『私』は違うと淫らに叫ぶ (Pixiv Fanbox)
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2019-09-01 09:57:47
Edited:
2020-05-15 22:22:41
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2021-09
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冬の公園の寒さは、私の分厚い手にも刺さるようだった。
そんな震えの止まらない手を下へ、股間部分へと持っていく。冷たいジッパーが指に触れると、焦りだろうか、震えはさらに大きくなった。
なんのことはないのだ。
そう言い聞かせながらジッパーを下まで下ろし、中から一物を取り出した。冷たい外気に晒されたそれは、普段より小さく萎えて皮に包まれていた。いい年をしてまだ余っているそれを剥き、中身を露出させる。
限界はすぐに来た。熱い薄色の小便が、ジョロジョロと流れ出る。冬の大人しげな草に跳ね、辺りにアンモニアの臭いを撒き散らした。
「ふ、ふぅ…」
安堵感のようなものに、軽く息を吐き出す。肉の詰まった背中がぶるりと震え、放物線が僅かに歪んだ。気持ちがいい。
八割方放出した頃だろうか。草を踏む音が、木の向こう側から小さく聞こえた。
私は吐き出していた息を飲み込んだ。音のした方向に怯えて見開いた目を向ける。暗闇の中、丸く光る二つの眼が、私を見ていた。その男の足元、ガサリと草の折れる音が、先より何倍も大きく耳に聞こえた。
近づいてきている。
暗がりから浮かび上がった人影は紛れもなく大の男のもので、そして、その顔は…。
「…あ、これは…」
弾かれたように、私の手はぶら下がった肉棒を掴んだ。そして水気も切らず、ズボンの中、下着の中へとしまい込んだ。先端に僅かに残った小便がブリーフの生地を濡らし、温い不快感が股間に残る。それにも厭わず、男に背を向け走りだした。
「ち、違うんだ、そんなつもりじゃ…!」
逃げ出したのだ。
若い時分に柔道で鍛えた健脚は、長年のデスクワークで鈍りをものともせず、瞬く間に男との距離を離した。姿が消え、草を踏む音がコンクリートのそれに変わり、しかしそれでも足は止まらなかった。心の臓が飛び出そうな焦燥を、ただひたすらに感じていた。口からは白く熱した息が出続ける。そう疲れるような距離でもないのに。まるで欲情した若者のように、犬畜生のように、ハァハァと。
公園の脇に着けておいた車に乗り込み、エンジンを掛けた。そこでようやくと、息が落ち着く。密室に篭った独特の空気を大きく吸い込み、そして吐き出した。
「違う、違うんだ。…私は…」
誰にともなく、呟くように言い訳を繰り返す。違う。そんな事をするためにあの公園に行ったのではない。用事を済まして、そして、小便をしたくなったから、ただそれだけだ。
バクバクと、車内全てに心音が反響している。そんな錯覚すら覚えた。手に痒みを覚えるまでに汗を掻いていた。ハンドルの皮がじっとりと湿っている。
「う、はあ、どうして、どうしてだ…」
私はその湿った右手を、股間へと持っていった。固い生地、濡れた下着、そしてその下、そこにあるのは硬い感触だった。
「なぜ、だ、こんなに…」
バックミラーには公園が写っていた。あんなにまで走って逃げ去ったあの場所だ。
それなのに私はどこかで、惜しいとさえ思って眺めていた。
ただいま。そう言って帰っていたのはもう何年も前のことになる。その日も私は無言で戸を閉め靴を脱いだ。蒸れて臭いのしそうな革靴を二つ、手馴れで揃える。真っ直ぐ並んだ靴の横、乱雑に脱ぎ捨てられたスニーカーがあった。
