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3 終電

振った肉棒から小さな水滴が飛ぶ。

カシャリと、硬いシャッター音が頭で鳴った。まただ。

目の前の小便器、どろりと粘着質な白濁が垂れる。妄想だ。ありもしない精液を空目した瞼を閉じ、熱い息を吐き出した。

「ふ…ぅ…」

どくり、どくりと、赤い血が股間へと集まっていくのが分かった。胸の鼓動に合わせ、股間の一物が鎌首を持ち上げていくのが指に伝わるのだ

我ながら呆れ果てる。これが初めてでも、二度目三度目という浅い回数でもないのだ。

まるで血そのものが淫猥になっちまったようだ。集まるとそれだけで、そこにボウっと快感がこみ上げる。肉棒だけではない。羞恥で赤くなった顔にも、頭にも、どこでもそうだ。

恥ずかしい。

その言葉を思い浮かべた瞬間、俺の体はゾクゾクとたまらない快感が流れるようになっていた。

あの時、あの電車内。俺の中で目覚めてしまったこの性癖は、既に無視できない大きさにまで膨らんでいた。

「クッソ……ぐぅ」

半勃起のチンポを無理やり曲げ、スラックスにしまい込む。この間抜けな行為もまた、一度や二度じゃない。ふとしたきっかけで、俺のナニはビンビンに汁を垂らすようになっちまっていた。

鏡の前で手をゆすぐ。イカツイ坊主の親父面だ。まさかこんな俺が、今勃起しかけているなんて誰も…考えやしないだろう。

あの日から何度正そうとしだろうか。認めてたまるかと、何度歯噛みしただろうか。女も抱いた。センズリも扱いた。

肉を突き、肉を味わい、肉に直接快感をぶち込んだ。そんなセックスの快感ですら、脳は、体は、そしてチンポは洗うことが出来なかった。忘れられなかったのだ。

大好物の交尾の最中でさえ、俺の目線はあらぬ場所を見ていた。それが最もプライドを傷つけた。

俺の視線は、豊満な胸でも、柔らかな肢体でもない、ベッドの横、貼られた鏡の壁を見ていた。写っていたのだ、出入りする俺のチンポが。いやらしい動きをしている腰が。

「あ…くぅ…」

思い出すだけで、俺は水に打たれる手が熱くなるのを感じた。

前へ後ろへ、円を描きながらこねくり回す腰の動き。激しく打ち付け震える尻。暴れまわる足の指が、快感で狂う俺の体を端的に表していた。よく、覚えている。

一人でセンズリをしていてもそうだ。

あの時携帯に送られてきた自分を思い出し、勝手に体が助平な格好になる。服を中途半端に脱ぎ、脚を本能丸出しに開き、腰をスケベに動かしちまう。そうして後になってこっ恥ずかしくなって、それがまた気持ち良いのだ。

今では電車に乗る度、あの時の事を思いだしていた。

ザラリとした頭を撫でてみる。坊主頭はあの時の長さのままだ。これは横着なだけだ。あの出会いをもう一度期待しているなんて、そんなことはありえない。

あってはいけない。俺は、早く治してしまいたいんだ。

「小便長いッスよ、課長」

「うるせェなぁ、行くぞ」

「わかってるスよ、俺乗り換えあるから終電次なんスから」

駅の便所の出口、アイツが待っていた。俺のきっかけになったアイツ、荒井だ。

写真の件ではしっかり締め上げたが、以来一層壁が壊れてしまったようだ。社外のコイツの口はますます軽くなっていた。

「角田、お前珍しく甘い顔してるなぁ」と同期には笑われた。かわいがっている、とでも思っているのだろう。本当の理由など誰も知らない。俺が、この軽薄そうな顔の裏を探りあぐねているように

