Home Artists Posts Import Register

Content

Skebのご依頼で書かせてもらいました。よろしくお願いします。

────────────────────────────────────────────────


 夢野公男は、S県K市で生まれ育ち、高校卒業後に一人暮らしで近隣県へと就職をして、十五年ほどが経ったまま働いている、平凡な三十代の独身男性である。

 現在の彼に恋人はなし――――これは『今は居ない』という意味ではなく、『今まで居たことがいない』という意味での恋人なしだ。

 かつて、就職先の先輩から連れられて性風俗で初体験を済まして、一時期は猿のように『そういったお店』に通っていたものの、それも落ち着き、今では半年に一度行くか行かないかぐらいのもの。

 公男は『お仕事の女性』としか性行為を経験したことがない、俗に言う素人童貞である。

 友人は少ないがインターネットには親よりも自身のことを良く知っている


「ふわぁ~……終わった終わった。これで、あと一ヶ月は落ち着いてくれるかな~」


 県内にあるとある会社で働き、年功序列のようにそこそこに出世もして、新入社員やバイトの面倒を見つつ、県内の巨大商業施設に出店している飲食店の店長の役職にもついている公男は、大きく伸びをしながら暗くて人通りも車の通りも少ない、なんとも寂しい国道沿いを歩いていた。

 今の仕事は、面倒なことを上からも下からも回されるために気苦労も多いが、しかし、ある程度は決まっている繁忙期をすぎればのんびりと過ごせる、とにかく気力や覇気というものがない公男にとっては『ちょうどよい』仕事である。

 客商売である以上は盆と正月が繁忙期となるために拘束されてしまうが、それも終わってしまえば遅れたお休みとして隣県の実家にも帰れるぐらいには気楽な仕事だ。

 今の時期は、これもやはり上からは業務確認という名の呼び出しと、下からは相談という名の丸投げが多いことだけが不満ではあるが、それもまあ、公男特有のヘラヘラとした態度で乗り切れる程度である。


「人肌恋しいなぁ……」


 とは言え、それでもやはり寂しさのようなものは覚えてしまう。

 先述したように、公男は独身の恋人なしで一人暮らしをしている。

 隣県と言ってもその気になれば数時間で実家に戻れる距離だし、実家で暮らしている両親や、五年前に結婚している兄夫婦とも別に仲が悪くない。

 年に四度会う程度の甥っ子もそこそこには公男に懐いてくれるし、愛らしい子供を無責任に可愛がるという育児の美味しいところだけをフリーライドすることだって出来る。

 だが、なんというか――だからこそ、頻繁に戻るというのも気が引けるものだ。

 家族仲は確かに悪くないが、悪くないというだけなのである。

 『「親孝行したいときには親はなし」という言葉をいつか思い知るのだろうな』などと想いながらも、自覚を持てないのだから結局親孝行もしないままという、よくある平凡な人生を公男は送っているというわけだ。


「あっ……そういや、今日はアレじゃん! ディスティニー召喚の、更新の日!」


 ぼぉっと歩いていた公男は、そこで今日が大好きなソーシャルゲームのアニバーサリー企画の更新が行われていることに気づいた。

 大人気ソシャゲ、『Fate/Grand Order(以下、FGO)』が『☆5確定福袋ガチャ』とは別に、『ディスティニーオーダー召喚』が実装されたのである。

 指定した9騎のサーヴァント(ユニット)の中から1騎が確定で召喚されるという、まあ完全確定ではないが、普段のガチャや福袋ガチャよりも可能性を感じられる特別な企画だ。


「繁忙期が重なって追えなかった鯖がいるもんな……さて、選んでくか……」


 一人暮らしであることを良いことに、二次元オタク男子である公男はこのFGOに多額の課金をしている。

 重課金とは言わないが、塵も積もれば山となるを地で行くプレイスタイル。

 ローンチ当初からプレイをしている公男の課金額を数えれば、そこそこな値段の軽自動車だって買えてしまうぐらいの『課金兵』であった。

 そんな公男は最高レアリティである『☆5サーヴァント』もその多くを、宝具レベルが低めではあるものの、揃えている。

 それでも、仕事が繁忙期である時期はログインをするだけの『ログボ勢』となってしまうこともあり、ガチャも限界まで追えないということがあるのも事実であった。

 公男はそんな理由で手に入れられなかったサーヴァントを入手するために、画面をタップしてサーヴァントを選択していく。


「おしっ、出来た……! 回すぞぉ……!」


 セイバーには未獲得のサーヴァントが居ないため、宝具レベルを上げたいという意味を込めて『アーサー・ペンドラゴン』を選択。

 アーチャーには、巨乳スキーであるため懐と相談して見送ったのに、後の水着イベントで『隠れ巨乳』であったことを知って血涙を流した未獲得サーヴァントの『清少納言』を選択した。

 ランサーには、性能厨な一面もあるために高難易度クエストなどでも使用頻度の高い『メリュジーヌ』を、より使い勝手を良くするために選択していく。

 ライダーには、宝具レベルを限界の一歩手前のレベル4までは上げれたがそれ以上を重ねられなかった、FGO開始前から大好きなキャラクターであった『アルトリア・ペンドラゴン[オルタ]』を迷わず選択する。