その靴の主、私の息子はリビングでソファに寝転がり、退屈そうにテレビを見ていた。普段なればお互い挨拶もしない関係だが、しかし今日は違っていた。
「取ってきたぞ」
ポケットに仕舞い込んでいた金属製のストラップを取り出し、息子の前へとぶら下げる。
「おう」
ぶっきらぼうに答えると、息子は差し出した私の手から奪うようにそれを取った。
「…礼くらい、言ったらどうだ」
声には自然に怒気が篭った。コイツを取るために、私はあんな目にまであったのだ。声も荒くなる。
会社では陰で癇癪玉とまで呼ばれる声だ。柔道で鍛えられた筋肉に、歳相応の脂肪の乗った分厚い肉体。そこから出る低く唸るような声には、部下どころか、同僚であろうと竦ませるものだ。
しかし息子はそうではなかった。怒声に振り返りもせず、足早に階段へ、二階にある自室へと戻っていってしまった。
「まったく、可愛げのあるところも残っているもんだと…思ったものだが」
そんな息子にたった今渡した物、あれは妻の形見だった。
夜も遅く、歩くには遠い距離だ。頼む、取ってきてくれ。
久しぶりの会話の内容は、そんな催促だった。親を使うなどと、そう怒るより先、頼られているという事が純粋に嬉しかったものだ。
「反抗期という訳でもあるまいに…」
自分で口にした言葉に、私は傷ついていた。いつからだろうか、私と息子の接点は、すっかり死んだ妻に寄りかかっていた。大きな確執が合ったわけでもない、いや、だからこそだろうか。
肌が触れる距離にまで近づいたのはどれくらいぶりだろうか。久しぶりに見る息子の体は既に男のそれだった。しっかりとした骨格、無駄に肉は付けず、しかし逆三角にがっしりとしていた。顔立ちは私より妻の面影を多く残しているように見えた。ゴツゴツと骨張った私に比べれば、あれは今時というのだろうか。しかし眉も目も鋭く、男らしかった。
そういえば、今日私を見たあの男も、丁度息子のようにギラギラとした眼をしていた。
考えた瞬間、チリチリと指先の毛が痺れていた。何故だろうか、胸から出る息が熱い。
私は滑りこむように自室に入ると、後ろ手に扉を閉めた。車内と同じ、再び密室に私だけだ。そしてこれも同じ、脱いだコートの下には、僅かに盛り上がったスラックスがあった。
名も知らず、声も聞かなかった男を思い出す。おそらくはもう会うことはないだろう。しかしあの時、もしも私が拒まなければ、逃げなければ、…いったいどんな目にあっていたのだろう。
あそこは所謂、そういった場所だ。
たった一冊だけ持っている雑誌に載っていた。ゴミ捨て場で偶然見つけたその本には、あの公園と思しき場所が、あの公園で行われているであろう行為が細かに書かれていた。
何十という男達が、欲望のままに名も知らぬ相手と混じり合う場所。よがり声を上げ、青臭い汁を地面に、草に垂らす。そんな場所だった。堅物で通っていた私にとって、本来無縁の場所。息子が形見をあの通りで落とさなければ、生涯訪れることはなかったかもしれない。
だからだ。それだけだ。私はそれを取りに行き、偶然にも溜まっていた用を足してきただけ。それだけなのだ。
頭では必死に言い訳をしながらも、下半身の熱は構いなしに暴れていた。股間は既に限界だった。
金具を鳴らしベルトを外す。昔は柔道で鍛え上げた、かつての自慢の下半身が露出する。その腹の下、ブリーフの膨らみを見る。あの時の染みはもう乾いている筈なのに、頂点はじんわりと湿り気を帯びていた。その先端を、ゴツイ指でなぞっていく。
「うぅ…あぁ」
妻に先立たれもう随分長い間ご無沙汰だ。日々の発散は、センズリが殆どだった。
