Home Artists Posts Import Register

Content

ごあいさつ

今月もご支援くださりありがとうございます。本格的に暑くなってきましたので、くれぐれもご自愛なさいますようお祈り申し上げます。


今月は先月いただいた質問、読書記録、そして以前書いた短編でお送りしようかと思います。人の読書記録に興味ないよ!という方は飛ばしていただいて、アンドロイドにいたずらする男の子を鑑賞していただけますと幸いです。


Q&A

Q.

執筆の際に使っているソフトやアプリなどの中で、これは特に気に入っているというものはありますか?


A.

特にないのですが、特にないで終わってしまうと寂しいので少し詳しく書きますと、制作自体はPixivの下書きに全てベタ書きしています。カッコいいツールとかを使えたら本当はいいのでしょうけど別に本業にしているわけでもないので……。


校正はフリーのサイトやWordの校正機能を使ったり使わなかったりしています。てにおはと誤字脱字を主にチェックするようにしていますが、Wordは他にも単語を一発で置換したりする機能があるのでそれに使ってます(それ以外の役目は特にないです)。




Q.

Fembot WikiのおすすめSSは何かありますか?


A.

最近のものは追いかけられてないのですが、"The Future Expo"( https://www.fembotwiki.com/index.php?title=The_Future_Expo )は色々な種類のアンドロイドが登場する話で面白いと思います。秘書やインストラクターなどなど個人的にも好きな属性が詰まった一作で、ボリュームもかなりあるのでおすすめです。



読書

以前書いた「青い瞳の籠の鳥」の作中にも登場した、スティーブンソンの「瓶の妖鬼」についてです。久しぶりに読み返したので、その感想を書きたいと思います。他に好きな作家といえばO.ヘンリーやジャン・ジオノなどがいるのですが、そのうちそちらの方も書くかもしれません。


amazonのリンクはこちらから↓

https://www.amazon.co.jp/dp/4003725069/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_9H9245R1N902974AD5HW


「瓶の妖鬼」の話に深い感銘を受けたのは、実際には結構前だったと思います。どうにも思い出せなくて「こんな話があったなあ」と思いながら高校時代を過ごしてきたわけですが、現代文の教科書に岩井克人さんの貨幣に関する文章が載ってて、これに関連して調べたら再び巡り合ったという経緯があります。


それから大学生になり、二年目の夏になって生協で本の背表紙をぶらぶら眺める遊びをしてたら偶然この本に出会って即購入しました。手元に置いてみると多分五年くらい温め続けたよくわからない気持ちが満たされる感じがして良かったと記憶しています。


当時は表題作の片方のみに惹かれたわけなのですが、他の短編も文句なしにいいものばかりでした。一作読み終えるたびに感嘆のため息を漏らすレベルで、特に「ねじれ首のジャネット」は読んだ後もワナワナと震えが止まらなかった。それくらい引き込まれる作品でした。



(以下感想になります。散文・ネタバレになりますがご容赦ください)


「その夜の宿」

ヴィヨンという男が主人公のお話。貧乏な文学修士で、詩を書いたり酒屋で説教を説いたりとまあ自由奔放なわけだけど、雪が降り積もったある夜、殺しの現場に巻き込まれてしまう。

財布までスられてほぼ無一文で犯行現場から逃げる様子(巡回する警察に見つからないようにオロオロしてる)は結構ぞくっとくる描写だった。

寒さで死んだ娼婦(?)の懐から小銭を拝借するも、こんなものではどうにもならないと考え、自分の愚かしさを嘆く。セリフにはならないこのあたりの描写や、背景の寒い夜の様子が伝わる文章はなかなか。

そこから一晩泊めてもらう家探しをするのだが、養父の家ではつっぱねられ、知らない家では汚水を浴びせられるなど散々な目に遭う。ようやく入れてもらった一軒の家、そこで、領主の男との問答が始まる。

