもそも女を知らなかった。

 現時点でも正確には女性器全体を見たことは無く、2人分のクリトリスを手中に収めているに過ぎない。

 二つの箱を並べてしげしげと眺める。

 最初は赤い豆だと思った名も無きクリトリスも、ヘザーのクリトリスと並べてみると大きさが全く違い、ヘザーの方こそ豆の大きさだった。

 比較対象を二つしか知らないためセドリックには分からないが、ヘザーのクリトリスも平均値よりはずいぶん大きいが、名も無きクリトリスは更に大きく人差し指の先ほどもあり、赤く充血した様はまさに磨かれた珊瑚だった。

 老魔法使いのノートには封印する方法や、クリトリスに使用する薬品や咒器の作成方法しか書かれておらず、実際に老魔法使いがクリトリスに何をし、どのように使っていたのか知る由はないが、そのノートから作成した鋭敏薬を塗り続けていればヘザーのクリトリスも名も無きクリトリスのような大きさになるのだろうかと、セドリックは目を輝かせながら当の薬を毎日塗り続ける。 

『はぁっ!はぁっ!はぁっ!』

『くぅぅぅぅぅ~~~っ!!』

 クリトリスに何の刺激も与えられない時間が度々あり、ヘザーはその度に何とか脱出できないかとあれこれ試みている。

 ヘザー自身には分からないが、対物理防御魔法対策を施した剣どころか、身につけていた物全てが封印空間内には持ち込まれておらず、封印された瞬間にパサリと床に落ちたそれらは野盗のねぐらからセドリックがしっかりと持ち帰っている。

 クリトリスだけが外に出ていることは間違いないので、その辺りに何が脱出の手がかりがないかと手を動かしてまさぐるのだが、やはり何かに触れる感触どころか手が動いている感覚自体がない。

 クリトリスを弄られている際はそのことばかり考えて仕舞うが、何もない時は脱出を試みられる程度に意識ははっきりしており、ヘザーは封印されてから5日ほど経過していると考えていた。

 その僅かの間に自分のクリトリスに得体の知れない物が塗られ、どんどん弄られる刺激が辛くなってきていることも実感している。

 その辛さのせいで5日間飲まず喰わずでいるのに飢えも渇きもないことも、睡魔が襲って来ないことにもまだ不審を抱けていなかった。

 実際は一週間経過しており、ヘザーの予想からそれほど外れてはいない。

『あっ!?くぅぅぅそぉぉぉっっ!!』

 また唐突にクリトリスが弄られ始める。しばらく間を置いてもクリトリスの鋭敏化は弱まっておらず、いきなり強い刺激を感じてしまう。

 薬自体に潤滑性があるのか、別の物を塗られているのかヘザーには分からないが、縦横無尽に動く指の間を自身のクリトリスがにゅるんにゅるんと滑りながら動いている感覚が伝わってくる。

 ヘザーにとって辛いのはひたすらイかされて仕舞うことが快楽に由来している点だった。

 拷問によって痛みを与えられるよりもプライドが傷つく。

 それを与えているのが箱から出たら即座に殺してやろうと考えているほど腹を当てている元小間使いであるのがよりいっそうヘザーを苦悩させた。イった瞬間僅かな間怒りが薄らいでしまう。

 薬はクリトリス全体に平均的に浸透していた。

 もしセドリックが先端の僅かな範囲だけに薬を塗り続けていればその部分だけが鋭敏化していたが、全体ににっているため元々一つのクリトリスの中でもより刺激に弱い部分はより弱いまま鋭敏化している。

 指の間で踊るクリトリスは鋭敏化が進む度に反応も顕著になり、おかげでセドリックはヘザーの弱点が文字通り手に取るように理解出来るようになっていた。

「ヘザー様、ここ弱いでしょう?」

 セドリックは反り返ったクリトリスの裏側、更に根元の窪んだ部分に爪を滑り込ませ、細かく動かす。

 表面を傷つけないようにたっぷりと塗ったオイルがくぼみに溜まり、爪を動かす度にくちゅくちゅと小さな音を立てる。 

「ご自身が気づいてるか分かりませんけど、指で触れてるとクリトリスがすっごい震えてるのが伝わってくるんですよ。だからヘザー様の弱いところが簡単に分かるんです。ここを弄ると他の所よりはっきりとクリトリスが嫌がってプルプルしながら反っちゃってるんで。

