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それは、白衣の女だった。


茹(う)だるような日差し。文字通り、茹で上がるような暑さの中、白衣を着た女が歩いていた。

白衣の裾は膝の下まであり、その中の衣服は窺い知れない。


「綺麗なお姉さん、“こんな所”で白衣って暑くない?」

アロハシャツにグラサン。如何にも遊んでそうな男たちが、声を掛けて来た。


女は、黒のストレートロングの髪に、黒縁眼鏡。

白衣と相まって、研究者然とした出で立ち。


「・・・こんな所。そう・・・ね」

“ここ”では、軽薄そうな男たちの格好の方が、正装と言える。


「確かに、“あつい”・・・わ」

白衣の女が歩いていたのは、以前のような街中などではなく。

真夏の海に近い、その傍を走る国道沿いの歩道だった。


「そんな白衣、脱いじゃいなよ」

男たちは嘗め回すように、白衣の女の全身を見ていた。


“あちこちがモコモコと膨らんでいる”ものの、ボンッキュッボンッなグラビア体型。

メロンを思わせる胸元の膨らみは、白衣の中の肢体を想像させるに難くない。


やや背が高いのと、体格(ガタイ)の良さは気になるが・・・。


「“ここ”で脱ぐ訳には行かない・・・わ」

「じゃあ、さ。俺らと、あっち行こうぜ」

男たちは、ビーチではなく山の方を指差した。

ビーチは多くの海水浴客で賑わい、人がごった返して芋洗い状態。


一方で、その海岸から国道を挟んだ反対側は山になっていて、森が広がっている。

海に近い事からも別荘地になっているせいか、人の数は少ない。


男たちも一棟、別荘を持っていると言う。


「・・・そう。人が居ない場所に行くの・・・ね」

「・・・・・。ああ、そうさ。静かで良い所だぜ」

男たちは敢えて、人出が少ない場所へ誘っているのを隠さなかった。


「さっ、車で送って行っ・・・?」

近くに停めてあった車に案内しようと、男は女の肩に手を置く。


「・・・あれ? 何、だ・・・?」

男は、凄まじい“違和感”を感じていた。


「おい、どうした」

「いや、それが・・・」

男は、女の肩に手を置いたまま一瞬、固まってしまう。


「良い・・・わ。あの車に乗れば良いの・・・ね」

「あ、ああ」

女は肩に置かれた男の手を意に介さず、自ら車に向かった。


「折角だし、私の【実験】に付き合ってくれるなら・・・だけど」

「実験? ああ、何でも付き合ってやるぜ」

男たちは、白衣の女のことを“少し変”ぐらいにしか、思っていなかった。


「“何でも”・・・ね。助かるわ」

尤も、“女が白衣を着ている理由”が荒唐無稽過ぎて、想像し得ないのは無理からぬ事なのだが。



「ここ、さ」

白衣の女を乗せた車は、程なくして男たちの別荘に着いた。


「思ったより、しっかりとした造りなの・・・ね」

「コテージを想像してたかい? 冷暖房完備の、“普通の一軒家”さ」

リーダーと思しきグラサンアロハの言葉に、仲間の男たちが「ぐへへ」と小さく笑った。


「中は結構、広い・・・のね」

「多少騒いだぐらいじゃ、ビクともしないぜ」

家具や調度品は少な目で、スペース以上に広く感じる造りになっている。


「“ビクともしない”・・・ね」

「・・・ああ、そうさ」

男たちは勿論、音漏れしない“防音”の意味で、そう言った。

しかし、白衣の女にとって、は・・・。


「“高さ”もあるの・・・ね。じゃあ、大丈夫・・・そう」

「高さ・・・?」

数人の男に連れられ、密室に連れ込まれて尚。

アンニュイさを崩さず、女は気怠い雰囲気を変えることは無かった。


「そういや、よぉ。実験って、何なんだ?」

「そう・・・ね。【白衣の効果】と、【成長】よ」

男たちは互いに様子を見合い、両手で“ヤレヤレ”のポーズをした。


「何を言って・・・」

プチプチッという、ボタンの外れる音


「見てれば、わかる・・・わ」

女は先ず、胸元のボタンを外した。


「おぉっ!?」

聞き慣れない単語に戸惑うも、その所作に一瞬で目を奪われる。


「凄ぇ・・・」

ドンッ!と、中から現れたのは、特大のスイカと見紛うような爆乳だった。

