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「はぁ・・・」

「朝からどうしたの」

朝も一番から、溜め息。

私と明子は、と言うか。全校生徒が体操服でグラウンドに集合していた。


いわゆる、『体育祭』。


高校ともなるとトラック競技がメインではあるものの、小学校から続く昔ながらの種目もある。

当然ながら、帰宅部な私や明子も強制参加。


この前、帳尻合わせで受けさせられた体力測定は、この伏線でもあったのだ。

一応は病気扱いなので、参加出来るかどうかの判断を暗にされていた事になる。


結果は、田村先生を頸椎捻挫(通称:むち打ち)で病院送り、という結果だった。

その田村先生は首にコルセットを付けて、運営のみの参加。


「私、体育祭なんて柄じゃないのに」

「“その身体”で何言ってんの」

明子の容赦ないツッコミ。


「えー、パッと見は“着膨れ”してるようにしか見えないでしょ?」

体力測定の時と同じく、上下は特注の超巨大サイズのジャージを装着している。

そのせいか、人より二回りぐらい巨大な女子高生・・・な風貌で済んでる。


爆乳と広背筋のボリュームのせいで、ジャージの上半身が『大玉転がし』の“大玉”みたいに膨らんでる。


「“そんな”でも“着痩せ”してるって知ってる人、どのぐらい居るんだろね」

私がもう少し小さい頃・・・と言っても、その時ですら既に2m超えてたんだけど。

学校で色々とヤラかした時はまだ、脂肪分が多めな筋肉だった。


しかし今は、お相撲さん以上の身体のボリュームに、ボディビルダーも真っ青な“キレ”具合。

自分で言うのも何だけど、“脱いだら凄い”なんてレベルじゃない。


ジャージの前を開けたら、特大ブラで抑え付けられている爆乳に下には大胸筋の谷間があり。

その爆乳の下は砂時計のようにキュッと縊れたウェストに、彫刻のようにバッキバキな腹筋。


幸い、私と明子が参加する種目は、『玉入れ』と『綱引き』だけだった。

この二種目だけ見ると、小学校の運動会みたい。


徒競走やリレーの花形種目は人気で、やりたい人から埋まって行く。

必然的に、人数制限の緩い種目が残る、って寸法。


徒競走や障害物競走、騎馬戦は、午前中に集中していて。

午後のラストに大一番のリレー種目が配置されている。


レクリエーションの意味合いが強い『玉入れ』と『綱引き』は、空いた午後イチ。


「ねぇ。玉入れの籠って、こんな低かったっけ」

玉入れ用の籠が、それぞれ紅白の陣地に立て掛けられた。


「何言ってんの。アンタの背が高過ぎるんでしょ」

明子の、即座のツッコミ。


「だ、だよね。はは・・・」

同じく体操着に身を包んだクラスメイト達の身長から、籠の高さは平常通りなのは間違い無かった。


現に、近くの男子が興味本位で籠に飛び付こうとジャンプしている。

しかし、そこそこ運動が得意そうな男子でも、籠の下側にやっと触れられるぐらい。


「私、後ろの方に居るね」

何も、サボろうって訳じゃない。


私は素で立った状態にも関わらず、目線は籠の下辺りにあって。

両手を挙げて万歳してみると、手の位置は明らかに籠の“口”より上にあった。


多分、玉入れの籠の高さ自体、ギリギリ3m行かないぐらいなんだと思う。

一方、身長が既に254cmある私は、万歳しただけで最高点が3mを優に超える。


「・・・・・」

籠の周りにバラ撒かれた布製の『玉』をむんずと手に取る。


いわゆる、お手玉の玉みたいな感じで中はおが屑なのか、握り潰してしまう感じはしない。

しかし、私の大きな手は他の生徒の三、四倍は多く玉を掴めてしまう。


「チート、だよねぇ・・・」

今、鷲掴みにしている大量の玉を軽く投げるだけで、一気に大量得点。

そんなことをすれば目立つのもあるけど、反則技な感が否めない。


「あー、負けちゃったか」

私も明子も積極的に参加してなかったので、それも止む無し。



「問題は、“次”だよね」

「あー、うん」

私と明子が参加する競技は、次の種目で最後。

ただ、私にとってはその種目が問題だった。


『綱引き』。


太さが直径3cm程の縄を結った綱を両側で握り合って、自軍の陣地に引き合う競技。


