コスプレ石像モデル (Pixiv Fanbox)
Published:
2023-03-07 15:27:08
Imported:
2023-05
Content
「マジックショーのアシスタント……ですか?」
駆け出しモデルの私に回ってきたのは、一風変わった仕事だった。売り出し中の若手女性マジシャンのショーの前座。子供向けのプリガーショーのアクター。正直、あまりにも予想していない内容だったもので一回聞いただけだと話が頭に入ってこなかった。
「でも、こういうのって普通着ぐるみでやるもんじゃないんですか?」
要は遊園地とかデパートとかでやるようなヒーローショーの簡易版というか……。モデル三人がそれぞれプリガーのコスプレをして軽いスタントを披露するらしい。若手マジシャンとプリガーのコラボ企画。うちの事務所が関わっているので、せっかくだから若手に何かやらせようということになったらしい。それで学生時代に体操をやっていた私に。ほか二人もスポーツ経験のある二人。なるほど……。ド新人の私にとって、勿論願ってもない話だった。私はすぐに了承し、打ち合わせに入った。
衣装合わせの日。話は聞いていたけど、衣装は想像以上だった。安っぽいペラペラの布製じゃない。ゴムのような質感と厚みを持つ樹脂製の衣装。それでもアクションを阻害しないぐらい柔軟に曲がるし、元の形状に戻るらしい。これじゃ衣装というよりは極限まで薄くした着ぐるみって感じかも。実際装着してみると、まるで本当にプリガーに変身したかのようだった。スカートはパニエもなしに、単体で広がったままその形を維持する。ドレス部分も手袋もブーツも、ピタッと体に密着した上、厚みがあるのに腰を曲げてもほとんど抵抗がなかった。すごいや。
「かわいい~」
「昔見てたなぁ~」
一緒にプリガーとなる二人はノリノリで、私も楽しかった。が、ウィッグまでつけると流石に恥ずかしかった。もう高校も卒業する歳でプリガー、それもこんなにハイクオリティだと本気感マシマシ。ウィッグも同じ素材らしくて、アニメみたいに長いのに重くない。そして重力に負けてだらしなく垂れることもなく、アニメ世界のようにたなびいたままだ。
「楽しみですねー、コレ」
スタント自体は本当に軽いものだったし、ちょっと前まで学生だった私たちには何の問題もなかった。私は大仕事に胸躍らせながら本番の日を待った。調べてみたらマジシャンの方も本当に売り出し中で有名になりつつある人らしいし。上手くいけばモデルどころか、ひょっとするとアクションのできる女優とか、あるかも……。そんな風に未来の期待に胸を膨らませて。
私の人生を文字通り灰色に塗りつぶす悲劇は、リハーサルで起きた。メインの出し物は若手マジシャンがやるはずだった石化脱出ショー。瞬間化石剤とかいう、食物や生体を石のようにコーティングして長期保存するための液。それを全身に舞台の上から被る。するとその場で本当に石になったかのように灰色に染まって動けなくなってしまう……が、そこからパリパリとヒビが入り、本人が石の衣を破って復活するらしい。練習を見せてもらった時は驚いた。
その人の前座となるプリガーコラボショー、スタントを予定通りに決めて決めポーズをとった私たち三人に、頭上から大量の液体が降りかかった。私たちは何が起きたのかもわからないまま瞬間的に全身が硬直してしまい、動くことも喋ることもできなくなってしまった。
(ひゃっ!? な……なに!?)
脚をクロスし、正面に向かって体をちょっと捻りながら両手でハートマークを作って笑顔。そのポージングを決めた瞬間、私の「人生」は終わりを告げた。体が全く動かない。手も足も、その場に空間ごと固定されてしまったかのようだった。微動だに出来ず、指一本、表情筋の一筋すらも動かせない。スタッフしかいない閑散とした観客席に向けて、笑顔でプリガーのポーズを決め続けることしかできなかった。
皆が慌てているので、何か良くないことが起きてしまったのだということは察した。で、でも……これは一体? さっき私たちに降りかかった液体は? どうして体が動かせないの? 全身がカチンコチンで、力を入れるという動作さえできない。時間が止められている。
(ま……まさか……)
練習で見せてもらったマジシャンの姿を思い出す。全身が灰色に染まり石像のように固められた次の瞬間、石の衣を粉砕して飛び出る彼女の姿。
慌てるスタッフが私の体を揺らし、ポーズを決めたまま前後に揺れた時私は全てを察した。何かの手違いで化石剤が降り注ぎ、私たちは石化してしまったのだと。
最初は事態を深刻に考えていなかった。元に戻す処置が行われれば、すぐに動けるようになると。しかし中々私たちの石化が解かれる様子はなく、なんと石像のような状態のまま、私たちは病院に搬送された。えっ……ど、どういうこと? 元に戻す薬剤か何か、当然あるんじゃないの!?
