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「健ちゃん、ジムに行ってみたい」

「・・・へ?」

真理奈は突然、そんな事を言い出した。

ジムって所謂、『トレーニングジム』の事・・・だろうか。


「ジョギングは、良いの?」

真理奈は確か、放課後にジョギングをしていた筈。


「あー、うん」

「・・・?」

真理奈にしては、ハッキリしない返事。


どうにも飽きてしまったのか、ジョギングは辞めてしまったらしい。

有り余るパワーの発散、って意味では物足りなかったのかな。


「でも、ジムってお金掛かるんじゃ・・・」

「・・・これ」

真理奈は、鞄からチラシを取り出して見せた。

そこには、『体験入会で一ヶ月無料』の文字が。


「・・・うん、良いよ」

「やったぁ、ありがと」

きっと、一人で行くのが不安だったんだろう。

僕の回答は満点だったようで、真理奈はその場で跳んで喜んだ。


「ちょ、真理奈」

「あ、ごめん」

真理奈は、軽くジャンプしただけで優に『2m』は跳んでしまう。

それだけの力が掛かればスカートは翻り、下着が露わになる。


「た、はは・・・」

幸い、周りに人が居なくて事無きを得たものの。

僕は、間近で真理奈の下着を見てしまう羽目に。


「ま、今のはジムに付き合ってくれるお礼ってことで♪」

真理奈は、そう言って誤魔化した。

花の女子高生の下着を見て嬉しい、なんて思春期的な感想を抱く以前に。


僕の胴体より太い、競輪選手も真っ青な極太の太腿。

下着から伸びる『77cm』という剛脚に、僕は気圧されていたのだ。



次の週末。


「す、っご。これが、『プラチナジム』・・・」

「ほんと、だね」

僕と真理奈は予定を合わせ、二人揃って『プラチナジム』を訪れていた。


学校と反対方向へ電車に揺られ、数駅。

駅近くの一等地にも関わらず、広大な敷地面積を持つ『ジム』がそこに在った。


「へへ、お揃いだね♪」

「あ、うん・・・」

僕も真理奈も、Tシャツに短パン。

特に示し合わせた訳ではないが、ペアルックみたいになってしまった。


だから・・・いや、だからこそ、か。

僕と真理奈の体格の違いが、否が応でもハッキリとしてしまう。


   真理奈 健太

身長:177cm 167cm

体重:151kg  50kg


僕はMサイズのTシャツなのに対し、真理奈は『5XL』の特大Tシャツ。

身長にして10cm、体重は何と100kgもの差。


「・・・・・」

僕はつい、自分と真理奈の腕を見比べてしまう。


リラックスしてダランと伸ばした状態でも、袖をパツパツに張り詰める上腕二頭筋。

僕の細腕と比べると、42cmもの二の腕はまるで大木のようだ。


「それ、腕曲げられるの?」

確か、真理奈の力瘤は最大で60cm近かった筈。


「力を入れなきゃ、大丈夫かな・・・はは」

僕の指摘で気付いたのか、真理奈は袖を捲って肩口までたくし上げた。

女子高生が、力瘤で袖を引き裂く心配をすること自体、異様なんだけど。


「うわぁ。あれ、何だろう」

そんな僕の心配をよそに、真理奈は何処かテンションが高めだった。


「まあ、仕方ないかな・・・」

これは、僕の勝手な想像だけど。


本当の原因は一先ず置いておくとしても、ここ数年の真理奈の成長は異常だ。

