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 そこは奈落に続くかのような会議場。  無数の座席が円を作るように並び、それが下段へ、下段へ、下段へと続いていき、それは神話に伝わる『バベルの塔』を逆さまにしたかのような空間であった。  そして、その印象は正しい。  この空間は、まさしく天に座する人ならざる超越者が、人に裁きを下すため、人の世へ降りるために存在する空間であるのだから。 「それでは、本日の『会議』を開始します」  その中心、議長席に一人の女神が座った。  女神の名は『パルテナ』。  有名ゲーム『パルテナの鏡』シリーズに登場する美しい女性キャラクター。  天空界『エンジェランド』を統べる光の神であり、その肩書に相応しい慈愛と美しさを持った女神である。  この星のようにエメラルドの美しい髪をたなびかせ、同色の瞳を意志強く見据えて、数多の超越者へと声をかける。 「それでは、問います。  この聖地『オチンポアイランド』に、人類の雄の存続を『赦す』か。  それともやはりこの『オチンポアイランド』に、人類の雄の存在は『不要』か」  パルテナの優しげな声から、排他的な言葉が飛び出る。  超越者たちは動揺せずに、その言葉を受け入れる。  よく見れば、超越者たちは全てがパルテナと同じく見目麗しい美女であった。  そう、この場には誰一人として男神は存在しないのだ。  この場に必要なのは、いや、この場に『強い』とされているのは、女性の強さだけである証左だった。 「神名の元に意思を、示しなさい」  そのパルテナの言葉がきっかけとなり、それぞれの女の超越者が手元の札をあげる。  ○と☓が描かれた札である。  その一方を掲げることで、己の意思を示すのだ。  一人の女神が、☓を掲げた。  一人の魔王が、☓を掲げた。  一人の邪神が、☓を掲げた。  一人の悪魔が、☓を掲げた。  そちらが☓を、あちらが☓を、こちらが☓を。  ☓、☓、☓、☓☓☓☓☓☓………!  誰も彼もが、『この島に男は必要がない』と断言をした。 「というかですね、パルテナ様ぁ」  一人の女神が、声を上げた。  この無数に集まった女神の中では神格は中位ほどの、水の女神である『アクア』である。  人気ライトノベル作品、『この素晴らしい世界に祝福を!』のヒロインの一人だ。  へりくだっているようだが、根の軽さがどこか現れた声であった。 「私もある世界軸の日本からこの『オチンポアイランド』に男の子に転移させたりしてきましたけど、未だに女の子を満足させる男の子っていうのは現れてませんよ?  もう無駄じゃないですか? 女の子たちだけで幸せに生きるので十分じゃないですか?」 「私もアクア先輩の言葉に賛成です。これ以上は、徒労だと思われます」  同じ『この素晴らしい世界に祝福を!』の登場キャラクターである、幸運を司る女神の『エリス』もアクアの言葉に賛同した。  彼女たちはこのオチンポアイランドに住む無数の美少女たちのために素敵な男性の素質があると見込んだ男性をこのオチンポアイランドに送り込む『転生係』として働いている女神だ。  それこそ時間の流れが異なる世界で気の遠くなるほどにその作業を繰り返してきたが、未だに女性を満足させる男性は現れない。  怠惰なアクアはもちろん、いくら慈愛に満ちた女神らしい女神であるエリスであっても、諦めを覚えるに十分な時間だった。 「そもそもとして本当に男というものは必要なのかしら?」  続いて声を上げたのは、この中での神格は中位、いや、下位にあたるだろうが、多くの者から一目を置かれている『八雲紫』、『東方Project』の人気キャラクターであった。  本当は神格を偽っているのではとも噂される美しく聡明なる賢者は、この会議自体が無意味だと言わんばかりに気怠げに言葉を紡ぐ。 「生殖活動から切り離されて、『エリアマスター』とその『眷属』によって維持されているこの世界に、性別による区別はなんの必要もない。  この『オチンポアイランド』の存在意義を踏まえた上で、より優秀で必要なものを選んでいけば、半分の折返しになってようやく男の名が上がるぐらいでしょう?  