 だからこの裏側をいっぱいさすってあげますね。

 あ、そうそう、誉めて下さいヘザー様。一応最初に見つけたクリトリスに塗って試してはみたんですけど、どうも敏感になってるって言うのがどういうことなのか分からなくて、自分の先っぽにも塗ってみたんですよ。少しですけど。

 おかげでヘザー様が今どんなことになってるのか良く分かりました。

 あれですね、手や足が痺れた後にしばらくして血流が戻って来た時の、触られると叫んじゃう時みたいになってるんですね。クリトリスが。

 少し塗っただけでもしばらく先っぽが辛かったですもん。今のヘザー様とは比べものにならないでしょうね。

 でもどうしようもないですよね?ほらほら、こうやって摘まれるだけでも辛いと思いますけど、裏側を爪でクリグリされるのなんて想像もしたくないです。自分で体験してるだけに。

 中はどんな感じですか?一級戦士のヘザー様のことですからまだ我慢してますかね?それともわめいてます?どっちにしろヘザー様のクリトリスはもうボクの物ですから、どうにもなりませんよ。ずーっとこうして嫌がるところをいじめてあげます」

 セドリックは一方的に外からの声のみ中に届くのをいいことになじりながらヘザーを責める。それがよりいっそうヘザーを腹立たせたが、セドリックが言うとおりの状態になっているクリトリスを弄られているため、その最中は腹を立てる余裕すらない。

『もっ、もぉ止めてぇぇっ!!こきつかっって悪かったからぁぁぁ止めてぇぇぇっ!!』

 セドリックの予想よりも早い段階でヘザーはセドリックに許しを請うようになっていた。あくまで責められている最中のみ。

 中の声が聞こえないことは理解しているので無意味なこととは分かっていても、何の抵抗も出来ないヘザーにとってはそれしか手がなかった。

『くそぉぉぉっイクぅぅぅぅっ!!イクイクいくぅぅぅぅっ!!!』

 イった瞬間ヘザーの身体がビクビクと跳ね上がる衝撃がクリトリスにも伝わり、セドリックに絶頂を知らせる。同時にヘザー自身が認識できないだけで封印された身体が霊や煙の様な状態に変化しているわけではなく、しっかりと中で存在していることも分かる。

 一週間程度では長年の恨みは晴れず、セドリックはまだまだその様子を楽しんでいた。

 鋭敏化したクリトリスは特に気を使わず触っているだけでそのうち達する。なのでセドリックは無造作にクリトリスをこねくり回しながら、絶頂に達した直後のみより辛くなるよう意識して弱い部分を責めるようになっていた。

 このサイクルの方がより長くクリトリスを弄り続ける事が出来る。

 これによってヘザーはイった直後に間を置かずすぐさまイかされて仕舞うことが多くなり、徐々に中での時間感覚を失っていった。

「それから安心して下さい。もうこの薬では今以上に敏感になったりしないみたいですから。

 でも塗り続けますけどね。ずーっと敏感なままでいられるように」

 ミルドレッドは醜悪な片腕を忌々しげに睨んでいた。

 ヘザーに腕を切り落とされてから4年以上、とっくに原核魔法生物を改造し代替腕を取り付け、生活に支障はなかったが、見た目まで元の腕に似せることが出来ず、右腕の二の腕から先は半透明だった。

 魔法生物の中には捕食のために自らの魔力で魔法らしき物を使用する個体もいるが、この場合の魔法生物はそこまでの高度な処理機構を持たず、単純に魔力をエネルギーにすることが出来るだけの単純生物で、魔力が豊富な一級魔法使いの腕の代替として改造するには都合が良かった。

