悪戯魔女と真実紙 (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-10-07 13:00:20
Imported:
2023-05
Content
「全く……また貴方ですか、レナータ」
砕けた石像の欠片が転がる廊下。私は先生に捕まり、首根っこを掴まれながらお説教を受けた。壊したのは私だけど、私一人のせいじゃない。悪戯仲間のレベッカは要領よく逃げ出し、影も形もない。
(覚えてなさいよ)
自分だけが現行犯になった理不尽に憤り、私は寮に戻ったらあいつに呪いをかけてやると誓った。
先生の部屋に連れていかれた私は、お決まりのお説教を受けた。いつものように聞き流していると先生は
「どうやら、貴方のような子にはキツーイお仕置きが必要なようですね」
と言い出し、机の引き出しから真新しい羊皮紙を取り出した。
「書き取りです、レナータ」
私はニヤニヤしながら先生を見つめた。書き取りだって! プクク。てっきりカエルか何かに変身でもさせるのかと思ったら。
「へいへい。何回?」
「貴方の中にしっかりとしみ込むまでです」
夜までってこと? だる……。適当なところで逃げようかな。
椅子に座り羽根ペンをとると、先生が突拍子もない内容を告げた。
「書き取り内容は、『私の普段着はピンク色のレオタードです』よ」
「は?」
「しっかりお聞き。『私の普段着は……」
「いやいやいや」
あのお堅い先生が信じられないような内容を指示してきたので、私は戸惑った。二度と悪戯しません、とかじゃなくて? するけど。
「書けばわかることでしょう」
次は先生がニヤリと笑う番だった。何か仕掛けてるわけ? 私に悪戯勝負? ふん……何だか知らないけどやってやろうじゃん。
私はペンを走らせ、最初の一文を書いた。『私の普段着はピンク色のレオタードです』
瞬間、胴体がキュッと締め付けられるような感触が走った。
「?」
黒いローブの下に手を入れて、私は自分の体を確かめた。特に何もない。さっきの感触も消えている。
「ちゃんと紙いっぱいになるまで書きなさい」
先生の声はどこか楽しそうで、私をイラつかせるには十分だった。なにさ……子供に変態みたいな文章書かせといて。
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
再びさっきの感触があった。またすぐ消えた。
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
一、二秒ほど胴体がピチッと締め付けられる感覚が続くようになった。
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
締め付ける感覚がより実体を伴った感覚に変わった。滑らかで心地よい何かが私の胴体を覆っている。布……服だ。書き取り内容から察するにこれは……。
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
ペンを止めても、しばらく着せられたままだった。どうやらこの一文を書くと、レオタードを強制着用されるらしい。でもこんなの罰にもならない。私をなめてる。誰に見られてるわけでもないし、肌触りはむしろスベスベしていて心地いいくらいだ。本当に普段から下に着ててもいいかも。
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
『私の普段着はピンク色のレオタードです』
羊皮紙を半分埋め尽くしたころ、レオタードの感覚が消えなくなった。しばらく待ってみても、胴体が一ミリも隙間もなくピチピチに封じられた感覚が続く。
「手を止めない」
先生の注意が飛んだ。笑っている。くそ。どんどん時間が伸びるのか……。ひょっとして私をそうやって明日から笑い者にして、屈辱を与えるつもり? それが今回の罰? でもこんなもの、制服の黒いローブを着てればバレやしない。
私はその後も書き取りを続けた。レオタードは消えない。このレオタード、私の皮膚に隙間なく張り付いているから妙に気恥ずかしい。つねっても、レオタードだけを掴むことはできず、必ず皮膚も一緒につまむことになった。引っ張っても皮膚ごとだ。脱げない? 嫌な感じ。先生のことにやることが陰湿なんだっての。たかだ石像の一つや二つ壊したぐらいでさ。
羊皮紙全てを同じ文章で埋め尽くすと、ようやくお許しが出た。
先生は今にも笑いだしそうなのを必死に堪えながら、もう二度と悪戯をしないよう私に告げた。
「はいはーい」
「はい、は一回」
「ふんだ」
私は部屋から出ていき、足早に寮へ向かった。もう日は沈み、廊下に人影はない。ローブの下には、胴体の上にはさっきからずっとツルツルした布の感触が消えない。いつまで続くの? コレ。とにかく、この目で確かめないといけないことがある。色だ。レオタードの色。書き取り内容からおおよそわかってるけどさ……。
寮の皆の前で、つまらない書き取り罰だったことだけを伝えて強がって見せた後、私は隙を見てトイレに籠った。一人になれるところはここだけだ。小声で個室に人払いの魔法をかけて、私は黒いローブを脱いだ。
(やっぱり!)
