魔女狩り02「騎士団」 (Pixiv Fanbox)
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「本当にここが、“魔女”の館なのかね?」
「はい」
剣を持った男が、騎士風の男の問いにそう答えた。
剣の男は再び、国外れに在る“とある館”を訪れていた。そう、紛れもない“魔女の館”。
数日前、年端も行かないたった一人の“少女”に武装した戦士たちは追い返された。
仲間を一人、無残に殺された。・・・にも関わらず、オメオメと逃げ帰るしか無かった。
「この辺りは今までも何度か捜索したんだが、な・・・。何故、今になって」
「もしかすると、魔女が人除けの魔法でも掛けていたのかも知れません」
後ろに控えていたローブを纏った痩身の男が、騎士男に答える。
兜、鎧、盾。そして、剣。騎士風の男は全身を武装していた。部下らしき者を数人、引き連れている。
装備がマチマチな戦士たちとは違う、統一された武装。明らかに、王国直属の騎士団だった。
「もし本当に魔女が居るのであれば、国王に報告し、報奨金を出そう」
騎士と思しき男は、戦士にそう告げた。
この国では国王直々の“御触れ”により、魔女に莫大な懸賞金が懸けられている。
魔女は国に害を齎(もたら)す存在として、何百年もの昔から恐れられて来た。
しかし、どれほど探しても、その行方、居場所は杳(よう)として知れなかった。
だから、懸賞金とは別に、『発見』しただけでも報奨金が出すことにしたのだ。
「ホントに居るって言ってんじゃないですか」
「冷やかしや虚偽の報告も多いのでね。通告者同行での確認が必須なのだよ」
この手の懸賞金には、詐欺目当ての報告が後を絶たなかった。そういった不逞の輩は処罰されるにも関わらず、だ。
『やはり、また来たのですね』
「「・・・!?」」
前回と同じく、脳内に直接響くような『魔女サーラ』の声。
「何だ、これは・・・。声、なのか」
「“これ”が、魔女サーラです」
剣の男は、ギィッと扉を開けて姿を現したサーラを指差した。
「“これ”だ、なんて・・・失礼ですね」
「こんな、少女が・・・」
歳の頃は十代半ばから後半、といったところか。均整の取れた肢体ではあるが、どちらかといえば華奢な体躯。
この目の前の、何処か幼さの残る見目麗しい金髪美少女が“魔女”だなんて、到底信じられない。
鎧を身に着けた戦士を素手で二つ折りにした、などとはとても。
「逃げ帰ったかと思えば、まさか官軍を連れて来るとは」
「う、煩い! “魔女”相手に舐めて掛かるほど、俺は馬鹿じゃねぇ。さぁ、騎士団長殿!」
剣の男は自分から前に出ようはせず、騎士男を嗾(けしか)ようとしていた。
「魔女なればこそ見た目に騙されるな、か。良いだろう、おい!」
「はっ!」
騎士団長に促され、ローブ男が前に出る。
「まさか、“それ”は・・・」
「ふ、わかるか。“これ”は彼(か)の大賢者ウェルトが遺した秘宝、『破邪の宝珠』!」
ローブ男が手に持った『宝珠』を目にして初めて、魔女サーラは驚きの表情を見せた。
「大賢者の秘宝よ! 魔なる力、その全てを無に帰せっ!!」
ローブ男が詠唱とも叫び声とも取れる言葉を放つと、『宝珠』から眩い光が発した。
「うっ・・・ふ、服が・・・」
「はははっ! この期に及んで服の心配かよっ!」
膝を付き、蹲(うずくま)るサーラに剣の男が罵声を浴びせる。
「それとも、身体強化の魔法は“その黒いローブ”に掛かってた、ってか?」
「う、うぅっ・・・」
サーラの全身から、黒い煙のような靄が湧き出す。
ミチ、ミチ・・・ビリ。
「へへ、やっぱりそうか。案の定、ローブが破け・・・」
剣の男の目の前で確かに、サーラが身に纏った漆黒のローブが破れ始める。
ミチ、ミチチッ。ビリリッ!
「や、やぶ・・・れ・・・・・」
確かに、男の目の前で徐々にサーラのローブが破れ、その柔肌が曝け出されて行く。
ビリッ! ビリビリビリィッ!!
