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 ※お知らせ。今作は予想以上に書くことが増えたので前後編になります。後編は来月投稿します。お知らせが遅れて申し訳ありません。


スマホをオフにすると冴えない男が映っていた。おれだ。

 とっくにまともな社会人は出社している時間だというのにおれはスマホのデイリーをこなしつつ布団の中でごろごろしていた。

 最近頑張ってるし今日はお休みの日!と昨夜から決めていたしこのまま二度寝をしたっていいところ。

 それでもおれの腹はくうくうと鳴く。昨晩は食いすぎて胃がもたれるレベルで食べたのにこの腹の減りよう。最近の食事がボリュームありすぎて胃が調教、いや拡張されたのかもしれない。

 

 このお腹に見合うのは菓子パンをもそもそ食べることじゃなくって愛情のこもった朝定食だ。目玉焼きとパンとコーヒーではなく、白米、味噌汁、卵焼き、ほうれん草のおひたし。これだけでいい。

 自分では絶対に面倒くさくて作ってくれる恋人もいなくて。思い浮かべて涎を貯める。そして現実は非常なりと諦めてカチカチのパンをコーヒーで流し込む。それがおれの朝。

 

「リュウくん、ご飯できたで~~。寝てばっかやとあかんよ」


 しかし!今のおれにはいるのだ。

 毎日ご飯を作ってくれて掃除洗濯もしてくれてその他の家事もしてくれて朝は優しく起こしてくれて――

 

「ほれほれ。リュウくんのリクエストの裸エプロンやで裸エプロン!どや!見てみ!」


 しかも裸エプロンになってくれる筋肉むちむちの虎おっさんがいるのだ!

 

「ギリギリはみ出そうっちゅうかほとんどはみ出とるよな、これ。こんなんおっちゃんに着せるなんていけない子やな~~」


 ボリュームたっぷりの肉厚な身体。その程度では物足りないぐらい目の前の虎はばかでかく肉々しい。丸々と実った腕の筋肉やおれの腰より太そうな脚の肉。筋肉の量感が全身から漲っているというのに身体の起伏はゆるやかなものに感じられる。

 大胸筋はピンク色のエプロンでは拘束しきれないくらいに突き出していて、下着すらはいていない尻肉はスイカを二つ並べたようなデカケツである。にもかかわらずおとなしく見えるのは身体全体が豊満な肉に覆われているからである。

 おれの眼前でくるっと回ってエプロンのすそをヒラヒラさせると肉がむちむちっと淫音を響かせそうだ。

 

「どや?おっちゃんの朝ごはん食べたくなったか?起きたくなったか?」


 おれのちんぽは完全に起きているが、あくまで平静を保ちつつせんべい布団から起き上がる。

 ヤマトさんにばれたら全力で――朝メシを食っている間もからかわれるに決まっているからだ。オレンジの黒のデカケツを上機嫌に振って、エプロンの上からでもサイズが分かるような巨根をぶらぶらさせるようなド変態な恰好をしているくせに。

 

 いそいそとテーブルに朝食を並べるヤマトさんはやはりエロい。ピンク色の腰ひもが太い腹回りにきゅっと食い込んでいるのもエロいし、裾で太ももがわずかに隠れているのもか半身丸出しにしているよりも扇情的だ。こんな恰好でおれを挑発しておいて、いざ勃起していると分かったら肉救付きの手で撫でながら「朝から元気やなぁ❤リュウくん、昨日もいっぱい出したんに精剛さんなんやなぁ❤❤」とかなんとかいじってくる。おれには分かる。

 

「なんやリュウくんは尻派なんか?パイズリとか授乳手コキとか好きやしおっぱい派やと思っとったわ」


 などと怒りと性欲を燃やしているとデカケツをだぷんっと揺らしてヤマトさんが意地の悪い笑みを浮かべた。

 なんで後ろからの視線に分かるんだ。

 

「女の子ってそういう視線って大体分かるんやで?分からんと思っとるんは男だけや」

「ヤマトさんとか女の子から一番遠い生き物でしょ!」

「失礼やな!童貞から薄汚い性欲を向けられとるんは同じやろ!」


 そういうとエプロンの裾を持ち上げて亀頭が見える寸前までめくってみせる。ギリギリのラインを攻めるような挑発行為におれの視線は釘付けとなり、みっちりと肉の詰まった太ももの内輪差とか先っちょだけ見えるちんぽとかに心が踊る。

 チラリズム。ミニスカートとかをはいている女子がやるような業をいかつくて雄臭いおっさんが使いこなしている。

 

「ほれほれっ!見たいんやろ?でもあかんで!エッチな子には見せたらんで!」

「くっ……!」


 がくり、と膝をついて項垂れる。

 悔しくて殺せ!と言っちゃいそうだがおれの視線は欲望に忠実で、上から下まで這いまわっていた。ついでにす、すすすとにじり寄りつつエプロンの向こう側を下から拝んでやらんとする。

 が、すかさずエプロンを手で抑えて絶対領域の中を隠しやがる。その手をどけろ!そんなことをしたらちんぽがエプロンをこんもりとさせて余計にいやらしいぞエロ中年!