淡いピンク色に染め上げられた私の胴体が姿を現した。私本来の肌はどこにもない。余すところなくしっかりとレオタードに覆いつくされてしまい、その布は皮膚との間に一切の隙間を生むことなく、這うように張り付いている。体をくねらせても、皺一つできることはない。常に私の体にピタリ合わせて伸縮しているようだ。
しかし……ダサい。あまりにも。パステルピンク一色のレオタード。こんな姿を誰かに見られたら……末代までの恥だ。特にレベッカ。嬉々としてネタにして弄り倒すに違いない。
(ま、消えるまで気をつければいいのよね)
元通りローブを着ようとしたその時。手が止まる。
(?)
私の意志が突如反映されなくなった。何か、誰かに魔法で悪戯されてる? でも人払い中だし……。周囲に誰も来ていないことを確認してからもう一度ローブを着ようと試みる。手が止まる。諦めると普通に手が動いた。
(……まさか)
私は、何もかもが甘かったことに気づかされた。これが、これからが真の罰……。書き取り内容の中で、見落としていたセンテンスがある。大して気にしていなかった部分だけど……。「普段着」!
(う……嘘でしょ、まさか……私、私……!)
普段からずっとこの格好で過ごさなくっちゃいけないの!?
ローブを着ることはおろか、適当に被ることも、巻き付けることさえ許されず、私は脇にローブを抱えたままトイレを出た。突然パステルピンクのレオタード姿でトイレから出てきた私を見て、談話室は一瞬静まり返り、次の瞬間大爆笑の渦が巻きおこった。
(……っ!)
私は真っ赤になりながら、先生への仕返しを心に決め、急ぎ寝室へ向かおうとしたけれど、皆そう甘くはなかった。
「え? え? ねえねえ、何それ?」「嘘だろ、おい?」「だっさ!」
全員が周囲に寄ってたかって集まり、からかい、弄り、質問攻めにした。私は先生の罰則で呪いをかけられたとだけ説明し、引っ張る無数の手を振り払いながら寝室に走った。
ドアを閉めて鍵をかけ、私は耳まで真っ赤になった顔を両手で覆いながら、ルームメイトの逃れられない嘲笑と弄りに消灯まで耐えなければならなかった。
「脱げないのこれ? うわマジ、繋がってるぅ、やっばぁ!」
私の背中をつねり、レオタードが今や新たな皮膚と化していることを確認してくる。何度も何度も。そして極めつけは、魔法で鏡を出現させ、私の哀れな姿を見せつけてきたところ。
(うっ!)
私は自分をブスだと思ったことはない。どちらかというと流行に敏感で、お洒落な方だと思っていた。だが、鏡に映っているのはあまりにもダサい、パステルピンクのレオタード一着だけを着た私だった。顔もレオタードに負けないぐらいピンク色に染まっている。
「まあ、まあ、レナータちゃん、ピンクがお好きなのね~」
「だっ……黙れ!」
私が呪いを放とうとすると、また罰則食らうよ、と笑いながら警告される。
(うっ……くっ……)
そしたら……レオタード期間が延びることに……。死ぬほど悔しく惨めだけど……しばらく悪戯は控えた方がいい、かも……。
その夜、寝室には入れ代わり立ち代わり来訪があり、私は人生で経験したことがないぐらいの恥をかいた。特にレベッカが私をネタにした歌を披露し、ピンクの大きなダサリボンをプレゼントしてきたのが最も腹が立った。あんたも石像壊した一人でしょうがー! 最悪。今に見てなさい。
目が覚めると、どん底に落ちたはずの私の人生はさらに奈落へ落とされた。レオタードが消えてない。今日の授業は、朝食は、この格好で行かなきゃいけないことに……嘘でしょ!?
