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1.独身男性 私は独身男性の申し出を受けることにした。プロフィールだと一番年収が高い。生活には困らなさそう。 数日後、私は施設を去った。結局、髪は金髪のまま元に戻せなかったけど、後で何とかしてもらおう。 「わあ……」 彼の家には、既に万全の受け入れ態勢が整っていた。私と同じスケールの、大きなドールハウス。外装は中世ヨーロッパ風で、ちょっとしたお城みたい。私の胸は高鳴った。 「入ってごらん」 しかし扉を開けて中に入ると、外見とのギャップに戸惑った。中はヨーロッパ臭ゼロの、現代日本の……女児部屋だったのだ。一面パステルカラーの壁で囲まれ、女児向けアイドルアニメの主人公をプリントしたデカいポスターが張られている。ベッドもカーテンも淡いピンクで統一され、可愛らしい絵柄で彩られている。ベッドはもこもこのアクセサリー(今の私にはぬいぐるみぐらいの大きさ)がこれでもかってぐらい並べてある。床もパステルカラーの図柄で、すごく子供っぽい。机は「学習机」と呼ぶべきもので、なんとピンクのランドセル(勿論十分の一サイズ)が掛けてある。並々ならぬ執念を感じ、私はドン引きしてしまった。何……これ……。机の棚には絵本や小学生向けのノートを模した小物が並び、板には謎の時間割表が張り付けられている。「さんすう」と書いてあるので、小学校のやつ……? 「どう? すごいで……あっ、そうだよね、邪魔だよね」 絶句する私を置いて、彼は勝手に納得して扉を閉めた。 「え、あ、ちょ……」 目をこすって振り返った。何も変わらない。今時本物の女児でさえこうはならないだろうという部屋。わ……私、ここで暮らすの……今日から? ずっと? い、いやまあ落ち着こう。きっと私のために、ちょっと張り切りすぎちゃっただけだ。うん。悪い人ではないんだろう。多分。きっと。でも、私の年齢知っているはずなのに、これは……ない。もしかして、魔法少女コスをみて子供だと勘違い……いやいや。そうだ、服。 私はクローゼットを開いた。そこには何着もの服が収納されていた。どれも私にピッタリのサイズ。でも……。その全てが、ひと昔……いやふた昔前の「女児服」だった。ふわっふわな雰囲気のパステルカラーに次ぐパステルカラー、星柄、キャラ物、フリル、リボン……。ゲロ吐きそうな少女趣味のゴリ押し。 (これ……だけ?) 部屋のあちこち探したけど、服はそういうのしかなかった。下着もあったが、熊とか女児向けアニメのキャラが印刷されているものばっかり。いくらなんでも酷い。でも、多分これは全部手製か特注のはずだ。その苦労を思うと、文句を言う気にはなれない。わざわざ引き取ってもらったんだし。面倒みてもらう身だし……。ちょっと努力の方向性を間違っちゃっただけなんだきっと。 とりあえずベッドに転がった。ふわふわでいい感触。本当に頑張って作ったんだな、ここ……。ボーっと天井(子供向けの星図が張ってある)を眺めていると、天井が取り外されて、彼の顔が現れた。やっぱり外せるんだ。ドールハウスだし、当然か。 「どう?」 キラキラした瞳で感想を求められ、私はぎこちなくお世辞を述べた。小金持ちだとは知っていたけど、正直ここまでしてもらえるとは思っていなかった。流石に、これから居候となる身で悪し様に文句を言うほど我儘でもない。これからちょっとずつ修正していけばいいんだ。 「そうかあ~! 良かった~! いやすごいでしょ! ね~!」 そこから二時間にわたるこだわりポイントの自慢を耐えた後、白い円形の台座が部屋の中央に置かれた。施設のと似てる。 「ほら、乗って乗って」 「……えっと……」 これを見てると嫌な記憶が蘇る。一体どうするんだろう。 「プログラム入れるんだよ。ほら、さ、さ」 「プログラム?」 私、ロボットじゃないんだけど……。説明によると、フィギュアクリームを構成しているナノマシンにシステムをインストールするつもりらしい。ここでの生活ルールを覚えてもらうとか何とか……。でも、なんか嫌だ。インストールだなんて……私ロボットでも人形でもないのに。 「あのう、普通に口で説明していただけれ……」 体が動かなくなった。ポーズライトを浴びせたらしい。 (ちょ、ちょっと! 何するんですか!) 「いいからー、そう怖がらないでー」 私をつまんで、ヒョイと台座に乗せた後、巨大な顔は姿を消した。うう……嫌な予感がする。承諾も得ずに固めるなんて。悪い人ではないんじゃないかと思ってたけど、そうでもないかも……。 しばらくすると、大きな手が台座を回収し、彼は 「じゃあクルミちゃん、またねー」 と言って天井を戻して消えた。すると体が自由に動くようになった。 (何だったの、一体……) あ、プログラムの中身説明してもらってない。私はドアを開けて、外に出た。 「あの、説明……」 両足がドールハウスの外へ出た瞬間だった。体が動きを止めた。 (っ!?) またポーズライト? と思ったのも束の間、体が回れ右して、ついさっき閉じたドアを開き、独りでにドールハウスの中へ戻ったのだ。 (え、ええっ!?) 後ろ手でドアを閉めると、再び体の制御が私に戻された。い、今、体が勝手に……。まさか。 再び天井が外された。流石にこれには抗議をしようと決意した瞬間、体がカチコチに固まってしまった。 (ま、また!?) 「ごめんごめん。説明忘れてたね」 彼は私にインストールした「生活ルール」の内容を明かした。知らない間に外に出て、踏んづけたりすると危ないから、ドールハウスの外に出たら自動的に帰宅する仕様にした。さらに、天井を外して中を覗いた時、ポーズ状態になる設定もつけた。自然な風景を切り取れるように……。 (な、な、何よそれ。いくらなんでも、一方的じゃない) 理不尽なルールの押し付けに抗議するべく、声を張り上げようとしたが、声帯が振るわない。ポーズ状態のまま、身動きがとれない。 「じゃあ、そういうことだから。また何かあったら言ってね~」 天井が被せられると、私は動けるようになった。要約すると、私は自力じゃここから出られない、彼が見ている間は動けない……ってこと!? 「あ、あの! 私は人形じゃないんですよ! 流石に……」 あれ。まだそこにいるはずなのに。おかしいな。私はドアを開けた。その瞬間、動けなくなった。外に出てないのに!? 視線の先に、彼がいた。こっちを見ている。天井を外していなくても、彼が見ていたら動けないらしい。彼は私が寂しがっているとでも勘違いしたのか、ウィンクして部屋を出ていった。ウザ……。 彼が姿を消すと、動けるようになった。ため息をつきながらドアを閉め、私は床に転がった。……どうしよう。彼がいたら固まって喋れない。「何かあったら言ってね」って、何も言えないじゃん……。もしかして気づいていない? その日の夜、撮影会が始まった。私は施設からもらった白ワンピを没収され、恥ずかしい女児服コーデを纏うことを余儀なくされた。彼が天井を取り外し、大きな一眼レフで私と女児部屋の写真を何枚も撮った。死ぬほど恥ずかしい。こんな写真が広まったら……。 「じゃあ、これネットに上げるからね~。きっとバズるよ」 (ええっ、ちょっ、やめてください! そんな!) 彼がいる限り動けず、喋れない。私には拒否する術がなかった。女児部屋の中で女児服着てるこの醜態が知人まで渡ってしまったら……。表を歩けない。私の焦りなど知りもせず、彼はシャッターを切りまくった。 撮影会が終わり、天井が戻り、ようやく自由になった後、私はベッドに転がった。ああ……選択ミスったかなぁ……。でも今から変えますなんて言えな……。いや、どうしよう。物理的に無理じゃん。このままだと。外にも出られないし、彼とは話せないし……。私は段々、思ったよりも深刻な事態に陥っていることに気がつき始めた。もうこのドールハウスから出られないじゃない。でも、ここから出て他に行くアテがあるかっていったら、無いけど……。 その日から、私はこの女児部屋ハウスの虜囚となった。基本、中では自由にしていられるのだけど、テレビもスマホもないし、非常に退屈だった。外に出ても戻される。ぬいぐるみを抱いてゴロゴロしているか、或いは不本意ながら……一人ファッションショーでもやっているしかなかった。部屋の中には鏡があるので、自分の姿は確認できる。フィギュアみたいな肌のせいで、完全に幼い女の子……の人形にしか見えなかった。できるだけ大人っぽく見える組み合わせを探したけど、「背伸びしてる子供」にしかなれなかった。 しばらくここで過ごしているうちに、彼から真相を聞かされた。昔から頑張ってこの女児ハウスを作ってきた、あと必要だったのはこの部屋で暮らす女の子だけだった、君のおかげで完成した、とっても嬉しい……。私は悟った。この部屋は私を迎え入れるために作ったものではなかった。主従が逆だったのだ。私は、ミニチュアランドセルや学習机と同列の、この部屋を構成する一パーツでしかなかったのだ。でも、彼が見ている限り私は動けないので、不平不満を伝える術はない。彼も、女児服を着て固まっている私しか知らないので、内心不満に思っていることなど知る由もないだろう。ささやかな抵抗はした。天井が開くたびに、不満げな表情、怒っている表情で固まるようにしてやった。 「クルミちゃん、もしかして怒ってる?」 (やった!) ある日、努力が報われた。だが真意は伝わらず、テレビ放送が映るだけのタブレットと、「気分を楽しくするアロマ」が追加されただけだった。このアロマが曲者で、普通の人にはリラックス効果がある匂いを提供するだけなのだろうけど、十六センチの私には効きすぎて、常に顔が笑顔になるようになってしまったのだ。 (ううっ、うううぅ~) いくら頑張っても表情を崩せない。いつ見ても笑っているので、彼は全ての問題が解決したと思ってしまったようだ。私にはこれ以上どうしようもなかった。 月日が経つと、髪が伸びてきた。施設にいるころから一切カットしていなかったので、床を這うほどの大ボリュームになってしまった。