 切り落とされた腕が残っていれば自身で接合することも出来たが、ご丁寧にヘザーが戦利品として持ち帰って仕舞っていたため、この方法をとらざるを得なかった。

 見てくれはともかく、両腕の機能をを取り戻して以降ミルドレッドは復讐すべくヘザーを付け狙っていた。

 不意打ちによって初手でハンデを背負わされた分を差し引いても、ヘザーの対魔法遺伝子はこの上なくやっかいで、それに対処する方法を日夜考えていた。

 魔法士であるミルドレッドはヘザーでなくとも素早く動き回る相手に魔法を当てられないことが多々あるが、そういった場合は音や光に呪詛を込め、相手の速度に関係なく強制的に効果を与えるか、予め自分の周囲広範囲に結界を張っておくなどの対処が出来るが、そもそも魔法の効果を打ち消す相手には使えない。

 天才魔法使いもしばらくは頭を悩ませていたが、半透明な右腕を睨んでいる内に解決策を思いついた。

 自分の魔法使いとしての才能に自負がありすぎたため盲点だったが、相手の動きを封じるのに魔法にこだわる必要はない。相手と同等かそれ以上で動く生物を作り、それに捕らえさせた上でとどめを刺せばいいとミルドレッドは考え至った。

 これまで自分の魔法だけで大抵のことは対処できたため気にも留めていなかったが、いざ必要に迫られるとミルドレッドにとっては分子魔法生物学を習得することは容易かった。

 腕を作る為に習得した技術だが、それを使って戦士捕獲用の生物をミルドレッドは作り出すことにした。

 賞金首であるミルドレッドはヘザー以外からも狙われており、彼らが捕獲生物の実験台になってくれた。

 実験を重ね、最終的にミルドレッドは2種類の生物を作り出した。

 飛ぶ者と這う者。

 どちらも蛇のような形だが、飛ぶ者は中央の細長い芯を螺旋状の膜がめぐっている。

 飛ぶ者に追われながら地中に身を隠すことも出来る這う者を避けることはどの冒険者も出来ず、容易く捕らえられミルドレッドに返り討ちにされた。

 どちらも動力は魔力で、それを与えるが大量の魔力を生み出すことが出来るミルドレッドであるため、与えれば与えるほど高速で動くことが出来た。

 捕獲生物を作成し始めてから8人の賞金稼ぎを実験台にし、漸くミルドレッドは復讐をなすことにした。

 その矢先、ヘザーの行方が分からなくなった。

 報復対象の動向は随時把握し機会を伺っていたが、ウタラ山脈に向かってからの足取りを雇った追跡者が見失ってしまった。

 当初はその追跡者のミスと考え処分したが、その後雇ったいずれの追跡者もヘザーを見つけ出すことが出来なかった。

 屋敷の所在も、右腕を失う原因となった芋虫をヘザーが奴隷として所有している事も把握していた。不思議なことにヘザー失踪後その芋虫は逃走することも捜索することもなく屋敷に居座っている。

 ヘザーを見失ってからおよそ三月、まさかその間ずっと何処かに潜みミルドレッドが襲ってくるのを罠を張って待ち構えているとは考えにくいと考え、居座り続ける奴隷を捕らえて居場所を聞き出すことにした。

『うぐぅぅぅぅ・・・あぁぁ~っイクぅぅぅ!!』

 何千回目となる絶頂をヘザーはまたも強制的に与えられた。

 執拗なセドリックによる陰核いじめのせいでアネットは途中まである程度正確だった時間の感覚を失い、封印されてから1ヶ月ほど経っていると考えていた。

 実際は既に3ヶ月が経過している。

 1ヶ月にせよ3ヶ月にせよ、これだけ長い時間封印されているとヘザーも何故自分が飲まず食わずで生きていられるのかという疑問に思い当たっていた。

 当たっただけで答えには至っていない。

 その点に関してはセドリックも同じだった。

 少なくとも発見してから蓋を開けるまでに1年かかった名も無きクリトリスが元気に跳ね回っているので大丈夫だろうと判断しているだけで、なぜ大丈夫なのかは分かっていない。中の状態に関しては一切老魔法士のノートに記されていなかった。

 その点は気にも留めていないセドリックにも一つ問題が浮上していた。

 指に限界が訪れている。

 徐々に育ちながらぷりぷりと心地よい感触で踊るクリトリスを、楽しさのあまり毎日休むことなくこねくり回し続けた結果、両手の小指と薬指以外の動きが酷く鈍くなり、無理に動かすと痛みが走るようになった。

