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バイトに受かった。探した中では一番時給の高いバイトだったので、私は安堵した。これで生活なんとかなりそう。 初日に店に着くと、改めて圧倒される。パステルカラーの店内に、フリル満載の制服。そう、ここはメイド喫茶だ。正直かなり恥ずかしいけど、ここを選んだのには理由がある。まずは時給。そして大学から程よく離れていること。知り合いが来たら死ねるし。何より最も大きな理由は、仕事を覚えなくてもよいという点。 高校生の時、交通事故に遭った私は、全身に医療用のナノマシンを入れることで、元通り体を動かせるようになった。このメイド喫茶では、接客から雑用にいたるまで、先人たちのデータを元にAI化させているらしく、私の体内にあるナノマシンにそれを入れれば、私自身はたとえ寝ていたとしても、勝手に接客をやってくれるというわけ。こんな楽なバイトは他に類を見ない。そのことを知った私は、早速ここを受け、無事採用されたのだ。 (うわぁ……) 私の着るメイド服は、ミニスカのコスプレっぽいやつだった。腰に大きなリボンがついている。手袋もセットらしい。肘まである長いやつだ。もっと落ち着いたやつが良かったな。でも、それしか枠がないらしいから仕方がないかな。しかも、手続きを終えて他の人たちと顔を合わせると、更に文句は言いづらくなった。リボンやフリルがない、正統派なメイド服を割り当てられている人が、長身の美人さんだったのだ。確かに、映えそう。私はなんか……普通だもんな。顔は可愛い方だとは思うけど、クラスで一番二番って程じゃないし、身長やスタイルもザ・平均といったところ。先輩メイドの中にはチンチクリンな幼児体型の人もいたが、その人はさらにカワイイ路線を推し進めた派手な衣装だったので、自分の制服はそこまでじゃないかも、と思えてしまった。まあ、可愛いっちゃ可愛い服だし……? 挨拶を終えた後、私は機械がむき出しになっている円形の台座の上に乗った。仕事用AIのインストールのためだ。案外簡単にできるんだね。乗った後、別の機械を首筋に嵌められた。ものものしい無骨な銀色のトーラス型で、全体はひんやりと冷たいのに、ところどころ点のように熱い箇所があって、首筋がゾワゾワする。首輪みたいでやな感じ。スタッフの人が支えているとはいえ、重くて首が折れそう。 「きつかったら言ってね」 徐々に首の機械が狭まり、首にピタリ張り付いたかと思うと、さらに少し圧迫してきた。本能的な恐怖で私は血の気がひいた。このまま首が潰されるんじゃないかとか、息が出来なくなるんじゃないかとか、そんなことを思わずにはいられない。 「はい、ちょっとピリッてするよ」 首筋のあちこちに、一瞬静電気みたいな感覚が走った。さっき熱かったところ……かな? 機械の圧迫が緩くなり、私は窒息の恐怖から解放された。首の機械を外し、台座から降りて、ほっと一安心。 「それじゃ、動作確認するけどいい?」 「はい、大丈夫です」 店長さんが奥行きのあるパソコンに繋がれたキーボードを操作すると、私の体に異変が生じた。反射的に気をつけの姿勢をとり、私の指令をきかなくなった。自分の体が、自分で動かせない。事故の後の時とはまた違う。あの時は体の感覚ごとなかったけど、今はある。体の感覚は変わらずそこにあり、動かすように脳が指令を出すこともできる。でも動かせないのだ。奇妙で恐ろしい感覚だった。また脳の中で、本能的な領域から警告が鳴り響いた。このまま倒れたりしたら、受け身もとれそうにない。衝撃がダイレクトに伝わるだろう。痛い……だろうな。 どうにも不安が増大するので、ちょっと和らげてくれるような説明が欲しい。そう思って声を掛けようとしても、口と喉が動かなかった。 (えーっ、喋れないの……!?) 「はい、次いきますよー、はい」 店長さんの手元からカタッ、と固い音が鳴った瞬間、私の手足が独りでに動き始めた。両手の指先が何かをつまむような形で空を切る。そして私の顔は和やかな笑みを作りだし、口先は 「おかえりなさいませー、ご主人様っ」 と普段より数段高い猫なで声で吠えた。 (あっ……これ、スカートつまんでるの……?) 空気をつまむ指先。多分、メイド服を着ていたらここにスカートの裾があるんだろう。私は今パンツスタイルだから、そこには何もない。 「はいオーケー。お疲れさん」 突然、体が私の元に返ってきた。動く。普通に。ついさっきまで全く言うこときいてくれなかったのに。すごいなー。そして怖い。表情も声もAIに操作されるだなんて……。大丈夫かなホントに。私の胸中には、急に後悔がおしよせてきた。 だがしかし、店長さんに相談すると、あっさりと事は解決した。