ならば、無限のリソースと言っても一時的に資源が減っていく様子を見るのはあまり気持ちよくがないわ。  このオチンポアイランドには、女性だけで十分でしょう」  冷酷さすらあるほどに合理的な言葉であった。  腕力も、知力も、人格も、上位者を選んでいけば全てが女性となる。  男性でその地位まで上り詰めたものは一人として居ない。  ならば、男性とは必要ではないと言い切ってもおかしくない。  八雲紫の言葉は、一つの真理であった。 「……僕も、かわいい人の子が落胆する姿を見るのは哀しいなぁ。  女の子が男の子が理想でなかったことに落胆する姿も、男の子が女の子の理想に添えなくて落胆する姿も、どちらも見てて哀しいよ」  冷酷な者だけでなく、慈愛に満ちた超越者たちも☓の札を掲げていた。  その筆頭が『ヘスティア』、『ギリシャ神話』にルーツを持ち『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』に登場するキャラクターである。  彼女は愛を理由に男性がこの世界に存在するべきではないと断じた。 「そうですね、男性は醜い」 「なによりも脆い」 「この場にいる必要性を感じない」 「劣等感に苛まれて心を壊す姿も幾度と見ました」 「それを見つめて絶望する女性も多く居ます」 「もはや男という生き物にとっても、この世界そのものが毒となっている」  ざわざわ、とそれぞれの意見を口にしていく。  結論はすでに出たと言っても良い。 「……結論は出たようですね」  それぞれの理由に違いはあれども、次々と超越者たちが『男性がこの世界にいるべきではない』という想いを口にしていく。  それを見回したパルテナも同様であった。  彼女もまた慈愛の心を持って、この格差ある空間で生きることは男にとっても不幸だと考えた。 「では、判決を申し上げます」  この会議にて全会一致で決定したことは、すなわちこの世界にたった一度だけ君臨したとされる、『エリアマスター』を除いてその記憶と痕跡を覚えているものも居ないとされる、『本物の男性』である『本物のオチンポ様』の持ち主と同等の決定権を持つ。 「超越者会議『ラグナロク』において、『オチンポアイランド』から『全男性の追放』を決定し────」  すなわち、これは宣告ではなく制定。  これにて、『オチンポアイランド』から男性が除外されることが決定したのだ。 「お待ち下さい!!!!!」  その時であった。  一人の麗しい声が響き渡った。  誰もが、その声へと目を向ける。  そして、その姿を見て、誰もが眉をひそめた。 「ワルキューレ……?」 「ブリュンヒルデだ、ワルキューレの長姉だ……」 「ワルキューレじゃないか……」 「この場において最下位の神格に過ぎないワルキューレごときがなにを……?」  そのものの名はブリュンヒルデ。  烏の濡羽色という言葉が良く似合う、麗しい長髪と鋭い美貌を持つ戦乙女。  人々を導く役割を与えられた、聖なる使い魔。  そのものが、分不相応を自覚しながらも口を開いたのだ。 「恐れながら上位者である皆様に、申し上げたき儀がございます」 「控えよ、ブリュンヒルデ」  そのブリュンヒルデを諌めるのは、現在のワルキューレの主である『スカサハ/スカディ』であった。  『Fateシリーズ』のキャラクターであり『北欧神話』にルーツを持つ彼女は、この世界においては主神とはいえ男神であるオーディンよりも強力な力と地位を持つ。  ワルキューレの指揮権をオーディンより献上されていることがその証拠であった。 「この場において満場一致で確定したことだ。そこに戦乙女に過ぎないものの異議が挟む余地などない」 「……確かに、確かに多くの雄の軟弱さと低能さは目に余ります。  しかしながら、このブリュンヒルデ。たった一人、たった一人だけ『希望』を見ました」 「ブリュンヒルデよ。このスカディ、妄言に付き合うつもりはない。その口をすぐに────」 「お待ち下さい、スカディ様」  配下であるブリュンヒルデの無礼を諌めようとするスカディに対し、議長であるパルテナが待ったをかける。  