Home Artists Posts Import Register

Content

「あ、霧島さん。どもっす!」


「ああ、笠松君。おはよう」


 出勤しようとマンションのエントランスに向かっていると、コンビニ袋を手に提げ、スマホを弄っていた男が顔を上げてこちらを見つめてきた。笠松大毅(かさまつだいき)。同じ階の住人だ。身の丈188センチの俺、霧島琢磨(きりしまたくま)よりも頭一つ分近く背が低いが、その体が分厚い筋肉に覆われているのが見て取れる。年の頃は、二十代後半といったところだろうか。

 どこか近寄りがたい印象の、凄みのある顔。額に傷の入ったスカーフェイス。耳にはピアスを付け、露わになった肌にはタトゥーが彫られている。そんな彼のことをご近所さんは、格闘家崩れではないかと噂している。腹が幾分出ているものの、みっちりと詰まった筋肉の上に脂肪が乗っかったような体型なので、おそらくその噂は正しいのかもしれない。


 彼に別れを告げると、俺は仕事に向かうべくマンションをあとにした。



***


「ん……?」


 昼休み。妻がこしらえてくれた弁当に箸をつけていると、スマホがブルブルと震えた。ズボンのポケットから取り出し、その画面をタップすると、突然入れた覚えのないアプリが作動し、メッセージが表示された。


【お前のペニスはオレのモノ】


「……ん、なんだ? 俺のペニスがなんだって? は? ペニス??」


 唐突に理解不能なメッセージを浴びせられた俺は、思わず箸を机の上に落としてしまった。ウイルスか何かだろうか?


 意味が分からずにフリーズしていると、不意に股間が熱を帯びていくのを感じた。ぐにゅぐにゅと居心地の悪い感触が、気色悪い。幸い同僚たちは外食するために席を離れ、デスクの周りには人気はない。俺はベルトを緩め、パンツの中を覗き込んだ。


「なっ……、えっ?!」


 思わず声が出た。俺のイチモツがシュルシュルと縮み始めていたのだ。通常時でも剥けた状態を維持していた自慢の息子が、みるみるうちに皮を被り、亀頭が姿を隠していく。


「あ、ああ……っ♥」


 骨太の指で必死になって押さえても、俺のチンポは徐々に小さくなっていく。その感覚が、なんとも心地好い。


「ん……っ♥」


 やがて完全に皮を被り、俺のチンポは完全に短小包茎のお子様ペニスになってしまった。まるで、小学生の男児のように幼いサイズだ。


(いったい、何がどうなって……?)


 俺は混乱した。こんなことが現実に起こりうるのか?だが、実際に俺のチンポは縮んでしまった。どうしたらいいんだ?

 とりあえず、誰かに相談しないと。妻に電話するか……?いや、しかし彼女も仕事中だ……。



「ん……、あれ?」


 アレコレ考えながらスマホの画面を睨みつけていると、混乱の渦の真っ只中にいた俺の頭の中は、徐々に冷静さを取り戻していった。


(なんだっけ? 俺は……、何をしようとしていたんだ?)


 スマホの画面から目を離し、視線を股間に戻す。どうして俺は、社内でパンツをずり下ろしているんだ? 眼下に鎮座しているのは、慣れ親しんだ懐かしいモノではないか。

 俺のチンポ──。股の間に生えたそれは、昔から小さかった。プールの授業や、部活動の着替えでも散々同級生たちにからかわれてきた記憶が、怒濤のように脳裏に蘇ってくる。胸を締め付けるような奇妙な不安感は一瞬にして霧散し、首を傾げた俺はズボンを履き直すと、再び弁当の残りを口に運び始めた。




「スマン、久しぶりに期待させておいて情けない……」


 勃起しても親指サイズ程度の短小包茎ペニスを妻に見られないよう隠すと、俺は平謝りした。愛する妻を相手にしても、俺の股間は反応こそすれど、射精にまでは至らなかったのだ。


「ううん、気にしないでいいわよ。私は、あなたのそんなふうに優しいところが好きなんだから」


 俺の謝罪の言葉に対して、妻は優しく微笑んだ。俺はその言葉に救われる思いだった。そうだ、昔から俺はこんな情けないチンポをぶら下げていて、セックスで彼女を満足させることも碌にできていなかったじゃないか。いまさら、何を落ち込むことがあるだろうか……? いや、そうだったか?


