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_/【急募】

_/内容:レクリエーション活動

_/期間:8/1~31の一ヶ月間(住み込み)

_/報酬:100万円(諸経費込)

_/場所:Y県S郡

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「何だ、これ」

俺は、不思議なアルバイト募集を見付けた。


月収百万円は美味しいが、夏の暑い最中に一ヶ月の拘束。

更に場所がド田舎、と来てる。


「いや、しかし。一ヶ月で百万円は・・・」

大学進学に失敗して半ニートなフリーターに、百万円は大金。



結局、迷いに迷った挙句。


「うげぇ。やっと着いた・・・」

金の誘惑に負け、はるばる来てしまった。


電車やバスを乗り継ぎ、最寄りのバス停から山歩きをして片道計五時間。

山の中とは思えない、お城のような大邸宅がそこには在った。


「巨瀬(こせ)家へようこそ、お越し下さいました」

「メイド、さん・・・?」

メイド服を着ているので、文字通りの屋敷の使用人で間違いない筈。


「でっ・・・あ、いや。すみません」

俺はつい、『デカい』という単語をポロッと零しそうになる。

エプロンドレスを押し上げる胸元・・・は確かに凄いデカいんだけど、そうじゃなく。


目の前のメイドさんは、俺より頭一つ分は背が高かった。

肩幅も広く、体格もかなりガッシリしている。


172cm70kgという、成人男子よりやや背が低く、体重が重い俺。

これでも運動部経験者なのだが、その俺より明らかに逞しい。


「いえ。初めてお越しになる方、皆そう言われます」

メイドさんは、特に気を悪くする風でもなく、事務的にそう答えた。


「私も貴方も、そう変わりませんよ」

謙遜なのか、メイドさんは俺を指してそう言った。


「それで、俺は何をすれば良いんですか?」

『レクリエーション』とあったので、てっきりイベントか何かの手伝いと思いきや。

仕事場所は、山奥の大邸宅。しかも、メイド在中。


「“遊び相手”になって下さい」

「遊び・・・相手?」

お嬢様だかお坊ちゃんが居て、その相手をしろってことか?

そういうのって普通、保育士や専門の職員を呼んだりしないものか。


「ええ。“事情”があって、欠員が出てしまったので」

「・・・はぁ」

急な欠員が出て止むを得ずに誰彼構わず、と言った所か。


「こちら、です」

指示された先には、かなり大きな両開きの扉があった。

扉の高さだけで、俺の身長の二倍以上ある。大広間の入り口か何か、だろうか。


「このお屋敷の持ち主は、かなりの大家族だったりするんですか?」

「いえ。お嬢様は“ひとりっ子”です」

一人・・・っ子? 兄弟姉妹は居ない、のか。

ということは、この大広間は顔見世の為の来客部屋なのだろうか。


「お嬢様、お連れしました」

メイドさんは“頭の高さにあるドアノブ”を両手で掴み、器用に開けて行く。

そう言えば、この扉。ドアノブは何であんなに“高い位置”にあるんだ・・・?


「・・・っ!?」

開かれた扉の厚さが30・・・いや、50センチ程もあった。


目算で推定四メートル強はあろうかという高さの、特大の扉。

材質も、木材ではなく鉄製のように見える。一体、どのぐらいの重さなんだ・・・?


「あ、れ・・・」

何か、違和感。


部屋に入ると、そこは“普通の部屋”だった。

大広間でも、ましてや来客部屋でもなく。普通に家具のある、部屋。


「・・・おぉ」

部屋には一人、美女が椅子に座っていた。


サラサラの姫カットなロングヘアに、愛くるしい童顔。

フリルの付いた可愛らしいワンピースとアンマッチな、豊満な肢体。


「わぁ、待ってました」

俺たちに気付いたのか、部屋の主と思われる美女がスクッと立ち上がる。

ドスッ、ドスッと小走りで駆け寄って来た。


「・・・ん?」

“ドスッ、ドスッ”? タッタッ、じゃなくて?


