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2プリンター  「こんにちわー! 大塚さんにお届けものでーす!」  翌日、智也の部屋に3Dプリンターが届けられた。   「案外近くに住んでおられたんですね。どうもです、俺が赤ベコっす」 有名な宅配便会社の制服を着た若い男は3Dプリンターの大きな箱を下ろしながら智也に笑顔を向けた。 「えっ? ええっ!? あながた『赤ベコ』さん、でしたか!」 何度も荷物の集荷や配達で見た事のあるこのスタッフこそ、今回3Dプリンターを智也に無料で譲ると申し出た人物であり、SNSでのフォロワーの一人でもあったのだ。 「あ、いやぁ、いつもコメントなどありがとうございます」 「こちらこそ。HOMME烈人先生にはいつもお世話になっています」 「HOMME烈人(オムレット)」とは智也の同人ペンネームである。 ちなみに、サークル名は「ふわとろおむれつ」と名乗っている。 文字でしかやり取りの無い相手とのリアル対面に気恥ずかしさを覚えながらも、智也は頼流との会話を思い出して確かめた。 「本当に無料で頂いちゃっていいんですか?」 「はい。もちろんです」 「登録料とか利用料金が発生するとか?」 「無いですよ」 「やっぱ要らないとなった時に違約金を要求されたりは……」 「それも無いです。そんな面倒なモノをHOMME烈人先生にお譲りする訳ないじゃありませんか」 「後でやっぱり返してほしいとか……」 「ご心配なく! それはもう本当に不要です。処分するにもリサイクル費用とかがいるみたいでマジで困ってたんですよ。 ですんで、使い心地どころか使い方すら分かっていませんが、その辺りは丸っとお任せしちゃいます。 ともあれ、フィギュアの完成、期待してますんで頑張って下さい!」 実際に配達する者が提供者でありSNSのフォロワーであり薄い本の読者でもある上、ここまで大丈夫、と言われたのなら目の前に置かれた3Dプリンターを受け取らざるを得ない。 「じゃぁ、ありがたく受け取らせて頂きます。配達までして頂いて」 「いえいえ。俺も自己負担は実質ゼロ円ですしお気になさらず! しかも処分費用も助かっちゃってますし」 もし、不良品だったり使い心地がさっぱりだった場合は改めて回収に伺います、と赤ベコは名刺を智也に渡し、次の配達先へと去って行った。 「まさか、芦原 京介【クロベコ急便・六甲営業所・主任】、が赤ベコさん、だったとは」 名刺を見つめる智也はあんなに笑顔の爽やかな、いかにも女子にモテそうな顔立ちのイケメンの男でも自分の描いた薄い本でムラムラしてたりするのか、と思うと嬉しくもあったが残念な気持ちにもなった。 何故なら、智也は表向きは女の子好きの異性愛者として振る舞い、同人活動も男性向けノーマルラブを描いているのだが、本当は同性を、同じ男を性的な対象として捉えているゲイだからであった。 「まぁ、お互いに顔バレしたんだし、詐欺とかはまずないっしょ」 気を取り直した智也は届けられた大きな段ボール箱を開梱し、中から3Dプリンターの本体を取り出した。 サイズは縦・横が40cm、高さが60cmほど。まるで縦置きにした電子レンジのような外観と大きさであった。 「置き場所は、ここでいいか。電源は……? あれ? コンセントが見当たらないな」 電源のコードがどこにも付いていない。 「もしかしてこのサイズで充電式? それでも、充電用ケーブルとかはある筈だよな」 ところがやはり充電ケーブルは付属されていないのだった。 「マジか。電源無しだなんてぜってーダメじゃんか。むむぅ、ご好意でもらったけど使えないんなら早くも処分対象?」 保護フィルムまで外してさぁ、これから、と期待に胸を膨らませていただけに大いに落胆する智也。 がっくりと気落ちしつつプリンターの電源ボタンを押してみた。電源無しで起動する訳が無いと知りながらも諦めきれずに。 するとどうしたことか、鈍い音を響かせたプリンターは電子的な「ピッ!」と言う音を立てて智也に起動した事を知らせたのだった。 「え? う、動く? どうなってんだ? 内臓バッテリー?」 どう言う仕組みかは分からないがコードレス系のマシンだったのだ。 「ふぅ~……、一時はどうなるかと思ったけど、無事に起動してくれたんだし、良しとするか! んで、トリセツは、確かQRコードからサイトに飛んでスマホにダウンロード、だったよな?」 本体を取り出す時に現れた付属のペーパーに書いてあった通り、智也はスマホでQRコードを読み込み無事に説明書をゲット。 それは、アプリ形式の説明書であった。 「アプリってのが最近の説明書って感じだよな? えーと、なになに? 