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翌日、冬優子はいつものように街を歩いていた。 体型はアプリで戻せたし、常軌を逸した結果を叩き出したことも改変の効果でみんな違和感を持っていない。 大きな番組収録だったので、今日一日はオフだ。 久しぶりに買い物をしつつ、繁華街の歩道を歩く。 (あんな仕事こなして、普通に過ごしてるんだものね……) 冬優子は自分に呆れるように心の中で呟く。 すさまじい負荷をかけたはずなのに、筋肉痛や疲労はまったくなかった。 むしろ強豪の男たちを圧倒した充実感がずっと残っているような感じだ。 外に出たのも、余韻の残る身体が疼いてじっとしていられなかったのもあった。 (そういえば、あの身体で動き回るのは初めてだっけ) これまで、膨れ上がった筋肉に包まれた自らの身体に対して、恐る恐るしか反応できていなかった。確認するように筋肉に触れたり、誰もない場所へ逃げ込んだり……最低限の動きしかしていない。 すぐにアプリで元の体型に戻していたし、服や体面を気にして身体を動かすどころではなかった。 運動系のイベント中だったとはいえ、筋肉の持てる限りの力を発揮したのはあのときが初めてだった。 全力を出しつつ、それでも湧き上がってくる力。 常軌を逸した怪力と、女性どころか男性でも届かない筋肉量となった肉体。 それを見つめてくる観衆の視線。 あのときの光景を、そして感覚を思い出し……。 (気持ちよかった……) どこか恍惚とした表情を浮かべる冬優子。 全力でステージを終えたときのような……むしろそれ以上の快感が、全身の筋肉から滲みだしていた。 異様なものとしか思えなかったはずの膨れ上がった身体が、悪いものじゃないように思えてくる。 使えば使うほどに膨れ上がって、快感がいっそう強さを増して…… ボコォッ! 「っ!?」 思考を遮るように押し寄せてきたのは、全身に走る熱と張りつめる圧迫感。 視界に入ってくる胸板と盛り上がった両腕を見下ろして理解する。 一気に筋肉が膨れ上がったのだ。 「うそ……どうしてこんな突然……」 呆然と自分の身体を見下ろす冬優子。 じわじわと肥大化していたはずの筋肉が、その法則を無視して急激に肥大化したのだ。 予想外の事態に困惑を隠せない。 しかし、ずっと立ち尽くしているわけにもいかなかった。 (とにかく、人目のつかないところに……) 改変の効果があれば不審者扱いはされないだろうが、どんどん破けていく服のまま歩くのは冬優子の羞恥心が耐えられない。 繁華街の大通りから路地裏に逃げ込み、人目につかない場所にきて大きく息をつく。 原因不明の現象だが、アプリが勝手に効果を強めたのだろうか? ……いや、心当たりは別にあった。 (昨日のイベントから……よね) 筋肉を思い切り使って、みるみる大きくなっていった肉体。 そして、どこかそれを受け入れていた冬優子自身の意識。 なんとなくだが、それが大いに影響しているような気がした。 ……しかし、このまま身体が膨らみ続ければ外で全身を晒すことになってしまう。まずは身体を戻すのが先決だろう。 イベントの最後で体操着を破いてしまったことを思い出しつつ、冬優子はアプリを開いて数値を戻す。 「ふぅ……」 入力してすぐ、体型が一気に戻っていく。いつも通りちゃんと機能はしているようだ。 しかし路地裏から出ようと振り向いたところで、アクシデントは起こった。 ブロロロロ……! 急激に大きくなってくるバイクの音が、冬優子の動きを止めさせた。 暴走族を連想させるような大音量で近づいてくる複数台のバイク。 あろうことか路地裏のそばに停めだし、人影が降りてくる。 「今日はほんとシケてんな」 「やっぱタバコ吸わなきゃやってらんねーわ」 ぞろぞろと5,6人のグループで路地に入ってくる男たち。 