トイレに行く時だけレオタードを脱ぐことができたが、出る時には手が勝手に動いて強制着用された。やっぱりダメだ。上から何か着ることも、被ることも、巻くこともできず、脱ぐことも叶わない。黒ローブは制服なんだからいいでしょ!? と思うけど、ダメらしい。制服のうち着用を許されたのは、鍔が広く黒い三角帽子だけだった。私は黒い三角帽子にパステルピンクのレオタードという信じられないような格好で食堂へ赴かなければならず、いい物笑いの種になった。いや見世物だ。私は今や寮生だけでなく、全校生徒からこの惨めな姿を笑われ、屈辱的な時間を過ごさなければならなかった。
授業中も、廊下の移動も、レオタード姿。周りは皆黒いローブを着ている中で。最悪だった。皆私を見るし、その視線は嘲笑が100パーセントで、私は彼女らの野次や皮肉に何一つ答えることができず、ずっと俯いて歩いた。たまに浮遊魔法をかけて私を宙づりにして観察していく魔女もいて、私は真っ赤になりながら「やめて、下ろして、見ないで」と叫ばなければならなかった。
普段威勢よく暴れている悪戯っ子が恥ずかしい姿にされて神妙にしている姿は嗜虐心を煽るのか、どこへ行っても弄られ、ちょっかいをかけられ、私の自尊心はズタボロだった。先生方も笑うばかり。
(くそ……くっそぉ~!)
幾らなんでも酷すぎる。こんなのあんまりだ。
この呪いを解く方法を別の先生に尋ねると、その正体を教えてくれた。これは呪いではなく、「真実紙」という特別な羊皮紙によって引き起こされた状態なのだ。真実紙に書かれた文章は、そのまま真実となってしまう。書けば書くほど現実にしみ込み、定着していくのだ。くそ……あの書き取りにそんな魔法が仕掛けられていたとは。先生は真実紙が真実にできる内容には限界があり、大それた内容はいくら書いても無意味だということ、破るか矛盾する上書きを行うことで解消できると教えてくれた。つまり、あの書き取りに使われた真実紙を見つけて破る。或いは「普段着は気分で決める」などと別の真実紙にビッシリ書き込めば、このレオタードとおさらばできるというわけ。それなら……。
今日はあいつの授業がなかったので、放課後私は先生の部屋に突撃した。先生がいるなら、罰は充分受けたから、もういいでしょと抗議する。いなかったら例の羊皮紙を探して破り捨ててやる。
先生は留守だった。じゃ、捜索開始ね。まずは昨日、あの羊皮紙が仕舞われていた引き出し。流石に入ってないかな……。開けると、数枚の羊皮紙があった。全部裏返して確認したが、どれも何も書かれていない。チッ。でも、おそらくこれは全部真実紙。だったら、これを一枚拝借して矛盾する内容を書き込めば、後発が優先される。……髭の言うことが正しければそのはずだ。
一枚抜き取り、部屋を出ていこうとしたその時。戻ってきた先生が出入り口に仁王立ちしていた。
「どうやら、反省していないようですね」
「えっ、あっ、いや、これはですね……」
私は慌てて弁解したが、聞く耳持たずだった。罰が厳しすぎる、もう十分反省したと抗議しても、通じなかった。石像壊しただけでそんな怒ることある? そりゃまあ、これまでに色々、先生をパンツ一丁にして吊ったり、廊下にクレーター作ったり、魔法でカンニングしたり、冴えない寮生を大蛇に丸呑みさせようとしたりしてきたけどさ。だからってこんな仕打ちはあんまりすぎる。
最悪なことに、私はその場で追加の「書き取り罰則」を受けることになった。内容は……『私は常にピンク色の長手袋をしています』だ。想像するだけでゾッとする。何とか逃れる術はないものか。でも杖は没収されちゃったし……。そうだ。こっそり別の文章書けばいいんじゃない? 昨日は真実紙のこと知らなかったらその発想はできなかった。今なら
「言っておくけど、その真実紙は私の決めた文章しか効果ないからね」
「そ……そんな」
私は項垂れて、屈辱にまみれながらペンを走らせた。『私は常にピンク色の長手袋をしています』……。
一瞬、両手がピンク色に染まった。今は元通り。これがもう一回書くと……。
『私は常にピンク色の長手袋をしています』
また瞬間、両手がピンクに。
『私は常にピンク色の長手袋をしています』
『私は常にピンク色の長手袋をしています』
