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 あなたは、日本人ならばまず名前を知っているであろう東京の有名私大に現役合格をして入学し、上京して丸二年が経とうとする長崎出身の、三回生になったばかりの大学生である。


 そんなあなたは――有り体に言えば、『実家が太い』と呼ばれる類いの人間だった。

 事実として、父方の祖父は現役の県知事であり、父はその地盤を受け継ぐために政治家としての活動中で、少し年の離れた兄は東京で官僚としてハードな日々を送っている。

 母方の家も、九州の銘菓として非常に有名な菓子屋の経営者一族であり、つまりあなたは、お金に関して言えばそれこそ浴びるように持っている、口さがないものからは『長崎天皇』などと陰口を叩かれるような裕福な家に生まれたのだ。


 そんな恵まれた家系に生まれたのだからさぞ厳しい教育を受けてきたのだろうと言われると、実際はそこまででもない。

 確かに習い事の数は多かったものの、『詰め込み教育』と呼ばれるようなものとは縁遠い、なんとも気楽な生活であった。

 二人兄弟の下として、それはもう父方の祖父母からも母方の祖父母からも、なんなら遅くに出来た二人目ということで、実の両親や年の離れた兄からもたいそう可愛がられた甘ちゃんなのである。

 現に、今も東京で3LDKのマンションに一人暮らしをしつつも実家からの仕送りと、密かにもらっている父方と母方の祖父母からの『お小遣い』によって、普通の大学生ならば行うはずの『アルバイト』というモノも行わぬ――多少、幼い頃から続けている投資などで利益を得ているものの――悠々自適としたモラトリアム生活を送っているほどだ。


 そんな『ボンボン』と呼ぶに相応しいあなただが、それでも、その人生に挫折というものもあった。

 高校受験の失敗である。

 幼稚園お受験と小学校お受験、中学校お受験は無難に成功していたものの、なんと高校受験では第一志望はもちろんのこと第二志望、その下まで落ちてしまったのだ。

 これはプレッシャーによるストレスはもちろんのことだが、事前に食あたりで体調を崩してしまい、ものの見事に失敗してしまったというわけである。

 さすがに高校浪人など出来るわけもなく、長崎でも悪い意味で評判の高校の二次募集で無理矢理に入学した、という顛末であった。


 両親も失望することもなく、入学はしておいて転校のための手続きを行えばいいと慰めてくれて、事実、あなたも最初はそのつもりだった。

 だが、なんとも不思議なことにあなたはその高校に三年間通い詰めて、その高校で卒業までしてしまったのである。

 情けのない話だが、あなたはその底辺高校で――『恋』をしてしまったためだ。



『うち、月岡恋鐘ばい! これから一年、クラスメイトとしてよろしくばい!』



 月岡恋鐘。

 あなたはもう高校を卒業してから早一年も経とうとしているのに、その少女の名前も顔も、声も動きも、それこそ今眼の前に居るかのように、全てを鮮明に思い出せる。

 今まで出会ったこともないタイプの、美少女だった。

 『花が咲くような』、あるいは、『太陽が輝くような』という表現が彼女ほど似合う女性は居ないと断言できるほどの美少女である。

 どちらかというと『陰キャ』であり、その偏差値低めの高校でもアイドル趣味が合うオタク友達としか喋らない底辺カーストのあなたにもにこやかに声をかけて、打算も見下しもない本物の笑みを向けてくれる、あなたたちの底辺生徒にとっては天使のような存在だった。


 しかも、下劣な話になるが、なんとも発育の良い体をしていた。

 この学校にはプール授業がないためにナマの水着姿を見たことがないが、いつもあなたたちオタク・グループを見下してくるカースト上位の生徒が、『夏休みの思い出』として見せつけてきた浜辺での写真では、おっぱいやお尻を隠すようにフリルがたくさんついた可愛らしい、しかし、そのモチモチのおっぱいとパンパンのお尻が目立つ水着姿は、見た瞬間に網膜に焼き付いて、一ヶ月はその姿をオカズにしたものである。

 月岡恋鐘のスタイルは別格であり、そして、恋鐘自身はそんな自分の体を『いやらしい』と嫌悪に近い念を覚えているようにも思えた。

 さらに、こっそりと盗み聞きした会話によれば、普通ならば『胸とお尻にフリルでボリュームをつけてバストサイズとヒップサイズを大きく見せよう』という意図を持つ水着が、恋鐘は『フリルでおっぱいの谷間とおっきいお尻を隠すのにちょうど良いけんね~』というズレた目論見で使用しているというではないか。


