Home Artists Posts Import Register

Content

 

 30日にもう一回更新できたらええな…!って感じです。


たまんねぇケツしてやがる。

 しがない中年サラリーマン『君丘 優斗』は鼻息を荒くして目の前の雄を凝視した。

 毎日揺られる通勤電車に乗りあわせたのは、筋肉をこれでもかと詰め込んだ長身の雄だった。おそらくは、ボディビルダーでも兼業しているのだろうか。仕立ての良いスーツが弾け飛びそうな筋肉を実らせたトカゲの雄が目の前でつり革を掴んでいた。

 薄手のスラックスが張り付いて、形が丸分かりな肥えた尻肉。そこらの女の胸よりも膨れた大胸筋。腕と足の太さときたら背骨を簡単にヘシ折れそうだった。まさしく筋肉で構成されたエロスの塊である。

 

 君丘はは毎日のように雄を視姦している眼球をフルに稼働させていた。

 スーツは男を会社の奴隷として躾けるものであるが、目の前の男ときたら乳と尻の膨らみをもってして引きちぎってしまいそうだった。

 脂肪を削ぎ落した腰のすぐ下で突き出た尻は、乳に負けじと存在感を放ち、妖しい肉感を振りまいている。さらには、股下が長いせいで太もものむっちりとした具合も目が止まる。くたびれたサラリーマンどもが詰め込まれた檻には似つかわしくない。

 

(おおぉっ!おれの顔よりデケェんじゃねえかコイツ!それにスッゲェ美しい……!)


 凛とした立ち姿を背後から眺めていると、尻の高さに心を打たれる。君丘が裾上げする前のスラックスを余裕で穿けるどころか、伸ばさないとふくらはぎまで丸見えになってしまいそうだった。

 筋肉が詰っていると分かる尻は肉付き抜群なくせに引き締まっていて、彫刻のように優美な曲線を描いていた。

 

(あーっ畜生!やらしい匂いプンプンさせやがって!もうちんぽにキちまったじゃねえか!)


 君丘は車内の人混みをかきわけつつ、トカゲの背後へと陣取って深呼吸する。

 すると脳細胞を直撃してくるのは汗と香水がミックスされた極上の雄だけが放てる芳香である。

 ワイシャツの襟が咲いている首筋から立ち昇ってくる爽やかな甘さ。ほんのわずかな汗の酸味。香水はオードトワレだろうか。ちんぽが抗えないフェロモンに突き動かされて、君丘は手の甲をムチムチな太ももに当てた。

 

(ヨーシ、抵抗しやがらねえな。そのまま大人しくしてろよスケベ野郎)


 スラックスを通して感じる肌のぬくもりがちんぽへと伝わる。スラックスも高級品なのか肌触りがよく、質の良い野郎なんだと触覚から理解できる。

 手の甲で感じただけでも欲望は抑えられなくなり、痴漢行為を行う言い訳ばかりが頭に浮かんでくる。

 

(なんだ、エロい恰好しやがって。痴漢されたくって乗ってんだろ?)


 この電車は『沼男』とかいう痴漢魔が出没する危険地帯。雄獣人は警戒してほとんど乗り込んでこない。

 にもかかわらずこの蜥蜴は堂々と、自分を狙ってみろとばかりに突っ立っている。こんなに乳もケツもでかい雄野郎が、だ。しかも衣服は透けそうなワイシャツと薄手のスラックスだ。

 

 痴漢されたいに、決まっている。

 こんな顔も体も最高級な野郎だからかえって周囲から敬遠され、男からも女からも相手にされないに違いない。加えてこんな野郎はプライドも高いせいで相手に媚びることができず、一人寂しくオナニーでもしているに違いない。

 おれがてめえみてえなクズを相手にするわけねえだろ――そんな罵倒をした後に自室のベッドでデカケツを揺すってディルドを咥えこんでいるに違いないのだ。あんな生意気を言って申し訳ありません、なんて想像上のブサイク相手に謝罪をしながらアクメをキメやがってるんだ。

 

(へへへ、おれがその生意気なケツを修正してやるよ!)


 明らかに正気ではない妄想と思考であるが、君丘は自分が正しいと信じて疑わなかった。普段は真面目な会社員であり、同僚にも部下にも礼儀ただしく接する中間管理職の男が、である。ついでに言うならばこれまでむさくるしい男相手に欲情したこともない。

 それがいきなり男の尻を揉もうとしている――その異常性を咎める者は誰もいない。ただ一人を除いては、だ。

 

(おおおっ!肉がすげぇ柔らけぇ!これが男のフトモモかよ!)


 指先で感じる太ももは手の甲でのそれよりも官能的だった。緊張しているのだろうか、わずかにこわばった筋肉を堪能して丸々とした尻のまろみをなぞる。

 隆起した背筋が真っすぐに伸びた。膨れすぎて背中からもはみ出してしまった乳肉がのっしりとして揺れを見せた。

 肉の大地が揺れ動くさまで君丘は感動すら覚えた。こんな大男のくせに抵抗してこない。何やら妙な緊張感を感じたが、その太い手足を動かすことはしない。

 ならば、と君丘は調子に乗って指先を尻に食い込ませた。

 

(おおぉおぉ……!)