動作テストのため、一時的にAI支配率をマックスにしていたのが原因だというのだ。 「基本はAIが勝手にやってくれるけど、君が自分で動かそうと思えば動かせるから。平気だよ。ははは」 まだ開店まで時間があったので、少し試させてもらった。さっきと同様、体はAIが率先して動かした。表情も、声までも。でも、私がその動きを止めようと力むと、あっさり止められた。そこから、自分で手足も動かせた。最も、結構力をこめないとダメだけど。AIも変わらず体を動かそうとするため、せめぎ合いに勝ち続けなければならないのだ。 「どう? もうちょっと下げる? でも下げ過ぎると、君も意識して体を動かしてくれないと駄目だから……真面目に働いてもわなくっちゃね、ははは」 あー、そっか。あんまりAIの力を弱め過ぎたら、自分でちゃんとメイドしないといけないのか。それは面倒くさいし、恥ずかしい。何より、わざわざバイト先をここに選んだ意味がない。 「いえっ……大丈夫……ですっ」 喉の訓練なんて生まれてからこの方したことない。多分そのせいで、AIに勝ちきれなかった。声だけは媚び媚びのアニメ声になっちゃう。きつい……。あと表情筋も、AIに抗うのが難しかった。幼めの笑顔を崩しきれない。 「おっと。そろそろ開店だから、後はもうAIに任せちゃって構わないよ」 「かしこま……っわかりましっ……た」 すかさずAIが返答しようとしたので、反射的に抵抗してしまった。やっぱり本能的には、自分じゃない意志に体を明け渡すことがどうしても怖いんだと思う。こればっかりは慣れるしかない。 手足から力を抜くと、即座にAIが私を歩かせた。机の上に置いといたメイド服を手に取り、迷うことなく一直線に更衣室へ向かい、勝手に服を脱ぎ始めた。 「わっ!?」 驚いて手を止めてしまった。両手はズボンを脱がそうと掴んだまま、プルプルと震えている。力を抜いたらすぐにも再開するだろう。 「あはは、大丈夫だよ」「最初はビックリするよね~」 他のメイドたちが口々に声をかけてきた。返事しようとしたけど、口も半分AIに支配されているので、結構意識して動かさないといけない。必然、小声での返事等はできなかった。 「すぐ慣れるよ~」「平気平気、はなして平気」 うん、まあ、先輩方の言う通りだ。バイトとはいえ仕事だもんね。すぐ開店時間だし……。観念して両手をAIに渡すと、何事もなかったかのように着替えが再開された。私じゃない誰かが、私の手足を使って私を全裸にしている。頭では問題ないとわかっていても、羞恥心や屈辱感は拭えない。 (って、あっ、下着も!?) 私の体は下着まで脱いでしまい、籠の中にたくさん積んであるテカテカした下着を手に取り、勝手にはいてしまった。 (い……いちいち一旦全裸になる必要ある?) 顔を赤くしながら、私は考えた。人や日によって従業員の着ている服は違うから、臨機応変な着替えは難しいのかもしれない。一旦全部脱いで、下着含めすべての衣類を指定の物にする……。うん、まあ、何となくわかる。けど、これも慣れるまで大変そう。 そうこうしているうちに、私は初めて着るメイド服を完璧に着こなしていった。一連の動作には全く無駄がない。幼いころから何度も練習して体に染みついた動作のようだった。 リボンとフリルの多いミニスカメイド服、真っ白な手袋、ニーハイソックス……。全て着用した後、私の体は鏡もないのにメイクを始めた。 (ええっ!?) 独りでに今しているメイクを全部落としてしまうと、恐らくは指定されたメイクを私の顔に施していく。一連の動作はやはり淀みがなくスムーズだ。 (う、うま……) メイクのスピードは私より断然早い。あっという間に全てが終わり、髪型を整え、カチューシャを装着し、私はこの店のメイドに生まれ変わった。 (か、鏡……見たい) メイド服似合ってるかな? メイクどうなったんだろう。ズレてたりしたら悲惨だ。確認したいよぉ……。 私の体は更衣室から出て、フロアへ移動しようとした。私は強引に向きを変え、化粧室へ足を運ばせた。これが結構体力を食う。AI強い。やっぱりもうちょっと支配率下げた方がよかったかも。 心配は杞憂だった。私の顔はやや幼げなイメージで可愛らしく仕上げられていた。メイド服も堂々たる着こなしのおかげで、中々……悪くはないかも。 (へ、へぇー。私、こういうのも案外、イケる……んだ) AIが動いていなかったら、だらしなくニヤケていたかもしれない。少し惚けている間に私の体はフロアに出て、店の入り口に他のメイドたちと一列に並んだ。スカートの前で手を重ね、両脚をピタリ閉じ、真っ直ぐ前を見据えたまま固まり、微動だにしなくなった。開店までここでこの姿勢で待機なのかな。だろうな。 並ぶ時、既にほかのメイドたちが待機状態だったのでわかるけど、全員同じポーズで固まっているのはなんだかシュールな気がした。