 そんな恋鐘が眩しくて仕方なく、彼女はまさしく、住む世界が異なるところから降り立った『天使』なのだとあなたは想っていた。

 『月岡さんは冴えない僕の前に現れた本物の天使なのだ』と、半ば本気で思っていたほどだ。

 実家の太さを比べれば殿上人はあなたの方の癖に、あなたは月岡恋鐘のことを崇拝していたのである。

 そんなカースト最下位のあなたにも、カースト最上位の恋鐘との『思い出』というものがあった。



『あ~!? それってインディーズのアイドルグループの、まだ東京でしか発売してない新盤ばい!? なんで持っとるん!?』



 それは、アイドルオタク仲間に自慢しようと持ってきた、SNSを中心にカルト的な人気を誇っているインディーズ・アイドルの新盤であった。

 サブスクもなければ、事情があってMVもまだ動画サイトにアップロードされていないため、東京で限定販売された円盤でしかその曲を聞くことを出来ないお宝だ。

 これを東京にいる親戚のコネを使って入手したあなたは、その新盤を持っているところを月岡恋鐘に目撃されて先程の言葉を投げつけられたのである。

 しどろもどろに事情を説明した後に、お近づきのチャンスかもしれないと思って、あなたは、まだ十分に聞いていないはずのその新盤を『貸してあげようか?』などと、恩着せがましい言葉を口にした。


 当然だ。

 あなたにとって、この新盤のインディーズ・アイドルなどよりも、目の前に居る月岡恋鐘の方がずっと魅力的な偶像(アイドル)なのだから。



『本当に!? 嬉しか~! うちもね、この子たちみたいに最高のアイドルになりたいって……ううん、なっちゃるって思うとるけん! 研究っていうと大げさやけど、これを聞きたいと思っとったんばい!』



 結局、三年間の高校生活であなたと恋鐘が行った『交流』と呼べるものはそれぐらいだった。

 言うならば、『アイドル・月岡恋鐘』という劇的なストーリーの『高校時代編』における都合のいいモブ・キャラクターとして存在は出来たのだ。

 あの恋鐘のお話に関われた――それ以上に、嬉しいことなどあるわけがない。


 そうだ。

 あなたの高校時代における最良の思い出は、『月岡恋鐘が過ごす青春の物語に、モブキャラとして存在できたこと』であり。

 あなたが生まれてから最も強く神に感謝に捧げたことは、『月岡恋鐘があの憎らしいカースト上位の生徒や、自分たちとは比べ物にならない洗練された年上の男性と付き合うことはなかったという事実』なのである。


 恋鐘は自分の手に入るようなモノではない。

 そして別に、『潔癖なまま恋も知らないアイドルとして生きていてほしい』という理想を押し付けたいわけではない。

 月岡恋鐘の物語のモブとしてすらフェードアウトした後に、自分の知らない場所で幸せな恋をして、朗らかに笑ってて欲しい。

 そう思う程度には、あなたは良心的な性格をしていた。


 だから、あなたと恋鐘の関係はそこで終わりのはずだった。

 あなたが大人になって、テレビをつけた時に大人気アイドルの月岡恋鐘が現れて、『僕はこの子と高校時代に話したことがあるんだ』とよくわからない自慢をすることになる程度だ。

 それで、『月岡恋鐘物語』とも呼べるストーリーにおけるあなたの役目はお終い。

 なんとも幸せな役目である。



「キミ……高校の、時の……………?」



 雨に打たれて頬どころか体全体を濡らし、今にも倒れそうなほどに真っ白な顔をした月岡恋鐘と、雨雲に遮られて太陽の光も差さない薄汚れた東京の街で再会するまで、あなたは本気でそう思っていたのだ。





 あなたが目を覚ましてまず一番に感じた感覚は、股間に広がる温かい感触だった。

 春先でまだ寒いものの、空調が完備されているこの寝室ではちょうどよい室温に維持されている。

 これもまた、あなたを猫可愛がりする親族たちによる支援のおかげだ。

 あなたはある意味では生まれた時から決められたレールの上に乗っており、後はそこをトーマスのようなアホ面を晒してヘラヘラ走るだけで幸福な人生を送れるような、そんな圧倒的な勝ち組なのである。