 筋肉と脂肪の割合が、おそらくピコグラム単位で最適値を示しているに違いなかった。あと少し脂が大きかったらだらしなく垂れた尻になり、あと少し筋肉が多かったら硬く揉み心地を損なう硬尻になってしまう。手のひらに拡がるむちむちな奇跡に、君丘は脳の血管が焼き切れそうだった。

 

「ん、ぅ……」


 トカゲはでかい尻をもじもじ動かして、君丘を――正確には君丘の背後を睨みつけてくる。拒否したいがそうする勇気も無いのだろうと君丘は決めつけて、スラックスの内部へと手をすべりこませた。

 

「このっ……!下級淫魔が!んっ!」


 トカゲは低く唸り声を上げたが、もはや止まらなかった。

 脳みそが暴走列車に乗り込んだ君丘の燃料となっていたのは、理性ではなくスラックス内部で蒸し上げられた丸尻の感触だった。

 下着は、きわどすぎるTバックだと指先で分かった。尻尾の真下に極小さいのデルタを作っただけのような、豊満な大臀筋を少しも隠そうとしていない布面積だ。

 指に引っかかる下着のゴム紐と尻肉を押し込んで得られる弾性の違いが楽しかった。プライドに満ちた高慢なサラリーマン然としたスーツとビッチであると主張してくるTバックのコントラスト。トカゲそのものを表しているようなファッションセンスが素晴らしかった。

 

「ああっ!も、もう我慢できねえ!ハメてやる!ハメ殺してやるよ兄ちゃん!」


 君丘の理性がついに切れてしまった。まるで誘蛾灯に燃やされる羽虫のようの抱きついて雄っぱいをつかみあげた。自分の指が溶けてしまいそうになる感覚を味わいながら、その充実した柔らかさを揉みあげる。股間で張ったテントを尻に谷間へ挟み込まずにはいられなかった。

 

 トカゲが鼻先を向けてくるが、人を殺しそうな視線だって今の君丘には興奮を燃え上がらせるガソリンにしかならなかった。

 この獰猛な眼差しをした雄を辱めてやりたい。着飾った淑女を泥まみれにしてやりたいと願うのは男の常だ。社会性の中で輝くダイヤモンドを粉々にしてやったとき、どれほどの悦びが得られるのだろうか。

 

「へっへへへ!おれのガキ孕ませてやるっ!メスにしてやるよ!おれのちんぽ誘いやがった罰だ!」

「……ずいぶん深く憑かれてるな。これも沼男やらの影響のせいか?」


 トカゲの意味不明な言葉なんて無視して君丘はアクセルを踏みしめた。艶やかに輝く鱗は緑信号。そのまま突っ走ってしまえと命じている。このままぶっちぎって生意気な雌トカゲに自分の立場を教えてやれ。

 欲望の道を突っ走ろうとしたとき、君丘はトカゲの手が自分の腕を掴んでいることに気が付いた。なんだ、スケベ野郎かと思ってたが自分から求めてきやがった。いいだろう、痴漢だけじゃ終わらせねえ。その気ならおれのオナホにしてやってもいいぞとのぼせあがった瞬間、手首に凄まじい激痛が走った。

 

「ひ、ぎいっ!?」

「おっと、動くなよ。お前はともかく、宿主を傷つけるのは趣味じゃねえからな」


 手首に穴が空いたかと思った。実際には親指の先を押し付けられていたなのだが、君丘は悲鳴すらまともにあげられなかった。

 すぐに手首を捻られ、あっと思った時にはその場で回転を強いられていた。あまりに自然な動きに周囲の乗客たちも気づいていないほどだ。

 逃げろ、今すぐ逃げろとやかましい頭の中の声に従ってもがこうとするが、手首を握りしめられて激痛に悶絶する。

 

「なっ!ななななな……」

「騒ぐな。今助けてやるから、ちょっとだけ痛いのを我慢してくれ」

「な、あ゛っ――――」


 背中に硬いものが押し付けられた、と思った途端に臍のあたりを貫く痛みが走り、君丘の脳みそが処理落ちを起こす。視界がぐるりと裏返ったように感じながら、意識がゆっくりと暗転する。

 

「好き放題やってくれたな。そのままにしとけよ?これ以上暴れるなら下っぱ淫魔だからって見逃しゃしねえぞ?」


 トカゲは意識を失った君丘に向かって話しかけ、電車を降りるように指示をする。不思議な事に君丘の脚は命じられるままに動き出し、背後で手をひねり上げているトカゲを伺うように顔が動く。

 

「さて、質問に答えてもらうぜ。つっても三下淫魔じゃロクな情報を持ってねえだろうがな……『沼男』って怪異を知ってるか?」


 プラットホームの端を歩きながら囁きかけると、意識を失った男の顔が歪に歪んだ。閉じたはずの瞼が開き、白眼を向いたままの顔でトカゲを睨みつける。そして、喉も舌も動かさないままに言葉を紡ぐ。それは、人のものとは思えないケダモノのような唸り声だった。

 

「が、ぎぃぎいぃぃい゛、おまえ、かりうど、か。何でこんなとごろにい゛る」

「質問に答えろって言ったよな?お前を消して他のヤツから聞き出してもいいんだぞ」


 トカゲが更に眼光を鋭くすると、唸り声をあげていた君丘――正確には、その身体に巣食う何者かが怯えたように身体を竦めた。

 捻り上げられた腕を離されると、媚びへつらって身体を縮こまらせた。

 

「わ、分かったって。逆らわねえからあんま虐めねえでくれよ旦那……」


 君丘の中にいる者は小鳥に様変わりする。歌うのはなんて楽しいのだろうと、トカゲの詰問にべらべらと答え始めた。

 

「『沼男』だろ!知ってるぜ、最近現れた新顔なんだがなかなか大したもんでよぉ、でけぇ男を何匹も堕としてるからおれもついでにご相伴にあずかってなぁ」

「命令その二だ。おれが質問したこと以外は喋るな。ソイツに仲間はいるのか?」

「ひ、ひいっ!あいつに仲間はいねえよ、頼んでみたんだが小物はいらねえって言われてよぉ」


 トカゲが侮蔑するように鼻息を慣らすと、懐から取り出したスマホを弄り始める。続いて「そいつの行動パターンは?目立った特徴は?」と尋問を続けた。

 

「特に無ぇよ。満員電車にだけ現れて、でっけぇ野郎だけ狙う美食家ってことだけだ……なあ、そろそろ許してくれよ。ちゃんと話しただろ?」

「ロクな情報を持ってねえな。下級淫魔じゃこんなもんか」


 分かりやすく失望したため息を漏らして、トカゲはスマホに向かって指示を出す。

 

