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「凄いです。往年の『メ●ッサ・コーツ』を思い浮かべました」

かつて活躍した、有名ボディビルダーだ。勿論、女子。


パッと見、普通の、何の変哲もない腕なのに。

ちょっと曲げただけで、二の腕にモコッと大きな力瘤が盛り上がる。

ウェーブの掛かった金髪ロングヘアの美貌と、突然飛び出る大きな筋肉のギャップ。


「ああ、すみません。わからないですよね」

「大丈夫、知ってますよ。だって、“ここ”は“そういうお店”・・・ですから♪」

他のキャストたちも皆、背の大小、筋肉量の多少はあれど。

全員が全員、例外なく。筋肉ボディを惜しげもなく晒せるような服装をしている。


【S:セイラ】さんのメイド風ドレスは、ノースリーブで肩口が露出していて。

胸元もパックリと開いていて、胸の谷間が強調される作り。


「そんな、有名ビルダーさんに例えて頂けるなんて・・・」

【S:セイラ】さんは、お酒を作る手を止める。


「私、嬉しい♪」

俺の目の前で、両腕に力瘤を盛り上げてくれた。


「身長は、幾つなんですか?」

「私、ですか? 165cmです」

身長は、俺と全く同じ数値だった。


中肉中背の俺と違い、女性らしい均整の取れた体型。

ボンキュッボンまで行かなくとも、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。


露出している腕や、スカートから覗く脚は、特に“筋”のようなものは目立たない。

しかし一度、身体を動かすと、途端にモゴォッと大きな筋肉が起き上がるのだ。


「あははっ。【M:ミイナ】ちゃん、凄いね」

「でしょう」

テーブルを挟んだ正面の席で、先輩と別のキャストが談笑している。


「あー! 私が隣に居るのに、【M:ミイナ】を見ちゃうんだ・・・」

プーッと頬を膨らましながら、おもむろにグラスの上で林檎を手に取り・・・。


「こっち見てくれないと、“こう”しちゃうよ?」

グシャッ!


「うぇっ!?」

ジョボボボッと、一瞬で潰された林檎から果汁が滴り落ちる。


「そりゃ、私は【M:ミイナ】と比べると細いけど・・・」

先輩に付いているキャストは、名札に【M:ミイナ】と書かれていた。


OL風スーツドレス、とでも言うのだろうか。襟が付いていて、肩口も半袖になっている。

その半袖から覗くのは、伸ばした状態でもそれとわかる、力瘤。


身体全体のボリュームで言うと、【M:ミイナ】の方が凄かった。


「お客さんって、やっぱりバルキーなのが好みなの?」

「いや、【S:セイラ】さんみたいな細マッチョも好きだよ」


「あー! “細マッチョも”、って言った。“も”って」

「あ、はは。ごめん、ごめん」

ダメ、だ。ちゃんと謝らないと、グラスが“林檎果汁だけ”で一杯になってしまう。


「でも、握力凄いんだね」

「うん。このぐらい出来ないと、“ウチの店”じゃやって行けないし」

特に力を入れたように見えなかったのに、事も無げに林檎を握り潰した。

握手したら、俺の手ぐらい簡単に潰されそう・・・。


「力瘤も凄いし」

「測ってみる? ホントはダメなんだけど・・・」

そう言って、【S:セイラ】さんは胸の谷間から『巻尺』を取り出した。


『M倶楽部』のルールとして。


『キャスト』の【情報】は、会員としてポイントを貯めないと知ることは出来ないのだ。

※『キャスト』自身のプライベートは原則、厳禁。


【ポイント表】

01pt:力瘤サイズ、太腿サイズ

02pt:握力

03pt:体重、体脂肪率

05pt:スリーサイズ

10pt:キャスト指名権

・・・・・


「お客さん。話面白いし、特別だよ?」

「あ、ありがとう」

何たる、僥倖。


筋肉女子たちが、こんなに何人も居る空間があって。

不意とはいえ、目の前で力瘤や怪力技を披露してくれて。


更に、『採寸プレイ』までさせてくれるなんて・・・。


「・・・っ。じゃ、行きます」

俺は、巻尺を手に取り、ビッと目盛りを引っ張り出す。

最大値が1mの小型タイプの巻尺。


「何だろう、これ・・・」

「ちょっと! 匂い、嗅いじゃダメだからね」

直前まで谷間の柔肉に仕舞われていたせいか、良い香りがする・・・。


「こんなもん、かな」

チキチキッと微調整して『30cm』に合わせて引き出した巻尺が、ピッタリ。


「・・・ふふっ♪」

「・・・?」

【S:セイラ】さんは悪戯な笑みを浮かべている。


「んぅっ!」

モゴォッと、一瞬で【S:セイラ】さんの力瘤が二回りは大きくなった。


「うえぇっ!?」

パァンッと、余りの衝撃に俺は巻尺を弾き飛ばされた。


「どう? 私の本気の力瘤は?」

「凄っ・・・」

“細マッチョ”なんて、トンデモない!


「・・・36cm」

俺と同じ、身長165cmのスタイル抜群な美女の腕に、大きな力瘤。

テニスボール所じゃなく、さっき潰した林檎ぐらいの大きさ。


「うわ、硬っ!」

血管が浮き出るぐらい密度の高い上腕二頭筋は、指で直接触れるとカチコチだった。


「きゃ、くすぐったい」

ドンッ!


「・・・えっ?」

恐らく、【S:セイラ】さんは反射で腕を払っただけ、だったんだろう。

しかし、その片手で押された俺は、ソファの上で1mぐらい横滑りした。


「あぁ、ごめんなさい!」

「あ、いや。大丈夫です」

俺はこれでも、体重が68kgある。まあ、大半が脂肪なんだけど。

でも、女性の片腕で押し飛ばされるぐらいに軽いと思ったことは、ない。


「お客様、大丈夫ですか?」

「大丈夫です。全然、平気」

先輩の相手をしていた【M:ミイナ】さんが、心配そうにこちらを見ていた。


「良いの、良いの。こいつ、脂肪タップリだからそのぐらい大丈夫だって」

ははは、と先輩は笑った。


「本当に、すみませんでした」

帰り際、【S:セイラ】さんは深々と頭を下げた。

何度も謝られると、逆にこちらが畏(かしこ)まってしまう。


「いや、本当に大丈夫なので・・・」

と言いつつ、俺の視線は【S:セイラ】さんの二の腕に行く。

頭を下げると同時に『くの字』に曲げられた腕には今日、何度目かの力瘤。


美女の筋肉が間近で見られるのであれば、押し飛ばされるぐらい何てことない。

俺はそう思い、またこの店に来ることを誓った。

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