 だが、それはあくまで人生全体を見た時の勝ち組に過ぎず――そういうこととは関係が薄い、学校のような独特のコミュニティ内では勝ち組とは言えない人生だった。

 おっとりとした性格の上に甘やかされて育ってしまったため、小学校では運動が得意だったりゲームが上手い、おしゃべりが上手などでカーストは形成されるもので、そういう能力が高くはなかったあなたは、カーストの中位かそれより少し下という位置で安定していたのである。


 そのため、あなたはオタク友達と楽しくお喋りをすることはあっても、運動神経抜群のイケメンや将来はテレビマンになるようなおしゃべり上手、また、華やかな女子などとは関わりが薄かった。

 当然、そんな人生を送ってきたのだから大学生になっても女性との性行為の経験がなかったのだが――――。



「あっ❤ 起きたばい❤ 今日は一限からで朝が早いって言ってたから、早めに起こしてあげなきゃいかんけんね❤」



 たぷんっ❤ たぷっ❤ たぷっ❤ にゅぷぷぅ~~……どたぷんっ❤


 そんな童貞であったはずのあなたなのだが、今、ベッドの中に一人の美女が潜り込んできて、なんと『目覚ましパイズリ』を行っているではないか。

 しかも、ただの美女ではない。

 その胸に蓄えられた乳房は、この世の全ての男を魅了できるであろうほどの媚肉たっぷりとついている、爆乳美女なのだ。

 しかも、その爆乳であなたの男根を挟み込んだ上でたぷたぷという擬音が聞こえてきそうな優しい動きで愛撫しているのである。

 この美しい顔と最高の爆乳、それでいて乳と尻以外――首周りや腰回り、二の腕や足などには余分な脂肪は一切ついていない完璧な体をしている美女なのだ。


「どうばいっ❤ これもすっかり上手になった自信があるんよ❤ ……えへへ、キミの顔とピクピクしてるおちんちんを見ると、気持ちいいみたいっちゃ❤」


 その美女の名は、月岡恋鐘。

 あなたの『憧れの君』であり、高校を卒業してしまえば出会うことなどもうないだろうと、諦めすら覚えずに当たり前のものとして受け止めていた相手が今、あなたに『目覚ましパイズリ』をしているのだ。

 そう。

 今のあなたは、あの月岡恋鐘と『同棲』をしているのだ。


「ん~っしょ❤ ん~っしょ❤ たぷたぷ、どたぷ~んっ❤ 相変わらず、こんパイズリが大好きなんやね~❤ こがんおっぱい、ポヨポヨして柔らかいだけなのに……男の子ってみんなこうなんと?」


 夢にまで見た、月岡恋鐘のおっぱいが自身の男根を包み込んでいる。

 それもただ挟み込んでいるだけではなく、『むぎゅぅぅ~❤』と強く挟み込みながら、『たぷんっ❤ どたぷんっ❤』と迫力たっぷりに上下に動かしているのだ。

 男根が覚える圧迫感と、根本で感じる打ち下ろされるの重量感によって、柔らかくて大きなこの爆乳おっぱいから確かに存在する『質感』を覚えてしまう。


「え~❤ また聞きたいと❤ もう……しょうがないっちゃね❤ うちの……月岡恋鐘のおっぱいは~……❤」


 上目遣いであなたを見上げてくる恋鐘の表情に、なんとも淫靡ないたずらっぽい笑みが浮かぶ。

 そもそも、恋鐘と目と目を合わせるということすら高校生活では片手の指で数えられるほどしかなかったのに、『あの日』からこっち、もはやその回数を数えることさえ馬鹿らしくなるほど恋鐘とは見つめ合っている。

 見つめ合っているのだが――それでも、一向に慣れない。

 恋鐘の大きくパッチリとしたお目々に見つめられるたびに、あなたは童貞中学生の頃から一切成長していない情緒が刺激されてしまい、顔を真赤にしてオロオロと狼狽えてしまうのだ。