あの画像だって、本当に削除したのか怪しいもんなのだ。

「はぁー、ギリギリ間に合ったぁ」

「おう」

電車に慌てて乗り込んで間もなく、自動ドアは外界と壁を作った。動き出すと、いよいよそこは簡易的な密室になる。

コイツと二人、横になって乗るのは初めてだった。

座るなり携帯をいじりだした横顔を覗く。睨むような顔で。

今は誰に連絡してやがる。今日こそ洗いざらい吐いてもらうぞ。あの日からなんだ。俺がおかしくなったのは。お前だ。お前ののせいなんだ。俺の、この異常は。

俺達以外、車両には酔っていびきまで上げているリーマンに、部活帰りでぐったりのガキだけだ。

実質ここには二人きりだ。いい機会だ、ハッキリさせちまおう。俺は意を決し唾を飲み込んだ。

「………」

しかしやはり、いざとなるとこっ恥ずかしものだ。

おまえ、俺の事露出狂の変態にしようとしてんじゃねえか。

年下の男に、それも部下になんて聞けるもんか。

しかし言わなくてはいけない。このままなあなあにしておいて良い事なんてないのだ。

荒井の右手にあるのは、確か最新式のスマートフォンだ。ゴツゴツのレンズがついた大画面のものだ。あれに俺の痴態が撮られちまったのだ。

もしも…、もしもあの画像をネットに晒されでもしたら、一大事なんだ。

誰かもわからない奴に見られちまうかもしれない。

それはどこぞの若造かも分からない。俺より年上の変態親父かもしれない。女の事も知らない中学生のガキかもしれない。同僚、上司、部下、誰かが見つける可能性だってある。

俺の鍛え上げた体を見て喜ぶ奴もいれば、情けないポーズを馬鹿にする奴もいるだろう。

ズリネタにされるかもしれねえ。俺のセンズリ見てシコシコするかもしれねえ。俺を変態だと勘違いして、もっととんでもなくいやらしい姿なんて想像して。

たまらねえ。

そうなったら、たまったもんじゃねえ。

「なん…スか?」

「あぁッ!? ……いや、なんつうかよ…」

俺の視線気がついたのか、荒井が目をぱちくりとさせてこっちを向いた。

「…女か」

「ハハ…まぁ」

「…遊ぶのも大概にしとけよ、節操を持ってだな」

「角田課長が言うんスかそれ!」

「うるせえなあ」

説教だけがすんなりと出る。肝心な言葉には届かず、どうしてか出るのは汗ばかりだ。本題に入らなければいけない。回り道になるが、しかしそれでもいいだろう。

「……あれだ…あんまり妙な…、プレイとかに…つき合せんなよ…」

「妙な?」

「妙なっつったら…、分かんだろが…!」

「えー…、え………?」

「だから…! あれだ……そのだなぁ…」

奥歯がギチギチと言っている。体中の筋肉から汗が吹き出す感覚。羞恥心。焦らされているかのようなやり取りで尻がむず痒い。

「…写真ッ!撮ったり…、そ、外でしたりだとか…だ…!」

中に溜まりきったものを吐き出すように、俺は言った。

きょとんとした顔、その後すぐに口が動いた。

「ははは、この前の事っすかぁ」

それは笑い声だった。ふてぶてしい奴だ。

苛立ち、俺は続けた。

「お前な…!」

「アレは酔ってたからっスよぉ」

「は」

しかし荒井は、本当になんでもないという口調でそう続けた。

「いやぁ、あの子は結構やられるの好きっぽいんすけどね、やっぱりこの前のは怒られちまいましたよ、あの後」

 嘘や誤魔化しをしている風ではない。照れくさそうに笑う顔は、惚気話をしているようにさえ見える。

「恥ずかしがるところは見てみたかったんすけどね。大目玉っす。人の倫理観…とか、価値観? なんて分からないもんっすねー、彼女でも」

 3pはいいが、撮影や見られるのは駄目。そう言われたそうだ。

 俺の耳は話半分に聞くだけで、あとは自分の鼓動を聞いていた。ガラガラと何かが崩れていく。

「ま、俺も露出狂の変態じゃないし、反省も兼ねて、もーちょっと俺のテクで楽しませることにしましたよ、ハハハ」

ガリガリ頭を掻いて、荒井が笑う。笑っている。

じゃあ俺は…どうして。

お前のせいだろ。お前が、お前が俺のことを嵌めて…、それで、そうじゃないのか。そうであってくれ。そのほうがずっと…。

だって、そうじゃねえ、と…俺は……俺は。

「ああ、俺ここっす」

荒井が声を上げた。乗り換えの駅についたようだ。

「それじゃ角田課長、お疲れ様っしたー」

