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折からの不況で内定をとれなかった俺は,伯父の紹介であるNPO組織に勤めることになった。やや人里離れた場所に佇む研究施設の中には,身長15センチ前後の女性が十数人暮らしている。女性だけが罹患する原因不明の奇病,縮小病。その治療方法や発症原因を探るのがここの目的らしい。俺を案内してくれた研究員の人は一通り説明を終えた後,やや自虐的に言った。 「もっとも,ぶっちゃけた話し,ここにいるような子はほとんどが親兄弟から見捨てられた人なんだけどね」 縮小病に罹った人は,症状が落ち着いた後,親や友人が面倒を見るケースがほとんどだ。だが,要介護の小人をしっかりと世話してやるなんて,本音を言えば面倒くさいし,小人用の生活設備を整えるのも金銭的な負担が大きい。だから,ここみたいな施設にぶち込む人も少なくはないのだとか。ようは姥捨て山なのだ。 俺に任される仕事は「箱庭」の管理だと先輩は言った。ここには全部で十七人の縮小病患者が暮らしているらしいが,彼女らの生活スペースになるエリアをそう呼んでいるのだとか。 管理室に入ると,壁一面がガラス張りになっていて,その先の部屋がよく見えた。広い部屋の中央に大きな台が設置され,その上に十分の一スケールで作られた公園や居住スペースが存在していた。ちょうどそれとピッタリな十五から十七センチほどの小さな女性達が歩いているのが視認できる。中の女性が台から落ちないようにという配慮か,はたまた逃げ出さないようにするためか,台は透明な壁で四方を囲まれている。なるほど,これは箱庭だ。 管理室には大きなパソコンにいくつものモニターが接続されている。箱庭内に設置されたカメラの映像がここに映っているとのことだ。マイクをオンにすれば中の患者達と会話もできるようになっている。先輩は早速実演してみせた。新しい管理人が来たから,みんな挨拶してほしい,と説明すると,ガラスの向こうの箱庭の中に,スピーカーで拡散された先輩の声が響いた。俺は子供の頃,「町内会からのお知らせ」がスピーカーで町に響いていた時代を思い出した。 やがてゾロゾロと小さな女性たちが箱庭の手前に集まりだした。人形用のぶかぶかでごわごわな服に身を包んでいる姿は,なんとも悲哀を感じさせた。全員が黒髪で,あまり手入れもされていないようだった。 「増田です。よろしくお願いします」 俺が自己紹介すると,十七人が順番に名乗ったが,ハッキリ言って見分けがつかなかった。距離があってよく見えないというのもあるが,小さいということがこれほど個性をスポイルするものだとは思わなかった。単純に小さいから,顔の細かな個性が見えづらい。髪型も大体一緒に見えてしまう。ぶかぶかの人形用の服を着ているから,スタイルの違いは一切わからない。身長差も大して判別できない。並んだら大きい小さいはわかるが,だからどうしたといった感じ……。基本的に座っているだけの楽な仕事らしいが,コミュニケーションをとるのは結構面倒くさそうだ。 小人たちが解散して,また箱庭の中に散り散りになっていった後,先輩が言った。 「まあ,特に用事がなければ中の人たちとは会話しなくっていいから。毎日朝の十一時と三時に検査があるから,リストの人を呼び出してこっちに運んできてくれればいいから」 いいのかな,そんなもんで……。まあ,向こうにしてみたら俺は見知らぬ巨人なわけで……。いちいち話しかけられても怖いしウザいだけなんだろう。 実際に仕事が始まると,聞いたよりさらに楽ちんだった。最初は警察か何かのように頑張って目を光らせたりもしたが,何しろ全員が顔見知りの狭い十七人のコミュニティだ。大きな事故や犯罪なんて起きやしない。それに若い女性達の生活をのぞき見するのも何となく気が引ける。あっという間にネットサーフィンや読書,ゲームをするのが主な業務になりつつあった。 中の小人達と話す機会も,検査の持ち運び時ぐらい。世間話や互いの身の上話などを軽くして終わり。検査後には愚痴も聞かされる。こりゃ簡単な仕事だ……と思っていたのも束の間,GW明けに箱庭メンテの人が辞めてしまったので,俺に仕事が回された。