窮屈な白衣に抑え付けられていたのか、一回りは大きく膨らんだように見える。


「着膨れかと思ったが、着痩せして・・・」

「ん、おかしくねぇか・・・?」

男たちの内に一人が、違和感を訴えた。


そう。


着込んでいたようにしか見えなかった、白衣の下。

少なくとも、胸元は赤い、ビキニタイプの水着のトップしか着けていなかった。


プチップチッと、どんどんボタンが外されて行く。


「・・・っ!?」

「なん、だ。あれ・・・?」

スイカ大の爆乳の陰になっているが、女のお腹にあるのは六分割された腹筋だった。


日焼けした男たちと対照的な、女の白い肌。

爆乳の陰になり目立たなくてもおかしくないぐらい、なのに。


女の腹筋は割れているなんてレベルではなく。

大きく盛り上がり、その存在をアリアリと主張していた。


「なぁ、何か膨らんでない・・・か?」

白衣から解放された爆乳は、未だにミチッミチッとビキニの布を押し広げようとしている。

更に、腹筋もそれに倣うようにモゴッモゴッと厚みを増している・・・ように見える。


「そんな、まさか。錯覚じゃ・・・」

下腹部までボタンが外れると、中から現れたのは上下お揃いの赤ビキニのボトムだった。


「何だよ、あれ・・・。女の脚かよ」

水着のボトムから伸びるのは、ラグビーボールのような極太の太腿。

ビギッビギッと、水着から伸びる太腿が膨らみ、血管が浮き上がって行く。


観音開きのように、ついに白衣の前面のボタンが全て外された。

白衣自体は着たままだが、中はビキニ水着の上下しか着けていないのは明らかだった。


「あれ、何が付いてるんだ・・・?」

男は、白衣の裏返った裏地に幾つもの“針”が付いているのに気付いた。


それはまるで、中世の拷問器具『鉄の処女』のようであった。


『鉄の処女』とは、聖母を模(かたど)ったともいわれる女性の形をした、鉄製の人形である。

人形と言っても、高さ2メートル程もあり、中が空洞になっていて人間を入れることが出来る。


人間を入れるには全面の扉を開くのだが、扉の裏には無数の針が付いていて、中の人間を貫くのだ。


「ああ、これ・・・ね。これは“ツボ”を刺激してたの」

「ツボって、あの・・・ツボか?」

ツボとはいわゆる、人体に通る“経絡”という連絡網の交差点、“経穴”を指す。


「じゃあ、その腹筋とか太腿の筋肉は、そのツボで・・・」

「やっと・・・よ」

女は、トレードマークだった白衣の襟に両手を掛ける。


「う、く・・・」

グ・・・ググ・・・


「【護身サプリVer.2】の効果が中々、出なく・・・て」

「護身、サプリ・・・? 何だ、そりゃ」


「体重が“100kg近く増えた”のに、見た目が変わらな“かった”・・・の」

コートを脱ぐかのように、徐々に白衣を身体から外して行く。


「体重が・・・え、何て? 100キ・・・え?」

女は確かに背が高く、体格も良い。


だが。それでも、男たちと比べて秀でている程ではない。

観音開きの白衣から覗く筋肉も、大きいことは大きいが・・・。


「た、確かにさっき。この女の肩を掴んだら、“ビクともしなかった”んだ」

男はもし、女が嫌がったら無理矢理にでも車に連れ込もうと思っていた。


車は、いわゆる『ハイエース』と呼ばれる、大型のワゴンタイプで中は広い。

後部座席のドアさえ開けていれば女一人、どうとでも放り込める。


しかし、女の肩は岩のように硬く、身体は微動だにしなかった。

上背や体格で上回る筈の男が、女を只の一歩も動かせなかったのだ。


「“100kg増えた”ってことは、元の体重が・・・」

「それが本当なら、150kgは超えてるってことじゃねぇか」

成人女性の体重を50kgと見積もっても、プラス100kgされれば当然、そうなる。


「ん、うぅ・・・」

ムク・・・ムク・・・


「お、おい・・・」

白衣が脱げて行く度に、露わになって行く女の肢体。


モゴ、モゴッ・・・。


「何が、どうなって・・・」

肩の盛り上がりは服などではなく、三角筋の隆起で。

バレーボールのような二の腕も、上腕二頭筋と三頭筋が作り出す球体で。


モリッ、モリリィッ!


