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「ここが、“魔女”の館か」

剣や斧、鎧や盾で武装した戦士と思しき数人の男が国外れに在る、“とある館”を訪れていた。


「おーい、誰か居ないかー?」

剣を持った先頭の男が、館の扉をドンドン!と叩く。


「本当に居るんですかねぇ・・・」

「“魔女”には、国から莫大な懸賞金が懸けられている。“魔女”自体は居る筈だ」

国が、居もしない存在に懸賞金など懸けないだろう。


「この館に居るかどうかは兎も角、だがな」

「こんな扉、ぶっ壊して入っちまいましょうぜ」

後ろに居た男が前に出て、手に持った斧を扉目掛けて振り被った、その瞬間。


『お待ちください』

「なん、だ?」

それは“声”、と呼べるものだったのだろうか。

男たちは、耳からというよりは脳に直接響いたような、そんな奇妙な感覚だった。


「何のご用でしょうか」

ギイッと扉が開くと、中から少女が姿を現した。


「こいつが、“魔女”なんですかぃ・・・?」

男たちは品定めをするかのように、少女をマジマジと見つめた。


男たちより頭半分ぐらい低い身長に、黒いローブを纏っている。

セミロングの金髪に均整の取れた肢体。何処となく幼さの残る、美女というよりは美少女といった出で立ち。


「おい、お嬢ちゃん。この辺で“魔女”を見掛けなかったかぃ?」

「はぁ・・・“魔女”、ですか」

少女は、溜め息を付く。


「貴方がたが言う“魔女”がどういったモノかは存じませんが、私は『サーラ』と申します」

「サーラ・・・」

少女が名乗った名前を、剣の男が反芻した。


「おい、確か・・・」

「ああ。“魔女”の名前って、『サーラ』じゃなかったか」

後ろの男たちも口々に、『サーラ』の名前を挙げた。


「この際、“魔女”かどうかはどうでも良い。“連れて行けば”、わかることだ」

そもそも、男たちに“魔女”かどうかを問答する気は無い。


疑わしきは連行し、差し出す。違っていれば、また次を探せば良いのだ。

もし目の前の少女が本当に“魔女”なら、それを逃す方がデカい。


「・・・って訳で、だ。お嬢ちゃん、ちょいと俺らと一緒に来てくれねぇか」

「それは、困ります」

少女は毅然と、そう言い放った。


「今なら、見逃してあげます。このまま、お引き取り下さい」

人数でも、体格でも、武装でも。明らかに自分より上回るであろう男たちに、少女はそう言った。


「あぁ!? お嬢ちゃん、何か言ったかぁ?」

「お帰り下さい、と。そう言ったのです」

イキリ立つ男に物怖じせず、少女はそう返した。


「本来であれば、“この館”を見た者は無事に帰してはいけない決まりなのです」

「“無事に帰さない”ってのは、具体的にどうするつもりなのかねぇ・・・へへっ」

嘲る男を見て、少女は『はぁ』と大きな溜め息を付いた。


「仕方ありません。では・・・」

少女はツカツカと、斧の男に近付く。


「この方を“どうにか”すれば、帰って頂けますか」

「え・・・ぐぇ」

少女は斧を持った男の首を右手で掴むと、そのままスッと持ち上げた。


「「!!?」」

斧男は、男たちの中でも大柄で、更に斧と鎧で完全武装している。

かなりの重さの筈なのに、少女の細腕は男を宙空でシッカリと固定している。


「この、はな・・・せっ!」

斧男は、手に持っていた斧を構わず少女に振り被った。


ガシッ。


「なぁっ!?」

少女は、素手で斧を受け止めた。勿論、刃の部分を、だ。


「こいつ、身体強化の魔法か何かを使ってやがるのか!」

魔法でもなければ、少女の細腕が大の男を持ち上げ、斧の一撃を防げる訳がない。


「扉を壊されでもしたら面倒なので、“こう”しちゃいますね」

少女は受け止めた左手に力を籠めると、バキバキッ!と斧の刃が砕け散った。


「嘘、だろ・・・」

少女が素手で、斧を砕いた。どんな屈強な戦士でさえ、こんな所業は見たことがない。


「お、俺が悪かった! もう、許し・・・」

「では、“どうにか”してしまいますね」

自慢の武器を失った斧男が命乞いをするより早く、空いた少女の左腕が男の腰に回った。


グググ・・・グギッ、グギギ・・・


「あ゛、が、が・・・」

男の腰、いや胴全体は鉄製のワンプレートの鎧に覆われている。

しかし、それを物ともせず、少女の左腕は男の腰に徐々に減り込んで行く。


グギギギィ・・・グギ、グギャッ!


「あ゛、あ゛・・・」

男の身体が後ろ側に反って行くのに合わせて、少女は右手にも力を籠める。


ボキッ、ボギボギッ!! ボギャアッ!!!


“これ”で、如何でしょう」

物の数秒で、斧を持った屈強な戦士が二つ折りになった。男の息は既に無く、事切れている。

にも関わらず、男の身体は直立していた。正確には、男は“頭と両足”で三点倒立なのだが。


「おい、見ろよ・・・。背骨だけじゃねぇ、首も潰されてやがる」

少女は左腕で鉄の鎧ごと男の背骨を折っただけではなく、右手で男の頸椎も握り潰していたのだ。


「や、やっぱり“魔女”だ! この女が“魔女”だったんだ!」

男は、尋常でない怪力を見て、そう言ったのではない。


年端も行かない少女が、全く感情を動かさずに人を一人、殺したのだ。

怒りに任せてでも、恐怖から来る昂りでもなく。ましてや、殺人狂の愉悦でもない。


只々、男たちを追い払う手段として、少女は斧男を殺したのだ。


「ここは退くぞっ!」

剣の男は分が悪いと見るや、男たち全員に撤退を促した。


「わかって頂けて、嬉しいです♪」

少女は初めて、男たちに笑顔を見せた。


「くそっ、このままでは済まさんからな・・・」

剣男は復讐を誓いつつも、“魔女の館”を後にした。

Comments

アド・マイヤー

これは、討伐する側も巨大筋肉美女エクソシストを投入して、後編は怪獣大決戦になるのでしょうか?

デアカルテ

後編では討伐側も何らかの手を用いるのは間違いないでしょう・・・(伏線)