その言葉にパルテナへと視線を動かし、そして、周囲へと目を配れば、ブリュンヒルデの言葉を面白そうに待っているものが多数いた。  この場において、空気が読めていない者はブリュンヒルデではなくスカディであった。  ふぅ、と息を吐いて、ブリュンヒルデへと言葉を許した。 「ありがとうございます、スカディ様、パルテナ様。  では……私は東の『学園都市』の『エリアマスター』、『BB』よりある一人の男性の存在の報告を受け、実際にその御姿を目にしました。  その者を見たとき、私は男の可能性を見たのです。  いえ、はっきり言いましょう。  その御方こそ、『本物の男性』なのです。  その男性が現れた以上、『オチンポアイランドより男性を追放する』という判断はありえません。  そんなものを無視して歓待の宴を開くべきです」 「BB、ですか。彼女は確かに『エリアマスター』ですが、少々悪戯好きなところがありますよ」  パルテナはBBの名を聞いて顔をしかめた。  彼女の悪辣なまでの悪戯好きは有名なところ、お前は騙されているのではないかと言外に伝えているのだ。  それは他の神も同様であったらしく、BBの名前が出た瞬間に『白けた』雰囲気となった。 「なんだ、BBか……」 「戦乙女一人を騙すくらい、なんてことない女だ」 「つまらないな、もう少し面白い話になると思ったのに」  早々に、愚かなワルキューレが騙されて熱に浮かされているだけと決めつけた。  ブリュンヒルデはそれに対して怒りを覚えるようなことはない。  想定内のことだからだ。  そして、この白けた空気を熱くする方法を、ブリュンヒルデは考えている。 「『超越者VSオチンポ様最終闘争<ラグナロク>』」  ピシリ、と。  その言葉をブリュンヒルデが口にしたことで、会場の空気が張り詰めた。  気の短い神や魔王などは、今にもブリュンヒルデの息の根を止めんとばかりに睨みつけているほどだ。  恐ろしい。  ブリュンヒルデは今にも震えそうな体を気力で支えて、唇を動かす。 「この会議、いえ、世界において何よりも優先されるべき祭事です。  私は、これをかの男性を中心に開き、その成果を持って『男性の追放』という決定を覆すことを提案いたします」 「ふざけるなっ!!」  そこで弾け飛んだのは『アスモデウス』、『メギド72』に登場し、『ソロモン王の小さな鍵』とも呼ばれる『ゴエティア』に記された悪魔である。  彼女は激情の炎をそのままに、唾を激しく散らしながらブリュンヒルデに怒気をぶつける。 「それは『選ばれし者』である『本物の男性』である御方が降臨した際の『祭典』の名だ!  断じて、断じて貴様のような雑魚が提言していいものではない!  いいか、『本物の男性』に仕えるべき使命を持つ我々『雌』の使命を忘れ、『偽りの雄豚』に発情をシた雌豚っ!  そこに直れ! その素っ首を叩き落とす!」  それは他のものも同様であった。  激しい怒りを、ブリュンヒルデへと向けている。  慈愛に満ちた神ですらも、だ。  それほど『超越者vsオチンポ様最終闘争』とは彼女たちにとって大事なものなのだ。 「どうやら、言葉が通じていないようですね」 「……何を言っているのですか、ブリュンヒルデ」  しかし、その怒気に耐えながらブリュンヒルデは言葉を続ける。  それをパルテナもまたその慈愛に満ちた精神で怒りを押し殺し、その続きを待つ。 「所詮は偽物だというのならば、その者が現れた瞬間に叩き殺せばいいだけ。  その後に私を永遠の責め苦に落とせば良い。  なのに、それを恐れるかのように開くことすら許さない。  ああ、ひょっとして────」  すぅ、と。  大きく息を吸い、その鋭い美貌で見下すように目を向け、頬に嘲笑を浮かべて。  ブリュンヒルデは言葉を続けた。 「ビビっているんですかぁ?」  再び、空気が凍る。  それを無視して、ブリュンヒルデは言葉を続けた。 「それなら申し訳ないことをしました。  この箱庭での女王様ごっこが長くて楽しみすぎたのですね。  『本物の男性』にお仕えする喜びよりも、ここでキャキャっと権力遊びをしているほうが大事なのでしょう。  申し訳ありません、卑賤なこの身では考えもつかない高尚なお考えでしたね。  