「おーっと、あかん。あかんで!そんな恥ずかしいとこ見られたらおっちゃん生きていけんっ!」

「会ったその日にケツの穴見せてきた人がなにほざいてんですか!手で抑えるな!」

「おっちゃんが見せるんはエエけどリュウくんが勝手に見るんはダメや!ダブル童貞クンにはそんな権利は無いっ!」

「言っちゃいけない言葉があるだろおおおっ!」


 ダブル童貞!

 心を抉る鋭利な言葉のナイフ。

 事実ゆえに効果的にダメージを与える罵倒。おれが致命的な一撃を喰らってのたうちまわっていると、その隙におれの腰を抱きかかえるように抑え込まれてしまう。ちょうど、ヤマトさんの顔がおれの股間あたりに乗っかるような体勢だ。

 

 ぐりぐりと勃起が作ってしまった膨らみに黒い鼻を押し付けつつ、追い打ちの罵倒を叩きつけてくる。

 

「ほれー、もう勃起しとるし!朝っぱらからこんなにちんぽギンギンにしてどないすんねん。もうすぐ重度の童貞のまま三十路になるっちゅうのに」

「年齢の話はやめろ!反論できないし心に響くからぁ!」

「これはおっちゃんが指摘したらんとあかんことや!こんなおっちゃんに裸エプロン着てほしー、とか網タイツはいて欲しーとか言うてる場合ちゃうで!」

 

 おれがお願いするたびにノリノリで着たのはあんただろうがああああぁっ!コスプレ衣装やエロ下着大量に持ち込んで資料のために撮ってくれへん?だのリュウくんはTバックとケツワレどっちがええ?だのおれの前ではいてみせたのはあんただろ!

 人の性癖を歪めておいてこの仕打ち。悪魔だ。おれはあの日悪魔と契約してしまったんだ。鬼編集に毎日いじめられたかと思えば次は悪魔に誘惑されてしまうなんてこの世に神はいないのか。

 

「いやー、おっちゃんのせいやなくてリュウくんは元々ド変態のエロ中年やろ。裸エプロンとかリュウくんの歳でリクエストすんのはやばいで」

「いやっ!これは作品のために資料を集めようと――んっ!?」

「こーんなちんぽしてなに言うとんの❤❤朝ご飯前にこんなちんぽしとったらあかんやろ~~❤」


 ぐい、と鼻先が強く押し込まれて恥ずかしい悲鳴が出た。ぐりぐりと淡い圧力をかけられ続けたちんぽはパジャマを押し上げるほどにガチガチに硬くなり、無駄にでかい未使用ちんぽはヤマトさんの鼻づらを押しのけようとしていた。

 それを𠮟りつけるような、褒めそやすような口調のままヤマトさんは布地ごしに頬を擦り付ける。快活で豪快で、世話焼きの虎の顔は投げ捨ててうっとりとした雌としてちんぽに媚びていた。

 

「あっ!ヤマトさん、ちょ……」

「次に書くんはお目覚めフェラのシーンやったっけ❤したらおっちゃんで経験しとこか❤❤ちょーっち遅いけどええやろ❤」


 パジャマが止める暇もなくずり降ろされた。

 勃起ちんぽの形を浮きだたせるボクサーパンツが露呈させられても、それを止める気は無かった。

 ヤマトさんの手にかかれば常識も羞恥心もすぐに溶かされてしまって、劣情に脳みそを埋め尽くされる。

 我慢汁のシミを作った股間は酷い匂いがするはずなのだが、ヤマトさんは躊躇いもなく顔を突っ込んでふごふほと鼻を鳴らし、顔を擦り付ける。下着ごしに口づけられると声が漏れそうになる。

 

「おっ❤声我慢で偉いなぁ❤❤童貞ちんぽ我慢強うなったなぁ❤」


 言いながらヤマトさんは口で咥えた下着をずり降ろす。

 サイズだけは無駄に立派な童貞ちんぽがブルンッ!と音を立てて跳ねるといかつい虎の顔を打った。

 

「うっほおぉ❤❤またデカかくなったんちゃう❤エロ漫画でもなかなかお目にかかれんサイズやで❤❤無駄に立派なんに使っとらんてもったいないなぁ❤」

「う、ううぅ……」

「ええね❤リュウくんぐらいの歳ならそないに恥ずかしゅうしとった方が可愛いで❤❤おっちゃんもアガってきてまうわ❤」


 巨漢の虎が頬ずりして、粘液を顔へ擦り付けるそれはへそにまで届く長さとそれに見合った太さを誇示にしていた。

 肉球のついた手で握られる感触が心地よく、我慢汁は遠慮なく吐き出されてはふわふわの頬毛を汚す。

 ヤマトさんは我慢汁を鼻につけることを厭わずに鼻先を寄せ、すんすんと匂いを嗅ぎまわる。つう、と鼻先でなぞりながら降りていくのはちんぽの根本。金玉袋へと顔を突っ込んで匂いを吸い込まれると虎の髭が内腿をひっかいてむず痒い。しかしそんな微細な刺激はどうでもよかった。金玉を堪能していた鼻先は、竿から亀頭、陰毛の茂みにまで好き勝手に潜り込んでおれの匂いを堪能している。そのいやらしい光景にちんぽは強く脈打っては興奮を露わにしていた。

