筋肉の楽園02「S:セイラ」 (Pixiv Fanbox)
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「凄いです。往年の『メ●ッサ・コーツ』を思い浮かべました」
かつて活躍した、有名ボディビルダーだ。勿論、女子。
パッと見、普通の、何の変哲もない腕なのに。
ちょっと曲げただけで、二の腕にモコッと大きな力瘤が盛り上がる。
ウェーブの掛かった金髪ロングヘアの美貌と、突然飛び出る大きな筋肉のギャップ。
「ああ、すみません。わからないですよね」
「大丈夫、知ってますよ。だって、“ここ”は“そういうお店”・・・ですから♪」
他のキャストたちも皆、背の大小、筋肉量の多少はあれど。
全員が全員、例外なく。筋肉ボディを惜しげもなく晒せるような服装をしている。
【S:セイラ】さんのメイド風ドレスは、ノースリーブで肩口が露出していて。
胸元もパックリと開いていて、胸の谷間が強調される作り。
「そんな、有名ビルダーさんに例えて頂けるなんて・・・」
【S:セイラ】さんは、お酒を作る手を止める。
「私、嬉しい♪」
俺の目の前で、両腕に力瘤を盛り上げてくれた。
「身長は、幾つなんですか?」
「私、ですか? 165cmです」
身長は、俺と全く同じ数値だった。
中肉中背の俺と違い、女性らしい均整の取れた体型。
ボンキュッボンまで行かなくとも、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。
露出している腕や、スカートから覗く脚は、特に“筋”のようなものは目立たない。
しかし一度、身体を動かすと、途端にモゴォッと大きな筋肉が起き上がるのだ。
「あははっ。【M:ミイナ】ちゃん、凄いね」
「でしょう」
テーブルを挟んだ正面の席で、先輩と別のキャストが談笑している。
「あー! 私が隣に居るのに、【M:ミイナ】を見ちゃうんだ・・・」
プーッと頬を膨らましながら、おもむろにグラスの上で林檎を手に取り・・・。
「こっち見てくれないと、“こう”しちゃうよ?」
グシャッ!
「うぇっ!?」
ジョボボボッと、一瞬で潰された林檎から果汁が滴り落ちる。
「そりゃ、私は【M:ミイナ】と比べると細いけど・・・」
先輩に付いているキャストは、名札に【M:ミイナ】と書かれていた。
OL風スーツドレス、とでも言うのだろうか。襟が付いていて、肩口も半袖になっている。
その半袖から覗くのは、伸ばした状態でもそれとわかる、力瘤。
身体全体のボリュームで言うと、【M:ミイナ】の方が凄かった。
「お客さんって、やっぱりバルキーなのが好みなの?」
「いや、【S:セイラ】さんみたいな細マッチョも好きだよ」
「あー! “細マッチョも”、って言った。“も”って」
「あ、はは。ごめん、ごめん」
ダメ、だ。ちゃんと謝らないと、グラスが“林檎果汁だけ”で一杯になってしまう。
「でも、握力凄いんだね」
「うん。このぐらい出来ないと、“ウチの店”じゃやって行けないし」
特に力を入れたように見えなかったのに、事も無げに林檎を握り潰した。
握手したら、俺の手ぐらい簡単に潰されそう・・・。
「力瘤も凄いし」
「測ってみる? ホントはダメなんだけど・・・」
そう言って、【S:セイラ】さんは胸の谷間から『巻尺』を取り出した。
『M倶楽部』のルールとして。
『キャスト』の【情報】は、会員としてポイントを貯めないと知ることは出来ないのだ。
※『キャスト』自身のプライベートは原則、厳禁。
【ポイント表】
01pt:力瘤サイズ、太腿サイズ
02pt:握力
03pt:体重、体脂肪率
05pt:スリーサイズ
10pt:キャスト指名権
・・・・・
「お客さん。話面白いし、特別だよ?」
「あ、ありがとう」
何たる、僥倖。
筋肉女子たちが、こんなに何人も居る空間があって。
不意とはいえ、目の前で力瘤や怪力技を披露してくれて。
更に、『採寸プレイ』までさせてくれるなんて・・・。
「・・・っ。じゃ、行きます」
俺は、巻尺を手に取り、ビッと目盛りを引っ張り出す。
最大値が1mの小型タイプの巻尺。
「何だろう、これ・・・」
「ちょっと! 匂い、嗅いじゃダメだからね」
直前まで谷間の柔肉に仕舞われていたせいか、良い香りがする・・・。
「こんなもん、かな」
チキチキッと微調整して『30cm』に合わせて引き出した巻尺が、ピッタリ。
「・・・ふふっ♪」
「・・・?」
【S:セイラ】さんは悪戯な笑みを浮かべている。
「んぅっ!」
モゴォッと、一瞬で【S:セイラ】さんの力瘤が二回りは大きくなった。
「うえぇっ!?」
パァンッと、余りの衝撃に俺は巻尺を弾き飛ばされた。
「どう? 私の本気の力瘤は?」
「凄っ・・・」
“細マッチョ”なんて、トンデモない!
「・・・36cm」
俺と同じ、身長165cmのスタイル抜群な美女の腕に、大きな力瘤。
テニスボール所じゃなく、さっき潰した林檎ぐらいの大きさ。
「うわ、硬っ!」
血管が浮き出るぐらい密度の高い上腕二頭筋は、指で直接触れるとカチコチだった。
「きゃ、くすぐったい」
ドンッ!
「・・・えっ?」
恐らく、【S:セイラ】さんは反射で腕を払っただけ、だったんだろう。
しかし、その片手で押された俺は、ソファの上で1mぐらい横滑りした。
「あぁ、ごめんなさい!」
「あ、いや。大丈夫です」
俺はこれでも、体重が68kgある。まあ、大半が脂肪なんだけど。
でも、女性の片腕で押し飛ばされるぐらいに軽いと思ったことは、ない。
「お客様、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。全然、平気」
先輩の相手をしていた【M:ミイナ】さんが、心配そうにこちらを見ていた。
「良いの、良いの。こいつ、脂肪タップリだからそのぐらい大丈夫だって」
ははは、と先輩は笑った。
「本当に、すみませんでした」
帰り際、【S:セイラ】さんは深々と頭を下げた。
何度も謝られると、逆にこちらが畏(かしこ)まってしまう。
「いや、本当に大丈夫なので・・・」
と言いつつ、俺の視線は【S:セイラ】さんの二の腕に行く。
頭を下げると同時に『くの字』に曲げられた腕には今日、何度目かの力瘤。
美女の筋肉が間近で見られるのであれば、押し飛ばされるぐらい何てことない。
俺はそう思い、またこの店に来ることを誓った。