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 食洗機から出てきたグラスの水気を拭き取って、棚の奥に入れ込む。洗いたてのグラスは温かく、それに酒を注いだら悲惨なことになる。

「ダブル、ロックで」

 作業に割り込んで注文が入る。彼女はグラスに丸氷を入れて置き、ジガーで琥珀色の液体を取り分けて注ぐ。バースプーンでかき混ぜて全体を冷やすと客に渡す。キャッシュオンと呼ばれる都度払いで、1000円札がカウンターに置かれた。

 またベルが鳴って客が入る。今度は彼女の顔見知りだった。

「あれ、今日は……」

 雀荘が開いてから一度も鷹丸は御用聞きに降りてこなかった。だから今日は来ていないものと彼女は思っていた。

「ちょっと、眠れなくて」

「ああ、失礼しました。いらっしゃいませ」

「いやそんな……」

 自分で飲むことはないにせよ、酒を頼んで受け取った回数は多い。そして酒絡みでトラブルがあったから、彼はいくらか罪悪感を抱いていた。

「何にしましょう? 気になるものがあれば、どうぞ」

 飲み物のメニューは用意されてなかった。だけど、昼間は布に覆われて隠れているバックバーに淡く照明が乗っている。同じ銘柄で年数の昇順に並んだウイスキー、劇的な色のミントリキュール、影一つないグラス、そのどれも彼の目を引く。

 だけど理解できたのはビールだけだった。彼がまともに飲んだことがあるのもビールくらいだった。

「大学生ってやっぱり飲むんですか?」

「やる人はやってますね」

 ついこの間もサークルで人が集まって飲み会に進んだ。彼は乾杯のビール以降からウーロン茶をロックで飲んでいたから、その場の誰よりも冷静を保って酔い潰れた学生の介抱にあたった。

「酒なんか飲むな、とはボクも言えませんけど、ほどほど楽しいくらいにすべきですよ。そんな風になると気持ち悪いだけです。たとえばショット四本を口に差し込んで流し込むとか」

「そんな具合だったんですか?」

 鷹丸はアカネがやらせたかったことに興味が湧いてきた。あのときは確かに仕事中で関わって欲しくなかったが、今なら誰も彼を待っていない。

「テキーラのショットを……」

 ユキの顔が陰る。

「それは、もう少し慣れてからにしませんか?」

「そうします。じゃあ、あっ、大学の先輩にイエガー好きか? って聞かれました」

「イエーガーというと……これですね」

 緑色の角張ったボトルが差し出される。中には黒色の液体が入っていて、いくらかとろみがあった。度数は三十五パーセントで、冷凍庫に入れても完全には凍結しない。

「その先輩になんて答えました?」

「いや別に、と答えたらファックユーって言われました」

「ああ……これもショットで飲まれるお酒ですね」

 ショットグラスに十ミリリットルほど注がれて差し出される。極度に冷却されたそれは白い霧を纏っていた。口に含んでみると刺すような感覚の後に、彼が子供の頃に中耳炎になって飲まされたオレンジ色の抗生物質と似た風味が突き抜ける。

「薬、ですかこれ」

「あながち間違いではないですね。五十六種類のハーブ類が使われている薬草系リキュールです。好きになれました?」

「あんまり、ちょっと」

「それなら……」

 ふとユキの顔が引き締まる。牛乳をステンレスピッチャーに移し、エスプレッソマシンのバルブを回す。水蒸気が出るのを見てから、ノズルを浸けて吹き込ませる。手の甲で温度を確認し、タイミング良く離してカウンターに打ち付ける。

 ショットグラスにブランデー、イエーガーマイスターとコアントローをそれぞれ等量に混ぜ、バーナーで着火する。どれも度数が高い酒で、なみなみと注がれた液面から青白い炎が立った。