ロボットみたい。 開店時間になると、今日最初のお客が入ってきた。私は、いや私たちは一斉にスカートの裾をつまみ上げ、可愛らしい笑顔で迎えた。 「おかえりなさいませ、ご主人様っ」 (うっ、やっ、やばっ、恥ずかしい……) 思ったよりかなり恥ずかしい。顔も知らない中年男性たちに、ぶりっ子仕草で接するのは。あっという間に顔が赤く染まっていく。 「お席まで案内しまぁすっ」 私の担当は眼鏡をかけた小太りの男性。幸い臭くはない。 「おほぅ、新人さんですかな?」 「はいっ、メイって言いまぁす、よろしくお願いしまぁすっ」 (ちょっ、な、なにこのキャラ!?) もっと普通な感じかと思ってた……。長身の先輩は落ち着いた態度で接客やってるのに。どうも私は「あざとい」キャラを割り当てられてしまったみたい……。一挙一動が芝居がかっている上に、キンキンのアニメ声で、語尾を上げながら話すので、私は恥ずかしくて死ぬかと思った。大学から離れててよかった。知り合いに見られたらマジで死ねるやつ。 両手で握りこぶしを作って屈んだり、フリフリと腰を振ったり、人差し指をほっぺに当ててみたり……。きつい。正直、傍から第三者目線で見ててもいたたまれなくなること請け合いだ。それを一人称で、自分の体でやらされているんだから、全くたまったものじゃない。今すぐ逃げ出したいけど、そしたら首だろうなあ……。 (わ……私、私じゃないし。これAIがやってるんだし。だから私じゃないし……) 必死に心の中で言い訳をしながら、私はこの羞恥劇場が一刻も早く終わることを願った。 オムライスやジュースに呪文を唱えたり、お客さんと手を合わせてハート作ったり、頭なでなでをおねだりさせられたり、公開処刑の頻発で私の精神は大分限界近かった。しかし人間慣れるもので、昼を過ぎると次第に冷静に考え事ができるようになってきた。何しろ、私がどれだけパニクっても、体はそれをおくびにも出さず、さもベテラン店員の如く完璧に振舞ってくれるのだ。楽だった。恥ずかしいけど楽ちんだった。私はこの仕事の細かい説明を何一つ受けていない。にも関わらず、接客は完璧だし、他のメイドとの連携も独りでにとれるし、キッチンの仕事もこなせた。私はまだそれほど料理が得意でもないのに、初めて作るオムライスはキッチリ綺麗に仕上がった。ミスもしない。しようもない。しても、それはAIの責になる。絶え間なくうずく羞恥心にさえ目をつむれば、こんなに楽な仕事は他にないだろう。 閉店後の掃除もAIが勝手にやってくれた。ありがたい。ボーっとしていても全部こなしてくれるのは最高だ。さて後は更衣室で着替えるだけ……というところで、ちょっとした恥をかくことになった。AIが独りでに着替えを始め、メイド服を全て脱ぎ、指定の場所にしまって、メイクを落とした。そのままボーっと突っ立っていると、更衣室のそこかしこからクスクスと笑い声が漏れた。 (……? 何? なにが……) 「藤原さん、自分の服は自分で着なくちゃダメよ」 「……っ!?」 気がつくと、私は下着一枚も身にまとわない生まれたままの姿で突っ立っていた。全裸でぼーっと虚空を見つめていた自分の姿は、どれほど間抜けに見えたかしれない。 「あっ……す、すいませんっ」 「もー、別に謝ることじゃないでしょー」 「あっ、はい……」 私は真っ赤になって、大慌てで服を着た。あー、恥ずかしい……。自分のことまでAIに任せようとしちゃうなんて。今日の早朝、あんなに怖がっていたのが嘘みたい。 「どう? やってけそう?」 「はい、何とか……」 「そ。そりゃよかった。電脳化してる人結構貴重だからさー、助かるよー」 「はい……」 こうして初日は無事に終わり、私はヘトヘトになって帰路についた。普段動かさない筋肉を使ったし、トイレ以外の休憩なしで働きづめだったから案外キツイ。動作は任せっきりとはいえ、疲労はたまる。この体はやっぱり私の体なんだなー、ということを嬉しくない形で痛感した。そして翌日の筋肉痛にも参った。ヘンなところが痛むからやりづらくってかなわない。 しかし、なんだかんだ言っても、総合して楽なことには変わりない。何故なら、私はただ見てるだけでいいからだ。何も激しい運動をしているわけじゃないし、体が慣れてくれば平気だろう。問題は、夜ベッドの中で身悶えする羽目になるほどの羞恥プレイに精神が耐えられるかどうかってことだけ……。 そんなこんなで、講義のない日にはメイド喫茶でバイトする生活が幕を開けた。 一月経った。普通のバイトなら職場に慣れる頃だと思うけど、私の体を通じて行われる媚び言動の数々には相変わらず羞恥心を抑えきれない。むしろ私自身が演じていた方が吹っ切れたかもしれない。けど、じゃあ今から自分でやれるかと問われれば絶対ノーだ。