 その結果責めが緩くなっていることはヘザーにも伝わっている。

 指以外にも刷毛や筆などを使っていじめることもあるのだが、結局感触と反応を味わいたくて指で責めてしまう。

 単に指の使いすぎに因る症状なので指を休ませれば済むことだが、指を休ませてもヘザーのクリトリスを休ませたくないセドリックは無理をしながら指を動かしていた。

 この日もセドリックはヘザーのクリトリスを弄っていた。

 当初のように片手で摘んで裏側の弱い箇所を露出させ、もう片方の指で執拗にぐりぐりと責め続けるようなことはしていない。

 3ヶ月で名も無きクリトリスの半分ほどの大きさまで育ち、充血しなくとも頭を垂れなくなったクリトリスの先端に指を当て、お座なりにくるくると円を描く動きを続けている。

 セドリックにとっては不本意な責めだが、悲しいことにこの動きでも中のヘザーはイかされて仕舞う。

 ぎしり、と背後の床がなった。

 瞬間的に鳥肌を立てながら振り返ったセドリックは、人が立っていることに気づくと情けないことに悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。

 この際、クリトリスに触れていた手に払われ箱も床に転げ落ち、蓋が閉じられた。

「…さてと、即座にお前を殺さずに口をきいてやってる理由は分かるな?」

 背後に突然現れたのがミルドレッドであることに気づく前に浴びせられた第一声をセドリックが理解出来るはずもない。

「あの女はどこに行ったんだ?まさか隠れてるわけでもないだろ?」

 一歩近寄られ、漸くそれがミルドレッドであることに気づいたセドリックは無意識に視線を右側に向けてしまう。

「おい!どこを見てるんだ!誰のせいだと思ってる?こっちを見ろ、いや、見るな。床を見てろ芋虫」

 セドリックは震えながら言われたとおり床に視線を落とす。

 妙な色にはなって生えていたが、ヘザーがその部分を切り落としたことも当然セドリックは承知している。

「お前のことは殺すけど、すぐにヘザーの居場所を言えばあっさり殺してやる。そうでなければ火で全身を炙った後に縛って死ぬまで放置する。早く言え」

 ミルドレッドは可能な限り見下している相手との会話を少なく済ませようとする。

 かなり高額の賞金が掛けられ、田舎の回復魔法士ですらその悪名を知っている相手であるため、セドリックはこの状態を脱する術はないと早々に諦めた。いつの間に現れたのかなど気にもならない。

「あ…あああがああ・・・・」

 素直に質問に答えようとするが、降ってわいた死の恐怖で顎が震えて喋れない。

 この時点でセドリックの頭には封印された状態なら自分が言わなければヘザーが見つからずに済むかも知れないという考えは微塵もない。

 喋る代わりに震える指で床に落ちた箱を指し示す。

 まさか自分に対して拾えと言っているのかとこめかみに青筋が立つほど怒りを感じたが、腰を抜かしていると思しき惨めな若造に文句を言う手間さえ惜しみ、ミルドレッドは示された小箱を拾い上げた。

 中に隠れ家の鍵か地図でも入っているのだろうと考え、ためらいなく蓋を開けた。

「・・・・・」

 長い沈黙の後振り返ったミルドレッドの顔には怒りではなく更なる蔑みの色が浮かんでいた。

「これがヘザーのか?」

 さすがのミルドレッドもすぐには箱の中にある赤い物がなんなのか分からなかったが、それがフルフルと震えると男のセドリックとは違い、大きさの差こそあるが自分にも同じものが付いているため、早い段階で何なのかを察した。