 キャスターは有能なサーヴァントが多いと感覚で知っているために残さず確保しているため、どれが欲しいということもなかったため、少し悩んだ末に性欲に忠実に従って爆乳美女の『紫式部』を選んだ。

 アサシンは未獲得のサーヴァントが二騎、『山の翁』と『謎のヒロインX』がいるために悩んだのだが、ユニットのスペックと同キャラクターとも言える『謎のヒロインXX』を所有していたために、ここは『山の翁』とする。

 バーサーカーは未獲得のサーヴァントも居るのだが、巨乳スキーとしての性欲と普段の周回のストレスを格段に下げてくれる性能に惹かれて、『伊吹童子』の宝具レベルを上げることを迷わなかった。

 エクストラクラスのうちの一つは、すでに入手しているものの、大好きなアルトリア・オルタとストーリー上でも絡みがあった『ジャンヌ・ダルク[オルタ]』を指定しておく。

 そして、残ったエクストラクラスは――――。


「当然、レディ・アヴァロンだよな。先にやっておいた福袋で引けなかったし」


 未入手のサーヴァントであった、レディ・アヴァロンである。

 この水着イベントは3騎もの☆5サーヴァントが実装され、さらには仕事が忙しかったことから同イベントで実装されたスカサハ・スカディと伊吹童子の二つしか手に入れることが出来なかったのだ。

 イベント中のミステリアスで余裕を持った、しかし、プレイヤーであるマスターのことを『お兄ちゃん』と呼ぶ姿が好感を持てたものである。

 『推し』と呼ぶほどではない、それほどのお気に入りキャラならば無理矢理にでも手に入れていたはずなのだから。

 それでも、このような状態ならばレディ・アヴァロンを選択するぐらいには好感を持てるキャラクターであるのもまた事実であった。


「よ~し、それじゃ回――――うわっ……」


 そして、召喚のボタンをタップしようとした瞬間に、スマホへと上司からの連絡が来てしまった。

 苦手な上司だ。

 二年前までは自分をかわいがってくれていた先輩が直属の上司となっていたのだが、異動と合わせて上司も変わってしまったのである。

 『はぁ……』と溜息を一つ入れて、それでも社会人として無視など出来ないと鬱屈とした気持ちでその電話を取るのだった。


「はい、どうしましたか?」

『おう、お疲れ。もう帰ってるのか?』


 そこから続く言葉は、想像通り大した理由もない『釘を刺す』だけの言葉だった。

 明日は休みだが常に電話には出れるようにしておけ。

 大事な時期だからこっちに来てもらうかもしれない。

 こんな時間に帰れるなんて余裕そうで何よりだな。

 仕事はできるものの、公男のような部下はもちろん上層部からもあまり『ウケ』が良くないのも納得のどこか厭味ったらしい、そんなネチネチとした粘着質な性格を感じさせる言葉を聞き流していく。


「はい。はい、はい。お疲れ様でした」


 どうせ意味などないのだ。

 公男は無気力に見える姿が気に入らないうえに信頼ができないからこのような電話が来るのも珍しいことではない。

 言葉だけ真摯に思える声で対応しながら、体はだらしなく壁にもたれかかった状態で、中身のない電話が10分を越えてやっと終わるのだった。


「ふぅ……気をそがれちゃったけど、さっさと回そうっと!」


 そうして、スマホを横向きに構えて、歩きながら今度こそ画面をタップする。

 画面の中で光がグルグルと周りながら、『ガチャ』が始まる。

 ちなみに公男は未スキップ派、ドキドキをしながら時間たっぷりとガチャを楽しむタイプだった。

 ワイヤレスイヤホンで音楽を聞きながら画面だけを見つめる猫背の姿勢で歩いている公男に、『歩きスマホは危険だ』なのだという当たり前のことも忘れて、ガチャに集中してしまっている。

 それが良くなかった。


 キキィィィィ――――ッ!


「え?」


 物凄い音が響き渡るその直前まで、目の前に巨大な鉄の塊が目前に迫っていることにも気づかなかったのだ――――。





 『レディ・アヴァロン』――――いや、『マーリン』は三十と数年前に、『運命』と出会った。

 なんてことはない話だ。

 いつものように『面白い物語』は転がっていないものかと、『多元世界』の一部をその千里眼を用いていたその日、とある『赤ん坊』が生誕したのである。

 しわくちゃの顔に普通よりも少し体重のある、見事な健康優良児の出産だった。


 その赤子の顔を見た瞬間にマーリンは全身が、いや、魂まで含めて雷に打たれたような強烈な衝撃に襲われたのである。

 マーリンという存在はこの人間にすべてを捧げるために生まれたのだと、一切の疑いもなく感じ取ったのだ。

 このマーリンにとっての運命である赤子こそが、夢野公男その人である。


「ふぅぅぅっぅ~~❤ うぅぅっぅ~~❤」


 そんなマーリンは今、日課である夢野公男へのストーキング行為を行っていた。

 いや、日課という言葉も正しくないだろう。

 公男が生まれたその瞬間から、マーリンの全てを見通す目は彼だけを見つめてきていたのだから。

 敏いものならば気づいただろうが、『プロト・マーリン/レディ・アヴァロン』は、正確に言えば、我々が知っている物語――――『Fateシリーズ』の中の登場人物のマーリンと同一人物というわけではない。