そんな悶々とするバイト生活だった。 ある日、水着デーの存在を知らされた。約半月後、水着で接客しなくちゃいけない日があるらしい。残念なことに、その日は講義のない日。つまり私のシフト。 (うっ、水着……水着かぁ……) なんだかんだ言って今のメイド服は布面積が広いから、服装そのものは割と早く馴染めたんだけど、水着は……。うーん。水着姿でいつものぶりっ子を演じる自分を想像すると、いつもの数倍痛々しい気がする。ていうか、その日までに体整えなくっちゃか……。めんどくさいな。間食はなるべく控えないと。 「いいじゃない、水着ぐらい」 長身の先輩は一切気にしていないらしい。まあ、先輩は滅茶苦茶肌も綺麗でスタイルいいし、日頃から日常的に手入れしてるからそれほど負担には感じないかもしれないけど、私は結構サボるタイプだから、必要にかられる度に心が重くなってしまう。 「そんなことないって。私なんてメイクすらしてないし」 そんな中、先輩はとんでもないことを言い出した。人形みたいな肌に、一本の剃り残しもないスラっとした手足が、普段何のケアもしていないというのだ。その顔でノーメイクってあり? いや、みたとこ絶対メイクしてるでしょ。謙遜風自慢にもほどがある。 「んー、本当なんだけど。……そうだ、よかったら藤原さんもやってみる? これ」 先輩は自らの美の秘密を明かした。体に特殊な溶剤を塗り、その上からコーティングすることで、簡単に永久脱毛できるうえ、肌のハリをずーっと保ち続けることができるらしい。 「えー、なんか怖いんですけど……大丈夫なんですか?」 「へーきへーき。私が証拠」 家に帰ってから調べてみると、割と大きなメーカーが関わっていて信頼できそうなところと、最近流行り始めているらしいことがわかった。 結構悩んだが、先輩の紹介割引で安くなることを知り、思い切って受けてみることに決めた。 施術を行う店は、まるで洒落た美容室みたいだった。清潔感のある落ち着いた空間で、同じぐらいの年の子が一杯並んでいて、結構待たされた。でも、これだけ人がいるなら、きっと安全なんだろう。 自分の番になると、店の奥へ通され、棺みたいに大きな長方形の浴槽に入るよう案内された。服を全て脱ぎ、シャワーを浴びた後、薄い緑色の液体が張られた浴槽へ。なんか毒々しい……。 「大丈夫ですよ、ほら」 スタッフの人が自分の手を浸けて見せたので、少し緊張がほぐれた。恐る恐る足先を入れる。浴槽は浅く、膝までもない。 「はーい、じゃあここに頭が来るように、寝そべってくださーい」 「あ、はい」 私は指示通りに、緑色の液体の中に体を浸した。生暖かい。ぬるっとしてる。ちょっと気持ち悪いかも。ていうか髪抜けたりしないよね。そのままで大丈夫だとは聞いたけど。私は浴槽の中心に体育座りして待った。 「はいじゃあ、五秒間息を止めて潜ってくださいねー。準備よろしいでしょうかー」 足を伸ばし、背中を倒す。処置の関係で、呼吸器とかはNGらしい。 「はい」 私は大きく息を吸って、目をつぶり、頭を浴槽の底におしつけた。頭を置く位置にはクッションが沈めてあるので、痛くはない。しかし周囲は余裕がなく、ちょっと手足が動けば壁にあたる。本当に棺に入っているみたいな気がする。 「はいオーケーでーす」 声はくぐもって聞き取れなかったけど、スタッフの人が私の体をつついたので、終わったのだとわかった。すぐ上半身を起こし、 「っはぁー……」 と息を吸った。髪は……ある。眉毛も……ある。 「はいじゃあそこ立ってくださーい」 また円形の台座……。流行ってんのかな。浴槽から出てそこに立つと、スタッフの人たちが数人がかりでドライヤーをあててきた。ここはアナログなんだ。熱風に吹かれて、私の全身から毛が抜け落ちていく。足元には見る間に黒い塊が点在するようになり、顔から火が出そうだった。そ……剃ってきたんだけどな、一応……。 眉毛や髪の毛、そのほか鼻毛みたいな体内の毛は抜けなかった。自動で選別しているんだって。いつの間にか便利な時代になっていたんだなー。どうしてもっと流行らないんだろう。 「次こちらでーす」 まだ服を着ることは許されず、私は全裸で廊下を歩く羽目になった。うう……。恥ずかしい。スタッフは全員女性とはいえ、自宅じゃない建物の廊下を全裸で歩くなんて、職場より恥ずかしい。背徳感も手伝い、私は歩幅が小さくなった。 「大丈夫ですよ~、男性スタッフはいませんから~」 そ、そりゃあんたたちは平気だろうけどさ……。真面目そうな白衣の研究者、スーツのキャリアウーマンに挟まれて全裸で廊下を歩く方の身にもなってみなさいよ。私だけ変態みたいじゃん……。 俯きながら次の部屋へ。今度はコーティングだ。さっきまでとはうって変わって、殺風景で無機質な部屋だった。