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「健ちゃん、来たよー」

「おー、入って」

お互い帰宅した後。着替えを済ませて、再集合。

僕の部屋で、反省会ならぬ『確認会』。


「それ、縮んだ?」

「えー。これ、『Lサイズ』だよ?」

真理奈は、いつものTシャツと短パン。


『Lサイズ』は勿論、大人サイズでの『L』。

本来、中学生の僕たちが着ればブカブカになる筈なんだけど・・・。


「じゃあ、やっぱり・・・」

間違いなく、真理奈の身体は大きく、逞しくなっていた。


『Lサイズ』のTシャツは真理奈の上半身に張り付き、ピッチピチになっている。

まるで、ボディスーツでも着ているかのよう。


「いつの間に、そんなに筋肉付いたの?」

「えー。そんなに、かなぁ」

この期に及んで、真理奈自身に自覚がないらしい。


「じゃあ、“こう”してみて」

「こう?」

真理奈は、僕を真似て肩の高さで右腕を折り曲げる。


モリィッ


と、砲丸かと見紛うような大きな力瘤が盛り上がる。

Tシャツの袖が、窮屈そうにミチチッと音を立てている。


「そういや、クラスメイトから『太くなった?』って聞かれたかも」

一般的に、二の腕は35cmを超えると『太い』と思われるらしい。

言い換えれば、『逞しい』という印象を周囲が持つ、ということ。


「試しに、測ってみても良い?」

「良いよ。今日は、“その為”に来たんだし」

真理奈の腕周りは何と、39cmもあった。


因みに、腕を伸ばした状態を、伸展囲。

腕を曲げた状態を、屈曲囲と言うらしい。


【上腕屈曲囲】なんて書くと長ったらしいので、力瘤囲。

【上腕伸展囲】は普通に、上腕囲で良いとは思う。


    健太 真理奈

上腕 19cm 32cm

力瘤 24cm 39cm


自己弁護する訳ではないが、僕はこれでも一般的な中学生の体型だ。

そんな僕より、15cmも太い二の腕。


「もっかい聞くけど。ホントに、僕が測って良いの?」

今日の本題。身体測定で項目に無かった部分の、測定。


「健ちゃんなら、良いよ」

僕は、『巻尺』を持って、真理奈に正対した。


「・・・っ」

おっぱいの形がそのまま浮き上がるTシャツ。


「・・・ん」

その“胸周り”に、僕は『巻尺』を這わせる。


「・・・98」

ニア、1m。


女子中学生の胸周り、トップバストが『98cm』。

昨今、コンプライアンスが叫ばれたせいか、胸囲の測定は無くなった。


そのお陰か、クラスメイトたちは真理奈のバストサイズを知ることは無く。

こうやって幼馴染の僕が、布越しとはいえ、おっぱいに触れながら採寸するという『プレイ』。


「アンダーは、78」

ってことは、ひぃふぅみぃ・・・『Eカップ』!?

確か、一年前は『Dカップ』だった筈じゃ・・・。


「ウェストも、良いの?」

「うん。測って、測って。最近、ゴツゴツしちゃって気になってたの」

真理奈は、風呂上がりとかに鏡は見ないタイプなんだろうか。


1m近い胸周りのせいか、Tシャツは丈が足りず、お腹が露わになっている。

『Eカップ』バストの陰になっているものの、ボコボコと浮き上がる腹筋。


「・・・64」

キュッと縊れているのに意外とサイズ感のあるウェスト。

それは間違いなく、腹筋の隆起によるものだろう。


「お尻と太腿も、やっちゃうよ?」

「うん、お願いー」

これから『お尻と脚を触ります』という宣言に対し、余りにも軽い返事だった。


「・・・96。こっちは、62・・・っと」

興奮、緊張を経て。幼馴染の身体に一喜一憂するのは申し訳ないと思うようになり。

僕は半ば無意識に、機械的にヒップと太腿を測った。


「太腿が・・・62!?」

『巻尺』からメモに移る段階で、僕はハッと我に返った。

因みに、比較になるかと思って測った僕のウェストが、66cmだった。


「僕のウェストと、ほぼ同じ・・・」

競輪選手やスピードスケート選手を思い起こさせるような、極太の太腿。


「こんなもん、かな・・・」

「じゃあ、後は書き込んじゃうね」

メモ用紙の空いた欄に、真理奈は今日の測定結果を書き入れた。



「え、え・・・え?」

「ん、どしたの」

いや、いや。ツッコミ所が多過ぎて、何処から突っ込めば良いやら・・・。


身長や各部位の数値は確かに、驚異的・・・ではあるんだけど。

それはそれとしても、体重が98kgって・・・。

プロ格闘家並み、どころか。身長を考えれば、それ以上の身体の詰まり方。


この体重にも関わらず、垂直跳びで1mを跳び、50m走で6秒台。


「この握力の“超”って、何?」

「えーと、先生がそう書いてたから・・・」

真理奈にしては珍しく、言葉を濁した。


「あ、そういうことか」

とどのつまり、『測定不能』ということだ。


ウチの中学生は、しがない公立校。なので、備品も最小限のモノしか無い。

握力計も昔ながらのアナログ式で、最大値が『100kg』までのモノなのだ。


「握力はまあ、ねぇ・・・」

「ん、どうしたの?」

何か、思い当たる節でもあったのだろうか。


「“これ”、良い?」

そう言って、真理奈が手に取ったのは何処にでもある、リンゴ。


「・・・ん」

グシャ。


「・・・え」

疑問に思うより先に、驚愕が来た。

真理奈に“握られたリンゴ”は、一瞬で手の中に納まってしまったのだ。


砕くとか、握り潰すとかのレベルではなく。

手の中に圧縮して押し込めてしまった。


「う、っそ・・・」

そこにリンゴがあったのは、確かに間違いない。

現に、真理奈の手からポタポタと果汁が垂れていた。


「いや、でも・・・」

僕は、去年の“とある体験”を思い出していた。

『擽(くすぐ)り地獄』事件。僕が脳内でそう呼んでるだけなんだけど。


「どしたの?」

「いや、何でも・・・」

このように、真理奈自身は全く身に覚えのない事件。

中学一年生女子が危うく、握力だけで同級生男子の上半身を破壊し掛けた事件。


その時でも凄かったんだ。今なら、納得出来てしまう。


「健ちゃんは、どうだったの?」

「僕は・・・」

ものの見事に、中学生の平均値辺りをウロウロ。

身長体重だけでなく、腕力も脚力も特筆するような点は無く。


身長:162cm、体重:47kg。

握力:35kg、ハンドボール投げ:21m。

50m走:7秒82、垂直跳び:49cm。


僕と比べて身長差はたったの8cmなのに、体重差は実に51kg。

目の前の幼馴染の女子は、僕二人分より重いってことになる。


「・・・・・」

改めて、圧倒的な差を感じるのは。


50mを、6秒台で駆け抜け。

ハンドボールを、55mもの遠くまで投げ飛ばした身体能力。


走り方は、女の子走り。

投げ方は、砲丸投げ。


まだ、身体の使い方に慣れていない、十代前半。

そんな女子らしい所作から齎された記録が校内一どころか、下手をすれば中学記録レベル。


握力測定に至っては、まさかの測定不能。

この、全てに共通するのは。


身体的なポテンシャルを全て発揮していない、ということだ。



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