「今日という日を吹き消してあげてください」

 微笑んで、ユキは抓んだショットグラスを鷹丸に突き出す。言われたとおり、操られるように彼は口を窄めて息を吐いた。

 陶磁器のマグにショットグラスの内容物を移して温めた牛乳を注ぎ、きめ細かな泡で蓋をする。仕上げにココアパウダーを振りかけて完成した。

「ナイト・シェードです。どうぞ」

 ハーブティーのような香りに釣られて一口含むと、砂糖とは違うリコリスの甘さが広がりかけて、柑橘類の皮に由来する苦味がまとめる。鼻から薬草の辛み成分が抜けた。

「ナイトシェードって、確か……有毒なナス科植物の名前だったような」

 痺れるようなトロパンアルカロイドを含む植物だ。代表的なものにはベラドンナがあり、イタリア語で『美しい女性』が名前の由来になっている。

「ご存じでしたか。ナイト・キャップというカクテルを原型にしているので、それもあるんです。そっちはアニゼットとオレンジキュラソーで、卵黄を使いますが」

 また一口飲む。アルコール分は牛乳の脂肪分に紛れてあまり感じられない。だけど腹に温めた石を入れたように熱がじわじわと広がる。

「寝酒というやつですか」

「そうなりますね」

 鷹丸は懐を漁った。ダーツケースを置いて、その次に財布を出す。

「たぶん、ミサにつけたら喜んで出すと思います」

「いや、悪いですよ、そんなの」

「失礼しました。1000円になります」

 額面通り彼はカウンターに置いた。財布をしまっても、ダーツケースはそのままにした。

「恥ずかしいことに、やっと引っ越しの段ボールを全部片付けたんです。そうしたら、これが」

「ダーツ、長いんですか?」

 ふたを開くとタングステンのバレルが現れる。間が開いてしまって、金属光沢に翳りが見えた。

「小学生からです。母の影響で」

「おお……通りであんなこともできる訳です」

「いやあ、アレは自分でもビックリでしたよ、流石に」

 新しく注文したばかりのティップを捻ってとりつけ、シャフトにフライトを取り付ける。

「やってもいいですか?」

「どうぞ」

 誰もダーツマシンを使っていないから、彼は立ち上がった。ネット対戦ができるマシンで、カードを差し込むとデータが読み込まれる。コインを投入するとゲームが始まる。

「こんなレート初めて見ました」

 上位五パーセントに入るスタットが現れる。深い夜でも全国で募集をかければマッチングした。画面に福岡からの映像が映り、手を振ってお互いに挨拶をする。

「けっこう間が開いちゃったので、どうでしょうね」

 ゲームはランダムで、スタンダードクリケットと701の二つから無作為に選ばれる。機械が選んだのは701だった。ダーツを投げて先攻後攻を決めるが、鷹丸はブルに入らず相手はダブルブルで先攻を奪われた。

 相手は当然のように三本全てをブルに収めて150点を削った。次いで鷹丸は出だしで20のトリプルを狙ったが右に逸れて一点に終わった。次からはブルを狙うも左右に逸れて九点、十三点と終わった。その次の相手はブル二回、逸れて十九点で119点を削る。

 再び鷹丸は二十トリプルを狙い、今度は入れた。そのまま二の矢を放つと一本目のダーツに弾かれてミスになった。マシンは点数を受け付けなかった。

「あっ」

 鷹丸から声が漏れる。立ち位置を見直すと、再び二十トリプルに入る。

 そこから鷹丸は一ラウンド180点を連発して最大効率で削るが、初動の低得点のせいで後攻ということもあり十八点を残して負けた。最後はにこやかに手を振って別れた。

「負けちゃった」

 その場の誰もが唖然としていた。ソフトダーツでは多くの場合、ファットブルを採用していて効率と確率からブルが狙われる。だから二十のトリプルを執拗に狙うことはセオリーに反する。