「なん、だ・・・これは」
通告者である剣の男や、騎士団長だけではない。他の騎士団員たちも動揺の色を隠せない。
「・・・ふぅっ」
サーラは、肩口に広がった“長い”金髪をファサッと後ろに流した。
肩口ぐらいまでのセミロングだった金髪は、いつの間にか腰まであるロングヘアになっていた。
「“この姿”になるのも、いつ以来かしら・・・」
サーラは、スクッと立ち上がった。
「あーあ・・・。お気に入りのローブだったのに、ビリビリに破けちゃったじゃない」
サーラは、男たちを“見下ろし”ながらそう言った。
「どうして・・・。確かに、『宝珠』は発動したのに」
今まで幾度となく多くの魔物の力を削ぎ、討ち滅ぼして来た『破邪の宝珠』。
今もローブ男の手には、相手の力を剥ぎ取った感覚がある。確実に効いた、という実感。
だが、もしこの場の全員にサーラが着ていたローブの顛末を聞けば、誰もが『魔女が自分で破いた』と答えるだろう。
正確には。サーラのローブは、サーラ自身の“身体の変化”に付いて行けず、破れてしまったのだ。
「確かに、その『宝珠』は効果あったわよ。一時的とはいえ、お陰で私の魔力は空っぽになっちゃった」
サーラは、何処となく陽気な口調で話す。落ち着いた少女の面影は、既に無かった。
「じゃあ・・・そ、その姿は何なんだっ!」
ローブ男はおもむろにサーラを指差し、叫んだ。
「何・・・って。“これ”が、私の“本当の姿”よ」
サーラが全身を強調するようなポーズを取ると、胸元がユサッと揺れた。
少女体型の時は程良い大きさだった胸は、南国の果実を思わせる特大の乳房となっていた。
ローブの下に着ていたであろう胸回りの肌着が、何とか窮屈そうにその爆乳を支えている。
顔のパーツからは幼さが消え、妖艶さを醸し出している。美少女でなく、紛れもない美女といった風情。
「本当の・・・姿、だと・・・」
騎士団長は、目の前のサーラの変化に未だに理解が追い付かない。
これが例えば、人を外れた化け物に変化した、などであれば驚きはしなかっただろう。
人に化けた魔物を打ち倒したことなど、今まで何度もある。伊達に、騎士団長などしては居ない。
しかし、サーラは人の姿のまま、だった。ただただ、“大きくなった”だけなのだ。
ギリギリ、人間の範疇は逸脱していない。そう思えるのに、人間の限界を超えた身体、そんな印象だった。
「何なんだ、その身体は・・・」
背が、明らかに高くなっていた。騎士団の中でも大きい部類の騎士団長と比較しても、頭二つ分は高い。
しかも、首から下は、伸びた上背に見合うどころか尋常ではないボリュームになっていた。
美女然とした頭部から伸びる首は太く、僧帽筋から肩に掛けてモリッ、モリッと筋肉が山のように隆起し。
人の頭ほどもある肩の三角筋から伸びる腕には、その肩よりも更に大きな力瘤が盛り上がる。
お腹には、二つの爆乳の影になりつつも、ボコッボコッボコッと彫刻のように六分割された腹筋。
腹筋の下の腰布からは、それこそ大神殿の石柱を思わせる極太の太腿が二本、大地に伸びていた。
「言っとくけど、この身体は自前よ♪」
騎士団にも剣ではなく、体術を得意とする者は居る。剣技より、身体を鍛えるのが好きな者も居る。
しかし、目の前のサーラは、その者らと比較するのも烏滸(おこ)がましいと思えるほど、凄まじい肉体をしていた。
「魔力と筋力って比例するのよ。身体を鍛えれば鍛えるほど、魔力が底上げされるの」
魔力も筋力も同じ身体に宿るモノ、というように魔女は考え、それに従い身体を鍛えた。
「馬鹿な! 身体強化の魔法じゃなかったのか!?」
「少なくとも、少し前まで私が使っていた魔法は【館の人避け】と【身体弱体化】の二つだけ、よ」
「何で、弱体化なんてことを・・・」
「目立つから、よ。これでも私はヒッソリと慎ましく暮らしたいの」
魔女であることを差し引いても、大の男が見上げるような筋肉巨女がその辺を歩いていれば確かに目立つだろう。
「やれ魔女は狩るだの、戦争に力を貸せだの、いろいろとウンザリしてるのよ」
サーラは、切れ長の瞳でローブ男を睨み付ける。
「ひぃっ・・・」
「何処行くの」
サーラはその巨体をズンッとローブ男に寄せた。
「・・・ぐぇ」
逃げようと後退りしたローブ男を、サーラは片手で掴み上げる。
「~~~っ!」
サーラの大きな手が、ローブ男の顔面を完全に塞いでいた。