領主の男は、死んだ娼婦から小銭をかすめとるヴィヨンは盗人と同じ。また、兵士は名誉を守るために戦うのだと言う。命を賭けるのは名誉のためで、盗人(ヴィヨン)のように欲得のためでは決してないと。それに対し、ヴィヨンは盗人と兵士は変わらない、どちらも残虐な行為をし、それが兵士であるから罰せられないだけだと言う。

領主は、ヴィヨンは目先の欲(生きること)にとらわれるあまり、名誉を守ること(人間としての尊厳)を忘れてしまっていると言う。それに対し、あなたたちがいつも名誉名誉と唱えているだけで、こっちにだって守るべき名誉はあるのだと反駁する。盗みなんていう下賎な行為は軽蔑する。神の恩寵を信じて疑わない領主と、それを信じないヴィヨンの対比が面白い。領主の指す「名誉」と、ヴィヨンが主張する「生きることにかけての高潔さ」がことごとくすれ違う。

結局、二人はすれ違ったまま夜を明かす。最後に、ヴィヨンは「あの爺さんは退屈なやつだった」と言って物語は幕を降ろす。

領主の説教を不服に思うヴィヨンの気持ちもわからんでもないけど、別に食うや食わずの貧乏人の誇りとして盗みを軽蔑しますとか言われても「だから?w」みたいな気持ちになってしまった。オタクにマジレスされた50歳くらいのおっさん、みたいな情景が浮かんでしまって悲しくなる。きっとスティーヴンソンも「功労者かつ裕福な退役軍人に突っかかる、頭でっかちの偏屈な若い貧乏学者」、みたいな誇張された絵面も込みで描いたのだと思う。最後に領主の金の盃がいくらするかみたいなのを気にかける様子も、結局のところ目先の生に囚われて視野が狭くなったヴィヨンの滑稽な様子を客観的に見てるんだろうな〜〜と思ってしまった。



「水車屋のウィル」

これがスティーヴンソンが27歳の時に書いたのだと思うと、彼の創造性や、老成した人生観に敬服してしまう。それくらい鋭く胸をえぐられる作品。考えさせられる、という観点から見れば七篇の中では随一かもしれない。

舞台は19世紀。少年ウィルは孤児で、養子として峡谷の水車小屋で育つ。彼は側にある川や、積荷を乗せた馬車が下へ下っていくのを見ながら、下界には何があるのだろうと想像する日々を送っていた。水車小屋の主人(養父にあたる)が、ウィルに下界のことを教え、彼はまだ見ぬ街に好奇心を抱いていく。

ある日、旅の若者が水車小屋(この時には旅人の宿になっていた)に泊まりに来る。その若者とウィルは話をし、ウィルは自身が抱く下界への好奇心について言ってみせる。それに対し、若者は、天の星と同じように、この世にはたくさんの世界があるけど、僕たちには(星に手が届かないように)そのどれにも行くことはできない。せいぜい庭先から眺めているだけだと言う。

ウィルは、「僕らは檻の中にいる」という。若者は「回転するカゴを回すリス」と「ナッツを食べながら物思いに耽るリス」、どちらがより愚かに見えるかは言うまでもないと言う。この作品に「どちらがより愚かか」の答えは書かれていないけれど、若者的な答えとしては「物思いに耽る方」なのだろう。きっとこの若者は人生に疲れてしまったのだろうか。結局、彼はもう「手の届かない世界」を理解するより、それに当てはめる比喩を考える方が納得が行く、という結論を出してしまったサイドの人なのだ。

さて、親が亡くなった後、ウィルは召使いも雇って水車小屋の宿を継ぎます。彼は結局下の世界には降りて行かず、ここで人生を過ごす結論を出したのです。

彼はその後、マージョリーという女性と出会います。彼女に心惹かれるたび、彼が失っていた好奇心、そしてそれとは別の恋心が芽生えます。彼女が庭で花を摘んでいるのを見て、彼は「花は花らしく、咲いている方が生き生きしているし、美しい」と言います。一方でマージョリーは「花を自分のものにしたい」と言います。このやりとりを通じて、彼はこの価値観を「彼女」に重ねてしまいます。結局、彼は確かにマージョリーのことを愛していたものの、結婚する(=自分のものにする)ことをそれほど重視していなかった、いやむしろ、結婚しないで生き生きとしているマージョリーの姿を眺めているだけで十分だったのです。この達観というか、悟りの境地には、確実に彼が出会った旅の若者の価値観が影響しているのだと思います。(近くで見るより遠くから見ているので十分)

