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――【チャクラ】を完全開放した一件から、数日後。


「ねぇ、パパー。お腹、空いたぁ」

「・・・え、また?」

小夜子は小学校から帰宅後、間食がてらにガッツリと一食分を平らげ。

夕方、家族三人揃って普通に夕食を採った。


今は、夕食を終えてから、まだ一時間程度しか経っていない。


「食べ過ぎなのでは・・・いや、何でもない」

剛一郎は、小夜子のお腹を見るが、特に食べ過ぎで膨らんだ様子はない。


「あなた、良いじゃないですか。食べ盛りなんですし」

「うーん、まあ。そう、だな・・・」

ここの所、小夜子の食は増えているものの。お腹を壊す事も無く。

毎日、健康そのもので。体調を崩すような素振りは全くなかった。


「まあ、杞憂・・・か」

お腹を壊したら報告するのだよ、と妻と娘の二人に忠告するに留めた。



――そして、暫く経った頃。


「ねぇ、パパ。何か、身体が痛い」

「痛いって、どの辺り?」

小夜子は肩や腕、背中や脚を指差した。


「どのぐらい、痛いんだい?」

「うーん。ちょっと、“ピキッ”ってなる感じ」

成長痛、だろうか。念の為、剛一郎は医者に診せるも。


「体重も増えてるようですし・・・成長痛、ですね」

「は、はぁ・・・」

小児科の医者は、素人と同じ診断結果を下した。


「成長痛じゃないですかね」

「成長痛だと思います」

整形外科や接骨院に掛かるも、診断結果は同じ。

食事をキチンと採って下さい、が唯一の注意事項だった。


「うぅむ・・・」

“あれから”未だに、小夜子に大きな変化は無い。

少しでも何かあれば直ぐに報告しなさい、と言い付けているものの。


食が太くなった事と、今回の成長痛を訴えた事。

この二つ以外は、至って健康。内科に掛かるような疾患は皆無。


「今は、痛みはどうだい?」

「何ともないよ。それより、お腹が空いたかも・・・」

ケロッとしている小夜子を見て、剛一郎はふと我に返る。

余り心配し過ぎるのも良くないな、と独り言ちた。



――更に、半年ほどが経過し・・・。


「すぅ、すぅ・・・」

ベッドで、小夜子が可愛らしい寝息を立てている。


ミリ、ミリ・・・


「う、うぅ・・・ん」

寝苦しいのか、小夜子は寝返りを打つ。


バサァッ。


その際、掛け布団をベッド下に落としてしまう。

長袖長ズボンの、熊さん柄の可愛らしい寝間着が露わになる。


グ、グググ・・・


「すぅ、すぅ・・・」

買い替えて貰ったばかりの、“セミシングル”サイズのベッド。

そのベッドの上に載っているのは、敷布団と枕と小夜子だけ。


ミチ、ミチチッ・・・


「う、ん・・・ぅん」

やはり寝苦しいのか、『くの字』に曲げていた脚を真っ直ぐ伸ばし直す。


ググッ、グモモッ・・・ガシッ。


「んぅ・・・?」

ベッドと平行に伸ばした足が、木製の『足板(フットボード)』に引っ掛かる。


『セミシングルサイズ』なので縦は180cmもあり、かなり大きい。

女性であれば、大人でも余裕を持って寝られる程のサイズ。


「う、ぅ・・・ん? うぅ、ぬぬ・・・」

足の裏が足板にペタッと張り付き、抵抗を返す。

すると、それを受けて小夜子の身体は、頭方向に押し上がる。


ゴン。


「うぅ?」

今度は、頭を『頭板(ヘッドボード)』に打ち付けた。


ミシ、ミシ・・・


「ぅあ、・・・れ?」

流石に眠りが浅くなったのか、薄っすらと意識が覚醒を始める。


「う、うぅ~~・・・」

しかし未だ夢うつつ状態で、小夜子は“伸び”をする。


ミシ、ミシシッ。


転落防止を目的とした頑丈な足板から、木材の軋む音が聞こえる。


「・・・っん!」

小夜子の全身が縦に伸び切った、と思われる瞬間。


バキィッ!


