大鷽文庫『寄生型ハロが与える過成長及び厳密性(被験者████に関するレポート)』 (Pixiv Fanbox)
Content
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今回の実験の対象となる█歳の██を捜す。
朝に飲んでいる牛乳のパックに目をやると、側面には「捜しています」の見出しと、一人の顔写真が載っていた。
「捜しています」「里親希望の方は…」
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試験に合格し、牛乳パックの顔写真と変わらぬ顔の少女を引き取る。
変わらない。表情は永遠に晴れない曇り空のようだ。
たいへん狂った宇宙人(冥王星からいやに移民が増えるようになったのだ、この星も)がO型以外に適応する催眠術を使い大統領となり早10年。O型の我々の方が逆に人としての常識がないのかなんて言われちゃうこの現代、牛乳パックで里親を捜すのは珍しくない時代となってしまった。
時計の針よりも早く、しかし認識さえしていなければ気づかないほどの早さで、人類はなんかちょっとヘンになってしまった。
それと引き換えに、科学のチカラは多数の移民のおかげで大発展を果たしている。心の扉の奥で生命の危険を感じたのだろうか、人はあり得ないほど多くの閃きを経て広く偉大な進化を得た。
そのおこぼれを頂きながら我々が狂っていないことの証明を果たす。
お前となら、復讐ができる気がするよ。
(隣のページには乱雑なにっこりマークが描かれている。)
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こんな手記 書いてる時間おしー あとで
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完成した。
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研究中の晶塊から取り出したサンプルを対象者の脊髄に注入してから数日が経過した。
骨の殻の中で反復を繰り返し、同時に弧を描き続けた頭の上についに触ることのできる骨のような物体が現れた。
それは常に頭上で浮き、光る。
手でつかむことはできるが、それを引っ張ると対象者も同時に引っ張られる。
それは聖書に出てくる天使の輪とそっくりであった。
しかし、人間と同化している。
名前を天使の輪から取り、「寄生型ハロ」と名付ける。
自身の体を動かすにあたって、どの神経か臓器か、一体どれがわたしを動かしているのか依然と現社会ではわからないままだ。
そのため、わたしは「それ」を知覚し別のものへ移すことができれば、肉体を動かすにあたり付随するものを変えることができると考えた。
これより身体を動かす存在はハロとなり、"宿主"はハロの疑似餌となる。
ハロの影響を受けた人間は、姿かたちが変わり、高い身体能力を得ることができた。
どれだけ宿主が攻撃を受けても、ハロが無事ならば常人よりはるかに高い耐久性を得た。
そして常にハロから神経伝達物質が伝送されるため、生きるためにムダな感情を取り払うことに成功したようだ。
いま彼女の顔は雲ひとつない空のように晴れやかな笑顔をし
(乱雑なペンの跡が何ページにも渡っている。)
帰ってこい。
帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。
帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。
帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。
帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。
帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。
帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。帰ってこい。
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ここ連日、人が何者かに助けられたかの報道が流れている。
彼女はここにいる。でも現場に足を運んでも見つからない。
9/521
「謎の少女が消えた」と報じられた現場を捜索する。
急ブレーキの跡がアスファルトにくっきりと残っており、道を外れた場所から少し離れたところにバスが"置かれ"ていた。
乗客は全員無事であった。
わたしは、草むらの中に落ちている骨片を見つける。
それは明らかに輪のような形をしていた。
(この日記のあと、明らかに別人の筆跡で日記が幾つか残されていたが、恐らく第三者のいたずら書きと見られ、割愛)