「何で、“大きくなって”んだっ!?」

「う、あっ、あぁ・・・んぅっ♪」

“白衣だった”女の、控え目な嬌声。


「はぁ、はぁ・・・」

女は上気しているのか、頬がやや赤みを帯びている。


「ツボを刺激した効果か、身体が“熱く”なってキツかった・・・わ」

トレーニング直後のボディビルダーのように、女の身体からは薄っすらと蒸気が立ち昇っていた。


「・・・おい。この女、こんなデカかったか・・・?」

男たちはマリンスポーツの経験もあり皆、体格そのものは良い。

背も、成人男子の平均身長より上だろう。


「なぁ、俺。これでも身長は『190』あるんだ。なのに・・・」

恐らく、男たちの中でも一番大きな男は、“見上げる”ように女を見ていた。

女の顎が丁度、男の額と同じぐらいの高さにある。


「私の身長? 想定通りなら、210cmぐらい・・・よ」

「にひゃ・・・く、だと!?」

少なくとも。外で出遭った時は、ここまで高く無かった・・・筈。


「いや、身長(タッパ)の問題じゃねぇよっ」

繰り返すが、男たちの体格は中々に良い。

そんな男たちが小さく見える程に女の身体は大きく、厚みを増していた。


「因みに、体重は224kgよ」

「に、にひゃ・・・」

男たちは、身長を聞いた時と同じような驚き方をした。


「“これ”が女の・・・いや、人間の身体かよ!?」

目の前で女の身長が伸びて肥大化する、という非現実的な現象を見たにも関わらず。

男たち全員の意識は、一瞬で女の身体そのものに持って行かれた。


「そう・・・かしら」

女は然も、自然であるかのように、身体のあちこちを解し始めた。


コキ、コキッと鳴らす首は、何処からが項(うなじ)で、何処からが僧帽筋かわからない。

普通の体型なら首から肩のラインは水平になるのだが、僧帽筋が盛り上がり過ぎて山のようになっている。


「ん、・・・っと」

屈伸をする度に、太腿がモゴォッ、モゴォッと人間の腕ほどもあろうかというの大腿筋が盛り上がる。


「腕はそのままだと【60】、曲げると【80】と少し・・・ね」

単位は勿論、センチメートル。

女が腕を曲げる度にこれまたモゴォッ、モゴォッとバレーボールのような力瘤が盛り上がった。


「首とか腕も凄ぇが、脚なんて1m超えてんじゃねぇのか・・・」

「そう、ね。測ってみよう・・・かしら」

女は親指と人差し指を器用に駆使し、いわゆる“手尺”で太腿を測り始めた。


「96・・・いえ、97cmぐらい・・・かしら」

一流の競輪選手ですら、太腿の太さは精々、80cm行かないぐらい。


「お、俺らの胴体より太いんじゃねぇのか」

所作や立ち居振る舞いからして女は、運動は得意では無さそうに見える。

そんな、如何にも研究者然とした女の太腿が、97cm。


身長210cm、体重224kg。


もし、見た目や性別を伏せて、この数値だけを聞けば。

大半の人間は、相撲取りを想像するだろう。もしくは、プロレスラー辺りか。


「何で、そんな身体して・・・んだ?」

元々、この密室に連れ込んで。

半裸に引ん剝いて、色々とやってやろうと思っていた。


実際、目の前の女は、赤いビキニ水着の上下しか身に纏っていない。

目的に向けての準備が整った、と言えなくもない。


しかし、肩を触った時の“岩の様”だと思った感覚ですら、まだ“足りなかった”。

それ以上の肉体、・・・いや。筋肉が、女の身体には搭載されていたのだ。


太い頸、山のような僧帽筋、ボウリング球のような三角筋。

バレーボールのような上腕二頭筋、ブロック塀のような腹筋。

ラグビーボールどころか、小型のビール樽を思わせるような太腿。