 マーリンは、二次元のキャラクターというわけではなく現実に生きる一つの命なのである。


 マーリンはこの世界から隔絶された、【楽園】と呼ばれる場所で暮らす妖精だ。

 人では感じ取ることも出来ない不可思議な御業を自由自在に操り、人では見ることも出来ない多種多様な世界へと視線を飛ばし踏み込むことも出来る。

 一種の『超越者』――――俗な言い方をすると、神様なのだ。

 そんなマーリンがなぜそっくりそのままの姿と性格で【TYPE-MOON】の作品にキャラクターとして参加しているかというと、それはマーリンの魔術によって原作者や関係者の魂へと自身の存在を刷り込んで、無理矢理に自分の存在をねじ込んだのである。

 アーサー王物語もまたマーリンが体験した物語の一つで、それがこの世界に英雄伝説として根付いているのも、自身のお気に入りの物語を見せびらかしたいがために、人類の共通無意識の海に干渉したということだ。


 そんなマーリンが、なぜそのようにこの世界へと干渉をしたのかという理由が、先述の『運命』の話に戻ることになる。

 もうロマンも何もない言い方をすれば、マーリンは公男の魂の形にひと目でガチ恋してしまい、直接会うのは照れくさくてとても出来ないが、それでも自分の存在は認識してもらいたいという、なんともねじれ曲った性格をしていたがために、公男が好むであろう作品に先回りして原作者の脳内へと自分の存在を刻みつけたというわけだ。


「あぁ……もうっ❤ 本当に危なかった❤ あのままだとキミを失うところだったよ❤ いわゆる『来世』があるとはいえ、一瞬でもキミという存在がこの世から失われるなんてあってはならないからね❤ ああ、それにしても……ふふふ、ありがとう❤ 私を『ディスティニー召喚』で、召喚してくれて……❤ お陰で縁が出来て、キミをこの時空に引きずり込んで助けることが出来たよ❤」


 そんなマーリンはいつものように『公男ウォッチング』を行っており、『ついに公男がボクを引いてくれるかも❤ お願いお願いっ❤ 確変が入って❤ 他の奴らじゃなくてボクが引けるようになって~❤』と、自分自身が神様同然のくせに、なるべく公男の素晴らしい魂を穢したくないという超越者にしかわからない理由で公男に干渉をしていない方針のために、神のような存在が神頼みをしていたのである。

 だが、公男がトラックに轢かれるとなればその方針も放り投げる他なかった。

 様々な制約もあって、自分を魅了するほどの運命の相手である公男に干渉をすることは本来難しいのだが、しかし、公男がトラックに轢かれる直前にタップしたディスティニー召喚によって、ゲームの中のプロト・マーリンが引かれてしまった。

 そこで縁が生まれたことで、マーリンは公男へと向かってその万能の力を振るうことが出来るようになったのである。


「同時PUのときにスカサハ・スカディだとか伊吹童子だとかいう奴らを引くことを優先された時は、怒りで憤死しそうだったけど……いや、あれはあれでキミに粗雑に扱われているようで気持ちよかったんだけど……❤ と、とにかく、それも今のためだと思えならば、悪くないものだね❤」

「ん、んっぅ……」


 大好きな公男から『う~ん、今回は☆5が3騎もいるなら、スカディと伊吹童子を優先するかな~』と言われた時は絶望的な気持ちになったが、その際にマゾヒスティックな快感を覚えて絶頂をしたぐらいには、マーリンは公男にとって『都合のいい牝』なのであった。

 その時の屈辱と快感を思い出しながら腰をくねくねと踊らせていたところを、公男が声を漏らして、『時空移動』した衝撃で陥っていた失神状態から回復しようとしていた。


「あっ、お、起きる❤ んんっ❤ こんっ、こんこんっ❤ 声、裏返ってないね……❤ 大丈夫、僕は今日も可愛い……❤ 公男くんの前に出るに相応しい状態をちゃんと維持できてるっ❤」


 マーリンは真っ赤に染めていた顔を、心を鎮める魔術を使ってすぅっと見事な真っ白な肌の美しい顔に戻して、ゲームの中そっくりな、どこかイタズラっぽい魅力的な笑みを浮かべて公男が起きるのを待つ。

 鎮静の魔術を使ってもすぐに心が昂ぶるために再び心を鎮め、それでもまた昂ぶるためにまた鎮め――――そんな繰り返しを密かに十秒ほどの間に十回近く行っているぐらいには、マーリンは公男にゾッコン一目惚れの恋する乙女なのだった。


「あれ、ここは……? オレ、確か車に轢かれそうになって……あれ?」

「やあやあ、お目覚めのようだね――夢野公男くん❤」


 ようやっと目を覚ました公男へと向かって、マーリンはなるべく『マーリンらしい』、どこか飄々とした余裕のある態度で声をかけていく。

 だが、それでもやはり言葉尻がどこか蕩けて、媚びるように半音高くなってしまうことは本能で行ってしまい、理性で止めることは出来ないほどに、マーリンは公男へと『ガチ恋』をしてしまっていた。