 頭の中がぐちゃぐちゃになってくる。スマホを手に持ち、トイレへと逃げ込んだ俺は、頭を抱えた。何かが俺の脳内に住み着き、俺を蝕んでいる。額から嫌な汗が滲み出て止まらない。


【お前のペニスはオレのモノ】


 インストールした覚えのないアプリに表示された文字を見て、俺はハッとなった。


 そうだ、このアプリだ! これこそが、俺をおかしくさせている元凶だ。

 いったい誰がなんの目的で、こんなアプリをインストールさせ、奇妙なメッセージを送ってきたんだ?


──俺のチンポは、明らかに以前より小さくなっている。


 だというのに、今しがたまで、小さくなっていることすら忘れてしまっていたではないか。原因がいったい何なのかはわからないが、このアプリが関係しているに違いない。

 アプリをタップし、メッセージを送ってきた相手に、「オレ」とは誰なのか問い質す。しかし──、返答はない。悶々としながらトイレを出ようとしたところで、俺は立ち止まった。


「う゛……っ?!」


 ズボンのポケットに押し込んだスマホが、再び震えた。俺は冷や汗を額から垂れ流しながら、慌てて画面を目にした。


【お前の体はオレのモノ】


「っ! またか……!」


 全身が火照るように熱くなり、心臓がバクバクと脈打つ。肉体が溶けるような錯覚を覚えるほどの熱量に、俺は思わず膝をついた。


 股間が疼き、全身に甘い痺れが広がる。脳味噌が捏ねくられ、搔き混ぜられているかのような快感に見舞われながら、俺の中で何かが失われていくのを感じた。

 両腕で抱き締めた体が、縮んでいく。学生の頃から鍛えに鍛え抜いてきた強靭な筋肉が、まるで穴の開いた風船のようにみるみるうちに萎んでいき、気がつけば俺の体は、筋肉質でありながらもだらしないものへと変わっていた。腹は分厚い脂肪が蓄えられ、弛んでいる。あれほど太く長く男らしいと、友人や家族に誉めそやされてきた腕や足も、もはや見る影もない。


 体中のあらゆるパーツが、小さくなってしまった。身長は20センチ以上縮んだだろうか? 全身の骨格もすべて、別人のモノへと作り変えられてしまった。


「あ、ああ……っ♥」


 ゾクゾクとした快感が背筋を震わせる。短小包茎の小さなペニスが、徐々に固くなり始めた。肉体が、自分のモノではない何かに作り替えられていく感覚。そのドロリとした粘液のような感覚が脳味噌にへばりつき、俺を狂わせていく。


「は、はあ……っ♥」


 身体が火照り、呼吸が荒くなる。全身から力が抜けていき、その場に崩れ落ちてしまった。もう立ち上がることも出来ないほど脱力してしまっているというのに、それでも俺の胸は躍るのをやめなかった。むしろ、どんどん興奮していっているようにすら思える。それは果たして錯覚だろうか? いや違うだろう。事実、俺は興奮している……!!


 気づけば俺は、貧相なチンポを扱いていた。妻とのセックスでは使い物にならなかったというのに、この異様な状況が俺を昂ぶらせている。


「うっ♥ あ、あぁ……っ♥」


 情けない喘ぎ声が自然と漏れて、狭いトイレ内に木霊する。皮を被ったままの子供チンポを上下に擦るたびに、俺は快楽に悶えた。いつの間にか上着も脱ぎ捨てて全裸になっていた俺は、トイレの便座に馬乗りになり、腰を前後にカクカクと動かしながら、射精に向けて必死にシコっていた。まるで、オナニーを覚えたばかりの中学生のように右手を上下に動かし、一心不乱に快楽を貪った。