 あなたは月岡恋鐘という天使にガチ恋してるオタクくんである。

 その事実は、たとえ高校を卒業して東京で再会し、訳あって同棲をするような関係になっても未だに変わらないのだ。

 さらに、そこから。


「102cmの……Iカップたい❤ 高校を卒業して東京に来てから、いっぱい大きくなったんよ❤」


 その天使が持っている爆乳のサイズを、天使本人から淫らに囁かれるのだから――あなたは、もはやこの生活が現実のものとは思えなかった。

 一年前まではあくまで93センチのGカップでしかなかった恋鐘だが、そこからさらに成長を果たして、バストサイズは9センチも大きくなり、カップサイズでは2サイズも上がってしまうという、男にとってあまりにも都合の良すぎる成長を遂げていたのである。

 それこそ、今からでもグラビデデビューをすれば日本全国にその名を轟かせることは間違いないだろう――本人がグラビアアイドルへの嫌悪感があるため、その未来が来ないことだけが問題なのだが。


 その爆乳おっぱいによるパイズリをあなたは味わっているのである。

 あの『雨の日』、あなたは恋鐘と再会する直前になんらかの事故にあって昏睡状態に陥り、そのまま夢を見続けているのだと言われても、むしろそちらのほうが納得してしまうような光景だ。


「ほら、ぽよんっ❤ ぽよ~ん❤ えへへ、うちのメーター越えのIカップおっぱいはぁ……キミだけのものやけん❤ こうやっておちんちんをおっぱいでマッサージするんも、もちろんおっぱいを揉み揉みするんを許すのも、キミだけばい❤」


 その上で、恋鐘はそのおっぱいを実感としても情報としても味わえるのはあなただけなのだとアピールをしてくるのである。

 月岡恋鐘は決してお金で体を売る娼婦ではない。


 もちろん、あなたは性風俗の類の労働に従事する人間を蔑んでいるわけではない。

 良くない理由で無理矢理にその労働に就く他ないという人物も居るのだろうが――それでも、その労働を好んで行っている人間も多く居るのだろうと漠然と感じているためだ。


 だが、それでもやはり、その体に価値、あるいは意味の違いというものが生まれるだろう。

 サービスとして提供されている女性と比べて、月岡恋鐘の体はお金をどれだけ積んでも貪ることが出来ないのである。

 その体を貪れる――しかも、その相手が恋鐘であるという事実は、あなたをどうしようもなく高揚させてくれるのだ。


「あっ❤ おちんちんがピクピク震えてきたばい❤ タマタマの方も……うんっ❤ ビクビクひくついてて、気持ちよさそうやけんね~❤ うりうり~❤ もっともっと、気持ちようしてあげるばいっ❤」


 故に、射精欲求が高まりに高まって、あなたの腰がひくつきだすのも仕方のないことだろう。

 ここである程度パイズリの責めが弱まればまだ耐えられるだろうが、しかし、恋鐘の動きはさらに強まっていく。

 おっぱいをより強く男根に挟み込みながら、上下だけではなくそのポヨポヨの爆乳をぐりんぐりんと撹拌するかのような動きまで加えてきたのである。

 あなたはこの責めを味わったこともあるのだが、未だに慣れない。

 故に、腰を――いや、下半身全体を痙攣させるように震わせて、あなたは射精するのだった。


「ほら❤ ぴゅっぴゅっ❤ どぴゅどぴゅっ~❤ おっぱいで受け止めるけん、いっぱい射精していいんよ❤ ぴゅっ❤ ぴゅっ❤ どぴゅぴゅぅ~~❤」


 びゅるるるっ! どびゅるるっ! びゅっ! どぶびゅっ! ぶびゅううぅぅぅぅっっっ!


「ひゃんっ❤ ふふふ、いっぱい出たばい❤ おっぱいのなかでぶるぶる暴れ回ってて……本当に朝から元気っちゃね❤ こん精液をお腹の中で出されたら……絶対に妊娠してしまうばい❤」


 寝起きから味わう最高の射精に、あなたは頭をしっかりと覚醒しながらも体中から力が抜けていく感覚もまた味わっていた。

 しかも、射精をしただけで終わりではない。


「こんからさらにぃ~……むにゅむにゅぅ~❤ むにゅむにゅぅ~❤ 射精疲れのおちんちんにおっぱいマッサージばい❤ 朝からお射精、お疲れ様~❤ おっぱいでナデナデしてあげるけんね~❤」


 射精直後で敏感になっているおっぱいに、パイズリのときのような激しさではないがおっぱいで、『もにゅもにゅ❤』と愛撫してくるのだ。

 しかも、102センチIカップの爆乳おっぱいの乳内には、射精をした精液を見事に収めているため、それが潤滑液となって先程のパイズリとはまた別の快感が襲いかかってくるではないか。