典型的日本人体型の太い胴、ゴツゴツと角張った顔、どこもかしこが大きい身体つき。それでありながら、年の脂が増えてきていた。流行りから外れたこの外見は、縁のあった妻以外には、欲情されるなどという機会な殆どなしに生きてきた。
その私が、あんな…。
扉の壁に背中がぶつかった。分厚い体が弾み、壁が軋む。
「あぁ……は…ぉ」
その私が、途端に価値あるものとして持て囃された。この大きすぎる尻も、太い足も、逞しい肩も。何年もろくに使っていない股間もだ。
「あぁ…私は、何を…して」
気が付けば、私は着替えもせずにいきり立った肉棒を扱き上げていた。ぐちゅぐちゅと水気のある音がすぐに鳴った。こんなになってしまっていた。
もしも、もしもだ。
あの時拒まずに受け入れていたら、私は今頃どうなっていたのだろう。どんな事をしていたのだろう。
あのギラついた男の眼に射ぬかれ、あるいは今もまだはしたなく喘ぎ、腰を振り、肉棒から汁を滴らせていたのだろうか。
「ぬぅ…おぉおお…」
想像した途端、股間から流れ出る快楽が、深く切ない喘ぎがになって口を突いた。手が止まらない。嫌悪感を抱くべき妄想に、自分の指で作ったおマンコに腰が突き進む。
ああ、何をしているんだ。私は、一体。
ドン。
その時だった、微かに、低い音が頭上から響いて聞こえた。溺れきっていた表情を引き締め、私は息を飲んだ。家主に分からぬ筈もない。これは、階段を降りる時の音だ。息子が降りてきているのだ。そんな事は分かっている。分かっているのに、しかし、指は止まらず股間を弄っていた。覚えたての子供のように。
水でも飲みに来たのだろうか。しかし足音は、台所を踏む音には変わらなかった。むしろ、近づいてくる。この部屋に。
「はぁ、はぁ…そんな…」
やがて音は止まった。私のもたれかかる扉の前で。ピタリと。私は股間を握りながら、性感ではない脂汗を滴らせていた。
「親父」
「な、んだ…」
返事にすら詰まった。まさか聞こえたのだろうか。何か口走ったのだろうか。夢現といった快感の中、どんな事を口にしていたのかも定かではない。
「…今日は、その…助かった」
しかし続いたのは、不器用な礼だった。その詰まったような声に、私はほっと胸を撫で下ろした。その姿に気付かれぬよう、返事を返す。
「大事な…ものなんだ、今後、なくすようなっ…ことは…」
口うるさい口調は、息子をいなす父親そのものだ。あるべき姿だ。しかしそんな声を出しながら、私の右手はあろうことか股間を再び弄び始めた。
ああ、ばれてしまう。息子に、怪しまれてしまう。
「親父…?」
「はっ…」
「何だよ、どうかしたのか」
当然のように、訝しんで息子が問うた。
「何でも、ない…」
頼む、聞かないでくれ。
手を止めれば済む話だというのに、そんな間抜けな願いごとを繰り返した。もしも息子が扉を開けでもしたら。こんな変態な姿を見られたら。どんなに罵られることだろう。
「…ならいいけどよ…。…それだけ、それじゃ」
「……ああ、…おっ、おやす…みっ」
遠ざかる足音を聞きながら、指の動きはより激しく私を責め立てた。ああ、息子の足音に怯えながら、こんな惨めな事をしているなんて。
「はあ、こんな…まるで、変態…だ」
変態。変態になってしまったのか。口にだして、私は感じていた。
気が付けば私はあの公園にいた。
おろして間もないシャツを、熊のような分厚い上半身が押し上げている。そして下半身、そこはブリーフすら足首にまで下ろし、太い包茎の肉棒をギンギンにさせていた。裸以上に卑猥な姿だ。服を脱ぐことすら惜しんでいる。好色な親父そのものの姿だ。
そんな事を考えると、皮を押し退けて亀頭がぬるぬると光り、反り返った。真っ白なワイシャツに、私の肉棒の陰ができる。見るからに、なんていやらしい。
