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 冒険者ギルドに彼女が入ってくると、さっきまで談笑していた多くが黙りこくった。

 冒険者には粗野な人間が多く、些末なことは気に留めないことを美徳としていた。それを諦めさせる力が彼女にはあった。

 奇特な格好が原因だ。防具はおろか衣服すらも彼女は身につけていない。失敗して身包み剥がされるにしてもギルドに来る前にできることはある。ただ彼女には不可能だった。

「あっ、あのっ、クエストに失敗してしまって……!」

 くじ引きで彼女への応対を当ててしまった受付嬢は引きつった笑顔を繰り出すので精一杯だ。

「はい……えっと、それで」

「解呪をお願いしますっ!」

 ダンジョンに潜ってトラップや呪物でダメージを受けて帰ってくる者は少なくない。彼女もその一人だ。

「では、こちらの用紙に署名をお願いします」

 解呪は必ず成功するとは限らず、却って解呪すると危険な場合もある。だから期待を削ぐために同意書を交わす必要があった。

 ペンを差し出されても彼女は受け取れない。両腕は肩から少し先で失われ、金属のキャップが切断面を保護していた。

 逡巡して彼女はペンを咥えて名前を書こうと試みる。四苦八苦の末に書き上げたフォームは判読不能・照合失敗として拒否された。

「ごめんなさい!」

 彼女は謝った。受付嬢がなんのことか分からずにいると、背を向け尻を突き出した。

 露わになった肛門を押し拡げて、腸液にまみれた手が生えた。彼女の切断された腕は体内に押し込まれていた。空間転移魔法の一種が組み込まれていて神経も繋がっている。

 受付嬢はたまらず悲鳴を上げた。彼女は放り投げられたペンをしゃがんで拾い、口で紙をたぐり寄せて床に落とす。

 そして尻からはみ出た手先で必要事項を書き上げる。手首を動かすたびに直腸に不規則な圧が加わって便意を催す。ギルドハウスに帰還するまでの道のりも必死で尻穴を締めて、切り離された腕を落として失わないようにするので精一杯だった。

 物理的な容積による排泄欲はもちろん、感覚的にも一刻も早く腸内を空にしたかった。腸の中に腕を転移させられる前は触手生物に肛門を犯されている。

 詰め込まれた生殖液は腸壁から吸収されて血流に乗り、新たな感覚を浮かび上がらせる。張った腹部の表面からコの字型をした大腸の形が分かるように疼いて灼けるようだった。

 最後に自分の名前を書くと同時に限界が訪れた。ずっと緊張してばかりだった括約筋は引きつってその機能を失い、異物を押し出そうとする内圧に耐えられなかった。

「だ、だめっ! こんな、こんなところでだしたくない!!」

 彼女の懇願も虚しく液体が隙間から漏れる。変に甘さが感じられる生臭さが彼女を中心に広がる。書いたばかりの書類は汚れ、インクもにじんで判読不能となった。

 潤滑が進んでも、腕二本の太さとあっては勢いよく噴き出すことはなかった。腕が栓となって漏出を止めた一方で、肛門が引き伸ばされる時間を延長した。

「うぐぐぎぎ……」

 さっきまで出したくなかったはずなのに、千切れそうな括約筋が発する異常な感覚から反射的に力んでしまう。その先は更に太さが増していて、苦痛が増すだけだった。

 しゃがんだ体勢から立ち直ることはできなかった。諦めてその場から逃げ出そうと考え、試みた数秒後に彼女は後悔した。足元に自ら散布した粘液に足を取られて前のめりに転んだ。