病院では相当に気恥ずかしい思いをした。何しろ全身にプリガーのコスプレ、それもフィギュア並みにビシッと形状の再現された衣装を着て、決めポーズのまま動けないだなんて……。舞台という非日常から降ろされ、日常の場に戻されてしまえば、それは非常識な格好で間抜けな事態に陥った滑稽な姿でしかない。この歳でこんな格好のままジロジロ見られるのはかなり恥ずかしかった。
動くことも喋ることもできず、視線すら動かせない。私は視界を横切る人たちをただ黙って眺めていることしかできなかった。一向に動けるようにならないことにヤキモキしながら、誰か事情を説明して欲しいと強く願った。私たちの意識はないと思われてるんだろうか?
ようやく私たち、事故の当事者に説明があったのは翌日。石像のように固められたまま一日放置されたのは相当辛かった。一刻も早く解放してほしい。その思いが高まり切ったタイミングでの信じられない宣告に、私は呆然自失だった。
「いいですか。よく落ち着いて聞いてください。まことに……まことに申し訳ないのですが、皆さんを元に戻すことは……できません」
(……えっ!?)
アクシデント自体は予想通り、化石剤を被ってしまったこと。私たちは全身がコーティングされてしまい、「保存」されている状態らしい。そしてその保存は……解けない。意味が分からなかった。どうして? ありえないでしょ? そんな危険なものを……ていうか、マジシャンの人はちゃんとその場で……。
今回の事故は二重の手違いがあり、取り返しのつかない不運だったのだ。通常とは違う特別に強い化石剤が誤って使用されていたこと、それをスタッフの人が間違って変なタイミングで上からかけてしまったこと。マジシャンの人の脱出は、肌と衣装に予め化石を解く薬剤を塗っているからこその芸当であり、そんなもの塗っていない私たちは……永久にこのままだと……。
(ちょっと……ちょっとそんな、嘘でしょ!? 馬鹿なこと言わないで、仕掛けでしょ!? ドッキリなのよね!?)
ありえない。そんな馬鹿な話あっていいはずがない。きっとこれは夢だ。嘘に決まってる。駆け出しモデルドッキリ企画に違いない。しかし二日経ち三日経ち、決めポーズのまま一ミリも動けない時間が過ぎていく。私はいよいよ現実から逃げることができなくなり、あまりに理不尽な出来事に心の中で泣きわめいた。
(あ……あぁ、いや……いやぁーっ!)
事務所に搬入された私は、同じように「保存」されてしまった同僚二人の姿をチラリと見れた。信じられなかった。ダブルピースを決めてほっぺたに当てたまま灰色に染められてしまった先輩。凛とした表情で手足を伸ばしたままピシッと固まっている同期。その姿は、本当に石像のようだった。石にしか見えない。これが人間……だなんて。そして私も同じように石像と化してしまっているのかと思うと、悲鳴を上げたかった。それでも体はあの瞬間のまま固定され、笑顔でプリガーの決めポーズを取り続けていることしかできない。
「うっわ~、ひっさん~」「かわいそ~、ていうか……ププッ」
「お、おい……笑うなよ」「でも、だって、流石に……こんな格好て……」
(……っ!)
事務所の皆は私を見ると、誰もがちょっとばつが悪そうに目を逸らしたり、吹き出すのを慌てて堪えたりして、神妙な雰囲気を保てる人はほとんどいなかった。それもそのはず、フィギュア並みに完璧に形状が再現されたプリガーの格好で石像になってしまっているからだ。チラッと視界に入った哀れな二人の姿を思い出す。私たち三人は、きっと完全に「プリガーの石像」にしか見えない状態なのだろう。笑顔でバシッとポージングまで決めちゃって。それも全力のコスプレをした姿で。
(……仕事っ! 仕事で着てる……着たのよ! 何が……何がおかしいのよーっ!)