「あ、が、ぁ・・・」
「えい♪」
サーラはその大きな手を、一気に閉じた。
グチャ。
「「「・・・っ!!?」」」
ローブ男は頭部を破壊され、全身を力なくブランと垂れ下げていた。
「魔女めっ・・・よくもっ!」
同胞を殺された騎士団員の一人が、激高してサーラに斬り掛かる。
「もらっ・・・」
「・・・何が、貰ったのかしら?」
ガムン、というおよそ剣が人体を斬ったとは思えない効果音。
「っ!?」
男は確かに、長剣でサーラの肩口辺りを袈裟懸けに斬った。刃は、確かにサーラの肉体を捉えていた。
しかし、手に残る感触は、まるで岩か何かを斬り付けたかのようだった。およそ、人体を斬った感覚ではない。
「そ、そんな、馬鹿な・・・」
戦争で、相手の騎士を馬ごと斬ったこともある長剣。相手を、鎧ごと貫いたこともある。
その長剣は、空しくもサーラの左僧帽筋に“乗った”、だけだった。致命傷どころか、傷一つ付いていない。
「こんな紙みたいな剣でどうにかなる・・・」
サーラは、自慢の筋肉に乗った長剣を左手でおもむろにガシッと掴む。
「・・・って、本当に思ってるのかしら?」
バキッ・・・バキャ!と、サーラの手の中で長剣の刃がどんどん砕かれて行く。
「お、俺の長剣が・・・」
パラパラパラ・・・と、刃だったモノが粉となってサーラの手によって男の目の前にバラ撒かれた。
「ふふっ♪ じゃあ、“お返し”するわね」
「え?」
サーラは右手を手刀の形にして、大きく振り被った。
「えい」
グギャッ!! グギョグギョグゴッ!
男の鎧が、『Uの字』に大きく凹んでいた。正確には、男の左半身に『Uの字』型の“谷間”が出来ていたのだ。
「あら。流石に、手刀じゃ鎧は斬れないか」
サーラはお道化た感じで肩を竦めて見せた。勿論、目の前の男は既に息をしていない。
「おのれ、魔女め! やはり、まだ何か魔法を使っているのか」
人の頭をトマトのように握り潰し、上半身を鎧ごと叩き潰すなど、有り得ない。
如何に筋肉隆々な巨体とはいえ、人の力で人間を屠れるのはおかしい。絶対に種がある、そう騎士団長は思ったのだ。
「この身体は自前、って言った筈だけど? 私の魔力は、そこの男がカラにしてくれちゃったんだけど」
サーラはそう言って、頭が潰れて首から下だけになったローブ男を指差した。
「ふ、普通の人間が“そんな身体”になる訳が無かろうッ! この、バケモノ筋肉女め!」
「・・・・・」
一瞬。ホンの一瞬だが、サーラの眉がピクッと動いたかに見えた。
「魔法に精通する者は即ち、真理に精通する者でもあるわ。食べ物や薬草、身体の鍛錬、健康を保つ方法・・・色々ね」
自然の摂理、世の中の理、そういった全ての事柄に詳しくなる、とサーラは語った。
「な、何が言いたい」
「魔法を使えるって点を除けば、私も貴方たちと同じ・・・よ」
サーラは、肩の高さで右腕を折り曲げる。二の腕の上に人の頭ほどもある巨大な力瘤がモゴォッ!と盛り上がった。
「健全な肉体には健全な力が宿る、ということよ」
力瘤で極限まで太くなった右腕を、サーラは騎士団長目掛けて振り下ろした。
「ひぃっ・・・!」
騎士団長は、咄嗟に左手に持っていた盾を構える。
ドゴッ・・・! メゴメゴメゴォッッ!! バァンッッッ!!!
「・・・あら」
サーラの右腕は、地面に減り込んでいた。
正確には、騎士団長の盾を圧し潰し、変形させ、それごと地面を叩き割ってしまったのだ。
「大事な盾、お手て放しちゃって良いの?」
「ひ、ひぇ・・・」
当の、騎士団長本人は潰れた盾の傍でへたり込んでいた。盾を手放したことで間一髪、難を逃れたのだった。
「お、お前らっ! コイツを・・・この魔女を殺せッ!」
「「「はっ!」」」
無様にも尻もちを付いた体勢での命令にも関わらず、騎士団員たちは指示通りサーラを取り囲んだ。
「あらあら・・・まあ。そんなカッコ悪い団長さんの命令に従って・・・健気ねぇ♪」
サーラは、妖艶な笑みで自分を取り囲む騎士団員たちを見回した。
「・・・ふふっ、こーんなに沢山。殺り甲斐がありそうだわぁ・・・」
「ふんっ! 多勢に無勢、本当に勝てると思っているのか」
「むしろ、ちゃんと向かって来てね。逃げる相手をポキッと折っちゃうのは味気ないから」
「このォッ! 我らが栄えある王国騎士団を舐めるなよッ!!」
騎士団の内の一人が、剣をサーラ目掛けて真っ直ぐ構え、一気に突っ込む!