「お前性魔法士か?」

 セドリックはうなずいた直後に大きく左右にかぶりを振った。ただでさえ嫌われている上に性魔法士だと認識されると直後に殺されかねない。

 自分が性魔法使いでないと証明するため、相変わらず震えたままの指で机の上を指し示す。

 ミルドレッドが机の上を見渡し、明らかに一つだけ色あせて古いノートを手に取ると、セドリックは激しく縦に頭を振る。

 ミルドレッドは1度パラパラと全体を見通すと、改めて最初からそのノートを読み始めた。

 読むだけでセドリックが数週間かかったノートを、ミルドレッドは軽い冊子でも眺めるかのような速度で読む進んでいく。

「・・・なるほどな。お前如きが考えられそうな式ではないなこれは。これを見つけてヘザーに試してみたか?」

 一瞬セドリックは正直に言うかどうか迷った。架空の誰かがヘザーを封印し、自分はその世話をしているだけということにした方が生き延びられるのではという考えもよぎったが、ミルドレッドを前にしてその目で射竦められるとくだらない嘘は全てばれてしまうような気がし、正直にうなずいた。

「ふっ…これはこれは、手間が省けたな。時間を無駄にしたとも言えるが」

 強敵であるヘザーの動きを封じる準備を時間を掛けて整えたにも関わらず、いざ対峙すると既に別の形で動きを封じられている。

 ミルドレッドは思わず笑みを浮かべた。怒りがやや収まる。

「見失ったのはこのせいみたいだな。ということは3ヶ月はこの状態か。どうやら優秀な封印らしい、ヘザーをその期間封じたままに出来てるんだからな」

 急に良く喋るようになったミルドレッドにセドリックは少し生き残る希望を見いだす。

 何とかそれを持って立ち去るだけで済ませてくれないだろうかと。

 ミルドレッドは机に大きな尻をのせ足を組む。既に即座にセドリックを殺すという考えは消えている。

「で、この状態のヘザーに何をしてたんだ?お前は。まさか封印しただけで満足したわけじゃないだろ?だったら何もここだけ外に出しておく必要はないもんな」

 ミルドレッドは手の中のヘザーのクリトリスをギュッと抓る。

「だいたい大きすぎるだろう、これは。ノートにあったな、鋭敏薬の製法も。・・・ああ、これか。やっぱり作ってるな、これを塗って育ててたのか」

 ミルドレッドの顔から怒りは消え、面白い玩具を見つけた時のようににやにやと笑みを浮かべている。セドリックに喋りかけているようで、実際気にも留めていない。

 長年ひとり暮らしなので、研究中なども独り言をつぶやく癖が付いている。

 セドリックもそれを察し、下手に返事をして怒りがぶり返さないように黙っている。

 ミルドレッドは長い爪の先でヘザーの芯をつついたり、力を込めて指ではじいたりしながらぶつぶつとつぶやいている。

 上向きに歪んだ口の端から涎が垂れてきていることに気づいたセドリックは慌てて目をそらす。

 先端で円を描いていた指が突然離れ、何の音も聞こえなくなったことをヘザーは不審に思っていた。

 セドリックが眠る時は責めも一旦終わるが、普段の終わり方ではなかった。

 そのしばらく後、聞こえて来たのが女の声だったことが更にヘザーを不審がらせ、驚かせた。

 それもつかの間だった。

 声の主がミルドレッドだと気づいた瞬間、ヘザーは心臓が止まるほどの絶望感に襲われた。それはセドリックに封印され、クリトリスだけを外に出していると始めて気づいた時以上の絶望だった。