快活な声を上げて、荒井は手を上げ、腰を上げた。

振り返りもせず電車を降りていった。俺を残して。

「ハァ……ハァ…」

静かな夜だ。

音という音は車両の揺れにかき消され、耳には自分の吐息が残る。

一人取り残された俺のそれは、修羅場を超えたというのにますます荒くなっていた。

ゴウと、激しい風音が鳴る。

電車がトンネルに入ったのだ。暗い景色が一層深く塗りつぶされる。けたたましい音が耳を塞ぎ、鼓動が俺の中で熱くなる。

「あ……なッ…」

薄明るい電車内に、サッと光のように男が現れた。

俺だ。暗い窓が鏡のようになって、俺の像を映し出している。

どっしり股を開きで長い電車椅子に座る俺。緩めたネクタイ。窮屈なスーツ。ごついガタイをした、厳しい顔した親父面。高校時代には既にこの顔だった。年齢詐称、まるでヤクザだ。からかわれながらも長年付き合った俺の顔。

その顔が、ニヤリと笑っていた。見たこともない表情で。

したり顔で口を動かしている。

鏡に写っている筈の俺の姿、それが、勝手に動いている。分厚い太腿に置いた指が、バラバラに蠢いているのが見えた。生地を引っ張り、肉体を擦りつける。股間がより強調されてもっこりと膨らんだ。

どうだぁ、俺のは。

そんな顔で、歯を見せニタニタ笑う俺。

俺がそんな顔するか。こんな場所で。

ああ、触ってやがる。誘ってるみてえだ。柔らかそうな膨らみが、どんどん硬そうな正体を表している。ジッパーを掴んで、上へ下へぶらぶらと遊んでいる。ああ、やめろ、そんな間抜けな、スケベなところを見せつけないでくれ。

『期待してたんだろ』

低い声、俺の声が聞こえる。

『ばらまかれると困るとか、上司の威厳とか、そんなもんでも、なんでもねぇ』

耳の中で直接響く声だ。俺の頭をガンガンと揺らしながら、それが勝手な言葉を並べ立てる。

『俺はただ、あいつにまた、ど助平なカッコ見てもらいたかったんだよ、見られたくてしょうがなかったんだよ、なぁー…』

ああ。

身じろいた。背もたれが沈む。

ようやく俺は理解した。偶然だった。誰の因果も働いてはいなかったのだ。

認めたくなかった。だから俺は、あいつのせいにしていたのだ。全て俺が、ただ望んでいた。誰のせいでも、誰の計画でもない。

俺の本心だ。

窓の姿を追うように、俺の手が股間へと伸びていく。

じぃぃぃい。

音を上げながら、スラックスの窓が全開に開く。ズボンの中、パンツの中、ずっと燻っていたチンポを握る。

ああ、ガチガチだ。根元は汗で蒸れ、先端は先走りで濡れきっている。とろりと垂れた汁が言っている。早く、外に出たくて仕方がなかった、と。

「おぉぉ、おぉぉお…!」

小さな声で俺は叫んだ。俺は思い切りそれを引く。外へと引っ張り出した。

ブルン。手を放すと、肉棒が反り返った。

電車がトンネルを抜けた。窓の画像が、暗い街並みに移り変わる。

「おぉ…、こ、こん……な…所で…俺は、俺は…!」

剥き出しの肉棒が光る。触る。皮を窄めて、戻す。ぐちゅぅと音が出た。俺の顔に引きつり笑った。

そうだ、俺はこんな風に、ずっとこんな風にスケベな姿を、晒したかった…!

「お…ぉ、オォ…ォォ!」

首が快感で反り返った。窓にうっすら写る俺の顔が見える。窓には、今の俺の姿だ、ただそのままに写っていた。

本当に爽快な気分だった。

今までの我慢が阿呆のようだ。この開放感、いい気持ちだ。最高だ。

「ぅおぉ…!オォォ…ッ、チンポ…ォ」

一言スケベな言葉を口にするだけで、涎が溢れて無精髭を汚す。

まだ誰も気が付いていない。それが安心感と、そして焦燥感を煽る。向かいの席の端、眠るように寄り掛かっているあの目が開いたら。見られたら…。

「はぁあぁ…ふぅぅう」

とんでもない格好だ。ゴツゴツでむっちりした体を、ぎっちり真面目なスーツで押さえ込んだ親父が、ちんぽだけ丸出しにしてコキまくってる。

腰がぐねぐねとせわしなく動く。わざといやらしい感じを出すように。

デカイ尻に感じる椅子の感覚は、紛れも無く普段通勤に使うそれだ。空気も臭いも、何千回と乗ってきたそれなのだ。

俺は目を閉じ、朝の風景を思い出した。

人の塊のような車内で、今俺はチンポを剥き出しにしてセンズリしている。見られている。皆、男も女も、ああ、ああ、見られちまってる。俺が変態露出狂親父だって思われちまう。