単純に筋肉が付いた、というレベルでは無く。筋力も人間離れしつつ、ある。


大きめのサイズの衣服で誤魔化してはいるが明らかに、既に大人顔負け。

だけど、ここ『プラチナジム』においては、その真理奈が目立たない。


「すごーい。みんな、大っきい」

上背も、体格も。真理奈以上の人たちが何人も居るのだ。

流石は、超大手のトレーニングジムと言った所か。


「初めまして。インストラクターの『保志玲子』と申します」

「どうも、こんにち・・・」

極め付けは、そう名乗ったインストラクターだった。


身に着けているのはタンクトップに短パンと、リストバンドぐらい。

ナチュラルな黒髪をポニーテールに纏めた、スポーティな美女。


「・・・っ!?」

「私より、大きい・・・」

真理奈より“大きい女性”を、僕は初めて見たかも知れない。


「良く言われるんですよ。身長は181cmなんで、それ程でも無いと思うんですが」

そう言って、保志さんは苦笑した。


身長差だけで言えば、ホンの4cmほど。だけど、身体の厚みが、違った。

肩幅も、腕も、脚も。まるで、真理奈の“上位互換”。


「先に言っておきますと・・・体重はヒ・ミ・ツです♪」

「は、はぁ・・・」

先手を打たれてしまった。


150kg超の真理奈より逞しい、女性。つい、体重は如何ほどかと思ってしまった。

冷静に考えれば、女性に体重を聞くなんて失礼千万なのに、だ。


「えぇと、『紅世さん』で良かったですか?」

「あ、はい」

当たり前だけど、僕も真理奈も事前に登録を済ませてあるので、名前は伝達済。


「貴女も、相当鍛えていると思いますが・・・」

まあ、そう思うのも無理はない。

筋トレどころか、体育授業以外での運動経験が皆無とは思えない、真理奈の筋肉ボディ。


「それが、その・・・」

僕は、真理奈の事を掻い摘んで説明した。勿論、【腕輪】の事とかは話していない。

過去に大怪我をして、それから・・・みたいな、曖昧な説明に留めた。


「・・・えぇ!? それは、本当ですか?」

目の前に立つ保志さんは、筋肉隆々で非常に逞しい。

しかし、それは血の滲むような筋力トレーニングの結果、成果だろう。


「やっぱり、変・・・なんでしょうか?」

真理奈が不安からか、恐る恐る聞いた。


「う~ん。私は医者ではないので、大したことは言えないのですが・・・」

そう前置きした上で、過去にジム会員だった人の体験談を話してくれた。


子供の頃に山で遭難して、数日だけだが飢餓状態を経験した人が居て。

それまで食が細く痩せていたのが、急に肥満レベルまで太ってしまったという。


「人間の身体って、まだまだ解明されていないことも多いので」

実際、筋肉の付き易い体質の人は居るらしい。

ただ、真理奈レベルの筋量にまでなる人が他に居るかどうかは別、だけど・・・。


「となりますと、今日はどういったメニューにしましょうか」

トレーニングジムに来た以上、やることは決まっている筈・・・なんだけど。

真理奈は、筋肉を付けたい訳でも、痩せたい訳でもない。


「それなんですが・・・」

真理奈にとっては、筋トレも有酸素運動も必要ない。

必要なのは、有り余るパワーの発散方法。


「・・・なるほど。まあ、そういう人が居ない訳でもないので」

実際、ストレス解消で筋トレやエアロビをやる人は居るらしい。

真理奈もその類と考えれば、そんなに変でもない・・・かな?