気崩した服装も、歩き方も、周囲に聞こえる話し方も、あきらかにガラが悪い。 不良なのかヤンキーなのか、少なくとも冬優子と年齢はさほど変わらないようにみえる。 (まずい……!) 危険そうな相手には近づかないのが一番だが、状況がそれを許してくれない。 路地裏ゆえに出口は彼らが入ってきた方向しかなく、冬優子のいる奥は完全な行き止まりだ。 しまったと内心で後悔するが、こうなってはどうすることもできない。 どうにか気付かれないでくれと願うものの、コツコツと彼らの足音は止まることなく近づいてきてーー 「……ん、誰だ?」 「!」 集団の一人が、壁の影で小さくなっている冬優子に気付いた。 避けられなかった遭遇に、冬優子は声をあげることもできない。 「女じゃん」 「こんなとこで何してんの」 グループの他の不良たちもぞろぞろとやってきてしまった。 女子だと知って態度を改める様子もなく、むしろ相手が弱いとみて増長していく。 「ここね、俺たちの縄張りなわけ。わかる?」 「す、すみません。そんな場所だなんて全く知らなくて……」 迫ってくる不良たちに対して、ふゆとして穏やかに対応する冬優子。 このまま誤魔化しつつ、路地裏を抜けだすことができればいいと思っていたのだがーー 「お、めっちゃ美人じゃん」 「……あれ、こいつ黛冬優子じゃね?」 「っ!」 体型への違和感は持たれていないようだが、顔でバレてしまった。 有名人だということを理解して、他の不良たちも色めき立つ。 「アイドルがこんな場所で何してんのかな~」 「ちょっとオレらと遊ぼうぜ」 どんどん事態は悪化していく。 事務所も含め、現役アイドルに手を出すなんて愚かにもほどがあるが、「その後のこと」を考える知性など彼らにはないのだろう。 「ここでヤって写真撮ればずっと強請るんじゃね?」 「お、いいなそれ」 犯罪じみたことまで言い出す不良たち。 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、隙があれば胸や尻に触ってきそうな勢いだ。 あきらかに冬優子のことを下にみている。完全に舐めきった態度。 (黙ってたら好き勝手言ってくるわね……) しつこく絡んでくるだけでも厄介なのに、その態度が本性としての冬優子を苛立たせる。 それでも、表情には出さないよう理性で抑えつける。 「ごめんなさい、ちょっと用事があって……」 「おい、逃げてんじゃねーよ」 がしっ! アイドルとして穏便に済まそうとする冬優子だったが、肩を掴まれ強引に動きを止められた。 周囲の輩も囲んだままさらに距離を詰めてくる。 迷い込んできた上玉の女を、逃がさずにもっと愉しんでやろうという空気がグループの中に蔓延していた。 (こいつら……) 「お、なに、抵抗する気?」 「女の細腕に何ができんだよ」 不良たちを睨みつける冬優子。その反応をみて、面白がりつつ煽ってくる不良たち。 彼らの方が体格はいいし、数人がかりなら抑えつけることも容易だろう。 ……この身体のままなら、だが。 「さっきから好き放題に言って……」 「あ? んだよやんのか?」 冬優子の苛立ちが最高潮に達したときだった。 ビリッ! 「……ん?」 唐突に、場違いな音が響く。 戻したはずの筋肉が急激に膨れ上がり、私服が張りつめたのだ。 服の縫い目が裂けたのだと、冬優子だけが身体に響く振動でわかった。 薄暗い路地でははっきりとは見えず、少しだけ困惑する不良たち。 そして、それは始まりにすぎなかった。 ムグギュッ! 「……え?」 掴まれていた手を弾き返すように、冬優子の肩が内側から膨れ上がった。 不良の方は理解が追いつかずに、ボーリングの玉のように張り出していく筋肉を眺めて固まっている。 