悪魔のアプリLv27「体育祭:綱引き」 (Pixiv Fanbox)
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「はぁ・・・」
「朝からどうしたの」
朝も一番から、溜め息。
私と明子は、と言うか。全校生徒が体操服でグラウンドに集合していた。
いわゆる、『体育祭』。
高校ともなるとトラック競技がメインではあるものの、小学校から続く昔ながらの種目もある。
当然ながら、帰宅部な私や明子も強制参加。
この前、帳尻合わせで受けさせられた体力測定は、この伏線でもあったのだ。
一応は病気扱いなので、参加出来るかどうかの判断を暗にされていた事になる。
結果は、田村先生を頸椎捻挫(通称:むち打ち)で病院送り、という結果だった。
その田村先生は首にコルセットを付けて、運営のみの参加。
「私、体育祭なんて柄じゃないのに」
「“その身体”で何言ってんの」
明子の容赦ないツッコミ。
「えー、パッと見は“着膨れ”してるようにしか見えないでしょ?」
体力測定の時と同じく、上下は特注の超巨大サイズのジャージを装着している。
そのせいか、人より二回りぐらい巨大な女子高生・・・な風貌で済んでる。
爆乳と広背筋のボリュームのせいで、ジャージの上半身が『大玉転がし』の“大玉”みたいに膨らんでる。
「“そんな”でも“着痩せ”してるって知ってる人、どのぐらい居るんだろね」
私がもう少し小さい頃・・・と言っても、その時ですら既に2m超えてたんだけど。
学校で色々とヤラかした時はまだ、脂肪分が多めな筋肉だった。
しかし今は、お相撲さん以上の身体のボリュームに、ボディビルダーも真っ青な“キレ”具合。
自分で言うのも何だけど、“脱いだら凄い”なんてレベルじゃない。
ジャージの前を開けたら、特大ブラで抑え付けられている爆乳に下には大胸筋の谷間があり。
その爆乳の下は砂時計のようにキュッと縊れたウェストに、彫刻のようにバッキバキな腹筋。
幸い、私と明子が参加する種目は、『玉入れ』と『綱引き』だけだった。
この二種目だけ見ると、小学校の運動会みたい。
徒競走やリレーの花形種目は人気で、やりたい人から埋まって行く。
必然的に、人数制限の緩い種目が残る、って寸法。
徒競走や障害物競走、騎馬戦は、午前中に集中していて。
午後のラストに大一番のリレー種目が配置されている。
レクリエーションの意味合いが強い『玉入れ』と『綱引き』は、空いた午後イチ。
「ねぇ。玉入れの籠って、こんな低かったっけ」
玉入れ用の籠が、それぞれ紅白の陣地に立て掛けられた。
「何言ってんの。アンタの背が高過ぎるんでしょ」
明子の、即座のツッコミ。
「だ、だよね。はは・・・」
同じく体操着に身を包んだクラスメイト達の身長から、籠の高さは平常通りなのは間違い無かった。
現に、近くの男子が興味本位で籠に飛び付こうとジャンプしている。
しかし、そこそこ運動が得意そうな男子でも、籠の下側にやっと触れられるぐらい。
「私、後ろの方に居るね」
何も、サボろうって訳じゃない。
私は素で立った状態にも関わらず、目線は籠の下辺りにあって。
両手を挙げて万歳してみると、手の位置は明らかに籠の“口”より上にあった。
多分、玉入れの籠の高さ自体、ギリギリ3m行かないぐらいなんだと思う。
一方、身長が既に254cmある私は、万歳しただけで最高点が3mを優に超える。
「・・・・・」
籠の周りにバラ撒かれた布製の『玉』をむんずと手に取る。
いわゆる、お手玉の玉みたいな感じで中はおが屑なのか、握り潰してしまう感じはしない。
しかし、私の大きな手は他の生徒の三、四倍は多く玉を掴めてしまう。
「チート、だよねぇ・・・」
今、鷲掴みにしている大量の玉を軽く投げるだけで、一気に大量得点。
そんなことをすれば目立つのもあるけど、反則技な感が否めない。
「あー、負けちゃったか」
私も明子も積極的に参加してなかったので、それも止む無し。
「問題は、“次”だよね」
「あー、うん」
私と明子が参加する競技は、次の種目で最後。