数秒ほど両手がピンク色に染まる。その色合いは淡く、レオタードと同じものだった。
『私は常にピンク色の長手袋をしています』
『私は常にピンク色の長手袋をしています』
『私は常にピンク色の長手袋をしています』
照明を照り返す光沢がある、艶々した手袋。レオタードと全く同じ質感。くっ……。や、やだぁ……。こんな、場末のショーのアシスタントみたいな格好……。
昨日と同様、羊皮紙を埋め尽くすまで書き取りは続けられた。終わる頃には、私の両手はパステルピンクに染まったまま戻らなくなっていた。肘まで覆う長いピンク色が、皮膚の上に隙間なく張り付き、私の両腕を見るも無残にダサく染め上げている。
「よろしい。十分反省するように」
「う……うぅ……」
私は必死に羞恥心と戦いながら、無言で部屋を後にした。殺してやる。くっそ……。
廊下を歩いている間、私は再び皆の玩具となった。レオタードのみならず、腕までパステルピンクに染めて出てきたのだ、滑稽でないはずはない。そして嘲笑の音頭を取っているのがレベッカだという事実がますます納得いかない。
「ふざけんじゃないわ! あんたもこの罰則を受けるべきでしょ! なんで私ばっかりぃ!」
ピンク色の両手でつかみかかると、レベッカはケラケラ笑い、芝居がかった口調で先生を呼んだ。私が慌てて手を離すと、またその様子を見て笑うのだ。悔しい。
「あんた覚えてなさいよ……絶対許さないから!」
しかし、こんな格好で何を言っても凄みがでない。哀れなピエロの強がりとして処理され、私は熟れたリンゴのように顔を赤くして、足早に寮へ逃げ去った。最も、寮でも弄りからは逃れられないんだけど……。
夜。お風呂に入る時、レオタードを脱ぐことができた。トイレで脱げるのと同じ理由での配慮だろう……。しかし想定外の事態も。脱げない。手袋の方が。指先から肘までピッチリと張り付いたまま、皮膚との間に髪の毛一本差し込む空間ができない。
「あんの……お風呂、入るん、ですけど……?」
小声で手袋に語り掛ける。しかしいつまで待っても、パステルピンクの手袋は私の両手を封印したまま、一ミリもずらせない。
(そういえば……)
今日の書き取り内容……『私は常にピンク色の長手袋をしています』だったっけ。常に……そうだ、「普段着」じゃない「常に」だ……!
(う、嘘でしょー!?)
盲点だった。お風呂に入る時でさえ外してもらえないなんて……。これからずっと? トイレの時も? そんなぁ……。
寮の風呂は、当然個室ではない。皆が使う浴場。一人だけこっぱずかしいパステルピンクの手袋をつけたままの入浴は、死ぬほどいたたまれなかった。レオタードは脱げている分、なおさらへんてこりんっぷりが増し、散々からかわれることとなった。
お風呂から上がると、体が言うことを聞かなくなった。ひょっとしたら無視できるかも……なんて淡い期待はもろくも崩れ去る。私の体は勝手に動き続け、ピンクのレオタードに袖を……あれ? ちょっと待って? この服、何かが変……違う、これは……。
私が手に取ったレオタードは、入浴前と違っていた。背中に……腰の部分に、デカいピンクのリボンが追加されている。同じ素材のようで、テカテカとした光沢がある。
「な、なにこれ!?」
困惑している間に私はリボン付きのレオタードを着てしまい、キュッと締め付けられたと思うと、そのまま肌と融合してしまった。両手を後ろの腰に回すと、弾力のある大きなリボンを掴めた。ロッカーの脇でレベッカがニヤニヤしていることに気づき、あいつの悪戯だとわかった。
「あんたねえ! 何よこれは! 外しなさい!」
冗談じゃない。ダサいなんてもんじゃない。数十センチもあるピンクのリボンなんて。
「だって、せっかくプレゼントしたのにつけてくれないんだもーん」
「はぁ!?」
思い出した。昨日あいつがふざけて贈ってきたリボンだ。全くもう、なんでこんな……。外そうと引っ張ったが、取れない。リボンを引っ張ればその分レオタードも引っ張られ、癒着している私の皮膚が引っ張られる。
「あたた」
魔法で融合させられているらしい。私は杖を背中に向けて、融合を解こうと試みた。が、呪文が唱えられない。無言でもダメだ。魔法が……使えない。
(な、なんで?)