「下っ端を締めあげて尋問したが新しい情報は無い。予定通り『囮捜査』を実行する。あとは下級淫魔の憑依被害者の治療と記憶処理を頼む」


 トカゲは目の前の三下などもはや眼前に無いと言った体で、その表情は重大なオペに臨む前の医師のそれに似ていた。

 電話が終了し、君丘に憑りついている何者かがまだ見上げていることに気がつくと、どうでもよさそうに口を開く。

 

「まだいたのかよ。さっさと失せろ。人の身体ってのぁ淫魔どものアパルトメントじゃねえんだぞ」


 凄みの効いた声を浴びて、君丘に入っていた何者かが身体から抜け出していく。

 日光の下で淡く煌めくガスのようなそれは空気中を漂って、ホームから街中へと逃げ出していく。

 それと同時に顔を歪めていた中間管理職は安らかな顔になって崩れ落ちた。トカゲが抱きかかえてやらなければホームのコンクリートとキスをしていたことだろう。

 

「ったく、淫魔どもってのは。もう大丈夫だからな、おっちゃん」


 トカゲは淫魔と呼ぶモノを相手にした時は裏腹な柔らかく温かな声をかけ、君丘の身体を抱え上げた。朝のホームで男を抱き上げている姿に視線が集まるが、トカゲは意に介さずにベンチへと寝かせ、乱れた毛皮を労わるように撫でつける。

 

「そこでゆっくり寝ててくれよ。その間に、この電車の淫魔どもはおれが全部やっつけてくるからよ」


 最後に白い歯を見せて笑み、トカゲは再び電車へと乗り込んだ。

 ヒトを食らう淫のモノたち、悪鬼を滅する戦士を乗せて電車という戦場は再び走り出す。

 

 悪鬼討滅部隊淫魔対策班囮捜査官。

 『悪滅の蜥蜴』の長い一日は、こうして始まる。

 

 ―8時30分―

 

 この世界には闇に潜む者がいる。

 いつの世も闇は消えない。野山を星が照らすのみの世界では木陰に潜み、街をネオンが照らす中では路地裏に潜み。そして人の心に悪鬼は巣食う。

 だが、変わらず存在こそすれど、その在り方は大きく違う。かつては人の肉を食らっていた妖どもは獲物を変えた。人が栄えた世では牙や爪を振るう愚かな獣はすぐに狩られてしまう。故に彼らは食らうものを血肉から人の心へと変えたのだ。

 

 ある妖は恐怖を好み人を脅かすおぞましい姿を取り、ある者は人の絶望を好み人を騙す詐術を学んだ。人の愛情を好み愛らしい姿を手に入れた妖もいる。

 

 そして、人の性欲を好む妖もいる。それこそが淫魔。

 聖職者のもとに現れ堕落させる悪魔インクブス、サクブス。類するものとして東欧の妖精スクセンダル。男を精霊界へ連れ去ると言われるヴィデルフラウ。性行為を求める代わりに対価を支払う吸血鬼ズメウ。日本では河童が女性を淫らにする力を持つと語られていた。

 どれも人を淫らに堕とし、精を食らう淫魔である。やつらにとって人の性欲とは食事であり、同族を増やすための種でもある。人の命こそ奪うことは少ないが、性欲を狂わされた者は社会から追放され、より深いところへと堕して行く。行き着く先は淫魔の玩具兼食料となって死ぬまで飼われるか、欲望のままに人を襲う新たな淫魔と成り果てるかである。その性質故に、社会の中に潜んで密かに人を苦しませてきた。淫魔とは、人の世に潜む寄生虫なのだ。

 

 そして、人を狂わす寄生虫たちを狩る者もいる。

 人を襲う悪鬼を滅し。

 特に、淫魔に類するモノを獲物とし。

 自らを囮として淫魔を見つけ出す捜査官。

 それこそが悪鬼討滅部隊淫魔対策班囮捜査官である。

 

 「はーぁ、日本の電車ってのは何でこんなに混むかね」


 逞しいトカゲがげんなりとした息を吐いた。

 レールの音に混じって聞こえてくるのはワイヤレスイヤホンからの音漏れだ。ツンと鼻を刺すのは安っぽい香水の匂い。だがそれはまだマシなほうで、何日身体を洗っていないんだと文句を言いたくなる体臭の輩もいる。

 

 ドア付近、人の少ないわずかなスペースに陣取って蜥蜴はため息を何度もこぼす。彼の『仕事』は街中や会員制のスポーツクラブなど人の密集している場所が多いが、日本の満員電車は世界有数の難所であると改めて実感した。

 

「にしても、沼男ねぇ。新たな都市伝説タイプの怪異か、旧式のが名前を変えて潜んでやがるのか……」


 トカゲは誰ともなしに、或いは目に映らぬ誰かに聞かせるように言葉をつむぐ。切れ長の瞳は周囲の乗客たちを油断無く眺め、筋肉はすぐにでも動けるように厳戒態勢を取っていた。トカゲは件の淫魔を狩るために、さっそく囮捜査を始めていた。

 淫魔相手といっても、通常の痴漢犯罪者相手にするものとそう変わらない。男を惹きつけるような恰好をして電車に乗り続け、実際に痴漢されるか、もしくは痴漢されている獣人を発見するまで待つだけである。それだけでゲームセット。トカゲの任務――淫魔退治はほぼ成功と言えるのだ。

 

 淫魔などと大層な名前で呼ばれているが、連中は妖魔の中では大した力を持っていないとトカゲは知っていた。特に、人間社会の中に潜んで性犯罪を繰り返すような輩は大半が小物だった。今回の『沼男』もその例に漏れない雑魚だろう、とトカゲは予測していた。

 本当に力がある者ならば臭く狭い電車に潜んだりなどせず、好みの獲物を自らの領域にかっさらえばすむ話。それができないのは人を隠れ蓑にしなければ生きていない三下だからだ、というのが判断理由だ。無論、予測はあくまで予測でしかない。トカゲは油断せずに熟練の狩人のように獲物を探す。

 