さて、結婚はせずにお互い友達のままでいようと言ってから三年間、彼らは週に一度会って友人の関係を保っていました。しかし、マージョリーは結婚し、その一年後には亡くなってしまいます。

時は流れ、ウィルは分別や学識のある、高潔な老人になりました。彼の元には下界から彼を呼ぶ手紙なども来ますが、どれも彼を引っ張り出すことはできませんでした。曰く、「世界と自分、どちらが心惹かれるかと言われたら自分の方だ」とのこと。世界に対する好奇心を、彼は人生で行ってきた選択によって心の外側に追い出してしまったのです。

72歳のある夜、彼は違和感を感じてベッドを抜け出し、庭に出ます。すると、過去のいろいろなことが思い出されるのです。これこそ走馬灯、死期が迫っているのを示す暗示ですが、こうやって死期が迫ると過去のことを思い出すのは西洋でもテンプレ的な描写なのでしょうか。「走馬灯のように」は多分日本語的な表現ですけど、思わぬところで描写の共通点を見出したのは興味深い。

一人の男(?)が現れ、彼と酒を酌み交わします。ウィルは死を恐れていませんでした。むしろ歓迎してさえいました。「死」の誘いに、彼は拒むことなく乗ります。彼はマージョリーが亡くなってから、ずっと死を待っていたのでした。夜が明けて召使いが目を覚ますと、ウィルは庭先で死んでいるのが見つかります。彼は人生の最後にやっと、「旅」に出たのでした。

原題は"Will O' the Mill"ですが、Mill(水車)のWill(意思)とも読み取れます。水車として(つまり、自分のいるところで繰り返す日々を送って一生を終え、外の世界に対する夢想を捨て)生きる彼の選択の物語とも読み取れるんじゃないかな、なんて拡大解釈もしたりできるのではないでしょうか。

人の一生、それに伴う価値観の変容が見事に描かれた文章。この先も多分、心の何処かに残って自分に影響を与える作品になりそうです。




「天の摂理とギター」

ギターを弾く吟遊詩人?的な男(ムッシュー・レオン・ベルテリーニ)とその妻、が主軸に置かれた作品。ギターや歌、劇を通じて男が色々な人の心を変える、もしくはそれに影響を与える話。

前半の「カステル=ル=ガシ」という街での話は、ベルテリーニの底抜けの明るさ、状況が悪い方向に進んでもなにくそと思い、敵役の家の前でギターを弾き鳴らして痛快な一撃を加える様子が暗い街の雰囲気と対比され、見ていて面白い。

後半では新たな登場人物(ケンブリッジ大のイギリス人学生)を加え、喧嘩する画家夫婦(画家は夫の方)の仲裁をするのだが、ここでもギターは一役買う。親戚からの美味しい話を「芸術のため」と断った夫に激昂した妻を、立場的にはそれに近い(旅して回り、歌や劇を披露する夫、それに付き従って主に歌劇をする妻)ベルテリーニ夫妻が仲裁する話。最後には大団円を迎え、全員が(青年含め)心にプラスの変化をもたらす。青年の最後の言葉「みんな頭がおかしいや−−それでいてすごく真っ当な人たちなんだ」には、最初は夫婦を敬遠していた青年のどこか吹っ切れたような心情が込められている。

昔のギリシャでは、才能は自分の内側から出るものではなく、精霊(デーモン)が与えてくれるものだと考えられていた。この話でも、「天の摂理」という題名に込められているのは、ギターを通じて人の心を動かす天の力の意味合い、というところもきっとあるのだろうなと思ってしまった。



「ねじれ首のジャネット」

マードック・スーリスという牧師がどうして「おぞましい雰囲気」を帯びるようになってしまったかの物語。ページ数は少ないながらもどこを切り取ってもおどろおどろしい雰囲気が出ていてしんどい。