「・・・え?」

目の前まで来た“それ”を、俺は“見上げた”。


「あー、今度も可愛い人なんだね♪」

そう言って、大きな影がしゃがむような動作をした。


正確には勿論、影などではない。それは、明らかに“人間”だった。

昔風に言えば、“ボンッキュッボン”な豊満な美女。


しかし、サイズが・・・いや、スケールが違い過ぎた。


「沙織お嬢様にとって見れば皆、可愛い存在になっていまいます」

「えー、そう?」

沙織お嬢様と呼ばれた美女は、俺に目線を合わせるように膝を折った。

足で踏まないようにスカートを手で抑え、膝を床に付けての、膝立ち。


「・・・う、っそだろ」

目の前の美女、いや巨女は、膝立ちであるにも関わらず、俺よりまだ背が高いのだ。

豊満な胸元が、俺の頭の遥か上に位置している。


「この人が、お嬢様・・・」

「はい、巨瀬家唯一のご息女となります」

単純な童顔の美女というだけならまだしも、余りにもデカ過ぎる・・・。


「お兄さん、身長はどのぐらい?」

「へ、俺? 『172cm』だけど・・・」


「ふぅん。じゃあ、私の半分よりちょっと下かぁ」

「は、半分・・・?」

いや、確かに『沙織お嬢様』は背が高いが、それでもまさか・・・。


「お嬢様の身長は『435cm』なので、だいたい『四割』ぐらいでしょうか」

メイドが、俺と『沙織お嬢様』の身長比を冷静に弾き出した。


って、『435cm』!?


人間の身長が、4m超え・・・?


「ねぇ、そんなことより。『かくれんぼ』しようよ」

「へ? かくれんぼ?」

会ったばかりで自己紹介すら済んでいないのに、いきなり『かくれんぼ』?


