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8 『IWASAKI』  「太平洋上の孤島、岩崎島で発見され『IWASAKI』と名付けられた生物を、我々は本土に持ち帰って研究を開始した」   二ノ宮は虚空を見つめながら過去を語り始めた。  15年前に遡る。 噴火活動が終息した岩崎島に、時の政府の依頼を受けてごく一般的な生物調査のため訪れた二ノ宮達。 小さいながらも雨と温暖な気候に恵まれ様々な生物が復活し生息していた。 ある時、調査チームの一人が海岸近くの溶岩洞の中で謎の有機物を発見した。 「粘菌ともアメーバとも違う様子だったからね。そもそもサイズからして菌や微生物レベルじゃなかったし」 直径10cmほどもある透明な「有機物」は、SFやファンタジー小説に出てくる「スライム」と言うのが一番近い。 しかし、スライムをどれだけ分析しても正体は掴めない。核はどこか? 遺伝子はどこか? 単細胞なのか集合体なのかさえ不明。 栄養はどのように摂取するのか? そもそも何を栄養としているのか? 人間にとって害はないのか? 「発見した新生物を研究するため大掛かりな研究態勢が敷かれてね。初めは100人近い研究者が集められたんだ」 ただ、どのような方法でも分析できず、どの生態系に属するのかすら判別できなかった。 どうやら害は無さそうだ、と言う点以外、他は皆目不明のまま時間だけが経過した。 「今はどこも成果主義だろう? 分からないまま時間と資金だけが消費される日々が続いた。 ただ、政府としては痺れを切らしたんだろうね。こうやって分からないままじゃ予算はもう組めない。研究は打ち切りにする、と」 『IWASAKI』の基本構造すら掴めず3年が経過した。予算は10分の一になり研究スタッフも10人になった。 さらに3年後には3人に。予算は3分の一以下にまで減ることとなった。 「私と二人の助手は一生懸命、寝食を忘れて何とか解明しようと頑張っていた。成果を出そうと焦っていた」 その焦りが助手を暴走させたのだろう、と二ノ宮は自嘲の笑みを浮かべた。 「彼は……、俗に言う『溜まってた』状態だったんだろうな」 ある晩、ふと目が覚めた二ノ宮は『IWASAKI』を保管する研究室にやって来た。 夜間など二ノ宮達が居ない時間帯は研究員以外、誰も入れぬよう厳重なロックが掛けられている。 なのに、だ。そのロックが外れ、ドアに隙間が生じているではないか。 グッチュ、グッチュ、と奇妙な音が漏れて聞こえる。 隙間からそうっと中を覗くと、助手の一人がズボンを下ろして腰を前後に振っていた。 しかも、手には透明なスライム状有機物『IWASAKI』を持ち、中に勃起した男性器を押し込んでいるとは! 『ああ~! マジ気持ちイイ~! こんなにもチンポに絡んで吸い付いてくるなんて! うひひ! た、堪んねぇ~!』 一心不乱に『IWASAKI』をオナホにしてチンポを刺激する助手は、快感に顔を歪ませながら程なく自身の遺伝情報を含む白い粘液を『IWASAKI』の中にたっぷりと放出した。 研究対象を性の慰み物にするなどあってはならない事。 「私は助手をその場で解雇した。するともう一人の助手も退職を願い出て来た」 「どうして、ですか?」 「それは、もう一人も『IWASAKI』をオナホとして使っていた、と告白したからだ」 助手二人の精液と言う不純物を取り込んだ『IWASAKI』 この世で一つしか発見されていない貴重な生物はもうダメになるかも知れない、と覚悟した。 しかし、だ。 むしろダメになるどころか、それから『IWASAKI』は目覚めたかのように急成長し始めた。 「私の目の前でムクリムクリと倍以上に膨張した球状の『IWASAKI』から、手や足が生え、頭が出来、ヒト型となりゆく様は驚きだった」 助手が去ったわずか一週間で『IWASAKI』はどこからどう見ても人間の、『岩崎』の姿になった。 まるで助手二人の身体的特徴をミックスさせたかのような逞しい成人の男性体として。 