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「女子はいないのか」 「そうみたいですね、男子ばっかで」 「白崎は……出ないのか?」 「いえ……私は会長なんて」 まだ締め切りまで日はあるものの、生徒会選挙の顔ぶれはほぼ出揃った。会長希望の女子はゼロ。次の生徒会長は必ず男子になる。ずっと女子だったここ数年の流れが断ち切られることになりそうだ。会長はふーっとため息のような息を吐き、自分のお腹を擦った。あの制服の下にあるもの。それは純白のレオタードだ。会長はこの二年間、ずっと白いレオタードを着続けている。学校にいる時も、家にいる時も、お風呂に入るときでさえ。それは決して脱ぐことができない不思議なレオタードなのだ。 この高校には古くからずっと受け継がれてきた不思議な現象がある。六種類の「決して脱ぐことのできない衣装」が代々生徒の間で「継承」されてきたのだ。会長のレオタードもその一つ。肘まで覆う長い手袋。膝より高いソックス。そして胴体をピッチリと覆い隠す純白のレオタード。違いは箇所と色だけで、その質感は全く同じ。一つの皺や染みもなく、ツルツルテカテカとした布とも樹脂ともしれない何かで作られているソレは、継承者の肌に隙間なく張り付く。指は勿論、紙一枚の入る余地もない。ピチッと這うように張り付いたまま、二度と脱ぐことは叶わない。体を動かしても突っ張ることなく普通に動かせるものの、何故か皺ができない。いついかなる時も体に、肌に一切の空間を生まずに密着し続けるのだ。 脱げない服はどこから来るのか。それは上級生からの「継承」によって受け継がれる。該当する部位の肌同士(片方は例の衣装だけど)を密着させ、互いに「継承させる」「継承する」と念じることで移動する。継承は在校生同士、上級生から下級生限定で、逆はない。同級生同士で行うこともできない。魔法としかいいようのない不可思議な現象だけど、この高校では当たり前の日常だった。秋には文化祭があり、二月にはマラソン大会があるのと同じノリで、この継承も語られる。新入生は手足をカラフルなタイツに包んだ先輩がいることに気づくと驚いたり笑ったりもするが、すぐに馴染んでいく。どんな非日常も慣れればやがて日常として受け入れられていくのだろう。 もし、継承を行わなかったらどうなるか? それはここ、生徒会室に答えがある。あった。左右の壁に沿って向き合うように並ぶ六つの台座。石でできたこの台座は、ちょうど人が一人立つのにピッタリなサイズ感だ。卒業までに継承できなかった者は、石になってここに飾られてしまう……らしい。らしいというのは、ずっと伝承として語られ続けてきただけで、本当に石化してしまった子はいなかったからだ。少なくとも私たちや先生が知る限りでは。基本的には皆、卒業までに継承を済ませてしまう。自らの人生を棒に振ってまで検証しようなんて酔狂な者はいない。それに、脱げないタイツや手袋、それもピンクだの水色だのといった目立つ色を一生着続けたいという人間もいない。石化ペナルティがなくとも皆さっさと継承してしまいたいだろう。 しかし人が石になるなんて本来なら考えられない話だ。ただの脅しかもしれない。だがこの噂の信憑性を高めていたものがこの生徒会室にはあった。今年の春までは。それは一体の石像だった。古い制服を着た女学生の石像。生きているかと思うほどに精緻で、美術の教科書に載っているどんな彫刻よりも綺麗だった。とにかく無茶苦茶リアルで、彫刻ならではの表現や省略とかも一切ない、まるで人間をそのまま石に置換したかのような……そういう像だった。一つ不自然な点があるとすれば後頭部のリボン。現代のアニメや漫画でしかお目にかかれないようなでっかいサイズのリボン。前から見てもハッキリその形がわかるほど。風船かと思うほどに羽根部分がパンパンに膨らんでいて、ここだけ漫画みたいな表現なのだ。この高校の「継承」を知るものは当然、考える可能性がある。