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「よぉ、待ってたぜ」

サーラは、魔法学校を出た辺りでジョルジュに呼び止められた。


「何度も何度も、この俺様の顔を張ってくれやがって」

教師が止めに入るまでの間、ジョルジュはサーラに平手打ちを喰らい続け。

倍・・・では済まない程に、顔全体をパンパンに張らせた。


「回復するのに時間が掛かったぜ」

【治癒魔法】も万能ではなく、元通りになるには時間を要する。


「それで、何の用でしょうか」

「ちょっとばかり、来て貰おうか」

端から見れば、ジョルジュが取り巻きを伴って、サーラ一人を詰めているように見える。


陽が暮れ掛けているとはいえ、生徒が全く居ない訳ではない。

しかし、ジョルジュの取り巻きが睨みを効かせると、他の生徒たちはそそくさと通り過ぎて行った。


「・・・わかりました」

サーラは、“諦めた”と言わんばかりに溜息を付くと、素直にジョルジュに従った。


「ここなら、邪魔は入らねぇ」

サーラが連れて来られたのは、廃墟となった砦跡だった。


「おい、お前ら」

「はい」「へへっ」

十人近い取り巻きたちが、サーラの周りを取り囲む。


「この俺をコケにしやがって。代償は払って貰う」

言う迄もなく、ジョルジュは『模擬戦』での顛末を根に持っていた。


学校内で一番、実力も権力も持っている筈の自分が。

タカがイチ女生徒に、平手打ちでボコボコにされたのだ。


「一方的に嬲ってやる。身体も、心もな」

とても、魔法学校の生徒とは思えない。街のゴロツキのような台詞。


自分を袖にしただけでなく、衆人環視の中で恥を掻かされた。

体裁など取り繕う余裕もない程に、ジョルジュは頭に来ていた。


「・・・代償。そうですか・・・ふふ」

「何が、おかしい」

そんな危機的状況において、サーラはジョルジュを前にして笑みを浮かべていた。


「いえ。ここなら、“手加減”が必要ないと思って」

サーラは、周囲を見渡す。


廃墟とはいえ、他国との戦争中は拠点防衛の要衝だった砦。

建物や壁は当時のまま残っており、砦の外と内を完全に隔絶していた。


「手加減・・・だと?」

「学校では先生の邪魔が入りましたが、ここならその心配がありません」

サーラは、自分を取り囲むジョルジュや取り巻きたちを見回しながら、言い放った。

確かに、魔法使いであれば、一対多は必ずしも不利とはならない。


「一つだけ、謝っておきます。“勝負”の時、本当は魔法を使っていました」

「何、だと」

「い、いや。そんな筈は」

取り巻きたちも同じ場に居たが、確かに【強化無効】の魔法を掛けていた。

攻撃魔法は使っていなかったので、あの時のサーラは無手だった筈だ。


「【強化魔法】なんて、使っていません。私が使っていたのは、【弱体化魔法】」

何と、サーラは衆人環視の中、制服を脱ぎ始めた。


「ヒュー、ヒュー。酒場のショーでも見せてくれるのかい」

遠い位置に居る取り巻きは、突然始まった“ショー”に沸き立っていた。


「・・・ふぅ」

ホンの数十秒で、サーラは肌着だけの状態になった。


「お前、何のつもりだ」

ジョルジュは、サーラの異様な空気を感じ取り、とても囃(はや)す気分にはなれない。


胸回りは、豊満な乳房が大きな谷間を作り、布地を前方に押し上げ。

腰回りは、丸く突き出すお尻の膨らみで、布地がはち切れそうだった。


しかし、女性らしい部分は胸の膨らみと縊れた腰、大きなお尻ぐらいで。

肩や二の腕はドンッと筋肉の隆起で盛り上がり、細い腰のお腹には六分割された腹筋が載っていた。


「・・・っ」

ジョルジュ自身、魔法使いに似つかわしくない大柄な体格の自覚がある。

だが、そんな自分が勝っているのは、背丈ぐらいなのは明白だった。


「解呪」

サーラは小さく、そう呟いた。

すると、暗いオーラのようなモノがサーラの身体の周囲を覆い始め・・・。


ビクンッ。


「・・・んぅっ」

普段、感情を露わにしないサーラが、呻き声を上げた。


グッ、ググ・・・


「ん、ぁ・・・っん」

「お、何だ? 何が始ま・・・」

サーラから漏れる嬌声にも似た声に、周囲は本当に“ショー”が始まったかと思いきや。


モリ、モリ・・・モコッ。


「お、おい・・・」

「これ、何がどうなって・・・」

魔法が当然として有る世界においても、目の前のサーラに起きていることは異様だった。


「ん、ぅ・・・ああぁっ!」

ググググ・・・モリッ、モゴゴォッ!