「そもそも、【実験】って何だよっ」

「【実験】? そう・・・ね」

最初に言ったのに、と女は思った。しかし、詳細は説明しなかったことを思い出す。


「世の女性で皆、自ら身を護ることが出来るようになる『サプリメント』。それが【護身サプリ】」

正確には、それを“目指す”段階ではあるのだが。

女は、実用化に向けて改良を重ねる上で、一つの問題点に行き当たった。


それは、もしサプリを服用する『女性が小柄だったらどうなるか』だ。

正確には、想定された効果が発揮出来るかどうか。


小柄な女性が幾ら筋肉を付けても、どうしても肉体的な限界がある。

サプリそのものの筋出力や筋持久力は“前回の実験の通り”、とは言え。


筋肉で覆せないぐらいの体重差、人数差で圧されたら。


「元が小さいなら、大きくすれば良いの・・・よ」

体格や骨格が小さいなら、それを大きくしてしまえば良い。


骨を成長させ、腱を頑強にすれば。

自ずと、そこに搭載される筋肉は大きく、多くなる。


普通の感覚なら、“身体を大きくする”と言えば、筋トレするのが関の山だろう。

しかし、女は薬で無理矢理に身体を成長させるという、荒唐無稽な手段を思い付き。


それをついに、実現してしまったのだ。


それが、【護身サプリVer.2】。


副作用・・・というよりは、どちらかというと単純な難点として。

薬の効果、発現にかなりの時間を要するということ。更に、発熱も伴う。


身体そのものを大きくする、のだ。

必要なカロリーは計り知れない。時間は掛かって当然なのだが。


女は、自ら白衣の裏地に針を付け、ツボを刺激し続けて。

自身の身を以って、効果を早めることに成功した。


「胸まで大きくなってしまったのは、想定外だった・・・けれど」

女は筋肉隆々な全身で唯一と言って良い、爆乳バストを両手でムニュッと揉んだ。


「目算で130cmぐらい・・・かしら。前は『I』だったけど、これだと『K』いや『L』・・・?」

ビキニのトップが胸の柔肉に食い込むぐらい、女のバストは大きい。


「・・・っ」

トップバストが130cmの、『Lカップ』。

そんな驚異的な数値も、いざ目の前で見せられると、充分に現実的に思える。


「アナタたち。“これ”に、興味ある・・・のでしょう?」

女は敢えて、挑発するように胸の柔肉に指を食い込ませた。


「「・・・・・っ!」」

女が指を動かす度に胸肉が躍動し、赤いビキニの生地がはち切れそうになる。


筋肉隆々の巨女が、その極太な腕でスイカ大の爆乳を揉む。

密室で男たちを前にしていることもあり。その様はある種、異様と言えよう。


「・・・なぁ。もう、襲っちまおうぜ」

自分たちより遥かに大きな筋肉巨女を前にして、男たちは熱(いき)り立っていた。


「・・・あぁ。俺も、我慢出来ねぇ」

『熱り立つ』という文字通り、男たちは女の放つ熱に浮かされていたのかも知れない。


「良いわ・・・よ。“もう一つ”の【実験】が、まだ・・・だもの」

「どうせ、見掛け倒しだろう。“今まで”の女と変わりゃしねぇっ」

床に転がせば、後は。男はそう考え、正面から女に襲い掛かった。


ドムン。


「・・・・・」

「・・・え」

押し倒すどころか、アメフト張りのガチのタックルだった。

もし相手が男だったとしても、転倒して頭を強打してもおかしくないレベル。


「やっぱり、体幹の強さは体重に比例する・・・のね」

そう言いながら、腰にへばり付いている男を右腕一本で引き剥がす。


「【腕力】は、どう・・・かしら」

そのまま喉輪の状態で男を持ち上げると、空いた左腕を腰に回した。


「う、ぐぁ・・・っ!」

グググ・・・ボギャッ!