「どんしたんだよ、そんなに辛抱たまらねえのか」
「…ああ、許してくれ、私は…こんな……!」
空想上の男が私を囃し立てる。頭を振ってそれを否定しながら、私の睾丸はぐぐと持ち上がっていた。汗が際限なく溢れ、喉がカラカラと熱くなった。癇癪玉とまで呼ばれた私が、こんなに惨めな格好をして、男達の前で…。
「テメエからそんなカッコしてるクセに、何が許してくれってんだよ、おっさん」
皆誰もが服を着ている。それだというのに、私はどうだ。
見ている。
皆が、淫らな俺の姿を観ている。
そして現実の私。
それは変わることなく、情けなくたった一人、妄想の世界を思いながら自慰に耽っていた。そのギャップにも、惨めである事にも、また興奮を覚えていた。そうだ、これに感じてしまうのだ、俺は。こんな風に壊されたいと思っていた。この危うい快感が、堪らないのだ。
男らしさを求められ生きてきた俺は、俺自身知らぬ間に、その価値観の一斉に脅かされる事に興奮するようになっていた。それも、男同士だとか、卑猥であるとか、いけない事だと思えば思うほど、より強く。
「あぁ、はぁ、す、げえ」
口から溢れたのは、熟れた雄の声だった。性感に震える背に、扉が揺さぶられガタガタと暴れた。腰がガクガクと力なく震え、口からは房のように太い唾液が流れた。
(見たい。俺は、今、どんな格好で…)
欲望に突き動かされ、ぶるぶると勃起した肉棒をぶらつかせる。足首に掛かっていたズボンを放り、窓元へよたよたと辿りつく。外は暗い。まるで鏡のように、窓ガラスには俺がいた。
「ああ、酷ぇ…、酷い…格好だ…あっ、はぁぁ」
夢のなか見ていた私の、俺の情けない格好だ。いや、それ以上かもしれない。太い体の中央を必死に扱きながら、物欲しそうに口開く逞しい中年、惨めな姿だ。
鏡のようでありなら、それは紛れもなく窓ガラスだ。仮に今、外に人でも通ったら…。
…そう想像した途端、窓に素早く動く影が見えた。
「はっん…んぅっ! で、出て…うぁあっ!」
ぞっと体に寒気が通った。頭に爆発そうなほどの熱が走った。そして次の瞬間には、透明なガラスに驚くほどの量の白濁液が飛び散っていた。
ああ、イッた。イッてしまった。
熱い。
気持ちがいい。たまらん。
放出後の余韻を味わいながら、怯えながら庭へと目を向けた。人影はない。代わりにあったのは、二階から落ちた息子のトランクスだった。ただそれだけ。全身の力が抜け、私は崩れ落ちた。
未だ萎えない肉棒から、精液がどくりと溢れ流れた。部屋の外に感じた気配は、外側から私の開けてはならない扉を開いていた。
あれだけで。たったあれだけの経験で、…私は変わってしまった。
以来毎夜のように、淫猥な妄想に取り憑かれながらセンズリを繰り返していた。時には腰を突き出し、また時には鏡の前で。首から下が別の生物のように、私を責め立てるのだ。より卑猥に、より情けなく…と。
それは昼間、声を荒らげれば荒げるほど。
『お前の頭は、何度同じ注意をされりゃあ満足するんだ!』
『どうした、いっぺん小学生から教え直さねえといかねえか!』
そうして強く逞しい自分を出す程、夜に味わう快感は格別となった。昼間あれだけ眉間に寄る皺が、まるで別の意味で夜ごと深くなっていった。
駅前で会った贔屓のクリーニング店の店主とは、にこやかに挨拶を交わした。彼は知らない。昼間の私の鬼瓦を、そして、夜の私のあの姿を。
考えると、また再び肉棒が下着を押し上げた。
(あぁ…、こんなところ…だというのに、もう…こんなに)
夜とはいえ人通りが無いわけではない。そんな公共の場で、私は肉棒を硬くしている。日増しに我慢がきかなくなっている。どこでも発情を始めてしまう。こんなにも、淫らに。