「・・・ふぅ」

サーラは一息つくかのように、深呼吸。


「何だよ、“その身体”は・・・」

サーラは、“大きく”なっていた。


豊満だった乳房は、片方だけでスイカと見紛うような大きさにまでなり。

二の腕は逞しいを通り越し、人間の頭ほどもある力瘤が盛り上がり。

筋肉の筋で谷間が出来た極太の太腿は、片脚分だけで取り巻きたちの胴体ほどもあった。


「ふふ。どう、かしら?」

サーラは、ファサッと自慢の金髪を手で梳いて後ろに流した。


「どう・・・って、何でそんなにデカいんだよ!?」

大柄なジョルジュ自身と比べて、サーラは頭二つは背が高くなっていたのだ。


前述した通り。只、大きくなっただけではなく。

全身のありとあらゆる箇所が、見たこともないような筋肉で盛り上がっている。


「何で、って。先輩たちに、そう教わったからよ」

「そんな話・・・」

サーラが語った先輩たちの言い付けなんて、只のやっかみの産物でしかない。

普通に考えれば、わかること。


「それにしたって、何でそこまで・・・」

その女先輩にしたって、『体力を付けろ』とかそんな程度だろう。

精々、運動場を走ったり、重い石を持ち上げたり。


「だって、魔法は“手段”でしょう?」

サーラは、“そんな程度”では物足りなくなっていて。

いつしか、魔法を用いて身体に負荷を掛け、常人の何倍もの鍛錬を積んだ。


「私、【回復魔法】も得意なの」

常軌を逸した過負荷はサーラの身体を何度も壊した。

しかし、その度にサーラは自身を鞭打つように、【回復魔法】で回復したのだ。


「狂ってる・・・」

被虐属性も良いところ、だ。

何処まで自分を虐め抜けば、ここまでの身体になるのだろうか。


「付き合ってられるか。お前ら、やっちまえ」

「お、おうっ」

幾ら、筋肉隆々の巨女とはいえ、十数人で取り囲んでいるのだ。

その誰もが、魔法学校の優秀な生徒たち。


「喰らえっ」

「これで、どうだっ」

【火球魔法】に、【氷柱魔法】。更には、【電撃魔法】・・・等々。

多種多様な攻撃魔法が、サーラに襲い掛かった。


ドドドドドドドォンッ!!


「お、おい。死んじまったんじゃ・・・」

「けっ、構わねぇ。もしそうなったとしても、事故で処理してやる」

ジョルジュは、やり過ぎたとビビる取り巻きに、得意気に答えた。


「もう、終わり?」

攻撃魔法が巻き起こした土煙の中から、そのままの姿のサーラが現れる。

いや、正確には胸と腰の肌着がボロボロになり、今にも秘所が見えてしまいそうだ。


「何で、ピンピンして・・・」

「もう、“その件(くだり)”は良いから」

サーラにとっては、三下の魔法など効く筈もなく。

毎回、そんな程度で驚かれても困る、といった風情だ。


「さて、どうしようかしら・・・」

「ひぃっ、何を・・・」

思案顔のまま、サーラは一番近くに居た取り巻きの腕を掴むと。


ボギィッ。


「うぎゃあぁっ!」

サーラが軽く右手首を返すだけで、男の腕は真っ二つに折れてしまった。


「くそっ、くそっ」

次に近くに居た男が、サーラを近付かせまいと、【石礫魔法】を連発していた。

文字通り、小石から拳大の石まで、その場の石を集め、まとめて飛ばす魔法。


「何で、効かないんだよっ」

ビスッ、やガンッと言った、確かに人体を直撃した着弾音がしている。

だが、サーラの筋肉ボディは、拳大の石が高速で当たっても、ビクともしなかった。


「“こっち”の方が、強いんじゃないかしら?」

サーラは右拳を握ると、男目掛けて打ち放った。


「ひぃっ・・・」

男は両腕を交差させて、十字の状態でサーラの右パンチを受け・・・


ボキボキボキッ!


