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そんな状態が数日経ったあるとき、長門はIowaから声を掛けられた。 「どうかしたか?」 「Youに聞きたいことがあるのだけど、ここの人たち……why? なんで私を避けるの?」 単刀直入な質問。長門も彼女の件については、いずれ解決しなくては……と考えていたところだった。 他の艦娘からも相談されていたのだ。Iowaとどうコミュニケーションをとればいいのか分からない、端的にいえば怖い、と。 しかし、どう説明するかは難しい。容姿や、様々な振る舞いが積み重なった上での現状である。その微妙なニュアンスを目の前の相手が理解してくれるとは思えなかった。 「……自分の振る舞いを省みてはどうだ?」 つい嫌みめいたことを言ってしまう。しかし、この日本的な言い回しも彼女には伝わらなかったようだ。 「どういうこと? 私の身体が違うから?」 まったく心当たりがない、と言わんばかりにキョトンした顔で聞いてくるIowa。 中途半端な言い回しは通用しない、そう覚悟を決めて少しばかり意味をハッキリとさせる。 「自分の身体に自信を持っているようだが、我々からしたら異質なものでしかないぞ」 長門の言葉に、意外だと言わんばかりに目を見開いた。 「Why? これだけグラマラスなプロポーションだと嫉妬されてるわけ?」 「違う! 脂肪と筋肉の塊など……醜いではないか」 どこまでも傲岸不遜な彼女の態度に、つい口を滑らせてしまった。 駆逐艦の子の胴体ほどもある太腿や、丸太のような腕が美しいとは到底思えないのは事実だ。女性らしさの欠片もないゴツゴツとした肉体に、それらをアピールするかのように常に広げられた両腕と太腿。 同じ艦娘でなければ距離をとってしまいたくなる異様さだ。 しかし面前で言ってはいけない言葉なのは間違いない。 「す、すまない。この国の美意識とはズレていてだな……」 なんとか取り繕おうとする長門だが、Iowaはニコリと微笑んだ。 「ノープログレム、気にしてないわ」 罪悪感は消えていないし現実に問題が解決したわけでもないが、ひとまず胸をなで下ろす。 しかし、次の言葉がわずかな安堵を吹き飛ばした。 「貧相な身体は仕方がないわよ。Meとは遺伝子からして違うんだもの」 「なっ……!?」 これまでの彼女の態度は、「自分の方が上である」という思考からきていたのだ。 下にみられていた、その事が長門のプライドをいたく傷つける。 「どんなに鍛えても私の半分の太さもない腕……」 「っ!?」 ガシッと二の腕を掴まれる。 反射的に振り払おうとしたのだが、微動だにしない。 「離せっ……!」 「非力なJapaneseの身体には限界があるものね、かわいそうなくらい」 長門は自らの身体を相当鍛えてきたつもりだ。しかし、体型が女子のそれから離れてしまうほどには筋肉はついていない。 それは自然なことのだが、不自然なほど筋肉で太くなっているアイオワの腕と比べると子供のようだ。膂力が違いすぎる。 掴んだ腕を解放せず、Iowaが語りかける。 「そんか薄い身体でガマンする必要はないのよ? Meが来たからには、長門だって美しい体になれるわ」 「私はそんな駄肉をつけるつもりはない!」 敵対心に違いもの抱きながら叫ぶ。筋肉そのものを否定するつもりはない。しかし脂肪に包まれたIowaの身体は、長門が理想とする肉体とは程遠かった。 しかしアイオワに堪えた様子はなく、さらに続ける。 「アメリカにも脂肪の少ない人はいるのよ……そう、bodybuilder!」 瞳をキラキラとさせながら語るIowa。その脳内には肉体のイメージが描かれているのだろう。 ボディービルダー、肉体美を見せることを生業とした人達だ。 長門にはほとんど知識がなかったが、アメリカはボディビルの本場である。世界大会で優勝した者はプロとしてもかなりの収入を得るほどに有名なのだ。 「長門みたいにストイックな人は向いてるわ。成ればいいのよ!」 「お前の言うことなど聞くものか!」 