新しい快感を知り、生活は刺激的になり、楽しみが増えた。しかし単純に良いことばかりではなかった。たった一人で淫らに狂う、それを繰り返すたび、次第にそれだけでは足りなくなってきてしまったのだ。
穴は開けば開くほど、大きなものでなくては埋まらなくなる。もがけばもがく程、より深みへと嵌っていく。足りなくなる。悶々とした気持ちは、快感に比例して大きくなった。
そしてついには、私はこんなものにまで手を出してしまった。鞄の中から紙袋を取り出し、まじまじと見つめる。月のあかりは薄く、中身を透かすほどではない。しかし私の目には、はっきりと写っていた。男の肉棒が、それを模ったものが。
張形。自分を責め立てる為のその淫具を再び鞄にしまい込むと、私は足早に家へと向かった。こんなところで眺めていては、誰かに見られてしまうかもしれない。
ゾクゾクと、太い足が震えた。私はすっかり自身の扱いを心得ていた。そうだ、羞恥心こそ快感の糧になる。
その日もいつもと変わらず、家の扉は何も言わずに開け、そして閉めた。
早く。早くこれを試したい。
そうして急いていたからだろう、リビングの声には気付きもしなかった。
『はあぁん』
調子外れな喘ぎ声が、そこにあった。テレビのモニターから流れている声に、あんなに焦っていた足がピタリと止まった。モニターを光らせていたのは、肉感強い男女の絡みだった。誰が見ても、一目でAVだと分かる代物だ。そして…、
「はぁ…ハァ……く」
そしてそれを鑑賞する男、息子もまた、誰が見てもAVを鑑賞しているといった姿だった。
ズボンから飛び出した肉棒は、ギンギンに固くなって天を指していた。分厚い手の皮が、ズル剥けのそれを握っている。食い入るようにモニターの映像を見ながら、激しく、火の立ちそうな勢いで上下させていた。
「……な」
「は…っ!」
思わず漏れた声に、息子がこちらに振り向いた。鋭い三白眼が大きく見開き、口からひゅぅと小さな声が漏れた。
それからは早かった。ズボンをあっという間に上げると、テレビも消さずにドンドンと階段を登って行ってしまった。
片付けもせずに。そう叱る気にはならなかった。悪いことをした。
自慰を誰かに見られる、それだけで充分に恥ずかしいものだ。それも、距離を掴みあぐねている親父ともなれば…。
「早く帰りすぎるのも、考えもんだな」
てっきり、今日もまた残業だと油断していたのだろう。額に置いた手が、熱い。汗を掻いていた。
「…しかし、はは、若いということは…なんというか」
照れ隠しとばかりに一人口と手を動かした。気まずいが、いつまでもこんなままにしてはいられない。リモコンを手に取ろうと、私はソファに手を伸ばした。その手の先、丸めて放られたティッシュペーパーが触れた。
ゴワゴワとした感触だった。信じられないという気持ちと、やはりという気持ちが同時にあった。
激しい自慰だった。しかしそれすら、既に一度は射精した後だったという事だ。さすがの若さと、強さだ。あんなに…、あんなに苛烈で、男らしくシていたのに。
あの肉棒。遠目に見ても、血管まで見てとれる猛々しいチンポ。こちらまで臭いが届きそうな、赤黒い肉の塊。塩辛そうな先走りが、眼の奥でテラテラと光っていた。親父の私以上に太く、そしてズル剥けだった。
テレビからは、女優の喚く声がいまだに流れている。艶めかしく動く肢体と、甲高い声。官能的な姿だ。しかしそれ以上に私の目は、荒々しい腰使いをする男優へと釘付けになっていた。
ぐちょぐちょと大袈裟な音を立てながら、二人が延々と絡み合う。肉の奥から、ジンジンと痺れを感じた。力が抜けていく。全身の骨が柔らかくなる。それなのに、ただ一点が必要以上に固くなっていく。