「うぎゃあっ!」

・・・止められる筈もなく、男の両腕を圧し折りながら、胴体を吹っ飛ばした。


「うごぁっ!」

蹴りを放てば、一発で男の両脚は二つに折れ。


「うばぼあっ」

ビンタを放てば、頬骨を砕きながら、顎が外れ。


「うぎゃあ」

「やめ・・・うがぁっ」

まさしく、一撃一倒だった。


「こんの、アマァッ」

最後に残ったジョルジュが、半狂乱になりながら殴り掛かる。


「魔法学校の先輩ともあろう人が、殴り掛かるなんて・・・」

「ひぃっ!? は、放せ・・・」

自分の右拳を覆い隠す程の、サーラの巨大な左手。

空いた左手で指を剥がそうとするも、微動だにしない。


「情けないわね」

ボグシャッ、と一気に握り潰した。


「う、ぎゃあぁぁっ」

ジョルジュの右拳は、三分の一以下にまで圧縮されていた。


「さて、っと・・・」

サーラは、おもむろにジョルジュに【回復魔法】を掛けた。


「な、何を・・・っ!?」

パァッと光が包み込み、完全にグシャグシャだった右手が、完全に元通りになっていた。


「何の、つもりだ」

「私、【回復魔法】が得意なの」

それは確か、先ほど聞いたセリフ。


「そう言えば、握手してなかったと思って」

「あん? 握手だと? 何でそんなこと・・・うぎぃ!?」

サーラは、その怪力で強引にジョルジュの手を開かせると右手で握手を組み合した。


「だって、騎士の決闘で握手ってするものなんでしょ?」

「何言って。そりゃ、手袋を・・・うぎぃやぁっ!?」

メキメキ、メキメキメキッ!


「ち、千切れ・・・っ! や、やめ」

「~~っ♪」

ジョルジュの右手の四本の指が、サーラの巨大な右手で徐々に圧縮されて行く。


ブチッ、ブチブチィッ!


「う、っぎゃああぁっ!!」

「あ、取れちゃった」

ジョルジュの親指以外の指が根本から千切れ、手から離れてしまう。


「あぁんっ、良い声♪ 何だろ、癖になりそう・・・」

再び、ジョルジュの手元をパァッと光が包み込む。


「はぁ、はぁっ・・・あ、あれ?」

確かに千切れた筈の右手が、数瞬で元通りになっていた。


「じゃあ、もう一回」

「な!? おい、やめ・・・うぎゃぁっ!!」

ギリギリ、メギョ・・・メキメキメキッ!


今度は親指ごと手の平が一本の肉棒になるかのように、縦に握り潰した。


「はぁ、はぁっ・・・お、おい。何して・・・」

ジョルジュの手元が再び、パァッと光が包み込み。


「次は、“こんなの”はどうかしら?」

ジョルジュが五体満足に戻った事を確認した後。

今度は、ジョルジュの胸元に左手を添えると。


「お、おい! そりゃ、死んじまうって・・・い、いや、やめ」

「えい♪」

ボキボキボキボキボキッ!!


サーラは、ジョルジュの胸に這わせた指で肋骨の感触を確かめると。

そのまま、その肋骨を掴み上げるように一気に砕き折った。


「うぎゃあぁぁっ・・・はぁ、はぁっ!?」

痛みで気が狂いそうになる瞬間。

またしても、【回復魔法】の光で現実に引き戻された。


「だから、言ったでしょう? 私、【回復魔法】が得意なの」

「おい、嘘だろ。や、やめ・・・」

それから“数時間”もの間、砦に男たちの絶叫が響き渡った。


「私としては、今日のことは他言しないで欲しいんだけれど」

「・・・・・」

ジョルジュは、答えない。


「おーい」

サーラが呼び掛けるも、反応はない。


「やり過ぎてしまった、かしら?」

ジョルジュ以下、十人近い男たちは皆、五体満足だった。

身体の何処にも怪我はなく、傷一つ負っていない。


しかし、サーラの呼び掛けに答える者も、また居なかった。

皆、視線が定まらず、口からは涎が垂れ流れている。


「“気付け”の魔法でも、覚えておけば良かったかしら」

そう言いながら、夜の帳の下りた砦を後にしたのだった。

Comments

(°Д°)

回復させながら怪力で潰していくの最高です!

デアカルテ

感想、ありがとうございます。 回復&破壊の合わせ技は以前から書きたかったネタでした。また、何処かで書いてみたいです。