「イクッ♥ イクゥ……ッ♥♥」


──びゅるるるっ♥ びゅくっ♥ どぴゅっ♥♥


 腰の奥から込み上げてきた熱い衝動に身を任せ、俺は勢いよく精液をぶち撒けた。そうして皮を被ったままの子供チンポから放たれた精子は、水音を立てて便器の中に沈んでいった。




 翌日の昼休み。俺はコンビニで買った弁当を食べていた。同じ部署内では新婚の部下が、愛妻弁当に舌鼓を打っている。うらやましいな。そう思った。【俺が妻に弁当を作ってもらったのは、結婚当初だけだった】からだ。いつの頃からか夫婦の愛情は薄れ、妻を満足させられない罪悪感から、セックスもめっきり回数が減っていった。「愛しているよ」と妻に囁くたび、どこか嘘臭く感じられてしまう──。


 俺と妻との十数年の関係は、そういうふうに塗り替えられてしまったのだ。こんな状況になってしまったのは、すべてあのアプリのせいだ……。


 【お前のペニスはオレのモノ】というメッセージを見た瞬間から、俺の肉体の一部が──、そして俺の中の何かが書き換えられ始めたのだ。俺の身体は、すでに顔以外は別人のモノになってしまった。だというのに、俺はその異様ともいえる事態を深く受けとめることもなく、何事もなかったかのように日常生活を送っている。頼りない姿になり、妻や子供たちにも愛想をつかされてしまっているというのにだ。



「おっ、偶然っすね。今、帰りっすか?」


 仕事を終えてマンションに帰り着くと、ちょうど大毅と出くわした。


「ああ……、君もか?」


「うっす! じゃあ同じ階だし、一緒に帰りましょうよ」


 屈託のない笑顔を見せる彼に頷くと、俺はエレベーターに乗り込んだ。あとに続いて入ってきた彼がボタンを押すと、扉が閉まり、エレベーター内に息苦しげな振動音が響き渡る。


「はあ……、暑いっすねえ」


 大毅がタンクトップの襟元を指で引っ張りながら、気怠げに呟いた。確かに暑い。いや、熱いと言ったほうが適切かもしれない。エレベーターの中がサウナのように蒸し暑く感じられ、俺の身体は火照り始めた。吐く息までも熱を帯びているような気がする。

 その原因は、エレベーター内の匂いにあった。扉が閉じた瞬間から、むせ返るような雄の匂いがエレベーター内に充満しているのだ。


「この匂い、たまらんっす……♥」


 大毅は鼻の穴を広げて空気を吸い込むと、「はあっ♥」と大きく息を吐き出した。汗臭いような酸っぱいような、それでいて男物の香水の混じった淫靡な男の香り。不快に感じないどころか、どういうわけか俺はその香りに惹きつけられてしかたがなかった。フェロモンに当てられるというのは、こういう感覚なのだろうか? まるでその匂いだけで全身が発情してしまっているかのように、下半身が熱くなってきているのが分かる。その香りの元凶は大毅だと思っていたのだが、彼自身も肩で息をし、顔を真っ赤にしている。男の匂いに興奮している俺も充分おかしいが、彼は自分自身の体臭で胸をときめかせるほどのナルシストなのだろうか?


「はあっ♥ はあっ♥」


 俺たち二人の荒い呼吸が、狭いエレベーター内に反響する。俺は無意識のうちに、大毅の股間に視線を向けていた。ズボンを押し上げる膨らみ。あの中に詰まっているものが欲しい……ッ!

 そう考えてしまう頭をなんとか理性で押さえつけながら、視線を逸らそうとするのだが──、どうしても彼の股座ばかりを凝視してしまう。


(何を考えているんだ、俺は。相手は男だぞっ……! それに、俺には妻がいる!)


 しかし、どれだけ頭で否定しようとも、本能が理性を押しのける瞬間というものがあることを俺は知っている。妻を愛していないわけではないのだ。ただ、体を交えることに年々不快感を覚えるだけで……。だが今は──、この極上とも言える雄の体臭を嗅いでいると頭がボーッとしてくる。思考回路が麻痺していき、彼の生殖器のことで頭がいっぱいになってしまう。


──ガーッ!