 

「ちんぽだけならおっちゃんも負けてまうかもなぁ❤あ~~童貞がこんなちんぽ下げとるなんてもったいないわぁ❤❤」

「だ、だったらヤマトさんにあげてもいいですけ、どおおっ!?」

「そりゃあかんわぁ❤リュウくんの童貞はちゃーんと守れってヤマツグに言われとるからな❤❤」


 べろり、と我慢汁をすくい取るようにして亀頭が舐め上げられた。

 本物のマンコを知らないちんぽには強すぎる、生暖かくて柔らかい舌の刺激。わずかに粘膜をくすぐられただけで情けない声が漏れる。

 たまらずちんぽがしずくが漏れると舌がまたも踊って雄の汁を舐め取って、休みない刺激に太ももが揺れた。

 

「くふ❤❤エロいことばっかり妄想しとる童貞クンのくせにちんぽはホンマ弱いんやなぁ❤そんなんでようハードな凌辱なんて書けるなぁ❤」

「そ、それは今関係無いでしょ、ううぅぅ!」

「エロいモン書くならちんぽ強くならんとアカンからな❤❤おっちゃんにしゃぶられてもすぐイったらアカンで❤」


 そして、舌先はカウパー線液を舐めるだけでは飽き足らずちんぽをいっそう貪欲に舐め始める。ざらついた舌で、劣情により熱く滾った肉の槍を磨くように上から下へ。

 かと思えば汗で蒸れた金玉をしゃぶるように舌で転がし始める。

 

「く、おぉ!ヤマト、さ……」

「ん~~❤まだ始まったばっかやで❤❤」


 金玉を舌の上で転がしていた口が、竿を滑りながら遡上していき亀頭へと口づける。ちゅ、ちゅとバードキスを繰り返した後に、すぼめた口先へといちんぽを導いていく。

 

「あ、ああぁ……!」


 オナホなんかよりずっと気持ちがいい粘膜の感触。

 ヤマトさんによって何度も射精へ導かれてきたが、口内粘膜の心地よさは慣れることがなかった。

 おれよりずっと年上で、逞しくって豪快な雄がおれの汚らしいちんぽを舐めてくれている。下品な顔で咥えこんでいる。

 おれはその光景と感動を頭のメモに書きつけようとしたけれど、気持ちいいって言葉で頭が支配されていく。

 

「っは❤うぉ❤❤じゅるっ❤ずぞぉぉ❤んっじゅぅ❤❤あ~❤顎つかれてまうわこんなちんぽ❤❤っぷぅ❤」


 おれの脚をがっちりと抑え込んだまま、裸エプロンの虎が文句をつけてくる。口が疲れるなんてすぐに分かる嘘を吐くんじゃない。

 喉奥までやすやす届くちんぽをずっぽりと咥えこみ、ひょっとこみたいなツラになって吸い上げたり、引き抜いたかと思うとまた根本まで飲み込んだりと浅ましくちんぽへしゃぶりついていた。

 快楽に腰を動かそうとしても無駄だ。

 比べればおれの腕が細枝のように思えてしまう剛腕がおれを押さえつけて、ぐにぐにと弾力ある乳肉で脚を押し潰してくる。

 身体を擦り付けて。

 頬を擦り付けて。

 媚びて甘えながらちんぽをしゃぶるヤマトさんの痴態に耐え兼ねてオレンジと黒の頭を鷲掴んだ。

 

「んぶっ❤❤ぢゅるるぅ❤ん~~❤」


 ヤマトさんを静止しようとしたのか、それとももっと強く吸えと催促したかったのかは自分でも分からない。けれどこの行為はヤマトさんのお気に召したようで喉を鳴らしながら流し目を向けてくる。

 喉奥で亀頭を締め付けたまま、舌を絡みつかせ、唾液を飲みほすようにして喉を使う。

 いやらしい水音が鳴り響くたびにただ粘膜で擦るのは違う快感がおれを襲う。甘えた喉を鳴らす音。我慢汁と唾液が混ざったものを飲み干す音。陰毛に鼻先を突っ込んだまま空気を吸い込む音。聴覚からおれは追い詰められていく。

 

「ちゅうぅ❤んふっ❤❤ふごぉ❤ぢゅるるぅ❤❤」


 ペットを褒めるように、ヤマトさんの手がおれの下腹部を撫でまわす。

 加速するストロークの往復。

 亀頭を磨き上げる巧みな舌の動き。

 搾り上げてくる口内粘膜。

 聴覚からおれを煽り立てててから追い打ちのように快感を注ぎ込まれ、すぐに限界へとたどり着く。

 唾液まみれにされた金玉から精液があがってきて、欲望をぶちまけようとちんぽが震える。

 

「ヤマトさ、もうっ!もういくぅ!」

「じゅぞぞぞっ❤❤ンジュルルルッ❤」


 口の中のちんぽがこれまでよりも硬く張りつめて、金玉が根本まで吊り上がる。絶頂までもう間もなくだと察知したヤマトさんは最後の追い込みをかけようといちだんと早く頭を動かして、口から泡立った唾液を散らしながら、激しく淫らな音とともにちんぽをしゃぶり立てる。