重いし疲れるしで最悪。一か所縛っても間に合わず、床につかないようにするにはツインテールにするしかなかった。結果出来上がるのはアニメキャラのような大ボリュームのツインテ。ますます女児っぽくなってしまった。固まる際に髪を何度も指さして固まってみせると、何を勘違いしたのかピンク色に染められた。髪飾りやリボンももらった。あぁ……。駄目だ。意思疎通ができない。 こうして私は、完全にこの女児部屋ドールハウスを構成するパーツの一つとなってしまった。この人を選んだのが正しかったのかどうか、私にはわからない。少なくとも身の安全は保証されている。家具や服もいっぱいある。働かずに生きていけるのも悪くはない。けど……。もうちょっと、人として扱われたかった。高望み、なのかな。 2.専業主婦 私は専業主婦の申し出を受けることにした。一番普通っぽい人だし、家族もいるなら大丈夫だろう。 数日後、私は施設を去った。結局、髪は金髪のまま元に戻せなかったけど、後で何とかしてもらおう。 「はーい、今日から一緒に暮らすクルミちゃんよー、仲良くしてあげてねー」 「よ、よろしくね……」 母親は私を引き取るなり、早速娘と相対させた。デカい。見た目五、六歳ぐらいかな。可愛いなんて思えなかった。私から見れば巨人の子供。ただひたすらに不気味だった。大人とはまた違う種の威圧感がある。 娘はすぐに目を輝かせて私を掴んだ。 「ひぃっ」 「こらこら、乱暴だめよ」 母親は優しい口調であやすだけで、積極的に引きとめようとはしなかった。じょ、冗談でしょ。死んだらどうするつも……。 だけど娘は案外素直らしく、私を床に戻してくれた。ああ、助かった……。母親はその様子を見て大丈夫とみたのか、すぐに子供部屋から出ていってしまった。なんか怖いなぁ……。ここに来てよかったんだろうか……。 娘は玩具箱から私と同じスケールの人形を取り出し、床に立てた。私と全く同じ質感だったことに驚いた。こうして並べられると、自分が人間よりも人形の方に近いような気がして、落ち込んでしまう。 「ムラサキちゃんだよ!」 紫色の髪と、派手なアイドル衣装を纏った人形は、ムラサキちゃんという名前らしい。娘はその人形を私の目の前につきつけ、こう言った。 「ほら、あいさつしてー」 「……?」 突然、人形が腰を曲げて頭を下げた。 「えっ!」 嘘っ、生きてるの? この子ももしかして私と同じ……。いや違った。よく見たら、娘がタブレットを叩いている。あれで操作してるんだ。なんだ、あービックリした。 「えへー」 娘が嬉しそうに笑った瞬間だった。私の両脚が閉じ、両手が体に吸い付いた。気をつけの姿勢だ。彼女が私をタブレットで捜査しているのだ。目の前の人形と同じように……! 「待って、ストップ、私は」 私の体は独りでに腰を折り曲げ、目の前の人形に頭を下げてしまった。に……人形に頭を下げさせられるなんて……。 体が再び私のものになるとすぐ、 「ねえ、お母さんもさっき言ってたでしょ? 私は人形じゃなくって、人間なの。あなたやお母さんと同じなの」 と言ったが、彼女は首をかしげるばかり。確かに、十六センチで見た目樹脂製の小人が言っても、説得力がないだろうな。 「だからね、病気で小さくなっちゃったの。このお肌はね、フィギュア……」 瞬間的に私の体が固まった。ポーズライトだ。 (だ、だから、そういうのはダメなんだってば!) 何とかしたくても、どうにもできない。単一の石材から彫りだした石像であるかのように、私の体は芯まで固まっている。娘は私を持ち上げ、円形の白い台座に移動させた。コードが伸びて、どこかと繋がっている。市場の台座とよく似てる。何だろう。私を人形として飾るつもり? お母さんが来てくれるまでこのままなのかな……? 「アップデートするねー」 (え? アップデート、って?) 本当に、私をムラサキちゃんと同型の玩具だと思っているらしい。そんなことできるわけないのに。でも、一笑に付すことができない私がいた。なにせ、今まさに現在進行形で私の体は玩具に支配されているのだから。 (そういえば、操作ってどうやってるんだろう) 玩具で私を操作するには、こっちも対応してないと無理だよね。今まであまり考えたことなかったけど……。確かフィギュアクリームにはナノマシンが一杯入ってるんだっけ。ひょっとしたらそれで……。 (……あ、あれ? ひょっとして、クリームにプログラムをインストールするって……ありえる?) 心臓が鼓動を早めた。嫌な可能性に辿り着いちゃった。どうしよう……。いやどうしようもないけど。 (で、でも、人形用のプログラムだなんて……まさか……) ムラサキちゃんの姿が脳裏をよぎる。私と全く同じ質感だった彼女。というか、このクリーム自体、元々人形用だったはず……。 「はいおわりー。もー、クルミちゃんサボってたでしょー」 私にポーズライトが浴びせられ、体が解凍された。私はすぐ台座から降りた。終わり、ってまさか……できたの? 人形のプログラムが私に入っちゃったの? 