 理性が抑えられなくなりそうになった寸前に、エレベーターが目的の階に到着した。助かった。俺は大毅に別れを告げると、逃げるように自宅の扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。


「ただいま……」


 真っ暗な玄関に俺の声だけが虚しく響く。リビングの明かりを点けると、テーブルの上に書き置きがあった。


【週末なので、子供たちと実家に帰ります】


 妻の字だ。それを見た瞬間、寂寥感が胸に広がったが、同時にどこかホッと安堵するような気持ちもあった。妻のことは愛している。そのはずなのに、今の俺の鼻の奥には先ほどの濃ゆい雄の香りがこびりつき、頭の片隅には大毅の股間の膨らみがまとわりついて離れない。俺は自分の寝室に飛び込むと、着ていた服をすべて脱ぎ捨てた。そして全裸のままベッドに横になると、勃起した短小包茎ペニスに手を伸ばす。皮を被ったままの子供チンポは、すでに先端から先走り汁を溢れさせていた。


「……っ♥」


 右手で皮を剥き、ピンク色の亀頭を露出させる。俺の左手の指は無意識のうちに、尻の襞を撫でていた。


「ふっ♥ あっ♥」


 指が肛門の中に侵入してくる。入っているのは自分の指だというのに、別の誰か──。そうだ、大毅の指が入ってきたような錯覚を覚える。同時に、尻の穴がキュンと切なく疼き、指先で腸壁を擦るたびに全身に甘い痺れが走った。

 肛門に挿入した指を激しく動かすたびに、腰がビクンッと跳ねてしまうほどの快感に襲われる。右手は乱暴に子供チンポを扱き、左手は尻穴の中を搔き混ぜる。俺はこれまでに感じたことのないほどの強い快感に襲われていた。


「はあ……っ♥ あっ♥ ああッ♥♥」


 自然と口をついて出た喘ぎ声と、甘い吐息が室内に響き渡る。快楽で脳味噌が蕩けそうな感覚に陥りながら、俺は一心不乱に自らの性器を愛撫した。限界はすぐに訪れた。玉がギュッと縮み上がると、体の奥から尿道へと熱いものが込み上げてくる。


「んおっ♥♥ イクッ♥ イグゥウウッ♥♥」


 びゅくっ♥ どぴゅっ♥♥ 凄まじい勢いで、精液が迸る。それは俺の顔にまで届き、額や鼻先に飛び散った。妻とは久しくセックスをしておらず、最近ではオナニーすらしていなかった……はずだ。久々の射精だからか、その量はとても多く、粘ついているように感じられる。青臭い匂いが鼻腔を刺激し、さらに興奮を高めてしまう……。

 やはり、この体はおかしいのか? だがそれでも構わないという想いに支配されながら、その心地好さに身を任せていると、スマホが震えた。


【お前の人格はオレのモノ】


「ん゙ああ゙ッ……♥♥」


 その文字を見た瞬間、脳がドロリと溶けるような感覚を味わい、再び射精していた。


 ボタボタとシーツの上に精子を撒き散らしながら、俺は体を弓なりに反らせた。頭が真っ白になるほどの凄まじい快感に襲われながら、自分の人格が書き換えられていくのを感じた。理性的で品行方正な人格が、汚らしく欲望に塗れた下品な性格へと塗り替えられていく。異性愛者で、妻のことを一途に愛していたはずの人格が、同性愛者の卑しいモノで上書きされていく。


「イ゛っ♥ あ゛ぁああ……ッ♥♥」


 嫌だ。俺は男なんか好きじゃないのに。どうして……、なんで……。そんな考えが脳裏をよぎったが、それも一瞬のことに過ぎない。すぐに快感で思考回路はかき乱され、理性などいとも容易く消し飛ばされた。