いい加減レベッカにニヤけ面がムカついてきたので魔法で吹っ飛ばす。使えた。ダウンしたレベッカの顔を踏みつけながら、私はもう一度自分の腰元に杖を向けた。魔法が撃てない……どうして?
可能性としてはおそらく……レオタードとリボンの融合を解こうとする試みが、「レオタードを脱ぐ」行為に入れられてしまっているからだろうか? だとしたら……最悪だ。
翌日から私は、さらなる恥辱を味わう羽目になった。パステルピンクのレオタードと長手袋というただでさえ恥ずかしい格好の上に、後ろの腰に馬鹿みたいに大きなピンク色のリボンを揺らしながら歩くことになったのだから。もういっそ死んでしまいたいと思えるほどだった。
(ん……でも、待って……?)
私の呪いで毛むくじゃらになったレベッカが毛を引っ張られて虐められているのを眺めながら、私はある解決策を思いついた。脱げないなら……逆に利用してやればいいのでは?
「ねえレベッカ」
「フガ?」
「リボンの布、どこから持ってきたの? 余りはある?」
「フガフガ、フーガ」
服飾の先生の部屋から拝借したらしい。なるほど……よし。
さらに次の日。私は堂々と食堂で朝食をとり、廊下を歩いた。ピンク色のレオタードはもはや存在しない。私の手でドレスに生まれ変わったのだ。同じ素材でふんわりと広がるスカートを作り、融合。テカテカのパステルピンク一色の服であることには変わりないし、腰の大きなリボンもくそダサくて恥ずかしいんだけども、随分と体裁はよくなった。だいぶマシ。これまでほどには自尊心が傷つかない。……慣れただけかもしれないけど。
その日は例の先生の授業があった。先生はドレスにバージョンアップした私の姿を見て呆気に取られていた。やり返せた気分になった私は、久々に痛快な悪戯成功気分に浸った。
……のは僅かだった。
(ちょっとー! 酷いですー! あんまりですー!)
私は三日前に壊した台座の上に立ち、スカートをつまむカーテシーのポーズを取らされたまま、全身を石化されてしまった。私は当分、壊れた台座の代わりとして飾られるという罰を受けることになったのだ。「何も反省していないようだから」と……。
「あらまあ、こうしてみてみると綺麗じゃない。あの悪戯っ子とは思えないわね」
先生はそう言って立ち去った。私は指一本動かすこともできないまま、思いつく限りの罵倒を脳内で先生にぶつけた。
(うう……う~っ、そんなぁ……)
石化を解除しようとしても、ダメだ。全身が芯まで固まり、一ミリたりとも動かせない。髪の毛一本、風に揺れることさえない。お嬢様みたいな澄ました笑顔で前方を見つめ続けるだけだ。
先生が去ってしばらくすると、何人かが寄ってきた。スカートの中を覗き、叩き、私の体に落書きしていく。
(ちょっとやめなさいよー!)
だが、全身を石に変えられてしまった私は、逃げることも抗議することも、嫌がる素振りを見せることすらできない。ただ静かにあらゆる嘲笑や悪戯を受け入れることしかできなかった。
く……悔しい。レベッカだって……そもそも壊したのあいつもなのに……!
その彼女ときたら、今度は私の頭に石のリボンカチューシャを追加している。罰されないラインをわかっている。私は理不尽過ぎる裁定に憤りながら、石化が解かれた後にどんな反撃をくらわしてやるかで頭がいっぱいになった。反省のはの字も、まるで浮かぶことなく。