「下級のヤツしかいねえな。数はちょいと多いみたいだが……」


 トカゲの瞳は乗客に纏わりつく薄いガス状の何かを捉えていた。当然他の乗客にも見えてはいないようで、ガスが纏わりついている当人も平然とスマホを眺めていた。

 先ほど君丘の身体から剥がれたそれは最下級の淫魔。名前を与えられるほどの力を持たず、人の欲望を吸って成長を目論んでいる連中である。淫魔といっても欲望を増幅させる程度の力だけであり、知能すらないものも多い。君丘に憑りついていた奴は下級の中ではマシな方。下の上といったところだった。

 

「さすがにチマチマ潰してらんねえな。悪いが『沼男』を潰すまで待っててくれよ、おっちゃん達」


 一つの車両に10匹以上の淫魔がおり、いちいち潰していては何か月かかるか分からない。対処するならば『沼男』を潰すのが一番効率的だ――というのがトカゲの判断だ。

 下級淫魔というのはどれも臆病で、風向きが変わればそれこそガスのように流されてしまう。トカゲという抑止力が盛大に暴れれば、あっさり消え失せてしまうのである。トカゲはこれまで数件の痴漢系淫魔に関わったが、大物が消えればおこぼれにあずかろうとする下級もすぐに逃げ出したものだった。

 

 逆に言えば下級淫魔を駆除する難しさも表していた。奴らはすぐに逃げ出してしまうだけに、全てを滅することが困難なのだ。そしてトカゲが消えれば虫のように蠢動し始める。やっている事も目立たないだけに、トカゲが所属する部署も積極的な駆除に動かない。

 

「ま、いつもの事だ。いっちょ派手にやって連中をびびらせてやるしかねえな」


 故にトカゲは華々しく『沼男』を退治してやる腹積もりだった。一人でも多くの被害者を救わなければならない。囮捜査官としての職務ではなく、一人の男として人々を救いたいと心を燃やしていた。

 

 そのためにトカゲは実に男を煽り立てるファッションを選んでいた。正確に言うならば偏った性的嗜好を持つ淫魔どもを挑発するファッションを、だ。

 『沼男』がターゲットにしているのは筋肉を豊富に実らせた雄の獣人。種族は問わず、年齢も恰好もばらばらだ。トカゲには自慢の筋肉があるが服装から『沼男』を惹きつけるのは難しい。となれば王道、もしくは痴漢受けのしそうな衣服がベストであろうとトカゲの経験が今のファッションを導き出した。

 

「やっぱ堅苦しい服ってのぁ苦手だな。もっと際どいのが良かったか?」


 と呻きながらトカゲは自慢のでかい尻を振ってみせた。白いワイシャツにスラックス、革靴のコーディネートは生真面目なサラリーマンを擬態したものだ。それなりに値が張るブランドを選んだから、品の良い印象も相手に与えるだろう。痴漢犯罪者にありがちな『普段は手の届かない花を摘んでみたい』という欲望を満たすには最適な姿に見える。

 

「んー、でも『沼男』がどんなタイプかわからねえしな……」


 『沼男』が人に憑りついて欲望を増幅させる、下級淫魔と似たタイプであるならばシンプルに痴漢受けするファッションを選べばいいが、独立した肉体を持っている場合は厄介だった。西洋のインキュバスのように自分の身体で精を食らうような相手ならば淫魔の嗜好を見抜かねばならず、困難になる。

 被害者の証言を聞く限りでは印象に残らない顔とスーツ、そして数多の腕に同じ姿をした集団と独立した身体を持っているタイプに思えた。


「もうちょいアピールしておくか。小物が寄ってきてもめんどくせえけど」


 トカゲはシャツの襟もとを緩めると同時に全身の筋肉に軽く力を込める。軽く、といってもその剛体である。全身の筋繊維が膨張し、乳肉や尻肉もボリュームを増した。開け放たれたボタンとの相乗効果で胸元が強調されて見えるはずだ。元々の爆乳具合が更に凶暴になり、淫魔に憑かれていない男までもトカゲの胸に視線を向ける。

 

「はぁ、もっと目立たない色にすりゃよかったなぁ。透けちまった」


 わざとらしく呟いてから汗で湿ったシャツを指先でなぞる。紐パンとコーディネートした真っ赤なタンクトップが、蛍光灯の反射によってその色を露わにしていた。

 スラックスは一見市販品に思えるが、生地を加工して尻肉へ艶めかしく張り付くようにした特注品である。トカゲが本気でバルクアップすれば紐パンのシルエットが露わになるだろう。

 最後に香水を振りまいた。強い香りは魔を退けると信じられたが、トカゲが首筋や腋、股間まわりに纏ったのはその逆に淫魔を惹きつけるもの。くすぶるような、それでいてかすかな気高さを感じさせるベルガモットの香りだった。無論、人が嗅いでも酔ってしまいそうな心地良さを感じる芳香だ。


「そろそろ手を出してきてもいいはずなんだが……」


 満員電車の中は込み合っているくせに静寂で包まれており、吐息すら聞こえなかった。こうまで混んでしまうとみんな黙り込んでしまうからなのか、とトカゲは化粧品やら洗髪料やらの刺激臭を嗅がされていた。

 

(しっかし、良く我慢できるよなこいつら。これに耐えられる精神性なら淫魔の誘惑も跳ねのけられそうだが)

 

 前後左右から押しつぶしてくる肉体と、不快な蒸し暑さにトカゲがげんなりしたため息を吐いた。

 トカゲは淫魔を追って軍隊のブートキャンプや名門体育大の新入部員としても潜入したことがあるが、この満員電車以上にきついものはなかったと辟易する。さっさと淫魔どもが手を出してこないものかと幾つものの駅を通り過ぎ――

 

(……来たか)


 一瞬のうちに、或いはトカゲにも気取られぬうちにトカゲを包む空気が一変していた。周囲にいるのは男のみ。それも同じスーツと時計をはめた10人以上の男たちだ。

 その視線は触手のようにトカゲの全身、特にシャツを突き上げる大胸筋や尊大にぶ厚さを主張する尻肉へと集中していた。虫が鱗を這いまわっている、そんな不快感で背筋に汗が伝う。