「さークルミちゃん、お着替えしよー」 「はいっ」 (えっ?) 信じられないことが起こった。娘の問いかけに対し、私は勝手に返事したのだ。思わず両手で口を覆った。気のせいじゃない。今……口が独りでに。 彼女が煌びやかなアイドル衣装を持ってくると、私の体が勝手に動き出し、両手を伸ばしてそれを受け取った。 (ま、待って! 何やってるの私?) その上、いそいそと白ワンピを脱ぎだしたのだ。必死に止めようとしたが、体が言うことを聞かない。あっという間に全裸になり、光沢のある樹脂肌が露わとなった。 「ほらー! 人形じゃーん」 体毛も乳首も性器もないボディを見て、娘はどや顔で叫んだ。 「だからっ、これはクリームを塗ってて……と、止めてよ! 勝手に人の体を操作しないで!」 「もー、照れちゃってー」 「あ……あ……」 彼女は両手を頬に添えて私を見下ろしていた。タブレットで操作しているわけではないらしい。じゃ、じゃあ何で……私はアイドル衣装を着てるの!? 答えは明白だった。人形用のプログラムがインストールされてしまい、持ち主である彼女の命令に従わされているのだ。 「そんな……うそ……」 髪をツインテールに束ね、手袋とブーツも装着し、私のコスプレは完成した。この衣装はリアルのものじゃない。きっとアニメキャラの服だ。 「かわいーいー」 私はムラサキちゃんと一緒に並べられ、可愛らしいポーズをとるように命令された。私もムラサキちゃんも、言われるがままにあざといポージングを幾度も披露させられた。必死で体を奪い返そうと奮闘しているのに、ちっともいうことをきいてくれない。動きを遅くすることさえ困難だった。 「お願いだからやめて! 私は人形じゃないの!」 いくら叫んでも無駄だった。笑顔で言われるがままに踊りながらそんなことを言っても、それこそ照れ隠しにしか聞こえないのだろう。 (ちょっと、冗談でしょ。私、まさかこのままずっと、この子の操り人形なの!?) 屈辱的な踊り子を一時間ほど務めた後、母親が子供部屋に来た。夕飯ができたらしい。このチャンスを逃すわけにはいかない。 「はーい」 娘がテクテクと私から離れていった。今だ。私も走って後を追った。 「あの、お母さん、娘さんが」 「あら? あなた、ごはん要らないんじゃ」 「え、あ、はあ、そうですけど」 「じゃあ、ここで待ってなさいね。あ、危ないからこの部屋からは出ちゃダメよ」 「はい」 (あっ、待って、違います、ごはんの話じゃなくって……) 私はそれ以上歩を進めることができなくなり、その場で腰を捻ることしかできなくなった。母親の命令も有効らしい。 「私のプログラ……」 言い終わるより先に母子は部屋を出ていき、ドアを閉めた。そんな……。後を追おうとしたけど、足が動いてくれない。前には歩こうとすると動かない。進めるのは後ろだけだ。仕方がなく、私はまたムラサキちゃんのところまで戻って、そこで待機することにした。 「はあ……」 父親の帰宅したらしい声が下から聞こえてくる。挨拶しなくちゃ……と思ったけど、こっちからは伺えなくされちゃっていることを思い出し、気が滅入った。失礼な奴だと思われたらやだな……。あの子が悪いのに。 娘が戻ってきてからずっと、ママゴトを演じさせられる傍ら、プログラムを止めるよう再三求めた。しかしこれが失敗だった。彼女をイライラさせてしまったらしく、とうとう 「もう! それ禁止!」 「はい……えっ」 「クルミちゃんはお人形でしょ! いい加減うざいの! 人間っていうのやめて!」 「はいっ……あっ、そんな! 私は人形なの! 人形じゃ……」 やばっ……。うそ。こんなことになるなんて……。今、私は確かに人間だと言ったつもりだったのに、勝手に矯正されてしまった。まずい。謝らなくちゃ……。 「ご、ごめんね、わかった、わか」 「お喋りも禁止!」 「……っ!!」 (そんな! 酷い!) 私は抗議しようと何度も口を開いたけど、魚みたいにパクパクさせることしかできず、一言も喋ることができなかった。 「いつまで遊んでるの、もう寝なさい」 「はーい」 母親が来た。チャンス。駆け寄ろうとした瞬間、ポーズライトが私たちに降り注いだ。 (ああっ……!) ダメ。ピクリとも動けない。娘は固まった私とムラサキちゃんを抱えて、玩具箱に投げ入れた。私は体のあちこちをぶつけながら沈み、声にならない呻きを上げた。 (痛いっ……あうっ……っ……) 部屋の明かりが落ち、真っ暗になった。次第にぼんやりと見えるようになったけど、視界にあるのは玩具箱の壁だけだ。 (出して! ここから出して! 私は人形じゃないの! 人間なの!) 必死に動こうとあがいた。でも固められた瞬間のポーズと表情のまま、何一つ自由にならない。自然と涙が流れる。何で……何でこんな酷い目に遭わなくっちゃいけないの。私が何したっていうの……。こんな扱い、あんまりだ。同じ人間なのに、自由を全て奪われて、玩具箱の中に閉じ込められるだなんて。玩具……。私、本当に子供の玩具じゃん。来るんじゃなかった、こんな家。 目が覚めると、朝……いや、昼……かな。