今回、相手が二十人なのに対し、こちらは十四人しか居ない。

私が参加することもあってか、人数じゃなく体重でのチーム配分になったのだ。


「失礼しちゃう・・・」

何と、私一人に対し、男子生徒六人分の換算。


「まあ、ウチらは後ろの方で大人しくしてよう」

明子は、気休めにそう言ってくれた。


ソーシャルディスタンスじゃないけど、それなりに間を空けて綱を持つ。

一応、一方的な展開になった場合を想定して、倒れて揉み合わないように、との措置。


「よーい」

みんな、右側面に抱えるように綱をを持つ。

左手が前側、右手が後ろ側でガッチリと綱をホールド。


「ドンッ!」

先生の合図と同時に、綱引きが開始された。


「オーエス、オーエスッ」

「オーエス、オーエスッ」

綱の丁度真ん中に結ばれた紅白の紐が5m動けば勝ち、なのだが・・・。


「オーエスッ。オーエッス」

「おーえっす。おー、えす」

位置としては、私が一番後ろで殿(しんがり)。その一つ前が明子。


「オーエスッ。オーエッス」

「おーえっす。おー、えっす・・・」

数分が経過したが、綱は初期位置から全く動いていない。


「オーエスッ・・・はぁっ。オーエ・・・はぁはぁ」

私の前方で綱を引いている明子が、既に肩で息をしていた。


「おー、えっす・・・」

いや、明子だけではなかった。


「・・・あれ?」

“私以外”の全員が、肩で息をしていた。

実力が拮抗しているように見えるが、実はそうでは無かった。


相手の二十人と、こちら側の私を除いた十三人。

当然、相手側に分があるので、そのままだと一気に勝負が付いてもおかしくない。


しかし、私は勝負を決めず、参加だけするつもりで、綱をその場で握るだけにしていた。

それが不味かった。


私は、自分自身の体重、握力、そして腕力。

フィジカルの全てが人間離れしていることを、完全に失念していた。


相手からすると、大型の重機相手に綱引きをしているようなもの。

自軍から見ても、七人分の人数差では勝ちに転ずることも出来ず。


「ちょっと、仁美。ちゃんと引いてるの・・・?」

業を煮やした明子が、事前に『大人しく』と言っていたことも忘れて、勝負を促す。


「しょーがない、か・・・」

徐々に観客の生徒や先生も今の状況を訝しみ始めたので、勝負を決めざるを得ない空気になって来た。


「・・・んっ!」

私は取り敢えず、利き手の右手だけに力を入れた。


ブチィッ!


「え」

私の目の前で何と、綱が千切れた。


「おわっ・・・」

左手だけで縄を保持する形になり、必然的に左手一本に六人分の力が掛かる。

流石の私も、そのまま“力を入れずに”保持するのはキツイ圧力。


「ちょ、もぅっ」

仕方なく、私は左腕に力を籠める。

咄嗟のことでつい、渾身の力が入ってしまった。


モリモリモリッ。

左腕を右側に引いたことにより、腕を曲げた形になり、二の腕に特大の力瘤が盛り上がる。


ミチチッ・・・ビリ。

伸縮性に富んだ筈のジャージの袖が上腕二頭筋で満たされ、生地が悲鳴を上げると同時に。


「「「う、わあぁぁぁっ!!!」」」

ズドドドドドッ、と明子も含めた三十三人が私の方に引っ張られ、グラウンドに倒れ込んだ。


「あ、あれ・・・」

気付いたら、立って綱を持っているのは私だけになっていた。


「痛た、った・・・ちょっと、仁美ぃ」

明子も含め、味方十三人は尻餅を付き。

相手チーム二十人はうつ伏せにグラウンドに突っ伏していた。


ざわ、ざわ・・・


「あ、はは・・・」

太い綱を引き千切り、片腕で三十三人を引っ張り倒した私。


ざわ、ざわ・・・


余りの状況に、事態をわかっていない者の方が多かったかも知れない。

仁美や体験入部した一部の運動部員は“知っている”からか、然も在りなんといった表情。


「は、はは・・・」

目立ちたくなかったのに、思いっ切り目立ってしまった・・・。


不幸中の幸いは、ジャージの袖は少し裂けただけで、補修出来そうな事だった。

それはつまり、全力で無かった証左でもあるのだが・・・。

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