今までは見ているだけでよかったのだが,実際に手を動かして装備の点検は勿論,小人達の直接的な世話もやらされることになり,これが大変だった。具体的に言うと下の世話だ。台の下から排泄物の汲み取り作業を毎日行わなければならない。トイレ用の水も俺が毎日,何回もタンクに詰めなければならない。精神的にキツかった。物理的にはペットの世話と同じだが,何しろ彼女たちは人間であり,人権がある。年頃である当人達も,下の世話を他人に委ねるのはキツイだろう。双方が凄い勢いで疲弊するのだ。老人介護よりは楽なのだろうが,これをろくな設備もない中毎日やってやらないといけないのか,と考えれば彼女たちが捨てられたのも理解できる。 最初は暢気に「もっと髪とかも手入れしれやればいいのに」なんて思っていたが,実際やるとこれもまた精神をすり減らす作業だった。風が吹けば飛びそうな彼女らの体を拭いたり,毛先をカットしたりするのは相当に精密な動きを要求される。一歩間違えば大惨事。俺も緊張するが,十倍ある巨人に身を委ねる当人達はもっと怖がっているのがハッキリと伝わってくる。何とかならないか,これ。唯一の救いは爪が伸びないこと。先輩がどこかの研究所からツテで持ってきた樹脂を塗ることで,爪の手入れはしなくてもよくなっているのだ。十分の一サイズの小人の爪を怪我させずに切れ,と言われた日には多分逃げ出すだろう。彼女らが自分たちでできるように十分の一スケールの生活用品を用意できればいいのだが,特注のワンオフ品になるため,値が張る。申請しても許可が下りなかった。ここは大きな組織でもないため,箱庭の維持だけで精一杯なのだ。 余所ではどうやっているのだろう……とネットで縮小病患者の世話を調べていると,興味深い動画が流行っていることを知った。縮小病のユーチューバーがフィギュアクリームというクリームを体に塗っている動画が紹介されている。本来はフィギュアの修繕や艶出しに用いられる道具らしいが,フィギュアを触ったときに付着する汚れを分解する機能,それが何と小人たちの排泄物を完璧に分解するらしいのだ。これを塗ればトイレに行く必要がなくなる。それだけではなく,お風呂にも入れなくてよくなる……。本当だろうか。 試してみたかったが,先輩に「身体に悪影響があるかもしれないから」と却下されてしまった。動画見る感じ大丈夫そうなんだけどな。俺は苛立ちながら小人達の下の世話を続けた。 半年後,先輩が職場を去った。新しい人は入ってこず,俺が引き継ぐことになった。だが資料を見てみると,縮小病の治療研究なんて嘘っぱちで,健康状態のチェックと身体測定をしているだけだった。いい加減な組織だなおい。ま,小さいNPOなんて実体はどこもこんなもんなのかもしれない。実際の治療の研究はもっと大きいところが本格的にやっているんだろうしな。縮んだ家族の面倒をみずに施設に入れるのは体裁が悪いから,表向きは治療ということにしたんだろう。ここは老人ホームならぬ小人ホームってことだ。 ただ,事実上,これで上司がいなくなってしまったので,俺は自分の裁量で好きにできるようになった。フィギュアクリームを早速試してみるべきだ。 中の人たちに提案して説明すると,当然のごとく猛反対された。しかし俺はもうフィギュアクリームを箱で買ってしまっていたので,強行することにした。これ以上見知らぬ女達の下の世話なんてしたくはない。 まずは検査と称して一人連れだし,クリームを溶かしたお湯に入れた。抵抗はされたものの,16センチの女に抜けられるほど俺の握力は弱くない。頭の先まで全身浸かるよう,チョン,チョンと指先で頭を押した。そろそろいいだろう。そっと指先でつまんで引き揚げると,生きたフィギュアが姿を現した。俺は驚いた。動画で一通り見てはいたものの,こうして現実で目の当たりにすると圧倒される。クリームは綺麗に肢体をコーティングするかのように体を滑らかに覆っている。人形の形状を損なわないようナノマシンが制御していると聞いてはいたが。人間相手でもここまで見事にやってくれるものなのか。俺の指先は肌色のヘドロがまとわりついたような惨状なのに。ただ,人形にはない部分,股間と乳首には異常が見られた。穴が全て埋められ,起伏のないツルツルした股間。胸も乳首が消滅していた。