知らない概念に成れと言われて「はいそうですか」と頷くわけもない。掴まれた腕を振りほどこうと抵抗し続ける。 対してIowaは表情や雰囲気を一切変えることなく、さも当たり前のように右腕を長門の背中に回し、その身体を一気に引き寄せた。 「ほら、私の筋肉flavorを堪能なさい?」 「むぐっ!?」 Iowaに強く抱きしめられ、大胸筋と脂肪で構成された深い谷間に長門の顔が埋められる。 左手が後頭部を抑え、抜け出すことができない。 ムワァ…… 筋肉によって熱くなった身体は汗をかいており、呼吸するたびに濃厚な匂いが鼻をつく。 Iowaの筋肉から漂う何かが長門の頭にまで染み込んでいく。 (身体が熱く……) 圧倒的な力に包まれ、抵抗する精神力を失った長門の両腕がダラリと脱力する。 直後、その肉体に変化が現れはじめた。 ミシッ、ビキッ、バキキッ……! 長門の身体、正確にはその筋肉が音を立てて肥大化していく。 引き締まっていてなおかつ柔らかそうな二の腕から脂肪が消えていき、代わりに発達した筋繊維が詰まって筋肉の隆起と深いカットが形成されていく。 埋もれた長門の身体が徐々に内側から膨れ上がってIowaの乳肉を押しのける。 「Great!」 Iowaはその様子を嬉しそうに見つめていた。 彼女の身体は筋肉の上に脂肪がのったプロレスラーのような身体つきだが、今まさに変わりつつある長門は違っていた。 鍛錬していたとはいえある程度残っていた彼女の脂肪が消えていくのだ。うっすらと乗っていた皮下脂肪さえも筋肉が発達するための糧になっていた。 (なんて心地いいんだ……!) Iowaの胸の中で、長門は自信の変化に恍惚としていた。 服を破きながら大胸筋が分厚い塊へと変わり、背中も隆起しながら左右にも広がっていく。 どこか細さもあった長門の胴が太く筋肉で覆われ、大木の幹のようにガッシリとしていく。 ただでさえ割れていた腹筋が、ボコボコと肥大化しながらひしめき合う。 辛うじて支えていた両脚が、風船を膨らますように太く固く変わっていく。 そのすべてがとても素晴らしいものであると頭が認識していた。 「……ぷはっ!」 長門の身体から音が鳴り止み、Iowaの胸元から大きく息をつきながら離れる。 彼女の艶めいた黒髪や凛とした顔は変わっていない。しかしその下は完全に別のものに変わっていた。 まず首からして顔の横幅よりも太く、その境目がみえない。後ろからは像帽筋がのびて、山の斜面のように左右に広がっている。 肩はボールを埋め込んだかのように大きく張り出し、続く腕は丸太のように太く深い筋肉の谷間が走っている。とくに二の腕は力を込めずとも力瘤が浮き上がっているが、圧倒的な筋肉量によってその下にある上腕三頭筋の方が大きいことが見て取れる。前腕は筋繊維を浮き上がらせながら複雑に筋肉が絡み合っている。 後ろからみると背筋がボコボコと見たことのないような隆起で肩甲骨を覆い隠している。正面からみても腋の下からはみ出しており、顔よりも大きな二の腕とぶつかってしまう。自然と半開きの状態になっており、もう両腕が締まりきることはないだろう。 胸は元から豊かなバストを持っていたが、今の長門の双丘は、大胸筋によって大きく押し上げられている。胸の谷間は深くなっているが、その半分以上が筋肉によるものだ。「乳房が胸板についている」といった表現の方が的確に思えるほとだ。 胸の下では前鋸筋がギチギチと浮き上がりながら肋骨を覆うようにひしめいて、中央をシックスパックが主張する。 括れをつくりながらも筋肉によって太さを増した腰まわりは、縦に割れたへそを汗が伝いどこか淫靡な印象を与えていた。 ヒップからは柔らかな印象が消え失せ、代わりに大臀筋が詰まった筋肉塊と化している。バルクのみでサイズアップした尻はツンと上向きつつ、左右は引き締まって窪んでさえいた。 続く両脚も太さを増したうえに大腿筋が幾重にも折り重なって複雑な形で隆起しており、見るからに堅く岩のようだ。人間というよりも恐竜の脚のような異質さを秘めている。 