「逃がさないんでしょ? 掴んでみなさいよ」 肩だけではない。連鎖するように二の腕と前腕それぞれにボコボコとした膨らみが生まれ、連なっていく。 振り払われた不良は、膨れ上がっていくそこに再び手を近づけることができなかった。 「あ~、きっついわね……ふんっ!」 パツパツに張りつめた私服に不快感を示す冬優子。 気合を込めると同時に引き延ばされた襟まわりを起点に胸元が一気に裂け、女性的な膨らみではなく、ゴツゴツとした岩のような胸板が露わになった。 縦に走るのはみるからに固そうな溝、そして左右にドンと張り出した、乳房ではない隆起……大胸筋の塊がグムグムと膨れ上がっていく。 「ほら、ふゆを強請るんじゃなかったの?」 ギチチッ……バリィッ! 私服はあえなく限界を迎え、殻を破るかのように全身すべて破け散った。 露わになった肌は、すでに内側からパツパツに引き延ばされ、筋肉の形がくっきりと浮かび上がっている。 どんな格闘家よりもバキバキの肉体に、囲んでいた不良たちも圧倒されて一歩距離をとる。 「背中だってぇ……はあぁぁっ!」 筋肉があるのは前面だけではない。 少し前かがみの体勢で腰に手をあて、背中へと意識を集中させる。 グムグムと分厚く大きくなっていく広背筋が、甲羅を背負っているかのように両脇からはみ出し、さらに広がっていく。 翼を広げるように張り出した筋肉の塊は、左右に広がりすぎて二の腕とも干渉しはじめる。 ついには腋まわりの空間が筋肉に埋もれ、上半身は逆三角形どころか巨大な塊にしか見えない。 「ほら、もっと見なさいよ……見ろっ!」 冬優子は興奮と怒りのままに力を込めながら両腕を曲げ、その肉体を見せつけるようにポーズをとった。 どうして怖がっていたのだろう。 つい先日、もっと力自慢の男たちにも勝ってきたはずなのだ。こんな不良どもよりも、ずっと大きく屈強な身体を相手に。 筋肉量だけみても、何倍もこちらが上……それだけの強い力があるのだ。 自然と浮かぶ思考の中、その顔には肉食獣のように獰猛な笑みが浮かんでいた。 「女の腕じゃ何もできないって? えぇ?」 見せつけるように腕を曲げて彼らの前に突きつける。至近距離にいた不良がビクリと反射的にあとずさる。 上腕二頭筋が胸板と干渉するほどに盛り上がり、小指ほどありそうな血管が肌のすぐ下を這っている。 あまりにも太くなった剛腕は、二の腕だけで不良たちの顔を覆い隠せてしまうだろう。 「もっと……もっとおぉ……っ!」 全身を晒している冬優子だが、もう羞恥心はない。あるのは彼らへの怒りと、筋肉への渇望ばかり。 すでに発達した筋肉たちもさらにボコリと盛り上がり、イベントで披露した肉体をさらに上回ったバルクへと仕上がっていく。 全身から湧き上がる熱が、そのまま質量を持って具現化していくようだ。 「ほら、あんたたちの倍はある脚ィ!」 樽のように筋肉を詰め込んで膨れ上がっていく太腿は、あまりのサイズに内腿がぶつかり合い、立っている姿勢そのものがガニ股になっていく。 そして膝で一度収束した輪郭は再び大きく膨れ上がり、ふくらはぎも筋肉の塊だということを見せつけている。 「バッキバキに割れた腹筋!」 胸を張るようにして、その下にある腹部を見せつける。 腹筋は6つに割れているのはもちろん、発達しすぎてギチギチとひしめき合い、溝が埋まってしまっていた。 腰回りは胸と尻のボリュームに挟まれているが、決して細くはない。 引き締まったという言葉が使えないレベルでボコボコと太くなった胴体は、どっしりと大木の幹のように存在感を放っている。 表面からみえる筋肉だけではなく、身体の深部にある筋肉もすべてが肥大化しているがために、すさまじい太さ、厚みの肉体を形成していた。 