「え、あれ……え、ええ!? マ、マーリン!? プロト・マーリン!? コスプレ……じゃないだろ、なんだこれ、なんだこれ!? 今の特殊メイクってこのレベルなの!?」


 公男のぼんやりとした目がマーリンへとピントが合っていくと、続いて、その顔が驚愕に染まっていく。

 もちろん、そのマーリンが本物だとは思わない。

 意識を失う前に何が起こったのかを覚えていないため、現実とは地繋ぎであるためにマーリンのことを『物凄くレベルの高いコスプレイヤー』だと判断してしまったのだ。

 それを受けて、マーリンは少しだけ不機嫌そうに、それでも頬が緩んでしまう表情を隠しきれずに、公男の言葉に応えていく。


「これは心外だな。私は正真正銘、本物のマーリンさ。偽物扱いなんてしてほしくないものだね。さて、キミは何があったのか覚えているかな?」

「え……俺に、なにがあったのか……? えっと、確か、仕事が終わって、歩きスマホでガチャ回してて……そ、そうだ……! お、オレ、車に轢かれて……! って、あれ? 轢かれて、ない?」

「うん、記憶に齟齬はないようで安心したよ。召喚した立場として、キミになにかの不調が起きていたら申し訳ないなんて言葉じゃ済まないからね」

「……ひょっとして、マーリンが助けてくれたのかな?」

「その通り! ふふふ、なんて話が早いんだ! やはり、私が見込んだ人物なだけはあるね……❤」


 マーリンは『大好きな公男くん』に引かれないように、意図してテンションを下げた状態で接していたのだが、それもやはり次第にボロが出てきてしまう。

 魂レベルで魅了されてしまったマーリンは、公男とただ喋っているだけで興奮してしまい、さらに、公男の唯一の長所である『現状把握能力』とでも言うべきものの高さによって、話が長々と脱線しないことに夢中になっている。

 生まれたその時からストーキングを開始しているために公男が偏差値48の高校の落ちこぼれ組な高卒な低学歴だということは知っているのに、『さすがは公男くんだ❤ 地頭がいいんだろうね❤』と無条件で公男を『持ち上げる』ような思考をしてしまうほどだ。


「なら、こちらも話は早く済ませようか。

 まず第一に……私はマーリン。キミの知っている、『超美少女天才魔術師でみんなの妹属性な大人気キャラクター』のマーリンとちょっと違うところはあるけど……まあ、一緒だと思ってくれていいよ。

 その違うところっていうものの一つが、そう、実在しているということぐらいだからね!」

「…………え、ええ!? Fateって、ガチであったってこと!? 異世界とかで!? きのこはなんか不思議な力でそれを感じ取ってたみたいな!?」

「部分的にイエスだね。原作者が創造したことで不思議な力で新しい世界を作り上げた世界と、それとは別に元々存在していた『似たような世界』があるのさ。

 そして、キミの知る『ゲームの中のマーリン』よりも、この私、『本物のマーリン』は万能の力を持っているのだよ」

「それで、僕を助けてくれたの? なんか、異世界転生モノみたいに?」

「その通り。キミはこんなところで死ぬべき人物ではないからね。本当はもっと早くにキミと交流を持ちたかったんだけど……いやぁ、縁が遠くてね」


 少し寂しげにつぶやくと、公男の表情もまた曇っていく。

 神秘的で幻想的な美少女であるマーリンの沈んだ顔は、理由なく周囲の人間の気持ちを落ち込ませる力があるのだ。

 そんなこともあり、マーリンの美貌に魅了されていた公男が心配そうな表情を創るのだが――。 


(うっわ、可愛い❤ 普段はあんなにかっこいいのに、そういう顔をしたら可愛いだなんて卑怯すぎるよ、公男くんっ❤ やっぱり、ナマは遠視の魔術なんかとは違うな~❤)


 当人であるマーリンは、生まれた瞬間から運命の相手だと魂を魅了されている公男のナマの姿に魅了されてしまっているのだった。

 このことからも、マーリンはとにかく公男にとって無条件で都合のいい存在だということがはっきりとわかるだろう。


「…………あれ、ひょっとして?」

「ああ、本当にキミは話が早いね。そう、キミはあの『ディスティニー召喚』で私を見事に召喚したのさ。ゲームでの縁も私にとっては現実の縁。生まれた縁を辿って、私はキミをこの『楽園』に召喚することで車の衝突を回避したというわけさ!」