 すぐに絶望の正しさを証明するような激痛がクリトリスに与えられた。

 何の手加減もなくクリトリスを抓りあげられている。しかも敏感になっているクリトリスを。

『いっっっ…ぎひぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!』

 ヘザーは歯を食い縛って暴れるが逃れる術はない。セドリックにも抓られたことはあったが、手加減されていた。

 ミルドレッドが手加減を、しかもヘザーに対してするはずがなかった。

 与えられる痛みはそれだけに留まらず、尖った物で突かれたり硬い物で強く打たれたりと、つい先ほどまでの快楽責めから一転して、痛みのみを与える拷問が始まった。

 カリカリと引っかかれる感触で尖った物の正体が爪だと分かると、その爪が表面をなぞりながら付け根、セドリックが良く責める箇所で止まり、そのまま押し込まれ始めた。

『ぐぅぅぅっ…いあぁぁっ!!』

 次は根元をつつかれるのだとヘザーは思った。しかしその先端は一旦離れたりせず、更に力を込められる。

『はっ!?…やっ、止めてぇぇぇぇ~~~~~っっ!!!』

 ミルドレッドが根元をつつくのではなく、爪を刺すつもりだと思った瞬間、ヘザーはクリトリスを切られる恐怖で悲鳴を上げながら失禁していた。

 そして立て続けにハッとする。

 クリトリスが絶体絶命の最中ではあるが、自分が失禁していることに気づいたのだった。

 尿道から出ているはずの尿の感覚は一切無いが、尿道の中を尿が流れていることははっきりと感じられた。

 3ヶ月間クリトリスに与えられる刺激以外一切感知出来なかったため、その感覚が拷問中であるにも関わらずはっきりと感じられた。

 皮膚表面の感覚は一切無いが、体内の感覚は封印中でも残っていることをヘザーは知ることが出来たが、それを今知ったところで何の意味も無かった。

「他にないのか?これの他に」

 ミルドレッドはヘザーの恐怖を知ってか知らずか、クリトリスをに爪を突き刺すことはしなかった。

 セドリックに向けて1度目を通しただけでもう用はないとばかりにノート投げてよこす。セドリックは首を振るしかない。

 ミルドレッドがヘザーのクリトリスに夢中になっている僅かな間に多少落ち着きを取り戻したセドリックは、一つだけ、生きてこの難を逃れられるかも知れない方法を思いついた。

 後はそれを切り出すだけだが、タイミングを見誤ると勝手に口を開いただけで殺されて仕舞うのではと言う緊張感はまだ残っている。

「どこで見つけたんだ?そのノートは」

 首の動きだけでは答えられない質問をされ、セドリックは意を決して老魔法士のノートを見つけた経緯を伝える。そしてそのままの流れで続ける。

「そ、それからミルドレッド様、う、腕のことなんですが…」

 その瞬間にやけていたミルドレッドの表情が元に戻り、怒りに赤く染まった。尻を下ろしていた机から立ち上がり、セドリックに歩み寄る。

「腕がなんだって?」

 セドリックは床に尻を付けたまま恐怖で後ずさるが、言い終えなければ本当に殺されると考え、声を振り絞る。

「み、ミルドレッド様の腕っ!まだヘザー様が保管してますっ!!」

 ミルドレッドの足が止まる。今聞いた言葉をゆっくりと反芻する。

「まだのこってる?」

「は、はい。まだ残ってますこの屋敷に」

 セドリックはここぞとばかりに一気にまくし立てる。

 ヘザーは4年前切り落とした腕を持って帰り、殺したことにして換金しようとしたがどうせミルドレッドは片手でも悪事を働き生存してることはすぐにばれるだろうと考え、改めて捕らえた時に一緒に提出し、五体満足で捕らえた際に支払われる報奨金全額を受け取るために保管され、保存液の中で腐敗を免れていると言うことを伝える。

「・・・ってこい」

「・・・は、はい?」

「今すぐ私の腕を持ってこい!!!」

 怒鳴られた瞬間に抜けていた腰は元に戻り、投げ渡された大事なノートをぐしゃりと握りしめながらセドリックは部屋を飛び出した。

 部屋を出ることが出来てもセドリックに逃げる気は毛頭ない。逃げたところで突然背後に現れるような相手を巻けるはずもない。

 口から出任せではなく、セドリックは事実を伝えていた。

 ヘザーの自室ではなく、諸々の仕事の際に違法に入手したお宝を保管しておくための地下の部屋に、ミルドレッドの右腕も保管されていた。

 セドリックはどうしても時間を稼ぐ必要があった。

 まどろっこしいが、時間を稼ぐための下準備を始める。

 比較的目立つ場所に特に大事にでもなく置かれているミルドレッドの腕が入った透明な容器の蓋を開け、中の保存液を半分ほど床に捨てる。後で片付けることなど考えている余裕はない。