この子は「頭」の継承者だったのでは? それが石化してしまったから、今は五種類しか継承されていないのでは? という疑惑。 私が入学した時、いやそれ以前から継承は五種類しかなかった。両手両足、胴体。これで五つ。あのリボンが「頭」だったか、彼女は彫刻ではなく人間だったのか、それは神のみぞ知る、って感じだった。先生方はただの彫刻だと思っていた。とにかく、生徒会室にはそういう石像があった。この台座の中の一つに立っていた。残る台座は五つ。継承も五つ。 「じゃあやっぱり、そういうことなんじゃないの?」 と同じ疑問を持つ人はきっと大勢いただろう。でも、だからといって特に何かが変わることも起きることもなく日常は毎年過ぎていた。それを変える出来事が起きたのが今年春。右手を継承していた生徒が出来心でこの石像に頭をくっつけ、継承を試みたのだ。その結果なんと石像が人間に戻り、真っ赤なリボンがその子の後頭部に接着してしまったというのだから驚きだ。 私がそれを知ったのは新年度が始まってからだった。登校の時から、イタい真っ赤なデカリボンをつけた子がいる、と早々に噂になったっけ。右手の子は多分学年でも一二を争う美少女なんだけど、流石に現実にあのリボンはきつそうだった。本人もずっと顔を赤くして俯くばかり。右手はテカテカのピンク色だし。 生徒会室の石像がなくなっていることはその日のうちにわかった。私は会長から事のあらましを聞いた。ホント色々驚いたっけなあ。まさか本当に石化した人間だったなんて。それに、石化しても継承可能だったこと、そうすれば元に戻れるという新事実にも。 先生ですら知らなかった時代から石化していた女学生が今どうしているのかは知らない。会長は右手の子から聞かされているらしいんだけど、私には教えてくれなかった。その時、私は初めて会長との距離を感じた。 会長は二期連続でこの高校の生徒会長を務めて、今三年。私は入学以来ずっと会長と一緒に生徒会の仕事に携わってきた。初めて彼女と会ったのはプリントの束を廊下にぶちまけてしまった時。最初に拾ってくれたのが当時から会長だった栢森先輩その人だった。 ずっと仲良くやってきた。学年は違えど親友みたいに思ってて、お互いプライベートな相談もたくさんして、遊んで、仕事して、裸……もとい、レオタード姿まで見せてもらったことも何度かある。互いに隠し事なんてナシ、って感じだった。 だから、石像だった子の顛末を話してくれなかった時はショックだった。まるで信用されていないかのように感じてしまった。会長はいろいろ事情があって今は話せないと説明していたけど、私の心に突き刺さった棘は抜けることがなかった。 私は継承者ではないけど、継承については結構詳しい。私を含め生徒会は継承について色々情報を把握している。それというのも、会長自身が継承者であること……胴体はここ数年、ずっと会長同士で継承されてきたからだ。会長……栢森先輩は先代の生徒会長から白レオタードを継承したらしい。その先代も……。それで何となく、「胴体」は会長で継承するという空気というか慣例が出来上がっていたのだ。 継承については詳しいし、相談にも乗ってきた。のに、その私にも話せないってどうして? 継承者じゃなかったから? 私はずっと会長と一緒に……親友だと思ってたのに。別に石像女学生さん自体はそこまで興味あるわけじゃないんだけど、会長が私に話してくれなかった事実がショックだった。自分でも驚くほどに。 だからかは自分でもわからない。私は……会長に立候補しなかった。まあ二年生だし、受験もあるし……そう自分に言い聞かせて。会長は二年でも立候補したのに。 下校中、ぼんやりと考えていた。胴体の継承はどうなるんだろう。数年、それももう十年近く会長から会長へ継承していた純白のレオタード。男子……男子は悲惨なことになりそう。そう、継承はなにも女子に限ったことじゃない。