「ふーっ、ふーっ……❤」 全身に力を込め続けていたからか、冬優子の息が荒い。 高揚感と興奮、くわえて筋肉から伝わってくる解放感と疼き。 肌のすぐ下でビキビキと血管が浮き上がり、力が伝わるたびに全身がうごめいている。 「き、筋肉ダルマ……」 「どういうことだよ……」 いつの間にか2メートルを超えた巨体になった冬優子を見上げ、唖然としている不良たち。 身長が上回っているのはもちろんだが、横幅も路地の8割を占拠していた。 太腿も二の腕も、彼らの胴体より太く発達した姿は、立っているだけでも圧倒的な威圧感があった。 「……で、誰が強引に犯すって?」 不良たちを見下ろしながら声をかける冬優子。 彼らはアプリの改変により、体型が変化したことには違和感を抱けていないはずだ。 ……しかし、目の前の相手に対する本能的な恐怖は抑えようがない。 圧倒的な強者となった冬優子に、彼らは自然と腰が引けていた。 一般人であれば、ここで距離を取るなり謝るなりして終わるだろう。 しかし、さっきまで見下していた相手に屈するのは、彼らの不良としてのねじ曲がったプライドが許さなかった。 「な、なんだよ、見せかけの筋肉だろ?」 口だけの威勢で刃向かう態度を崩さない不良たち。 相手の強さの判断を放棄して、ただ「デカい筋肉は見せかけ」という思い込みだけでイキろうとする。 半ばやけになった発言ともとれるだろう。 「……そう」 冬優子は彼らを見下ろしつつ、静かに呟く。 もう、いちいち反応するのも馬鹿らしい。 不良たちと相対していた冬優子だが、くるりと後ろを向いた。 「お、おい、なんだよ、逃げんのか?」 「わざわざ加減してあげるのもバカらしいのよ」 太腿に匹敵するほどに太くなった腕は、その先にある手もすさまじく分厚くゴツい。 元の身体の倍以上に大きくなったこの手であれば、いとも簡単に彼らの顔を覆うことくらいできるだろう。 しかし、わざわざケガさせないようにこちらが力加減してやること自体がバカバカしい。 そんな義理はないし、彼女の筋肉は求めていないのだ。 のしっ、のしっ、ずしっ…… 冬優子は路地裏の道幅ギリギリになった巨体をわずかに斜めにしつつ歩き、出入口に留めてあったバイクを示す。 ここにやって来たときのうるさいバイク音の正体がこれだろう。 不良らしくというべきか、バイクの中でも大型でゴテゴテと装飾が施されており、重量にすれば300キロくらいはあるだろう。 「これ、あんたたちのよね?」 「……だったら何だってんだよ」 聞いてはみたものの、彼らがバイクで来ているのを見てはいるし、単なる確認でしかない。 返事が否定でないことを確認してから、冬優子はバイクの座席あたりを片手で掴み……引き上げた。 ズズッ…… 「あっ……なぁっ!?」 重機が動いているかのように、冬優子の右腕の先にバイクがぶら下がっている。 ただ座面を掴んでいるだけでバイクの全重量をその手で管理していた。 現実離れした、映画やCGでしか見れない光景に絶句する不良たち。 「よいしょっと」 ガシッ 冬優子はバイクを持ち上げたまま両手を使って2つのタイヤを掴み直し、胸の前で固定する。そしてーー 「おらああぁぁぁっ!」 気迫のこもった叫びとともに、大胸筋がボコりと収縮する。 腕の筋肉もさらに膨らみ、血管がパンパンに張り詰めた。 数秒間、そのままの体勢で固まっていたのだが…… ギチッ……ギシッ 唐突に、何かが軋む音が辺りに響きだした。 それは絶対に、バイクからしてはいけない類の音。 さらに数瞬おいてーー バギャァッ! バイクが、中央から真っ二つに折れた。 あまりの衝撃に、誰も言葉を発することができない。 静寂の中で万力のように閉じられた両腕が、ふたたび開いていく。 しかし折れ曲がったバイクが元に戻ることはなく、ゴシャリと鈍い金属音を立ててバイクだった残骸が路地裏の隅に投げ捨てられた。 