地獄の沙汰 (Pixiv Fanbox)
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「近年稀に見る大悪人だな、貴様は」
祭壇のようなところに立つ、髭面の大男。
祭司なのか、豪奢な衣装を身に纏っている。
「へへっ、照れるぜ」
一方、両脇を角の生えた兵士に抱えられた男が下卑た笑みを浮かべた。
「本来であれば貴様なぞ、『大焦熱地獄』送りなのだが・・・」
そう。髭面の大男はいわゆる、『閻魔大王』だった。
男は現世で数々の罪を犯して死刑になり、更に地獄に堕ちて来たのだ。
『大焦熱地獄』とは、殺生や童女への強姦などの重い罪を犯した者が送られる地獄。
男は生前、多くの女性を強姦し、飽きたら殺す、といった大罪を重ねた。
「なぁ、エンマ様よぉ。地獄には、女は居ねぇのかい?」
閻魔大王だけでなく、兵士として大王を補佐する鬼たちも、この男の悪辣さには辟易していた。
「最近は、貴様のような輩が増えて、地獄も定員オーバーなのだ」
「え? じゃあ、天国に行かせてくれよ。現世でも良いぜ」
男は、現世に続き、地獄でも裁かれようとしているにも関わらず、不遜な態度を崩さない。
「・・・良かろう。貴様は特別に、“現世”に送ってやる」
「やった。ラッキー」
「閻魔様!? 本当に良いんですか?」
「構わん。以前から試そうとしていた“実験”に丁度良い」
なるほど、と鬼の兵士は引き下がった。
「現世に戻してやるが、一つだけ気を付けるが良い」
「何だい?」
「“そこ”で死ねば、地獄に堕ちることなく、お前は『消滅』する」
「・・・?」
「地獄ですら定員オーバーで現世に送るのだ。そこで死ねば魂ごと消えてなくなる」
「何だ、死ななきゃ良いだけだろ」
いわゆる、輪廻転生も無く、正真正銘の『無』に還る。男がその事を本当の意味で理解したかは、定かではない。
「ま、何でも良いや。さっさと送ってくれや」
「・・・精々、頑張ることだな」
男の視界が一瞬で暗くなったかと思うと、身体が浮遊感に包まれ、意識を失った。
「・・・う、ここは・・・?」
男は、“街”らしき場所で目を覚ました。
生前、暮らしていたような、普通の街。服装も当時のまま。
「何だ、こんなの無罪放免じゃねぇか」
男は、土地勘が無いこと以外は、現代社会と変わらない風景に安堵した。
「あっれぇ~?」
「・・・ん?」
男の背後から、女性の声が聞こえて来る。
「へへ・・・」
男は早速、“獲物”に遭遇した、と思った。しかし・・・
「・・・なぁっ!?」
「何で、こんなトコに男が居るのぉ?」
女子高生風の女性が、三人。男を嘗め回すように“見下ろして”いた。
「で、でけぇ・・・」
女子高生の三人は皆、大きかった。背が、異様に高いのだ。
男は決して小柄ではないのだが、目線が女子高生のお腹辺りに合っている。
目算で、3mは優に超えるかも知れない。
「いや、俺が小さく・・・」
男は、周りを見渡す。
車道と歩道を分けるガードレール。歩道を彩る街路樹。
そのどれも、生前のスケール感のまま、だった。自分が小人化した訳では無いようだ。
「じゃあ、こいつらが・・・」
バスケットボールやバレーボールの選手、なんだろうか。
しかし、幾ら背が高くても2m程度、だろう。
3m超えの女子高生なんて、見たことが無い。
「ねぇ。“保護区”外のここに居るってことは・・・」
「そう、よね」
「・・・ふふっ♪」
女子高生たち三人は、男を何度も確認した上で、妖しい笑みを浮かべた。
「くそっ、ここは・・・」
男は飽くまで、自分より小さな女性を弄び、壊すのが好きだった。真性の人でなし。
明らかに、異常な体格の相手をどうこうしよう、なんて考えは及ばない。
「ちょっとぉ、ドコ行くの?」
「うげ」
男は、襟首をムンズと掴まれた。
「ちょ、離せっ」
男はバタバタと、“宙空”で足を走らせていた。
「う、っそだろ・・・」
女子高生の片手で、男の身体は宙空高く持ち上げられているのだ。
「離せっ、よっ!」
男は構わず、浮いた足で女子高生目掛けて蹴りを放つ。
「きゃっ」
女子高生は、男を左手一本で持ち上げていた。
必然的にフリーだった右手で、男の蹴りを軽く払った。
バシィッ!