今すぐこの場から走って逃げだしたい。消えてしまいたい。石化したままでもいい、着替えたい。もっとまともな……普通の服装に。しかしそれは永遠に叶えられることはない。私たちは全力でプリガーのコスプレをしたまま石になったという滑稽すぎる退場を決めた、あまりにもピエロな負け犬だった。私たち自身がそのトロフィーそのものなのだ。
(や、やだ……ちょっとやだ、見ないで……何でこんなところに飾るんですか? やめてくださいよぉ!)
事務所に設置されてからは針の筵だった。何しろ所属している先輩方や同期、マネージャー、その他経理や掃除のおじさんたち、ありとあらゆる人たちが私の視界を横切っていく。つまり、見られている。屈辱だった。惨めな生きる石像と化したこの姿を、出来ることならだれにも見られたくない。しかし、今の私にはそれすら意思表示することができない。事務所を彩る新たなオブジェとして皆にちょっとした笑いを提供することが、私に課せられた新たな、永遠の仕事だった。
本番でなかったことは不幸中の幸いか。おそらく表ざたにはしなかったのだろう。記者のような人が私たちに注意を向ける様子はなかった。代わりに皆一様に
「何でプリガーの像なんか飾ってるんすか?」
と笑いながら問いかける。誰も人間だと……いや、駆け出しモデル石田香の像だとは言わない。想像すらしない。私にはそれが死ぬほど悔しかった。私は人間・石田香だ。石像でもなければプリガーでもない。でも、誰もが「プリガーの石像」だという。自分という人間の存在自体を灰色に塗りつぶされてしまったかのようで、胸が締め付けられる思いだった。
一か月経ち二か月経ち……。身動きのできない苦しさ、誰とも意思疎通できない寂しさ、石田香像ですらなくプリガー像である悲しみ……。よくも頭がおかしくならないものだと思う。私は自分がこんなに精神強い方だとは……いや、「保存」されているから発狂さえできないのかもしれない……。元は食べ物の長期保存なんだっけ……。これから一生、私たちはこんな格好のままここで晒し者になっていることしかできないの? あまりにも酷すぎる。
三か月もすれば、誰も私たちに格別の注意を払わなくなってしまった。私たちは風景に馴染み切り、「事務所に飾られている石像」になってしまったのだ。侮蔑の笑みさえ向けてはくれない。ひょっとして、もう皆私たちのことを忘れているんじゃないか。本当に単なる石像だと思ってない? そんな嫌な想像ばかりが膨れ上がり、焦燥感が募る日々。時折、思い出したかのように私は自分の体を動かそうと努めた。しかし不可能だった。頑として脳からの指示は拒まれる。いや、指示を出すこと自体が封じられてしまっている。完全に固定された手足、腰、首、たなびくウィッグは一ミリも微振動すらさせてもらえない。
(んっ……ああっ、んんんっ……)
ダメだ。全く動けない。声も漏らせない……。もう二度と動くことはできないの? 本当に、本当にこのまま……ああ。
(モデル……なりたかったなあ……)
私の人生、まだまだこれからだったのに……。事務所に所属するってだけでも相当だ。それが……それなのに、あっさり石像になってお終いだなんて、酷すぎる……。それもよりにもよってこんな格好でだなんて……。せめて、せめて石田香の石像でありたかった。こんなのって酷いよ。どうしてぇ……。
動かない体は、数ミリにも満たないくせに死ぬほど硬い石の衣は、何も答えてはくれなかった。
悪夢のような一年の後、すっかり世界から忘れ去られてしまったのだと思っていた私たちに、「仕事」が与えられた。事務所から運び出された時は元に戻れるのかと淡い期待を抱いてしまった分、ショックは大きかった。
(ちょっと冗談でしょ。どんな神経してるわけ……?)