 

(確かに同じ顔だ。こりゃ憑依型じゃないな)


 トカゲを見つめるのは全く同じ顔つきをしたビルダー体形の竜人たちだった。顔どころか鱗のかさつきから、スーツを膨らませている筋肉の張り出し具合までも瓜二つ。普通の人間ならばあり得ない。

 竜人ビルダーどもに取り囲まれているせいか熱気は増して、車内に吹き付けられている吹雪のようなクーラーも意味をなしていなかった。

 

(どうするか。こいつらの中に本体がいりゃいいんだが、いないなら本命前に体力を使っちまう)


 トカゲは心の中で天秤を傾けた。目の前の男どもが『沼男』とやらが作り出したダミーでしかないのならいくら潰しても意味がない。逆に『沼男』の力を株分けされた手足のような存在なら少しでも潰す価値がある。どちらにせよ、相手をすればトカゲの気力が削がれるのは間違いなかった。

 淫魔は蹴り飛ばしたり殴ることで退治できるわけではない。消滅させようとするならば、トカゲも多大なリスクを背負う必要があるのだ。

 

 トカゲが思案していると、ビルダーの一人が手を脇腹へと伸ばしてきた。大胆すぎるその手つきは、こそこそとした痴漢本来の動きとはかけ離れている。

 

(まあ、おれにその気がなくてもあっちから手を出してくるんだよな。いろいろと試してみるか)


「おい、何だてめえら!おれに何するつもりだ!」


 被害者から聴取したデータが本当か試そうと、トカゲは指先が触れる寸前に大声を張り上げた。軍隊の訓練で培った同間声は、本来ならば車両全てに響き渡る声量だ。

 

「へへへ、無駄だぜ兄ちゃん。アンタの声はおれたち以外には届かねえよ」


 ビルダーに一人が親切にも解説してくれた。その言葉の通り、トカゲの声に何の反応も返らない。それどころか車両の中で反響すらしなかった。もっとも、乗客にばれれば困るのはトカゲも同じであり好都合だったが。

 

「くっ!誰も聞こえねえのか!誰かなんとか言えよ!」

「いいねえ。身体は立派なくせにピーピー泣きやがって。ソソるぜ」

「しかし、外見と違って言葉遣いが粗暴だねぇ。もっとインテリぶった奴かと思ったんだけど……残念だ」

「まあまあ。どうせ最後は豚みたいに鳴くだけになるんです。口調なんてどうでもいいじゃないですか」


 どうやら瓜二つなのは外面だけであるようだ、とトカゲは印象を修正する。

 下卑た笑顔には変わらないがビルダーどもはそれぞれ嗜好に差異があるようで、トカゲの身体の何処を睨めつけるかも違っていた。

 ここまで差異があるのであれば、単純なダミーではない。思考能力や会話ができている点からリソースが注がれていると判断できる。一体ずつでも仕留めれば相手にとって痛手になるに違いない。

 

 淫魔はさまざまな力を持つが、無限に能力を振るえるわけではない。ゲームでいうマジック・ポイントと同じくひつようなリソースがあり、一度使えば回復に時間を要する。これだけの分身を作り出し、人格まで与えるならばそれなりのリソースが不可欠なはずだった。

 

「おらっ!腕を上げろ!てめぇの腋マンコが見えやすいようにな!」

「くっ!や、やめろ変態ども!」


 トカゲの抵抗――の演技――を無視して腕を引っ張り上げると左右のつり革を引っ張って両手をねじこませ、ガムテープを何重にも巻きつけてくる。

 上半身の筋肉が強調されてしまう体勢で拘束すると、性欲をぶつけるように何人かのビルダーが襲いかかってくる。

 

「ほおぉ。良い脚してますねぇ。締りも良さそうです」

「ケツもなかなかのもんだよ。前のシャチくん以上だ」


 丁寧な口調のビルダーはいきなり内股に手を差し込んできた。薄手のスラックスの上から内腿を含めた微妙なカーブを撫でまわしてくる。どこか子どもっぽい口調のヤツは恥知らずに膨れた丸尻に張り付いて、脂肪の乗り具合が絶妙の肥え尻を荒々しく揉みしだいてきた。

 もう一人は腋の下から両腕を伸ばして、筋肉の塊である巨乳を握りつぶすように捏ね潰してくる。皺の寄ったワイシャツ地から真っ赤なタンクトップが透けて、雄の淫らさが匂うコントラストを作り上げた。

 

「あっ!この、やめぇ。んあぁぁ!」

「ひひっ!腋マンコ見せて喘ぐなよぉ。ちんぽにキちまうじゃねえか」


 トカゲは演技とは到底見抜けない喘ぎ声を漏らして身体をよじらせた。ビルダーどもの指先は拙いものではなかったが、トカゲには大したことのない愛撫だった。感じているフリをして、逆に相手の指遣いを誘導する。

 ビルダーの一人はまんまと騙されて、トカゲの汗と香水がたっぷり染み込んだ腋に鼻を突っ込む。キノコを探し当てる豚みたいに鼻息を荒くして、シャツごしの腋臭さを吸い込んだ。肺活量の限界を試しながら、変態にとっての桃源郷をさまよっている。

 

「おっと、乳首が立ってきてますね。こんな際どいタンクトップを着ているせいで丸わかりです」


 ビルダーの指摘通り、ただでさえ大きな乳首が肥大化し、シャツの上から乳頭を透かせていた。やや黒ずんだ乳首は使い込んでいるサインであり、その大きさも親指の先よりも大きく卑猥に雄を誘っていた。

 ビルダーはワイシャツの上からしつこく胸を捏ねつつも、乳首――特に膨れた乳輪部分をシャツの生地ごと擦り、研磨する。

 

(チッ……!やめろ、下手くそな淫魔野郎相手でも乳首は弱いんだよ!)