ただ、私にとってはその種目が問題だった。
『綱引き』。
太さが直径3cm程の縄を結った綱を両側で握り合って、自軍の陣地に引き合う競技。
今回、相手が二十人なのに対し、こちらは十四人しか居ない。
私が参加することもあってか、人数じゃなく体重でのチーム配分になったのだ。
「失礼しちゃう・・・」
何と、私一人に対し、男子生徒六人分の換算。
「まあ、ウチらは後ろの方で大人しくしてよう」
明子は、気休めにそう言ってくれた。
ソーシャルディスタンスじゃないけど、それなりに間を空けて綱を持つ。
一応、一方的な展開になった場合を想定して、倒れて揉み合わないように、との措置。
「よーい」
みんな、右側面に抱えるように綱をを持つ。
左手が前側、右手が後ろ側でガッチリと綱をホールド。
「ドンッ!」
先生の合図と同時に、綱引きが開始された。
「オーエス、オーエスッ」
「オーエス、オーエスッ」
綱の丁度真ん中に結ばれた紅白の紐が5m動けば勝ち、なのだが・・・。
「オーエスッ。オーエッス」
「おーえっす。おー、えす」
位置としては、私が一番後ろで殿(しんがり)。その一つ前が明子。
「オーエスッ。オーエッス」
「おーえっす。おー、えっす・・・」
数分が経過したが、綱は初期位置から全く動いていない。
「オーエスッ・・・はぁっ。オーエ・・・はぁはぁ」
私の前方で綱を引いている明子が、既に肩で息をしていた。
「おー、えっす・・・」
いや、明子だけではなかった。
「・・・あれ?」
“私以外”の全員が、肩で息をしていた。
実力が拮抗しているように見えるが、実はそうでは無かった。
相手の二十人と、こちら側の私を除いた十三人。
当然、相手側に分があるので、そのままだと一気に勝負が付いてもおかしくない。
しかし、私は勝負を決めず、参加だけするつもりで、綱をその場で握るだけにしていた。
それが不味かった。
私は、自分自身の体重、握力、そして腕力。
フィジカルの全てが人間離れしていることを、完全に失念していた。
相手からすると、大型の重機相手に綱引きをしているようなもの。
自軍から見ても、七人分の人数差では勝ちに転ずることも出来ず。
「ちょっと、仁美。ちゃんと引いてるの・・・?」
業を煮やした明子が、事前に『大人しく』と言っていたことも忘れて、勝負を促す。
「しょーがない、か・・・」
徐々に観客の生徒や先生も今の状況を訝しみ始めたので、勝負を決めざるを得ない空気になって来た。
「・・・んっ!」
私は取り敢えず、利き手の右手だけに力を入れた。
ブチィッ!
「え」
私の目の前で何と、綱が千切れた。
「おわっ・・・」
左手だけで縄を保持する形になり、必然的に左手一本に六人分の力が掛かる。
流石の私も、そのまま“力を入れずに”保持するのはキツイ圧力。
「ちょ、もぅっ」
仕方なく、私は左腕に力を籠める。
咄嗟のことでつい、渾身の力が入ってしまった。
モリモリモリッ。
左腕を右側に引いたことにより、腕を曲げた形になり、二の腕に特大の力瘤が盛り上がる。
ミチチッ・・・ビリ。
伸縮性に富んだ筈のジャージの袖が上腕二頭筋で満たされ、生地が悲鳴を上げると同時に。
「「「う、わあぁぁぁっ!!!」」」
ズドドドドドッ、と明子も含めた三十三人が私の方に引っ張られ、グラウンドに倒れ込んだ。
「あ、あれ・・・」
気付いたら、立って綱を持っているのは私だけになっていた。
「痛た、った・・・ちょっと、仁美ぃ」
明子も含め、味方十三人は尻餅を付き。
相手チーム二十人はうつ伏せにグラウンドに突っ伏していた。
ざわ、ざわ・・・
「あ、はは・・・」
太い綱を引き千切り、片腕で三十三人を引っ張り倒した私。
ざわ、ざわ・・・
余りの状況に、事態をわかっていない者の方が多かったかも知れない。
仁美や体験入部した一部の運動部員は“知っている”からか、然も在りなんといった表情。
「は、はは・・・」
目立ちたくなかったのに、思いっ切り目立ってしまった・・・。
不幸中の幸いは、ジャージの袖は少し裂けただけで、補修出来そうな事だった。
それはつまり、全力で無かった証左でもあるのだが・・・。