丁度人一人入れるぐらいの円柱状の装置があって、いくつものモニターがある大きなパソコンとこれまたたくさんのケーブルで繋がれている。円柱状の装置は透明で中が透けて見える。ひっくり返したビーカーみたいだ。 「では、この中に」 よく見ると取っ手があって、出入り口がついていた。カパッと入り口が開き、私は全裸のままその中に入った。スタッフはすぐに扉を閉め、私を装置の中に封じ込んだ。 「それでは、コーティングを開始しますので、腕を開いてくださーい」 「は、はい……」 廊下からずっと胸と股間を隠していた両腕。そっと手を離し、体の横につけた。股間は子供みたいにツルッツルで、一本の陰毛も残っていないし、跡もない。最初から生えない体質だったかのようだ。乳首も同じく。 (うう……) 無性に恥ずかしくなってきた。目の前でいそいそと働いている女性スタッフたちを見ていると特に。 「あ、気をつけじゃなくていいですよ。斜め下に伸ばして」 「はい……」 腕を体から少しはなして、言われた通りにした。両足も肩幅まで開く。……なんか着せ替え人形みたいなポーズだ。 「はいコーティング入りまーす。準備いいですかー?」 私が頷くと、ケースの天井に備え付けられた無数のノズルから、紫色の煙が雨あられと噴射された。足元からは青い煙が。あっという間にケースの中は青紫色の煙で満たされ、何も見えなくなった。 (我慢……我慢……) 特に「動かないで」という指示はなかったけど、多分体のどこかが隠れてはダメだろうと、ずっと姿勢を維持した。視界が全くきかない。でも不思議と息苦しくはなかった。 (あれ? これ吸ってもいいの……?) 特に注意されなかったけど……大丈夫だよね? 今更どうしようもないので、私は青紫の煙の中で、いつもと変わらぬ呼吸をし続けた。 周りが何もみえないと、時間が長く感じる。もう数分はしたんじゃないかな、と思い始めた頃、視界が晴れてきた。煙は徐々に薄まり、研究室が姿を現した。 「あ、そのままで」 上下から、今度は熱風が送り込まれてきた。うー、またか……。私は両目を閉じて終わるのを待った。熱された部分から奇妙な感覚がある。ピチピチと、何かが肌に張り付いているみたいな……。薄い何かが……。いやコーティングなんだから当然か。肌に張り付く物体は、ほんのわずかな隙間も作らず、私の肌に完璧に沿っているようだった。穴一つ作らず、手足を360度しっかりと梱包し、足先、指先の爪まで……。指を動かすと、少し突っ張った。が、一瞬で修正され、違和感なく動くようになった。他の関節部分もそうだ。 「はーい、オーケーでーす。お疲れ様でしたー」 「ふぃー……」 容器から出ると、一気に疲れがでた。両手を見てみると、すっごいことになっている。綺麗だ。まるでアプリの補正をかけたかのような、一点の穢れもない美しい肌だった。産毛もない。二度と生えてこないんだ。もう面倒なケアいらないんだ……! 「鏡、見てみます?」 「は、はいっ!」 先輩と同じだった。顔も、腹も、股間も、脚も。まるでフィギュアみたいに綺麗。ちょっと光沢もあるような……。気のせいかな。とにかく、予想以上の仕上がりだった。血管も見えないし、皴も動かすとこしかないし、染みも無くなってる。すごいや。 最後にようやく服を着て、今後の説明を受けた。一週間はお風呂に入らず、冷水のシャワーだけで済ますこと。それでも体の汚れは全て落とせる、いやそもそも、もう汚れない……とか。すごいや。こりゃ先輩が勧めるわけだよ。 中の上ぐらいかなー、と思っていた私の顔も、見違えるほど美人になった気がする。肌だけでこんなに変わるんだ。うん、これならノーメイクで外出歩いたってへっちゃらだ。怖いもんなしだ。 私は心の中で鼻歌を口ずさみながら、上機嫌で帰路についた。 水着デーは大成功。私と先輩の独壇場だった。人形みたいに綺麗で、子供みたいにハリのある肌。触るとちょっとツルっとする。それがまたウケた。 恥ずかしかった水着も何ともなかった。それどころか、誇らしくさえあった。体に自信を持てるって、最高! 「きゃー、メイちゃんきれー!」 「ありがとぅございまぁすっ」 女性客からも褒められたのが嬉しかった。でも、高校生や中学生から「ちゃん」づけで呼ばれて、頭を撫でられたり、ほっぺたをツンツンされたりするのはモヤモヤした。ひょっとして、私のこと年下だと思ってる……? いやまさか。 後で鏡を見てみると、ビックリした。こりゃ確かに……中学生だ。やや幼げにメイクした私の顔は、肌が異様に綺麗なせいで、童顔っぷりが際立っていた。あ、あれ……。私、こんな幼い顔だったっけ……? 綺麗になり過ぎるのもちょっと考え物かもね。ま、別にいいけど。 肌のケアもメイクもいらない、お風呂もシャワーだけでオーケー(入るけど)という天国みたいな体を得て、少々自堕落な生活スタイルになったせいか、しっぺ返しが起きた。