わからない。相変わらず玩具箱の壁だけ。昨日と全く同じ状態のまま、私は一ミリも動けない。誰かがポーズを解除してくれないとずっとこのままだ。 (誰か……誰かぁ!) 掃除機の音が聞こえる。母親だ。娘はいないのかな。幼稚園か何かか。 母親は子供部屋の床に掃除機をかけるだけで、私に何の挨拶もせずに出ていってしまった。信じられない……。自分が昨日引き取ってきた人の様子を確認もしないなんて。まさか、彼女も人形をもらってきただなんて勘違いしてるわけ? あり得ない。 (ちょっと……んんっ……こんなの、もう犯罪ですよ! 訴えますよ!) 思いつく限りの罵倒を脳内で投げかけた後、実際にそうすればいいことに気がついた。 (そっ、そうだよ。出ていけばいいじゃん、こんな家) でも、一つ問題がある。体が動かない。 (どうしよう……) 午後になり、娘が出先から帰ってくると、ようやく玩具箱から取り出された。ポーズライトを浴び、体が動くようになったものの、私はボーっと突っ立ったまま悩んだ。昨日の命令がまだ続いていて、私は声が出ないのだ。これでは母親や父親に窮状を訴えることができない。十六センチじゃ筆記も難しいし……。この家にはパソコンもないらしい。タブレットの静電式タッチパネルは、今の私の体じゃ反応しない。本当にどうしよう。こっそり逃げ出すしかないのかな……。 「これ着て!」 「はい」 私は魔法少女衣装に着替えだした。本当になんでも言うこと聞いちゃうんだな。これでどうやって逃げ出そう……。常に娘が見ているし、「片付け」られたら動けない……。 「おやつよー」「はーい」 娘が部屋から出ていった。私を固めずに。千載一遇のチャンス。私は足音が一階にいくまで待って、ドアに向かって駆け出した。なんとあの子、ドアを閉めていない。今ならいける。 しかし、ドアを目前にして、突然足が止まってしまった。 (な、なんで……どうして) 一家は下にいる。何も命令なんてされてない。「プリガーごっこしろ」以外は……。あっ。 (まさか……まさか、昨日の……) 母親が出した命令。危ないから子供部屋から出ないように、確か言ってた気がする。あれがまだ有効なの!? (どどどどうしよう!?) 私はパニックになった。子供部屋から出られないんじゃ、逃げることは不可能だ。じゃあどうすればいいの。大声……出せない。喋れない。筆記も……無理。外部と連絡取れそうなものは、この部屋にはない。あっても、タッチ操作だと使えない……。 (えっ……まさか、コレって……) 詰み? どうしようも……ないの? 絶望が私を支配した。嘘……嘘でしょ。これから一生、ずっと……この家で、あの子の玩具にされるっていうの? もう、その運命から逃げる手段はないの!? 地獄の日々が続いた。徹底した人形扱い。毎日、こっぱずかしい衣装を着せられ、ごっこ遊びをさせられた。ただ固められるよりも屈辱だったかもしれない。何しろ、私の体が独りでに動いてあざといお喋りや動作をやってしまうので、まるで自分が自発的にやっているかのような錯覚を覚えてしまうのだ。 (ち、違う。私がやってるんじゃないの。命令してるのはこの子。私じゃない……) もはや誰に向けているのかもわからない言い訳を、毎日自分自身に言い聞かせた。 夜は固められて玩具箱に投棄される。「お片付けできて偉いねー」などと母親が言うたびに、殺意を抑えられなかった。私は玩具じゃない。片付けていい物じゃない! ある日、私は娘が母親に恐ろしい相談をしているのを聞いてしまった。 「お母さーん、あたしね、もう一人欲しいよー」 「またー? 飽きっぽすぎるわよ。二個あれば十分でしょ。もっと大事になさい」 「やだー。今度のプリガー三人なのー」 (……酷い。私じゃ不満だっていうの? 本物の人間が玩具になってあげてるっていうのに……) いや、待って。今二人って……。ああ、ムラサキちゃんのことだ。改めて、自分が本物の人形と同列の存在として扱われていることを……。本物の人形……。 私は心底恐ろしい可能性に気づいてしまった。ずっと本物の人形だとばかり思っていたムラサキちゃん。ひょっとして……ひょっとすると……私と同じで、人間だったりして……? いや、ない。それはない。だって、だってそんなの……怖すぎるよぅ……。 娘がお風呂に入っている間に、私は初めてムラサキちゃんに語りかけた。いや喋れないからちょっと違うけど。 (あ……あのー……) 周りをウロウロしてみたり、ジェスチャーで意思疎通を図ろうとしてみたりしたけど、彼女はうんともすんとも言わない。ずっと動かない。 (やっぱり、本物の人形なのかな……?) しかし、一度抱いた疑念はどうしても消えなかった。同じスケールと質感。十分の一サイズに縮んだ人形病患者にクリームを塗れば、まさしくこんな感じになるだろう。私と全く同じだもん。でも、生きているとしたらどうして動かないのだろう。ポーズ状態でなければ、動けるはず。やっぱり人形……。 脳裏に、数々の理不尽な命令がフラッシュバックした。もし……もしも、何かの拍子であの子に「動いちゃダメ!」