私たちが設置されたのは、ショッピングモールの一角を占める、どピンクな店内。プリガーの玩具やグッズが棚に多数並べられている。どうやら私たちは……本格的に「プリガーの石像」として運用されることは決まったようだ。信じられない。あんな事故を起こして、その当事者を……こんな風に扱うだなんて……。
「あープリガー、プリガー」「うおすっげー、よくできてんなー」
生きているかのように精緻な石像に、来客は皆息を呑み賞賛した。どうやらシリーズの周年らしく、私たちは記念の石像扱いで展示されているようだ。腸が煮えくり返る思いだった。私はプリガーじゃない、石田香だ。石像じゃなくて人間よっ。
「でも去年のプリガーじゃん、なんで?」
(んなっ……!?)
特に私の心に刺さったのは「去年のじゃん」系の反応。私は気づいた。私が着ている服は、しているポーズは、去年のプリガーのもの。これから月日が経つにつれ、私は「二年前のプリガーの石像」となり、「昔のプリガーの石像」になっていくということに。私たちは時代について行くことすら許されず、段々とダサい存在になっていくのだ。こんな屈辱的な格好で固められた挙句、そんな運命が待ち構えているなんて。
(違う、違う―っ、動けないの。着替えられるならいくらでも着替えてやるわよーっ!)
こうしている間にも、後輩たちが実績を重ねて新世代のモデルへの階段を上っているのかと思うと、頭がどうにかなりそうだった。私たちは「昔のアニメキャラクターの像」として古びていくだけなのに……。
余りにも可哀相だと神様が願いを聞き届けてくれたのか、私たちに救いがもたらされた。特別展示が終わったのち、私たちは見たこともない研究所に運び込まれた。そこで変な機械から照射される青白い光を浴びると、一年半ぶりに体が動き出したのだ!
「いやよかった。大丈夫? 自分がわかるかな?」
(あ、は、はい……私は……あれ?)
ちょっとずつ手足を動かしながら、私は返事を試みた。が、喉から言葉が出ていかない。喋れない……。ダメだ。ゆっくりと動けるだけ……。
手足の力をちょっとでも抜くと、また元の両手ハートマークに戻されてしまう。このポーズは私の基本姿勢にされてしまったらしい。このポージングが私の「本来の形」になってしまっているのだ。何度もこの青白い光線を照射すればもっと動けるようになると先生(?)は言う。私は人間に戻れるんだと思い、歓喜の声を叫びたい気分だった。良かった。本当に、耐えて、耐え抜いて……よかったぁ……。
しかし、ぬか喜びもそこまで。私たちは完全には戻れないらしい。懸命なリハビリでようやくほぼ自由に動けるようになったものの、稼働限界は一日に十数分のみ。大半の時間は結局石像のように固まったままだし、全身は灰色に染まったままだ。それに、どれだけ頑張っても結局、発声はできなかった。「ちょっとだけ動ける石像」それが私たちだった。
それでも、ようやく忌々しいコスプレ衣装を捨て去れた喜びは例えようもない。私はようやく「石田香」に戻ることができたのだ。もう誰も私をプリガーの石像だとは思わない。これからは石田香の石像となる。私という存在は再びこの世界に顕現することが許されたのだ。
と、喜んだのも束の間。日中固まったままの私の視界にマネージャーが映りこんだ。いつ振りだろう……。ていうか私、まだ所属扱いなのぉ?
そして、私の「回復」を労ったのち、新しい仕事をやってもらうと彼は宣言。ビックリした。こんな……ほんのちょっと、十数分だけ動けるようになっただけで、実質まだ石像の私に、仕事!?