するりと、力を無くした手から鞄が溢れ落ちた。紙袋が転がり、ごろりと低い音が響いた。交わる二人の喘ぎ声に混じり、一つの曲のように私の頭の中に反響する。
そこから先は、正確に覚えていない。
「ぅ…おおお! いい、はぁ、入って…!」
気が付けば私は、息子が雄々しく自慰をしていたソファに転がり、自分の尻をいじくっていた。口からは低い男の、それも重厚な震える声質で、AV女優のような嬌声が上がる。
張り型と一緒に買ったローションを指に垂らし、そのとろとろとした感触を尻で味わう。温めてもいないローションは僅かに冷たく、その不自然さに尻が震えた。
「ぐ、んぅ、ふぅ…う」
私のゴツい指が私を犯す。気持ちがいい。しかしあの夜以来何度も指を飲み込んできた私のそこは、まるで満腹感を得なかった。
張り型を握り締め、ゆっくりと尻穴の入り口へと持っていく。男の、偽物とはいえ男の、その象徴だ。その形が、男が、私を犯そうとしている。俺が望んで、男に犯されちまう。
「あぁ、こ、これ…が…!ああぁ! ふっ…」
固い蕾が肉塊を拒絶する。しかしそれを抉りながら、削りながら、ゆっくりとマラが俺の中へと入っていく。壊されているのだ。突貫工事のように、俺という逞しい男の地盤が削られ、壊され、淫らな彫刻に変わっていく。
「は、入って、入ってくる! 男の…ああ、これが…!」
何十年と男として生きてきた。その垢で作られた鎧が壊れる。剥がれる。俺が大事にしてきたものが。こんなにも卑猥に。
「ぜ、全部っ、これで…!」
股を開き、腿を高く上げ、私は首を下へと向けた。肉のぎっしり詰まった下半身だ。鍛え上げたその大きな尻に、ずっぽりと彩色の張り型が顔を出していた。
「なんて格好だ…、情けねえ…ああ、たまらん…!」
黒いソックスに包まれた足の指が暴れた。切ないのだ。下半身から込み上げる。前立腺を押し潰す快感。陰毛も、下半身に密集する毛も、肉付きの良い体も。男らしさを象徴するもの全てが、この淫らな姿を引き立てる。
しかしそれでも足りない。
「ハァ…ハッ…ひ、俺は…もっと…」
「たとえば、どんなだな」
夢中だった。声がするまで、背の気配に気が付かない程に。
「…は…え」
己の下半身を視姦していた目線を上げる。振り返る。
息子の鋭い目が、私を見下していた。欲情に濡れた体が、さらに別のもので熱くなった。三白眼の白目すらが、私を蔑んでいるように見えた。
「変態親父」
「あ、違う、違うんだ…これは、こんな」
口は動いたが、言葉にはならなかった。まともな言い訳などできようもない。私は尻に偽の肉棒を咥えてよがっているのだ。それもこんな場所で。
「親父、まさかそんな趣味だったなんてな」
「う、ぉ…あぁ」
息子がぐるりと前へ回りこむ、目は私を捉えたままに。
「すっげ…ずっぽりハマってんじゃねえか」
「み、見るな! …見ないでくれ、た、頼む…」
股下にある息子の顔が、いやらしく私を哂っていた。手を伸ばせばすぐ届く距離なのに、私はただ哀願した。
終わりだ。厳格な父であった。父であろうとした。その幻想が今日、この瞬間崩れ去ってしまったのだ。ある種、私の願望通りに。
しかし息子は侮蔑を引っ込め、ある種の笑みを浮かべていた。
「はっ…う、あぁあひっ!」
コツンと、息子が私の中のマラを軽く小突いた。ほんの小さく、一度だけ。それだけで、私は全身を痺れさせ、跳ね上げた。他人から与えられる初めての刺激に、私の子種がタマの中で暴れ狂う。
もう私の体はコイツ一つでどうにでもなってしまう。
「へへ、まさかここまでたぁなぁ…」
熱に浮かされた脳にでも、息子の言葉の異常さに気が付いた。ここまで。そう言ったのか?