ただし、知能や知識はまるで無い。真っ白な赤ん坊と同じ状態であった。 そこで、二ノ宮は人間化した『IWASAKI』に教育を、知識を与えてみる事にした。 「ここで学会や政府に知らせないでいたのだから、私も相当精神的に参ってたんだろうな。自身の好奇心を優先させて外の事などお構いなしになっていた」 ゼロ歳児だった岩崎の知能はたったの4年で大学に進学できるレベルまで到達した。 驚異的な吸収力とスピードと言わざるを得ない。 そして、言語を操れるようになった頃からは自我が芽生え、人間と等しい精神性を獲得していた。 そんな『IWASAKI』を『岩崎 啓司』と名付けた二ノ宮は、実の息子のように思い始めていた事もあって、結局どこにも公表しないまま今日に至っている、と。 ◇  「つまり、岩崎は純粋な人間では無い、と?」 「まぁそうだ。ヒトの姿になってからは90%は我々と同じ構造、と断言できるけど残り10%はまだ不明だ」 「では、この設備は? ここはなんのためにあるんですか? 岩崎はどうしてあのポッドの中で眠らされているんですか?」 「それは、人間と等しい精神性を獲得したとは言えかなり不安定なんだ。不安やストレスが蓄積するとそれがすぐに意識障害や体調の悪化を示す。 それ故、最悪の事態を避けるために精神状態やカラダを細かく点検し、メンテナンスする必要がある。 本人もそれは理解しているんだ」 「……そんな岩崎をどうして大学に? 一人暮らしをさせてまで」 「社会性、一般常識、エチケットやマナーと言った規範。それらすべてを私一人で教える事は不可能だし、 実感の伴わないそれらなど無意味だろう?  この先も岩崎がこの社会で生きていくためには必要なスキルであるそれらを、学ばせるために送り出したのだ。 ただ、メンテナンスのため定期的にここへ戻ってくるけれど」 「ところで、岩崎の部屋に岩崎じゃない奴が居たんですが、あの男は誰なんですか? もの凄いマッチョでボディビルダーみたいな人物は」 ムキムキボディの藍髪マッチョは一体誰なのか? なぜ俺を見て「シュンちゃん」と呼んだのか? 「ボディビルダー? さぁ、何の話だろう? 岩崎の学友か誰かかな? 遊びに来たお友達じゃぁないかい?」 二ノ宮は首を傾げるばかりで藍髪マッチョについては何も知らないようだった。  岩崎の保護者とも言うべき男。それが二ノ宮だった。 謎が全て解明されたわけではないが、岩崎の正体について詳しい話を聞けたことは有益だった。 「だけど、全部本当なのか? まるっと担がれているんじゃないか?」 二ノ宮の空想、いや、妄想を聞かされた可能性もあるのだ。 「さぁ、もうすぐ『岩崎』が目覚める時間だ。藤原くんだったか? 良かったら一緒にアパートまで送ってやってくれないか? 名前までは聞いていなかったが同じアパートに凄く気になるヒトがいるんだ、と時折聞かされてはいたんだ。 これからも仲良くしてやって欲しい。 こんな話を聞いてしまってからじゃ難しいかも知れないが」 ◇  『Ignition』の格子戸からは二人並んで表通りに出た。 夕暮れの空が朱く染まっていてとても綺麗だった。 「……シュンちゃん……、俺は……」 「……人間じゃないんだって?」 「うん。……気味が悪いよね?」 「どこが? ぶっちゃけ、聞いた今でも信じらんねーけど、それでお前のどこが気味が悪い? 人を食う怪物だとか悪いモンスターなんかじゃないんだろ? だったらもっと自信を持てよ」 「けど、……俺、シュンちゃんとは違う生き物だし……」 「気にすんな。誰にだって人には言えない秘密なんてある」 「……シュンちゃんも?」 「ああ。実は――」 誰にも言わなかった、言えなかった俺の秘密。 初めて明かす相手がヒトの姿をした未知の生物ってのも不思議なの巡り合わせだよな。 「――実は、俺は男しか興味無ぇ。いわゆるゲイってやつだ。そんでもってお前をオカズにして何回もシコって抜いた。 お前は俺のタイプだからな。 どうだ? お前こそ俺に引いただろ? キモイって思ったんじゃねぇ? 