体重が増え、肉付きの景気が増してしまった。悪いことに、コーティングが突っ張り、お腹が少し圧迫されるのだ。 「何々、ダイエット? ダイエットの話してる?」 更衣室で先輩の一人が、私の愚痴に割り込んできた。幼児体型の小さい子。いやこの言い方は失礼だ。年上らしいから。小学生にしか見えないけど。私は首を傾けて彼女の顔が目に映るようにした。 「最近、ちょっと太ってきちゃって……」 「やっぱりぃ。それなら、アタシがいーこと教えてあげる!」 話し方も子供みたいで、ちょっと苦手なんだよねこの先輩。正直、見ていていたたまれない時もある。恥ずかしくないのかなーと思うけど、私も人のことは言えないか……。フリフリのメイド服着てぶりっ子接客してるんだもん。 小さな先輩は、信じられない告白を行った。彼女はここ二週間、ほとんど飲み食いしていないのだとか。 「これこれ。すごいでしょ」 スマホで紹介してくれたのは、「電気で生きよう」と銘打たれた特集記事。特殊な施術を受けることで、驚くべきことに充電できる体にできるらしい。飲み食いしなくてもそれで生きていけるのだとか……。 先輩は、摂取カロリーを完璧に調整できるから絶対太らないし、痩せもしない、料理する手間もない、ゴミも出ないから地球にやさしくてエコライフ! と熱く語った。こんな喋る子だったんだ? いや年上だっけ。 いやでもこれ、流石に怖いよ。機械つーかロボットみたい。 「大丈夫だいじょーぶ! 好きな時にご飯も食べられるから!」 彼女曰く、別に普通の食事ができなくなるわけじゃない、とのこと。うーん、まあ両立できるならなくはない……? いやでも、う~ん。 「う……うん、考えてみるね」 あ、いっけない。私を可愛がる未成年客を笑えないな、こりゃ。 しかし、コーティングの突っ張りが中々消えず、とうとう赤紫色になって痛み出したので、私も早急に対策を考えなければならなくなった。一応、運動をしよう……とはしたものの、お腹が痛くて中々上手くいかない。 病院にいっても即刻の解決は難しく、しばらく食事に気をつけ、適度な運動を……という話になるので、あまり頼りにならなかった。 「充電……かぁ」 食事を電気で行えるようになれば、食事量のコントロールは滅茶苦茶簡単になる。買い物にもいかなくていいし、ゴミもでない。楽になる……。 ダイエットの結果、お腹は何とかなったものの、コーティングはこれからもずっと残るわけで、またちょっとでも太ったら同じことになってしまう。でもずっと同じ体型を保ち続けるっていうのも難しいよね……。私は段々、充電生活に惹かれ始めた。 「はいじゃあ、口開けてくださいねー」 結局、私は充電処置を試してみることに決めた。普通に食事だってできるんだから、よく考えたら何も恐れることなんてない。 ベッドに転がり、大きなチューブみたいなものを口にくわえ、私は間抜け面で天井を眺めていた。こんな顔、男には絶対見せられないな……。担当の人、男だけど。 「はい流しまーす、いいですかー」 はいと言うつもりが、フガフガと言葉にならないうめき声しか出せなかった。こんなもん咥えてたらそりゃね。手を挙げて答えると、大量のナノマシンが流体となって私の体内に注ぎ込まれた。 (んんっ!) やっば、息できない。キツイ。苦し……。いっぺんに大量の水を飲まされているかのよう。拷問だよこれっ……。 「はい、休憩入れますねー。大丈夫ですかー?」 その声は堅く事務的で、およそ心配している風には聞こえない。 (うぇー……) 口はチューブを咥えたままだし、心身共に疲弊して、返事などできようはずもなかった。 「では、次いますねー。はい」 (うごぅっ!?) また大量の流体が流し込まれ、私は耐えきれなくなって手足をバタつかせた。 「はい暴れないでくださーい」 担当者はあっさりと私の手足を抑え込んだ。男だけあって体力では敵わない。ていうか、これちょっと……うごっ、マジでや……ば……っおふっ……。 五回にわたるナノマシン注入が終わったころ、私は比喩じゃなく死にかけていた。が、担当の人はまるで気にしていないそぶりだった。え? 嘘でしょちょっと……。信じらん……ない……。ていうか、あの子もこれ受けたわけ? あの小学生みたいな先輩がこの試練……いや拷問を乗り切ったという事実がどうにも信じがたかった。ひょっとして、私の担当の人が特別腕が悪かったとか……ないかな……。 (あ、小さいから三回ぐらいで済んだのかな?) 体内で必要な形成が終わるまで丸一日。私は入院して待った。あーあ、三連休がおじゃんだ。 経過は問題なく、私はすぐに家に帰れた。紹介者割引で買った充電用の台座を持って。元々はメイドロボ用の技術らしいけど、最近は人間でもやる人がいるらしい。