という音と共に、足板が砕けてしまう。


「・・・ん、んぅ?」

小夜子は朧気ながらも、ようやく目を覚ます。


「まだ、暗い・・・」

窓から覗く空は、まだ薄暗かった。かなりの、早朝。


小夜子は子供ということを差し引いても、ロングスリーパーで。

普段は、絶対に起きないような時間帯。


「何で、目が覚め・・・あれ?」

足が何故か、“チクチク”する。


「・・・え」

仰向けに寝た体勢のまま、横着をして足元を伺おうと視線を下げると。


「何、これ・・・」

熊さんがプリントされた寝間着の“山”が、視界を遮っていた。


「これ、“おムネ”?」

母親の妙子がデザートで出してくれる、グレープフルーツ。

その果実を思わせる大きさの乳房が、胸元を押し上げている。


「やっぱり、おっぱいだ」

両手で揉むと、指が沈み込むような弾力。


「・・・て。あれれ?」

胸を揉む両手に、何か違和感がある。


「袖、何か縮んでる・・・」

手首まで覆っていた筈の長袖は、いつの間にか“七分袖”になっていて。

肘の直ぐ先に袖口が後退して、前腕の大半が露わになっていた。


「腕が・・・腫れてる?」

手首から伸びる前腕は筋張って膨らみ、広がるように急激に太くなり。

その先の二の腕は太いどころか、ボボンッと大きく“腫れて”いる。


「虫に刺された、のかなぁ。ドッジボールみたい」

たまに、昼休みに女子グループで遊ぶ、ドッジボール。


ドッジボールは、低学年用ですらハンドボールとほぼ同じ大きさがある。

上背のある小夜子であっても、大きさ的には片手で収まり切らない。


「あれ、おっかしぃな・・・」

虫刺されの“腫れ”なのに腕の曲げると、グモモッと膨らむ。

その度に、寝間着の袖はミチミチッ、と悲鳴を上げた。


「あ、でも・・・」

手をグー、パーと開いて閉じて。

パーで力を抜いて、グーで拳を握り込む。


ミキミキッ。


「何か、面白いかも」

拳を握った時にグッと力を籠めると、前腕に血管が浮き上がるのだ。


「ぐー、ぱー。グー・・・」

拳を握る行為は、手首が内側に傾く。

繰り返す内に、徐々に力が強まり・・・。


「パーッ。グーッ・・・」

手首が『くの字』に傾くのに連動して、前腕も『くの字』に曲げ始め・・・。


「パッ。グゥーッ・・・んっ!」

前腕と二の腕が丁度、『45度』の角度になった辺りで。


モリモリモリッ!


ミチ、ミチミチッ。


ビリッ・・・ビリリィッ!


「・・・あ」

“腫れ”だと思っていた上腕が、二回りは大きく膨らみ。

袖の生地の大半を集中させた状態で、その生地を引き裂いてしまった。


「これ・・・“ちからこぶ”?」

袖の生地を引き裂いて出て来たのは、ドッジボールと同じ大きさの力瘤だった。


「硬い・・・」

二の腕に載るボールのような上腕二頭筋は、血管が浮き上がり。

力を籠めた状態だと、指で叩く度にゴツゴツッと乾いた音がした。


「ぁ・・・ふぁ」

力んだせいか、身体がそれに反応するように欠伸を引き起こす。


「ふぁ、あぁ・・・」

小夜子は身体の求めに応じ、上体を起こし。


ミチ、ミチミチッ。ミチチ・・・ビリッ。


「あぁ~あ・・・ん?」

両腕を『くの字』に曲げたまま、上半身全体に力を籠めてしまう。


ブボンッ! ピンッ、ピンピンッ!


「・・・あ」

胸元を圧し上げていた膨らみが、ボタンごと寝間着の生地を弾き飛ばした。


たゆん、たゆんっ。


「ボタンが・・・おムネが、出ちゃった」

寝た状態でさえ足元を見えなくする程の、双丘を形成する美巨乳。


「・・・あーっ!」

飛んだボタンを拾おうと上体を起こしたことで、ようやく“チクチク”の正体が判明。


小夜子の足は『足板』を踏み抜き、バキバキに折っていて。

逆皮(ささくれ)立った木の破片が、幾つも足裏に当たっていたのだ。


「太腿も、何これぇ」

ズボンの中に長瓜を詰め込んだかのように、太腿は膨らんでいて。

生地越しでも筋肉の瘤がハッキリと、血管がクッキリと浮き上がっている。


袖と同じようにズボンも、“七分丈”程にまで縮んでいた。


「ベッド、何か小っちゃくなっちゃった・・・?」

ただ、寝ていただけなのに。


足は『足板』を踏み抜き、頭は『頭板』にぶつかり。

横幅も、両脚の太腿で殆どのスペースが埋まってしまっている。


「不良品だ、ってパパに報告しなきゃ」

剛一郎からは、『何かあれば直ぐに報告しなさい』と厳しく言い付けられている。


小夜子にとって、寝間着が破けた事よりも。

ベッドが壊れた事の方が、一大事だった。


「パパ、もう起きてるかなぁ」

小夜子は、『何かあったらパパに報告』の言い付けを守るべく。

ベッドから降りようと、右脚を動かす。


ビリリィッ、バリバリッ!