『初めに、本機をご使用になる前に下記の重要事項を熟読し、全てに了解であれば同意のボタンを押してください』――か。 ま、あれだろ? 無茶な使い方をしたら壊れますよ的な注意とかだろうし、この辺はパーッとスルーして『同意する』をポン、と」 注意事項をほとんど読まずに流した智也はスマホの表示を最下段にまで滑らせ、深く考えずに次のステップに進んだ。 『この度は、リンクドール作成用3Dプリンター・ピグマリオンをご購入いただきましてありがとうございます。 まずはユーザー登録をしましょう。 登録方法は本機の上部にある投入口に遺伝情報を含む細胞を投入してください』 「細胞? てかリンクドール? なんだそりゃ?」 『ユーザー登録をしましょう。チュートリアルの前に登録をして下さい。登録の無い場合はご使用頂けません』 「よく分からんが使えないのは困る。細胞……か、細胞ねぇ……、何が良いんだろう?」 『精液、血液、唾液、毛髪、皮膚小片等をカプセルに入れてから投入して下さい。排泄物などは故障の恐れがあるので投入しないで下さい』 「カプセル?って? ああ、こいつか。血とかは嫌だけど唾液で良いんなら」 投入口の蓋を開けると出て来たカプセルをつまみ、その直径1cmにも満たない小さな容器に唾液を吐き出し再び投入。 すると、すぐにスマホ画面に反応が現われた。 『登録完了いたしました。ユーザー名・大塚 智也 様。性別・男、性交経験・ゼロ』 「えっ? ちょっとちょっとぉ? 唾液を入れただけでそこまで情報が出てくるもんなの? 嘘だろう?」 性交経験、つまりセックス経験の有無までどうやって知れるのか。唾液の中にある遺伝情報にはそこまで含まれているのだろうか? 『これよりチュートリアルを開始します。チュートリアルではユーザー・大塚 智也 様のリンクドールを製作します』 「俺のドール? 別に俺なんかの人形を作ったって嬉しくもないんだが」 『リンクドールとのリンクが正常に機能しているかをチェックして下さい。もしリンクが繋がっていない場合は、お手数ですがユーザー登録に戻り最初からもう一度やり直してください』 「は~、そうですか……。こいつはどうしても俺のフィギュアを作れ、と言う流れだな。分かったよ仕方ねえ。んで、 素材はどうすんだよ? あと、俺のデータとかは?」 『チュートリアルに付き追加素材やデータは不要です』 「あれ? どっちも要らないの?」 『設定を変更しない場合は、こちらのリンクドールの出力を開始します』 智也のスマホにフィギュアの完成予想図が表示された。 それはまるで、全裸になった智也そのもの。髪の長さもホクロの位置も寸分違わない智也が5分の一になったフィギュアであった。 「うわ~。ホントに俺だぁ~。初めての作品が自分自身とはなぁ……」 生白い肌にスリムと言うより貧相と言った方が正しい智也の肉体。体質もあって運動不足なのに太れないのがずっと悩みでもあった。 『設定変更される場合は以下からお進み下さい。ただしチュートリアルに付き次の3点のみ変更可能となっています。髪色、体型、ペニスサイズ』 「って、変更できるのソコかよ! もっとこう、イケメンにするとか可愛くするとかじゃなくて?」 渋々設定変更の画面を開いてみた。 『髪色→赤・青・変更しない』 「赤か青? 地味顔の俺にそんな色似合わねぇだろ。なので変更しない、っと」 『体型→スリ筋・マッチョ・変更しない』 「むむぅ……。フィギュアくらいマッチョでも良いか」 『ペニスサイズ→2倍・4倍・8倍』 「おいおい~? ここだけ変更しない、が無いの? つか、8倍って?」 智也は頭の中で8倍になった自分のイチモツをイメージした。1m近くに達する超巨根。太さまで8倍化するとすれば文字通り3本目の脚になるではないか。 「だが面白い……。チンポだけやたらとビッグな俺のフィギュア、か。ま、チュートリアルって事は本番じゃねぇし、 ここくらいふざけたって構わないよな」 智也は8倍を選択。そして設定変更を終了した。 『これより出力製作を開始します。完了予定時刻は4時間後、21時の予定です。製作中は絶対にドアを開閉しないで下さい』 「それなりに時間がかかるんだな。じゃぁ、その間は作業でもやっとくか」 静かに動きだした3Dプリンターを背に机に座った智也はPCと液晶タブレットを開き、次のイベントにて頒布する予定の 同人誌を描き始めた。 気になって時折振り返ってみるのだが、プリンターの扉はスモークガラスのため内部の状況は全く見えない。 淡いLEDの光だけがガラス越しに漏れて光っているばかりであった。

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