「もしかしてプロ?」

 見ていたバーの客から声がかかる。お互いに面識はなかったが、鷹丸はにこやかに受け答えをする。

「いえ、試験を受けられてなくてプロ資格はないです。行ける気はしてます」

「すげえ……俺たち全然ですけど、見てたらやりたくなっちゃって。一緒にいいですか?」

「もちろん。鷹丸です。よろしくお願いします」

 混ざる前に鷹丸は飲み物を頼んだ。さっきの一戦で酒は手元をブレさせると分かったからアイスカフェオレだ。氷を満載したグラスにエスプレッソのダブルが注がれ、残りを牛乳で埋める。

「投げ放題にしましょうか。一台一時間1000円になります」

 ユキがカウンターから出てきてダーツマシンの設定を変更する。そのまま捕まってしまい、彼女もダーツに混ざってしまった。ただ、その場の全員が関わって仲間はずれが出ないから快く受け入れた。

「ゲームはお任せします」

 鷹丸はゲームを任せて、先攻を得た。先ずはウォーミングアップが必要だった。

「まずカウントアップから」

 カウントアップは八ラウンドを投げて合計点で競うスタンダードなゲームだ。鷹丸が最初に投げて二十のトリプル狙いで外すも、二本目からはブルに入った。

 そこから彼は三投とも全てブルに入れるハットトリックを連発した。終わってみれば鷹丸が1200点台に対し、他の三人は600点から200点だった。

「本当に1200って超えられるんすね」

「続けていればいずれか……ダブルスでやります?」

 鷹丸とカウントアップで最下位だった女性が、二位と三位の男性がそれぞれ組むことになった。

「ユキさん、テキーラ十杯ください」

「鷹丸さんはちょっと……代わりにボクが」

「チームメイトだから私飲みますよ」

 肩代わりを約束されると鷹丸はテキーラマッチに参戦した。三レグのメドレーで、最初は501だった。

 最初に投げたのは鷹丸だった。二十のトリプルを入れ、十九のシングル、十八のトリプルと続いた。代わって七十点が削られる。

 鷹丸と組んだ女性は三十二点を削った。次い110点が削られる。

 そして十九のトリプルに入れることに成功すると、十七のトリプル、十六のトリプルと決めた。

「テンパイしてくるじゃん。次に全部二十のトリプル入れたら上がりだよ」

「いやいやいや! ムリでしょ!」

 120が削れて彼女に回ってくる。二十のトリプルを狙ったはいいものの、一と五に逸れて、そのうちブルに一本入った。

「あっ、やった!」

「ナイスワン!」

 101点と削って相手もテンパイにとり、鷹丸に回ってくる。二十のトリプルを入れるも、次は七のシングルを連発してきっかり五十点を残して終えた。

「次、真ん中に入れれば勝ちですね」

 ユキがダーツ初心者である彼女の補助に回っていた。

「えーっ! 私が決めるの!?」

「外したら難しくなるので、一発でお願いします」

「めっちゃプレッシャー」

 とはいえ鷹丸の相手も次にブル二回で終わりだ。しかし初弾を外し十九に打ち込む。果敢に前投の感覚を活かして十九のトリプルを狙うもダブルに逸れた。十一のシングルで三十二に調整して終える。

「ナイスアレンジ」

「よくやった。次任せとけ」

 代わって彼女はダーツを構える。しかしいったん下ろして息を整える。

「大丈夫、真ん中抜くだけですよ」

 鷹丸のぞんざいな助言を受けていくらかヤケクソ気味に放った。吸い込まれるようにブルのど真ん中に刺さり、残りをゼロにする。

「入った!!」

 本人が最も驚いていた。メドレーでは勝敗が決していないのに、二人がテキーラを流し込む。勝ったはずの女性まで、勝利の美酒として飲んでしまった。

 次はスタンダードクリケットだ。前のレグで負けた男二人チームが先攻になってダーツを投げる。二十トリプルを狙うも二マークに終わった。

「ヤバい!」

 交代で、後攻の初投は鷹丸からだった。二十、十九、十八のトリプルに刺してホワイトホースを決めた。

「初手ホースはマズいって!!!」

 そう悲鳴を上げながらも彼らは黙っていない。十七のトリプルを狙うと、その通りに入る。それが三回繰り返された。

「ナイスベッド!」

 102点が加算される。彼女は二十、十九、十八を狙うも全て外して未だゼロ点で終わった。彼らはベッドで覚醒したのか、二十シングルと十八トリプルでクローズし、十七のダブルで更に加点する。