「うお~……! ありがとう、マーリン! うわ、すげえ! 死んでもないし怪我もしてないんだ! 痛いの嫌いだからめっちゃ嬉しいよ~!」


 頭は良くない分だけ頭の軽い公男は、パワハラ上司にも負けずヘラヘラと雇われ店長をやっているだけあって、とにかく前向きである。

 場合によっては『拉致』とも思える行為だが、お気楽な公男はとにかく無邪気に、素直に、命が助かったことを喜んでいた。


「公男くん、実はね、私はキミのことをずっと、ずっとずっと、ずぅ~っと見てきたんだ。キミの報われない人生をね?」

「へ?」


 そんなお気楽な公男だからこそ、マーリンが沈痛な表情とともに語りだしたその『公男の報われない人生』というものをまるで理解が出来なかった。


 曰く、兄ばかりを可愛がる両親によって放置されて育って今でも全く顧みられていないこと。

 曰く、仕事の手柄も卑劣な上司に掠め取られて出世ルートが潰えて辺鄙な店の管理職に流されてしまっていること。

 曰く、素敵な男性であるはずなのに見る目のない女たちのせいで今まで女性との交際経験がなくて、心無い軽薄な男たちからも見下されていたこと。


 ――――どれも、公男にとって全然知らない不幸である。


 兄ばかりを可愛がるというが、兄は優秀な上に努力家で、勉強や運動などを日々頑張っていたからフォローが必要だっただけだ。

 怠け者である上に平凡な公男はいちいちフォローするほどの苦労をしていなかったから構われなかっただけに過ぎない。


 仕事の手柄を卑劣な上司に掠め取られたというものは、恐らく大きなプロジェクトで出世していた尊敬できる先輩の話だろう。

 だが、それは間違いなくその先輩がグイグイと周囲を引っ張っていって、公男を始めとするメンバーたちのメンタルケアも完璧に行っていたからこそ成功したプロジェクトだった。


 不当な評価を受けて交際経験がない素敵な男性ということだが、それは間違いなく別人の話である。

 残念ながら公男は自他ともに認める非モテ男、その内面も外見も、友人としては大歓迎だけど恋人にするには、と言われるような『女性ウケ』しないものだ。


 とは言え、公男にとっては全然不幸ではない人生だったのだが――公男に非が全くないのに世界に嫌われるかのような人生を送ってきたのだと言わんばかりのマーリンの言葉だった。

 そんな風に、脳内へと無限の『はてなマーク』を浮かべている公男を置き去りにして、マーリンの言葉はどんどんと熱を増していくではないか。


「正しく評価されない世界というのは見るに堪えない……! だからね、僕はキミが正しく評価されて、正しく愛される世界へと『転移』させてあげたいんだよ!」

「は、はあ……って、異世界転移!? 本当に!?」


 そのマーリンの、一人称が外行きの『私』というものから本来の『僕』というものへと無意識に変わってしまうほどの『熱』に公男は少しだけ引いていたが、『異世界転移』の話が出てくると話は別だ。

 根っからのオタクである公男は、三十を越えてもなお十代の少年少女が好むようなお話も愛しているため、異世界転移や転生などが自分の身に起きたのかとテンションが爆上がりしてしまう。


「その世界の細部を、今から設定するからキミにアンケートを取るね。

 とりあえず、現代舞台の世界観で考えてるんだけど、まずは……そうだね。キミの家族構成はどうする? どんなキャラを当てはめて家族を作ろうかな? 具体的なキャラクター名を挙げてくれて構わないよ、その子たちを家族にするからね」

「へ?」


 だが、その異世界転移は少々想像とは違っていた。

 元から存在する、いわゆる『オリジナルの異世界』へとチートを持って転移して無双するという『なろう展開』ではなく、どうも、『現パロ系二次創作』の世界へ『二次創作オリジナル主人公』として転移させてくれる、言うならば『ハーメルン展開』のようだった。

 少しだけ、気持ちが削がれてしまう。

 とは言え、無敵のポジティブシンキングを持つ公男はすぐに気持ちを切り替える。


「え、あ、そ、そういう感じの……? まあでも、それもアリかも……!」


 マーリンの『理想の家族構成』を挙げろと言われて、すぐさま脳内の『サーヴァント一覧表』を繰り広げて、まるでお人形さんでおままごとをする女児のように、そのポジションに当てはめていく。

 あるいは、オタクがするような『好きなキャラクターでクラスを組んでみましたw』などという、別のクラスターからウォッチされて晒し笑いにされるような遊びを何度もしていたために、こういったことは好んでいた。(もちろん、マーリンはそれを把握している)

 そんなこともしていたぐらい、公男は本物のキモオタだ。

 しかし、男キャラクターにもちゃんと愛着を持つタイプのキモオタだったために、自分の中の『理想の家族構成』を無邪気に口にしていく。


「そうだなぁ……まず父親は飄々としてるけど頼りになる感じの渋いおじさんだから、うん、ヘクトールだ! パリスくんのお兄ちゃんだから兄貴のポジションだろって言われるかもしれないけど、でも、父親でもいい味を出しそうだよね!

 母親は……頼光さん派とかマリー王妃派とか居るだろうけど、俺はやっぱり王道を行くブーディカママっすな!

 お兄ちゃんも欲しいし、ここはプロトアーサーかなぁ。白馬の王子様って感じだしね、お姫様願望は女の子だけじゃなくて男にもあるんだよねぇ~♪

 そ、それで、その、妹は……! えっと、その……うぅ……!」


 公男はオタク特有の、好きなことに関しては相手のことなどまるで考えない早口で捲し立て行く。

 だが、そこで妹のポジションのキャラクターの話になると、言葉を区切ってチラチラとマーリンを見てくれる。

 それは童貞特有の、『目は口以上に物を言う』という態度そのもので――『直接言うのは恥ずかしいマーリンを妹に選びたい』という意志の現れそのものであった。

 

