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入渠ののれんをくぐる……というよりも駆け抜けた影がひとつ。 「島風がいっちばーん!」 華奢な肢体に、色素の薄い長髪。下着はビキニの水着のようで、その上にコスプレのようなセーラー服を身に着けている。普通の女性ならば痴女かと思いたくなるような服装に、頭にはウサギの耳のような大きなリボン。 駆逐艦の島風だ。 「はやく入っちゃおー♪」 早着替えでもしているのかと思いたくなるスピードで服を脱ぎカゴに投げ、浴場へと踏み込んでいく。 流石に濡れた床は走らずに早足なのだが、着任した当初は走っていたため叱られた……という過去の教訓の賜物だったりする。 ザブンッ! 飛び込みにはならないギリギリのラインで、勢いよく全身をお湯の中へと潜らせた。 スラリと伸びた脚は適度な脂肪に覆われ、少女らしくも美しい脚線を描いている。 この脚は島風にとってスピードを出す最も大切ないつも走り回っているため負担が掛かっている場所でもある。 「……?」 ユニ入ってからもせわしなく両脚をばたつかせてていたのだが、その感覚に妙な変化が生まれつつあった。 動かそうとするたびお湯がまとわりついてくるかのようにズッシリと重い感触が返ってくるのだ。水の抵抗が一気に増えたような、何か重りをつけて動かしているかのような気がしてくる。 ただ疲れそのものはしっかりと取れているらしく、足自体は力がみなぎって仕方ない。島風は抵抗が掛かろうがおかまいなしにバタ足を続けていた。 そうこうしているうちに、入渠は短時間で終了した。 「入渠もはっやーい!」 駆逐艦かつ損傷が軽ければ皆同じような時間になるのだが、短いこと自体が満足に繋がるらしい。 とくに急ぐ必要はないものの一気にお湯からあがる島風。 露わになった全身は見事なまでに筋肉に包まれていた。 細い身体の印象は消えてはいないが、皮下脂肪のほどんどない絞り込まれた筋肉体型をしている。胸もサイズアップはしておらず、大胸筋が盛り上がるのみだ。 どちらかといえば筋肉量を競うボディビルよりも形の美しさを競うフィジークのような、筋肉が覆いつつも腰まわりの括れの深さまで追求したかのようなフォルム。 常に晒されている腹はシックスパックがひしめき合い、筋肉がコルセットのように細さを維持するように締めつけている。ウエストだけでいえば、入渠前とほとんど変わらないだろう。 上半身のみであれば「脂肪が筋肉に置き換わった」程度の変化だった。 しかし凄まじいのは下半身である。 太腿は片方だけでも、彼女のウエストほどありそうな太さ。ボコボコと岩山のように大腿筋が折り重なり、分厚く大木のような脚をつくり上げている。摘み上げられそうなくらいに太い血管が這い回り、太腿の筋肉が本来のスペックを発揮できるように血流や酸素を循環させている。 括れた腰から一気に左右に広がっていく体型は、今までみたことのない筋肉脚線美を描いていた。 「私の脚……ふっとーい♡」 いつも駆け足のせいで注意を受ける彼女だったが、脱衣所へと一歩一歩踏みしめるように脱衣所へと向かう。 軽々とした足取りは見る影もないが、太すぎて左右に開き気味に動かさなければ前に歩けないのだ。 身体のバランスを考えるとあまりにも太く逞しい両脚。 その気になれば走ることもできるかもしれない……が、その気は彼女にはなかった。 この太腿を、筋肉を見せつけたい。そして有り余った力を発揮したい。 走るくらいじゃ物足りない、もっと重くて強い負荷を両脚にかけたくて仕方なかった。例えばだが、大量の資材を背負ったまま屈伸すれば思う存分この脚を使えるかもしれない。 そんなことを考えながら下着代わりの水着を身に着けていく。ちなみに下半身を覆うパンツは限界まで引き伸ばされ、紐のようになっていた。 「誰に見せに行こっかな~♪」 その精神は容姿以上に筋肉の虜になっており、誰を筋肉仲間にしようか考え始めていた。 島風は駆逐艦の中で唯一、同型艦がいない。それゆえに私生活でも姉妹たる存在のいない、いささか寂しい生活を送ってきていた。半ば強制的にではあるが筋肉化した今、その身体を使って同類を増やそうとするのは自然なことなのかもしれない。 「そうだ、天津風にしよっと!」 陽炎型駆逐艦の天津風とは縁が深く、高速駆逐艦として必要な高温高圧缶をテストした艦でもある。つまり正式ではないが、島風の姉に近い存在といえた。 彼女の全身が筋肉に覆われていく……同じ肉体美を共有する存在になれる。それを想像するだけで、もういてもたってもいられない。 「どんな身体になるのかな~♪」 ズシズシと一歩ごとに大きな足音を立てながら、天津風が待機しているであろう寮の部屋へと急ごうとした。 「はぁっ、ふぅっ……あっつーい!」 両脚を大きく動かすたび、アウター代わりの筋肉によって身体が熱くなっていく。 その中には天津風の筋肉化するさまを想像しての興奮によるものも入っていたのだが、それはさておき。 全身から汗を滴らせながら、それさえも構わずに大股で駆け出していく。 くぐったのれんは、しばらくその足の振動で小刻みに揺れ続けていた。

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