とか言われたりしたんだったら……? ムラサキちゃんは何も言わなかった。ただジッと、虚空の一点を見つめ続けている。 季節が二回変わったころ、いよいよ「三人目」がやってきた。生きてる。動いてる。人間だ……。質感はフィギュアだけど、あの施設から引き取られた人間に違いない。 私とムラサキちゃんはポーズ状態で三人目の前に並べて置かれた。私がこの地獄にやってきた、あの日のように。 「はい、挨拶してー」 三人目はわりと気さくな人らしく、挨拶に応じた。 「緑川です。どうかよろしくね」 その顔は、明らかに私たちを人間だと思っていないことを物語っていた。「子供の遊びにつきあって、お人形に挨拶してあげてる」という意識でいることが……。動かない瞳で、私は必死に訴えかけた。 (ダメ……ダメよ。この家はまずいの。逃げて……早く逃げて!) 3.元カレ 私は元カレの申し出を受けることにした。色々と気まずいけど、縮む以前の顔見知りなら、きっとそんな酷いことにはならないはずだ。 数日後、私は施設を去った。結局、髪は金髪のまま元に戻せなかったけど、後で何とかしてもらおう。 「うわ……あんた、相変わらずね……」 1LDKの狭い部屋は、ゴミとガラクタの海で、足の踏み場もない。本人曰くゴミじゃないらしいが、私にはさっぱり。 「いいだろ別に」 私は机の上に置かれた。机もゴチャゴチャしているが、強引に作った空きスペースに二つ折りのタオルが敷いてある。……もうちょっと何とかならなかったわけ? と言いたかったが、飲み込んだ。世話してもらう立場だし、偉そうなことは言えない。タオルの上に寝っ転がると、彼が尋ねた。 「平気?」 「ん。まあ、いいんじゃないの」 「そっか。よかった」 沈黙。別れてから五年ぐらいか。こいつは順調にやっているぽいのに、私はおかしな病気にかかって、キャリア……いや人生ドロップアウト組。差がついちゃったな。胸がチクリと痛む。机の脇にあるフィギュアが目に留まった。……まさか、追い抜かれるどころか、こいつのフィギュアになる日が来るとはね。 「……なんで引き取ったの?」 「いや、施設追い出されるって聞いてさ」 「はぁ?」 何で部外者のコイツがそんなこと知ってるわけ? 大体、私があの施設にいたことだって、コイツ知らないはずなのに……。 「うちがあそこのシステム一部やっててさ。あの日仕事で行ったんだ。ついでに見物していこうかって思ったらお前いたから、ビックリしたよ」 「へー」 なんだ。偶然か。……けど、何で私はそれを残念に感じてるんだろう。 「誰から聞いたの? 私が追い出されるって」 「庭瀬さんだよ。……知ってる?」 「知らない」 会ったことない。直接私たちの面倒みてた人ではない。裏方の人か。いや、世間的には、むしろ施設の表の人なんだろうな。 また会話が途切れた。彼はパソコンで何か作業を始めたので、邪魔しちゃ悪いかと思い、私はだまってタオルに寝転がっていた。 私は女性のがなり声で目を覚ました。いつの間にか寝ちゃってたらしい。起き上がると、知らない女性が部屋にいた。こっちを一瞥し、また怒りだした。 「信じらんない! あんた何考えてんの!? 犬拾ったのとは違うのよ!」 変な時間に寝てしまったので、頭が鈍い。ちょっと時間がかかってしまったが、どうやらこの女性は彼の現彼女らしいことは把握できた。……え! 彼女いたの!? それで私引き取ったの!? ……そりゃ不味いよ。彼女さんが怒るの超わかる。段々胸が痛くなってきた。いたたまれない。私がいなければこの喧嘩は起きなかったのに……。 「いやっ、でも……。なんか、いじめられてたみたいでさ。追い出されるかもしれなかったんだ……」 「はあぁぁ!? そんなのこの子の勝手でしょ! 私たち関係ないじゃない!」 悪口聞いてたんだ。……やっぱり、同情で引き取ったんだ。 彼女は私が起きたことに気づいて、こっちに顔を向けた。めっちゃ怒ってる。全身から嫌な汗が出る感触があった。生きた心地がしない。到底太刀打ちできない巨人から敵意を向けられることがこんなにも恐ろしいなんて。 彼女さんは私には何も言わなかったが、敵愾心だけは痛いほど伝わってきた。気持ちがわかるだけに本当に申し訳なくって、私も何も言えず、縮こまっていることしかできなかった。 彼女さんが帰った後、私は彼に言った。 「あんた、馬鹿?」 彼はため息をつき、頷いた。 「……ああ」 「いいのよ。別に。私、出ていくから」 「でも、いくアテないんだろ?」 「……」 そりゃそうだけど。でも、無理だって。私完全に邪魔だもん。 「いいから。ここにいろよ。あっちは何とかするから」 そういえば昔もあったなぁ、こんなこと。彼が部室に拾った捨て犬連れてきて大騒動になったっけ。 (変わってないなぁ) ちょっと思い出し笑いが漏れた。それを納得と勘違いしたのか、彼は安堵の表情を浮かべて廊下に出ていった。 彼女さんは私に対する嫌がらせを始めた。ダボダボのワンピースじゃ可哀想でしょう、と言って、彼の留守中に大きな機械をこの家に持ち込んだ。