 ベッドを受けて鷹丸も十九のベッドを返した。これで鷹丸のチームが点数を上回った。

 しかし十七のダブル、シングルと続き十六を二マークする。彼女は十九を狙ってシングルが一本入っただけに終わった。

 十六シングルでオープンされ、十六ダブルに入れると十九のクローズにかかる。トリプルに入って一発クローズになった。

 鷹丸は息を飲んだ。十五のオープンを狙うも二投かかって七マークだった。

「イケるぞ!」

 十七のシングル、ダブル、シングルと続く。彼女は十五のシングル一本で

終わった。代わって十五のクローズにとりかかるも三投必要になった。これで試合は分からなくなった。

 鷹丸に回る。狙えるのはブルだけだった。彼は右手に息を吹きかけた。そしてダーツを握って構えては、離れて息を整える。

 しかし意を決して投げる。かなりハイテンポの投擲になった。そのどれもブルの内側、ダブルブルを抜く。オープンし、七五点の加点になる。

 歓声が上がる。そうそう見られる芸当ではないからだ。

 ブルを開いたままにするのはマズいと判断して、まず十七のトリプルを狙うがシングルに外れた。

「やっべ……」

 ブルをクローズするには最低でも二投必要だ。また十七のシングルに入れて、ブルに一マークする。

 彼女はブルに入れることだけを考えればよかった。一投目は下に外れた。

「そのまま二十狙うつもりで投げてみてください」

 鷹丸のアドバイスも虚しく上に逸れすぎてボードに収まりもしなかった。三投目も外れる。この回ゼロ点だった。

 こうなるとチャンスが生まれる。十七のシングルとダブルに入れて点数が上回ると、インブルを狙う。一マークはされているから、インブルに入れれば勝ちだ。

 しかしそのプレッシャーが彼を襲う。外せば、次は鷹丸だから高確率でクローズして負けてしまう。

 何度かグリップを修正して、投げた。インブルから逸れてアウトブルだった。苦悶の声が上がる。

 鷹丸がそのチャンスを逃すこともなく、まず十七と十六をクローズした。

 こうなると最後に点数を上回るためにインブルを打つ必要がある。彼らもそれなりで次にブルに一本も入らないということはない。

「これど真ん中に入らないと負けちゃいますね」

 他人事みたいに鷹丸は言う。そうして投げた矢は、結局ど真ん中だった。二人はテキーラを飲んだ。

 このメドレーで飽きて女性はダーツから抜けて三人で打つことになった。鷹丸としては四回目の501で、初弾から十二ダブルに入った。残り二投は二十トリプルで144点を叩く。

 次は180点を出した。こうなると異常な空気になる。次に二十トリプル二回、そして十九トリプルで上がれてしまう。彼の後に投げた者は集中が切れて薄ら寒い点数になった。

 やがて鷹丸に回ってくる。まず二十トリプルから狙った。命中した。

 次も二十トリプルだが、散々入れた後だから他愛もなく入る。

 最後は十九トリプルだった。彼は振り向いて観客を煽ってしまった。右手の指先に息を吹きかける。

 いくらか時間を取った末に投げる。十九トリプルに刺さった。完全試合で鷹丸の勝ちだ。

「よっしゃ!」

 鷹丸は声を荒らげ、ガッツポーズを見せびらかす。もはや誰もが勝敗はどうでもなくなっていた。

「ユキさん! ご祝儀! ナインダートだよ!!」

「いやいや! ウチで出るって思ってないから用意してないよ!」

「とりまカンパーイ!」

 勝手に彼らはテキーラを飲み干してしまった。気をよくした鷹丸まで、一杯だけ手を伸ばそうとしてユキが止めた。

「それならいいものがありますよ!」

 ユキはカウンターに戻って酒瓶を置く。同じくテキーラだが冷やされておらず瓶の形も大きく違った。グラスもショットではなく、ウイスキーを嗜むための膨らみを持たせたテイスティング用が出される。