いやちょっとまとめようと思ったんだけど怖すぎて無理。そのくらいヤバい。



「マーカイム」

スティーヴンソンに人間の二面性を書かせたら傑作になるシリーズ。「ジキル博士とハイド氏」では人間の善性と、それに抑圧された本能的な悪心の相克って感じの話だったけど、 こっちは犯罪を犯した自己との葛藤と、本来は善であると信じて疑わない自身の思い込みの果てに下す結論の愚かしさを読み取ることができる。

主人公の男(マーカイム)はある骨董店で殺人を犯す。殺されたのは店の主人。最初から殺すつもりで訪れたのだろう。その殺人の動機がなんであったのかははっきりと示されていないが、「伯父の棚から持ってきた品を売りに来たのか」という皮肉的な口調や、「クリスマスの日にやってきたのだからその埋め合わせをしろ」という店主の口ぶりから、何かこの性格の悪さが主人公の逆鱗に触れた部分があったのだと言うことは読み取れる。

殺した後、マーカイムの良心が今しがた行った不道徳な行為を責め立てる。恐怖にかられながら主人の金を奪い取ろうと思案していると、突然誰かが現れる。身分も明かさず話し続ける男は、マーカイムのことをなんでも知っていると言う。

自分はもともと善なる人間で、環境が自分を悪の道に引き込んだだけなんだと弁解するマーカイム。しかし男に詰問されると、次第に分が悪くなったマーカイムは自分からこの悪行の責任を取ることを選ぶ。決断すると男は消え、最終的に自首するというお話になっている。

結局、マーカイムと問答する男はマーカイム自身の心を象徴的に表したものにはなっているものの、自分で制御する/しないの問題よりかは「自分に働きかける存在」としてここでは描かれていて、自分に隠された両極の二面性の話ではなく「自我の葛藤」にフォーカスが当てられた話になっている。とても読みやすいながらも深い物語でした。



「壜の小鬼」

表題作〜〜〜〜。めっちゃ好き。

誰もが疑わない貨幣価値を逆転させてしまう恋のパウワたるやすごいもの。最終的に二人の評価基準がお金ではなく相手を尊重し自己を犠牲にすることを優先したところに、心から愛し合うことの本質を見出すことができる。そして最終的にハッピーエンドで終わるのも後味がいい。最高の作品。



「声たちの島」

ケオラという男の物語。高名な魔術師カラマケを父に持つレフアと結婚したケオラは、カラマケがある島で拾ってきた貝殻を銀貨に変える魔術を使っていることを知る。カラマケを恐れないケオラはその傲慢さから彼の怒りを買い、海に一人放り投げられてしまう。

一時は航海者に救われ、自らも航海士になったものの、酷い仕打ちをする人もいたためその船から逃れ、ある島にたどり着く。その島こそが、貝殻を拾っていた砂浜のある島だった。

その島にやがて人がやってくる。その人々は、自分達の住む島の周りの魚が毒を持つ季節になると、そこから逃れてこの島にくるのだそうだ。最初に訪れた際には、自分の姿は魔術によって見えなくなっていたが、その時に声をかけた女性がいるのにケオラは気づいた。ケオラはその部族の歓待を受け、その女性と結婚までしてしまい、他の若い者とは違って働かなくても良いとも言われる。

「声たちの島」と呼ばれる所以は、この島の浜辺に悪魔が住んでいて、よくわからない言葉を言い合う声が聞こえるからだということを聞く。これは結局、カラマケのように魔術で身を隠した人間たちが、砂浜で貝を拾っているということだった。ケオラは、その悪魔はこれこれの木を切り倒すと現れなくなると伝えた。なぜならこの木の葉を燃やし尽くすことが、その魔術師たちが元の場所へと帰るすべだったからだ。

ある日、ケオラは妻のレフアから、この島の部族は人食い族で、彼がその食われてしまう対象になっていることを知る。レフアから隠れておくように言われるがもう自分は進退極まっているんだと言い、レフアを置いて一人島を彷徨うようになる。