(っ~~~~❤❤❤❤ い、いろんなFGOのキャラクターが居る中で、僕を妹ポジションに選んでくれるなんて❤❤❤❤ あ~、嬉しいっ❤ 嬉しい嬉しいっ❤ で、でも、勘違いしてるみたいだから、訂正しないとっ……❤ ぼ、僕も妹よりも、後々の恋人ポジの方を狙いたいし……きゃっ❤)

「い、妹はマーリ―――むぐぅ!?」

「はい、ストップ」


 もちろん、マーリンはその公男の視線の意味を感じ取って全身を痙攣させるほどの快感を覚えてしまうのだが、それをおくびにも出さずにニコニコとした笑みを浮かべながら、白魚のような美しい指を立てて公男の口の前に持っていく。

 公男が『妹はマーリン!』と言おうとしたまさにその瞬間だったために、思わず言葉を止めてしまう。


「これは私が悪かったね。

 私が……『マーリン』が現れちゃったから、『FGOの現パロな二次創作の世界』だと思ってしまったんだろうけど、それは違うよ。

 そうだね、キミにもわかりやすく説明するなら……うん、今からキミはね、『多重クロスオーバー』の世界に転移するんだ。

 名前は、そう、キミの名字の『夢野』にあやかって、『ドリームワールド』と名付けておこうかな。

 そのドリームワールドはね、その名前の通り夢の世界なのさ。

 そこには大人気作品のキャラクターがいる世界だ。

 児童向けアニメのキャラクターはもちろん、大人になってもアニメや漫画が大好きなオタクを続けている人が好む、『萌え萌え~❤』な作品のキャラクターまで同居している、キミの好きな作品の好きなキャラクターで溢れた世界なんだよ。

 なにかの二次創作というよりも、そうだね、アスキーアートを使った物語、『やる夫スレ』ってやつが近いかな?

 それにしてもキミ、どうも常識ってやつが強いみたいだね。

 父親とかお兄ちゃんとか、そういうのもいなくていいんだよ?

 もっともっと、キミの欲望をそのまま形にして欲しいな」

「え、そ、そんな……それはそれで好きなタイプの妄想だけど、きゅ、急に言われると迷う……! 選択肢が、多すぎるっ……!」


 あまりにも都合が良すぎる、自由度の高い提案をされてしまう。

 だからこそ、公男は迷ってしまった。


『母親ならばあのキャラクターを、いや、あっちもいいし、姉としてあのキャラを抑えると妹はあっちに、でも妹があっちなら姉はこっちのほうがいいよな、でもそうなると母親はこっちのジャンルで揃えたいし……!』


 そんな風に袋小路に入り込んでしまったのである。

 これならば、FGO限定でキャラクターの『縛り』を入れてくれた方がまだマシだった。

 キャラクターカスタムで何度も悩んでしまう公男にとって、マーリンのその提案は蟻地獄に堕ちるようなものなのである。

 悩みに悩んでいる公男の姿をニコニコと眺めていたマーリンだったが、ここらで助け舟を出してあげることにした。


「う~ん、さすがに急には決めれないか。なら、仕方ないね。私が公男くんの深層心理を読み取って、『チュートリアル家族』を作ってあげるよ」

「へ? あ、あれ……? なんだか、眠く……?」

「大丈夫、大丈夫。色んな意味でキミを正しく評価してくれる楽園なんだ。目を覚ましたらその楽園についているけど、すぐに気に入るはずだよ」


 マーリンはその万能である魔術を用いて、公男自身も把握できていなかった『本当の理想の家族構成』を深層心理の中から読み取ってしまったのである。

 その読み取った家族構成をすぐさまマーリンが作り上げていた『楽園』にデータを入力した後に、公男を楽園の中へと送り込んでいく。

 ニコニコと、邪気が一切存在しない奉仕の心を抱いたままである。


「キミの中に眠っていた『潜在能力』を目覚めさせた上で、『プレゼント』の『チート能力』も植え付けておいたからね。たっぷりと楽しんできてくれたまえ――キミのための世界、『ドリームワールド』をね♪」


 その言葉を聞き終わるよりも早く、公男は意識を失っていった――――。





「……あれ?」


 目を覚ますと、公男は見知らぬ住宅街で惚けるように立っていた。

 キョロキョロと周囲を見渡すが、あまりにも見覚えのない土地である。

 広々とした道路が伸びていきながら、小綺麗で大きな家が並んでいる――そんな高級住宅街だ。

 中流家庭で生まれ育ち、一人暮らしをするようになってからはあまり多くない所得もソシャゲやオタクカルチャーに注ぎ込む課金生活によって裕福とは程遠い限界独身生活を送っていた公男には縁のない場所と言えるだろう。


「なんだ、ここ……? 地元でも、今暮らしてるところでもないよな……?」

「――――あら、公男さん?」


 転移の影響で記憶が曖昧になっている公男が戸惑っていると、鈴の音が鳴るような声が響く。

 耳が気持ちよくなってしまいそうな、その声だけでも美人だとわかるほどの美しい声――不思議な話だが、その声だけでその人物が『上品』なことを感じ取れる、品のある声色である。

 雄の本能として反射的に物凄い勢いで公男が振り返ると、やはり声から察せられる通りの美女が立っていたのだが、なんと、それは公男の知っている人物だった。


(え、ええ!? ポ、ポケモンの……エリカ!?)