一連の動きを、呆然と固まって眺めることしかできない不良たち。 「誰が見せかけの筋肉だって? あぁ!?」 冬優子は昂ぶりのままに、己の肉体を馬鹿にしてきた奴らを睨みつける。 あまりの気迫に彼らの身体がビクリと跳ねる。 その顔に先ほどまでの余裕はない。しかしーー 「うっ……うらあぁぁああっ!」 追い詰められた恐怖か、バイクを壊された恨みか。 半狂乱になった一人が転がっていた鉄パイプを掴み、冬優子に殴りかかった。 素手で勝てないなら、武器を使えばいい。 そんな安直かつ暴力的な思考で鉄パイプを振り下ろした。 ドスッ 鉄パイプは冬優子の胸板に当たり……それだけだった。 冬優子の身体は微動だにせず、それどころか表情も眉一つ歪むことがなかった。 殴った方も鈍い反動だけが手に返ってくる。まるで、トラックのタイヤでも殴りつけたような……。 振り下ろした不良も、他の面々も理解が追いつかず、静寂が辺りを包み込む。 「そんなオモチャで、ふゆの筋肉を傷つけられるわけないでしょ?」 振り下ろした体勢のまま固まる不良を見下ろしながら、ガッシリと鉄パイプを掴み、胸から外す。 張り出した大胸筋は、あざの一つもない。 そして鉄パイプは不良がいくら力を込めてもピクリともしなかった。 「それで全力? 本ッ当に貧弱ね」 ただ握っているだけなのに、指の形に歪んでいく鉄パイプ。 冬優子はそれを両手で掴み直し、雑巾を絞るように……ねじ切った。 ギチュッ! まっすぐだったはずのパイプは、一瞬で2本のねじ曲がった鉄屑となった。 自分が握っていたものの末路をみて、不良も反射的に手を放す。 「さぁ、次に歯向かってくる奴はどいつだぁ?」 睨みつけつつ、しかし身体は期待するようにピクピクと震えている。 あまりにも愚かな彼らの振る舞いへの怒りと、筋肉を使ったことで生まれる快感と疼き。 もっと力を発揮したい。思いっきりこの身体を使いたい。冬優子は衝動をぶつける相手を求めていた。 「「「…………」」」 しかし不良たちに動きはない。ただ圧倒され、固まってしまっているようだ。 そんな様子に、冬優子の筋肉は発散し足りないと訴えてくる。 「ほら、かかってこいよ、相手してやるからさぁ!」 「ひっ!?」 冬優子が一歩距離を詰めると、彼らは一歩後ずさる。 さっきまでの威勢はどこかへ消え、ただ怯えることしかできなくなっていた。 そんな彼らの態度に、冬優子はフラストレーションが頂点に達しーー 「うぐおおぉぉぉおお!!!」 全身の筋肉に力を込め……自然とモストマスキュラーのポーズを取っていた。 人間離れしたバルクをさらにパンプアップさせた冬優子の肉体。 あまりに肥大化した全身の筋肉に、冬優子自身が飲み込まれていくようだ。 「ひっ、ひいぃぃいい!」 不良の1人が脱兎のごとく逃げ出した。 その動きで我に返ったのか、他の連中も後を追うようにどんどん逃げ出していく。 逃げ去っていく彼らを追うことはなく、路地裏に冬優子が1人残された。 「あれだけ強がってたのに逃げちゃって……歯ごたえがないわねぇっ!」 元凶がいなくなったところで、興奮はすぐには治まってくれない。 行き場のない怒りと筋肉の疼きが全身を渦巻いている。 ここは無人の路地裏……加減してやる必要もないのだ。 振り上げた拳の行き先を求めるように、全身の筋肉を収縮させる。 「ふんぬぅ! ……うらあっ!」 ポージングを繰り返し、バイクの残骸を握りつぶし……衝動のままに身体を動かしていく。 「もっと……もっとよ……おらぁぁああああっ!!!」 冬優子は誰に見せるでもなく、ひたすら全身の筋肉を怒張させていた。

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