 トカゲは気付かれないように尻尾を波打たせた。囮捜査官として淫魔を相手にしている以上、乳首や尻を責められるのは日常茶飯事だ。そのせいで乳首はモロ感に開発されてしまい、服の上から擦られるだけでも痺れるような快楽を得てしまう。

 しかし、それがばれれば淫魔どもは調子づくのが分かり切っていた。トカゲはひそかに奥歯を噛みしめつつも乳首では感じていない演技を続ける。

 

「おっと、感度は微妙なんですかねぇ。じゃあ私達で開発してあげましょうか」

「だな。経済じゃなく乳首イキの仕組みを教えてやるぜっ、と!」

「……!」


 乳の前に陣取ったビルダー二人が視線を交わすと、背後のビルダーが双乳の付け根あたりをつかんでワイシャツをたぐり寄せ、元から張り付いていたそれを更に密着させる。その隙を逃さず二人の竜が乳首の細やかな凹凸まで浮きだ足している頂きにむしゃぶりついてきた。

 

(んぐぅうぅ❤クソッ❤❤馴れ馴れしくしゃぶってくるんじゃねえぇ❤んおぉ❤❤)


 トカゲは唾液を零さぬように歯を食いしばり、つり革を握りつぶした。

 シャツを挟んで、竜種のぶ厚い舌の粘膜と蠢きが塗りつけられてくる。同じ顔をしているくせに舌使いと唾液の熱さはまるで違っていた。

 片方の唾液は火傷しそうなぐらいに熱い汁だが粘り気が少なく、もう片方はぬるいくせにやたらと粘っこい汁だった。敏感乳首のせいで熱と粘性の違いがイヤになるくらいよくわかる。

 舌使いはもっと分かりやすい。勃起乳首をジュウジュウと引っこ抜くようにバキュームしてくる方と、陰湿に舌を絡めて舐め回してくる方。

 背後で乳を鷲掴みにしている方も巧みに揉み立てて、持ち上げたりワイシャツごと引っ張ったりと絶妙なテクニックでデカ乳を揺らしてくる。赤子二人は揺れる乳に興奮を煽られるのか、甘く牙まで立ててくる。

 

(くうぅ❤いい加減離れろクソ淫魔どもぉ❤❤)


 トカゲの願いが通じたのか、はたまたミルクで腹が膨れたのか、唾液の柱をかけながら二つの口が離れて行った。

 

「こりゃあいいなぁ……!予想以上に下品な乳首だ!」

「もしかして自分で開発してんのか?真面目そうな顔してスケベな兄ちゃんだ」


 くつくつと喉を鳴らされたが、トカゲは黙って睨み返してやる。快楽に耐える訓練として乳首の開発は絶やしていないが、淫魔を悦ばせるために育てたわけではなかった。が、どれだけ虚勢を張ったところで滑稽だ。乳首周囲の布地だけが濡らされて、開発乳首にべっとりと張り付き、いかにも感度が良さそうな膨れっぷりや淫らな赤黒さを薄っぺらいカーテンを通して披露している。

 二つの巨乳が背後から鷲掴まれているせいで、尚更に乳首が強調されて、いっそうの艶めかしさを醸し出している。

 

「だいぶ、やらしい具合になったなぁ、オイ」

「だな。だけどこの兄ちゃん乳首はイマイチみたいだぜ。反応が悪ぃ」

「ちんぽも無反応だ……つまんねえ男だ」


 トカゲは顔を歪めながらも内心で嘲笑っていた。


(へっ、馬鹿な淫魔どもだ。このまま乳首を吸われてりゃヤバかったのによ)


 あとは愚かな淫魔どもの注意を別に向けてやればトカゲの勝ちは確実だった。上等な淫魔を相手にした時は演技を見抜かれ乳首だけでメスイキをキメられたものだが、実に与しやすい雑魚淫魔どもだとトカゲは喉を鳴らした。

 さて、どうやって乳首以外を責めさせてやろうと思案しているとビルダーどもがスラックスに手をかけて、引きちぎるようにずりおろしてきた。翠玉の鱗と紐パンが鮮やかな下半身が剥き出しにされ、満員電車の中に花が咲く。


「おおっ!予想通り良いケツをしてますねぇ。みなさん、不感症乳首よりこのデカケツを虐めてやりましょうよ」

(おう、さっさとケツにむしゃぶりついてこいよ。てめえらの情けないちんぽなんぞいくらブチこまれたってどうってこと無いからよ!)


 トカゲは嫌がるように尻肉をくねらせるフリをして、逆に淫魔どもを挑発する。奇跡的な爆乳を抱いている胴は臍のあたりから鋭角的にくびれはじめ、腰を越えた途端に魅惑的にボリュームを取り戻す。巨大な肉風船を二つくっつけた巨大な尻は、剥き出しにされた途端に肉の匂いを振りまき始めた。それは香水や汗の匂いとも交ざり合って雄の本能をどうしようもなく煽り立てる。

 

 唾を飲み込んだビルダーが一人、タマゴをつまむような手つきで、筋肉の鎧の奥に更に筋肉を詰め込んだ内ももを撫であげてきた。指先と爪だけを使ったくすぐるような愛撫は巧みであり、気を抜けば脚腰が崩れそうだった。もう一匹のビルダーは無駄な肉を削り取りならも量感たっぷりの尻に専念するらしく、艶やかな鱗へと鼻息を吹きかけていた。弾力性を秘めた尻たぶに五指を食い込ませて、ハート型の輪郭に弧状の凸凹を生じさせる。

 

「ひひ、エロい下着しやがって。おらっ、ケツに食い込んでるぞデカケツ野郎!」

「んくぁあぁっ!?」


 きわどい紐パンツを引っ張り上げられて、さすがのトカゲも悲鳴をあげた。肛門に紐が食い込んでスリットが内に潰される。

 すぐさまもう一匹の淫魔は象牙と筋肉を練り合わせたような内ももからスリットへと手を滑らせて、紐が擦れるスリットを撫で回してくる。紐を割れ目のなかにこじ入れ、さらにその全貌をひけらかそうとして穿ってくる。