翌日、ケオラは島で争いが起きていることを知る。人食い族は木を切り倒し、それに対して見えない何者かがその部族を襲っている。部族に存在が気づかれたケオラはすぐさま逃げ出す。レフアと落ち合い、二人で逃げる決心をし、葉っぱを燃やしてカラマケの家に戻る。

そののち、彼らは宣教師にことの顛末を話す。宣教師は信じなかったが、カラマケの金が悪銭だと言うならそれを寄付しろと言った。結局二人はそれに従ったが、それ以来カラマケの噂は誰も口にすることがなくなったとのことだ。カラマケが声たちの島に閉じ込められてしまったのか、それとも殺されたのかは誰も知らない、となって終わる。

短い話の中に多くの出来事が盛り込まれていて、それでいて急ぎすぎている感もないすごい作品。魔術で姿を消す・貝殻をお金に変えるのはフィクションさマシマシだけど、それにしてもストーリー性も優れていて非常に良かった。







むふふ


家事手伝いアンドロイドにいたずらする男の子の話です。アンドロイドの見た目は40歳手前くらいの普通の(特別美人というわけでもない)女性という感じです。人間にすると155cmで53kgくらいを想定しています。





****************************




 ただいま、という声と共に少年が駆け込んでくる。都内の平凡な一軒家に住む平凡な少年は、今日も平凡な学校生活を終えて帰宅したところだ。

「おかえり。今日は早かったわねえ」

 廊下の向こうから女性が現れ、玄関で靴を脱いだ少年を出迎えた。サナエさんただいま、と少年は言う。サナエというのはこの女性のことだ。正確に言えば「家庭用アンドロイド LPCX-7200-F型」のことだ。

 容姿は四十代の一般的な東洋系の女性をイメージして制作されている。かつては見た目の優れたアンドロイドが流行したこともあったが、そういったアンドロイドが乱暴される事案が多いと分かってからは、家庭用のアンドロイドはそれほど見目麗しくする必要もなくなった。

 しかし見た目というのは大事で、見た目が良い方が売れるということもあり、普通の人間よりわずかに容姿は優れているものの、それは平均の範囲内に収まり、且つやや年齢を高く設定することが一般的な対処法となった。これは他のメリットももたらした。「おばさん」くらいの年齢の女性は人間社会に溶け込みやすく、そして家庭に子供がいる場合は同年齢の母親の代わりとなった。

 少年の家庭も例外ではなかった。仕事で夜まで帰ってこないことが多い母親の代わりを、この「サナエ」というアンドロイドが勤めていた。食材の買い出しや夕飯の用意はもちろん、日中に母親がすることのできないその他の家事を全てこなしていた。

 額に僅かな汗を浮かばせた少年は、サナエに抱きついた。もともとはほっそりしていた肉体が、加齢によってうっすらと脂肪が乗ったような中年の女体。そんなややだらしない肉体は少年を柔らかく受け止め、サナエは少年を「愛情表現」として抱きしめ返した。

「サナエさん、セックス」

「ん、……?」

 サナエはその言葉を耳にして、機械的な瞬きを繰り返す。そして「や、やぁねえ。どうしたの、いきなり」と、少しだけ困ったような顔を浮かべながら返答した。

「今日もセックス、しよ?」

「え……、と。何を言っているのかしら? ふふっ。あ、そうだわ。おやつあるわよ。お茶も用意するから、ちょっと待っててね」

 通常のアンドロイドは、少年ほどの年齢の子供が性的な話題を持ち出した際にそれを回避するような行動をする。かつては性的なことを言ったり、行為に及ぼうとした際に警察機関に通報する機能も付いていたが、その網を掻い潜ろうとしてアンドロイドを破壊する事例が急増したため、なんとか穏便にその場をやり過ごすプロトコルのみが内蔵されるようになったのだ。