 そこにいたのは明るい色合いの生地の着物にくせ毛一つない美しい真っ黒な髪をおかっぱに切りそろえた、上品さと穏やかさがにじみ出たおっとりした美貌を持つその美女を、公男はよく知っている。

 エリカ。

 名作シリーズ、『ポケットモンスター』の初代タイトル『緑/赤』でジムリーダーとして登場した、清楚な和風美女である。

 二次元から三次元にそのまま飛び出してきたその美女が、親密な感情を嫌というほどに感じさせるきれいな笑みを公男へと向けているではないか。

 幼い頃、実兄とともに夢中になって遊んでいたゲームのキャラクターの中でも特別に好きだった存在(その頃から公男は美少女キャラクターに惹かれる立派な二次元オタクであった)が現れたことに、パクパクと口を開閉させながらも言葉を発することが出来ないほどの衝撃に襲われてしまった。


「どうしたんですか、公男さん? 『母』と『我が家』を前にして、そんな、夢を見ているような顔をして……?」

「は、は……?」

「はい。あなたの母――夢野エリカですよ」


 母親なわけがない。

 公男の母親はもっと家庭的で現実的な性格と体格をした小太りの――。


「……あ、そ、そう、だった。そういう、『世界』なんだったな」

「疲れているんじゃないですか? 公男さんはがんばり屋さんですから。学校も大変でしょう?」

「学校……学校、そうだ。俺、『今』は高校生なんだったな」


 だが、その『正しい記憶』とはまた別に、『この世界の記憶』が公男の脳裏に蘇っていく。

 すぐに、このまだ十代にも見えなくもない美少女こそが自身の母親だと『納得』をして、むしろ、エリカに対して強烈な衝撃を受けたことに疑問を覚えてしまうほどだ。

 エリカのことをポケモンのキャラクターだと認識しながらも、同時に自分の母親だとも認識する不思議な状態だった。

 不思議というのは、それだけじゃない。

 三十を越えてバリバリの社会人として生きていたはずの公男なのに、公男は自身が『高校生』であることを思い出し、さらに、眼の前に建っている豪邸と呼ぶほどではないが、実家よりも大きな家の表札が『夢野』であることも確認する。

 体だって、お腹についていた贅肉が消え去って健康的だった高校時代のものに戻っているのだ。


(そうだっ! 俺、マーリンに多重クロスオーバーの現パロ世界……えっと、『ドリームワールド』、だっけ? その、いわゆる『やる夫スレ』みたいな世界に異世界転移してもらったんだ!

 そ、それで、『母親役』がポケモンのエリカってことか! うわ、その発想はなかったな、俺ならエリカは近所のお姉さんとかにするぐらいだろうけど……ごくっ! こ、これもかなりいいな……!)


 この公男の突然の認識の変化もまた、マーリンが密かに施していた『プレゼント』――この世界を楽しむための仕込みの一つだった。


「ほら、皆も待っていますから早くお家に入りましょう。お食事の準備も出来ていますから」

「へ? 皆って……?」


 だが、その『この世界』の記憶も完全にインプットされたわけではない。

 どうやら、他の家族も居るようだが、その人物たちを即座に思い出すことが出来ない状況だった。

 そんな公男の脳をさらに『気持ちよく』するために、まるでエリカのその言葉を待っていたかのようなタイミングで、ガチャリと家の扉が開いていく。

 そこから、『三人の美少女』が飛び出してきたのである。


「おかえりなさい、弟くん! 今日もお疲れ様でした!」

「なっ……!?」

(は、榛名!? 艦これの、金剛型戦艦三番艦、榛名だ! 姉属性じゃないのに、姉キャラ……あ、でも三番艦だから姉でもあるのか……あっ、記憶取り戻してきたぞ! そうか、大学生なのか、ああ、それっぽい……! 女子大生榛名、すごくいい! 抱きついてきてすごくいい匂いがするし、清純さがあるよっ……! お、おっぱいも原作より大きいような……おっぱい星人の俺にはありがいたけど! ありがとう、マーリン!)


 最初に弾けるように飛び出してきたのは、『艦これ』に登場する美少女キャラクターである『榛名』だった。

 とある有名漫画家のSNSでの発信を機会にそのゲームを始めた公男にとっても思い入れの深いキャラクターであり、その榛名が『女性大生』であり『公男を溺愛する姉』としてこの現パロ風の世界では生活をしているのである。

 むぎゅぅ、と。

 原作では美乳ぐらいのおっぱいが大きくなって育って美巨乳となった見事なスタイルで公男に抱きついてくると、その全身からは頭がクラクラしそうになるほどの甘い香りが漂ってくる。

 元の世界で嗅いだことのある商売女の臭い香水のそれとはまるで違う、これだけで思わずお漏らし射精をしてしまいそうな香りだった。

 そんな溺愛する姉の抱擁をニヤニヤとした表情で受け止めていると、ぐいっと公男の体が乱暴に引かれてしまう。

 『榛名の腕の中』という最高の空間に閉じ込められていたのに、そこから引き離されたことに不満を覚えて文句でも言おうとした公男だったが、しかし、すぐにその後にまた別の最高の空間へと招かれることとなった。


「おい、榛名。あまり公男を独占するな。私は朝練があったから、今日はまだ『公男成分』を摂取してないんだぞ」

「むぅ、アルトリアはお姉ちゃんってなんで呼んでくれないんですか? 甘えてくれたら」

「はんっ、ごめんだな。お前のような天然女を姉など、恥ずかしくて呼べるか」

(って、こっちはアルトリア!? それもセイバーの、オルタだ! って、乳デカっ!? なんで!? 乳をデカいアルトリア・オルタならランサーでいいんじゃ……い、いや、でもこれもいいな……! 不良っぽい『怖い系お姉ちゃん』が、身長はそこまで高くないのに乳と尻にエロい肉がいっぱいついてるの、最高だ……!