「お嬢様が楽しそうで何よりです。では、私は下がりますね」

「あ、ちょ・・・」

メイドは、ギギィッと巨大扉を閉じて行ってしまう。


「おい、待っ・・・」

ガシャンッと無常にも、扉は完全に閉まってしまった。


「くそっ、開かない」

鍵でも掛けられたのか、扉が開く気配はない。


「どうしたの?」

「いや、外に出たくて・・・」

美女と一対一で遊ぶ、ってだけなら『据え膳食わぬは男の恥』なシチュエーション。

しかし、それが見上げるような巨女となれば、話は変わって来る。


「・・・ふぅん。じゃあ、私と遊んでくれたら、後で出してあげるよ」

「・・・・・く、仕方ないか」

得体の知れない何か、を感じるものの他に手段は無い、か。


「わ、わかったよ。『かくれんぼ』で良いのか」

「わーい、やったー」

見た目よりは幼いのだろうか。沙織お嬢様はその場で跳んで喜びを表現した。


ドンッ。ズゥンッ。ドッズン。


「・・・・・」

その場で飛び跳ねるだけで床が、いや屋敷全体が地震のように揺れる。


「じゃあ、私が『鬼』ね。一分待つから、お兄さん隠れてね」

そう言ってイーチ、ニィとカウントを始めた。


「ちょ、そうは言ってもな・・・」

初めて訪れたお嬢様の部屋。勝手も何も、わからない。

ベッドや家具、調度品は全てビッグサイズ・・・という訳ではなかった。


「・・・あれ、は」

ミニチュアに見えた“それ”は、極々普通の一般サイズの家具だった。


「ロク、ジュウ」

沙織お嬢様が数え終わる頃には、俺は既に隠れ終わっていた。


「何処かなぁ?」

ガチャ、ガチャッと家具を開けたり閉めたりする音が聞こえて来る。


「・・・・・」

そう言えば、“見付かればどうなる”のだろうか。

特に、罰ゲームのような取り決めはしていない。


「ま、いっか」

適当に遊びに付き合って、満足すれば解放されるだろう。と俺は想像していた。


数分が経過した頃だろうか。


「うーん、“ここ”が怪しいなぁ」

沙織お嬢様は俺が隠れた衣装箪笥の前あたりで、そう呟いた。


「潮時か」

『かくれんぼ』にしては時間が経っているし、そろそろ出て行こうと思った。

その、矢先。


「いつもみたいに・・・」

てっきり、扉を開けられて見付かった、的な展開になると思っていた。


「振ってみよっかなぁ」

「へ・・・振る?」

ガッと何かを掴むような音がすると、俺が入った衣装箪笥が宙に浮く。


「ちょ、何し・・・てっ!?」

完全に扉が閉まっているので外が覗えないが、この浮遊感は間違いなく浮いている。


「どーれっ」

「う、ごっ、が・・・!」

俺は突然、“シェイク”された。

衣装箪笥がまるで、バーテンダーのカクテルシェイクのように、揺れる。


「ちょ、ま・・・おぁっ!?」

いや、“揺れる”なんて生易しいものではない。

まるで観覧車の籠でジェットコースターのレールに乗ったような、激しい揺れ。


「あっれぇ、出て来ないなぁ」

「い、いや・・・」

出て来ないではなく、出て行けないのだ。

衣装箪笥の中で前後左右、上下に激しくシェイクされ、出る所ではない。


「軽くし過ぎたかなぁ」

「へ、軽く・・・?」

沙織お嬢様は、とんでもない台詞を吐いた。


「じゃあ・・・えいっ!」

力む声がしたかと思うと、シェイクされる速度が劇的に上がる。


ドッカン、バッカン。


「う、がぁ、あ、ぁ・・・っ!」

ドガッ、バギッと箪笥の中で俺は全身を打ち付け捲る。


「あれぇ。まだ出て来ないのぉ・・・もう」

沙織お嬢様の、痺れを切らす声。


「何を、するつも・・・え?」

ミシ、ミシッと箪笥が軋み始める。


「ちょ、おい。何を、して」

メキ、バキッと頑丈な造りだと思われた箪笥のあちこちから悲鳴が起きる。


「まさ、か・・・」

バキ、バキャッ!と支柱が折れ、扉が拉げ始める。


「う、っそだろ・・・おい」

箪笥の体積が徐々に、徐々に狭まって行く。

箪笥の中で圧死、という明日の朝刊の見出しが脳裏を過ぎった瞬間。


バッキャアッ、という音と共に、箪笥が破砕した。


「う、おっあ・・・痛っ!!」

衣装箪笥は、沙織お嬢様の圧力に耐え切れず、空中で圧壊して。

そのせいか、下半分が床に落ちて空間が出来たお陰で俺は何とか難を逃れた。


「い、っててて・・・」

かなりの高さから落ちて尻を打ち付けたので、かなり痛い。

シェイクされ捲ったせいもあってか、全身も痛い。


しかし、美巨女の圧死させられるという未来だけは何とか回避出来た。


「お嬢様、凄い音がしましたが大丈夫ですか」

ギギィッと、メイドが扉を開けて戻って来た。


「えへへ、またやっちゃった」

「あら、大丈夫ですか」

それは果たして、どちらに・・・いや、何に言った台詞なんだろうか。


「あんたら、いつもこんなことをしてんのか・・・?」

「ええ。ですから、“遊び相手”と言った筈ですが」

遊び相手。遊び・・・まさか。


「沙織お嬢様って一体、幾つなんだ?」

「弱冠、十歳です」

十歳!? 小学生で言えば、四年生・・・?


