姉弟の関係(1) (Pixiv Fanbox)
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― それは本当に、最悪なタイミングだった。
サテラと一緒にビーチのホテルに来ていた。去年はあまり一緒に遊べなかったということで、今年は二人きりで海水浴を楽しむことにしたのだ。
レイナーなので晴れはあまり得意でないのだけれど、海で泳ぐのは嫌いではない。
半日遊んで、くたくたになって、部屋に戻って、今サテラは水着を脱ぎ捨ててバスルームでシャワーを浴びている。
まったく我が姉ながらいつもだらしない。
脱ぎ捨てられた水着を窓際に干しておいてやろうと、手に取った。
その時ふと、本当に一瞬の気の迷いだったのだが――。
水着に顔をうずめると、磯の匂いに加えてほんとわずかにサテラの匂いがするような気がする。いつもつけている香水の香りだろうか?
「ふふふ、ジーク、なにしてるの?」
本当に最悪なタイミングだ。
まさかこんなに早く姉が上がってくるとは思わなかった。
ほんの一瞬の、気の迷いだったというのに。それがバレてしまった。
*
「ジークも、お年頃だもんね~」
普通なら怒るかドン引かれそうな状況なのに、実に嬉しそうに言う。
ほっとするというよりは、むしろ恥ずかしさが勝る。
いっそ怒ってくれたほうが気持ちが楽なのに。
「でも、水着もいいけどさ~。その中身の方にも興味ない?」
姉は本当に意味がわからないことを言う。
サテラはわざわざ水着を着なおして。ベッドの上に座り込んだ。
髪からシャンプーの香りがふわりと漂ってくる。
「ここってさ、こんな風になってるんだよ。ねえ見たことある?」
始めて見た。いや、正確には初めてではないが、実物をまじまじと見たのは初めてかもしれない。
「き…綺麗だ…」
それは率直な感想だった。
以前、ブライトの部屋の本で女性のそれを見たことがある。
ウェザリスの研究書に紛れてこっそり隠してあったのだ。それで見たときはもっとグロテスクで気持ち悪い感じがした。
でも姉のは、同じような形をしているのに驚くほど綺麗でピンクに光っている。
「ふふふ、嬉しいな。」
「サテラはさ……、その、したことあるのかな。他の男と……」
どうしてもそれが気になっていた。開放的で奔放な姉だ。男性経験のひとつやふたつ、あるのかもしれない。
キングスクラウンの試練で見たあの光景が、強く脳裏にこびりついている。
サテラが軽薄な男と婚約していたという状況。もちろんそれは王冠が見せた幻なのだが、どうしてもあの時のイメージが拭いきれておらず、強く心に突き刺さっている。
「あー!ジーク。あたしをそういう軽い女だと思ってるわけ?怒るよー!」
「ごめん……」
「いいのいいの。もちろん、ないよ。」
ホッとする。それが聞けただけでも収穫だ。
だいたいずっと一緒にいるからその言葉が嘘ではないとはわかるが、ハーレの民の中にはサテラに少なからぬ想いを抱いている男が何人かいるのを見てきている。
いずれ、誰かとサテラは結婚するのだろうか。
婚約者と共にいた、光景が鮮烈に蘇ってくる……
嫌だ。そんなものは見たくない。
「ねえ、ハーレとレイナーの間に子供ができたらさ。どうなるのかな。」
姉の言うことはいつも唐突だ。
「そんなの知るもんか。」
「じゃあさ、……試してみる?」
本当に無邪気な顔で、姉はそう言った。
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