ビジュアル的な都合で大体女子が継承しているけど、過去には男子の時代もあったと聞くし。 しかし、胴体は……男子が継承した例はほとんどないと聞く。そりゃそうだ。あのレオタードは股間も封印するもんね……。 継承中の部位は常に清潔健康に保たれる。そう聞いている。だから脱げなくてお風呂に入ったり洗濯したりできなくっても、嫌な臭い一つしないし、病気にもならないらしい。会長はもう二年間トイレに行ったことがないとよく自虐ネタを飛ばして生徒会を沸かしていた。それでも大丈夫らしいけど、男子はうーん……どうなんだろう。 案の定、会長候補は全員胴体継承に関しては渋っていることがインタビューで明らかになった。あれは女子の役目だそうだ。カチンとくる言い回しだけど、股間のアレも形くっきりピッチリ白く染めた男の姿を見たいか、それが我が校の生徒会長でいいのかと問われれば、まあ、うん……。 三年の秋……もうすぐ会長は卒業だ。それまでに継承できなければ、先輩は石になってしまう。石像になった先輩が生徒会室に飾られ、それを新会長となった男子がジョークのネタにしているところなど想像してしまうと、それだけで頭に血が上る。 受験だけでも大変だろうに、この時期から継承者探しとなると……。会長の気苦労はどれほどだろう。会長は新会長に継承できないことを残念がってはいたけど、じゃあ誰に継承するのかという話題は自分からは出さなかった。 会長は聡明で責任感の強い人だ。自分から誰かに押し付けるようなことはきっとしたくないのに違いない。「会長の慣例」として引き継がせるならスムーズだったのに。三年生の生徒会長から下級生に「今から半年以上胴体をレオタードに封印されてくれ」とは言い出しづらいんだろう。言えば継いでくれる人は生徒会だけじゃなくてもいっぱいいるだろうに。 だからここ数日、ずっと頭の中で響いている声がある。 (私を待っているんじゃないの?) 私が継いでくれると思っているんじゃない? だから何も言わないんじゃ? 確かに私は会長の右腕で、先輩の親友だった。そのつもりだった。でも、あの時先輩は私に言ってくれなかったじゃない。石化していた子がどうなったのか……。私を次の継承者に考えていたのなら、教えてくれてもよかったんじゃないの? 私、得意気になってお喋りするような女じゃない。そんなことはわかってくれていると思ってた。私は先輩が好き。でも先輩は……私をどう思っているだろう。 何でも話してくれたし話した。でもあの時あの瞬間、私は会長の何かのフィルターに引っ掛かり、別のサークルの存在になってしまった。先輩が属す、秘密を共有できる輪の中に、私は入れてもらえなかったんだ。 立候補の締め切りが過ぎ、選挙週間に入った。結局、女子の会長立候補者はゼロ。……女子だとレオタード継承も暗黙のルールになってしまっていたからかもしれない。ツケが回ってきた……んだろうか。 生徒会が解散すると、先輩と会う機会、過ごす時間はめっきり減ってしまった。毎日メッセージのやり取りはするけど、受験生の先輩を邪魔するのも気が引けて、会いに行く勇気は出なかった。出来ればこれまで通りずっと一緒にいたいのに。 ある日とうとう我慢できなくなって、私は生徒会室へ向かった。今は誰も使っていない、先週まで私たちの空間だった部屋。私は中に人の気配があることに気づいた。誰だろう。そっと取っ手に手を伸ばす。鍵は開いていた。 静かにドアを開くと、中に栢森先輩が一人で佇んでいた。すぐ私に気づき、招き入れてくれた。 「どうしたんですか?」 「まあ、ちょっと懐かしい……って言うには早すぎるか。皆と馬鹿話せないのが寂しくって、何となくな」 心がポカポカと暖まった。先輩……やっぱり私たちと過ごせないの寂しいんだ。先輩もそう思ってたんだ。 「私もです」 それからしばらく他愛のない雑談を交わした後、先輩が言った。 「どんなだろうな」 「?」 「私が石になったら」 「ダメです」 自分でも驚くくらい、食い気味に言葉が出てしまった。