この中に人形を入れると、ピッタリフィットする寸法の服を自動生成してくれるとか何とか……。最初は嫌がらせだと気づかず、普通に受けてしまった。中に入って入り口が閉じると、四方八方のノズルからカラフルな気体が噴射され、私の体を覆いった。霧は私の体に張り付いていき、一ミリの隙間も生まれないほどに密着した、ジャストサイズの衣装が形成された。こんな技術があったんだ。すごい。 機械から出ると、彼女さんはわざとらしく私を褒めた。 「あはっ、とってもお似合いですよー、かわいいーっ」 ただ一つ問題があるとすれば、この衣装が魔法少女コスだということ。それも、あの日私が着ていた、最新のプリガーの衣装そのもの。いや、あれよりもっと出来がいい。私の体にジャストフィットしている上、布ではなく樹脂みたいな質感だからだ。私のクリーム肌とよく調和していて、正真正銘のプリガーフィギュアだった。 「……あ、あの……服を作ってくれたのは大変嬉しいんですけど、その……」 彼女さんはわざとらしく説明書をとりだし、言った。 「あ~っ、ごめんなさーい。これ、脱げないって書いてありますー。ごめんなさいねー」 「……えっ」 私は急いで衣装を脱ごうと試みた。肌と服の間には寸分の空間もなく、完璧に張り付いていた。最初からこういう形で成型されたフィギュアのように。脱げない。服を着ているというより、体が拡張した、或いは体に印刷されたといった印象。フリッフリの服、大きなリボンで結われたツインテール、キラキラ輝くティアラ、ブーツ、手袋……。その全てが私の体と一体化してしまって、どんなに頑張っても脱げなかった。 (そ、そんな……) 彼女さんは言葉の上ではすまなそうにしていたが、勝ち誇った表情で私を見下していた。……別にこんなことしなくっても、彼をとったりなんかしないっつーの! と叫びたかったけど、二人の関係にヒビを入れたくなかったので、黙っていた。 彼が帰ってくると、爆笑された。さらに、彼の調べでこれを脱ぐことは至難の業であることも判明し、私はこれからずっとプリガーフィギュアとして生きていかなければならなくなったことがわかった。……これじゃあ二度と表に出られない。くっそー。 彼女さんは家に来るたび、私をポーズライトで固めてしまうようになった。邪魔なのはわかるけど、わざわざそんなことまでしなくても……。自分から引っ込むのに。彼もやりすぎだと言って叱り、二人の関係は大分ギスギスしてきた。あああ……。私のせいだ。私が引き取られなければ……。胃が痛い。カチコチの私は二人の喧嘩を黙って眺めていることしかできず、一層無力感が募った。自分で新しい引き取られ先を探すべきだ。と言っても、この格好じゃ……。彼女さんが余計な嫌がらせをしなければ……。 私が来てから二か月後。とうとう二人は別れてしまった。ある日顔を赤らめて帰ってきた彼から聞いた。 「……ごめんね」 「あ? なんで?」 「私がこの家来ちゃったから……」 「あー、それな……」 彼はゲラゲラ笑った。否定してくれないんだ。傷つくよ……。 「あいつ、お前来る前から二股かけてたの」 「え?」 「だから、気にすんなって」 嘘だ。でも私はついに「嘘なんでしょ?」と訊けずに終わった。ずるい女だな私……。 彼女さんと別れてから、より一層部屋の荒廃が悪化した。掃除してあげたいけど、十六センチでは無理だ。つくづく、自分が情けない。こんな何もできない女のために、迷惑ばかりかけちゃって。あーあ……。何か恩返しはできないかな……。 色々考えた末、最後の貯金をはたき、彼にメイドロボットを一体プレゼントすることにした。これで本当に残高はゼロだ。もう私には何も残らない。でも別にいい。 一週間後、住人が増えた。金髪のメイドロボ。家が狭いので、小柄なタイプにした。身長は百四十五センチ。顔もそれに合わせて幼さが残るタイプ。旧型の処分セールで一番安かった。彼はそんなことしなくていいのに……とちょっと無念そうだったけど、メイドロボが部屋を片付けてくれるとすぐに手のひらを返し「お前最高だぜ!」と言い出した。単純な人。 この家に来てから半年が過ぎた頃。彼はプレゼントがある、と言って夜中に私を叩き起こした。 「何? 何なの? なんで今?」 「今できたからだよ」 「乗って、乗って」 彼は白い円形の台座をタオルの脇に置いた。フィギュアの台座によく似てる。 「何これ?」 「プレゼントのインストール用」 「?」 寝ぼけ眼でフラフラと台座の上に座り、何かが起きるのを待った。……が、何も起こらない。 「ねえ、寝ていい?」 「ダメダメ。もうちょい……よーし」 彼は私から顔を逸らし、パソコンの方を向いた。……あほらし。寝よ……。 うつ伏せにタオルに倒れ込んだ瞬間だった。突然、世界が真っ暗になって、体の感覚がなくなった。 (ん? え?) ポーズ……じゃない。動けないとかじゃなく、感覚そのものがない。体がない。 (え? 何? ……死んだ?) その後、視界が戻った。だけど、視界にあるのは洗濯機。……あれ? 