「え……」

向かい側から聞こえた現実の声に、俺は目を開けた。

ジロリと覗く視線が、俺の肉棒を捉えていた。頭から爪先まで、一気に電流が流れた。

恥ずかしい。なんて恥ずかしい格好だ。あぁ、本物の視線だ。

俺の口から涎が垂れる。この快感だ…。コイツが欲しかった…。他の何を捨ててでも。男でも、もうどうだっていい。

リーマンは瞬きを繰り返しこちらを見続けていた。夢か何かか、とでも思っているのだろう。

「へへ…すげ…!キッモチ…ぃぃ…」

夢じゃないぞと、そう言う代わりに俺は低く喘いでやった。男はいよいよ顔の険を深めると、鞄から本を取り出した。それを目隠し代わりに、顔を覆って視線を外されてしまった。

目が覚めちまったのだ。俺も、眼前の男も。

駅にはすぐに着いた。

向かいの男は俺には可能な限り目を向けず、そそくさと足早に降りてしまった。

ああ、なんだよ。クソ…。

見てくれよ。もっと、もっと見てくれよ。俺のセンズリ見まくってくれよ。

穴が開くほどみられてぇ。

俺は思わず追いすがるように立ち上がった。

電車のど真ん中、向こう側の車両が連結部から覗ける。俺は盛り上がった胸筋を撫でながら、ネクタイをさらに緩めた。気持よすぎて、体中が熱い。

ボリボリと左手で首を掻きながら、俺はなんとはなしに右手でつり革を掴んでみた。

「へ…へへへ……ヤベ…これ…」

やりなれたことだが、初めてのことだ。通勤姿だというのに、チンポだけビョンと横から突き出したそれは、途端に情けないものになる。…そして気持ちがいい。

俺はその状況をオカズに、チンポから雄の汁を垂らした。手を入れ替え、再びチンポをねちねちとシゴく。尿道をぐにぐに押し広げると、臭い汁がむわんと車両に広げていく。

腰を曲げるとつり革が軋んだ。聞きなれた音、やりなれた行為、サラリーマンとしての職務を汚しながら、俺は興奮を煽っていく。

「あ…ぁぁ?」

そこでようやくと気がついた、横の学生がチラチラと俺の様子を伺っている。

トチ狂った親父のセンズリショーに、興味が有るのか…。

「…だったら、サービスしてやらねえとな…」

茹だった頭はすぐにそう決めた。革靴のつま先を学生の方に向ける。

どうだ。男らしいだろう。

コレが大人の、おやじのセンズリだ

恥ずかしい。

顔から火が出そうだ。爆発しちまいそうだ。

しかし血が燃える程、体が気持ちいい。

仁王立ちになってのセンズリはどこか誇らしさがあった。鍛え上げた体を最大限見せつける、その男らしさに酔いしれる。発展途上といった体にチラチラと見られているというのが、また効くのだ。