「では、こちらへ」

保志さんに、大量のダンベルが並ぶラックの在るスペースに案内された。


「貴女の筋量なら・・・そうですね、この中に持てそうなのはありますか?」

「え、っと。じゃあ・・・」

真理奈は迷わず、一番大きなサイズのダンベルを手に取った。


ヒョイ。


「うわぁ、と・・・っと」

「ちょ、真理奈」

真理奈は、手に取ったダンベルを上方向にブン投げそうになる。


「だ、大丈夫ですか?」

「す、すみません」

真理奈は一先ず、ダンベルをラックに戻そうと、手を開く。


「・・・あ」

ダンベルのシャフトが、グニャリと細く握り潰されていた。


「っ!? ・・・貴女、握力はどのぐらいあるんですか?」

「に、にひゃく・・・ぐらい、です」

真理奈は、そう口籠った。


握力計で測った時は『200kg』でカンストだったので、あながち嘘とも言えない。

尤も、【腕輪】の計測値では『289kg』なので、実に90kg近く鯖読んでることになる。


「・・・なるほど。『50』じゃ、ダメですね」

『50』とは勿論、『50kg』の事だろう。


真理奈にとって『50kg』程度のダンベルは、余りに軽過ぎて放り投げそうになり。

つい、力を入れてしまい、鉄製のシャフトを握り潰してしまった訳だ。


「“あちら”に行きましょうか」

保志さんは神妙な面持ちで、奥にある部屋を指差した。


「本来は、ハイクラス専用の部屋なんですが」

今日は使用者が居ないのか、部屋の中は無人だった。


『プラチナジム』は、経験者を細かくランク分けしているそうで。

入会年数や、ウェイトの使用実績・・・等々。細かい条件などは、説明を省くが。

初心者とヘビーユーザーが、使用する器具でバッティングしない為の配慮らしい。


「握力がそれだと・・・。本当に、筋トレの経験は無いんですよね?」

「は、はい」

握力と腕力は、必ずしも比例する訳ではない。


バーベルは『50kg』しか挙がらないのに、握力は『80kg』ある・・・なんて人も居るだろう。

握力は前腕筋群、腕力は上腕二頭筋と三頭筋。それぞれ、作用する筋肉は異なる。


・・・とは言え。


徳利のように急激に太くなる前腕より更に、倍以上も厚みのある真理奈の上腕。

そこから生み出される腕力が、『50kg』で済む筈がないのは自明の理。


「“これ”、持てそうですか?」

左右のウェイトプレートを合わせれば、バイクのタイヤぐらいありそうな。

ラックに置かれたバーベルを指して、保志さんは真理奈に問い掛けた。


「あ、はい」

「・・・あ、それ。片・・・」

真理奈は軽く返事をすると、スッと事も無げに持ち上げた。


「・・・手じゃ」

「え、ダメでした?」

どうにも、保志さん的には両手で挙げることを想定したバーベルだったらしい。

因みに、『25kg』のウェイトが左右に二枚ずつなので、計『100kg』。


「紅世さん。重く、ないですか?」

「はい、大丈夫です」

僕では1ミリも挙げられないような大きなバーベルが、何度も上下する。

経験豊富なトレーニーでも、『100kg』を片手でカールさせる事が出来るのは一握り。


「怪我・・・とか以前の問題ね」

保志さんは、独り言のように呟いた。

どうにも最初、片手で持った事を咎めようとしたらしい。


只でさえ、女子高生の初心者なのだ。万が一の怪我があっては不味い。

実際、トレーニング中の事故で亡くなる人も居るのだ。


「確認なんですが、限界重量を極めるつもりはないんですよね?」

「あ、はい。筋力の発散が出来れば、それで」

このまま行けば、ジムで用意出来る最大重量では足りない。

僕には、そう言っているように聞こえた。


「次は“これ”を、“こんな感じ”で両手で持ってみて下さい」

保志さんはバーベルにウェイトを継ぎ足し、先ずは自分で持って見せた。

両手で逆手に持ったバーベルが、リズミカルに上下する。


「わかりました」

真理奈は、保志さんに指定された通り、逆手にした両手をバーベルに差し込み。

先程と同じように、事も無げにスッと持ち上げてしまった。


「じゃあ、私の合図に合わせて上下させてみましょう。イチ、ニ。イチ、ニ」

「イチ・・・ニ。イチ、ニ」

これが、俗に言う『バーベルカール』らしい。

主に、上腕二頭筋に負荷を掛けるトレーニング運動。


「どう、ですか?」

「ずっと、やってられそうです」

裏を返せば、負荷にならないぐらい軽い、ということだろう。


「これ、何キロなんですか?」

「『200kg』ですね」

に、にひゃく!? 僕は内心、そう叫んだ。

ウェイトプレートを大きい物に差し替えたとは思ったが、良く見ると『50』と刻印されている。


50kg×4枚=『200kg』

※バーベルシャフトは含めず。


という、至極単純な計算。