心なしか一回り胸が大きくなっているような。違和感なく乳首を覆い隠すよう,全体的にクリームが増強したらしい。しかしこれは素晴らしい結果だった。髪と眉毛以外の体毛は全て消え,テカテカと光を反射するフィギュアのような肌になった彼女は,生きている人間とは思えない。ギャースカわめいてピョンピョン跳ねてさえいなければ,本物の人形と見分けがつかなかったろう。俺はその時,髪も一つの塊のようになっていることに気づいた。アニメフィギュアの髪のようだ。一つのパーツとして成形されたかのような質感。だが触ってみると髪が分かれた。髪型もいじることができる。目の情報と手先の情報が一致しない。奇妙な体験だった。 彼女の抗議がうるさくなってきたので,鏡を見せてやった。すると,ギョッと目を見開き,静かになった。まあ,衝撃だろう。自分がアニメキャラのフィギュアと見紛う姿に変貌しているんだ。その顔も程よくデフォルメされたかのような仕上がりになっていて,生々しさが消え失せている。これを本人がどう受け止めるか。俺は彼女を大人しくさせるため,とりあえず褒めまくっておいた。凄く綺麗になった,可愛い,アニメのキャラみたいだ……と。それでも最後まで納得はしなかったが,明らかに怒気は衰え,満更でもなさそうな雰囲気を纏わせ始めていた。 箱庭に戻して,すぐにカメラを管理室のモニターに映した。音声もオンに。他の十六人から盛大にからかわれ,馬鹿にされていた。言葉の上では生気が感じられない,キモいなどと言ってはいるが,表情や振る舞いからは羨望や卑下の感情が読み取れる。俺も見比べることで改めて感じた。彼女はとても「キレイ」になった。無駄毛もまともに処理できず,すっぴんでぶかぶかの服を着ている小人たちは,恐ろしく「汚い」存在に見える。当人達もそう感じたのだろう。その日のうちに五人ほど処理したが,箱庭の中で先行者五人は困り顔で笑い合っていた。口では「勝手に変なもの塗られて困っちゃった,迷惑,大変,最悪……」なんてうそぶいているものの,信じられないほどキレイでカワイイ存在になった自分たちを良く思っているのは明白だった。化粧もお洒落も,体の手入れもできなかったこれまでの日々が,内心では相当に不満だったに違いない。あらゆる点でミスマッチだった,着せ替え人形の服も今やバッチリと決まっている。五人は「人形になっちゃったー最悪ー」「みんなは生きてるって感じがしていいなー」等とその日一日中自虐風自慢に明け暮れた。特に誰かがトイレにいくと勝ち誇った顔で「ああー……。アタシもうトイレ行けないんだよねー……」なんでマウントを取り始めるので,俺は管理室で一人大笑いしていた。 翌日には全員に処理した。みんな「やだー」「最悪ー」などと言いながらも,抵抗する様子は見せなかった。箱庭は瞬く間に不潔なものが存在しない,美しい世界に生まれ変わった。最後の汲み取りと洗浄を終えた後,俺は最高の解放気分を味わった。もうあいつらは風呂に入れなくていいし,トイレ使わないし,ただ食事を用意するだけでいいのだ……と考えると,気持ちが晴れ晴れとしてくる。箱庭の公園のカメラをつけてみると,一昨日までは見られなかった世界が広がっていた。ツルツルの肌とフィギュアのような一塊の髪を持つ,生きたフィギュアたちが和気藹々としている。まるでアニメの世界のようだった。不純物のない,キラキラした世界……。逆に,この子たちならちょっとぐらい汚い世話をしてやってもいいかな,と思えてくるほどだった。不潔な小動物としか思えなくなっていた彼女たちから,今や癒やしすら感じる。こりゃ最高だ。明日からは生きたフィギュアたちの交流を眺めながらゲームしていればいいなんて,信じられるか? 二,三日すると,新たな問題に悩まされた。デフォルメフィギュアになった彼女たちは,顔の細かな差異がクリームで埋没し,見分けがつかなくなったのだ。管理の際に非情に困る。誰がどこにいるのか,今カメラに映っているのは誰なのかわからない。これがアニメなら,カラフルで派手な髪型とキャラごとに決まった服装で見分けがつくんだが。あ,そうだ。それをやってしまえばいいんだ。 俺はフィギュアクリームの会社が出している人形用の染毛剤を買って,十七人全員に違う髪の色を付与することに決めた。