私はお勧めしないけどね。 室内で台座の上に立つと、何も食べていないのにお腹が膨れた。それは世にも奇妙な体験だった。食べるというのは口を介して行うものだ。口は一切動かしていない。何の味もしない。なのに、あっという間に満腹になるのだ。脳は「あー食べた食べたー」という反応をするけど、実際口や食道は何も通過していない。頭がエラーを起こしそう。食べてないのに食べてる。何なんだろうコレ……。 でも、事前に設定した分だけエネルギーを摂取できるというのは本当らしい。これは便利だ。この日以来、摂取エネルギーを簡単な数値で管理できるので、体型維持が遥かに容易になった。それどころか、食事の準備も後片付けもいらない。コンビニ弁当やカップ麺すらも凌駕する新境地だよ。でもまあ、何も食べないっていうのも味気ないし、日々の楽しみが無くなるから、ちょっとは食べるけど。その分も簡単にカロリー調整できちゃうので、もう二度とダイエットなんかしなくてよさそうだ。ありがたい。唯一の欠点は、電気代が馬鹿みたいに嵩むこと。先輩はエコだって言ってたけど、本当にエコなんだろうか……? もう一つ良かった点は、トイレの頻度が下がったこと。当たり前だけど、電気で賄った分は排泄物が出ない。私は人間を縛るあらゆる些事から解放されつつあった。 (あと、働かなくても済むようになったら完璧だなー) などと空想してしまう。でも、よく考えたら私は既にそうなっているかもしれない。メイド喫茶で「働いている」のはAIだし。私は労働力を提供しているというよりも、体を貸すことによってレンタル代を受け取っているのではないか。そんな気もしてくる。 生物としての面倒事のほとんどから解放された私は、相当快適な生活を送れていたが、悩みごとが二つあった。一つは、職場の言動が癖になりつつあること。自宅で気が緩んでいる時など、気がつくと人差し指で自分のほっぺたをツンツンしていたり、歩く時にもわざとらしい女の子走りみたいな姿勢になっちゃったりする時がある。大学でも思わずアニメ声で話しそうになる時があって、際どい場面が何回もあった。AI関係なく、体が覚えてきちゃってるみたい。気をつけないとなー。って、私またぶりっ子ポーズしてる。一人で考え事とかしてるとコレだ。やんなっちゃう。 二つ目の悩みは生理とトイレ。他の生理現象とはサヨウナラしちゃったせいで、返って目立つというか、以前に増して気になるようになってきた。これも消せないかな? って思ってしまう。生理も前より痛みと理不尽さが増した気がする。トイレも頻度が下がったとはいえ、行く度に憂鬱になる。前までは当たり前のことだったのに。 調べてみると、これらも解消する方法がなくはないらしい。私はすぐにその処置を受けることに決めた。以前の私なら到底考えられなかったようなことだけど、もう体内にナノマシンを入れることに対する心理的な抵抗感はほとんどなくなってしまっていた。今更だし、ここまできたら全部やっちゃった方がいい。 今までで一番恥ずかしい処置だった。M字開脚した状態で体を固定され、注射器みたいな機器を股間にあてられるのだから。不幸中の幸いは、苦しくなかったこと。機器の先端は針ではなく、柔らかいスポンジみたいな蓋で、それを股間にあてるだけ。何かぬるっとしたものが私の秘所を逆流していく感覚は身の毛がよだったけど、苦痛ではなかった。 こういうわけで、私はとうとう、あらゆる生理現象から解放された新人類となった。生理痛からの脱却は解放感マックスだった。やってよかった。もう便秘や下痢に悩まされることもない。肌も綺麗なまんまだし、食事も充電だけでいけるし、趣味や勉強に時間を有意義に使える。先輩達もお勧めしたわけだ。私も職場に後輩が来たら、紹介しよう。と思っていたけど、中々新人は入ってこなかった。できれば「あざといキャラ」を誰かと交換したいんだけどなぁ。 先輩が一人辞めた次の日、見慣れない子がフロアに突っ立っていた。新人かな? と思った私は声をかけた。 「おはよー。新人さん?」 「……」 その子は微動だにせず、両手をスカートの上で重ねたまま動かない。私達が開店直前にとらされるポーズだけど、どうして今、こんなところでやってるんだろ? それに動こうと思えば動けるはずなのに。 「あのー……?」 私は顔を近づけた。彼女の肌は途方もなく綺麗で、人形みたいだった。私みたい……。あっ、同じやつやったのかな? きっとそうだ。瞳は青く輝いている。カラコン? いや……これ本物だ。この子、本当に目が青いよ!? ウィッグかと思っていた金髪のツインテールも、よく見たら本物っぽかった。外人さん? けど顔は日本人顔なんだよね……。よくわかんない。それに、どうして動かないんだろう? 「あははは、その子ロボットだから」 「えっ!?」 