 まるで陸に打ち上がった魚のようにビクビクと全身を痙攣させるあなたを、恋鐘は愛おしいものを見るかのようにうっとりと潤んだ瞳で見つめてくる。

 それすらも心地よくて、あまりにも幸せすぎるものだからあなたはその幸福を満足に受け止められず、思わずと言った様子で視線を反らした。


「はぁ~い、これで朝のご奉仕はおしまいたいっ! 朝ごはんを用意してるから、準備ができたらすぐ来るんよ?」


 その視線を反らした後に、恋鐘はその爆乳おっぱいを男根から離していき、全裸のままあなたの寝室から出ていく。

 その先にはダイニング・キッチン付きのリビングがあり、そこであなたのために朝食を用意したというのである。

 おかしな話だが、あなたはこうやって恋鐘と性的な行為をしているときよりも、このように『僕のために家事を行ってくれている月岡恋鐘さん』ということを感じ取った時にこそ――恋鐘と同棲をしているんだなという気持ちを強く感じるのだった。


 本当に、人生に何が起こるかわからない。

 それはあなたが月岡恋鐘と同棲をしているという現実ももちろんのことなのだが、それ以上に。



「今日も美味しいと? えへへ、キミにそう言ってもらえるのが一番嬉しいばいっ❤

 さぁ、ば~りばり、食べていきんね❤」



 ――――東京に上京した月岡恋鐘が、アイドルになることさえ出来なかったという事実が、あなたには信じられないのである。





 月岡恋鐘は高校卒業後、すぐさま上京した。

 目的はただひとつ、『アイドルになる』ためである。

 もちろん、『アイドル戦国時代』とも呼べる今の御時世ならば、長崎のローカルアイドルからスタートをして全国デビューするという道もあるだろう。

 事実として、別の県の話ではあるが、その方法で今では全国区のアイドルとしてバラエティや歌番組、ドラマなどに出演をしている元・ローカルアイドルだって存在しているのだから。

 だが。



『アイドルと言ったら東京ばい!』



 月岡恋鐘はその道を選ばなかった。

 長崎からスタートをして全国区のトップアイドルになる、確かにその道も存在するだろうが――単純に人口が多いということは多くの魅力的な少女がいることになる、群雄割拠の東京で成功をしてこそのトップアイドルだという、どこか奇妙なアイドル観を恋鐘は持っていたのだ。

 そして、恋鐘はそんな厳しい状況でも成功をしてみせるという意欲に満ち溢れていたのである。

 そう、最初の半年までは、だ。



『それって別にうちの事務所じゃなくてもいいよね。こっちも、別に貴女じゃなくても良いですし』



 恋鐘は、オーディションに落ちまくった。

 眼高手低ではないが、理想の高い恋鐘はまずは有名なアイドル事務所のオーディションに参加し続けて、そこでそこそこのパフォーマンスとぶっちぎりのビジュアルで面接までは辿り着くのだが、そこからの面接で失敗をし続けたのである。

 ひとえに、恋鐘が抱く『アイドル像』というものが強固すぎたせいだろう。

 水着グラビアへの消極的な態度に奇妙なキャラクター作りへの嫌悪感、そういったモノが隠しきれず、そして、アイドル業界に根付いている面接を担当した事務所の社員はそれを読み取る力に秀でていた。

 ようは、『良いところはまでは行くものの受からない』という状況に頻発してきたのだ。


 ここまで来れば、さすがに自信を持って上京してきた恋鐘の心も弱ってくる。

 落ちるにしても手応えの覚える落ち方ならばまた違っただろうが、運悪く、恋鐘が受けたオーディションの面接官は厳しさを前面に出してくるタイプの面接官だったのも良くなかった。

 オーディションに落ちるということは、自分という存在を否定されることにも等しい。

 地元では『超ポジティブ美少女』と名高かった月岡恋鐘であっても、それが連発すると、大きなダメージを負うような出来事だったのである。



『うん! それじゃ明日からこっちに来てもらおうかな! ああ、でも、レッスン料とかの相談を先にしたほうが良いかな?』

『は、はい! よろしくお願いします!』



 東京に来て初めての冬、ようやくオーディションに受かった。

 それはアイドル部門を立ち上げたばかりらしい、恋鐘自身も詳しくは知らない企画会社だったようだが――それでも、今まで散々に自尊心を傷つけられてきた恋鐘は深く考えず、その合格に心から喜んでいた。