ズガ。
「な・・・」
剣の切っ先は確かに、サーラのお腹を捉えていた。防具どころか、服すら纏っていない、素肌のお腹を。
「なん、で・・・」
「うふ、くすぐったい♪」
しかし、数多の敵を屠って来た長剣は、サーラの腹筋を一ミリも傷付けることは出来なかった。
「“刺す”のがお好み、なのね?」
「ひ、ヒィッ・・・グボォ!」
サーラの手が、騎士のお腹に深々と突き刺さっていた。
「あら、同じ手刀でも“刺す”ならイケるのねぇ」
騎士の胴体は、フルプレートアーマーで覆われている。その鎧ごと、サーラーの手刀は貫いたのだ。
「このおっ!」
「うおおおぉっ」
仲間が串刺しにされるや否や、他の騎士たちもイキリ声を上げ、一気にサーラに襲い掛かる。
ドガドゴドガ。
サーラの首筋、肩、腕、背中、腰、脚。身体中のありとあらゆる部位に剣が突き立てられる。
「うーん。みんな、同じ装備ってことは変わり映えしないってことよね」
当のサーラは、多勢による剣の攻撃を受けながら、まるで意に介していない。
「もう、良いわ。飽きちゃった」
“手始め”と言わんばかりに、サーラは一番近くの騎士の頭を両手で挟むと、グチャッと兜ごと押し潰した。
そこからは正に、一撃一殺といった感じだった。
サーラに首を掴まれた者は、一瞬で頸椎を破壊され。
股間を蹴り上げられた者は、股間から胸元まで身体を真っ二つに裂かれ。
両腕を掴まれた者は、蟲の手足をプチッと捥ぐかのように両腕を引き千切られ。
「う、うわあぁぁぁっ!」
「何処行くのぉ? 逃げちゃダメよぉ♪」
逃げようと踵を返した者は、後ろからサーラに抱き締められ・・・。
サーラの豊満な爆乳が背中に押し当てられていたのだが、鎧越しの為に死ぬ間際の快楽すら味わうことは出来ず。
メキメキメギィッ、グギャァッ!!
鎧ごと、身体を抱き潰された。
「さ、てと」
残るは、騎士団長と手引きした戦士の二人のみ。
「お、お助け・・・」
騎士団長は、登場した時のような威厳は最早なく、立ち上がることも出来ずヘタリ込んだまま小便を漏らしていた。
「無様、ね・・・」
「ひぃ・・・うげぇ!」
サーラは汚物でも見るような目を向けた後、一気に騎士団長の胴体を踏み潰した。
ドパァッ!と潰された蛙のようになり、騎士団長は息絶えた。
「後は、貴方だけね」
「お、俺は騎士団とは関係ねぇっ!」
そもそもの発端が、この男自身であるにも関わらず、この期に及んで無関係を装った。
「実のところ、貴方が一番見逃せないのよね」
「な、何で・・・」
魔女サーラは、『少し前まで私が使っていた魔法は【館の人避け】と【身体弱体化】の二つだけ』と言った。
そう、【人避け】の魔法が掛かっていたにも関わらず、館が発見されたということになる。
「貴方、多分だけど私の魔法が効かない体質のようなの」
前回と今回、二度続けた館を訪れたのはこの男だけ。この男には、サーラの魔法に対する耐性があったのだ。
「つまり、貴方が居るとまたこの館が人の目に晒されることになる」
「も、もう此処には来ないッ」
男の頭には、更に対策を立て、この借りを返す、というこの期に及んでの思惑があった。しかし。
「私は、魔法とは別に【特殊能力】があるの。他人の頭に直接語り掛けたり、他人の思考を読む能力」
「っ!!?」
あくまでこれは生来生まれ持った特殊能力なのよ、と付け加えた。
「そ、んな・・・」
「ふふっ、精一杯楽しませて・・・ねぇ♪」
男の絶叫が数時間続いた後、パタリと聞こえなくなった。