「ぎゃあぁぁぁっ!!」

「あ、れ・・・?」

ホンの一瞬で、男の胴体は腰辺りで二つに折れ。

女の腕を支点に、男の上半身が後ろの男たちと対面していた。


「この男が脆い・・・のかしら」

女は前回の状況を思い出し、悪癖とも言える、“気怠い”態度で呟いた。


「そんなに力、入れていない・・・のに」

女はまだ、全く力を入れていなかった。

前回は力を籠めてやっと、だったのだ。そう思うのも、無理は無い。


しかし、実サイズとして、84cmにも及ぶ力瘤を有する超剛腕。

サプリによって骨や腱が強化された結果、発揮される筋出力は倍どころではない。


「筋出力が上がったの・・・のかしら」

「・・・このぉっ」

片手ベアハッグで男が二つ折りになり、結果として空いた上半身に。


「てんめぇぇぇっ!」

後ろの男が、何処から取り出したのか警棒で襲い掛かった。


「丁度良い・・・わ」

女は冷静に左腕を放すと、二つ折りの男がドサッと床に崩れ落ちる。

そして、そうやって空けた左腕、正確には左上腕三頭筋で“受け”た。


尤も、“受け”といっても空手のような武道の受けでは無く。

純粋に二の腕の裏で打撃を喰らっただけ、なのだが。


「・・・ふむ」

「・・・なぁっ!?」

警棒は女が構えた左腕に、正確にヒットした。

しかし、女は怯むどころか、微動だにせず。


「ば、馬鹿な・・・」

一言に『警棒』というと、指揮棒のような物を想像しがちだが。

実際、男が振るっているのは、金属バットと見紛う程の極太の警棒だった。


「く、糞っ!」

ドガ、ドガッと男は何度も警棒を振り下ろした。

鉄製の警棒が何度も、何度も。女の腕に打撃を加えた。


「【筋強度】も、申し分なし・・・と」

女の腕は構えた位置から全く動かず、内出血すらしていなかった。


「はぁ、はぁっ」

むしろ、警棒を振るった男が肩で息をしている始末。


「ちょっと・・・」

「な、何を・・・っ!?」

警棒を両手持ちしている男の手に、右手を覆い被せ・・・。


「貸して貰える・・・かしら」

女の大きな手が男の両手を包み込むと、バギャッと“何か”が砕ける音。


「うぎゃあぁぁぁっ!」

女の右手は一瞬で、『グー』の形で握られていた。

男の両手は勿論、女の右手の中に包み込まれたまま。


「軽く・・・いえ、力を入れる前・・・なのに」

そう言いながら、激痛に悶える男から左手で警棒を奪い取り。


「こんな“オモチャ”じゃなく・・・」

女は左手一本でグニャリ、グニャリと警棒を捏(こ)ねて行く。


「本物は無い・・・のかしら?」

まるで粘土でも丸めるかのように、鉄製の警棒は只の鉄球になってしまった。


ギュッ、ギュッ。


「・・・・・っ!?」

丸めただけでは飽き足らず、更に圧縮し始める。


「このぉ、馬鹿にしやがって・・・っ」

“煽られた”と取った男たちは、臆することなくイキリ立っていた。


「・・・・・?」

女からすれば、特に煽った意図は無い。


「【握力】を確認したい・・・のだけれど」

暴漢に武器で襲われた際、その武器を無力化出来るか、否か。

その為の【筋強度】や【握力】の確認、である。


誤算があるとすれば、女は飽くまで、薬学に携わるイチ研究者でしかない。

スポーツ経験もなく、警棒を生で触るのも初めて、だった。


“力を入れるまでもなく握り潰せるような武器”が本物である訳が無い、という思い込み。