 容器に空きが出来ると同じく地下にある食料保存室に向かい、そこである木の実を漬けた保存食の、液体部分だけを空いた部分に流し込む。

 青白かった保存液が漬け汁と混ざり、汚く濁る。

 それを適当な棒で腕が傷つかないようにゆっくりと混ぜ、均一になるとすぐに蓋を戻し、ミルドレッドが待つ部屋へと戻る。

「も、もってきました。こ、これですっ!!」

 差し出された腕を見た瞬間にミルドレッドの眉間の皺は消え、目を見張る。

 ついさっきまで自分の腕がまだ残っているかもしれないなどとは露ほども思っていなかった。

 4年ぶりに再会する愛しい右腕を前に、思わず頬も緩む。

「そ、そうか。ふ、フフ、強欲女のおかげで残っていたか…ふふふ…」

 込み上がってくる笑い越えを押さえられないまま蓋を開ける。

 その瞬間、笑みを奪うほどの強烈な臭気も込み上がって来た。

「ぐっ・・・はぁあぁぁぁぁっ!?な、なんだこの匂いは」

「えっ?わ、分かりません…保存液の匂いじゃ…」

「ぐぅぅぅ…あのケチ女がぁ!保存液がこんな臭いするか!この私の腕をどんな安物の液に………洗ってこい!!」

「え、え?」

「すぐに洗って持ってこい!!戻った時に少しでも臭いが残ってたら殺す!!」

「わ、分かりました!で、出も時間が…」

「いいから行ってこい。とにかくこの臭いがなくなるまで戻ってくるな!!」

 セドリックは腕入りの容器を持ってミルドレッドに追い出された。

 何とか思惑通りミルドレッド自身の命令で、時間を作ることが出来た。

 腕の臭いは本当に落とす必要があるため、地下ではなく台所へ向かう。

 この地方ではその強烈な臭気のせいで誰も口にせず、それはセドリックも同じだったが、ジンスの実の酢漬けはヘザーの出身地方では平凡な食べ物で、ヘザーはわざわざ取り寄せて常備していた。

 ただしヘザーの出身地方の人々も臭いが気にならないわけではなく、それを素早く洗い流す溶剤も作り出されていた。

 そのため腕の臭いはミルドレッドが予想しているよりもかなり早く消すことが出来る。

 その余った時間を使い、セドリックは自分がミルドレッドの驚異から生き延びるための準備を始めた。

「あ、洗って参りました」

 セドリックは腕だけを持って戻り、ミルドレッドに差し出す。

 ミルドレッドは受け取った腕を鼻に近づけ臭いを嗅ぐ。何らかの溶剤の匂いは微かに残っていたが、先ほどの鼻の奥を突くような強烈な悪臭はしっかり消えている。

「・・・いいだろう。よくやった」

 思いも掛けずねぎらいの言葉を貰い、セドリックは胸をなで下ろした。

 後はこの場で腕を付け直してくれれば…保存液から出された時点から腐敗は進んでいくのでその可能性は大きいはず…と考えている間に半透明だったミルドレッドの右腕が白く濁っていき、やがてぼとりと落ちた。ミルドレッドが魔力を与えるのを止めためだ。まだ生きてはいるが接合力は失っている。

「記念に一流の魔法使いの凄さを見せてやるよ」

 ミルドレッドは始めてはっきりとセドリックの目を見、笑みを浮かべながら言う。

 笑みは浮かべているものの、セドリックはその記念が生きている内の最後の記念と受け取り、結局ミルドレッドが自分を殺すつもりでいることを悟った。

 自作の代替腕が繋がっていた断面に本物の腕の断面を付け、なにやら唱える。

 接合部が光り始めると、保存され真っ白だった腕が徐々に赤みを帯び、やがて小指がぴくりと動いた。

 その後僅か数分の内に4年間切り離されていた腕は機能を取り戻し、太さ以外は完全に元通りになった。接合部の痕もない。

 ミルドレッドは腕をセドリックに見せつけるように動かす。

「どうだ?回復専門の魔法士より上だろ?」

「は、はい凄いです、ミルドレッド様・・・◀♤⦿⏎〓♩☂☀▶■⁑‡©&†♩〽◉␣☎▼〠…⌘◇◁◐◎¶@ª※☆〠♨❖☗!!!!」

 床に正座していたセドリックの両手には、いつの間にか蓋を開けられた小さな箱が握られていた。

 セドリックの詠唱に気づいた瞬間ミルドレッドは強烈な殺意を覚えたが、慌てはしなかった。

 しかし次の瞬間、ミルドレッドは真っ暗闇の中に居た。

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