ピンク,青,黄色,緑,オレンジ……。一人だけ黒髪を残し,あとは全部カラフルにする。それで一発で見分けられるようになるはずだ。 提案すると反発された。この年でそんな色は恥ずかしくてできない……と。まあ,全員が二十代だからな。現実に考えれば痛々しくって見ていられないだろう。コスプレ臭もキツイ。だが今の彼女たちは違う。フィギュアクリームでデフォルメされた,2.5次元の存在になっているからだ。動かなければポーズ固定型のフィギュアにしか見えない容姿になっている今の彼女たちならば,カラフルな髪色を与えても違和感がないはず。 検査の時に,まず最初の一人を強引にピンクに染めてみた。取り乱されたが,鏡を見せると途端に大人しくなった。それどころか,「悪くないかも?」といった感じで髪をさわさわとまさぐった。当人達は,クリームを塗る前の自分……体の手入れを行っていない,すっぴんの自分たちが髪をカラフルにしている姿で想像していたのだろう。それならば想像通り,気持ち悪いものになっていただろう。だが彼女たちはアニメキャラが画面から抜けて出てきたかのような容姿になっているのだから,ピンクの髪に違和感はまったくなかった。それどころかかなり可愛い。似合っている。当人も驚いた様子で,食い入るように鏡を見つめていた。俺が声をかけると,真っ赤になって抗議したが,建前,表面上といった感じで,内心気に入っているのは明白だった。 クリームを塗った時と同様,全員に独自の髪色を与えた。黒髪を一人だけ残し,箱庭は今度こそアニメの世界になった。毎日の検査の度に,可愛い,似合ってると言い続けた結果,一週間ほどで文句を言われなくなった。縮小病に罹って以来,容姿を褒められたことはほとんどなかったに違いない。それに,今は外界との接触は俺一人なのも大きいだろう。俺の言葉は強い力を持つはずだ。……まあ,単に諦めたのかもしれないが。 とにかく,これで完璧になったはずだ。快適なネットサーフィンの時間が戻ってくる。 だが,またしても新しい問題が発生した。容姿に自信を持ったフィギュアたちは,眠っていたお洒落魂を蘇らせたらしい。人形の服が似合うようになったのも大きいだろう。服の取り合いやケチのつけ合いで箱庭全体がギスギスしてきた。検査の度に,俺は「誰それがあの服気に入ってるけど似合ってない」だとか「髪の色と合わないのが分かってない」だのと愚痴を悪口を聞かされた。 この問題に対処するにはどうすればいいか……。俺はフィギュアクリームについて色々調べてみた。何度も繰り返した行動を学習する機能があるらしい。不味いな。喧噪が長引けば定着するってことじゃないか。こっそり全員をAIフィギュア管理用タブレットに登録して,情報を見てみた。いくつかの行動が学習中になっている。とりあえずヤバそうなのを停止させておいた。さて「ここからどうするか。みんなアニメキャラみたいな姿をしているんだからアニメのキャラみたいに仲良くしてくれんもんか。……そういや,アニメのキャラって基本同じ服着てるよなー……。特定の服しか着ないようにすれば喧嘩はなくなるだろうか。判別もしやすくなるし,いいな。それでやってみよう。 彼女は魔法少女,あの子は巫女,こちらの子はメイド,それからチアガール……という風に,俺は髪の色と合うような「属性」を彼女たちに設定した。十七人それぞれに,アニメキャラのような特定の属性を付与するのだ。問題は,それをどうやって現実の物とするか。同じ服しか着られないようにする方法なんてあるか? 俺が強要しても反発するだろうし,中のギスギスが残るよな。本人達に納得して受け入れてもらいつつ,特定の服装しか着ないようにする……。 考えた末,俺は彼女たちを誘導して,自らの意思で「魔法少女」「メイド」「ナース」「ウェイトレス」……その他諸々になってもらうことにした。 作戦はこうだ。まずは俺の設定した属性に合致する服を混ぜて,新しい服を大量に用意。アニメキャラクターのコスプレ衣装中心。文句は出たが,何だかんだ言って全員割とノリノリであった。「似合う」というのは何よりも強いのだな,と実感する。それに,彼女たちはもう長いこと表に出ていないから,羞恥心も弱まっているのかもしれない。 