「お゛ぉおっ♥♥」


 気がつけば、【オレ】は獣のような声を上げていた。腰がカクカクと前後に揺れ動き、その動きに合わせて短小包茎子供チンポが左右に揺れている。小さな尿道口からは透明な汁が飛び散り、すでにシーツの上は汗と精液でびしょ濡れだ。野郎が好きで堪らない。ガタイがデカく、筋肉の発達したたくましい雄に組み敷かれ、その巨大な肉槍でケツ穴を貫かれたい。そんな浅ましい考えが脳裏を埋め尽くす。


「ああ……っ♥ イクッ♥ イグゥウウッ♥♥」


 絶頂を迎えた瞬間、オレは腰を高く突き上げながら盛大に潮を吹き上げた。オレの人格が変わったことで、テーブルの上に置かれていた書き置きは消え去った。


 嫁とは婚姻関係を結び、子供も作ったが、それもゲイであることを隠すためだけの偽装にすぎないという事実へと置き換わってしまった。もはやオレは、嫁を愛したことなど一片もなかったということになってしまったのだ。


「あ゛ぁあっ♥ チンポッ♥♥ ガチムチ野郎の雄チンポが欲しいぃいいっ♥♥」


 家族のことなど、どうでもよくなっていた。男のチンポが欲しい。オレの肉体は、今となってはそれだけを渇望していた。どうにかこうにかスウェットパンツに足を通すと、玄関から飛び出し、同じ階の大毅の部屋の扉を叩いた。時刻は午後十時を回ろうとしている。非常識な時間帯だなんて知ったこっちゃない。今は一刻も早くこの火照った身体を慰めてほしかった。


「笠松君……っ! 頼むっ! 開けてくれッ!」


 ドンドンと扉を叩きながら懇願するが、返事はない。だがオレは諦めず、何度も何度も彼の名前を叫んだ。やがて扉の向こうから足音が近づいてくるのが聞こえたかと思うと、扉がゆっくりと開いた。中から顔を出した大毅は、すべてを見透かしたような表情で妖しく笑っていた。


「ようやく、俺のもとに来てくれましたね……♥」


 彼はオレの腕を摑むと、室内に招き入れてくれた。そしてそのままベッドに押し倒される。彼の目は赤く血走り、息は荒い。こいつもオレと同じ状態なんだ。そう思うと嬉しくなった。舌舐めずりをして濡れた唇を重ねられると、オレの唇がこじ開けられた。歯列をなぞられながら、舌を絡め取られる感覚。口の中を犯されているかのような感覚に、背筋がゾクゾクと震える。


「んっ♥ ちゅっ……♥♥」


 お互いの唾液を交換し合いながら、夢中で唇を貪り合う。唇が離れる頃には、オレの股間は痛いくらいに張り詰めていた。早くこの欲望をぶっ放したくて仕方がねえ……。

 オレは無意識のうちに、彼の背中に両手を回して抱擁していた。この太くたくましい体を押し倒し、オレのケツマンコにはち切れんばかりの雄の屹立をぶち込んでほしかった。だが、大毅はオレの首筋を舐めると、耳元に顔を寄せてきた。


「体も人格も俺に奪われたっていうのに、俺に縋ってくるなんて惨めですね♥♥」


「なっ……、えっ?!」


 オレは気味の悪い笑みを浮かべる大毅から飛び退くと、ギョロギョロと目を動かして彼の全身を観察した。今のオレよりも頭一つ分はでかい身長。格闘家崩れと近所では噂だったが、よくよく見ると現役格闘家と言われても信じてしまいそうなほどにマッチョな肉体。体毛は陰毛に至るまで剃毛され、肌にはあちこちにタトゥーが彫られている。舌や耳、乳首、イチモツや玉袋にまでピアスが施されており、肉体に手を加えることなど考えたことのないオレには縁遠い身体に思えるはずだった。