膝でいったん収束した筋肉たちは、ふくらはぎで再び左右に広がって力強さを失わない。 異様なほどの筋肉量だが、全身すべての筋肉がそれぐらいに肥大したためバランスは取れていた。 筋肉の塊と化しながらも、完成させた肉体美。 「これは……」 全身を確かめるように見回す長門。 服はすべて破け散り、パンパンに膨れ上がった筋肉がよく見えた。 色素の濃かった肌はさらに褐色に染まり、全身から噴き出す汗がテカテカと光沢を放つ。 異様ともいえる姿だが、嫌悪感はまったく湧かなかった。むしろこの身体になれたという嬉しさが湧き上がってくる。 「Congratulations! これでナガトも立派なbodybuilderね!」 満面の笑みを浮かべたIowaから差し出されたのは、黒のマイクロビキニ。 着けると最低限の箇所のみをピッタリと隠し、筋肉を思う存分見せつけることのできる身体となった。 「ふんっ!」 全身に力を込め、筋肉を限界まで膨らませる。 筋肉の銅像のような異質さをまとった肉体に、蔦が這うように血管が浮き上がりドクドクと脈打ちながら大量の酸素と栄養を送り込んでいく。筋肉が応えるように収縮して、さらにサイズアップした。 筋肉を膨らませる快感に、自然と口角が上がっていく。 Iowaに抱きしめられる直前より、全身の力が数段跳ね上がった感覚もあった。 満足感に浸りながら、長門は自分の身体をじっと見つめて呟く。 「……美しい」 宝石でも見ているかのようにウットリとした表情で自らの筋肉に魅入っていた。 腕を動かすと、上腕二等筋頭と三頭筋が形を変えながらボコボコと山を形成しつつうごめく。 大胸筋の谷間に指を挟んだ状態で力を入れれば、まるで万力のように筋肉の塊が締め付けてくる。 腹部に触れればボコボコと板チョコのような腹筋の手触りが。 両脚、とくに太腿に触れると、今まで感じることのできなかった大腿筋の凹凸が手のひらに伝わってくる。 柔らかさは皆無だが、美しい曲線と力強さを兼ね備えたヒップ。 男であっても到達できないバルクにくわえ、完璧に絞り込まれた身体。 異様とも思えるが、いまの長門には至高の肉体美でしかない。 価値観が完全に、筋肉で塗りつぶされていた。 自分はあのみすぼらしい身体で満足していたと思うと、今はおぞましさすら感じてしまう。 「どう、筋肉のこと分かってくれた?」 変えてくれた恩人……Iowaの身体をみる。 太ももやヒップのボリュームはそのほとんどが筋肉で形成されていた。胸は爆乳を押し上げる大胸筋。 脂肪に覆われてもいるが、女性らしさを失わない身体には長門とは違った魅力があった。 先入観を捨て去った今なら、肉体美が理解できる。 「素晴らしい……!」 自分たちはこれほどにも最高の肉体を忌避していたのか。 後悔しながらも、長門の思考はすぐに前向きなものに切り替わっていた。 「相互理解のためにも鎮守府の皆に、この肉体美を身をもつて学んでもらわなくてはな」 「Wow! 理解してくれて嬉しいわ!」 言いながらも、何かを取り出すIowa。それは食時のときに飲んでいた粉の詰まった瓶だった。 「それは何だ?」 「アメリカから取り寄せた特製プロテインよ!」 差し出された白い粉を筋肉で太くなった指につけ、ペロリと舐める。 「……!」 長門が目を見開く。ほんの少量を口にしただけで、全身の筋肉が歓喜したのだ。 「これを摂取するだけでも、みんな美しい身体になれるわ!」 「なるほど、皆に広めるには最適だな。……間宮の食事に混ぜるか」 完全に筋肉の虜となった長門は大きく口角を上げ、これまで見たこともないような笑みを浮かべる。 「間宮には私が直接『説明』しよう。もちろんこの身体を使ってな」 Iowaに見せつけるように大胸筋をピクピクと震わせながら語る。 今から間宮の悦ぶ顔が目に浮かぶようだ。甘味や食事は皆が食べるものだ、濃厚なプロテインを摂取すれば、みな筋肉に対する考えも変わるだろう。

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