 トカゲは指の動きに合わせてわざとらしく膝を上下させ、顔を振り乱して喘ぎ声をあげた。背筋と腰もくねらせて、どう見ても悦に入ってしまっている表情だ。

 

「あっ!やめ、ろおぉ!そこはっ!」

「おやおや、スリットマンコは反応がいいですね。乳首よりも膣の方が感じてしまうのは、雌だから当然ですかね」


 馬鹿が。

 トカゲが聞こえないように喉を鳴らした。トカゲは当然スリットも開発しているが、乳首の方が圧倒的に感じやすい。愚かな淫魔どもはそれすら見抜けずにスリットへとむしゃぶりついてくるだろう。そのままスリットにちんぽをぶちこんでくれれば速やかに淫魔どもを退治できる。

 トカゲがあくまで食われる獲物を演じ淫魔どもを煽り立てると、無骨な指が魅惑的な肉の坂を滑り降りてくる。尻たぶを捏ね回し、むちむちな膨らみに挟まれた谷間に指を滑り込ませる。

 

「そ、そんなところぉおぉ!うわぁあぁ!やめてくれぇ!」

「心配しなくても大丈夫だぜ。すぐに前にマンコと同じくらい感じるようにいしてやるからよ」


 ごつい指先は肛門をとんとんとノックして具合を確かめた後、つま先をシワの間に潜り込ませ、ぐりぐりと押し込んでくる。トカゲの肛門は数えきれないちんぽを咥えこみ、色も形もはしたない娼婦のように変わってしまっているが、淫魔はそれに気づいていないのかご機嫌にシワを拡げて、染み出す愛液を指に擦り付けている。

 

「ん、ひぃいぃ!やめろ、ケツぅ。おれのケツがぁ」

「ケツの具合も良さそうだぜこいつ」

「じゃあ、ダブルトカゲマンコを開発してやるとしますか。おれたちのちんぽをブチこむにはじっくり拡げてやらねえといけねえからな」


 スリットマンコを弄っていた中指が深く潜ってきて、滑りを良くし始めた入り口をくつろげてくる。スリット内部から染み出す潤滑油をわざとらしくクチュクチュとかき鳴らし、浅く、深くと指を前後させる。

 同時に肛門を拡げようとしていた指先も根本まで差し込んでくる。おぞましい淫魔の指と言えども開発済みのマンコにはたまらなく、内壁を押し込まれると掠れた声が出そうだった。

 

「ぐっ!んんぅ」

「そそる声出すじゃねえか。おれたちのちんぽをブチこめるまでトロトロにしてやるよ」

「前のシャチくんは二本差しされただけでブッ壊れたからなぁ。お前は種付けまで耐えてくれよ」


 トカゲの頬に軽くキスをし、二人はタイミング良く指を抜き差しさせてくる。トカゲマンコを透視しているのではないかと思うほどの連携で、スリットと直腸の天井を交互に抉られる。トカゲの太すぎる腰は演技ではない色気を醸し出し、逃げるように前後し始めていた。

 淫魔のごつい指から逃れようとしているのだが、淫魔二匹は動きを見切っているのか腰を引いたタイミングでスリットの肉をつまんだり、逆に突き出した時には前立腺を押し込んでくる。

 

「ケツを鍛えてるせいかよく締まるなぁオイ!こりゃ良いオナホになりそうだ!」


 下品な嘲笑とは裏腹に指先は繊細で陰湿だった。直腸のヒダを丁寧に伸ばし、腸を押し広げ、弱い部分を抉り回してくる。トカゲが快楽への耐性訓練を行っていなければ口から泡をこぼして喘いでいたところだ。

 

(くうぅ❤❤調子コキやがって❤いつまでも前戯されたらこっちが参っちまう❤いっその事おれから……ヤっちまうかぁ❤❤❤)


 トカゲが羊の皮を脱ぎ捨てようと腕を縛るつり革を握りしめる。その気になればこんなチャチな拘束具など引きちぎれる。淫魔どもなど振り払い、組み伏せてしまうのもたやすい。

 

(どいつもちんぽギンギンにしやがって❤❤マンコを使うまでもなくヤっちまえそうだな❤❤❤)


 トカゲはひそかに筋肉をたわませてその肉棒に食らいつくチャンスをうかがっていたが、その必要は無かった。

 トカゲマンコから指を引き抜いたビルダー二人がチャックを降ろし、スーツに圧迫されていた巨根を曝け出したのだ。

 

「ひ、ひっ!何するつもりだよぉ!まさかっ」

「そのまさかだよ。今から兄ちゃんはコイツでオマンコ掘り込まれて、種付けまでされるんだ」

「そのキレーな腹筋がボテ腹になるまで注いでやるぜ。ひひひ、どんだけザーメンの匂いさせたってバレねえから安心していいぜ」

「やだっ!やだぁ!やめてくれ!誰か助けてくれえええぇぇ!」


 なんと手ごたえの無い連中だろう。

 トカゲは大声で泣きわめきながらも心の底を冷え冷えとさせていた。スリットとマンコは愛撫のおかげで少しは温まってきたというのに、単純すぎる淫魔どものせいで台無しな気分だった。

 

 淫魔どもは何も気付いていない。トカゲという獲物を狩る側だったその面は鼻を膨らませ涎を垂らした犬畜生のそれになっている事に。ちんぽをいきり勃たせトカゲの色香に溺れている事に。トカゲが淫魔を狩る側である事に。そして、淫魔を狩る者たちの武器は拳でも蹴りでもなく、その肉が詰った乳や尻である事に。

 

「オーシ!一番乗りはおれだ!おれたちのデカマラ専用になるまで掘りまくってやるぜぇ!へへ、へへへっ!」

(ほい、まずは一匹だな。コイツのちんぽの具合でどんだけ相手してやるか決めるとするかな)