それでは、私も言葉を撤回し、この首を捧げて────」 「もう黙れ、雌豚が……!」  ブリュンヒルデの言葉を止めたのは、怒りに満ちたアスモデウスだ。  メラメラと、瞳に混沌の炎を燃やし、怒りに震えながら立ち上がる。 「パルテナ、決を取れ」 「……わかりました」  そして、その怒りとはパルテナも同様であったようだ。  パルテナは平時の声とはかけ離れた冷たい声で、ある議題を口にする。 「それでは、問います。  これより、『偽典・超越者VSオチンポ様最終闘争<ラグナロク・レプリカ>』を開くか。  それとも、『偽典・超越者VSオチンポ様最終闘争<ラグナロク・レプリカ>』を開かないか。  神名の元に意思を、示しなさい」  そのパルテナの言葉がきっかけとなり、それぞれの女の超越者が手元の札をあげる。  ○と☓が描かれた札である。  その一方を掲げることで、己の意思を示すのだ。  一人の女神が、○を掲げた。  一人の魔王が、○を掲げた。  一人の邪神が、○を掲げた。  一人の悪魔が、○を掲げた。  そちらが○を、あちらが○を、こちらが○を。  ○、○、○、○○○○○○………!  誰も彼もが、『偽りの聖なる儀式を開いて、無礼な男と戦乙女を殺す』と断言をした。 「これにて、『偽典・超越者VSオチンポ様最終闘争<ラグナロク・レプリカ>』を開催します。  それでは、次は参加者の選定を行います」  その言葉を聞き、ブリュンヒルデはくるりとその長髪を翻し、この会議場から立ち去っていく。  殺意を背中に受けてもなお堂々とした足取り。  しかし、それにも限界がある。  その会議場から出た瞬間が、その限界であった。  ブリュンヒルデはその場に崩れ落ちた。 「あっ……」  だが、その瞬間、そのたおやかな体が支えられる。  その支えた人物を見て、ブリュンヒルデはうっとりと目を細め、その白い頬を真っ赤に紅潮させた。 「御主人様……♥」  そして、そのままその贅肉のついた包容力のある胸にしなだれかかる。  絶世の美貌を持つブリュンヒルデのその姿にその人物、すなわち、この『オチンポアイランド』の絶対の主である『あなた』はニヤリと笑みを深めた。 「御主人様……ブリュンヒルデは、見事にお役目を成し遂げました……♥  馬鹿でうぬぼれた雌どもが、これよりあなた様を倒さんと愚かにも向かってきます……♥  どうぞ、その優れたオチンポ様で返り討ちにする雄々しき姿を、この哀れな雌豚にお見せくださいませ……♥」  ふふ、と。  あなたは笑う。  あなたが笑えば私も嬉しいと、ブリュンヒルデも笑う。  その時、ブリュンヒルデの元に一枚の巻物が届いた。 「これは……ふふ、御主人様……♥  これが、あなた様にご献上する────雌豚の出荷リストでございます♥」  そこに書かれているのは、十の超越者の名。  それを見せつけるように、ブリュンヒルデはバサリと開いた。  あなたは、そこに目をやる。        『ゴエティア』  ────  アスモデウス  ────       『ギリシャ神話』  ──── アテナ・パルテノス ────        『インド神話』  ────    カーマ    ────        『ケルト神話』  ────   モリガン   ────        『封神演義』  ────    妲己    ────         『創世記』  ────   ルシファー  ────        『北欧神話』  ────   フレイヤ   ────        『日本書紀』  ────タケミナカタノミコト────       『ヨハネの黙示録』  ──── ホワイト・ライダー ────  迎え撃つは偉大なる十柱の女の超越者。  挑むはたった一本の男性器。 「オチンポ様十番勝負……ただいま、開幕にございます」  結末は約束されている。  うぬぼれた雌豚十匹は、容易くチンポの前に屈服してしまうだろう。  ────それが、この場に集められた支配者を気取る哀れな奴隷たちの定められた運命なのだから。

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