先輩は一瞬呆気にとられたような顔をしてから笑った。 「継承、どうするんですか?」 「う~ん、私も早く済ませたいんだが……。新会長に継承する気でいたからなあ」 「皆、頼めば引き受けてくれると思いますよ」 「だといいんだけどな」 そう言いながら、先輩はジッと私を見つめた。「お前はどうなんだ?」と言われているような気がして、私はドギマギした。勿論、頼まれたら継承する。するに決まっている。でも私から言い出して断られたりしたら……私は立ち直れない。 「知ってるか白崎?」 「何をですか?」 「継承する時は、該当部位の肌同士を密着させるんだ」 「知ってますけど」 「胴体の時はどうなるか、具体的に想像したことは?」 「……? あっ!」 私は初めて気づいた。胴体を股間から肩まで全て覆いつくす純白のレオタードを継承する際、「該当部位の肌」が何になるかを……。 「裸……ですか?」 「そう、正解。継承する側は実質裸。ま、こっちも継承後は裸になるんだが」 ニヤニヤと彼女は笑った。ダメだ。絶対ダメだ。男子に継承なんて。先輩と……裸で密着なんて。でも女子……いやダメ。知らない女が裸で先輩と抱き合っているところを一瞬想像し、私の中で決心がついた。 渡さない。先輩は誰にも。 私は黙って上着を脱いだ。続けてスカートも。先輩は微笑んだまま 「鍵はかけたか?」 とつぶやく。 「先輩、かけてください」 「ふふふっ」 ドアの鍵をかけにいく先輩をよそに、私は下着姿になった。学校で、それも皆でずっと過ごしていたこの生徒会室でこんな格好になるなんて思ってもみなかった。背徳感と期待が胸を高鳴らせる。戻ってきた先輩も黙って服を脱ぎ始め、私たちは夕暮れの生徒会室で裸同士になった……いや先輩はレオタード姿だった。それも今から逆転する。 胴体の肌を密着。それが条件。だから下着もつけてはいけないのだ。学校でとうとう全裸になった私に比べ、レオタードを着ている先輩はちょっとズルい。そう思ってしまった。私は全部見せているのに。先輩も見せて。 お互い黙ったまま歩み寄り、そっと抱き合った。先輩のレオタードはとても心地よくサラサラしていて、二年間洗っていないとは思えないほど綺麗にテカテカと輝いていた。 互いの胸を押し付け合い、足を絡ませ、腕を回しギュッと強く抱きしめ合う。私は真っ赤になりながら、限界まで鼓動を早める心臓と戦った。 「いいか?」 「いいです」 とても恥ずかしいけど、ずっとこうしていたい至福の時の中、私は頭の中で唱えた。 (継承します!) カッとまばゆい光が部屋を満たす。反射的に目を閉じるけど、先輩は離さなかった。 瞼越しの強烈な光が収まっても、私たちはしばらく抱き合ったままだった。そして、先輩のスベスベしたレオタードの感触が、柔らかい肌の感触にすり替わっていることに気づく。 (ああ……) そっと腕の力を緩め、抱擁を解く。私の胴体は純白に染まり、テカテカとした布とも樹脂ともつかない不思議な素材によってその全てを封印されてしまっていた。触ってみると、さっきの先輩と同じ感触があった。すべすべしていて気持ちいい。そしてどこかゴムのような弾力も感じる。動かすと一切突っ張ることもなく捻れた。それでもレオタードは皺一つ作らず私の肌に追従している。本当に不思議な服。 先輩に視線を戻すと……全裸のまま、両手で自分の乳首を触っていた。えっ。な……何やって……。 私の視線に気づいた彼女は珍しく慌てながら、真っ赤になって答えた。 「あっ……いや、違う! これはそうじゃなくて! 二年ぶりだから! そう二年ぶり!」 私は適当に流してから、 「と、とりあえず……ふ、服着てください」 と言うのが精一杯だった。 それで気になって自分の胸を見たところ、なんと乳首がなかった。 (ん?) 触ってみる。数本の指で胸を撫でると、自分の胸の曲面そのままだったけど、乳首らしき感触がなかった。 (あれ?) そういえば、このレオタードは私の皮膚に一部の隙間もなく、沿うように張り付いているはずだけど。