 元々、恋鐘は地頭が良い方ではない。

 東京は狭くて深い、どこがどこに繋がっているのかは一見してはわかりにくい。

 そういう意味で、理想が高かっただけとは言え、有名な事務所という背景が綺麗であることの多い事務所のオーディションに参加し続けた恋鐘の選択は正しかったのだろう。


『れ、レッスン料って、こんなにかかるんですか……?』

『まあね……でもほら! うちには寮があるからさ、その家賃の分だとでも思ってもらえれば良いよ!』


 一ヶ月経って、恋鐘は住居を寮に移した。


『あの、デビューっていつ頃に……?』

『だいじょーぶだいじょーぶ、春先がこの界隈が一番盛り上がるからそこに合わせてるんだって』


 三ヶ月経って、未だに続くダラダラとしたレッスンに不安を抱いた。


『ち、チケットノルマ……すみません、達成できなくて……』

『困るなぁ。まあ、でもそれは買い取りしてもらわないとね』


 半年が経って、東京に知り合いなど居ない恋鐘ではチケットノルマを捌けないために資金も減っていった。


『ど、どういうことばい!? アイドル部門が終わって別の部門に異動って、し、しかも、こんな……こんなの……!?』

『あぁ~ん? 乳しかない女なんだからこれに転がるのがわかりきってたことだから当然だろう? ダンスも並で歌も並、乳とケツは出したくないなんての通らねえって! アイドルよりこっちのほうが稼げるぜ? 大陸の方じゃポルノ女優はアイドル級の人気っていうしな!』


 八ヶ月が経って、やっとそこが良くない事務所だと気づいた。


『そ、そんなの納得できんたい! まだまだアイドルやらしてくだ――――』

『うっせえなぁ! もうお前みたいな乳がでけえだけの馬鹿じゃアイドル売りできねえんだよ! なら、その乳とケツさらけ出すAV女優しか道ねえだろうが!』

『ひっ……!?』

『レッスン料だってこっちが5割負担、寮だって格安で譲ってんだぞ? 一年も経ってねえのにこれじゃ……契約違反だよなぁ? おらっ、嫌なら違約金を出しな!』


 ――――そうして、月岡恋鐘は貞操以外の全てを失った。


 それから何をしていたかというと、アパート暮らしですらなくインターネットカフェで寝泊まりとシャワーを済ませるネカフェ難民となり、アイドルになるためのレッスンさえ行わず、日々の暮らしのためにアルバイトをしていたのである。

 たちの悪い事務所と縁を切るために借金までしてしまったため、毎日毎日、生活費を切り詰めて死んだような目で働く日々である。

 長崎の実家に泣きつくという手も、なくはなかったが、その場合は間違いなく東京から帰ってこいと言われてしまうだろう。

 それだけは嫌だった。

 アイドルになろうという気力はゴリゴリに削られていてオーディションのことなど考えることもできないほどなのだが、それでもやはり、『いつかは、きっといつかは』と夢を見てしまう程度には、この眠らない町、不夜城・東京の魔性に取り憑かれてしまっていたのである。


 もしも、尻尾を丸めて帰ってしまえば――恋鐘は、ただ失敗をするためだけに上京したことになるのだから。


 せめて、なにか結果が欲しいと恋鐘は求めてしまったのだ。

 西日の刺さないカビ臭い暮らしをして、いつかどこかでなにか逆転が起きるのではないかと期待しながら、それでいてなにか未来のためになるための勉強をするわけでもないため、そんな甘いことが起こるわけがないだろうとため息をつく日々である。



『キミ……高校の、時の……………?』



 そんな日々の中、雨の日に、名前も覚えていない高校時代の同級生に出会った。

 いつもクラスの片隅で似たような友人たちと楽しそうにアイドルの話をしていた――はずである。

 それを断言できない程度には遠い人物であり、同時にそんな人物の顔を覚えていたのは、アイドルオタクということで奇妙な仲間意識を覚えていたことと、三年間同じクラスだったという縁があったためにしか過ぎない。


 なのに、そのクラスメイトは、キラキラとしていた。

 大学生として髪を整えて、そこそこ以上に値の張るである高級な服とカバンを抱えて、明日の生活に不安を思うことなどないのだろうなとはっきりと分かるほどの雰囲気を放つ、『勝ち組』だった。