 肛門に押し当てられる亀頭の感覚に舌なめずりをして、トカゲは肛門でちゅぱちゅぱと亀頭に吸い付いた。それはちんぽを奥まで咥えこみやすくするための仕掛けであり、愚かな獲物を罠へと誘い込むための餌である。

 事実、トカゲにちんぽを押し当てる淫魔は挿入前に臨界点を越えたようで、鼻息を荒く先走りを漏らし続けている。

 

 それはもはや捕食者の顔ではなく、目の前の餌に貪りつく家畜の顔である。知能も誇りもなく、自らの運命も分からぬ愚者の顔。淫魔はトカゲマンコの最奥まで一気に穿ってやろうと腰を叩き付ける――はずだった。

 

「ああ、これはいけません。私の狩場に狼が紛れ込んでしまったようですね」


 バリトンの良く通る声。あるいは時代劇で主役を張っているような低い男前な声。それでいて、街中の雑踏に紛れて消えてしまいそうな特徴の無い声色。

 その声には熱が無かった。人の性質が多少なりとも滲んでいるはずの声には、何も感じられなかった。その声だけで淫魔とトカゲを包む熱気は消え失せて、臓腑までも凍り付くような寒気に襲われた。

 

「危うく私の手駒を食われるところでした……いや、見事な手管でしたよ」

「……ッ!」


 トカゲは直観で理解する。

 目の前の淫魔どもと同じ姿形であるが、その中身はまるで違う。柔らかく微笑んでいるその顔にはおぞましい悪意が滲み出て、見ているだけで胃の中ものがこみ上げてきそうだった。

 

 こいつが親玉だ。トカゲの尻に汗粒が流れ落ちた。

 

「全く、狼を羊と間違えて牙を向けるなど。私の分身と言えど呆れてものも言えませんよ」

「お、狼ぃ?こんな美味そうな兄ちゃんがかよ」

「ええ、たっぷりと脂が乗っていて実に美味しそうですね。ですが、その脂は私達を誘い込むための餌なのですよ」


 親玉が手を振ると、淫魔どもはすぐさまトカゲから離れて周囲を取り囲む。まるで神の使いが湖を割ったように、トカゲと親玉の間に人垣で作った蜜ができあがった。

 トカゲは磔になったままの体勢で淫魔の親玉を睨みつけた。それは食われるべき獲物を装っていた時とは比較にならない獰猛な視線だが、親玉は意に介さずに尻肉を鷲掴みにした。

 

「良い、実に良いですね。形も肉付きも極上ですが、オナホにしてあげればいくらでも種付けできそうです」

「してもいいんだぜ?てめぇの粗チンにゃもったいない穴だが、特別に使わせてやってもいいぜ」

「ふふ、安い芝居は止めませんか?私も若輩者の淫魔ですが……あなた達がどうやって淫魔を狩っているかは知っているのですよ……『悪滅の蜥蜴』殿」


 尻肉を揉みほぐす手と囁かれる声にトカゲは沈黙で返した。言葉を返そうとすれば内心の動揺を隠し通せる気がしなかった。

 筋肉を蕩けさせるような指遣いと、自らの正体。そして何よりも淫魔を狩る為の牙を知られているという事実。

 

「淫魔は人の精と欲望を吸って生きる。ならば、精と欲望を吸い尽くされればどうなるか――ふふ、どうなるか教えていただけませんか?」


 トカゲが淫魔を狩る為の牙。

 それは、トカゲの肉体そのもの。精が淫魔の餌となるならば、逆に淫魔の精を食ってやれば淫魔は飢えて死ぬはずだ。そんな狂った思考の基に生み出された淫魔より精を吸う為の業。

 

 淫魔を己の肉体に溺れさせ、精を放たせ、欲望を受け止めて吸い尽くす。


「この方を抱いていれば、枯れ木になるまで精を吸い尽くされていたところですよ。危ういところでしたね?」


 それこそがトカゲの牙。

 淫魔を滅する為の刃にして、決して暴かれてはならぬ隠し剣である。いかに淫魔が愚かと言えども、抱けば死ぬと分かっていてトカゲに手を出すわけがない。

 こうして淫魔に正体を見抜かれた時点でトカゲの敗北は決定している。

 

「へ、へへ……だが分かっちまえばてめぇなんか怖くねぇ!」

「そうだッ!ちんぽをブチこめねえならおれらのテクでイキ殺してやるよ!」


 こうして淫魔どもがちんぽ以外でトカゲを堕とそうと試みるのは目に見えている。任務は失敗。トカゲのすべきことはすぐにでも逃げ出して、他の仲間に任務を引き渡す事のみだ。

 己の不甲斐なさに歯を噛み締めつつも、磔から逃げようと腕の筋肉を膨れあがらせたその時だった。

 

「まあ……待ちましょう。それでは我々は極上の獲物を取り逃がすことになる」


 淫魔の親玉が三下どもに待ったをかけたのだ。トカゲの尻を揉んでいた手は太ももへと戦場を移し、筋肉の硬度と柔らかさを兼ね備えた巨木を指先で楽しんでいた。

 

「見てください、この脚。筋肉の逞しさからして、締め付けも極上ですよ。今までの餌とは段違いの快楽をくれそうです」

「う……で、でもソイツを抱いたらおれたち死んじまうんでしょう?」

「ええ、その通りです。このトカゲさんがその気になれば、ですが」


 腰に手を回されて、トカゲは理解する。

 自分に自信のある淫魔が良く持ちかけてくる提案だ。囮とは分かっていても美味そうな餌は諦めがたい。それに淫魔を狩る為の狼を自らの手で飼いならし雌犬に堕とすなど最高の愉悦ではないか、と。

 

 淫魔を狩らんとするトカゲ。

 トカゲを食らわんとする淫魔。

 両者にとって益のある『提案』

 

「ゲームをしましょう。あなたと私――どちらが先に堕とされるか、互いの身体を使って勝負といきませんか?」

Comments

No comments found for this post.