「う! うぉッ! いぃぃ…すげ…すげキモちぃぜ…」

声を出すと、覗き見る学生の顔が明らかに赤くなった。腰が左右に揺れるくらいに気持ちがいい。

「お、俺…俺は…見るられながらセンズリ……してる…チンポ扱いてるぞぉ…」

たとえ目を瞑られても分かるようにと、俺は自分のみっともない状況を声に出した。

俺にも聞こえるその低い声は、さらに羞恥心を掻き立てる。ゴリゴリと筋肉が歓喜に震える。

イキそうだ。

イッちまう。

脳天から感じる。

電車の中でセンズリショー見せつけてイく。俺が、この俺が。

つり革を握る左手が痙攣する。扱く右手が速くなる。ガタゴトと揺れる電車の中で、チンポを今度こそ、俺は…。

「イ…イきそうだ、ぁぁあぁ…、電車ン中で…ぃ、イク…イッキそぉ…!」

シュッシュ。グチュグチュ。

扱き上げる音が、走行音と喧嘩するほどに大きくなる。

「イきそ…。イきそうだァ……、あぁ、イキ…イッちまいそぉ…!」

何度も何度もしつこく繰り返す。見てくれ、聞いてくれ、一番の見所なんだ。そういう代わり、イきそうだ、イきそうだ吠え続ける。

そしてようやっと、目線が俺の方に向いた。ビクんと、瞬間的にチンポが膨らんだ。

「ヒイ…ちまッ、見られェちまぁぁァァアッっほっぉおッ!」

跳ねた。でっぷりした亀頭から、精液が思い切り飛び出した。見られている精液が跳ぶところを見られている。

「おっぅぅ! おう、おう! おうッ! おうッ!」

とろとろのチーズのように臭い俺の精液が、電車の中に広がっていく。先走りの汁とは比べ物にならない量、臭い、色のザーメンだ。俺のチンポから出た汁が、白い床に散らばっていく。

「あ……あひッ…、ぐひ……」

生涯最高の射精だった。

熱は冷めることなく、それどころか俺の心をがっちりと掴んでいた。

もうこの快感なしじゃ、俺は駄目だ。駄目になっちまった。そうに違いない。

電車が停まる。俺の普段使う駅に着いたようだ。しかし俺は降りる気にはなれなかった。

このクセェ臭い。この臭いを撒き散らしながら、車両を跨いでいって歩いてやろう。そう考えていたのだ。もっと色々な奴に、見られたかった。

息は上がり、汗だくで、二の腕は疲労困憊だ。しかし気分は風呂上りのように爽快だった。

終点駅に着くまで、俺はうろうろと電車内を歩き回った。窓の景色が変わっていく。どの風景も素晴らしいものに見えた。

4 終点

「お、おい、いくら…なんでもよぉ…」

俺は針のむしろの中、ねだるように訴えた。

全身を溶かすその痛痒さに、身動ぎ唾を飲み下す。剥き出しの筋肉が震える。尻がロングシートの違和感に喚く。全身を違和感が暴れ回っていた。線路を弾む揺れが、直接俺の尻タブを嬲るようだ。

「ハァ……うぅ…ク…」

刺さっているのはそれだけではない。尻のものなど比較にならない威圧感を、俺は全身に感じていた。

「すげえなあ、こんなところで、こんなごつい親父が素っ裸だぜ」

「変態丸出しだなぁ、おっさんよ、えぇ」

座る、否、座らされた俺の坊主頭の上、男達が嘲笑混じりの声を被せてくる。顔、首、胸、腹、脚、そして股間。全身は余すことなく露出させられ、そのどこにも男達のねちっこい視線が群がっていた。