『あっ……あぁぁっ……!』


 涙が流れた。

 同じような大学生を見ても覚えない、ただ、長崎時代のキラキラとしていた『月岡恋鐘』を恋鐘は思い出してしまい、もう耐えられなくなってしまったのである。

 心の何処かで見下していた相手がネカフェ難民になった自分よりもキラキラとしていることを直面させられてしまい、あれだけ東京にへばりついて、何らかの方法で成功したいと願っていた想いが完全に消え去ってしまったのだ。


 ――――帰ろう。


 長崎に帰って、平凡な生活を送ろう。

 いつか先、『うち、昔は東京でアイドル目指しとったんよ~! 怖い人に騙されたっちゃけどね!』と笑い話になるはずだ。

 毎日毎日ひもじい思いをして、明るい街の中で暗い顔をして働く日々は駄目だ。

 貧困は嫌だ。

 もう、誰からもバカにされたくないし、つらい思いもしたくない。

 乳とケツはデカいと言っていたし、長崎なら男の人と幸せなお付き合いができて、お気楽な専業主婦生活が出来るかもしれない。


 本来の月岡恋鐘ならば覚えるはずのない、卑屈で矮小な、欲望に溢れた考えがどんどんと湧いてくる。

 自分を褒めてくれて、可愛がってくれて、特別だと言ってくれて、お金の心配をする必要のない明るい日々を送りたい――東京によって自尊心をズタズタに切り裂かれた恋鐘はそんなことを考えてしまうぐらいには、もうキラキラに輝く恋鐘には戻れないのだ。


 そんな雨の中で泣きじゃくる恋鐘に、クラスメイトは優しく接してくれた。

 行くところがないのなら自分の部屋に泊まると良いと言ってくれて――恋鐘は、自暴自棄なままにその考えに乗ったのだ。



『…………大きい』



 クラスメイトの部屋に入った時、呆然とそんなことを呟いてしまった。

 猫の額のような恋鐘の安アパートとは比べることしか出来ない、大きな3LDKのマンション。


 ――――月岡さん、落ち着くまではこの部屋、好きに使っていいからさ。


 そうして、恋鐘はその部屋に住むようになり――決して悪意ではなく、そのクラスメイトが持っている通帳の中身を、ひょんなことから見てしまうのだった。

 そこに並ぶ数字は、恋鐘が見たこともないような数字で、それを同い年の男子大学生が持っているということが信じられないほどのものである。


 そこから、恋鐘は様々なことを知った。

 クラスメイトは長崎では有名な大富豪一族の末っ子であること。

 東京の私立大学に進学して、仕送りを多く受けていること。

 それどころか、その融資された資産を元手に投資を行って学生の身でお金を稼いでいること。

 このアイドルオタクであることしか知らなかったクラスメイトは、実は高校時代では全く意識していなかったが――『結婚相手』としては、これ以上ないほどの優秀な男性であるということ。


 月岡恋鐘は、それを知ったのだ。

 そんなクラスメイトなのだから、この学生が住むような場所ではないマンションの部屋にも住めるし、家賃も取らずに自分のような女を住ませて食費も必要ないと言えるのだとわかった。


 それを知った恋鐘の中に、どす黒い欲望が湧き上がった。

 二年前までは考えることさえなかったような、あまりにも自分勝手な考えである。

 恐らく、高校時代の月岡恋鐘が今の恋鐘を知れば、『何考えとると~! せがらしか~!』と怒りを露にしてこんこんとお説教をしただろうが――ここにいる月岡恋鐘は、東京という魔性の街で夢と心をズタボロに切り裂かれてしまった恋鐘なのである。

 貧すれば鈍するという言葉にも良く似た形で、恋鐘はとっくに『堕落』してしまったのだ。

 だからこそ、恋鐘の行動は早かった。



『…………実は、うちね……キミのこと、好きやったんよ』



 ――――この玉の輿に乗ってみせる、と。



 かつて『キラキラの月岡恋鐘』だった『下劣な月岡恋鐘』は、己自身に誓ったのである。


(続)

東京でアイドルを目指していた元クラスメイトの月岡恋鐘さんが夢破れた結果、金持ちボンボンのあなたに媚びを売ってイチャラブ彼女になって玉の輿に乗ろうとしてくるお話(後半)


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