 だが、オレにとって、その肉体は懐かしいモノに思えてしかたがなかった。先ほどエレベーター内でも嗅いだ、脳味噌を蕩けさせるような大毅の体臭。発達した僧帽筋や三角筋、頭部ほどの太さもある上腕二頭筋や血管の浮き出た太い首。胸板は小山のように分厚く盛り上がり、腹筋も縦に割れて綺麗なシックスパックを描いている。理想的な体。男好きを魅了する肉体。

 硬さを増して膨張した肉棒には、見たこともないような装具が取り付けられ、それはどうやら肛門の奥まで挿入されているようだった。


「ああ、これですか? コックリングとアナルプラグがくっついたやつで、電動でケツの中を刺激できるんですよ。ちょうどいい。尻の穴で感じながら、あなたと顔の交換をしたかったんです♥ どうせなら、アプリで快感を共有して、いっしょにイキましょう」


 訳の分からないことを言った彼は、スマホを弄ると、装着した器具に身を委ねた。


「んぎっ♥♥」


 その瞬間、大毅のケツ穴に挿入されている玩具が振動を始め、腹の中をかき回されるような感覚に彼は身悶え始めた。同時にオレの尻穴でも何かが暴れ始める感覚が襲いかかり、腸壁越しに前立腺をゴリゴリと刺激し始める。


「あ゛っ♥ な゛んだコレぇえっ♥♥ お゛ぉぉおおぉおッ♥♥」


 オレが叫び声を上げると、スマホも悲鳴を上げるように踊り始めた。画面には、【お前の顔は俺のモノ】と表示されており、点滅を繰り返している。


「これで、あなたの顔は俺のモノです♥ はあぁっ♥♥」


 大毅が嬉しそうにそう言い放つと、彼の顔がぐにゃりと歪み始め、徐々に形を変えていく。筋の通った鼻は鷲鼻に変わり、冷たく鋭い目つきは意志の強そうな大きな目へと変化していく。後ろで束ねていた髪は頭皮に吸い込まれ、短く硬い髪質へと変わり、最後に彼の顔は【俺】の顔へと変貌していた。


「ああ゛っ、気持ちよすぎるッ♥ おお゛ぉ♥ この太い声、この厳つい顔♥♥ とうとう俺のモノになったんだ……♥ エロくてカッコいい、ガチムチボディーの【霧島琢磨】の全身が♥♥」


 激しく身悶えしながら射精を繰り返した彼は、自分の顔を愛おしそうに撫で回すと、チンポを握りしめつつスマホを手に取った。


「顔も、体も、人格までもあなたのモノと交換させてもらいました。もう何もかもすべてあなたになりたいっ! 申し訳ありませんが、このまま人生も交換してしまいますね! あなたの全部をもらって、俺が今日から【霧島琢磨】になりますっっ♥♥」


 チンポの先からダラダラと精液を垂れ流す彼が、スマホを再び弄ると、オレのスマホも再び震えた。


【霧島琢磨の存在すべてが俺のモノ】


「んほぉお゙っ♥♥ ぬおあ゛ぁああっ♥♥」


 大毅がひときわ大きく野太い【俺】の声で喘ぐと、オレの喉からは【俺】のモノではない喘ぎ声が溢れ出した。オレにも変化が訪れたのだ。オレの顔が変わっていく。それだけじゃない。勃起して硬く反り返ったチンポに、ぷっくりと膨らんだ乳首に、耳や舌にも小さな穴が開いて、目の前の男の身体に付いていたはずのピアスが、オレの肉体に吸い寄せられ装着されていく。同時に、全身にタトゥーが彫られていく感触も走った。だが、苦痛は一切感じられず、得も言われぬ快感だけが身体中を駆け巡る。チンポはコックリングで拘束され、アナルプラグがオレの前立腺を押し潰し、尻穴は激しく振動している。


「ひぎぃいいっ♥♥」


「んほぉおおぉおお♥♥」


 オレたちは獣のごとき声を上げながら身をよじっていた。もう何も考えられない。視界が真っ白になり、頭の中に強引に【笠松大毅】という人間の記憶が流れ込んでくる。同性愛者で、がっちりとした体育会系で汗臭いたくましい雄が好きで、チンポが太い野郎に尻穴を犯されまくってヒィヒィ言わされるのが大好きな変態野郎。【霧島琢磨】の肉体に一目惚れし、【俺】との交尾を想像しながらハードなオナニーに耽った日々──。