それまで、鉄を軽く握り潰すなんて芸当は出来なかったので、致し方ないとも言えるのだが。


前回も、暴漢の手を握り潰す確認は行っている。

ただ、今回の【実験】の主目的は、【成長】なのだ。


前回と比べてどれだけ、パワーアップしているか。


研究者らしく、測定すれば済む話ではあるのだが。

女は、実地検証も重要だと捉えるタイプの研究者だった。


「ぶち殺してやるっ!!」

舐められたままでは終われないとばかりに、男が殴り掛かって来る。


「次は・・・そう、ね」

女はドコッ、ドゴッと殴られているにも関わらず。

男の攻撃を一切、意に介さず思案している。


「【背筋力】、が良い・・・かしら」

「な、何を・・・?」

何か思い付いたのか、女は両手を男の脇腹に差し込み。


「い、痛て・・・」

更に、両足でそれぞれ、男の両足を踏み付けた。


踏み付けとは言え、いわゆるプロレス技のフットスタンプ等では無く。

単純に、足を踏んだだけの状態だから、それだけでは大きなダメージは無い。

ただ、224kgの超重量が男の両足に掛かり、激痛は走る。


「一体、何をするつも・・・うぎぃやぁぁぁっ!?」

女は、抱え込んだ男の脇腹に、何と“上方向”の力を加え始めた。

重い段ボール箱を持ち上げるイメージ、だろうか。


メキ、メキメキッ・・・


「うぎぃ・・・やめ、痛い痛い痛い」

男は途端に、悲鳴を上げ始める。


メギッ、メギギィッ・・・バゴォッ!


「う、っぎゃあああぁぁっ!?」

周りで見ているしか出来ない他の男たちは、何が起きているか理解出来ない。


それも、無理からぬ事だった。


女に抱えられるような形で、“男の身体が縦に伸びて”行っているのだ。

強制的な“身長延長手術”とでも言おうか。


「ん、ん・・・っと」

「痛い! やめっ、痛いっ! やめ・・・っ」

女は、自分に行った【護身サプリVer.2】での縦方向の【成長】。

それを無理矢理、男に施しているようなもの、だ。


重い段ボール箱を、それこそ【背筋力】で以って、持ち上げるかのように。


男は先ず、下腿部の骨が折れるかどうかのタイミングで膝と股関節が脱臼。

骨盤と太腿の距離が開く度にブチッ、ブチッという大腿筋の断裂する音がした。


「ここまで、か・・・な」

女は、男の背が自分と同じぐらいになったのを確認して、手を止めた。

男の両肩が脱臼してしまい、これ以上は【腕力】が作用してしまうと判断。


男は泡を吹き、既に意識は無い。


元は、180cm行かないぐらいだった男の身長は。

今、210cmの女と同じ上背になっていた。


「人間を縦に伸ばすなんて、ありえねぇ・・・」

男たちより頭一つ分、背が高くなったからこそ、出来る芸当。


「じゃあ、アナタは“逆”を試そう・・・かしら」

「・・・へ? 逆って・・・え?」

男が気付くよりも早く、女は男の肩に両手を置いていた。

更に、先程と同じように足を踏んでいるので、男は逃げられない。


上に対して、下。伸ばすに対して、“縮める”。


「や、め・・・うぎぃやぁっ!?」

女は、男の肩に置いた手に、下方向の力を加えて行く。


ボギッ、ボギャッ!


「うぎ、ぎぃ・・・っ、あ・・・」

足が固定され、女の超重量な体重が掛かっていることもあってか。

男の身体はドンドンと、縦に圧縮されて行く。


バギッ、メギギッ!