先に来ていた先輩が笑いながら姿を見せた。なんでも、辞めた先輩の代わりは、新しい人を雇うんじゃなく、メイドロボットで穴埋めするんだそうだ。スカートをめくると、太腿には緑色に光る製造番号が刻印されていた。 「もー、見てたなら先に言ってくださいよっ」 私は咄嗟に、やや舌ったらずな口調で怒ってしまった。あっ、いけない。あざとキャラが出ちゃった。声も高いし。 「ごめんごめーん」 職場では互いの「キャラ」で接する時間が長いから、別に何も言われないけど……。AI動いてないのにそうなっちゃうのは、何だか無性に気恥ずかしくて、いたたまれなかった。 メイドロボは初日とは思えないほど見事な働きぶりだった。辞めた先輩そっくり。いやそのものだ。先輩の体を動かしていたAIをそのまま載せたんだから、当たり前だと言えばそうなんだけど。メイドロボを見ていると、何だか怖くなってくる。何故怖いのか、私にはわからなかった。 同僚が辞めていく度に、新しくメイドロボットが充填される。月日が経つにつれて、私達「人間組」は肩身が狭くなっていった。ロボットと話すことはないし、それにここにいるとなんだか、自分がメイドロボットみたいに思えてきてしまう。実際、私達とメイドロボがやっていることは全く同じなのだから。 加速度的に人が辞めていき、いつの間にか人間は私一人になってしまった。寂しいなぁ……。私も辞めようかな。でも今更他のバイト探すのもな……。それに、余所へ行ったら「私」が働かなくっちゃいけないんだし……。 メイドロボたちは着替えない。私一人の更衣室。前までは同僚と雑談とかもしていたのに、物寂しい空間になってしまった。着替え終わって通路に出ると、休憩室の異様な光景が目に飛び込んでくる。円形の台座の上に基本姿勢で直立するメイドたち。時間が止まったかのように、ピクリとも動かない。なんか怖いな。ついさっきまで自分があの子たちの中に混じって働いていたなんて、変な感じ。店長は最近露骨に私を冷遇するようになった。どうも、さっさと全員ロボットに変えてしまいたいらしい。直接は言わなかったけど、遠まわしに「辞めてくれると嬉しい」的な言動を日に日に隠さなくなってきた。はぁー、ホントやだ。やっぱ他のバイト探そうかな……。でも楽だしな……。 お客さんの中にも、ロボットは嫌だという人がいて、そんな人は私を指名する。常連のおっちゃんはよく私に愚痴った。ロボットは暖かみがない、人間味に欠ける、情緒がない……と。私、いやAIはそれを毎回適当に受け流すのだが、私は思わず笑ってしまいそうになる。だって、おっちゃんの相手をしているのは人間の私じゃなくって、メイドロボたちと同じ種類のAIなんだもん。区別ついてないやーん、とツッコみたくなってしまう。特に、「メイドロボは個性がない」と言われた時は、「私」の笑みが表に出るのを必死にこらえなければならなかった。おっちゃんが「私」のキャラだと思っているあざとキャラは、AIによる演技だし。 まあそんなわけで、私に会うのを楽しみにしてくれているお客さんもいるので、中々辞める決心がつかなかった。 そんなバイト生活の最中、事件が起きた。店長が交代したのだ。――ロボットに! 笑っちゃう。店長の方が先にロボットに挿げ替えられてやんの! 外見は長身のイケメンで、二十代に見える。人間だったら好みかも……。新店長は割と粗雑な配置・運用をされていたメイドロボ周りの整理を始めた。休憩室は整備室に名を変え、充電台は勿論、整備点検に使う器具が日に日に揃えられてゆく。私はロボ店長の手腕に感心してしまったが、後で本社の指示を実行しているだけだとわかり、まあそんなもんかと少しガッカリしてしまった。 しかし、更衣室が物置にされたのは困ってしまった。抗議してもロボ店長はろくに反応してくれない。しまいには「お客様、どうかなさいましたでしょうか?」等と言い出す始末。どうやら、この店舗だけじゃなく、全部の店をロボットで運用するという本社の新戦略に基づき、「従業員」とのコミュニケーション機能は搭載されていないっぽいのだ。 「整備室」で着替える羽目になった私は、流石に辞め時かなーと思い、次のバイト探しを始める決心をした。

Comments

Gator

人間がロボットに入れ替わる中で最後まで残っている主人公! 他の人々が主人公をロボットとしか考えられない環境が整うという興味津々さに目が離せません。 店長までロボットに変わって店のエリアもロボット専用のスペースに名前が変わる部分のディテールがストーリーをより現実的にクオリティを上げてくれる素晴らしい要素だと思います。 とても立派です。(Translated)

opq

多くのご感想ありがとうございます。細かいところまで読み込んでいただけると作者冥利につきます。