ボキッツ!!
「うぎゃあぁぁぁっ」
男の足は、向う脛辺りで真っ二つにポキッと折れていた。
「ちょっとぉ。“壊さない”でよ?」
「あは、ごめんごめん♪」
大の男を片手で吊り上げ、手で払っただけで足を折り。
にも関わらず、女子高生たちはスマホか何かを扱っているような会話。
「お、俺はっ、か弱い女をイジメるのが好きなんだ。お前らみたいなバケモンの相手なんて・・・」
「ふふっ、アタシらも同じよ?」
「ねー♪」
ポキッ!
「ぐぎゃあぁぁぁっ!」
女子高生は次いでと言わんばかりに、折れてない方の男の足を片手でポキッと折ってしまった。
「きゃはははっ」
「“久し振りの男”の泣き声、やっぱ良いわぁ・・・」
男の足を捻り折った女子高生は、恍惚とした表情を浮かべている。
「あー、ズルーい。私もやるー・・・えいっ」
ボキッ!
「うっがあぁぁっ!?」
今度は、残った女子高生が、男の腕を折った。まるで、小枝でも折るかのように。
「お、お前ら・・・一体、何モンだ・・・」
ホンの数瞬で、両足と片腕を折られた男が、息も絶え絶えに問い掛ける。
「えー、ウチらぁ?」
「普通の女子高生だけど?」
「ねー♪」
男は床に転がされるも、何とか這って逃げようと必死になっている。
「アンタこそ、記憶喪失でもなってんの?」
「“保護区”から出た時点で、“こうなる”ってわかってたでしょうに・・・えい」
ボギャッ!
「うぐあああぁぁぁっ!!」
女子高生は、這って逃げようとする男を少し眺めて愉しんだ後、おもむろに残った腕を足で踏み付けた。
体格差もあってか、女子高生の足は男の胴体の二倍以上、太い剛脚であった。
「知らないのか忘れてんのか、わかんないけど・・・」
「折角だから、教えてあげるねー」
男は、朦朧とする意識の中、女子高生たちの説明を聞いていた。
『X型女子』が増え続け、また体格は更に大きくなって行った。
一方で、男女の体格差が開き過ぎて、“接触事故”が問題になったのだ。
頑張っても2mな男子と、3、4mは当たり前の女子。
身体そのもの筋肉量や密度も異なる為、体格差以上に差が付いてしまった遠い未来。
満員電車で同じ車両で揺られて、圧死させられたり。
躓いた拍子に、男を下敷き潰してしまったり。
普通に接すれば、一方的に女子が勝ってしまう事故が社会問題になり。
余りにも事故が増えたので、時の政府は以下の法律を制定した。
・男子は『保護区』にて生活し、女子とは生活圏を明確に分断する。
・男子が『保護区』外にて、女子と接触して被害(死亡含む)を受けても『止むを得ない事故』として不問とする。
「一度、男子で思いっ切り遊んでみたかったのよねぇ」
「折角の機会だし、楽しまなきゃ♪」
「ねー」
かつて、昭和の少年たちが昆虫を弄ぶかのように。
女子高生たちは、男が絶命するまで、その全身を遊び尽くした。
「閻魔様、あっという間でしたね」
「あの男にとって、“この未来”は地獄以上に地獄だった、という訳だ」
これ以降、男の極悪人の『現世送り』が慣例化したのは言う迄も無い。