私机にいたはずだけど……。徐々に体の感覚も蘇ってきた。私は両脚を閉じて、スカートの前で両手を重ねたまま固まっているようだ。 (ちょっと! 何をしたの?) 声が出ない。しばらくすると、体が動かせるようになった。でも、何かがおかしい。感覚が変。違和感がヤバい。ていうか、ここは本当にどこ? あたりを見回すと、洗濯機、風呂、洗面台……。なんだ、廊下か。いつの間に……。ブラックアウトしてる間に運んだの? 何がプレゼント? 「じゃーん! どう? 違和感ない?」 彼が部屋から飛び出してきた。 「なんか、体が変……ん?」 目線がおかしい。彼の胸元まである。床に立っているのに。目の前の彼と、そう目線が変わらない。彼が私の手を握った。私の手は真っ白。手袋だ。でも変だな。ハートの意匠がない。シンプルな白手袋。顔を下に向けると、やや膨らんだスカートが目に入った。白いエプロン……。あれ? ピンクじゃない? これって……。 「いやー、よかった! 大成功! 俺天才!」 私は急いで洗面台の鏡を見た。そこに映っていたのは、私が買ったメイドロボ。幼い顔と金髪の髪。そして……百四十五センチの体! 「ーっ!」 涙が溢れる感触があったけど、涙は流れなかった。思わず彼に抱き着き、その胸に顔を埋め、嗚咽しながら何度もお礼を言った。彼はそっと私を抱き返し、優しく頭を撫でてくれた。 落ち着いてから部屋に戻ると、「私」がタオルに転がっている。ちっちゃな十六センチの私。タオルに倒れ込んだまま動かないけど、顔のあたりはタオルが濡れていた。 それからというもの、私の生活は大きく変わった。メイドロボの体を使えるようになったので、私が自分の手で部屋の掃除をしてあげたり、料理を作ってあげたりできた。休日には一緒に出掛けることも。とはいえ、メイドロボのメイド服は脱げないから、私はメイド服で外に出ることになる。これは結構恥ずかしかった。 「ねー、コート着ちゃダメ?」 「メイドロボにコート着せてたら変に思われるじゃん。それに、周りはみんなメイドロボだと思ってるから平気だって」 「それはそれでどーなの……」 彼と腕組みしながら歩いていると、心から幸せな気持ちになれる。よかった。この人を信じて。 人と同じ目線でいられる幸福。当たり前のことが、今日も私を満たしてくれる。

Comments

sengen

誰も彼も酷い人達ばかりで結構辛い内容ではありましたが、3番目のルートで元カレとの幸せを掴むところが見れて良かったです。今回は複数のルートを書かれていて、3つもエンドを楽しむことができました。ルート分岐は選択次第でどんなことが待ち構えているかドキドキさせられますね。 1番目のルートでは疑似的な少女化になるんでしょうか、どんどん可愛いくされ、居住もリアルに精巧に作られていて、常に気をかけてくれて、安全な生活が保証され、人形にとっては天国のようだけど、本人の意思だけが人間として大人として受け入れることができないのが哀しいですね。不満や嫌悪を抱くほど状況が悪化していくのは施設の時から引き続きで、互いの想いのすれ違いに虚しさがあります。 2番目のルートでは、人形だと思っていたものが実は自分以外の犠牲者かもしれない可能性が出てきて、ずっと警告したり助けを求めていたかもとか、自身も同じ道を辿っていることになるとか想像できて、自分の中ではとても盛り上がりました。3人目も同じく犠牲となるのか助けとなるのか、脱出できるのか永遠に人形のままか、色んな可能性が考えられて面白いです。 3番目のルートでは、ロリ体型ロボットだけど人間サイズでの活動も可能となり、体の悩みは残るけど幸せな様子に安心できました。人格を転移させちゃうとか、2つの体を持つとか、ロリロボットは仮初の姿で本来の肉体は無事にあるけど人形同然という状況は面白いなと思いました。

いちだ

三種類とも楽しませていただきました。個人的にはドールハウスが一番気に入りました。家から出られない、見られたら動けなくなるという限定された自由に悲哀を感じました。 あとは元彼ルート。このメイドロボって実は……とか妄想が膨らみました。

Anonymous

2番目のムラサキちゃんも元人間だったのでは?!ルート、めちゃくちゃよかったです!  母親が縮小人間を全く人間扱いしていないところと、小さくなった自分が人形扱いしていた相手が実は人間だった→次は自分が人形として縮小人間から扱われるところがめっちゃ萌えでした。人形に混ぜられて遊ばれるの興奮しますね。

opq

感想ありがとうございます。どのルートも楽しんで頂けたようで何よりです。ハッピーエンド好きな方とバッドエンド好きな方がいるので、こういうのもアリかなと思っています。

opq

いつもコメントを下さりありがとうございます。ちょっとだけ仮初の自由がある、というのは好きなシチュエーションなので、気に入っていただけると嬉しいですね。

opq

称賛どうもありがとうございます。本物の人形と一緒くたにされて、よくわからなくされるのいいですよね。