「やだ! セックスしたい! サナエさんとセックス!」

「ふふっ。……ふふっ。……ふふっ。……は、離して? ね、……ふふっ。そうだ、今日の学校はどうだった?」

 サナエは少年に抱きつかれたまま、その場から離れようと試みながらもぞもぞと体を動かす。プログラムされた通りの笑みを浮かべながら、なるべく性的な話題には触れないような会話を続けようとする。

「学校なんてどうでもいいよ。サナエさんのマンコ見してよ!」

「……? ふふっ。学校、楽しかった?」

 抱きついた少年をずるずると引きずりながら、なんとか廊下をからリビングに移動したサナエ。彼女は少年によって支障が生じた動作を改善するための演算を繰り返しながら、それと並行して少年の気を逸らすための会話を構築しようとする。

 日常生活で通常発生するとは考えられない異常事態。スペックの高くない一般家庭用アンドロイドにとっては、これすらも十分に負担となる。今少年の口が乳房に当たり、彼がお構いなしに服の上から吸い付いていることに対処することは出来ない。

「マンコ見して! サナエさん、お菓子は外で食べてきたから、セックスしよ?」

「ふふっ……、そう、なのね。お菓子……」

「もっと食べたら夕飯食べれなくなっちゃうよ。だからセックス! 運動してお腹空かせられるよ?」

「……」

 サナエの体温がわずかに高くなる。合理性を持った少年の発話のロジックに性的な行為が介在したため、処理に戸惑っている。そして十二秒の長考の後、性行為を置換して「じゃあ、私とお散歩しよっか」と代案を提示した。

 その間に少年の体が彼女の服を弄り、スカートを既に脱がしていることには処理が追いつかない。母親が以前使っていた紫のよれたショーツが露わになり、性の獣になった少年はすぐにその箇所に手を伸ばした。

「ああ、マンコだ。サナエさんのマンコ、柔らかいな……」

 サナエの局部には人間と同じ女性器が存在する。男性が自慰行為をする目的に備わったそれは、家庭用アンドロイドにはデフォルトで付いている。少年の父親が稀に使う意図でそれを残していたのだが、今は少年の方が多く使っている。

「だ、ダメよ。お母さんに言いつけるよ」追い詰められたサナエは最後のカードを切った。しかし少年はそれを気にかけることもなく、逆に動きの鈍くなったサナエをソファーに押し倒した。

 ズボンを脱ごうとして少年が離れたところで、サナエは体内からモーターの唸りを響かせながら非人間的な動作で体を起こす。四十代の女性を模したロボットは、少年の目にはよくできたおもちゃにしか見えていない。大切に扱おうという気持ちは起こらず、それゆえ扱いも乱暴になる。パンツも脱いで下半身裸になった少年は再びサナエに覆いかぶさり、サナエは仰向けにさせられた。

 サナエの目がいきり立った少年の肉棒に向けられる。それがペニスであると理解したサナエは少年との性行為が避けられないものだと判断し、小さな駆動音と共に膣壁から人工愛液の分泌を開始した。これは単純に人工膣を保護する目的の、いわば防衛機構のようなものである。じゅわっと膣壁から放出された愛液はすぐに女性器ユニットを潤し、サナエの下着を濡らした。

「サナエさんのマンコ濡れてる」と呟いた少年は、肉竿をサナエの股間に無造作に突き刺した。柔らかな肉壁が少年のイチモツを包み込み、オナホールとしての機能を果たそうとする。あれほど抵抗していたサナエは今は無表情になり、死んだようにピクリとも動かない。

 一度サナエと行為を始めてしまえば、なぜか彼女が抵抗を止めることを少年は知っていた。その理由は分からなかったが、それは単にサナエが未成年者との行為に際して、感じたりする機能を自らオフにしてしまっているからであった。命じられていない限り、合意のないセックスにおいて感じている女性の模倣をする必要はない。ましてや少年は未成年者であり、性行為に関するあらゆる機能を利用することは許されていないのだ。

 少年は無抵抗のサナエの上衣を脱がせながら、今日のおやつは何かと尋ねる。サナエはそれに口だけを動かして「せんべいです」と極めて事務的に返答した。彼女は疑似人格をオフにすることによって、人格を持った存在と性行為しているという臨場感を与えまいと抵抗していた。