「上でも下でも、“同じ部位”から壊れて行くのね」

支点が“上に伸ばした”時と同じ、男の足な為か。

真っ先に折れたのが下腿部、その次が太腿だった。


「【筋重量】の確認だから、ここまで・・・ね」

女は『立位体前屈』をやり切ったような体勢まで行って、確認を止めた。

飽くまで、下方向への圧力を確認出来て満足したらしい。


もし、女に運動経験があり、身体の柔軟性が高かったら。

男は脚だけでなく、胴体も縦に潰されていただろう。


残るは後、二人。


リーダー格のグラサンアロハと、190cmの大男。


「次は、アナタが良い・・・かしら」

「く、来るなっ!」

女は大男に、照準を定めた。


「こ、来ない・・・でっ」

図体に似合わず、大男は涙ながらに後退っている。


「次は、【筋圧力】・・・ね」

「圧力? な、何だよ、それ」

女は大男の懇願を意に介さず、ズンズンと歩みを進めて行く。


幾ら広い部屋とは言え、筋肉巨女と大男が向き合えば。

壁際に追い詰められ、直ぐに距離は詰まってしまう。


「大丈夫。私は只、“歩くだけ”・・・よ」

「あ、歩くだけって・・・ちょ、待っ・・・」

大男は既に、壁を背にしていた。

防音設備が施された、分厚い壁。


「おっぱい、味わいたい・・・んでしょう?」

女は両手を壁に付き、更に距離を詰める。


勿論、逆壁ドンなどという甘い代物では無い。

大男の逃げ道を塞ぐ為、だ。


「・・・っ!?」

大男の眼前に、赤いビキニからハチ切れそうなスイカ爆乳が迫る。


「ん、むぐっ!?」

爆乳が、男の顔を塞ぐ。


「・・・ん」

少しは“感じた”ようではあるが、女は歩みを止めない。


ズン、ズンと更に、歩みを進める。


メキ、メキッ・・・。


「ん、ん~~っ!?」

爆乳に埋もれた大男から、声が漏れる。


ミシッ、ミシミシッ。


大男は何も、窒息しそうで声を上げている訳ではない。

まして、興奮して、では決してない。


メキッ、メギギッ。


壁と大男、大男と女の巨体。

それぞれが徐々に、ゼロ距離に近付いて行く。


メキメキッ、バキッ!


「~~~っ!!?」

バキバキッ、バギバギッ・・・


「~~~~っ」

バギャアッ!!


大男は身体の厚みを幾分か“薄く”して、その場に崩れ落ちた。


大男の胸元は服越しでわかるぐらい、厚みを失い凹んでいる。

間違いなく、アバラ骨が全滅に近い形で粉砕骨折した為だろう。


付け加えるなら、太腿も女の太腿に潰され、グニャグニャになっていた。

女は、身体の圧力のみで、大男の身体を潰してしまったのだ。


「こんなもの、かしら・・・ね」

女は、周りを見渡した。


縦に伸ばされ。

縦に潰され。

前後に潰され。


軽傷な者も居るにせよ、殆どが再起不能レベル。

死屍累々、だった。


「一応、“これ”の材質は調べておこう・・・かしら」

女は、“鉄球化”した警棒だったモノを爆乳の谷間に挟み込んだ。


「・・・あら」

「ひぃっ!?」

部屋の隅っこで、グラサンアロハはブルブルと震えていた。


「研究に付き合ってくれて、助かった・・・わ」

女は純粋な気持ちで、そう謝意を述べた。


「さて、と・・・」

男たちの別荘の後にしようと、外に出ると辺りは薄暗くなっていた。


「“これ”が着れなくなるのは誤算だった・・・わ」

白衣を脱ぐ前と今では、身体の厚みも上背も違い過ぎていた。


ビキニの上下は特殊繊維もあってか、ギリギリで保っているものの。

白衣に関しては、着て帰るのは無理そうだった。



―――と、その時。


ドンッ!