「素っ裸ってのより、こ…こいつは…、…よぉ…!」

先日のセンズリを思い出す。あれが可愛く思える程、これはギリギリだ。深夜の電車内、数人の男達に囲まれ、俺は命令のままに服の全てを横に畳まされていた。

いや、正確には全裸ではない。それよりもずっとタチが悪かった。

「だって、そっちのほうがスケベでいいじゃねえか、似合ってるぜ」

「すっげえ胸筋してますねえ、ネクタイ挟めるんじゃないですか」

その言葉に、俺は熱い息を吐き出した。裸の首に巻いたネクタイがブランと揺れる。ビジネスソックスを履いた脚が痒いほど蒸れる。

もし今この瞬間、駅員が俺を見つければどうなるだろうか。どうあっても、言い逃れが出来ないことだけは分かる。

全裸にネクタイだけ巻いた親父が、そのくせ足にはがっちり靴下と革靴だ。この格好、どう見ても―、

「どう見ても…! ド変態そのもんじゃねえか…。だ、誰かに見られちまったら…お、俺は…」

「またまた、今更よくそんな事言うなよ、好きなんだろ、それがよぉ」

「ヘヘへ、だったらチンポ隠したらどうですかぁー」

もっともな言葉に、俺の盛り上がった肩が跳ねた。そこにつられるように、もう一箇所も。

「まぁたチンポデカくなったんじゃねぇっすかあぁ?」

わざわざ耳元で大きく、周りを煽るような笑い声。男達は口々に、いや変わってないんじゃないか、大きくなったに違いないなとわざとらしく議論する。

太腿に置いた手が震えている。怒りに、ではない。

カシャリ。

音が鳴った。うつむいた顔を見上げ直す。男の一人が、携帯をこちらに向けていた。笑っている。

「て、てめぇ、勝手に…!」

「お、やっぱ、撮られたりするのが好きなんじゃねえか、おっさん」

「間違いねえなあ、また大きくなったぜ」

「ホントだ、画像のよりデカくなってるよ」

「く……ぐッ…!」

怒鳴れば大抵の野郎はすくみ上がったものだ。その俺が、いいように笑われている。反論も出来ねえ。証拠もしっかりと手の中に握られちまった。

デカくなってる。そんなこと、俺が一番分かっている。ああそうだ、もう俺のチンポは、骨盤を引っ張り上げそうなくらいにそそり立ってんだ。

「イイ体だなァ…ほんとよォ」

「あんなに自慢してたんだ、もっと見せてくれよ、な」

「そうだよなあ、『誰でもいいから、俺のギンギンチンポとセンズリ見てくれ!』ほら、ネットにしっかり書いてあるぞ」

「ワキの毛も、スネ毛も濃いですねー、陰毛もボウボウでモッサモサだ」

あぁ…。

一言一言、こう欲しいというところに突き刺さりやがる。

そうだ、俺だ。脅されたとか、そんなんじゃねえ。俺だ。俺が書き込んだ。見られたくてしょうがなくて、俺がこいつらを集めたんだ…。

勿論見られるのならば女のほうがよかった。しかし分かっていた事だが、俺のように厳つい顔、ゴツい体の親父は今日日の女共にはさして需要がなかったのだ。

みられてえ。見られて、スケベなことして、気持ちよくなりてえ。

一度覚えた親父の脳ミソは、センズリを覚えた猿にまで退化していた。身も心も、あの快感に中毒をおこしていた。

気がつけば俺は、もう男でも、何人でも、誰でも良くなっていた。カメラの前で顔を崩し、チンポを勃起させ、情けのない格好を晒し、そして射精し続けた。最高だった。

そして今日、ついに目の前で見られて…、見てもらっているんだ。

「お、俺の体ぁ…そんなに…!スケベかぁ!」

「おう! 筋肉も脂肪もたっぷりのぶっとい体だ、これでスケベじゃねえ方がどうかしてるぜ」

「あ、うぅ、ふぅぅ……おうッぅう!」

漫然と置いていた手を、俺はゆっくりと持ち上げた。躊躇いながらも、それを両腰にガッシリと当てる。自慢するように。

「そ、そぉ…だろォ…!」

「うわぁ、男前ッスねえ」

「っしかし、恥ずかしくねえのか、おっさんよぉ」

語れと、俺を見下ろす眼はそう言っていた。

「は、ずかし……」

チンポを見られている。

こんなところで、こんな露出狂丸出しの格好で、チンポを自慢気に見せびらかしている。そんな俺を、皆が俺を見ている、撮っている。

「…けど……、そ、それが…! あぁ…堪んねェ…んだ!」

それが、気持ちいい。

俺の中を通る風がまた強くなった。そんな気がした。ヒュゥと、爽快感にも似たそれが、寒さも何も吹き飛ばしていく。

チンポの根っこに力を入れてみる。

ヒクヒクと、鎌首が上へ、下へとブランブラン揺れやがる。その揺れだけでも、気持ちがいい。シゴキ上げるみてえだった。

「ははは、すげ、チンポ悦んでるぜ」