「な、何を…今」
息子の影が視界を塞いだ。覆い被されたのだ。押し潰されるかのように。ギラギラとした眼は、本当に私の知る息子のものかと疑う程だ。しかし、見覚えがあった。
あの公園の男の眼だ。まるで別物の二人の顔が、重なって見えた。そうだ、この表情の正体を私は知っている。
「こんなに淫乱になってるなんてな」
息子の喉仏が大きく動いた。下半身が動き、私の体にピタリと密着する。…ああ、なんてことだ。欲情だ。息子は私に欲情している。センズリをしていた時と同じ、あるいはそれ以上だろう。私の体には、今息子のイチモツがつきつけられていた。
「まさか、やめ…!」
やめろ、と、その気持ちに嘘はない。これは何かの間違いだ、あの息子が私を押し倒しているなど、ある筈がない。しかし同時に、口の奥には唾が溜まっていた。眼の奥にはあの肉棒がちらついていた。
「やめろってもよ、こんなじゃねえか親父はよ」
「う、あう…触る…んじゃない…そんなところ…!」
肉棒を逆手に握られ、腰が引いた。皮が伸び、幹が擦れ、否定の声もひっくり返る。太さはないが、骨張って、皮の分厚い男の手だ。女の手とは全く違う。その指に、私の肉棒が扱かれている。
乱暴な手付きは技術を知らぬ子供のものだ。しかしそれにも、私は脳を押し潰されそうな程の快感だった。
「あ、あ、あ、駄目だ、親子で、親…を!」
「こんなもんまで、へへ、自分で用意してよ」
今度は舵でも取るように、マラを腹中で右へ左へ暴れ狂わす。私はその度、みっともない声を上げて、腰をくねらせた。どろりと先走りを滲ませた。自分の吐き出す雄の臭いに、くらくらする。
「ホンモノ、欲しいんじゃねえのか」
ああ、欲しい。
愚かな答えを、既の所で必死に止める。これ以上はいけない。絶対に駄目だ。あってはならない。
「…よ…せ、こんな、一時の過ちで…」
「やっぱりなあ、親父、…まだ分かってねえのか」
何が分かっていないといのか。こんな事をすれば、きっと将来お前は後悔する。一時の性欲で実の父を犯したなど…。
「偶然だったとでも思ってんのか? 今までの事よ…」
冷たい汗が背中に垂れた。
「あの本どこで拾った? 落し物わざわざ拾ってきてくれなんて、俺が言うと思うか?」
感じていた不自然さの正体が、当の本人の口から語られている。頭の中では納得ができる、しかし、認めることができない。
「親父には素質ある、って思ってけどよ、ここまでとはなあ…」
素質。私のこの、被虐願望、露出願望、その出所を思い出す。そうだ、そのどれにも、息子の影があった。
「俺のセンズリ見てどうだった? ん? 興奮してたんじゃねえのかよ」
絶望の中に、溶けてしまいそうだった。ああ、やめてくれ、それ以上、俺に…俺を責めないでくれ。
「…認めちまえよ、変態親父」
目の前が暗くなった。私は息子に踊らされていたのだ。
実の息子にここまで操られ、そして罵られ、それでいながら興奮している自分が見えた。絶望感と、しかし同時に、奇妙な安堵感すらあった。支配されていたことに。
唇が音もなく落ちてきた。私はもう拒めなかった。拒まなかった。
「ん、むぅ、あっふ…んぅ!」
「すっげえ熱いじゃねえか、ここもよ」
私の中から偽の肉棒が抜き去られる。息子はその幹を握って、私に見せつけた。ああ、そうだ、私のそこは、もうただのケツじゃない。ぐるぐると物干しげに蠢く、立派なケツマンコだ。
「う、はぁ…固…い」
充てがわれただけだというのに、その熱さにもう体は雄臭い汗で濡れそぼった。これが本物の、本当の肉棒。
「いいか、コイツが今から親父に入るんだぜ」
手を導かれ、息子の肉棒を握らされる。やはり大きい。ドクドクと脈打つ、まさに凶器といったチンポだ。これが、いうなれば処女である私の奥へと…。
ケツが感じる体に変えられ、息子に犯される親父にされ、そして、それに興奮する変態へと変えられた。