「あ゛ぁああっ♥♥ 【俺】、いや、オレッ♥♥ お゛ぉおおぉおおっ♥♥」


 もはや自分がどんな人間だったのかも思い出せない。ただこの快感を味わいたい一心で、ケツ穴とチンポに装着された玩具に身を任せる。凄まじい振動に、脳味噌が蕩けていくような感覚を覚える。全身を貫く快楽に、オレは涎を垂らしながら身悶えた。


「「あ゛ぁあぁああぁああぁあぁぁあっ♥♥」」


 同時に大きな雄叫びを上げながら、オレたち二人は絶頂を迎えた。パンパンに張ったチンポをぶるんぶるんと激しく震わせながら、辺りかまわず勢いよく白濁液を噴射する。シーツの上だけでなく、床にまで飛び散ったザーメンが大きな水溜まりを作っていく中、オレは【霧島琢磨】と抱き合って口づけを交わしていた。



***


「今日は残業で遅くなりそうなんだ。すまんな、夕食は明日の弁当にしてもらっていいか?」


 俺は平身低頭して妻に詫びると、通話終了のボタンをタップした。残業で遅くなるなどというのは、当然嘘である。スマホをベッドの上に放り投げた俺は、目の前で四つん這いになった男の尻の穴に刺さっている、ガチガチに反り返ったイチモツを、さらに奥へと挿し込んでいった。

 昨日までは【霧島琢磨】という名前で呼ばれていた男。体を鍛えている男なら、誰もが羨むような肉体。強面で威圧感を与える精悍な顔つき。実直で妻だけを一途に愛し、部下たちを導くリーダーシップを持った頼りがいのある男。だが、そのすべてを【オレ】が奪ってやった。


「はあぁ……♥」


 硬くなったチンポを抜き差しするたびに、征服感に酔いしれる。妻のマンコに突っ込んでいたときでさえ、こんなにも興奮したことはなかったという記憶が俺の脳裏に蘇ってくる。かつての【霧島琢磨】が、俺の下で雌豚のように喘ぐのは、最高の気分だった。


「んお゛ぉおおぉっ♥♥ 琢磨さん……、イグッ♥ イッちまうっすぅ♥♥」


 肛門の奥に亀頭をぐりぐりと押しつけると、彼は低く喘ぎ声を漏らした。どうやら絶頂に達したらしい。俺のチンポをギュゥッと締め上げる彼のアナルの感触を堪能しながら、俺は腰を振り続けた。たまらんっ♥ 射精したいッ♥♥ この男のケツの中に、俺のザーメンをぶちまけたいっ♥♥


「お゛ぉおおぉおおっ♥♥ たっぷり種付けしてやるぞぉ、大毅ィッッ♥♥♥」


 俺が雄叫びを上げながら、ひときわ激しく腰を打ち付けると、大毅は声にならない声を上げて全身を大きく震わせた。同時に、俺のパンパンに張り詰めた金玉が縮んで硬くなる。溜まりに溜まった大量の濃い精液が大毅の中を満たしていくのがわかる。結合部からぶぴゅっという音を伴って逆流してきたザーメンが、俺たち二人の丸太のような太腿を伝っていった。



(飽きたらこの身体は君に返してやるからな)


 肉体も人生も俺に奪われた【霧島琢磨】を安心させるため、彼の耳元でそう囁いた。だが、それは嘘だ。あのボディーハックアプリで他者との肉体が交換可能なのは、一度だけ。すでに俺たち二人のスマホからはアプリは消滅してしまった。もしも、その事実を知ったとき、この男はどれほど絶望するだろう? そのときのことを考えるだけで、俺のチンポは興奮でますます硬くなった。


(了)

Files

Comments

黒竜Leo

少しずつ改変されたことを意識してますが、最後に全て奪われ堕とされたオス、とても美味かったです!