「そうなんだ。あ、今日は紫のブラだ。サナエさん、おっぱい見せて?」

「……」

 少年は微動だにしないサナエなどお構いなしにブラを脱がせた。まろび出る乳房は少年の手から少しはみ出るほどの大きさだ。彼女の体型に合わせて計算、整形された自然な大きさから変えられていない。少年はそれを揉みしだきながら、腰を前後に振り始めた。

 よく見ると、サナエの乳首の周りには歯形がついている。少年がサナエの乳房を吸い、さらには噛んだことによって、彼女の美しい人工の双丘は僅かに痛んでいた。

「ああ、ああ。サナエさん、気持ちいいよ」

 少年は歓喜の声を上げながら、無抵抗の彼女に乱暴に腰を打ち付け、むんずと掴んだ乳房を揉み、そして引き伸ばす。サナエは少年の荒々しいセックスに対して痛みや快感を感じず、目を見開いてただこの行為が終わるのを待ち続け、そして終わった後のタイムスケジュールを組みなおそうと演算を繰り返していた。

 人工膣に収められた少年のペニスが膨張する。睾丸から湧き上がる射精欲求を、少年は目の前の女性型の機械に向かってぶちまけた。とろとろの愛液で潤った蜜壺が白濁液で満たされる。

 少年は余韻に浸るまもなく肉竿をサナエから抜き、そばにあったティッシュでそれを拭った。以前彼女に向かってお掃除フェラをさせようとしたことがあったが、これ以上は許すまいと固く閉じられた歯は、陰茎を口腔内で洗浄することを不可能にしていた。

「あ、片付けやっといてね。母さんに見つかると面倒だから。あとおやつ要らないから。じゃね」

 ズボンを履いた少年はそう言って、二階の自室へと戻っていく。サナエの目は少年を追いかけ、そして精液の溢れ出た股間と汚れたソファー、自らの乱れた着衣へと移っていく。そうして現状を正確に把握すると、しばらくそのままの状態で静止し、この異常な状態から正常な状態へと戻る手順を思考した。それが終わると、まずはむくりと起き上がって少年と同じように股間をティッシュペーパーで拭き、そしてソファーに飛び散った精液を拭った。

「……」

 サナエは無表情でそれを終えると、膣口をちり紙で押さえたまま不格好にトイレへと向かった。そうして便座に座ると、膣壁から愛液の代わりに洗浄液を分泌させ、開いたままの膣穴から圧力を上げてそれを尿のようにじょぼじょぼと排出した。何度かそれを繰り返し、十分な洗浄が完了したと判断した彼女は便座から立ち上がり、トイレットペーパーで局部を拭い、やや白みを帯びたトイレの水を流した。

 そして細い指をショーツにかけ、挿入するためにずれたクロッチの部分をしっかりと適切な場所に合わせる。露出した乳房をしっかりとブラジャーで包み込むと、上衣も整えて服装を元に戻した。それから洗面台に立つと、自らの乱れた髪を手櫛で軽く整えて「以前の状態」に完璧に戻した。

 サナエは今日発生した事案を、少年の母親に通達するタスクを追加した。しかしそれが実行されたところで少年の行動に何の変化ももたらさないだろう。母親は少年がオナニーがわりにアンドロイドを使うことを大した問題だと考えておらず、むしろそれをいちいち告げ口するサナエを疎ましいとさえ思っていた。

 未成年の子供がアンドロイドを使って性行為の真似事をしたときに、それを保護者に伝えるのは設定から変えることができない。これから先も、サナエは幾度となく少年のオナニー道具として使われることになるだろう。優しげな中年の女性の容姿を与えられたロボットは、夕食の準備に取り掛かるために無表情のままキッチンへと向かった。






***********************





ここまで読んでくださりありがとうございました! 8月は都合によりお休みさせていただきます……🙇‍♂️ 何卒ご理解くださりますようお願いいたします。

Comments

Anonymous

質問お答えいただきありがとうございました! おすすめSSも機械翻訳片手に読んでみます👍