 体が宙に浮き、石を敷き詰めた床に叩きつけられるまでの僅かな間に彼女は今回のことを思い返していた。

 こうなってしまうことを彼女は予期していた。ダンジョンの攻略難易度は彼女のステータスと比べ明らかに無理があった。それでも彼女は挑んだ。

 勇敢というわけではない。無謀だったわけでもない。このゲームの世界ではそういう約束だったというだけだ。

 彼女がいるのは現実ではない。最先端のゲームコンソールが生み出した仮想世界だ。

 ただし、プレイしているのは純正のゲームではない。ゲーム本体こそ正規のアドベンチャーゲームだが、有志作成のMODを導入している。ものによってはかなり過激なものもあり、彼女が体験しているのはそれだった。

 彼女は腕を突き出そうとして空を切った。身を反らして辛うじて顔面を打ち据えるのは避けた一方で、今や最大の弱点といえるカエル腹を衝突させた。

 腸が破裂することはなかった。しかし極限に高まった内圧は逃げ場を求めて最短経路を突き進む。その先には光があった。

 組織の伸縮限界を超えて腕が尻穴から飛び出した。野次馬気分で彼女の近く後方に立っていた男に液体が付着し、罵詈雑言が混じった喚き声を上げる。

 栓が抜ければ、それからは倒した瓶のように液体が垂れ流された。鬱滞していた血流が再開すると揺り戻しといわんばかりに血の気が引いた。

 薄れゆく意識の中では止める気もなかったが、それ以前に断裂した筋肉の輪はもはや機能を喪失していた。

 嘲りや軽蔑を彼女は強く感じていた。イヤなはずなのに、極度のストレスに脅かされた脳はそれすらも快感に置き換えようとした。

[newpage]

 目を覚ました彼女はまず肺に新鮮な空気を取り込んだ。ヘッドホン型の仮想現実機器を外して体を起こすと、股間のぬめりが音を立てる。ペットシーツを敷いていなければベッドを汚していただろう。

 気持ちよかったが、彼女はいまいち気分は良くなかった。退廃的な快楽は終える度に後悔をもたらす。それでも繰り返してしまうのは彼女の歪んだせいてき。

 PvPではないからゲーム内での経過時間に比べて現実で進んだ時間はわずかだ。それは最高のゲーム体験をもたらすが、時間つぶしとしては非効率的だった。

 朝がくるまで時間はまだある。後ろめたさが消えるはずもないのに彼女は催眠ヘッドホンを制御するパソコンを覗いた。

 使用中は眠っているようでいて常にレム睡眠であるために睡眠の代替とはなり得ない。遵守すべき一日使用時間・連続使用時間は注意書きに記載されているが、それを守るゲーマーは希有だった。

 フォルダを漁って次のシナリオを探す。アブノーマルなMODが詰まったそれは法に触れかねないもので、学校では品行方正で通っている彼女の唯一といえる暗部だった。

 ダウンロード元のサイト別にフォルダに分けて、ファイル名で内容が概ね分かるよう管理していた。そのうち秘匿ソフト経由でないとアクセスできないサイト由来のものがあった。

 現実と違わない仮想世界に誘うそれにはある種の都市伝説が伴う。だけど彼女はもちろん信じていなかった。ダークネット由来のMODを使ってこなかったのはコンピュータウイルスといった現実的な危険に由来する。

 しかし今日の彼女は違った。暗号化ファイルを開いて抜き出したそれをゲームフォルダに押し込める。

 いっそのこと、ひどい目に遭えばこんなことに嫌気がさしてくれると思ったからだ。さっきまでのものと同じ系統で、もっと酷い目に遭うように作られたものだ。

 ゲームを再起動させてヘッドホンを当てる。左右で周波数がわずかにずれてうねりが頭を揺らす。精神を落ち着かせて導眠作用があるものだが、それ以前に彼女は条件反射的にその音階を耳にすると眠気を覚えるようになっていた。

 そして彼女は新たな仮想世界に捕らわれる。

[newpage]

 軋むような痛みで彼女は目を覚ました。続きからではなく、最初からゲームが始まるように選んだはずだった。ゲームの構成まで手を加えるのは進行に問題が出てしまうから手を加えるMOD制作者は少ない。