「・・・?」

と、背中に衝撃を感じ、前方向にヨロヨロと蹌踉(よろ)けた。


「・・・ん、と」

振り向くと、直ぐ後ろに大型ワゴンの車体が在った。


「なん、っで・・・」

運転席のドアが開いていて、中に居る者の声が聞こえて来た。


「“コイツ”で轢いて、何でピンピンしてんだよっ!?」

運転席に居たのは、大型ワゴンの持ち主と思しき、グラサンアロハ男だった。


リーダー格なのに、部屋の隅で震えるだけでは引き下がれない、と思ったか。

それとも、仲間をヤラれて、敵討ちをしたかった、のか。


「・・・なる程」

女は、思った。

逆上した男に、車で轢かれるケースも想定しないといけないという事を。


「追加の【実験】・・・ね」

これも、実地検証したから、こそ。


「ひぃっ!?」

両手を広げながら大型ワゴンの前面に張り付く女の顔は、笑っていた。

前向きな笑みでは決して、無く。嘲笑でも、無い。


妖しく艶やかな。妖艶な、微笑み。


メギ、メギャ・・・バギャッ!


「う、嘘・・・だろ!?」

運転席という特等席で、女はワゴン車の前面を拉げさせて行く。


メリメリッ、バリンッ!!


「うわぁっ!?」

頑丈な筈のフロントガラスが、窓枠の変形に耐え切れず、割れてしまう。


「こんな化け物女、付き合ってられるかっ!?」

慌てて車に乗り込んだのが幸いしてか、運転席のドアは開けっ放しだった。

もし、キチンと閉めていたら、逃げられずに車の中で潰されていただろう。


「逃げるの・・・かしら」

女は、思案した。


別に特段、悪態を付かれた事はそれこそ、全く意に介していない。

しかし、下手に見逃せば後から襲われるのを、この男は身を以って教えてくれた。


「っ! そう・・・ね」

冷静を通り越して、常に気怠げな女が、初めて。

思い付いた、といった表情をした。


「“これ”で【投擲力】を確認出来る・・・わね」

女は、谷間に仕舞っていた“鉄球”を取り出した。


「こう・・・かしら」

女は、動画でしか見たことのない野球を思い浮かべつつ。

力加減もわからないので、渾身の力で逃げる男の背中目掛けて投げた。


ビュンッ!! ドゴォォッ!!!


「ぐえ」

凄まじい速度で射出された鉄球は、物の見事に男の背中に命中。

男は吹っ飛び、木に激突して崩れ落ちた。


「どうなった・・・かしら」

結果の確認とばかりに、男の背中を見てみると。


「問題なし・・・ね」

鉄球は、男の背中に完全に減り込んでいた。


背骨が在る筈の位置に、鉄球サイズのクレーターが出来、そこに埋まっているのだ。

背骨がどうなったかは、言う迄もないだろう。


「ここまでやったら、最後まで・・・かしら」

次いで、と言わんばかりに、大型ワゴンに戻り。

女は“途中”になっていた、破壊を再開させた。


メギョ、メギョメギョッ!


「ん、・・・っと」

幾ら、女の超筋力を以ってしても、大型ワゴンの破壊は骨の折れる作業だった。


「次の課題は、体力かしら・・・ね」

女はそう言って、両手で抱えられるぐらいの鉄球に圧縮した車を置いて、その場を後にしたのだった。

Comments

okita

身体が縦に伸ばす程の背筋力、車よりも強い身体最高です。 更新お疲れ様でした。

デアカルテ

感想、ありがとうございます。 他の作品と被らないよう、描写にはいつも気を遣います。

名無しです

待望していた白衣の女続編最高です! 巨体化もあって最高です!

デアカルテ

感想ありがとうございます。 筋肉増えたら次は、と考えたら自然とこうなりました。

sunagimo7

感想遅くなりすみません。 おっぱいもしっかり成長しているところにこだわりが感じられて良かったです!

デアカルテ

感想ありがとうございます。 筋肉プラスおっぱいこそ、至高だと思っています。