「本当はダメなんですが・・・。片手でも、やれそうですか?」

「はい。全然、大丈夫ですっ」

内心、物足りないと思っていたのか。

片手でゴーサインが出ると、真理奈が満面の笑みを浮かべた。


「じゃ、あ」

一度、ラックに戻した『200kg』の高重量バーベルを、改めて右手一本で握り直す。


「・・・ん、っと」

両サイドにタイヤのようなウェイトが載ったバーベルが、女子高生の片手でスッと持ち上がる。


「イチ、ニ。イチ、ニ。良い感じ・・・かも」

「それって、どういう・・・」

真理奈は慣れて来たのか、一定のリズムで何度も、何度もバーベルを上下させる。


「これなら、一時間ぐらいやれそう」

「い、一時間!?」

軽くない程度の負荷は感じるが、限界重量には程遠い。そんな感じ、なんだろうか。


「紅世さん。貴女、本当に凄いですね・・・」

保志さんは、心底驚いているようだった。

僕なんかは、言うに及ばず。


結局、最終的に。


真理奈は、片手カールで『300kg』を挙げ。

両手カールでは何と、『400kg』を挙げた。


繰り返すが、あくまで『バーベルカール』での運動、である。

いわゆる、重量挙げやベンチプレスで限界重量に挑戦した訳では、ない。


真理奈が初心者であることや万が一の事故の考慮して、青天井にはしなかった。

【腕輪】の計測値『457kg』が現実味を帯びて来た事は、考えないようにした。


「では、またのお越しをお待ちしていますね」

「はい」「今日は、ありがとうございました」

体験入会の初日は、いきなりハイクラス専用ルームだったものの。

真理奈が満足出来たようで、何よりだった。



帰り道。


「健ちゃん、見て見て」

真理奈は初めての筋トレが楽しかったのか、これ見よがしに右腕を折り曲げた。


モゴゴォッ。


「ちょ、真理奈。それ、やっちゃったら・・・」

ハンドボール並の特大の力瘤が、丸まった状態の肩口の袖の生地を圧迫し・・・


・・・ピリッ、ビリリィッ!


「・・・あ」

「あ、~あ・・・。お気に入りのTシャツが・・・」

肥大化した上腕二頭筋が、Tシャツの袖を纏めて引き裂いてしまった。


「・・・でも」

「ん?」

パンプアップしたせいか、恐らくは『60cm』オーバーとなった、巨大な力瘤。


「そういや、あの人。どれだけ力あるのか、ちょっと気になっちゃった」

その力瘤を撫でながら、真理奈は思い返していた。


「そういえば・・・そう、だね」

実は、僕も気になっていた。


経験者でも容易に挙げられないような、高重量を何度もセットしていたのに。

保志さんは、全く疲れた様子が無かった。


実際に、身長以外のサイズを聞いた訳では無いので、想像だけど。

恐らく、今の真理奈よりも力瘤は大きく、太腿も太かった。


「世の中、上には上が居るんだね」

「そう、かも」

僕は、真理奈が決して特別ではないのでは、なんて思っていた。


それが、大きな思い違いなのは、後から気付くんだけど。

今、そう思ってしまうのは、無理からぬ事だった。


“比較対象”が、余りにも悪過ぎたのだ。



―――。


外は暗くなり、『プラチナジム』の営業は終了。

『締め』作業が終わり、従業員も居なくなったジム。その、奥の一室。


「ふっ、ふっ」

という、呼吸音と。

ギィッギィッ、という器具の軋む音だけが、部屋中に響いていた。


「あの子、本当に凄かったわね」

誰も居ない、暗がりのハイクラス専用ルームで。

一人の女性が、バーベルをカールしていた。


「久々に、限界まで追い込みたくなっちゃったじゃない」

大型トラックのタイヤと見紛うような、超特大のバーベルが上下している。


『50kg』と刻印されたウェイトプレートが、“片側だけ”で何枚も重なっている。

両側合わせて、何百キロあるのか想像も付かないような、超重量のバーベル。


「ふっ、ふっ」

全身の筋肉がこれでもかと盛り上がった、大柄の美女が。

その超重量バーベルを、“片手”で挙げ下げしていた。


「・・・あの子、ひょっとして」

真理奈の倍はあろうかという、超々特大の力瘤がモリモリモリッと盛り上がる。


「いえ、まだ判断するには早いわね」

女は今、考えても結論が出ない事は考えるだけ無駄、と判断。

そう独り言ちながら、“もう一本”の超重量バーベルも、器用に挙げ下げしていた。


右手で上下させている超重量バーベルにぶつけないように。

同じウェイトセットの超重量バーベルを、左手でも挙げ下げ。


「ふっ、ふっ」

今日は、折角貰った良い刺激を活かしたい、と。

深夜遅くまで、超重量ダブルバーベルカールで自身を追い込むのだった。

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