 快楽を堪えようと下腹部に力をこめるがむなしい努力だ。唾液の海で翻る舌はちんぽが蕩けそうで、たやすく限界を迎える。

 

「あ、ああっ!いく!ヤマトさんっ!いくううぅぅ!」

「んっむううぅぅぅ❤❤❤」


 その瞬間、ヤマトさんはおれの下腹部を押し込むほどの力で顔を押し付けてきた。滾る亀頭が喉奥を超えて食道までめりこんで、喉にちんぽの形が浮かび上がる。

 それがとどめとなって、喉に密着した鈴口が大きく開き、煮えたぎった精液がぶちまけられた。

 

 

「んぶうぅう゛ぅううぅ❤❤❤んぐ――んぶうぅ――❤❤」


 おれの腰も反射的に跳ねて、ヤマトさんの喉マンコの奥まで掘り進めてしまう。断続的に跳ねるちんぽからは次々と雄汁が注ぎ込まれて喉マンコの壁を打ち据える。

 自分でも驚くような量の精液をヤマトさんは喉を鳴らして飲み込んでいき、溢れかえった精液が通る道を間違えて気道へと逆流してもちんぽを離さずに吸い上げる。

 

「ぶむ゛ぉおぉ❤❤んずっ❤んじゅぅうぅ❤❤ズゾゾゾゾォ❤❤❤」


 気道から逆流した精液は鼻からあふれ出し、男前な顔をザーメンでできた鼻風船で飾り立てる。それだけにとどまらず粘っこい精液が鼻水のように鼻の穴から垂れて、口から逆流して精液が口の端からも垂れ落ちている。

 雄臭くて、でも愛嬌のあった虎の顔が娼婦顔負けの下品で間抜けなザーメン塗れのツラになって。それでもヤマトさんはちんぽを離さず喉を鳴らす。

 

「ん~~っ❤❤じゅ、ぷはあぁぁ❤❤❤」


 やがて、最後のひとしずくまで喉奥に流し込むとヤマトさんは喉奥に突き刺さったままのちんぽをずるりと引きずりだした。鼻からいまだにザーメンを垂らして、顔に陰毛をつけたままのヤマトさんは恍惚とした表情で精液臭い息を吐いた。

 

「んっはああぁ……❤❤イクの我慢せえ言うたやろ~~❤こんなにすぐイくエロ小説の主人公なんかおらんで」

「ぐっ、それはヤマトさんのフェラが上手いかーらーでーすー!なんでそんな上手いんですか!どこで練習してきたんですか!」

「練習なんかせんわ失敬やな!リュウくんとちごて相手に不自由せんから上手くなっただけや!」

「威張ることじゃねえ!このヤリマン!淫売!ちんぽ狂い!」

「おーおー物書きのくせに貧しいポキャブラリィやのう。童貞の言葉責めなんぞなんも心に響かへんわ」


 ふん、と鼻を鳴らしながらもヤマトさんは唇と舌で丁寧にちんぽを掃除していく。絡みついた精液を綺麗に掃除して、舐め取った精液を舌の上でたっぷりと堪能しながら流し込んでいった。

 こんな下品なフェラはエロラブコメのヒロインがやっていいモンじゃないと思うのだが、本当にこの人と同棲をして作品は完成するのだろうか。

 

「大丈夫やろ!リュウくんがやる気出せばパパッと完成してまうわ!」


 たった今罵りあったことも、ちんぽをしゃぶっていたことも忘れたようににかっと笑う。

 それを見た途端に心臓が高鳴って。ああ、この笑顔を見せられたから、この人との同居を受け入れたんだっけ。

 

 

 これはおれとヤマトさんの物語。

 期間限定の同居生活。

 スケベで格好良くって、面倒見がよくって。おれが惚れこんじゃったとある虎おっさんとのエロたっぷりのラブコメ。

 スランプ気味のエロ作家が、作品を完成させるための物語。果たして自分の殻を打ち破って、エロラブコメを書き上げることができるのか?ってお話だ。

 

 最初にネタ晴らしをするとこの物語はハッピーエンドで終わる。

 見事作品は完成したし、エロ小説としては類をみないヒット作品になった。文句のつけようがないハッピーエンド。

 

 もっとも、おれにとってハッピーかどうかはまた別の話だが。

 

 ***

 

 八月某日。

 だいぶ歳をくった雑居ビルの一室でおれは祈りを捧げていた。

 電車で数駅。徒歩で数分。受付についたらペンネームを告げて。やたらとムチムチしていたりピッチリしたスーツで筋肉を包んでいるオスケモたちが表紙を飾るエロノベルの文庫本が置いてある一室に通されてからおおよそ一時間。

 はじめは良かった。最近の新刊のあれが良かったですねなんて世間話で間と繋げていた。いつしか話題は無くなり部屋の中ではイタドリ担当が原稿をめくる音だけが淡々と響いていた。

 はやく終わってくれ。永遠に終わらないでくれ。矛盾した祈りを捧げていると、

 