その服の中に,特定のキャラクターのコスプレじゃない服が混じっている。単純なメイド服,ナース服,巫女衣装……。自然とそれらの着用機会が増えるというわけだ。そして,検査の時に俺が設定した服を着ているときだけ,よく褒める。俺が密かに「巫女」を割り振った子が巫女衣装を着ていたら褒める。「魔法少女」を設定していた子が魔法少女のコスプレを着ていたら褒める。検査の時は一人だけ箱庭の外に出すので,他のフィギュアたちに聞かれることもない。俺は根気強くこれを続けた。女なんて単純なもんで,次第に俺の褒める服……即ち俺が設定した「属性」に合致する衣装を着ることが増えてきた。最初は検査の時だけでも,次第に日常でも好んで着用し出す。三ヶ月ほどかかったが,全員が決まった系統の服ばかり着るようになってくれた。真穂さんなんて二十代後半にも関わらず,毎日女児向けの魔法少女アニメのコスプレをするようになった。笑ってしまう。髪がピンク色なので,自然とピンク魔法少女の服ばかり着るようになった。俺は何も指示していないし,強要していない。ただ褒めただけだ。彼女が魔法少女のコスプレをしたときだけ褒めただけ。それを全員にやった。一人黒髪だった優美さんは巫女に,藤原さんはメイドに。こうも上手くいくとは思わなかった。だが全員が毎日同じ服を着ているわけではない。服を追加する度に,俺はこっそり全員のレパートリーを増やした。どういうことかというと,それぞれの属性にも幅を持たせるのだ。ピンク系統の魔法少女衣装は七種類ほどある。どれも違うアニメのものだ。真穂さんはその七種類から選ぶようになっている。巫女衣装も,メイド服も,チア服もいくつか種類を増やした。彼女たちは毎日服を変えているつもりだろうが,実際には同じ属性の服しか着ない。藤原さんは日によってミニスカだったりロングだったりヴィクトリアン風だったりするが,「メイド」であることは変わらない。こうして俺は,こっそり平和裏に,全員にアニメキャラクターのような属性を付与することに成功した。 人間不思議なもので,格好に行動が引きずられていくらしい。藤原さんはどっちかというとしっかり者だったはずなのだが,最近はみんなから雑用を指示され,それを受け入れるようになってきている。格好だけでなく,箱庭の中の立ち位置も「メイド」になりつつあるのだ。これに気づいた俺は,つい面白くなって,検査の時に格好ではなく,「キャラ」を褒めることにした。「メイド服が似合ってる」ではなく「メイドが似合ってる」という風に。他の子も同様に行った。するとみんな段々それっぽく性格が変わってきたのだ。藤原さんはすっかり十七人の中でも最下層の召使いみたいになっちゃったし(本人は満更でもなさそうなのだ!),魔法少女を付与した真穂さんは幼児退行……もとい天真爛漫な感じになってきたし,ウェイトレスの子は藤原さんと並ぶ雑用係になったし,チアガールの子もチアの経験はないはずだが,それっぽい踊りを披露するようになった。そんなわけで箱庭世界はすっかり,アニメの世界みたいになった。ハッキリ言ってもうすぐ三十路を迎える女性達には見えない。フィギュアみたいな見た目のせいで中学高校ぐらいの子に見える,というのもあるが,立ち居振る舞いがすっかり幼くなってきた。俺が「属性」を与えたからだな,多分。ちょっと罪悪感を抱いたが,見ていて楽しいので俺は放置した。半年もすると属性をフィギュアクリームが完全に学習していた。彼女たちはもう決められた系統の服しか着られないし,それっぽい言動しか取れないのだ。本人達がどう思っているのかはわからない。もしかしたら本当はもう夢から醒めていて,違う服が着たい,もっと年相応の言動をとりたい……と本心では思っているのかもしれないが,フィギュアクリームの学習率が100%である以上,逆らうことはできないはずだ。内心で何を思っていようが,彼女たちはこれから永遠に箱庭の中で与えられた属性通りに振る舞うフィギュアであり続けるのだ。

Comments

Anonymous

被害者側女性視点の描写がopqさんの作品の魅力だと思いますが、個人的に加害者男性視点が性癖なのでこのSSが一番好きです。

opq

コメントありがとうございます。こういうのもいいですよね。