あくる日の深夜、私は新たな衣装に着替えさせられ……いや着せられた。十数分の僅かな時間でろくに口頭のやり取りもないまま始まった。動けない時、つまり断ることすらできない時に勝手に説明して、了承したつもりにするの狡いと思う。けど声の出せない私には、結局意思表示の機会はないに等しい。それに断れば心証が悪くなる。二度と軟化光線の照射はしてくれないかもしれないし……。
一目見ただけで、何かのアニメのコスプレだとわかった。私はフリフリのドレスを着せられ、ロングのウィッグを被せられる。固まり始めるとスタッフたちが私の手足を折り曲げ、勝手にポーズをとらせた。衣装もウィッグも事前に化石剤に浸けてあるらしく、既に灰色だ。私が再びカチンコチンになってからしばらくすると、衣装も硬化していく感触があった。
(ま、また飾られるんだ……石像として)
私の新たな仕事。それはアニメイベントを彩るキャラクターの石像になること。丁寧に梱包され、トラックと作業着の男たちによって会場に搬入されるその様はまるっきりモノ扱いだった。ポーズをとったまま指一本動かせず、宙を移動していくこの感覚。イベントにちゃんと人間として出演するんだろう人たちとの落差を思うと情けなかった。この作業員の人たちは私が生きた人間だと知っているだろうか?
イベント中、私はかなり写真を撮られた。正直言って相当に恥ずかしいし屈辱的でもある。幸か不幸か、ステージも視界に入る配置だったので、堂々と働いている同じ事務所の先輩方、ましてや後輩を見てしまうと心が焦るばかりだった。私もあっちに立ちたい。でも……体が動かないよ。私は相変わらず石像扱い。黙って笑顔を浮かべながら会場の背景を演じていることしかできない。
それからはこんな仕事ばかりやらされた。つまり私は石像モデル。コスプレをしてイベントやら何やらの飾り付けとして参加する。それが私の使われ方。出来ればアニメのコスプレなんかじゃなくてもっとまともな服を着て、ちゃんとした石像として展示されてみたいというような、恥辱から逃げたい気持ちと女の意地がない交ぜになった、奇妙な感情を抱くこともあった。勿論、石像になんかなりたくないし、納得しているわけではないんだけど……。まるで幼い少女か痴女みたいな格好ばかりで嫌になる。ポーズすら変えられず見世物になって、世に私の恥ばかりが積み上げられていく。
でも、まともな格好で真面目な石像は、まあ普通に石像を作るんだろう。わざわざ石像を新規に作るまでもないような需要を埋めるのに私はちょうどいいんだと思う。それに真面目な石像って、美術館とか公園とかに飾るんだろうし、そしたらそれっきりだよねえ……。美術館で彫刻として展示されている自分を想像するとゾッとする。二度と人間に戻してもらえなさそうだ。だったらスポット参戦用の石像モデルの方が……いい……のかな……。
研究所で解凍される僅かな時間、私は周囲を見渡す。そういえば残り二人はどうしたんだろう。ずいぶん長いこと見ていない気がする。私のように扱われているんだろうか。それとも……。相変わらず声は出ないし、解凍時間は基本着替えとポージングの時間で、筆談の機器なんか与えられない。だから私は誰にも尋ねることができなかった。それに、時間が経てばたつほど訊くのも怖くなっていく。多分、元気でやってるよ。それぞれスケジュールが違うからかみ合わないだけ……きっと。
もしかして、解凍時間中に暴れて石像モデルやるのを拒否したり? もしそうなったら……どうなるんだろう。二度と解凍はされないかもしれない。する理由がない……。どうせ固めておけば訴えられることなんて絶対ありえないんだし……。そう思うと、わけもわからず流され続けた自分は正解だったのかな? いや、残り二人は完全に元通りで、石像モデルを受け入れたと判断された私だけが戻されてないのかも……。
久々にプリガーの石像と化して専門店に搬入される際、五体分の台座があることに気づいた。五体……? 今年のプリガーは五人チームだから? でも石像は……どこから来たの? いや、来るの?
そのうちの一体が私。ピンク担当。中央に飾られた私は、後から四体の「同僚」が運び込まれてくるのを静かに眺めた。もしかして一緒に固められた二人……だとしたら残り二体は? まさか新規で所属タレントを石化するなんてこと、あるわけない。いや、元に戻せる普通の化石剤ならアリ……? やっぱりただの石像……い、いやそれはそれでなんか嫌だ。まるで私もただの石像みたいじゃない……。
石像同士の交信はできない。会話も不可能。人間は……三人? それとも私一人? 私は左右に並ぶ謎の同僚たちを気にかけながら、笑顔で店を彩り続けた。ただ一つ確かなことは……私以外の人間、この店を訪れる全ての客にとって……今この店にあるのは、物言わぬ五体の石像である、ということだけだった。