「はい」


 ひっと悲鳴が漏れそうになった。

 落書きの一つもない無機質な机の表面へ、イタドリ担当が原稿を眺めていたタブレットを置いた。コトリ、と無慈悲な音が響く。ひと昔前は何百枚もの原稿用紙を渡していたのだだろうが今は楽になったもんだ、と現実逃避にどうでもいいことを考えた。

 仕切り板一枚だけで区分けされた打ち合わせ用スペースに、ごくりとおれの唾を飲み込む音だけが浮かんで消えた。

 喉がカラカラのくせに全身は脂汗にまみれていた。ポッドに煎れてくれていた冷たい麦茶はあっという間に空になってしまった。

 何十回も繰り返してきたやり取りとはいえ、この瞬間はどうしても慣れない。帰りたい。

 だがここげ逃げ出してしまってはこの数か月の時間が全て無駄になってしまう。すがるように目の前に座る男前な虎を盗み見る。

 歩くたびに揺れる乳と尻。そしてがちがちに張った太もも。脂肪を削ぎ落して引き絞られた腰。突き出るべきところは突き出て、くびれるべきところはくびれた極上の身体。

 おれみたいな雄獣人を嗜好する者からすればすぐにでも抱き着いてむしゃぶりつきたいスケベな身体をしている。でも、今はイタドリさんの身体で妄想する余裕は無い。

 

 おれの視線を察知していたのか、イタドリ担当は雑誌モデルが務まりそうな端麗な顔で微笑んだ。

 雪の色をした毛皮が冷房でふんわりと揺れる。胸が高鳴る。緊張がほどけていく。これはいけるのか。

 半年ほど続いたチャレンジがついに実るのか!ならば言ってくれ。そしてご褒美をくれ。そのイケメンなツラで媚びてへつらってみせろ!

 眼鏡のフレームを、筋肉によってごつくなった指先が優美に持ち上げる。

 そしてイタドリ担当はいつものようにそのマズルを動かした。

 

「ボツです」

 

 氷タイプが弱点だったら即死してたんじゃないかって冷たい声だった。

 絶対零度。慈悲の欠片も無い死の宣告。さんざん期待させておいての真逆の反応。高鳴った心臓が急停止。頭が真っ白になる。

 

「駄目ですね。売れませんよこんなの」


 そこに追い打ち。再起動しかけていた頭が再起不能。

 あーまたか。仕方がないね。また次の原稿を書かないと!

 

 なんて割り切れるわけねえだろ!全身の骨がぐにゃぐにゃになって脳みそがミキサーにかけられてる気分だ。吐きそう。

 一片の可能性にすがって再確認。


「だめ?ほんとに?」


 もうすぐ三十路になりそうな男には似つかわしくない口調だったが、キモいとは言われなかった。

 代わりににこやかな笑顔でもう一度。

 

「駄目です」

「ほんとぉ?」

「はい。駄目です。ボツ」


 雪色の虎はおれを虜にする笑顔を崩さないままバッサリと切り捨てる。

 

「プロットにはオッケーくれたんじゃか!」

「オーケーを出したプロットと違ってます。ハッピーエンドのはずが凌辱堕ちバッドエンドになってるじゃないですか」

「そっちのがいいでしょ!おれは凌辱したのに最後はなんとなく良い感じに終わるエンドが嫌いなんだ!」

「私はそう思いません。というか、そう思うならプロットを提出する段階で主張してください。書き終えてから言われても時間を無駄にするだけです」


 正論の暴力。

 だが、暴力じゃ何も解決しないんだぞ。

 

「えっとぉ、これ、すごく頑張って書いたの」

「そうですか」

「書いてる間、収入無いから貯金もだいぶ減っちゃって……」

「そうですか」

「人の話聞けよ!」

「聞いてます。情に訴えられても売れないと思うものにGOサインを出すわけにはいかないんです」

 

 こいつの目は節穴なのか?すっごくエロいし面白いし最後に主人公が心が壊れないまま一生凌辱され続けるところとか最高じゃないか。

 てか、この前もボツにしたじゃないか!人の心が無いのか!顔と乳とケツが良いからって許されないぞ!

 

「編集なので許されます。先生のセクハラは許されません」

「ふぐっ!?」


 アイスブルーの瞳を冷然と輝かせたまま、イタドリ担当のつま先がおれの股間へとめりこんだ。

 といっても痛みを感じるぐらいではなくて、革靴をはいたままの足でぐりぐりぐりぐり。昂ったおれの股間を窘めるように押し込んでくる。

 

「はふっ!ふおおっ」

「喘いでないで、官能小説作家らしい語彙で感想を述べてくれませんか、先生」


 こんなエロい身体をした虎に足コキをされて喘がないなんて、それこそインポ野郎でしかありえないだろう。

 怒りは性欲で上塗りされて、おれはでへでへと間抜けな顔で知能指数を低下させる。官能小説家としてのおれはなく、雄獣人で毎日オナニーをしているアラサー野郎に成り下がる。

 

 言語野が働かないぐらいの知性になってしまったし、ちょうどいいのでおれの自己紹介を済ませておこう。

 大体わかっているかもしれないが、おれは小説家だ。それもエロ専門の。書いているのは雄獣人がえげつない調教されたり、魔物や触手に犯されたりオークの肉便器にされたりとかそういうの。いわゆるオスケモ凌辱モノというジャンルだ。