男のくせに男でチンポをおっ勃ててるなんてよ」 動画については言わないで置こう。そんな動画までチェックしてるのか、と思われてしまうのは片腹痛い。 「全然、そんな事無い……だって、ほら――」 「っ!?」 俺の手を取った岩崎は自身の股間に押しつけた。ガッチガチに硬い石のような物が股間で熱を帯びているのが分かる。 「俺も、なんだ。俺だって男しか好きになれないし、シュンちゃんで抜いてたんだ。 今だってシュンちゃんと一緒にいるから凄く興奮してる」 もらい勃起ってやつだろうか。そんな言葉があるのかどうかは知らないが、俺の息子も一気に最大サイズに膨れ上がった。 「クソッ! お前がそんな事言うから俺まで勃っちまったじゃねーか! こうなった以上、落ち着くまで責任とってもらうからな!」 「い、いいの?」 「おいおい、そんな前屈みになるんじゃねぇ。返って勃起してますって言ってるようなもんだろうが」 「あ、う、うん」 「それと――」 「平瀬にノートを返してやれよ? かなり急いでいたようだったしな」 「え? そっち? ……ははっ、あはははははっ!」 今まで不安に怯える子犬みたいな顔をしていた男が、豪快に笑い声を上げた。 「明日、ちゃんと平瀬にノートを返しておく! しかし、俺、やっぱシュンちゃんが好きだ! 人間じゃないからって諦めてたけど、やっぱり無理! 俺、シュンちゃんと付き合いたい!」 どストレートに告白されてしまった。こんな人目もある公道で。 だけど、今は、今この状況では人目もクソもあるかってんだ。 「俺もだ! 俺もお前が好きだ! ノンケかも知れねぇと思って一人勝手にうじうじ考えていたけど、 ここまで気になったのはお前が初めてだ!」 「ああ! ダメだシュンちゃん! ヤバイ!」 「は?」 おいこら、俺の一世一代の愛の告白を受けて、その返答は何なんだ? 「セックスしたい! シュンちゃんと今すぐセックスしたくて我慢できない! ヤバいよ! どうしよう!?」 あ~、……なるほどね。そこまで切羽詰まってたのね~ 「ってか! 大声でんな事言うんじゃねぇ! 恥ずかしすぎるだろうが!  そう言うのは、二人っきりで誰もいない時に耳元で囁くのが良いんだよ!」 「じゃぁ、早く帰ろ? 俺、さっきからチンポもケツマンコも疼きまくっててヤバイんだよ~。 シュンちゃんのチンポが欲しいって、我慢汁がダラダラ漏れちゃってるんだ~」 「おま、そんなキャラだっけか?」 二ノ宮が社会性、一般常識や規範、マナーやエチケット等々を学ばせたいって言っていたのは岩崎の「こう言う」部分を指していたのかもな。 「わーった! 分かったからそんなモロ卑猥な言葉を口に出すんじゃねぇ! 部屋に戻ったらたっぷりセックスしてやるから!」 暮れ行く空は駆け足で宵闇のスクリーンを空に広げていた。振り返れば東山の上には大きな丸い月が顔をのぞかせている。 月ってこんなに綺麗なモンだっけ? 「『夜とともに 山の端いづる月影の こよひ見そむる 心地こそすれ』……か」 夜になって山の上から現われた月はいつも通りに輝いているのに今夜初めて見るような気がする、みたいな意味だったはずだ。 「それ、シュンちゃんの心のポエム的な?」 「ちっげーよ。ちゃんとした和歌だ。聞いた事はないか?」 岩崎は首を左右に振った。 「俺の脳内データの中に短歌や和歌って単語もあるし意味も理解できるんだけど、具体的なモノは入力されていないんだ」 「それなのに、セックスとかケツマンコってのはやたら具体的に知っているんだな?」 「う、うん、まぁ、あのアパートで暮らし始めて真っ先に学習したかったのが性に関する事だったからね。 本能的にそう言う領域の知識を欲していたんだと思う」 人とは似て非なる存在の奴でも見た目通り「オトコノコ」って訳か。 俺も思春期の頃には親の目を盗んで散々調べたりしてたもんな。なんか分かるわー。  と、ここで話が終われば「めでたしめでたし」ってなるけど、そうは問屋が卸さなかった。  

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