 うぉっ、あ、頭に胸を押し付けてきて、たまらんっ……!)


 それは、公男のもう一人の姉、夢野家の次女である『アルトリア・ペンドラゴン[オルタ]』(以下アルトリア、またはアルトリア・オルタ)の『爆乳』の中というものだった。

 そう、この現パロ風の世界でのアルトリア・オルタは爆乳なのだ。

 原作の『Fateシリーズ』ではスラリとした凹凸が少ないが見事なバランスを保ったスレンダーな美体を持っていたというのに、身長はそのままに胸は爆乳に、お尻はデカ尻にというバランスも糞もない、男のチンポを刺激することしか考えていないようなドスケベボディに変貌している。

 しかも、言葉ではトゲトゲしい色合いがあるものの、実際は榛名と同じく公男のことを溺愛する姉という、体だけではなく心まで男のチンポに寄り添ったドスケベ女になっているのだ。

 しかも、この世界では『公男と同じく』、『高校に通っている』アルトリア・オルタは、剣道部の主将としても活躍しており、榛名の頭を蕩けさすような『甘さ』に特化した香りとはまた異なる、汗の匂いも混じっているからこそ放てる『爽やか』な香りを放っている。

 そんなアルトリアの『爆乳抱擁』に表情はニヤつき、股間は大きく膨らんでいる中で、榛名やアルトリアとはまた違う、どこか大人しそうな声が、大きくはないのにしっかりと届いてきた。


「……お、お帰りなさい。兄さん、待っていましたよ」

「え……あっ!、た、ただいま!」

「その、兄さんに教えてもらったおかげで、テストの結果が良かったです。だから……あ、後で、ヨシヨシしてくださいね」

(さ、最後は『咲-saki-』の『原村和』!? 妹キャラじゃないのに、妹にしてくれたのか! 言葉遣いは礼儀正しいのにめっちゃ強気なのどっちが、もじもじしながらなんか俺のことを熱く見つめてくるの、すごくいいな……!)


 最後に残った一人、三姉妹の末妹で公男にとっても『妹』である美少女は、『咲 -saki-』に登場する人気キャラクターの『原村和』である。

 原作では高校生の和だが、この世界では高校生二年生の公男の妹で現在は中学三年生という設定になっていた。

 榛名やアルトリアはその美しくスケベな体を公男へと押し付けてくるのだが、和は思春期が故にどこか恥ずかしさを覚えているらしく、少しだけ距離の空いたところから公男へと挨拶の言葉を投げるだけでとどまっている。

 しかし、それでも公男へと向ける愛情は榛名やアルトリアと変わらないことがはっきりとわかるほどに向けられる視線には熱が籠もっている。


 美少女な姉二人に体をムギュムギュと押し付けられながら、同じく美少女な妹に親愛と憧憬が多く含まれた視線を向けられる快感――これはもう、体験しなければわからないほどの素晴らしさだった。

 そんな『仲良し兄弟姉妹』の姿を、ニコニコと優しく美しく、若々しい要素の母親であるエリカは見つめていた。

 改めて見ると、そのエリカの胸も着物であるために分かりづらかったが、子供向けゲームの原作で見せていたスラリとした平たい乳ではなく、明らかに今にも着物を弾き飛ばさんばかりのボリュームが眠っている、爆乳であることがわかる。


「あらあら。姉妹揃って相変わらず公男さんのことが大好きなんですね」

(原作通りなら、おっぱいのサイズはのどっちが一番上で次が榛名、そして平坦なエリカとアルトリア・オルタってなりそうなものだけど……こ、これ変え過ぎだろ、マーリン!

 ま、まあ……俺は爆乳スキーだから嬉しいけど……あ、アルトリア・オルタが一番大きい爆乳で、その次がエリカって……! 榛名も元の美乳が美巨乳になってて、原作の中学時代通りののどっちだって爆乳なのに、それが一番小さくなってる……大きさが逆転しちゃってるじゃん! ありがとうございます、マーリン様!)


 ニヤついた笑みを浮かべながら、公男はこの世界のことを完璧に理解した――つもりだった。

 しかし、この熱烈な出迎えとその後の美味しい料理を囲んだ食卓で味わった、『公男だいすき~❤』とされてくるだけでは終わらないのだと。

 エリカと榛名の作った美味しい料理を、パクパクむしゃむしゃと能天気に食べていた時の公男は知る良しもなかったのである――――。


────────────────────────────────────────────────

ドリームワールド~あなたに都合のいい多重クロスオーバーで現パロ風のエロ世界~(後編)(エロパート)


Files

Comments

No comments found for this post.