 そんなもんが本になるのかと思われるかもしれないが、この世界ではオスケモの官能小説やオスケモエロライトノベルが本屋で平積みにされているので仕方ない。そういうものなのだ。

 

 そして、おれのちんぽを革靴で蹂躙しているのはイタドリ担当。

 おれがデビューして以来ずっとお世話になっている編集様にして、おれの股間もお世話になっている虎の雄だ。

 雪色の軽やかな毛皮。異種族でも整っていると感じる顔立ち。局部的に特上の盛り上がりを見せる身体つき。仕事に対しては一切の妥協を許さず何人もの作家を売れっ子にした名編集。


「先生、そろそろ戻ってきてくれませんか?」


 と、自己紹介と設定の解説を終わったところで顔をあげるとそこにはおっぱいがいた。失礼、イタドリ担当がその爆乳をテーブルへこれ見よがしにのっけていた。

 ネクタイが谷間に挟まれて爆乳っぷりを際立たせている。

 乳肉の先端を注視すると大ぶりの乳首がシャツに浮き出ている。

 でかいくせに少しも形が崩れていない乳は、触れば弾力で跳ね返されそうで。

 

「そうやって胸ばっか見るのもセクハラですよ童貞先生」

「童貞言うな!てか、そんなでかいおっぱいぶら下げてるのが悪いんだろ!」

「先生のためにでかくしたんじゃないですよ。いろんな男に揉んだり舐められたりしてたら育っただけです」


 くつくつと意地の悪い笑みを浮かべて乳を揺らして見せる性悪担当。

 仕事抜きでも最悪な根性をしているなと思いつつもその筋肉の塊から目が離せない。

 

「そんなもの欲しそうな顔しても触らせませんよ?童貞にはもったいないですから、私のおっぱいは」

「うるせえ!じゃあお前で童貞捨てさせろ!」

「先生がもう一個の童貞を捨てたらいつでも先生の童貞を食べてあげますよ。前から言ってるじゃないですか」


 そして、もう一度ちんぽを革靴でぐりぐり。

 これ。

 この手口。

 

 これこそがイタドリ担当が次々とベストセラー作家を生み出している秘訣である。このムチムチなおっぱいとかスーツがはち切れそうなケツで作家を誘惑しておいて、作品が売れたらご褒美をあげると囁くのだ。

 ちなみに作品の売れ具合によってご褒美は変わり、300万部を売り上げた知り合いの作家はデートで朝まで生ハメコースをしてもらったと自慢してきた。リクエストの下着とホットパンツで電車の中で痴漢プレイに個室の焼き肉屋であーん❤なんて言いながら焼肉を食べて手コキまでして貰えて最後にはイタドリ担当の自宅で朝までセックスだ。ベッドでも風呂場でもベランダでも種付けして、イタドリ担当の家に自分のザーメンの匂いを沁みつかせることができるのだ。イタドリ担当のマンコの具合と一緒にプレイの詳細を教えられたおれの気持ちが分かるだろうか。

 

「売れたら先生もこのおっぱいを好きにできるんですよ?ミリオンまでいったら先生のオナホになってあげてもいいです」

「ミリオンとかハードル上げすぎでしょ。何人いるんだよ、オスケモ官能小説のミリオン作家」

「そりゃ数えるほどしかいませんけど。ミリオンまでいかずとも『もう一つの童貞』さえ捨てたら一晩ぐらい先生のモノになってあげますよ?」


 もう一つの童貞。

 今のおれが一番聞きたくない言葉だ。

 この世界では童貞なんて価値が無いものであり、解除されるまで世界から迫害されるバッドステータスのようなものである。

 童貞とつけばどんなものでもイメージが悪くなるが、作家にとっての童貞とは殊更嫌な意味を持つ。

 

 重版童貞。

 もともとは某有名出版社の名物編集が、デビューから一度も重版のかかっていない作家をさして使った言葉らしい。

 重版とは売れている本が更に増刷される制度のことである。

 つまり重版されていない本とは追加で刷るほど売れていない本と言われているに等しく、イタドリ担当はおれを売れない作品しか書けていないゴミ作家と罵倒しているのだ。

 

 この鬼畜。顔と身体と仕事ができることと以外は最悪な悪魔め!

 

「おやひどい。私は売れてる作家にはとっても優しいですよ。それこそ、手間も苦労も身体を捧げることも惜しみません。なんでもしちゃいます」

「売れない作家には?」

「売れてもらうために身を粉にして働きますよ。セクハラ常習犯の童貞作家さんでもね」


 血も涙も無い言い草だが、全て事実だ。

 三十路にさしかかった今、童貞なんてすぐ捨てられるだろうなんて甘えはもう持てない。デビューしたころはすぐに大ヒット作家になってアニメ化なんてしちゃったりしてと妄想していたが、今は作家として最初のハードルを超えるべく頑張らなければいけない。

 