乳首の突起はないし、あるべき場所を指で触れても胸の感触しかない。 「消えるぞ」 先輩の声が響く。 「乳首」 なっ……なんで~!? 残りの身体チェックは家でやろうと私もレオタードの検証を打ち切り、元通り服を着ようとした矢先。問題が発生した。 (……下着、どうするんだろう) 手に持ったブラを揺らしながら、私は困ってしまった。レオタードの上からブラとパンツは……変かな? おかしい気がする。でもじゃあこれどうしよう……持って帰る? ていうかこれからずっと下着なし? 私。 真っ白な素材で覆いつくされた股間はマネキンのようにツルツルだ。触ってみても、肌から持ち上がることはない。腹のあたりをつねっても肌ごと引っ張られて痛い。本当に密着してるんだ。ていうか新しく私の肌がコレになった、て感じ。 先輩はジッと私の下着を見つめていた。相変わらず全裸のままだ。そこで先輩も同じ問題に直面していることに気づく。……ノーブラノーパンですか? 先輩。 あの凛とした生徒会長が二年間そんな状態で学校に来ていたのかと思うと、ちょっと笑ってしまう。 「あの、買ってきましょうか」 「……あ、ああ。いや、大丈夫だ。いや、本当に。かんっぜんに忘れてた。ずっと着けてなかったし……」 まあ、全裸の先輩を生徒会室に放置していくわけにもいかないか。先輩は観念して下着なしで服を着た。元生徒会長、ノーブラノーパン下校。可笑しくてまた笑ってしまった。すると先輩が吠えた。 「お前も来年こうなるんだぞ」 「私はちゃんと用意しますもん」 「どうかな。ファイル保存し忘れて泣いちゃったくせに」 「あ、あれはその……忘れてくださいよなんで覚えてるんですか!」 「忘れるわけないだろ。本当に楽しかったんだから」 その言葉を聞いた瞬間、じわっ私の目に涙が滲んだ。先輩はそっと私を後ろから抱きしめ、軽く頭を撫でた。 「継承しない方がよかったかなあ」 私がそう言うと先輩は 「ほう? なぜ?」 と聞き返す。私は空いた台座の方を見ながら答えた。 「そしたらずっと一緒にいられたのに」 お互いに笑った。懐かしい生徒会でのあの空気だった。 継承を終え、服を着た私たちは久々に一緒に校門を出た。先輩はだいぶ自分のスカートを気にしていた。そういえばノーパンだっけ。 帰り道、私は再度尋ねた。きっとこれを聞けるラストチャンスだと思ったから。どうして石化した子のことは私に秘密だったのか。 「それはな~、だからちょっと事情があって」 「……私、信用できないですか?」 「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ。まだ言えない理由があって……先方にだ。白崎じゃない」 「本当?」 「本当だって。だから……白崎とじゃなきゃ嫌だったんだ。継承」 冷たい秋風が吹いた。でも私の心はじんわりと熱くなる。 「言ってくれればよかったのに」 「いやでも、嫌だろ。レオタード脱げないの」 私は先輩にもたれかかり、言った。 「先輩のなら、良いですよ」 「……ありがとう」 先輩は私の肩に腕を回し、抱き寄せて呟いた。 「ああ、頭の子のことだけど、どうしても知りたいならえっと……十二月三日過ぎてからならいいぞ」 「え? ……なんで? その具体的な……」 なんかあったっけ? その日? 行事は……なかったような。先輩か私の誕生日でもない。何でその日? 「まあ、あるんだ色々」 「いーじゃないですか、もう。私継承者なんですよ」 「だーめ」 「むう」 二人だけの時間。卒業までに何度あるかわからない貴重な帰り道を、私たちはゆっくりと堪能しながら遅い歩みを進めた。

Comments

Anonymous

This was good story far. Cant wait for the next chapter.

opq

感想ありがとうございます。気に入っていただけたようで何よりです。