 彼女は往来のまっただ中で座っていた。服はもちろんなく、生傷や青アザだらけの体は生々しい臭いを放っている。

「ふっ……うううぅぅ……」

 心優しい誰かが彼女のために椅子を用意していた。肛門を押し広げ、直腸を満たす異物が彼女の台座だ。逃れようにも彼女の両足を伸ばした先には枷がはめ込まれている。

 足枷は金具が渡されているだけで、開くのに鍵は要らない。手を貸してもらえたなら彼女は今すぐこの場を移動することができる。

 両腕はなかった。肩から少し先、隆起程度の関節部分を残して落とされている。いつもと違って切断面が露出していて、磨りガラスのようなケロイドが形成されていた。

「っぷ……げえええ」

 それを目の当たりにした途端に彼女は胃内容物で口を膨らませた。飲み戻せず吹き出したそれらは動物から排出されるものばかりで、彼女を余計に嘔吐かせる。

 腕は切断された。その瞬間が彼女の脳裏をかすめたのだった。赤熱した鋸で肉と骨を断たれた。鋸を引くほどに脳を揺らすような痛みが刺さり、そして皮膚が灼ける臭いと音が広がった。

 記憶として残っているが実際にプレイしたはずがない。彼女としてはついさっきプレイを開始したばかりだ。

 恐怖を覚えた彼女は強制終了をしようとしたが、その為のオプションが開けなかった。ゲームをゲームたらしめてるユーザーインターフェースへのアクセスが封じられている。

「い、いやだ! 出して! ここから出してぇ!!」

 既に何度も叫び、何度も吐いた後らしく喉は荒れきっていた。そのわめき声を不快に思った通行人が異国の言語で罵って彼女の顎をつま先で蹴り上げる。上体が揺れると連動して尻穴に負荷がかかる。

 口を開けたまま殴られても噛みちぎってしまうことはなかった。歯は抜かれて代わりに柔らかなゴムの球を歯茎に埋められている。

 こんなことになったのは罪を犯したからだ。もちろん彼女の身に覚えがなく冤罪で、市民の公共物として奉仕する罰が与えられた。刑期が終わって働きが認められれば解放されるというが、体を元に戻してもらえるわけでもない。

 市民の慰みになることが彼女に課せられた労働だ。性的な意味、暴力的な意味もある。

 正午過ぎから夕暮れまでが彼女に唯一許された自由時間になる。その間に少しでも眠って体力を取り戻す必要があるが、この環境ではまとまった眠りがとれるはずもない。

 気絶と覚醒を繰り返すうちに奉仕時間になった。役人がやってきて足枷を外し彼女を立たせる。奉仕といっても遊び尽くされた最下層の娼婦を客がわざわざ待つはずもない。

 所定の処置の後に送り出されると、しばらく罪人の末路を見せしめるため一秒も休憩を許されず街を歩き続けるだけだ。もしも好事家が彼女を二束三文で買ったならやっと歩みを止めることができる。

 昼間は子供が歩いて快活な街も街灯が点けば表情を一変させる。湿った欲望が渦巻いてむせかえるようだ。

 歩みは遅い。足枷の代わりと言わんばかりに、可動域を制限する装具を取り付けられた。カチャカチャと耳障りな音を立てて大通りを通る。

 ど真ん中を通っても往来に邪魔されない。彼女の体は汚物そのもので、関わる気のない者からしたら迷惑極まりない存在だ。だからすれ違いざまに肩を棒で打たれる。ケロイドが張っている切り口から骨格に響く。

 腫れぼったい乳房の先にある突起は針で穴を開けられた後に金属がいくつも埋め込まれている。そのうち左右のリングピアスで胸の前にカゴをぶら下げられていた。彼女が使用料金受け取るためのものだ。誰かがそのカゴに石を投げ込んだ。

 不意な刺激で彼女は身を震わせる。排泄物を垂れ流す下半身の穴と比べればこれでも乳首はまだ無事な方だ。

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