「あ・・・」

脚を曲げた事で、太腿の筋肉(大腿四頭筋)がボンッと肥大化。

七分丈に縮んでいたズボンを、観音開きで引き裂いてしまった。


「・・・ま、いっか」

胸元のボタンは弾け飛び、袖はボロボロ。ズボンは、ズタズタ。


パパに買って貰った、お気に入りの寝間着ではあるものの。

もう着られないのは確実なので、“壊れた玩具”と同じカテゴリ入り。


「あれ? ドアが・・・」

部屋から出るべく、ドアの前まで移動。


「取っ手も何か、低い・・・」

部屋のドアノブは、今までなら胸元の鳩尾辺りの高さにあった。

それが何故か、“股より低い”位置にある。


「ん、っしょ」

部屋のドアは内開きなので、ドアノブを掴み手前に引く。


バキャッ!!


「あれ?」

ドアが、“取れた”。


開いたのではなく、ドア板そのものがドア枠から外れてしまい。

鉄製の蝶番がグニャリと曲がり、ネジ類は全て弾き飛んでいた。


「取っ手も・・・」

鉄製のドアノブに“手形”が付いていて、これまたグニャリと拉げていた。


「まあ、“これ”も持ってけばいっか」

外れたドアを、小夜子はそのまま片手で持ち上げる。


ドア“板”とはいえ、幅70cm×高さ180cm×厚さ2cmもあり。

頑丈な材質の木材なので、重さは30kgほどもある。


大きさと比重から、片手で持ち上げるのは大人でも簡単な作業ではない。

しかし、小夜子は“違う部分”で引っ掛かってしまう。


ガンッ!


「あ、痛った」

部屋から出ようとして、額をぶつけてしまったのだ。


「何でぇ? ドア無いのに・・・」

部屋と廊下を遮るドアは今、手に持っている。

遮るモノは何も無い筈なのだが・・・。


ゴンッ。


「痛い・・・あ」

小夜子は二回目にして、ようやく自分を邪魔する存在に気付く。


部屋そのものが、外に出るのを拒んで・・・という程、大袈裟な話ではなく。

普通に立って歩くだけで、小夜子の額がドア枠に当たってしまうのだ。


「何で、だろ・・・」

流石に幾ら小学生といえど、部屋が小さくなったりしない事はわかる。


「そういや、パパもたまにぶつけてたっけ」

剛一郎は上背がある為、小夜子の部屋に入る際はいつも屈んでいた。


「パパに聞けばいっか♪」

30kgのドア板を右腕で小脇に抱えながら、頭を屈めて部屋を出る。


「えーっと、パパの部屋はぁ・・・」

剛一郎の寝室は、小夜子の寝室から出て左方向。

自室から“身体だけが出た”状態で、左へ方向転換。


ガガッ・・・


「・・・ん?」

寝かせて持っていたドア板は、横幅が180cmになっていて。

人間一人分の長物が、そんなに直ぐに部屋から出る訳もなく。


「あれ?」

右脇に長物を持った状態で左に向けば、どうなるかは自明の理。

ドア板の後ろ半分が、部屋のドア枠に引っ掛かり・・・


・・・バギャッ!!


「・・・あ、折れちゃった」

右腕の上腕二頭筋と広背筋が支点となり、ドア板が真っ二つ。


むしろ、驚くべきは“今の小夜子”自身、だろうか。

2cmもの分厚い木板を、体幹の強さだけでブチ折ってしまったのだ。


「小夜子。こんな朝早くから一体どうし・・・」

普段、誰も起きていない時間帯なのに、激しい物音が数度。

また、泥棒が入ったのかと気になり、剛一郎が起きて来た。


「・・・っ!? “お前”は、一体・・・?」

剛一郎は“半裸の女”を見て、そう呟く。


「あ、パパ」

「パパ・・・?」

自分を『パパ』と呼ぶ声は、普段から聞き慣れたモノ。


「いや、まさか。でも・・・」

それは間違えようもない、愛娘の声。


「お前、小夜子・・・なのか?」

剛一郎の目の前に居るのは、自身と同じぐらいの“大柄な女”。


「え、そうだよ」

何言ってるの、と小夜子は訝しむ。


「・・・・・」

まだ眠っていて、夢でも見ているのか、と。

剛一郎は生まれて初めて、自分の頬を抓(つね)ったのだった。

Comments

okita

更新お疲れ様です。 父も心配になる程の食欲、成長の理由が見えた気がして大変良かったです。 短い時間での目に見える程の成長過程も最高です。 既に途轍もない怪力を発揮していますが今後の展開が楽しみです。

デアカルテ

感想ありがとうございます。 MGガールとは差別化出来ればと思っていますので、ご期待頂ければと思います。