 ため息を吐いて向き直ると、それを待っていたようにイタドリ担当は眼鏡を持ち上げた。

 おれの反応を予期していたような艶のある笑み。

 脚を組みかえるとその太くて長い手足のせいで殊更にいやらしく映る。毛皮から香るのは深い森の匂いで、この香水を嗅ぐだけで勃起するよう躾けられてしまった。

 

 この冷血な男に、おれは逆らえない。

 

「では、打ち合わせを開始しましょうか。童貞卒業目指して頑張りましょう」


***


昼間から始まった打ち合わせだが、終わるころにはすっかり日が落ていた。夕食を馴染みの中華料理屋で済まして家路につくと、少し元気を無くした蝉の声がする。

オレンジ色に染まっていた雲が淡い紫へとグラデーションを変化させていた。まだ学生は夏休みだけれど、肌を焼くような熱気は収まってきた気がする。

息を吐くと身体の熱が抜け出ていく気がするが、胸につっかえているものはビクともしない。

『先生、今の時代はエロラブコメです』


 イタドリ担当の言葉が蘇る。

 おれはいわゆる凌辱系作家であり、獣人のヒーローとかファンタジー世界での勇者がえげつないエロに会うような小説ばかり書いてきた。

 どれも人気はでなかったが、獣人の尊厳がメチャクチャにされるのが好きです、とか貞操も誇りも命も奪われちゃうのが素敵でした、なんて感想をくれるファンもいる。ずっと凌辱系作家のつもりだった。

 

 それが、今になってエロラブコメ?

 何故?

 全くやる気が出ないテーマじゃないか。

 

『納得できないのは分かりますよ。でも、これを見てください』


 おれの反応まで予測済みだったらしい。

 すぐにタブレットにまとめた資料やグラフやらを見せてくれた。

 

『今の売れ筋やら電子書籍の反応やらを纏めた資料です。簡潔に言うと、今の読者が求めてるのは主人公とオスケモが都合の良いシチュエーションでイチャイチャして幸せなセックスをするハッピーエンド。ストーリー的な山場とか盛り上がりとかいらないので、ひたすらにキャラクターが幸せにほのぼのとエッチをするラブコメなんです。先生の痛々しい童貞力で都合の良すぎるラブコメを書いてみて欲しいんです』

『おれに書いて欲しいの?自殺して欲しいの?』

『期待してるんですよ。先生にはそろそろ次のステージへ進んで欲しいんです』


 反論しようとしても、タブレットに映し出されたデータを見ていると声が出なかった。

 ちっぽけなプライドとか、作家性とかそんなものを主張できるほどの実績がおれにはなかった。

 自分でどれだけ良いものが書けたと思っても、編集に認められなければ意味が無い。そして、自分の意地を通してもイタドリ担当を納得させる自信が無かった。

 

『よく考えてみてください。先生には、やる気を出してもらうためのカンフル剤を送ってますから』


 考えるも何もおれは頷くしかないのだ。

 明日返事を出しますとは言ったが、既に答えは決まっている。今から所属する会社を変えるなり、賞に応募するなりする度胸はおれにはない。

 何も悩む必要はない、んだけど。

 

「エロラブコメか……」


 もう一度ため息を吐いても胸のつかえは少しも無くならない。

 

「おれのファンはどう思うんだろ」


 スマホを開いてSNSのアプリを起動してみると、フォロワーが1000人にも満たないアカウントが表示された。

 作家としてデビューしたと同時に作ったアカウントでは、新刊の宣伝とかどうでもいい日常とかを呟いており、数年かけてじんわりとフォロワーが増えてきた。

 宣伝をしてもあんまり拡散されないし、呟いても反応は少ない。それでも、感想を貰えることもある。

 

 中には作家デビューした時からフォローしてくれた人もいて、その人たちはアイコンや名前を覚えてしまった。

 おれにとってはイタドリ担当と並んで付き合いのながいお得意様だ。

 

「お、また感想くれてる」


 この前SNS用にあげた小話に対して返信がついたのでチェックしてみると、いくつかの返信に分けた感想を送ってくれる人がいた。

 名前はアオヤマさん。可愛い猫のアイコンはおれをフォローしてくれた当初から変わっておらず、おれが新作をあげるたびに感想を投下してくれるありがたいファンだ。

 凌辱シーンのどこがよかったか、ここにこだわりを感じたとか具体的に良い点をあげてくれて本当におれの凌辱モノを好きでいてくれてるんだって感想を読むたびに嬉しくなる。毎回、新作を楽しみにしてますとも言ってくれてる。

 

「アオヤマさん、おれがエロラブコメなんて書いたらどう思うかな」


 アオヤマさんだけじゃない。それ以外の、おれの作風を好きでいてくれた人たちは、これまでのおれとは違うエロラブコメを読んでくれるんだろうか。おれに失望して離れてしまうんじゃないだろうか。

 

 不安に比例するように影が足元から長い影が伸びていく。淡い月の光によって生まれた影はすぐに消えてしまうそうな頼りないもの。今のおれみたいに。このまま売れない作家でいれば、本当に消えてしまうかもしれない。

 

 

「……そんなの、だめだよな」


 見放されなくても、この世界からいなくってしまうかもしれない。二度と作品を届けなくなるかもしれない。本当に読者のことを思うならば、みっともなくても自分の書きたくないものでも死ぬ気で書くべきだ。