「どうだ、どうなんだよ」
焦らさないでくれ。お願いだ。このままでは私は、俺は、口にしちまう。
「言えよ」
くちりと小さな音を立てて、亀頭の先端が肉壷の中に入った。小さな喘ぎが一言、口から漏れた。それと同時に、俺の中の大切な物も。
「入れて、ほしい…、チンポ…チンポ、欲しい」
一線を越えてしまった。その瞬間に、太く固い弾力が俺のケツを奥深くまで貫いた。
「ふ、ぐ、ああぁぉぉお!」
本物の肉だ。体のどこよりも熱い。熱い。ケツ奥、粘膜をぷっくりと盛り上がった亀頭が抉る。腸のヒダの一つ一つが歓喜に叫んでいた。
入ってる、入ってくる。熱い、息子の肉棒が俺を犯している。俺の建てた家で、こんな広いリビングで、俺が犯されながらヨガっている。
「ああ、はぁあすっげえっ、おぉおお!」
十代の頃に戻ったように、俺は狂ったように尻を振った。あの時違うのは、俺が犯される側だという事だ。しかし遥か昔のその記憶より、何倍もイイ。たまんねえ。始めての快感だ。チンポも口も汁を垂らしっぱなしだ。
「あ、すっげ、気持ちい、親父ん中マジでいい!」
若い、余裕のない責めだ。それでガツガツと尻を犯されてる。体が真っ二つになりそうな程、強烈な突き上げ。獣欲まみれの激しいセックスだ。
「あー…もう、もうダメだ! 出すぞ! このまま種付けしてやる!」
息子の限界はすぐに来た。腹の中の肉棒が、まさに噴火といった勢いで熱くなるのを感じた。
息子の子種だ。
俺の子種から生まれた息子の、その子種が俺の中に。
頭がおかしくなっちまいそうだった。狂っちまいそうだ。いや、もうとっくに俺はおかしくなっていた。息子におかしくさせられた。そうだ。だから、こんなに気持ちがいいんだ。
「中に! お、俺の、俺の息子に中出しされ! んぉぉおっ!」
腹の中も、そして上も熱い。いつの間にか、大量のザーメンが俺にぶっかけられていた。俺が出したのだ。俺はいつの間にかイッていた。もうずっと絶頂が続いていた。射精に気が付かん程に、ずっと。
「はぁ!イグぅ!いっでる…!」
欲しい。これが、この情けない、惨めな快感が欲しい。壊されてえ。ずっと、ずっと。
絶頂を感じながら、子種の熱を感じながら、俺を守る最後の皮が崩れていくのを感じた。
休日の公園、俺は着慣れたスーツでそこにいた。もちろん仕事があった訳ではない。必要で着ている訳ではない。
「脱げよ」
「ああ、もちろん…だ」
素晴らしいタイミングで息子が俺に命じた。喜んで従い、下着ごとスラックスをずり下げる。仕事着である正装こそが、今は仮装のようにさえ思えた。
ああ、そうだ、俺は、本当の俺は、こっちだ。
すっかり若い時の力を取り戻した肉棒が、腹を打った。ぷんと臭う先走りが、シャツに淫猥な染みを作る。いつかの妄想と同じだった。ただ違うのは、今はこれが現実だということだ。
「どうだ、まだ使い込んでねえからキッツいぜ」
息子が俺のケツを道具のように使いながら、誰とも知らない男にさらけ出している。きた。きた。これだ。腹の底から込み上げる、この屈辱と、そして快感。
「俺のケツ、も、もっと、もっと使ってくれえっ!」
俺もまた、自分から尻を突き出し、汁を垂らして、淫乱な姿を撒き散らす。太く男らしい、それなのにいやらしいこの声。もっと聞いて欲しい、罵って欲しい。
俺の声を聞いて、辺りから飢えた男達が集まってくる。ああ、今日はどんなことをされるんだ。昔の俺ならば生きていられないくらいの羞恥を感じながら、俺は肉棒を扱き続けた。
「とんだ変態野郎になったもんだな、親父」
ようやく本当の自分に巡り会えた。息子には感謝すらしていた。そのうえ、こんなに淫らに犯してもらえるのだ。俺は幸せものだ。
「俺は……、これが本当の、俺だ」
汁を垂らしながら、私ははっきりと、口にした。
終