 コルクを抜いて五十ミリリットルだけ鷹丸に渡される。手の中で転がして香りを嗅ぐと、それだけでショット用のものとは違うと彼も分かった。口に含むと、樽香と甘味が全面に感じられ、その後でやっとテキーラ特有の青臭さが主張する。

 半量飲んで、彼は味見として他の人に回した。彼らもそれを飲むのは初めてだった。

「これショットで出さないん」

「だいたい値段三倍になりますね」

 そう言いながらユキは自分用にグラスを作った。

「うお……ちょっちキツい」

 つまり1500円だ。テキーラマッチでラウンドのたびに飲んでいたらあっという間にキャッシュオンデリバリーを採用しているバーとは思えない料金になる。

 高度数のアルコールを流したことで鷹丸にも酔いが回った。彼の手元すらズレ始めると、他はベロベロになってゲームが成立しなくなった。終いには皆、思い思いに身を委ねて眠ってしまった。

 朝の五時になるとバー営業も終わりになる。一人声を掛けて起こすと、申し訳なさそうに他を起こした。

「鷹丸さんは――」

「ボクが見ますよ。お構いなく」

 寝過ごした客が出て行って鷹丸だけ残る。二人きりになって、彼女はエスプレッソマシンを動かした。蒸気が吹き込む音で彼は目を覚ます。

「うわっ!? すみません。いま何時――」

「大丈夫ですよ。いま、コーヒー淹れてます」

 出来上がったコーヒーが渡される。彼としてはなじみ深い味だった。

「寝てしまうなんて」

「いいんですよ。他もいなかったので」

 店じまいを進めながらユキは答える。グラスをかき集めて食洗機にねじ込み、ビールタップも簡易ながら分解清掃まで行う。

「あの、鷹丸さん、ナインダート達成ということでダーツゲーム永年無料はどうですか」

「……いいんですか?」

「是非、ウチで投げてください」

 朝食まで彼はご馳走になった。彼は登校のため、六時になってバーを出て行った。

 入れ替わるようにミサが入ってきた。即座に眉をひそめる。

「飲んでるの」

 いつも奢られそうになってもユキは断っている。だから営業後にアセトアルデヒドの匂いを纏うことはほぼない。

「鷹丸くんも飲んでたよ」

「はあ!? 何で呼んでくれなかったの!!」

「ミサは仕事中、でしょ? 鷹丸くんはプライベートで来てたから上司に会わすなんてできないよ」

 意地悪く、ユキは微笑んで見せた。

「めっちゃ淫魔するじゃん」

「正直ミサがあの子に惹かれるのが分からなかったけど、今は分かったかも」

 それは匂いだった。フェロモンと切っても切れないサキュバスは誰よりも理解していた。体臭から彼らは塩基対の組み合わせを把握できてしまう。ハーピーもサキュバス程でないにせよ本能的にそう感じられる。

「いや、別に、そんなつもりはない」

「じゃあボクが――」

 ミサはカウンターに飛び乗った。そして文句を言おうとして、ひどく言葉に詰まった。言いたいことと言いたくないことが喉で衝突する。

「降りて。冗談だよ。ボクはコレだしね。ただ今のままだとミサはあの子を不幸にすると思う。それだけ気を付けて」

「分かってる……分かってるさ」

 ミサは床に立つ。出来上がったトーストとコーヒーはしっかり体内に収めた。その日はしばらく、ミサの軽口もなりを潜めた。

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