 それに、もしもミリオン作家になったらあのデカケツデカ乳のクソ生意気な虎編集をおれのオナホマンコにしてやれるんだ。

 作品の中でしかできなかったようなプレイを全てやって、恋人同然になっておれの全ての面倒を見てもらう。

 この無駄にでかいだけのちんぽを使って『もう先生以外のちんぽだとイけないんです……❤』なんて媚び媚びな声で囁かせてやる。

 

 やる。

 やってやらねば。

 あのでかいケツを鷲掴みにしてバックからマンコを突きまくってやる。


 そんな妄想でちんぽを硬くしていると、おれの家へと着いていた。

 作家デビューと同時に引っ越してきてからの愛しき我が家。築数十年の家賃が安いこと以外なんの取り柄も無いオンボロアパート。ちなみに住んでいるのもおれ一人。

 

 そんな童貞作家に相応しい居城の前に、見知らぬ影が立っていた。

 

「んん?あの、うちに何か用――」


 不審者か、公共放送の集金か、はたまた宗教の勧誘か。

 どうせロクなもんじゃないだろうと発せられた声は途中で止まる。

 おれの言葉を止めたのは、夜の闇に浮かび上がるシルエットだった。

 月の光によって身体の輪郭が露わになる。おれと影を隔てていた膜がほどけていく。

 

 おれの視線に気づいて、影が振り向いた。

 太陽の色を宿した毛皮に白銀の光が触れては弾ける。夜が似つかわしくないオレンジと黒の縞々。スニーカーとホットパンツの間には、はちきれそうなふくらはぎと太ももが見える。

 黒のタンクトップは大きく張り出した大胸筋によって千切れそうになっており、たくましい身体をいっそう強調していた。その豪快に揺れる大胸筋に迫力は、イタドリ担当が貧乳に思えるレベルだった。

 

「お、きみがハセガワ先生やろ?待っとったわ」


 野太い声が響く。

 どこか夏の霹靂を彷彿とさせる。

 腹の底まで響くけど、身体を沸き立させるというか。

 

「ハセガワ先生でええんよな?」


 呆けていると、もう一度訪ねられたので慌てて頷く。

 同時に疑問が生じていた。おれは顔出ししてない覆面作家だし、こんなマイナーな小説家の顔写真が流出するはずはないし。

 

「いやー会えて良かったわーー!このまま先生の家ン前で居眠りしてまうとこやったわ!」


 大柄な虎の男がにかっと笑う。

 その笑顔に鼓動が一瞬、大きくなった。

 タンクトップにハーフパンツパンツというラフな格好に見合い、その顔は男らしいというよりも雄臭い、野性的といった言葉が良く似合う。

 イタドリ担当よりも少しばかり年上だろうか。毛皮の艶は少しばかり落ちているが筋肉の漲った身体に脂肪を更に詰め込むことでこれでもかと肉の分厚さを増している。

 力強い雄の魅力を放つこの虎に、一目で心を奪われていた。胸の中に、生まれて初めて感じる温かいものが溢れて止まらなかった。

 

「あ、あの……あなた、は?」


 どうにかその言葉を搾りだした。

 おれの視線は巨漢の虎を上から下まで舐め回すように見ており、涎が垂れやしないかと気が気じゃなかった。

 鬼の担当からボツを喰らったと思ったら、家の前に天使の笑顔をした虎おっさんが現れたのだ。


 夢か。

 漫画か。

 どこか現実感が無かったけれど、ズボンの中で硬くなりつつあるちんぽが告げていた。これは紛れもないリアルだと。

 

「あー、おっちゃんか?イタドリ担当から聞いてへん?そかそか」


 虎の雄は一瞬だけ考えるそぶりを見せてから、名前を告げる。

 その名前は不思議とおれの中へ自然と溶け込んでいった。ずっと前から知っていたような。

 

「ヤマト。イタドリヤマトっちゅうんや。よろしゅうな、ハセガワ先生!」


 ヤマト。苗字からしてイタドリ担当の関係者なのは明らかなのだが何故ここに来たのだろう――と考えてから思い当たる。イタドリ担当が告げていた『カンフル剤』という言葉に。

 僕の予想が正解だと褒めるように、ヤマトさんはわざとらしく敬礼をしてみせた。

 

「先生がエロラブコメを書くための手助けっちゅうことでやってきたんや。これからしばらく世話んなるで」

「世話?手助け?えっと、しばらくって……」


 ヤマトさんの言葉に一抹の不安を。

 そして胸の鼓動を速める興奮を覚えて聞き返す。ヤマトさんの足元に置かれたボストンバッグを見て、ちんぽがびくりと跳ねた。

 

 夢か。

 漫画か。

 いや、エロゲか。

 現実感が急速に失われていく中、ヤマトさんはおれの顔へと鼻先を近づけた。

 鼻をくすぐる野性的な匂いが、これが現実だとおれに教える。

 これからおれに起こる未来をどうしようもなく期待させる。

 

「童貞の先生がエロラブコメを書けるようにおっちゃんが恋人役になったるってことや。いーっぱいエッチなことしよな!ハセガワ先生!」

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