「十歳で、この身体・・・?」

見上げるばかりの、巨躯。

大の男が入った衣装箪笥を振り回し、圧壊させる怪力。


「これでも、お嬢様は病弱だったのですよ」

「病弱・・・」

メイドが言うには。

沙織お嬢様は幼い頃から病弱で、何度も死線を彷徨ったらしい。


巨瀬家当主の父親が、あやゆる方面に手を尽くし。


古今東西、合法、非合法を問わず。試せるモノは、何でも試した。

医学、科学、化学。医術、魔術、呪術。果ては、催眠療法に自称超能力者。


「その結果が、これ・・・?」

「もうっ、“これ”だなんて指差しちゃダメなんだからっ」

“メッ”と叱るかのように、俺に向かって平手が飛んで来て。


「ぶぼぉっ!?」

その巨大な平手は、俺の“上半身”にヒットし、俺を数メートルは吹き飛ばした。


「ああっ、お嬢様。せっかく、無事だったのに・・・」

「う、が、ぁ・・・」

幾つかの歯が折れ、口からポタポタと流血。


「言動にはお気を付けを・・・そうですね。こういう、“見せ付け”は性分ではないのですが」

メイドは袖を捲り、肩の高さで腕を折り曲げると・・・。


モリリィッ。


「・・・っ!?」

男所帯の運動部ですら見たこともないような、巨大な力瘤。


「これでも私、鍛えておりまして。力瘤は、『69cm』あります」

「何を、言って・・・」


「このぐらいの腕力がないと、この扉は動かせません」

メイドは分厚い扉を指して、そう言った。


「え、じゃあ・・・」

「そうだよー。その扉に、鍵なんて無いよ」

俺が扉を開けられなかったのは、単純に腕力が足りなかった、から。


「因みに、お嬢様はこう見えて私より逞しいので」

「あー、ひどーい」

沙織お嬢様はプンプンッ、と頬を膨らませた。


身長:435cm

体重:766kg

B-W-H:239(Qカップ)-165-235

上腕:104cm

太腿:174cm


メイドに告げられた沙織お嬢様の身体サイズは、余りに規格外過ぎて現実味が全く無かった。


「・・・・・」

改めて、沙織お嬢様を見上げる。


ただデカいだけで、身体全体のバランスはむしろ、豊満なぐらい。

しかし、腕や脚は、筋肉隆々なメイドよりも太く、力強いという。


「“まだ行けそう”なので、私は下がりますね」

「まだ、って・・・え」

ああ。生還する為の唯一の出口が、閉まってしまう。


「貴方は、お嬢様が小学校に復帰する為の訓練相手なのです」

高い給料を出す以上、簡単に壊れてしまっては困る、と。


病弱だったお嬢様が、快復した。

しかし、快復“し過ぎた”。


大の大人ですら、片手で吹き飛ばす腕力。

そんなお嬢様が小学校に通えばどうなるかは、明白。


「ちょ、待って・・・」

「せめて、一日は頑張って下さい」

そうすれば、日当と交通費ぐらいは出して差し上げます、とメイドは言い捨てた。


「欠員に備えて、また募集を掛けないと・・・」

扉を閉める瞬間、呟いたメイドの言葉を俺は聞き逃さなかった。


「ねぇ、沙織お嬢様。お兄さん、もう疲れちゃった。帰りたいなぁ」

チラッと、お嬢様を見上げるように。媚びを売るように、目線を送る。


「えー、まだまだ遊び足りないよぉ?」

お嬢様は、ブーッと膨れる。


「だって、言ったじゃん。“遊んでくれたら出してあげる”って」

「いや、さっき『かくれんぼ』を・・・」


「私、かくれんぼ“だけ”なんて、言ってないよ」

「・・・え、あ。いや、でも・・・」


「うーん。じゃあ、『鬼ごっこ』しよっか」

「鬼ごっこ?」


「この部屋から出られたら、お兄さんの勝ち。お金も全部出して貰うよう言ってあげる」

「出られなかったら・・・?」

沙織お嬢様は“ニマァ”と妖しく嗤(わら)うだけで、言葉では答えなかった。


俺が五体満足で屋敷を出ることは、もう遠い夢だった。

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