「犬のしっぽみたいだな!」

羞恥の痛みが次々に痒みと快感に変わっていく。もっともっとと暴れ狂いながら俺の中で膨らんでいく。

男達の手が、変態の俺の体に近づいてくる。ああ、今度は、ちゃんと最後まで弄くりまくってくれ。

「あぁ、おぉぉお! も、もっと、もっと触ってくれぇ…」

「カメラの前で乳首弄ってたもんなあ、どうだ、すっかり病みつきだろ」

「十代の小僧みたいにベットベトのチンポだなあ、うわ、臭いもすげえぞ!」

「種汁溜め込んだフクロが重いっすね…、ずっしりだ」

窓の外で風景が走っていく。時折明かりのついたベランダが見える。穏やかそうな家族の風景が写る。俺は脳髄に、ビリビリと快感が走る。

「チ、チンポ…! ふ、風俗行かなくなったってのに、せ、センズリばっ…かで! せ、精液、つ、作りまくってんだぁ…!」

金玉が暴れている。人に見られるだけで、種汁が溜まってく。中途半端にごつい手で弄られると、ますますチンポ触りたくって仕方なくなっちまう。

「チンポ! おぉ! もっと触ってくれェ! 弄ってくれよぉお!」

「だったらもっとスケベな所見せてみろよ、オラ!」

「おぉ、オォオ、ウッスゥ!」

俺は大きく頷き、椅子の上に乗っかった。ポーズを取った。お立ち台だ。ガニ股になって網棚を手で掴み、ケツを前後に振り回した。窓に擦れるギリギリにまでチンポが跳ねる。

「ガキでも靴くらい脱ぐぜおっさん!」

「うっぅ、おぉッ! うぉおぉッ!」

馬鹿にされながら、馬鹿になりながら、俺の体はますます歯止めの利かない速度で助平になっていく。肉の一欠片にさえ、精液が流れていく。

「ハァ…ハァ…み、見てろお前らぁ…!」

俺はたまらず、横にある仕切り棒に飛びついた。

登り棒を登るガキのように足を絡め、チンポをグニュルと押し付ける。

「へへへ…おぉおきっもちぃ…!」

棒と棒がテカリ合う。ああ、すげえたまンねえ。セックスの真似事のように俺は腰をこねくり回した。

「すげえ、おやじの子作りだ!」

褒め殺す声が俺を囃し立てる。

「セックス気持いいかあ! この変態野郎!」

首の力が抜ける。煽られて、馬鹿にされて、俺は全身骨抜きだ。鍛え上げたガタイも台無しだ。そのくせチンポと、腰にだけは力を入れて、快感だけで体が動く。

「そぉおッら、そおらぁ! 親父の子作り! 子種たっぷりテカテカチンポだぁ!」

「酸っぱい臭いのチンポ振り回しやがって、周りの客は大迷惑だぞ変態オヤジ!」

「ようし、ご褒美だ、たーっぷりいじめてやる!」

突き出した腰、ぶっとい親父チンポに男達の手が絡みつく。おぅと喚いて、俺は感謝の言葉を並べて腰振りを再開した。掌に次々と突っ込んでは、チンポ汁を漏らし、塗り、犬のマーキングのように湿らせた。

電車が駅を過ぎていく。時間が経つほど、人目に触れる恐怖が増える。快感が増える。チンポ汁が垂れる。

精液が簡単にこみ上げ、その度俺は電車内に吐き出した。真っ白な汁が、雄の酸っぱい臭いと一緒に、何度も、何度も、何度も飛び出る。

「射精さいっこっぉだぁ…おぉぉ、おぉう…!」

ぶらぶら揺れるネクタイが、俺のチンポの先を小突いた。そういえば、明日は会議があった。一瞬思い出す。一瞬だった。

「へへへ…ま、まだイグぞォオ! イグぞォッ! イク、イク! 見てくれ! 俺がチンポからセンズリ汁出すとこ見届けてくれよぉォ!」

会社でも、こうして精液が飛ばしたい。そうだ、明日にでもセンズリしよう。バレないようにか、バレるようにか。ああ、もうどっちでもイイ。

臭ぇ、うへえぇと、声が上がっている。カメラが光っている。変態親父リーマンの電車内露出センズリショー、いいタイトルだ、俺にぴったりだ。

轟々と風が俺の体を突き抜ける。

キィイと、電車がカーブの悲鳴を上げる。もう終点に着く頃だ。ああ、今から服を着ても、とても間に合わねぇ。

俺は外に歩き出したくてうずうずしていた。

突風が少し開いた窓から吹き込んだ。

風が俺を駆けていく。

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Comments

shun

4終点の完堕ち具合がめちゃくちゃシコかったです…!自ら人集めて、恥ずかしがりながらも、言葉攻めされて、俺の射精みてくれぇっは…最高にエッチでした…!

dukekatu

ありがとうございます! 恥ずかしいっていう感情がスパイスになってますます堕ちていく立派な雄ってすごくいいですよねー! 自分を誇りに思っているからこそ、反動で気持ちよくなってしまいそうでー。